Kanon Short Story

  雪の降る夜に



 コトコトコトコト……

 加湿器が音を立てている。

 外は、雪。

 闇に覆われた街に白く冷たい雪が降り続いている。



「……おとうさん、遅いね」

 窓から外を見ていた「少女」がつぶやいた。

「……そうだね」

 わたしは、なんともなしにそう答えた。



 トゥルルルル、トゥルルルル……



「おかあさん、電話だよ〜」

「あ、うん……」

 私は、受話器を手に取る。



「はい。水瀬です」

「あ、もしもし。香里だけど……」

 電話は親友の美坂香里からだった。

「どうしたの?」

「久しぶりに話でもしたいな、と思って」

「久しぶりって……この前も電話、したよ?」

「三日も前のことじゃない?」

 結局私達は、電話で長話をすることになった。



「ゆ〜き♪ ゆ〜き♪」

 窓の外を眺めている「少女」はよく分からない歌を、楽しそうに歌っている。

 ……あの人はわたしに似ているという。

 ……そうなのかなあ?



「……でも、まさかあなた達まで街を離れるなんて思わなかった」

 香里はそう言った。

 そう。

 わたし達は街を離れた。わたしが大好きだった街を。



「雪、降ってるよ」

「え?」

 香里は本当に分からない、と言った感じで聞き返してきた。

「ここも、いま、雪が降ってるんだよ」

「……そう。」

 ……。

 …………。

 ……。

 しばし、沈黙。



「ねぇ」

 その沈黙を破ったのは香里の方だった。

「近いうちに、会わない?」

「え?」

 今度は私が聞き返す番だった。

「近いうちに会わない? あの街で」

 香里は、落ち着いた口調で繰り返した。

 あの街。

 わたしが大好きだった街。

 楽しい思い出が、たくさんある街。

 ……でも。

 辛く、悲しい思い出もある街……。



「……でも、さむいよ」

 わたしの返答が的外れなことは分かっていた。

「それでも、いいじゃない」

 それを知ってか知らずか、香里は話を合わせてくれる。

 昔からそうだった。



「それに、私は行かなきゃいけない用があるし」

「…………」

 …………。

 再び沈黙。

 季節は、冬だ。



「分かったよ」

 わたしは答えた。

「3人で、会おうね」

「違うわよ」

 香里は即座に言葉を返す。

「あなた達の子供もいれて、4人」

「えっ?」

 わたしは「少女」の方を振り返った。



「くー……」

 いつの間にか、気持ちよさそうに寝ていた。



「どうしたの?」

「うん。分かったよ……」

「相変わらず、ヘンな子ね……」

「香里、酷いよ〜」

「冗談よ」

「う〜。……本当に?」

「もちろんよ」



 …………。



 受話器を置いたわたしは、「少女」にそっと毛布をかける。

 あの人が帰ってきたら起こしてあげる。

 それはいつものこと。

 この子も、あの人のことが大好きだから。



「…………」

 わたしは、窓から外を見た。

 雪が降っている。

 あの人は、一緒に来てくれるだろうか。

 あの街に。

 悲しみに覆われていたあの街に。

「…………」

 わたしは、暖かい部屋であの人を待つ。

 ずっと、一緒にいてくれると言ったあの人を。







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Image BGM “夢の跡”

Image Charactor voice
Ayako Kawasumi / Yui Horie / Mariko Kouda

なんだか妙な作品を作ってしまいました。
誰が主役だか、分かりますよね? どういう背景かはご想像にお任せします。
どうしても知りたければメールを下さればお答えします。
感想もよろしければ是非お寄せください。 2000.9.25