「月刊実践障害児教育」2002年8月号

1冊まるごと特集:ADHD update−−医療、教育、家庭の連携







 1999年1月号以来の、ひさびさのADHDまるごと特集号でしたが、がっかりさせ
られる内容です。まわりの方々のご感想も、おおむね同様でした。

 いちばん大きな問題点は、この特集が「医療、教育、家庭の連携」となっていなが
ら、執筆陣の大半は医療側の人間であり、教育と家庭の側からの発言がないことです。

 そもそも、ADHDの子どもを育てているのは、その子どもの親であり、家庭です。
医療と教育は、そのような親や家庭にたいしてサポートをする立場、それぞれの専門
領域からサービスを提供する立場であるはずなのに、編集後記が「大変に意欲的な議
論をしていただき」と自画自賛する座談会など、出席者は医学部出身者だけで、親も
教師も参加しておらず、医療の側から教育の側への一方的なもの言いになっていて、
家庭にいたっては、医療と教育によって操作される対象、としか認知されていないか
のようです。

 「長尾 (略)ADHDは疾患だよ。治せないものを,教育に押しつけてはいけな
い。」(p.8) 
 「長尾 ADHDは医者が治さないと治らない。しかし、この子のためにと学校や
親と協力したり、力を入れたほど治療効果はいい。」(p.9) 
 「福田  (連携していくさい)医療の側として最初に出会う困難というのは何だと
思われますか?/長尾 教育の壁って感じない?/石川 確かに壁はあるね(略)」
(p.9) 
 「清水  先生が子どもを連れてきたときに、その先生に達成感をもたせてあげると
いうこともある。」(p.10)
 「清水  学校側が子どもや保護者に医療へ向かわせるためには、医学知識をどう使
ったらよいのかについても、我々は助言していく役目があるでしょうね。」(p.11)

などなど。ほかにも、正規軍とゲリラのたとえを持ち出したりして、自分たちだけが
分かっていると思っている人たちの自己満足の漫談会、という印象が強く残ります。

  この特集は、総説を執筆している石川元さんを中心にして編集されているようです
が、石川さんの文章表現は独特で、一般読者には分かりづらいところがあります。リ
タリンをわざわざ「治療的覚醒剤」と命名したり(p.3) 、ADHDを「少数派の非凡
な脳による状態だととらえられており」と説明したり(p.3) 、「リタリンが効いたら
ADHDと診断できるという俗説がある」とほんとうにそのような俗説があるかのよ
うな言い回しをしたり(p.5) 、「移動性」の多動という表現をしたり(p.28)、レッテ
ル貼りをフーコーのパナプティコンに対比させたり(p.30)、このような記述に出合う
と、ペダントリーやスタンドプレーといった言葉を思い出してしまいます。この雑誌
の読者の多くは医学の専門家でないことは、執筆者として承知しているはずでしょう
に。

  セルフエスティームは、ADHDへの対応のかなめとなる概念だと思われますが、
「子どもの自尊心への対応」(石川元執筆)という記事も、不得要領で分かりにくい
ものです。セルフエスティームは実行機能の一部であり、薬物投与によって改善また
は生成してくる、という趣旨のことが書かれているようですが、だから薬物投与以外
のことはしなくてよい、ということなのかどうか。自尊心を「心理」の問題と「脳・
神経」の問題の二項対立の構図でとらえていますが、そもそもこのようなとらえ方に
どういう意味があるのかよくわかりません。ADHDは脳・神経の問題なのだから、
親や教師に責任はない、と励ましてくれているのかも知れませんが、話が抽象的で、
具体的対応法は述べられていません。医療側にできるのは薬剤投与だけ、と言ってい
るのなら、親の実感として、かなり理解できる気はしますが。

 石川元さんについては、この人が編集した「現代のエスプリ」 414号(2002年1月)
を併読すれば、なぜリタリンをあえて覚醒剤と言うのか、などについて、いくらか追
加理解が可能ですが、同時に、世の中そんなに簡単ではないよと、そのお気楽さひと
りよがりを再確認もさせられます。

 自閉症の人が非自閉症の人のほうに歩みよることはできない、非自閉症の人のほう
が自閉症の人に歩みよらなければいけないのだ、と講演会でおっしゃっていた先生が
おられます。それを援用すれば、この特集から親が読み取るべきは、医療側がわれわ
れ親や教師のほうに歩みよることはできない、親や教師のほうから医療側に歩みよら
なければいけないのだ、ということになるのかもしれません。

 どうしてこんなにかたよった、しかも緊張感のない特集になってしまったのか。昨
年1年間続いた榊原先生の連載が、うそのようです。

 きのうきょうわが子のADHDに出会ったばかり、という親も読者の中にはかなり
いると思われますが、そのような親にとってはとくに、この特集はわかりやすいもの
ではなく、混乱させられるだけでしょう。結局親がしっかりする以外にない、と教え
てくれる反面教師にこの特集はなっているのだ、と賢明にもお読みになるように。

 この特集号の具体的内容、目次については、ここを参照してください。
                   
                                                                 
(Black Ice)






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