
このページでは、2011年に米沢嘉博記念図書館にて催されている、『吾妻ひでおマニアックス : 吾妻ひでおのシュールな世界』(同年2月4日~3月7日)、および明治大学博物館にて行われた『吾妻ひでお美少女実験室』(同年4月23日~5月23日)の会場の様子を、ごく一部ではありますが、お伝え致したいと存じます。
(画像は、会場において入手できるリーフレットの表と裏で、サイズはA3。)

東京都ないしその近郊にお住まいのかたでないと会場におもむくのは難しいかも知れませんけれど、もしも機会に恵まれたなら、ぜひ見学されるようおすすめします。直筆の生原稿をはじめとし、きわめて珍しく貴重な出版物等の実物を、眼前に見ることがかないます。
(なお、館内での写真撮影は禁止されています。ここに掲載した画像は、図書館のかたへ事情をご説明申し上げ、仮のお許しを賜ったうえで撮影および公開をさせて頂いております。)
米沢嘉博記念図書館はむろん、そもそもにおいて、米沢氏の功績の全体を保存・管理するための施設であり、べつに「吾妻ひでお博物館」たることを趣旨としているわけではないでしょう。しかし米沢氏は、吾妻ファンの1人としても長い間、多岐にわたる活躍をされたかたであり、その恩恵のひとつとして結実したのが今回の展示であると申せましょう。
米沢嘉博氏について述べるには、単独別個に、膨大な内容を持つウェブサイトを立ち上げねばおよそ不可能であり、とてもここでは詳しく記すことができません、なにとぞお許し下さい。
なお、米沢嘉博記念図書館には公式サイトが存在します。

1階展示室、壁面に設けられたショウケース。代表的な吾妻マンガ作品の生原稿と共に、希少な書籍や資料が展示されています。

会場にはモニタが設置され、映像作品がループ再生されているのを観ることができます。今回上映されているのは、
・吾妻総進撃
・うまのひでお(後述)
・不思議な木の実(後述)
・吾妻ひでおCD-ROM WORLD
の4作品。

壁面には、『不条理日記 しっぷーどとー篇』の生原稿と、各コマにあるSFパロディの元ネタの解析が示されています。

ショウケースを見てみましょう。上の画像、ほぼ中央に写っている2つの正方形のものは、同人ソフト「ディスク絵本 はあど・しゅ~るSOFT うまのひでお」と、やはり同人ソフトである「ディスク絵本II はあど・しゅ~るSOFT 不思議な木の実」。NECのパソコン、PC-9801 で動作するもののようで、媒体は5インチのフロッピーでしょうか。コミックマーケット開催に合わせて、それぞれ、1990年8月と同年12月に製作されたようです。再生時間は前者が3分13秒、後者が3分55秒。前者は吾妻家にあった鉛筆画を「はあど・しゅ~る新聞社」のメンバーがパソコンに取り込んで彩色し、いっぽう後者は最初から吾妻ひでお先生の原稿に色がついていたのだそうです。これらソフトの映像は部分的にアニメーションする楽しいものですが、当時のパソコンの演算処理能力は現在から見れば絶望的に低く原始的であり、そうした条件下でのソフトウェア製作にはけだし、さまざまな苦労があったことでしょう。
吾妻ひでおの よいこの童話 うまのひでお
「うまのひでおは うまのくせに
はしったり 草をたべたりもせず
いつもみんなから はなれて
本を読んでいた」
「馬なんて 発展性がない こんな人生いやだ」
そこで彼は……。
『ふたりと5人』の終盤でも酷似した馬が登場していますけれど、同一キャラクターでありましょうか?
吾妻ひでおの よいこの童話II 不思議な木の実
「その森には不思議な実のなる木があって
その木の実を食べると人間も動物も
皆小さな魚にかわってしまうのだと
おじいさんが言っていました」
こちらは少女が主人公で、森をさまよううちに、いろいろな生き物たちと会話するという展開。

これは『ガス屋のガス公』生原稿。トビラ部分ですが、未発表のバージョンなのだそうです。

こちらはマンガではなく立体物、それだけでも大変珍しいのに、驚くべきはその殆ど全てがSF「メカ」(?)なのでした。架空の「生物」ならばまだしも、吾妻ひでお作品で機械が生まれているというのは意外です。生物とも機械とも判然としないものもあるのですが、はっきり題名に「ロボット」と書かれた作品や「タイムマシン」が飾られています。
展示されていた作品の題名は以下の通り。
・ブラックホールト
・時空機関車
・掃除ロボット
・カタツムリの鍵
・土グモ
・探査ロボット
・無人タイムマシン
・耕作ロボット

英会話教材の『LET'S GO WITH HASTY』シリーズ1~6巻。吾妻ファンで英語を習得したいと切望している人は、
「ああ、これさえ再販してくれれば!」
と希(こいねが)っているのではないでしょうか?

表紙イラストを描いた書籍の数々。吾妻マンガ作品、というわけではないせいもあり、これらの全てを所持している吾妻ファンは多くはないかも。

同人誌『東京おとなクラブ』、表紙の装丁までなんとも謎めいています、一体、中には何が書いてあるのやら?

『おちゃめ神物語コロコロポロン』に『ななこSOS』のアフレコ台本。そして『シャン・キャット』アニメ化企画書。後ろには「アズマ虫」や『ぐるぐるメダマン』の人形、キャラクター商品が。

吾妻ひでおデビュー作となった、週刊少年サンデーの欄外マンガ。まとまったページ数でのデビュー作となった『リングサイドクレイジー』が掲載された『プロレスなんでも百科』まで展示されています、びっくり。

板井れんたろう先生のもとでのアシスタント時代の資料。(吾妻ひでおによって)背景に描き込まれた人物の拡大。恩師の描く吾妻ひでお似顔絵キャラクター(後に自画像のひとつになる「アーさん」とはかなり顔が違っていて、とんでもなく珍しい画像だと思う)。

展示室中央のガラスケースの中には、架空の本(だったはずなのに、本当になってしまった)ベーホの「ふるむまかをめら」。

そしてそれが登場した『不条理日記 SF大会篇』の生原稿と、やはり架空の本だったはずのクルムヘトロジャンによる「へろ」……。いったいどんなSF小説なんでしょう?

受付のデスクには「のた魚」ぬいぐるみが鎮座。図書館スタッフのお嬢さんがお作りになられたそうで、これはまた、実に良く出来ていますね、うーん。
(以上、2011年2月28日撮影)
会場の受付においては会期中、オリジナルの絵葉書を無料でいただけるようです(在庫がなくなり次第終了、の由。以下、撮影は2011年3月27日)。
全部で5種類(?)あるらしく、ここでちょっとそれらの絵柄を見てみましょう。

これは単行本『どーでもいんなーすぺーす』(大都社)のカバーに用いられた絵ですね。会場では『惑星間スカウター』の最終ページの生原稿が展示されていたのですけれど、見ると下半分に切り貼りした跡があって、初出と単行本収録版とではオチが推敲されていて異なる、という事が確認できるようです。

こちらは『ななこSOS』、EPレコード(TVアニメ化される前に発売されたもの)で登場した3頭身の肖像が、オブジェを背景とし合成されています。後日談のスナップ集、といった感じ(?)で構成されている1枚もユニーク。TVアニメ版とはまた違う、静かで落ち着いた雰囲気の絵に思えます。

そしてこれは、『海から来た機械』でありましょう。機械、とは言いながら直線と平面をあまり持たず、生物を思わせるような曲面が多いその不思議な形状は独特。上、黄緑色のものは「耕作ロボット」、下の黒いのが「ブラックホールト」と命名された物であるらしい。
(*これらの絵葉書はどうやら、米沢嘉博記念図書館によるtwitterでの発表(2011年5月16日)からすると、「吾妻先生よりいらしてくださったみなさまにということでお預かりしていた」もののようです。)
会場ではいろいろな原画や書籍などが展示されており、僕としては、直接来訪できない吾妻ファンの為に写真報告をすべく、ここに記録を残したかったのですが、米沢嘉博記念図書館の受付のかたもそれぞれの物品の著作権をどう判断すれば良いやら(展示物の著作権が図書館に帰属するわけではないために)戸惑っておられるご様子でした。で、僕もずいぶん悩んだのですけれど、今回以降は撮影をせず、またここにこれ以上の画像を追加するのはひとまず自粛することに致しました。なにとぞご了承下さい。ご協力くださいました米沢嘉博記念図書館の皆様、本当にどうもありがとうございました。
さて、ここからは、明治大学博物館にて開催された(2011年4月23日~5月23日)、「吾妻ひでお美少女実験室」についての記録です。
こちらは展示物の作者が複数存在し、その著作権は非常に複雑となるため、撮影許可の申請をはなっから断念しました。そこでとりあえず、会場入口やその周囲の光景のみを撮影し、ここに公開させて戴いてみる次第です。
なお、この展覧会についての公式ムービーがYouTubeで公開されており、会場内の様子はそれによってうかがい知る事が可能になっています。会場へ赴くのが難しかったファンにとってこれは本当にありがたいことでしょう。

通りから建物へと向かい、その左手にあるオブジェを見上げると……。

そこには大きな垂れ幕が。

会場の特別展示室は地下1階にあり、

入口には看板。そして受付では「のた魚」も出迎えてくれるのでした。

入って奥、右側へ進むと、展示が始まっていたのです。
吾妻ひでお 作画の過程
これは2011年4月9日に吾妻ひでおの仕事場で撮影された記録映画で、1枚のイラストレーション(『ななこSOS』)が白紙の段階から、下絵、ペン入れ、カケアミ、ベタ、加筆、ホワイト修正と進んで完成に至るまでをとらえたもの(上映時間:約15分)。
*観ていて僕が気づいたのは、ホワイト修正が昔ながらのポスターカラーによるらしいのに対して、ベタはもはや墨汁ではなく筆ペンが使われていたこと。大きなスケッチブックを下敷きに用いるやり方は1970年代末の無気力プロ当時と変わっていない様子(沖さんも僕も、先生のこのやり方をそっくりそのまま真似て実行していました)。あの頃インクはパイロットの製図用を使っておられたような気がするのですが、この映画ではインクのラベルが見えず、同じなのかどうか分かりませんでした。とにかくタバコが無いと進まないのは相変わらずだったりして。
さらに「相変わらずであるらしい」と僕が驚いたのは、仕事場の写真を見ると、先生が椅子の上にあぐらをかいて(!?)座っておられる様子だったことで、無気力プロでも先生の座り方が一種独特だったものだから、あの姿勢で疲れてしまわないのだろうかと、後ろから見ていて心配になってきたのを思い出しました……。
ごあいさつ
パネルには、
「国際的に日本の現代文化の目立った一角を占めるようになった<美少女>の絵柄の、発達過程の一断面を描きます」
とあって、この展覧会の趣旨が説明されていました。展示物の解説文は森川嘉一郎氏(明治大学国際日本学部)によるもので、このあと、吾妻ひでお作品の生原稿とともに、さまざまな作者によるさまざまな作品が論拠として示され、研究発表がなされているのでした。
吾妻ひでおによる美少女表現の実験
「四半世紀をまたいで現在の秋葉原を覆う絵柄にも引き継がれているモチーフを六つ抽出しました」
として、以下の順でその分析が展示されていました。また、各項目について吾妻ひでお本人から聞きだしたコメントが最初にあり、これも貴重でしょう。
(1) 美少女のロボット化
吾妻「無意識から出てきたもの。やっぱり『アトム』のウランちゃんの印象が大きいかな」
(2) 美少女の増殖
吾妻「『アトム』のウランちゃんが半分に割れちゃう話が、すごく印象に残ってる。断面からブクブクと泡が出てきて、二人になっちゃう」
(3) 美少女にネコやウサギの耳
吾妻「手塚治虫の流れですね、動物の擬人化って。源流はそこだと思うんです」
(4) 美少女と変な生き物
吾妻「アメリカの古いパルプ雑誌の定番だったんです。金髪の美女が怪物に襲われるというのは」
(5) 美少女のアイドル化
吾妻「アイドルにはまっていたから、コンセプトはアイドル雑誌を参考にしてる。水着があったり、私生活があったり」
(6) 美少女とSF/ファンタジーの世界
吾妻「昔のアメリカのSF雑誌の表紙をいっぱい見てた。女性の宇宙服はだいたいビキニ」
吾妻ひでおへのトリビュート
*これは『KAWADE夢ムック 総特集 吾妻ひでお』で使用された原稿(『愛のネリマ・サルマタケ・ゾーン』)のほか、著名人から寄せられた原稿とそれら似顔絵のもとになった、吾妻作品の生原稿とが並べて展示されているのでした。
吾妻ひでおと<美少女のマンガ>
*これは、
「[[[美少女を対象化するマンガ]の読者を対象化するマンガ]の読者……]という入れ子状の迷宮」
を成す作品として、以下の短編の生原稿が展示されていました。
・ぬいぐるみ
・やさしい罠
・泣き虫ルイちゃん (プリティギャルズ・シリーズ)
・ぶらっとバニー 「フィルムは生きている」
・どーでもいんなーすぺーす 「少女と犬と猫とブタと馬と牛と…」
*展示は以上で終わっていたのですけれど、出入口の手前にはテーブルとイスがあり、ノートが用意されていました。貼紙を読むとこれは、
「吾妻先生へのメッセージなど ご自由に書いてね」
という事だったようです。
で……。
ちょっと読ませてもらいました。すると、札幌から、熊本から、栃木から、盛岡から、大阪府から、匝 瑳高校(千葉県)からと、実にあちこちのファンが来場していたのです。年齢もさまざまで、
「中3の息子と2人できました」
「小生、70代になりましたが」
「小学校の時はじめて自分のおこづかいで買ったマンガがポロンでした」
等、いろいろな言葉があって、びっくり。
実に楽しく、素晴らしい展覧会でした。明治大学博物館の皆様、また会場入口にお名前のあった方々のご協力やご尽力に心から感謝しつつ、僕は会場を後にしたのであります。


