サイト名: へちま苑   制作者: 葦村午之助  
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トトリのアトリエ豊漁祭提出作品
アーランド城の抜け穴

■■3 抜け穴探索

 フィリーをたたき起こしたあと、クーデリアは、天文・気象を扱っている部署に出向いた。
 一〇月二日――A氏が抜け穴に案内された日――の日没の方角を調べてもらう。A氏が抜け穴に案内された日は特定できる。銀行に振込みのあった前日だ。振込み日は銀行の記録からすでにわかっている。
 冒険者ギルドに戻ると、地図を取り出す。
 A氏の話では、馬車の後の小窓から、行きはずっとアーランドの遠景が見えていて、帰りは長い時間西日が差し込んでいたという。
(ということは……)
 地図に定木をあて、アーランドから一〇月二日の日没の方角に向かって直線を引く。
 ――一本の街道が重なる。
「見つけた」
 クーデリアはほくそ笑んだ。
 これが一二月五日午後。
 クーデリアはすぐに、冒険者ギルドに来ていたミミに、抜け穴探索を依頼した。地図を見せて街道を指定し、馬車で西に一時間行ったあたりを探索して欲しい。馬車は貸す。という依頼だ。
「けっこう曖昧ね。一時間行った後は、抜け穴の出入口を自分で探せっていうのかしら?」
「そのための冒険者でしょ? 本当はあたしが行きたいんだけど、冒険者に任せられることをやるわけにいかないのよ。探索の細かいことはあんたの才覚に任せるわ。ただ、あんたもかなりのものだけど、一応、ほかに腕の立つ冒険者を同行させて。信用できる奴じゃないとダメよ。その選定もあんたにまかせるわ」
(腕が立って信用できる……)
 一人、思い浮かんだ。

「というわけで、ステルク様に同行をお願いしたいのです」
 王国時代の元騎士であるこの男に白羽の矢を立てた。
 長身、やや細身だが引き締まった体躯。三〇半ばを過ぎてもまだ若々しい端整だが険のある顔。トトリの師匠ロロナは騎士だったころのステルクを知っているが、そのロロナによると、
「昔より怖い顔になって、ちょっと痩せた」
 らしい。
 いまだに騎士にこだわりつづけており、冒険者の仕事のときは、王国時代の騎士の兵装を着用している。
 ミミの話を聞き、この元騎士は、眉に皺を寄せて自分の栗色の髪をいじりながら、
「抜け穴……いや、それ以上にクーデター云々の話、王が悪い。いつまでもそこらじゅうをほっつき歩いて、国民の前に姿を出さんからそういう話を信じる者がでてくるのだ」

 師ロロナ曰く、
「そうそう、昔より愚痴も多くなったかも」
 とも言っていた。

「その依頼、引き受けましょう。ミミ殿のたっての頼みだ。私を騎士として見込んでのことならば、なおのこと、断るわけには参りませぬ」
 と騎士言葉で回答する。
「ありがとうございます」
 この二人、トトリの冒険につきあって初めて引き合わされたとき以来、ステルクはミミ相手に騎士言葉を遣い、ミミはステルク相手にお嬢様言葉を遣っている。二人とも、騎士だ貴族だというやりとりが好きで、魚が水を泳ぐように心地よく感じるらしい。

 ――翌々日の一二月七日。
 朝から馬車で出かけた。クーデリアの用意したものである。二頭牽き屋根付き、座席は後席だけ「一」の字。乗っているのは、ミミ、トトリ、ステルクの三人である。ミミから話を聞いたトトリも結局ついてきた。
 三人並んで座ると、ステルク一人背が上に抜ける。華奢なミミとトトリの横に、一人だけ長身で引き締まった身体の男が、厳しい顔つきで座っているという図。
 さすがに今日はミミも冒険者仕様で、丈夫な布地のキャミソールにショール、革のアームカバー、ミニスカート。トトリはいつもの錬金術の衣装。ステルクは王国時代から使っている騎士の兵装で、ベルトの着いた暗色のチュニックスーツに、襟に鋲を打った膝丈の黒いコート。丈夫なコートだが、いい加減くたびれてぼろぼろになってきている。それでも本人は騎士に思い入れがあり、着つづけている代物だ。
 一時間は手持ちぶさたである。
 馬車の中、ステルクがトトリに、
「そういえば、先日、君たちはメリオダス元大臣に会ったそうだが、彼はどうだった?」
「顔は、ステルクさんより怖かったです」
「……」
 ステルクは口を引き結び、長いまつげを伏せて目を瞑った。目許の険が深くなる。
(トトリーっ)
 ミミがトトリの脇腹を突いた。

馬車の中

「あ、いえ。そうじゃなくて。吃驚した度合いが大きい、ってことなんです」
 ミミは、トトリの向こう側のステルクをのぞき込んだ。険しい顔、は普段からだが。伏せ目がちに目を開け、
「いや……あの男と比較される日が、来るとは……」
 私もそんな歳か、とつぶやく。
「そうじゃないんです。そうじゃなくて、メリオダスさんは本物のモンスターみたいな顔だったけど、ステルクさんは人間的な怖さというか、人間なんです」
 ふたたび、ステルクが堅く目を瞑る。
「私は、人間だ……」
 ミミがもう一度トトリの脇腹を突く。
(トートーリーっ。あなたは黙ってなさいっ。私が収拾するわ)
「トトリったら、メリオダス元大臣に妙に気に入られてましたわ。真っ先に元大臣のことアポステル呼ばわりしましたのに。アーランドの内海を海洋牧場にするとか。質が悪くて食用にできないコヤシイワシを錬金酵母で処理して農業用肥料にするとか。そんな話で二人で盛り上がって、私もクーデリアさんも会話に入り込む余地がありませんでした。それでトトリ、帰りに錬金術の材料として目をつけていた原初の島の植物をわけてもらってきてたんですのよ」
 じつはトトリは昨日、その材料を使って調合三昧だった。
 ミミのフォローにステルクも気分を快復させて、
「ほう、大臣を辞めたというのに、彼は相変わらず事業を忘れられないでいるわけですか」
 そのあと、ミミはお嬢様言葉で、ステルクは騎士言葉で。トトリの頭の上の空間を使って会話がつづいた。
 気がつくと一時間が経っていた。

「停めてくれ」
 硬い葉の木が多くなり、岩が露出する山がちな地形に入って少ししたとき、ステルクが御者に声を掛けて馬車を停めさせた。
 ここから南へ少し行けばオルトガ遺跡だ。
 上に行くほど頭の鉢が広がる巨大な石造建築と、それに絡みついて笠のようになった大樹。霞がかった壮麗なオルトガラクセンが間近に見えている。
「おそらく、ここだ」
 馬車を降りたステルクが、街道の脇にある小道を指した。小道の先、鬱蒼と生い茂った木々に遮られた向こう側は、崖と丘陵が入り組んだ地形になっている。
 ミミが、
「なぜです?」
「『なぜ?』と言われると私も説明しがたいのですが。しかし、私がこの辺りに馬車を通せるような抜け穴の出口をつくるとしたら、あの起伏に富んだ辺り以外には考えられません。それに、この小道の草は、道に平行して不自然に潰れている。これは新しい轍(わだち)の跡です」
 ステルクの冒険者としての感性と観察眼に従うことにした。
 馬車には帰ってもらう。おのおの、冒険の道具を持って、ここからは歩きになる。
 抜け穴の出入口へは、道なりに歩いて一〇分とかからなかった。
 やや小高い丘の中腹。周りにそれより高い丘陵があり、木々に囲まれていて、ちょうど見えにくくなっている。
 その小高い丘の中腹に、馬車が通れるくらいの大きな穴が穿(うが)たれていた。
「ミミちゃん、ほんとにあった!」
「ステルク様、さすがですわね」
「まだ抜け穴と決まったわけではありません」
 と言いつつ、得意げだった。
(これからどうしようかしら)
 まず、抜け穴の中に入る、ということを考えた。しかし、まだ掘削作業をしているかもしれない。作業中だとしたら、相手がどんな連中か全くわからない状態で遭遇するのは危険だ。
 では、待って様子を見るか?
「ステルク様、ひとまず一時間ほど待ち……」
 とミミが言いかけたとき、抜け穴の中から土石を積んだ荷馬車が出てきた。
 穴の出入口を出てすぐ、馬車が停まる。方向を変える。二人の作業員が御者台から降りてスコップをとり、積んでいた土石を、向こう側の崖下に捨てていく。
 全部捨て終わると、馬車を返して、穴の中に入っていった。
「ミミちゃん、今の」
「しっ。静かにして、様子を見るわ」
 一時間ほどして、再び穴から土石を積んだ馬車があらわれた。先ほどとは違う馬車のようだった。前の馬車と同じく、土石を捨てて穴に返っていく。
 そのまま、二時間ほど様子を見た。
 馬車はどうやら一時間間隔で穴から出てくるようだった。馬車は二台使って廻しているようだ。掘削作業が行われているのは、間違いない。

 ほどなく正午になった。
 作業者たちに動きがあった。全員が、荷馬車に乗って穴から出てきたのである。作業者は全部で二〇人ほど。皆、ごく普通の作業着をつけたごく普通の掘削作業者たちに見える。
 荷馬車から馬をはずし、みんなで牽いて脇の小道を下に降りていく。
 ――後を尾行(つ)けてみる。
 彼らが向かった先は、下の小川。川から少し上がった場所に仮小屋を建て、作業基地としていると見られる。
 すでに食事の準備ができていた。作業者のなかの係のものが用意していたらしい。
 作業者たちは馬に水を飲ませ、餌を与えた。自分たちも水浴びして身体を洗い、食事をし始めた。
 わきあいあいと話をしながら、である。
 ミミたち三人は、作業者たちの様子を木陰から見ている。
「ミミちゃん、なんか普通にお仕事してる人たちに見えるんだけど。わたしが行って、ちょっと話を聞いてこようかな」
「なに言ってるの。相手がどういう連中かわからないのよ。危ないわ」
 ところがステルクが、
「いや、私も、彼らには危険な雰囲気がないように思う。行ってきてもらえるか? 君なら警戒されないだろう。いざとなったら、私が出て行く」
「じゃ、行ってきます」
「あ、トトリ」
 ステルクに、
「申し訳ございません。私も行ってまいります」
 ミミも槍を持って出て行った。

「すみませーん。上のほら穴って、皆さんが掘ったんですか?」
 木陰から出て行ったトトリが、昼食を摂っている作業者たちに聞いた。
 近くにいた一人が、
「ああ、そうだよ」
 と答えて、
「もしかして君は、錬金術士のトトリさんじゃないかい?」
「あ、はい。そうです。わたしを知ってるんですか?」
「アーランドじゃ名前が知られてるからね。着てるものも独特だし。材料の採取かい?」
「はい。あの、わたしのこと知ってるってことは、アーランドの街の人ですか? 穴掘りの業者さん?」
 ほかの一人が、
「うん。本職は鉱山業だけどね。今はちょっと仕事が無くて、国からもらった仕事で間をつないでるんだよ」
「あの上にあるほら穴ですか? あのほら穴、入っていいのかどうか、迷ったんです。天然にできたものじゃないみたいだし、ほら穴の前に荷馬車がありましたし」
「入るのは、ちょっとまずいな。私たちが仕事してるところだし、ほかの人を入れないように指示されてるからね」
「そうですか。わかりました」
 そのとき、
「トトリーっ」
 槍を持ったミミが駆けてきた。
「ミミちゃん、上のほら穴、入っちゃダメだって。国からもらったお仕事で、この人たちが掘ってるものだから、って」
 すると、作業者たちの責任者らしき男が、
「あ、今の『国からもらった仕事』っていうの、人には言わないようにお願いしますよ。今はほかにも仕事にあぶれている鉱山業者がたくさんいるから、そういう業者に知られると、『うちにも仕事を分けろ』って、文句を言われるかもしれないって、上から言われてるんでね」
 アーランド国有鉱山が閉鎖されて仕事が減り、そのうえアーランドが共和制になってから、昔の官吏のコネが使えなくなって、仕事をとれなくなったのだそうだ。
 ミミが、
「あのほら穴、何のためのものです?」
「さあ、ちょっとそれは聞いてないね。でも、ずいぶん大がかりな通路みたいだよ」
 言いつつ、作業者が、ちらりとミミの持っている槍を見た。ミミがその視線に気がつき、
「私は彼女の護衛の冒険者です」
 つづけて、
「通路、と言われましたけど、いつごろ、開通するのかしら?」
「うーん、正確な日程は聞いてないけど、作業予定は年明けごろまでだって聞いているよ」
 トトリが、
「以前来たときはあの穴、無かったと思うんですけど、いつくらいから掘ってるんですか?」
「一年くらい前からかな」
 ミミとトトリは、作業者たちに礼を言って戻った。

 ステルクに、聞き込んだことを話し、
「抜け穴の中を探索する必要があると思いますわ」
「それには、暗くなるのを待つのがよいでしょう。作業者たちも暗くなれば帰るはず。そのあと、穴の中を探索すればいい」
「もし、夜も交代要員が来て作業をつづけるようなら?」
「そのときは出て行って、地下道を見せてもらいたいと、堂々と頼んでみましょう。どうやら彼らは本当にただ雇われて作業をしているだけのようだ。見つかっても、怒られることはあるかもしれないが、命のやりとりにはならないでしょう。
 とはいえ、地下道を調べていることを相手に知られないに越したことはない。どのようなリスクがあるかわかりませぬ故」
「それじゃミミちゃん、今のうちに、わたし、材料の採取に行ってきたいな」
「そうは言っても抜け穴の見張りが」
 するとステルクがミミに、
「二人で行ってこられよ。見張りは私一人で充分だ」
 ステルクの言葉に甘えて、ミミとトトリは採取に行った。ただこの採取は早めに切り上げて戻った。探索に備え仮眠をとるためである。

 午後五時三〇分。
 作業者たちが穴から出てきた。
 昼食の時と同じように、荷馬車を穴の出入口に残し、馬だけ牽いていく。
 ――かと思ったが、二台のうちの一台の荷馬車を囲んで話し合いはじめた。なにか故障があるらしい。やがて話がまとまり、その一台を、街道のほうへ、馬に牽かせていく。
 それを見て、ミミは
(あとを尾行(つ)けようか)
 と迷った。一台がどこに向かうのか、確かめておきたい。
 ぽんっ、とステルクがミミの肩を叩いて前に出てきた、
「彼らの行き先は、私が確かめましょう。ミミ殿は地下道を探索されよ。地下道の中にとりたてて危険はないと思うが、くれぐれも気をつけて」
「お気遣い、感謝いたします」
「ステルクさんも気をつけてくださいね。暗くなってますから、足下に」
(こらトトリっ。それはおじいさんとかに言うセリフでしょっ)
(あ。そ、そうだね)
「いえ、べつにステルクさんが老眼だとかじゃなくて、本当に暗くなってきてるから」
「……いや、気をつけて行ってくる。おもに足下にな……」
 ステルクが、どよーん、とした雰囲気をまとってその場を離れ、荷馬車の後を追っていく。
「わたし、またやっちゃった」
「もういいわよ。さ、私たちは抜け穴に行くわよ」

 懐中時計で時間を確かめると午後六時少し前。
 持ってきたカンテラに火を入れる。
「ミミちゃん、明かりはわたしが」
 トトリがカンテラを持つ。
 ミミは武器を持っている。いざというとき、手がふさがっていては武器が使えない。ちなみに、このときミミが持っている武器は、いつもの家宝の鉾ではない。狭い空間でも使える短めの手槍である。
 ミミが前を行く。
「トトリ、私の左後ろについて歩いてきて。右側には来ないように」
 いざトトリをかばうとき、右側にいられては、槍が遣いにくい。
 穴に入る。入口は幅も広く、天井も高い。馬車が二台並んで入っていけるくらいだ。
 二〇〇メートルほどの緩やかなスロープのあと、道が平坦になった。
「ミミちゃん、ここから壁や天井が違ってる」
 トトリがカンテラの明かりを上に向けた。
 入口からここまでは、鉱山のように土がむき出し。掘ってそのままという感じだった。ここから奥は、壁と天井が、切り石に漆喰をつかった建造物のような造りになっている。天井が入口付近よりさらに高い。地面は土を圧し固めた三和土(たたき)で、真ん中を、馬車の車輪を通す軌条が一組、掘られている。
 ミミは、メリオダス元大臣の言葉を思い出した。

『アーランドの王宮に、たしかに抜け穴はあった。元からあったものだ……今はもうない。埋められた。埋められたのは、私が要職につくより前、もう何十年も前のことだ』

(――これが)
 その抜け穴か、と思った。
 歩測で距離を測り、磁石で方位を確かめながら、地図に印を打ちつつ奥に進んだ。
 一時間歩いても、まだ最奥に行き着かない。
 退屈の気も混じって、ミミの口から言葉がついて出た。
「ふう……なんか、物足りないわね。今回はモンスターが出る訳でもないし、華々しい戦果もなさそうだし。そうでなくても最近、ダレてきてるののよね。私達、アーランド国内はほとんど踏破したじゃない? アーランド周辺地域、大陸海岸線、アーランド南方大平原、アランヤ西部遺跡地帯、大陸南西半島、アランヤ周辺地域、アーランド東の荒野、アーランド新天地、アーランド北東、北方遺跡群」
「内海列島に原初の島も」
「そうだったわね。外洋とその先の大陸にも……」
 しばし沈黙があって、ミミが、
「立派な船もあるんだし……ねえ、少し落ち着いたら外の国に行ってみない?」
「外の国?」
「ええ。だって私達の目標は世界一の冒険者でしょ。いつまでもこの国にいたら、せいぜい国一番の冒険者止まりじゃない」
「そうだよね……。でも、落ち着いたらっていつ?」
「とりあえず免許の永久資格は欲しいし、その後かしらね」
 行き止まりにたどり着くまでに、さらに一時間歩いた。

 切り石と漆喰の通路は、そこで埋め立てられていた。土は乾いて固まり、石のようになっている。メリオダス元大臣の言ったとおり、何十年も前に埋め立てられたのだろう。
 一〇〇歩ずつ歩数を記録したノートを確認する。ここまでが一万四五五歩。ミミの一歩が約六〇センチなので……。

 0.6×10455÷1000≒9.3

 およそ九・三キロメートルにおよぶ長大な地下道ということになる。
 ミミは地図を確かめるうち、脂汗が滲んだ。
 地下道はここまで、真っ直ぐアーランドに向かって延びている。
「っていうかミミちゃん、ここ、もうアーランドの街の下じゃない?」
「そうね」
 本道は埋め立てられていたが、すぐ脇に漆喰を壊して、小さめの穴が掘られ、さらに奥につづいている。
 こちらは新しく掘ったように見える。
 A氏の話にあったとおりだ。
 鉱山の坑道のように土がむき出し。間隔をとって木組みの柱が立っている。
 小さめといっても馬車が通れそうなくらいの幅、高さはある。
 脇穴は入ってすぐ直角に折れ、さらに真っ直ぐ奥に延びている。
 トトリとともに脇穴に入り、奥に進む。
 しばらくして、
「ミミちゃん、さっきから気になってたんだけど、柱に数字が刻んであるよ。これ、日付じゃないかと思うんだけど」
 そう言われて、ミミがトトリの示す柱を見ると、確かに、
「9/1」
 とある。
「たしかに日付っぽいわね」
「だって、この前の柱が『8/30』でそのさらに前が『8/29』だもん」
 ちなみに、この後の柱には「9/2」と刻まれていた。
(あるいは、一日に掘り進んだ日付……)
 さらに奥に進んで最奥につく。横穴に入ってから二〇分ほどだ。まだ掘削途中らしい。土の付いたままの掘削用具が一所にかためて置いてあった。
 最後(最新)の柱に刻まれていたのは「12/7」。
「十中八九、一日に掘り進んだ日付で間違いないわ」
 柱の間隔は、はじめ、二、三メートルなのが、だんだん延びて、四から五メートルになり、それ以降は五、六メートル間隔で一定していた。
 地図を見て、地上での現在地を確かめる。
「これって!?」
 思わず上を見た。土の天井があるばかりだ。
 トトリも地図を凝視する。
 ここまで付けてきた印は、アーランド城内におよんでいた。
「真上を掘ったら、アーランド城の中に出るっていうこと?」
「戻るわよ」
 早足に来た道を帰る。
 およそ二時間。
 抜け穴の出入口について、鷲づかみにできるような星空を見、涼やかな一二月の夜の空気を吸ったとき、時間を確かめると午前一時。
 午後六時から、七時間の探索だった。
 ミミはまだ体力が残っていたが、トトリはもう限界だった。探索前に仮眠をとったとはいえ、歩きづめは堪えたようだ。
 ミミがトトリの身体を支えて、野宿できる場所まで移動したとき。トトリは七割まで寝ていた。

 翌日、一二月八日。
 午前一一時過ぎに、ミミとトトリはアーランドに戻ってきた。
 冒険者ギルドに行ってみると、すでにステルクがいた。
「ステルクさん、あの荷馬車、どうなったんですか?」
「修理のために、街に引き返しただけだった。戻ってきた荷馬車は修理に出され、別の馬車が今朝、抜け穴に向かった」
「荷馬車を追いかけていったんですか? 夜道? 馬車って結構速いと思うんですけど」
「さすがにそれは私でもつらいな」
 あのあと、ステルクは荷馬車に追いつき、御者に気づかれないよう、荷馬車の後部の突起部分に把まった。そのまま荷馬車の背に張り付いて、アーランドまで戻ってきたのだそうだ。
「荷馬車はただの修理だったが、収穫はあった。鉱山業者がどこの業者かわかった」
 修理した荷馬車から確認がとれた。抜け穴を掘っていた鉱山業者はアーランドの某業者。怪しいところは何もない、普通の鉱山業者だった。
 そのステルクの情報もあわせて、クーデリアに報告する。

 報告をすべて聞き終わったクーデリアは、
「その鉱山業者、穴掘りを国からもらった仕事だ、って言ってたのね?」
「ええ。というか、聞いたのはトトリなんだけど」
「わかったわ。ちょっと、政庁に行ってくる。フィリー、受付、しばらく任せるわよ」
 後輩に声を掛けて、出かけていった。

2010/09/26

(■■4 旧王国祭――真相と結末 へつづく)
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