花 曇 り
その婚礼は、昔の風情をともないゆかしく行われることとなっていた。 花嫁は、桜の舞う沿道を人力に揺られながら、見送る人々に笑顔をなげ返した。 歳は十八。桜の花も恥じ入るばかりと、見送る人々は花嫁の初々しい横顔にうっとりと見ほれていた。 人垣の背後、遠巻きにするように立ちつくしている若者たちの視線が、その場の晴れがましさにそぐわない悲痛の色に沈んでいることを、かの人々がうかがい知ることはない。
花嫁は一度、人力を止め、ゆっくりと人垣の向こうへ目を馳せた。 花嫁がわずかに細めた目は、笑顔なのか泣き顔なのか判然としない、はかない揺らめきを見せて消えた。 そしてそのまま花嫁が、今を盛りの沿道の桜の木を見あげたので、人々は花嫁が見事な桜に目を奪われたのだと受け取ったのか、どこからか、 「桜の花よりも、きれいだよ、千咲ちゃん!」 と声がかかり、それが沿道をどっと沸かせた。
花嫁は、今度ははっきりと笑顔になった。そして声の方に首を回しかけたその時、花嫁は、突然、はっと目を見張った。 花嫁の口元がかすかに動いた。虚空を見つめているようなその瞳は、ただ何かに気を取られているらしいことを、その場につき添っていた身内の何人かに気どらせただけで、道を埋め尽くしているにぎわいをさえぎるまでには至らなかった。
視線の先に、人垣の谷間、ひとりの学生の顔があった。 遠巻きに花嫁を見つめていた若者たちとも離れ、ただぽつんと立っているだけの、通りすがりに花嫁の出立にでくわしただけとも見える姿であった。 学生の顔はほとんど無表情であったが、花嫁が我知らず腰を浮かしかけたその瞬間、学生の顔に、遠い微笑みがひとつ波紋のように広がった。 花嫁の目から、はらりと、花びらのように涙がこぼれ、それを待っていたかのように、さっと風が舞い上がった。花吹雪が踊り、人々の歓声があがった。
薄日が射していた。 花曇りの中、花嫁を乗せた人力は、今度こそ止まることなく、隣町目指して進んでいった――
NSシリーズ現世編第3部 Recollection――青春の抄(第2話)花曇り(抜粋)
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