子育てなど6事業重複 本年度予算 財務省調査 分担か統合を要求
【東京新聞 2007/07/07 朝刊】
財務省は6日、国の予算が効率的に使われているかを点検する2007年度の予算執行調査の結果を発表した。文部科学省の「家庭教育支援総合推進事業」など6事業について他省の事業との重複を指摘し、統合するなどの見直しを求めた。
家庭教育支援総合推進事業は、地域での子育て講座の実施などを自治体などに委託する事業。
厚生労働省にも同じような事業があるが、両者の連携が図られていないとして、役割分担を明確にするか一本化することを検討すべきだとした。
著作権読本の配布事業など4事業については、廃止を提言。著作権読本は全国の中学校に配布されているが、実際に授業で使っていた学校が30%程度にとどまったことから、「有効とはいえない」と廃止を求めた。
財務省は62事業を対象に調査し、調査が終わった54事業について公表した。残り8事業は年末に公表する。
調査結果は次年度予算に反映させており、06年度予算では260億円、07年度予算で288億円を削減した。
金曜の仕事は午後7時まで 文科相、省内に指示 「親子の時間」 お手本に
【東京新聞 2007/07/10 夕刊】
伊吹文明文部科学相は10日の閣議後の記者会見で、毎週金曜日は原則午後7時までに仕事を終わらせるよう省内に指示したことを明らかにした。「教育の原点は家庭と言っている文科省が、(残業していては)親子で触れ合う時間がない」というのが理由としている。
答弁作成などがある国会開会中は除く。今後、予算編成作業が本格化するが「財務省にも、金曜日夜には職員を呼び出さないでほしいと伝えてある」(伊吹文科相)という。
中央省庁での超過勤務を減らす試みは、2002年に厚生労働省が少子化対策で打ち出している。
月に2日程度、午後7時に課長が部屋の電灯を消す「消灯日」を設けたが、「いったん消して、なるべく帰るようにしているが、仕事があれば、もう一度つける」というのが実情のようだ。
過熱する中学受験<上>表れたひずみ 親も公認塾優先 授業ボイコット
【東京新聞 2007/07/10 朝刊】
首都圏の今年の私立中学受験者が5万8千人(推定)と過去最高となった。「合格」へは厳しい受験競争を戦わねばならない。一方で、その激しさは子どもたちの心に数々のひずみを生み、学校現場にも負の影響が出ている。過熱する中学受験の現実を紹介する。 (井上圭子)
「みんないいの? このままで」。受験熱が高く、クラスの児童の7割以上が中学受験を控えていた東京都中央区の公立小学校6年の学級担任は昨年末、子どもたちのバラバラぶりを見かねてこう問いかけながら、思わず泣いてしまった。
「バカらしい」という態度で授業を妨害する子、嫌なことがあると机をひっくり返す子、受験のストレス発散に学校の花壇の花を全部掘り返す子。小学校生活最後の思い出となる修学旅行さえ「模試の前だから」と欠席者が出た。
受験を控える児童のほとんどは受験塾に通う。ほぼ毎日だ。保護者も「塾で疲れてるから宿題は出すな」「授業中は寝かせとけ」「インフルエンザが怖いから1月は学校を休む」などと平然と言ってくる。塾の保護者会には行くのに学校の保護者会には全く来ない。受験しない子も「どうせ私はバカだから」と自暴自棄に。学級崩壊状態だった。
保護者も必死だ。「この受験に落ちたら人生終わり」と泣きじゃくる女児は「あんたが落ちたら塾に払ったお金どうすんの!」と母親に脅されていた。親からサッカー禁止令を出されたサッカー少年は、放課後「5分でいいから遊ばせて」とすがってきた。
受験勉強に集中するため授業を聞かない、宿題しない、行事に参加しないのは保護者も公認だ。「小学校生活最後の年に『このクラスでよかった』という思い出をつくってやりたい」との担任の思いは最後まで通じなかった。
一方、入試に落ちた子が入学してくる公立中学校も苦慮している。一昨年、生徒の8割が学区外からの入学という都心の中学校で1年生を担任した教員(47)は「受験失敗の後遺症ケアで疲れ果てた」と話す。
「『偏差値の低い私立に行って恥をさらすよりは名の通った公立へ』という子の集まり。社会性は身に付いてない、協調性もないがプライドは高い」
問題行動を起こす。ホームレスに石を投げたり、遠足で乗った電車内で他の乗客に傍若無人ぶりを注意され「うるせえババア」と暴言を吐いたり。「指導しても無表情、無反応」
「砂漠に水をかけるような無力感。向かってきた方がまだやり方はある。五感を磨くべき小学生時代に受験勉強一辺倒で、ママがいないと動けない。受験が終わった時点で燃え尽きている」とこの教員は話す。
第1志望校に入学できても挫折が待っていることもある。小学生時代は明るいスポーツ少女だった東京都杉並区の女生徒(15)は、一年生の一学期に不登校になった。「皆ブランド物で固めていて、新しい服を着ていくと『どこの?』とチェックが入る。付属小学校出身者との溝も深い。疲れちゃった」
地元の公立中学に入り直したが、立ち直るのに2年かかった。「合格」することに気を取られ、入学後の子どもの学校生活まで思いがいかなかった。母親は「受験期は、塾への投資を取り返さねば…と悩乱状態で冷静に物事を考えられなかった」と悔やむ。
塾の「合格体験記」には華やかな体験が並ぶが、その背後にはこうした受験の影が広がる。
過熱する中学受験<中>経済格差が教育格差に かかる費用
【東京新聞 2007/07/14 朝刊】
「無理をしたかも」。東京都内の会社員の夫(46)とパートタイマーの妻(41)は、長女の受験を振り返ってかかった費用にそう感想を漏らした。長女は今春、私立の中高一貫校に進んだ。下に長男がいる4人家族、賃貸マンション暮らしで、世帯収入は約800万円だ。
長女は小学校の成績がよく、母親は中高一貫校に進ませたいという期待があり、5年生から塾に週2日通わせ始めた。
ところが、塾の模擬試験では予想よりずっと偏差値が低く、塾講師に「塾に来るのが遅すぎた、受験勉強に慣れていない」などと言われた。母親は学校説明会にも十校ほど参加し、「現実の厳しさ、自分の甘さを思い知った」と語る。
塾をもう1つ増やした。平日も土日も塾通い。学校から帰ると、軽食を持たせ塾に送り出し、夜9時に迎えに。家族そろっての夕食の時間は消えていった。
塾代は月5万円余。夏休み、冬休み講習にそれぞれ約15万円。家計は赤字が続いた。マイホーム取得のためコツコツためてきた貯蓄を充てざるを得なくなってきた。
教育費かマイホームか。長女に「私立に行きたい」と強く訴えられ、夫婦で話し合い、しばらくはマイホームをあきらめることにしたという。
長女は4校併願で第2志望に合格した。父親は合格の報に「あの厳しい日々が終わると思い、合格のうれしさよりも、とにかくホッとした」。
川崎市に住む会社員男性(43)は、人気のある私立の中高一貫校を経て、有名私大に。就職も希望通りで昨年の収入は約1300万円だった。妻と子ども2人。長男も父親の母校めざし、5年生から大手の受験塾に行き始めた。塾は基本の授業に加え、「合格した子はこんな授業も受けていた」と、いろいろな特別授業を勧めてきた。勧められるまま受講数を増やし続け、6年生の後半には、塾代が月10万円を超えていたという。
塾からみれば上位校に合格させ、実績をつくりたい。だが、塾のいいなりに受講させると費用はかさむことになる。この塾はさらに受講増を勧めてきた。費用は支払えない額ではなかったが、会社員は自身の受験体験から本当に必要なのかどうか、疑問を感じた。結局「この授業は受けないほうがよい」などアドバイスし合格を勝ち取った。
文部科学省の「子どもの学習費調査(2004年度)」では、学習塾通いは小3で約4割、小6で6割近い。全児童の2.2%の世帯が年50万円以上支出し、関係者によると、この群が中学受験の主力だという。私立は進学後にも費用がかかる。中学1年時にかかる1年間の学校教育費は公立が180972円、私立がほぼ7倍の1268747円。私立には教材費、制服代、通学費などに加え、入学金、授業料が含まれる。
中学受験に詳しい森上教育研究所の森上展安代表は「ある大手塾では小4から小6の3年間で、最低230万円といわれている。入学後の費用も考えると、最低でも世帯に年収800万円がないと、大手学習塾→私立の中高一貫校→有名大学という道を、苦労なく歩ませるのは難しい」と経済格差が教育格差につながるとの見方を示す。
さらに「最近は祖父母による支援も目立つ。団塊の世代には退職金の一部を孫の教育費にと考える人がいるだろう。もちろん学習塾、私立だけが人生の道ではないが」と話す。 (草間俊介)
過熱する中学受験<下> 私立志向増加の背景 公立不信 親子に
【東京新聞 2007/07/17 朝刊】
「難関大学への進学率は…」。5月末、東京都千代田区の三輪田学園で開かれた学校説明会。西惇校長が保護者に語りかける。「女子は男子より成長が早いから中学では先取り、高校ではセンター試験に備えてじっくりやる。中高一貫女子校ならではのカリキュラム」
徳育と知育を二本柱に掲げる同校だが「受験生の保護者の最大関心事は“出口”」(西校長)。進学率を言うと親たちは熱心にメモをとる。ほぼ月1回開催だが毎回予約で満席だ。
背景には公教育への不信があるようだ。望月道子教頭は「薄すぎる教科書に不安を抱いて来る方が多い」と、教科書内容が3割削減された2002年の新学習指導要領導入による学力低下不安が受験に駆り立てていることを指摘する。
だが西校長の心中は複雑だ。「受験生にはびこる公立不信は、私学経営にはありがたい話だが、地域の公立が教育の中心を担い、私学は『建学の精神』で選ばれるのが本来の姿なのだが…」
大手進学塾の四谷大塚の推計によると、首都圏では03年以降、受験者総数が募集定員を上回り続けている。教育関連会社ベネッセの調査でも、中学受験希望の小学5年生は01年は17.9%、06年には23.5%と公立の教科書内容が削減された02年以降急増した。
親の中には「自分が私立出身で良かったから」という経験者もいるが、森上教育研究所の森上展安代表は「親世代の中学受験率は東京でもせいぜい8%。今のように30%に近づいたのは、親が経験していない家庭も受験に挑んだから」と分析する。
学校説明会や進学相談会に来る親たちも、しきりに公立不信を口にする。成績を重視する親は「公立の先生の目はできない子や暴れる子に向きがちで、できる子が伸びない」「公立は受験対策をしてくれない」と学習面の不安を、人格形成を重視する親は「いじめ問題などへの対応が甘い」などと心配する。
東京西部を中心に進学塾を展開する学究社の河端真一社長は迷走する国の教育改革を「業界にとっては補助金以上にありがたい振興策」とやゆする。
過熱の背景には、さらに多くの要因が加わる。首都圏の中学受験事情に詳しいジャーナリストの杉山由美子さんは「公立中高一貫校の出現で私立進学は念頭になかった子も受験に参戦し始め、経営安定化のため高校募集をやめたり募集人数を減らして、門戸を中学入試に絞る私立が増えた」と学校の選択肢増を挙げる。
また「04年以降、都心回帰現象で首都圏では小学6年生人口が増え、鉄道の新路線開通や相互乗り入れ拡大などで通学エリアが広がった。共働きで学童クラブ代わりに塾に通わせる親が増えたことなどが絡み合い、勢いは止まりそうにない」と解説する。
受験するかどうか「12歳の選択」ではどんな心構えが必要か。杉山さんは「『なぜ受験するのか』をしっかり話し合い、異なる価値観の親とのネットワークも保ちながら取り組んでほしい」とアドバイスする。
受験に主体的に臨む姿勢は、塾に対しても同じだ。私立中学になじめず中退した子の親は「塾は不安をあおったりして講習を次々に勧めてくるが、必要なものを厳選する判断力と意志がないと振り回される」と言う。
受験生を受け持った経験のある東京都練馬区立小学校の教員はこう話す。「受験に成功してその後も伸びていく子は、集中と気分転換の切り替えができ、小学校生活を最後まで楽しんだ。親の導き方次第だと思う」 (井上圭子)