『高機能自閉症・アスペルガー症候群入門』

−正しい理解と対応のために−

内山登紀夫・水野薫・吉田友子編






  これはまさに、至れり尽くせりの本です。もっと早く読みたかった、もっと早く出
 して欲しかった!と、切に思います。

  ADHDに関しては、欧米諸国には遅れをとるものの、数年前から一般の読者向け
 の読みやすい本も出版されています。そして、その後、より詳しいものや手記、マ
 ニュアル等も次々と書店に並んでいきました。このため、石崎朝世編著『落ち着きの
 ない子どもたち』(1995)や、司馬理英子著『のび太・ジャイアン症候群』(1997)と
 いったわかりやすい解説書から入門し、その後、深く広く読み進めていくというプロ
 セスで知識と理解を得ることができました。ADHDに関しては。
  しかし、自閉症、特に高機能自閉症/アスペルガー症候群に関しては、ちょっと事
 情が違います。文献リストで確認できる限り、この本以前に高機能自閉症/アスペル
 ガー症候群について読みたいと思った人は、U.フリス編著『自閉症とアスペルガー
 症候群』やT.アトウッド著『ガイドブック アスペルガー症候群』といった翻訳書
 を読んでいたと思います。私もそうでした。両書とも内容的には非常に充実している
 本なのですが、一般の人が入門書として読む本としては、ちょっと重かったのではな
 いでしょうか(ハードカバーでページ数もかなりあるので重量的にも)? 高機能自
 閉症/アスペルガー症候群の分野にも、『のび太・ジャイアン症候群』に相当するわ
 かりやすい入門書が必要であり、親達、子ども達自身のためにも、一刻も早くこう
 いった本が提供されねばなりませんでした。

  そこへようやく出版されたのがこの本。定義はもちろん、認知の特性から来る子ど
 もの心理、そして、家庭や学校等での具体的な援助の方法等、親として知りたい情報
 が満載で、しかも、図やイラスト等も利用したわかりやすい表現で解説されていま
 す。執筆陣には、児童精神科の医師、セラピスト、言語聴覚士、小学校教諭と、医
 療、心理、教育の各方面の専門家が揃っており、解説書としても実用書としても、非
 常に豊かな内容となっています。特に学校等での援助に関しては、現役の先生ならで
 はの具体的な方法が示され、大変参考になるのではと思います。
 
  この本の目次を眺めてまず注目したのは、ADHDを「並存することの多い障害」
 の一つとして挙げていることでした。ADHD関連の本の多くは、DSM-IVの基準通
 り、高機能自閉症/アスペルガー症候群をADHDの「鑑別診断」の対象として取り
 上げており、専門医もこの基準に従って診断を下すことが多いようです。しかし、実
 際(私の知る限り)、自分の子はADHDと高機能自閉症/アスペルガー症候群の両
 方の症状をあわせ持っていると感じている親も少なくありません。白黒つけられない
 微妙な子というのは案外多いように思えます。
  この本では、DSM-IVの基準にに矛盾することを断ったうえで、ADHDを高機能自
 閉症/アスペルガー症候群と「並存することの多い障害」の一つとして取り上げ、並
 存する場合の注意点について解説されています。自閉症関連の本には珍しいことでは
 ありませんが、目次ではっきりと示されていることによって、並存もありということ
 がより明確に伝わってきます。ADHDの本から読み始めて混乱していた人にとって
 は、初めて納得できる説明を聞いたような気持ちになるのではと思います。

  高機能自閉症/アスペルガー症候群の子どもが成長するにつれて、親を最も悩ませ
 るのは、本人への「告知」の問題でしょう。いつ? どのように? といった告知の
 問題は、ADHDの場合よりもずっと深刻になってくると思います。この本では、こ
 うした告知の問題についても、きめこまかく書かれており、大変参考になります。
  この本では、告知を「医学心理学的治療」の中の「情報提供的アプローチ」として
 位置づけており、告知の意義や、具体的な事例、手順等について詳細に解説されてい
 ます。告知の意義(治療的意味)として、挙げられているのは次の3点であり、告知
 の好機をむかえ戸惑う親にとっては、大いに励まされる内容だと思います。
  ・子ども自身が納得して医師のもとを訪れるために(治療契約)
  ・不適切な罪悪感をもたないために(自己肯定感への寄与)
  ・自分の特性への対応技術の向上のために
  さらには、危険性、ケースバイケースの告知の是非についても触れられ、告知の問
 題の微妙さ、難しさ、生じ得る新たな問題等についても配慮を促しています。
  告知の問題に関しては、家庭教育に関する章で、「自分が他の個の違う、どこか変
 だと言いはじめたときには」の解答として再び取り上げられています。とても参考に
 なるアドバイスが提供されており、これがなかなか心に染みるものでもあるので、一
 部を引用します。

  子どもが自分自身に気づきはじめたら、隠そうとしたり、気やすめを言ったりして
 はいけません。子どもの年齢やことばの理解力に応じて、きちんと話をする必要があ
 ります。必ずしも親が話すのではなく、主治医や通級の先生などと相談しながら一番
 適切な人が話すとよいでしょう。子どもにとってはとてもショックなことかも知れま
 せん。あとの心のケアが重要で、これも関係者が話し合ってすすめましょう。子ども
 の傷つきを少なくし、スムーズに障害を受け入れられるようにするには、その土壌づ
 くりが必要です。(中略)子どもを肯定的に受けとめ、子ども自身に自分のよさを認
 識させることができるよう、幼いときから留意する必要があります。(p.138)
 
  わかりにくい子ども、微妙な子どもを育てている親にとっては、毎日がわからない
 ことの連続で、そのために、絶えず混乱し、悩み、傷ついています。こうした子ども
 の親達にとって、頭の中をすっきりと整理してくれるわかりやすい本に出逢うこと、
 その中で道を開いてくれる一節に出逢うことは、何よりの心の癒しとなるはずです。
(Auticia)
                                  
   『高機能自閉症・アスペルガー症候群入門』        −正しい理解と対応のために−    内山登紀夫・水野薫・吉田友子著, 中央法規出版, 2002年, A5版, 225頁, \2000,    ISBN4-8058-2185-X.  【目 次】  本書では、診断概念の説明(第1章1、2)以外の箇所において、「高機能自閉症」  という用語を「アスペルガー症候群」を含む概念として使用しています。  はじめに  第1章 高機能自閉症・アスペルガー症候群とは何か−医学的理解と治療    1.高機能自閉症・アスペルガー症候群とは       高機能自閉症・アスペルガー症候群・古典的自閉症       高機能自閉症・アスペルガー症候群についてのさまざまなとらえ方    2.自閉症スペクトラムの基本症状       社会性の障害       コミュニケーションの障害       想像力の障害    3.高機能自閉症の随伴症状       感覚異常       運動の異常       多動       そのほか随伴しやすい行動特性       脳障害       てんかん    4.自閉症の疫学       自閉症の有病率       遺伝的要因       高機能自閉症の予後    5.高機能自閉症に並存することの多い障害       AD/HD[注意欠陥/多動性障害、多動性障害、多動症候群]       学習障害[LD]       トゥレット障害[チック]    6.高機能自閉症の医学心理学的治療       薬物療法       行動療法       TEACCHメソッド       情報提供的アプローチ  第2章 高機能自閉症の子どもの心理    1.認知の特徴と高機能自閉症       認知とは       認知を支える情報処理様式       記憶の役割       認知能力はどうやって把握するか       認知障害のために起こる症状       認知の障害を把握するためには    2.社会性とコミュニケーションの障害       他者の感じ方や考えを理解することの困難       コミュニケーションの障害       「心の理論」の障害  第3章 高機能自閉症の子どもの家庭教育       人に不快感を与えないことば遣いができるようにする       礼儀作法を身につけさせる       家族の団らんに加わらせる       兄弟姉妹との関係を安定したものにする       効果的な勉強のしかたを考える       変わった興昧・関心をどこまで許すか       知的な好奇心を伸ばす、広げる       整理整頓や身だしなみをきちんとさせるには       性への関心にどう対処するか       自分がほかの子と違う、どこか変だと言いはじめたときには       友達づきあいをうまくやっていくには       規則的な生活を送らせるためには       電話の応対や留守番、伝言などができるようにする       近所の人との上手なかかわり方は       まとめにかえて−−家庭と学校(園)との連携のために  第4章 高機能自閉症の子どもへの保育・教育    1.幼稚園、保育園、小学校での高機能自閉症の子どもの特徴       高機能自閉症の子どもの人間関係の特徴       高機能自閉症の子どもの困った行動    2.幼稚園・保育園での高機能自閉症の子どもの指導       早期の適切な対応が決め手       保育者のかかわりのポイント       保護者へのかかわりのポイント    3.小学校での高機能自閉症の子どもの指導       高機能自閉症の子どもの学習指導       高機能自閉症の子どもの生活指導       ソーシャル・スキルの向上       言語・コミュニケーション能力の向上       障害の自己理解の指導       高機能自閉症の子どもの教育の場    4.幼稚園、保育園、小学校における高機能自閉症の子どもの発見と対応       高機能自閉症かなと思ったら       高機能自閉症の子どもへの対応をはじめるには       専門機関を勧めるにあたって  参考文献  執筆者一覧 








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