『思春期のこころの病気』

−不登校・いじめ・キレる・ひきこもりなどに、どう対処すれ ばよいか−

市川宏伸著






 児童や思春期の子どもの心のトラブルと行動障害について、基本的な知識と対策、
対応法を、過不足なくわかりやすく解説した好著です。多くの症例を紹介し、病気や
障害の発症と経過を具体的に理解しやすいように配慮しています。2色刷りでイラス
トやカットを多用し、用語解説や一口メモといったコラムを配し、見出しも冗長さを
承知でわかりやすく工夫した雑誌のようなつくりが、この本を親しみやすくしていま
す。具体的な内容は目次をごらんください。

 東京都立梅ケ丘病院での長年の治療の経験から著者は、多くの親が子どもの言動に
とまどい、気持ちを理解できずにいる、と感じています。同時に、子どものほうは、
親の気持ちを読んでいて、どんな返事が返ってくるかわかっているから相談もしない、
という親を代表とする大人への不信感をかかえている、とも感じています。

 また著者は、子どもの心のトラブルや行動障害には、養育のされ方が関係している
けれど、それだけで説明しきれるものではなく、治療や対処のしかたも絶対的な方法
があるわけではない、親や教師、医師など子どもをとり巻くおおぜいの人たちの協力
で、手さぐりしながら子どもを支えていく以外にない、とも述べています。

 こう育てれば問題がおこらないという確かな方法などない、という正直な認識から
出発して、医療従事者の立場から、思春期の子どもを理解し援助するための一助とな
るべく執筆されたのが、この本です。入門書として、まずは親自身が読むのに、そし
て周囲の人たちに読んでもらうのに、おすすめの1冊です。
(Black Ice)
 この本には、薬物療法について困った記述がある。中枢神経刺激薬のことを「いわ ゆる覚醒剤のことで、塩酸メチルフェニデートとペモリンがあります……」と書いて いるのだ(p.125) 。  覚せい剤とは、覚せい剤取締法が指定している薬物のことであり、リタリン(塩酸 メチルフェニデート)は含まれない。また、この法律が指定する薬物をひとくくりに してあらわす英語名はなく、すなわち、覚せい剤という概念は英語にはない。リタリ ンはstimulantsのひとつであり、stimulantsはふつう、中枢(神経)刺激剤などと 訳される。覚せい剤とstimulantsは同じではないが、覚せい剤と似たような働きをす る薬物群をあえてさがせば、stimulantsになるかもしれない。  そこで、stimulantsを手っとり早く説明しようとして、いわゆる覚せい剤、などと 言う専門家があとを絶たない。法律的に正しい表記である「覚せい剤」ではないもの をそう言いつくろうためだろうか、リタリンは「覚醒剤」、などと総漢字で書く者も いる。教師を対象にしたセミナーで「あれ(リタリン)は、ヒロポン、要するにあれ ですよ。特攻隊の出撃のときに飲ませた」としゃべった精神科医もいる。  このような解説をされて、ADHDの子どもたちや親たちが、どのような実害をこ うむり、どんな悲しい気持ちにさせられるか、この人たちは想像できないらしい。覚 せい剤という言葉から日本人がどういうネガティブなイメージを思い浮かべるか、こ の人たちが知らないはずはない。いや、周知の単語だからこそ、使うのだ。つま り、「おまえ、覚せい剤飲んでるんだって」と言われる子どもがどんな立場に立たさ れ、とんな気持ちにさせられるかが、鈍感なこの人たちにはわからない、ということ なのだろう。  それにしても、これはいわゆる覚醒剤ですが日量10ミリグラムから始めてみましょ うか、などと言われて、はい、ぜひよろしく処方を、と答えられる親がいたとしたら、 その親のアタマこそおかしい。 専門家どうしなら、リタリンを覚せい剤と言っても、それほど違和感はないのかも しれない。しかし、リタリンを服用する子どもたちを犯罪者よばわりするに等しい言 い方を、社会に向かってするべきではない。強引でもそう言ったほうが通りがいい、 と思っているのだとしたら、世間一般をバカにしているか、自分たちが専門バカになっ ているか、そのどちらかあるいは両方だろう。  親や当事者が望むのは、そうした誤解と偏見をあおる“わかりやすい”たとえ話で はない。覚せい剤ではないからきちんと管理して飲めば効果が期待できる、へんなた とえ話にまどわされるな、という専門家としての保証である。本書の著者も、臨床経 験が長いのだから、手をぬかずにみずからの経験をきちんと社会に還元してほしい。  「覚醒剤」のひとことがあるために、全体としてはよくできたせっかくの入門・啓 蒙書を、親たちは先生や周りの人たちに読んでもらうことができなくなってしまっ た。もったいない話である。
(Red Panda)
 『思春期のこころの病気』     −不登校・いじめ・キレる・ひきこもりなどに、どう対処すればよいか−    市川宏伸著, 主婦の友社, 2002年, A5判, 159頁, \1480, ISBN4-07-231998-8. 【目次】  はじめに  第1章 思春期の子どものこころをどれだけ理解していますか?   人間のこころはどのようにして育っていくのだろう?   思春期の子どものこころと体はどうなっているのだろう   思春期の子どものこころを理解するための重要なポイント   思春期の子どもが発するこころの危険な兆候  第2章 いま、親が、子ども自身が悩んでいる、こんなこころの状態   最大の悩み「不登校」「ひきこもり」にはどう対処すればよいか1    不登校(登校拒否)   最大の悩み「不登校」「ひきこもり」にはどう対処すればよいか2    ひきこもり   早期に解決したい子どもの問題行動1 盗む、万引をする   早期に解決したい子どもの問題行動2 キレる   早期に解決したい子どもの問題行動3 親や教師に反抗する・乱暴する   早期に解決したい子どもの問題行動4 いじめる、いじめられる   早期に解決したい子どもの問題行動5 食事をしない、やせてきた   早期に解決したい子どもの問題行動6 自分の体を傷つける(リストカット)   早期に解決したい子どもの問題行動7 夜遊びをする、外泊する   早期に解決したい子どもの問題行動8 性的興味が極端に強い、異性とのつきあい                     が頻繁   早期に解決したい子どもの問題行動9 クスリを使っているようだ  第3章 思春期に多いこころの病気と行動の障害       ――症状は? 治療法は? そのとき家族の対応は?――   依存症候群(薬物嗜癖)   精神分裂病   気分 [感情] 障害(躁うつ病、うつ病、躁病)   神経症性障害   摂食障害(拒食症、過食症)   睡眠障害   人格および行動の障害   精神遅滞   広汎性発達障害   注意欠陥・多動性障害(ADHD、多動性障害)   行為障害   チック障害   吃音(どもり)、場面緘黙  第4章 こころの病気はどのように治療を受けるのがいちばんいいか   医療機関と医師の選び方はどうする   いい治療を受けるために患者や家族が知っておきたいこと   入院が必要と判断されたとき   思春期のこころの病気がうたがわれるとき行われる主な検査   薬物療法   精神療法   リハビリテーション  第5章 家庭や学校の対応と社会的支援   親は思春期の子どもにどう接するべきか   精神科を受診する目安は? 精神科へ連れていくにはどうしたらいい?   親は学校の先生とどうつきあっていけばよいか   こころの病気や障害が疑われるときに利用できる施設・システム  思春期のこころの病気や問題を相談できる医療機関と施設







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