『ADHD臨床ハンドブック』

中根晃編







  次のようなことを言われて、ADHDをもつ子の親は同意、納得できるでしょうか。
  文中の「彼ら」とは、ADHDをもつ子どもや大人です。

  「彼らはひとに対する気働きや配慮を要する営業やサービス業には不向きで、からだを
  使う製造業・運輸・土木・園芸などに向いている。そして仕事を選ぶには、雇い主に本
  人の状態についての理解があること、仕事が本人の興味や関心に合っていること、本人
  が焦ることなく自分のペースで仕事をできること、肉体的負担や危険性がないことなど
  についての配慮がなされるべきである。また本人サイドにもすでに述べたように、十分
  なソーシャル・スキルが育っていなければならない。」(P.170) 

  都立梅ケ丘病院では、このような「就労援助」をしているらしい。
  ならば、「ひとに対する気働きや配慮を要する」仕事の最たるもののひとつ、医師など
  は、ADHDにはもっとも不向きということになりますから、梅ケ丘病院その他にたぶ
  んいらっしゃるであろう、自称、他称のADHDであるお医者さんたちは、庭師に転職
  したほうがいい。
  車の運転についてわざわざ項目を立てて解説し、注意をうながし、場合によっては運転
  をするな、とまでアドバイスしている本もあるほど、車の運転は、ADHDをもつ人に
  とってむずかしいテーマではなかったかな?
  それに、ソーシャルスキルとは、ひとに対する気働きや配慮ができることなのだから、
  それが十分に育っていれば、営業やサービス業に向いている。
  そもそも、営業やサービス業への向き不向きは、気働きや配慮の要不要と何か相関が
  あるのだろうか。
  製造業・運輸・土木・園芸はからだを使う、とは?
 
  文章として破綻しているだけでなく、労働観や職業観が、がさつで差別的ですらありま
  す。この駄論文が、『ADHD臨床ハンドブック』の水準を端的にあらわしています。
  編者によれば、「ADHDについての正しい知識を彼らと触れ合うことの多い人たちに
  伝えなければならない。それには臨床、教育、研究の各領域の先駆者から、平易な言葉
  で高度な内容を語って貰うことがもっとも望ましい。本書はこうした目的で編纂された」
  そうです。
  カバーには「医学と教育からの最新の知見と、最良のアプローチを提示するものである」
  ともあります。

  しかし、一読してみれば、医学の臨床と研究の部分は、ADHDをもつ子の親ならすで
  に知っている話が大半であり、せっかくのアメリカでの対応の紹介も、通り一遍でもの
  たりません。
  小学校と中学校での実践例以外とくに読むべきところもないという、なさけなさの総仕
  上げは、無邪気なのか不遜なのか、多くの執筆者がバイブルのごとく引用しまくってい
  る観のあるバークレーの、分厚いハンドブックの向こうをはったようなこの本のタイト
  ルと、これもまたあちらとよく似たこの本のカバーデザインです。

  医療と教育の連携の必要性を説くことがこの本の編集方針です。
  つまり、家庭は共同の療育の場ととらえず、親を援助の対象とはしても連携の対象とは
  せず、共同療育者とは見ていないのが、この本の特徴でもあります。
  これが日本の専門家、とくに医学の側のものの見方であることは、親として留意してお
  いたほうがいいように思います。

  連携がテーマなら、この本はソーシャルワーカーによって編まれるべきでし た。なの
  に、そうではなく、また、その連携のかなめの部分を書いたこの本の最重要論文である
  べきものが、冒頭にご紹介した体たらくなのは、今まで連携が軽んじられてきた、ある
  いは連携という発想がなかった結果でしょう。
  だからこそ連携がほんとうに大事だ、と考えるべきなのか、だから専門家たちを相手に
  してはいられないと考えるべきなのか、こういう専門家たちでも大事に使っていかなけ
  れば、と考えるべきなのか、親の立場からは、いろいろな読み方ができるとは思います。
  高い本ですが。
                                   (Black Ice)

『ADHD臨床ハンドブック』      中根晃編, 金剛出版, 2001年, A5判, 262頁, \4200, ISBN4-7724-0714-6.








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