[地学と宮澤賢治のトップ] [地学に関わる作品]

「楢の木大学士の野宿」

その2.野宿第二夜 


楢の木大学士は第一夜に続き第二夜でも夢を見ます。今度は花崗岩の中に含まれる造岩鉱物(岩石を構成する鉱物)どうしの会話です。

ぼんやりたき火をながめながら
わらの上に横になり
手を頭の上で組み
うとうとうとうとした。
突然頭の下のあたりで
小さな声で物を云い合ってるのが聞えた。
「そんなに肱を張らないでお呉れ。おれの横の腹に病気が起るじゃないか。」
「おや、変なことを云うね、一体いつ僕が肱を張ったね」
「そんなに張っているじゃないか、ほんとうにお前この頃湿気を吸ったせいかひどくのさばり出して来たね」
「おやそれは私のことだろうか。お前のことじゃなかろうかね、お前もこの頃は頭でみりみり私を押しつけ様とするよ。」
大学士は眼を大きく開き
起き上ってその辺を見まわしたが
誰れも居らない様だった。
声はだんだん高くなる。
「何がひどいんだよ。お前こそこの頃はすこしばかり風を呑んだせいか、まるで人が変ったように意地悪になったね。」
「はてね、少しぐらい僕が手足をのばしたってそれをとやこうお前が云うのかい。十万二千年昔のことを考えてごらん。」
「十万何千年前とかがどうしたの。もっと前のことさ、十万百万千万年、千五百の万年の前のあの時をお前は忘れてしまっているのかい。まさか忘れはしないだろうがね。忘れなかったら今になって、僕の横腹を肱で押すなんて出来た義理かい。」
大学士はこの語を聞いて
すっかり愕ろいてしまう。
「どうも実に記憶のいいやつらだ。ええ、千五百の万年の前のその時をお前は忘れてしまっているのかい。まさか忘れはしないだろうがね、ええ。これはどうも実に恐れ入ったね、いったい誰だ。変に頭のいいやつは。」
大学士は又そろそろと起きあがり
あたりをさがすが何もない。
声はいよいよ高くなる。
「それはたしかに、あなたは僕の先輩さ。けれどもそれがどうしたの。」
「どうしたのじゃないじゃないか。僕がやっと体骼と人格を完成してほっと息をついてるとお前がすぐ僕の足もとでどんな声をしたと思うね。こんな工合さ。もし、ホンブレンさま、ここの所で私もちっとばかり延びたいと思いまする。どうかあなたさまのおみあしさきにでも一寸取りつかせて下さいませ。まあこう云うお前のことばだったよ。」
楢ノ木学士は手を叩く。
「ははあ、わかった。ホンブレンさまと、一人はホルンブレンドだ。すると相手は誰だろう。わからんなあ。けれども、ふふん、こいつは面白い。いよいよ今日も問答がはじまった。しめ、しめ、これだから野宿はやめられん。」

 そもそも岩石というのは、鉱物の集合体です。普通,数種類の鉱物が集まって岩石になります。鉱物というと水晶のような大きなきれいな形のものを想像しがちですが、岩石を構成している鉱物(造岩鉱物)は大抵ミリメートル単位、もしくはもっと小さいものです。しかも、必ずしも結晶の形がきれいなものとは限りません。花崗岩の場合、斜長石、正長石、石英、普通角閃石、黒雲母、磁鉄鉱などから構成されます。まずここで出てきたのはホルンブレンド=普通角閃石です。
 野宿第一夜ででてきたとおり、花崗岩は、地下でゆっくりマグマが冷えて固まったものです。千五百万年前の出来事とは,そのマグマが冷えて固まったときのことのようです。マグマが冷え固まるとき、鉱物がマグマから結晶化します。そのとき、すべての鉱物がいっせいに結晶化するわけではなく、早期に結晶化するものもあれば,後期に結晶化するものもあります。会話の内容からすると、どうやら普通角閃石=ホルンブレと話しているのは、普通角閃石より後に結晶化した(「晶出した」という)鉱物のようです。

大学士は煙草を新らしく
一本出してマッチをする
声はいよいよ高くなる。
もっともいくら高くても
せいぜい蚊の軍歌ぐらいだ。
「それはたしかにその通りさ、けれどもそれに対してお前は何と答えたね。いいえ、そいつは困ります、どうかほかのお方とご相談下さいと斯んなに立派にはねつけたろう。」
「おや、とにかくさ。それでもお前はかまわず僕の足さきにとりついたんだよ。まあ、そんなこと出来たもんだろうかね。もっとも誰かさんは出来たようさ。」
「あてこするない。とりついたんじゃないよ。お前の足が僕の体骼の頭のとこにあったんだよ。僕はお前よりももっと前に生れたジッコさんを頼んだんだよ。今だって僕はジッコさんは大事に大事にしてあげてるんだ。」
大学士はよろこんで笑い出す。
「はっはっは、ジッコさんというのは磁鉄鉱だね、もうわかったさ、喧嘩の相手はバイオタイトだ。して見るとなんでもこの辺にさっきの花崗岩のかけらがあるね、そいつの中の鉱物がかやかや物を云ってるんだね。」

普通角閃石と喧嘩していたのはバイオタイト=黒雲母です。花崗岩の中の鉱物を観察すると、二種類の鉱物が互いに包有関係になっていることがあります。普通、内部に包有される鉱物は、包有する側の鉱物より先に結晶化していたと考えられます。ここでは磁鉄鉱を黒雲母が包有している。ですから、磁鉄鉱の方が黒雲母よりも早く結晶化したようです。ただ、必ずしもこうなるとは限りません。黒雲母より磁鉄鉱が後に結晶化することもあるようです。また、この会話では黒雲母と角閃石はたまたま隣り合っただけのようですが、黒雲母が角閃石を包有することもあります。ただ単に周囲に結晶化する場合もありますが、マグマと普通角閃石の間の化学反応によって黒雲母ができるために、角閃石を黒雲母が取り囲む形になることもあります。これを反応関係と呼んでいます。

なるほど大学士の頭の下に
支那の六銭銀貨のくらいの
みかげのかけらが落ちていた。

みかげとは、御影石、つまり花崗岩のことです。敷石や墓石などに使われる白っぽい岩石です。

学士はいよいよにこにこする。
「そうかい。そんならいいよ。お前のような恩知らずは早く粘土になっちまえ。」
「おや、呪いをかけたね。僕も引っ込んじゃいないよ。さあ、お前のような、」

マグマ中でできた火成岩中の造岩鉱物は、のちの風化作用、変質作用によって、ながい時を経て、やがて粘土鉱物に変化します。鉱物中の一部の元素が逃げ出し、水などは逆に入ってくるものもあり、やがて結晶の構造も変化し、粘土鉱物になります。粘土鉱物にも色々な種類がありますが、後で蛭石、カオリンといった名前が出てきます。温度や周りの化学的条件によって、どのような粘土鉱物に変化するかは異なります。

「一寸お待ちなさい。あなた方は一体何をさっきから喧嘩してるんですか。」
新らしい二人の声が
一諸にはっきり聞え出す。
「オーソクレさん。かまわないで下さい。あんまりこいつがわからないもんですからね。」
「双子さん。どうかかまわないで下さい。あんまりこいつが恩知らずなもんですからね。」
「ははあ、双晶のオーソクレースが仲裁に入った。これは実におもしろい。」
大学士はたきびに手をあぶり
顔中口にしてよろこんで云う。

次にあらわれたのは、オーソクレース=正長石です。この正長石は双晶のようですね。双晶とは、同一の鉱物が、ある対称構造をもって二つ接しているものです。この場合は単に二つの結晶がくっついているわけではなく、ある規則性にしたがって接しています。一つの鉱物のよに見えて、内部に双晶がある場合もありますし、外形からも二つがくっついて見える場合もあります。

二つの声が又聞える。
「まあ、静かになさい。僕たちは実に実に長い間堅く堅く結び合ってあのまっくらなまっくらなとこで一諸にまわりからのはげしい圧迫やすてきな強い熱にこらえて来たではありませんか。一時はあまりの熱と力にみんな一諸に気違いにでもなりそうなのをじっとこらえて来たではありませんか。」
「そうです、それは全くその通りです。けれども苦しい間は人をたのんで楽になると人をそねむのはぜんたいいい事なんでしょうか。」

深成岩はもともと地下深くにあって、高温高圧条件下にあったわけです。現在地表で見られる深成岩は隆起、侵食により地表に表れているのです。

「何だって。
「ちょっと、ちょっと、ちょっとお待ちなさい。ね。そして今やっとお日さまを見たでしょう。そのお日さまも僕たちが前に土の底でコングロメレートから聞いたとは大へんなちがいではありませんか。」
「ええ、それはもうちがってます。コングロメレートのはなしではお日さまはまっかで空は茶いろなもんだと云っていましたが今見るとお日さまはまっ白で空はまっ青です。あの人はうそつきでしたね。」
双子の声が又聞えた。
「さあ、しかしあのコングロメレートという方は前にただの砂利だったころはほんとうに空が茶いろだったかも知れませんね。」

コングロメレートとは、堆積岩の一種、礫岩のことです。固結して岩石になる前、もともとは砂利だったものです。

「そうでしょうか。とにかくうそをつくこととひとの恩を仇でかえすのとはどっちも悪いことですね。」
「何だと、僕のことを云ってるのかい。よしさあ、僕も覚悟があるぞ。決闘をしろ、決闘を。」
「まあ。お待ちなさい。ね、あのお日さまを見たときのうれしかったこと。どんなに僕らは叫んだでしょう。千五百万年光というものを知らなかったんだもの。あの時鋼の槌がギギンギギンと僕らの頭にひびいて来ましたね。遠くの方で誰かが、ああお前たちもとうとうお日さまの下へ出るよと叫んでいた、もう僕たちの誰と誰とが一諸になって誰と誰とがわかれなければならないか。一向判らなかったんですね。さよならさよならってみんな叫びましたねえ。そしたら急にパッと明るくなって僕たちは空へ飛びあがりましたねえ。あの時僕はお日さまの外に何か赤い光るものを見たように思うんですよ。」
「それは僕も見たよ。」
「僕も見たんだよ、何だったろうね、あれは。」
大学士は又笑う。
「それはね、明らかにたがねのさきから出た火花だよ。パチッて云ったろう。そして熱かったろう。」
ところが学士の声などは
鉱物どもに聞えない。

地質調査のときには、ハンマーとたがねで岩石を割ります。その割れるときの様子を、造岩鉱物たちの立場から描いた会話です。破断された面が日にさらされるわけですね。確かに岩石を割るときは火花が出ますね。

「そんなら僕たちはこれからさきどうなるでしょう。」
双子の声が又聞えた。
「さあ、あんまりこれから愉快なことでもないようですよ。僕が前にコングロメレートから聞きましたがどうも僕らはこのまま又土の中にうずもれるかそうでなければ砂か粘土かにわかれてしまうだけなようですよ。この小屋の中に居たって安心にもなりません。内に居たって外に居たってたかが二千年もたって見れば結局おんなじことでしょう。」
大学士はすっかりおどろいてしまう。
「実にどうも達観してるね。この小屋の中に居たって外に居たってたかが二千年も経って見れば粘土か砂のつぶになる、実にどうも達観してる。」

これからのことですね。再び埋没するか、そのまま地表で風化してゆくかということです。それは全くその通りです。先に、風化や変質で粘土鉱物に変わることを説明しましたが、「砂か粘土になる」とあります。花崗岩が風化すると、岩石内部で変質が進み、粘土鉱物ができてくるのですが、同時に、岩石中の一つ一つの鉱物の結合が弱まり、やがてはばらばらになってしまいます。花崗岩中の鉱物は、砂粒程度の大きさのことが多いので、風化してばらばらになると、砂粒になってしまいます。この砂をマサと呼びます。花崗岩が分布するところではごく普通に見られます。

その時俄かにピチピチ鳴り
それからバイオタが泣き出した。
「ああ、いた、いた、いた、いた、痛ぁい、いたい。」
「バイオタさん。どうしたの、どうしたの。」
「早くプラジョさんをよばないとだめだ。」
「ははあ、プラジョさんというのはプラヂオクレースで青白いから医者なんだな。」
大学士はつぶやいて耳をすます。

 プラジヲクレースは日本語で斜長石と呼びます。正長石とおなじ長石の仲間です。正長石中にはカリウムが多く含まれるのですが、斜長石中にはカルシウムとナトリウムが多く含まれます。白っぽい鉱物です。

「プラジョさん、プラジョさん。プラジョさん。」
「はあい。」
「バイオタさんがひどくおなかが痛がってます。どうか早く診て下さい。」
「はあい、なあにべつだん心配はありません。かぜを引いたのでしょう。」
「ははあ、こいつらは風を引くと腹が痛くなる。それがつまり風化だな。」
大学士は眼鏡をはずし
半巾で拭いて呟やく。
「プラジョさん。お早くどうか願います。只今気絶をいたしました。」
「はぁい。いまだんだんそっちを向きますから。ようっと。はい、はい。これは、なるほど。ふふん。一寸脈をお見せ、はい。こんどはお舌、ははあ、よろしい。そして第十八へきかい予備面が痛いと。なるほど、ふんふん、いやわかりました。どうもこの病気は恐いですよ。それにお前さんのからだは大地の底に居たときから慢性りょくでい病にかかって大分軟化してますからね、どうも恢復の見込がありません。」

 鉱物によって変質しやすいものと変質しにくいものがあります。黒雲母は比較的変質しやすい鉱物です。へきかい(劈開)とは、鉱物の結晶構造により、割れやすい特定の方向(面)のことです。割れやすい方向はいくつもあります。劈開面は、水などが浸透しやすいため、そこから変質がおきやすいのです。
 変質作用が全くおきていないように見える花崗岩でも、黒雲母だけが変質して、緑泥石という鉱物に変わって変質してしまっていることがあります。これもごく普通にあることです。この黒雲母の変質作用は、地表ではなく地下で、しかも比較的高温で起きているようです。これを賢治は慢性りょくでい病と呼んでいます。

病人はキシキシと泣く。
「お医者さん。私の病気は何でしょう。いつごろ私は死にましょう。」
「さよう、病人が病名を知らなくてもいいのですがまあ蛭石病の初期ですね、所謂ふう病の中の一つ。俗にかぜは万病のもとと云いますがね。それから、ええと、も一つのご質問はあなたの命でしたかね。さよう、まあ長くても一万年は持ちません。お気の毒ですが一万年は持ちません。」

蛭石は粘土鉱物の一種です。バーミキュライトとも呼びます。黒雲母が変質作用を被ると、蛭石に変わることが多いのですが、蛭石という名前は面白いですね。こんな名前でよばれるのは理由があります。黒雲母が変質して蛭石に変わっても、鉱物の外形は黒雲母の形のままの事があります。六角板状の形が普通です。これをホットプレートの上で暖めると面白いことが起きます。板に垂直な方向に広がりはじめます。それがにょろにょろと、蛭が伸びるときのように、長く伸びてゆくのです。このようすから蛭石と呼ばれています。

「あああ、さっきのホンブレンのやつの呪いが利いたんだ。」
「いや、いや。そんなことはない。けだし、風病にかかって土になることはけだしすべて吾人に免かれないことですから。けだし。」
「ああ、プラジョさん。どんな手あてをいたしたらよろしゅうございましょうか。」
「さあ、そう云う工合に泣いているのは一番よろしくありません。からだをねじってあちこちのへきかいよび面にすきまをつくるのはなおさら、よろしくありません。その他風にあたれば病気のしょうけつを来します。日にあたれば病勢がつのります。霜にあたれば病勢が進みます。露にあたれば病状がこう進します。雪にあたれば症状が悪変します。じっとしているのはなおさらよろしくありません。それよりは、その、精神的に眼をつむって観念するのがいいでしょう、わがこの恐れるところの死なるものは、そもそも何であるか、その本質はいかん、生死巌頭に立って、おかしいぞ、はてな、おかしい、はて、これはいかん、あいた、いた、いた、いた、いた、」
「プラジョさん、プラジョさん、しっかりなさい。一体どうなすったのです。」
「うむ、私も、うむ、風病のうち、うむ、うむ。」
「苦しいでしょう、これはほんとうにお気の毒なことになりました。」
「うむ、うむ、いいえ、苦しくありません。うむ。」
「何かお手あていたしましょう。」
「うむ、うむ、実はわたくしも地面の底から、うむ、うむ、大分カオリン病にかかっていた、うむ、オーソクレさん、オーソクレさん。うむ、今こそあなたにも明します。あなたも丁度わたし同様の病気です。うむ。」
「ああ、やっぱりさようでございましたか。全く、全く、全く、実に、実に、あいた、いた、いた、いた。」

カオリンも粘土鉱物です。長石類が変質したときにできやすい鉱物です。カオリンについては「インドラの網」で詳しく解説しておきました。陶器の原料となる粘土鉱物です。

そこでホンブレンドの声がした。
「ずいぶん神経過敏な人だ。すると病気でないものは僕とクォーツさんだけだ。」
「うむ、うむ、そのホンブレンもバイオタと同病。」
「あ、いた、いた、いた。」
「おや、おや、どなたもずいぶん弱い。健康なのは僕一人。」
「うむ、うむ、そのクォーツさんもお気の毒ですがクウショウ中の瓦斯が病因です。うむ。」
「あいた、いた、いた、いた。た。」
「ずいぶんひどい医者だ。漢法の藪医だな。とうとうみんな風化かな。」
大学士は又新らしく
たばこをくわいてにやにやする。
耳の下では鉱物どもが
声をそろえて叫んでいた。
「あ、いた、いた、いた、いた、た、たた。」

クォーツ=石英も重要な花崗岩の構成鉱物です。石英は比較的変質作用に強く、他の鉱物が変質しても生き残りやすいものです。

この話は、花崗岩中の造岩鉱物とその結晶化作用および風化作用を描いたものです。晶出の順序、包有関係、風化作用の順序や生成鉱物など、良く読んでみると随分芸が細かく、かなり高度な内容です。私自身が地学専攻の大学二年〜三年生に教えている内容と全く同じです。楢の木大学士の一夜と二夜を合せると、立派な火成岩の岩石学の講義になります。あまりにもよくできています。もしかしたら、賢治はこの物語を教材として著したのではないでしょうか。


granite2.gif (13244 バイト)花崗岩(御影石)とはこのような岩石です。見たことがあると思います。白い部分は斜長石、正長石、石英です。この写真ではわかりにくいのですが、石英は白というより透明です。黒いのは黒雲母と普通角閃石です。北上山地にはこのような花崗岩がたくさん分布しています。 

岩石を観察する場合は、もちろん肉眼でも観察しますが、それだけではわかりにくいことが多いので、顕微鏡で観察します。microsc1.gif (6880 バイト)microsc2.gif (6454 バイト)岩石を顕微鏡で観察する場合には、専用の特殊な顕微鏡を用います。偏光顕微鏡と呼ばれるものです。賢治の時代でもこの顕微鏡はありました。そして、賢治もこのような顕微鏡を使って岩石の観察をしていたと思われます.左の写真は古い型の偏光顕微鏡です。(私の研究室の片隅に置いてあったものです。)賢治のころのものよりは新しいかもしれませんが、数十年前のものです。右は、最新型の偏光顕微鏡です。左の顕微鏡では、外からの光を下のミラーで反射させて観察するものですが、最新型の場合は、光源が顕微鏡内部に組み込まれています。接眼レンズは、古いものでは単眼ですが、新しいものでは双眼です。

偏光顕微鏡は下から光をあて、上から覗いて観察するものです。ですから、観察する試料は光を通さなくてはなりません。岩石をそのまま観察ステージに乗せたのでは、真っ暗で何も見えません。そこで、岩石を薄くスライスしたものを観察します。その厚さは0.02〜0.03mm程度です。ガラスに貼りつけ、やすりで研磨して薄くします。これを薄片と呼びます。granite.gif (43397 バイト)

 花崗岩の薄片を観察すると、右のように見えます。写真中の、Btは黒雲母、Hbは普通角閃石、Orは正長石、Qzは斜長石、Mtは磁鉄鉱です。この写真では磁鉄鉱が黒雲母中に含まれています。鉱物一つ一つの大きさは1〜5mm程度です。物語にでてくる鉱物が一応そろってますね。ただし,この写真では双晶がよく見えるのは正長石ではなく、斜長石(Pl:白と黒の筋のように見えるもの)や普通角閃石(Hb:右上のもの.Hbの文字の所で二色になっている)です。

 賢治は、このような薄片を観察し、鉱物の形態や相互の関係を調べたものと思われます。その詳細な観察の結果を楢の木大学士の野宿第二夜で著していようです。よく観察していないと、決してこのような文章は書けないと思います。


本文はちくま文庫「宮沢賢治全集6」より引用

[地学と宮澤賢治のトップ] [地学に関わる作品]