屈斜路湖の主と英雄
阿寒国立公園では,火山が造る美しい景観を観ることができます.屈斜路湖と摩周湖はその阿寒国立公園の中にあります.屈斜路湖と摩周湖は洞爺湖や支笏湖と同様,北海道にいくつかあるカルデラ火山(屈斜路火山・摩周火山)のうちの二つです.そのうち屈斜路湖には,大ひらめと勇者が格闘するという,十和田湖の八郎太郎の伝説に似たアイヌの民話が残されています.
(あらすじ1)
昔、屈斜路湖に,獰猛な大ひらめが棲息していた.神様も寄せつけず,アイヌの人々を苦しめた.ある時,この大ひらめのことを聞いたアイヌの英雄ヲタシトンクルは鉾をもって大ひらめと戦い,見事にその目玉を貫いた.しかし,大ひらめは目の見えぬまま大暴れに暴れたので,鉾の柄に縄を結び近くの山に結びつけ戦い続けた.大ひらめのあばれようはもの凄く,ついにその山をも抜いてしまったが,悪運尽きて自らその山の下敷きとなり死んでしまった.その山が中島である.
(あらすじ2)
屈斜路湖には巨大なアメマスが住んでいて、湖を渡る船をひっくり返したりして人々を怖がらせていた。神々が退治に出掛けるが、どの神も力が及ばなかった。人間の英雄オタストンクルが銛を持って出掛け、アメマスの目を突き、死闘を繰り返した。銛の縄を傍らの小山に結びつけて一休みしていると、最後の力をふりしぼってアメマスが暴れたので、小山が引き抜かれてしまったが、アメマスは引き抜いた山の下になって動かなくなった。アメマスの引き抜いた小山は中島になり、引き抜いたあとがポントという沼になった。まだアメマスが死にきらないものか、この地帯に今も時々地震が起きるという。
−その解釈−
屈斜路火山は約12万年前に大噴火し,そのときに噴出した火砕流は根釧台地全体を被いました.そのころカルデラが形成したと思われます.それ以降,カルデラ内では複数の中央火口丘のアトサヌプリ火山,中島,和琴火山などが活動を続けました.私は,屈斜路湖周辺の詳しい火山噴火の歴史を知りませんが,有珠山や十勝岳などと比べると,屈斜路火山とその中央火口丘は,ともに古い火山で,最近噴火したような形跡(たとえば千年以内)は見つからないようです.とはいえ,和琴半島付近では現在でも噴気活動が活発で,水蒸気噴火程度なら最近でも起きていたかもしれません.
しかし,隣の摩周湖まで眼中にいれると,すこし話は変わってきます.この阿寒国立公園付近には摩周b火山灰(Ma−b)と呼ばれる火山灰が分布しています.摩周湖もやはりカルデラ火山ですが,こちらは随分新しい火山のようです.この摩周b火山灰が噴出したのは,10世紀かそれよりやや新しいと考えられています.これくらいの時代なら,言い伝えとして残っても不思議はありません.ただし,この摩周b火山灰は,摩周湖の湖そのものを形成する噴火ではなく,その中央火口丘カムイヌプリ火山の噴火だったようです.
上記のあらすじで引用した福田芳文堂の「アイヌの伝説」では,本文の最後の部分は,「その山が中島で抜け落ちた跡には水がたまり屈斜路湖になった」とあります.しかし,この文には自己矛盾があります.大ひらめが棲息していて,英雄と戦ったのは屈斜路湖なのですから,後から屈斜路湖ができる訳はありません.一方、アメマスの伝説の方ではポント(小さな沼)ができたことになっています。
そういえば屈斜路湖には、「クッシー」という未確認巨大生物がいると言う話があり、写真を撮った人もいました。本当は火山活動に関係したものではないでしょうかね。ちなみに「イッシー」がいるという鹿児島県の池田湖もカルデラ湖です。
参考文献
アイヌの伝説 福田芳文堂
泥炭地における最近1000年間のテフラ-クッチャロカルデラ美留和− 町田洋 (第四紀露頭集-日本のテフラ)
北海道の伝説 日本の伝説17 更科源蔵¥安藤美紀夫