4
「んだば、これを各家庭に配布して、駅に何部か置いとくことにすっべ」
「んーだ!」
ちょっ・・・ちょっと待ってよ。
できたと思うから見てくださいと、持って行ったら、
村長さんときたら、見もしないでいきなり、
今日の何時から臨時村議会だべ! と、
緊急議員連絡板を回してしまった。
小学四年生の子どもが書いたものを、大人がチェックしなくてもいいの?
しかも、ぼくが書いたノートを破いて、
そのまま印刷原稿にしてしまった。
そして、資料ができあがらないうちにもう、
議員さんたちは集まってきている。
しかたがないから、ぼくもホッチキスでとめるのを手伝った。
いいんだろうか? これで?
色々聞かれるんだろうな、みんなに。
ちゃんと答えられるんだろうか?
「んだば、反対意見がなければ、これを各家庭に配布すっべ」
「んーっだ!」
村長さんの熱気に押されたのか、
臨時村議会が開会されてから、三分もたたないうちに、
もう可決してしまった。
「アキラはすんごい!」
「大した子どもだ!」
「村のほこりだべ!」
と、みんながぼくをほめてくれた。
でも、ちょっと複雑な気分だった。
せっかくの村議会だから、議論とか、検討とか、しなくてもいいの?
なんか、ノリだけで決めちゃってるんじゃないか?
そこへ駅長さんが手を上げた。
「ちょっと待ってください!」
ちょっとドキッとしたけど、ぼくは正直ホッとした。
駅長さんは、はっきりと言った。
「あのですな、14番と16番の表現に問題ありですな。
『一つ一つの玉にすごいパワーが入っていて、うっかり使い方をまちがえたら
どうなるかわからない。』
それと、
『次元のちがう宇宙に行けるような理論と公式を考えて、本当に行ってしまうくらいに』
この二箇所は、削除したほうがいいのでは?」
「なんでだべ?」
「アキラ君の想像力が素晴らしいのはわかりますが、
これは実用マニュアルでして、
このような非現実的な記述は避けるべきですな、常識的に考えて」
「いんや」
村長さんが言った。
「このまんまでいいべ。このまんまで。おもしれえ」
「んーだ!」
そのままでいいということで、可決。
「んで、アキラ」
「はい」
「もう一つ加えてほしいべ」
村長さんが言った。何だろう? もう一つって?
「こないだのあの日みたいなことになったとき、どうすればいいべ?」
こないだのあの日と言われても、わかんないよ。
「えっと、何日だったべか? 5月の・・・」
「29日だべ」
議員さんの一人が言った。ああ、あのこと・・・
「そうだ、あの5月29日のことみたいになったら、どうするんだ?」
駅長さんも言った。
「あげなことになったときゃ、どうすりゃいいべ?」
村長さんが聞いた。
「んーだ、んーっだ。ありゃあ困るべ。
他のことはどってこたあないが、あれだけは困る」
「あげなときゃ、どうすりゃいいべ?」
みんながぼくを見た。どうしよう・・・
「あの、わかりません」
5
みんなが日にちまで覚えている。
それもそのはず、あの日、けんちゃんは朝から、
「今日は5月29日です。今日は5月29日です」
と、そればかり言っていた。
けんちゃんは朝から何だか様子がおかしかった。
運転室にいるときも、おどおど ビクビクしていた。
その日は雨で、暗くて、そして、雷が鳴った。
ぼくとタケシとミヨちゃんは、学校帰りの汽車に乗っていた。
とちゅうまで、けんちゃんはいつもと同じように運転していた。
「今日は5月29日です。今日は5月29日です」
と言いながら。
ところが、突然、雷が鳴った。
ピカッと光って、少し後にゴロゴロ ドーン!と近くに落ちた。
そのとたん、運転室からすごい声が聞こえた。
「うわあああああああ!!」
雷をこわがっているミヨちゃんをタケシにまかせて行ってみると、
けんちゃんはマスコからもブレーキからも手をはなして、
両手で耳をおさえてうずくまっている。
足をどんどん踏み鳴らして、「うわあああ! うわあああ!!」と声をあげながら。
汽車は惰行運転で、線路の上をまっすぐ走ってるからとりあえずは心配ないけど。
「どうしたの?」
ぼくは、運転室に入って行って、けんちゃんの手を引っぱって立ち上がらせようとした。
そのときまた、雷が鳴った。
けんちゃんはまた、すごい声をあげた。
「ねえ、もうすぐなかの駅だけど」
けんちゃんにぼくの声は聞こえない。
そっと肩に手をふれると、ビクッとして立ち上がって、
今度は窓ガラスを両手のこぶしでどんどんたたいた。
いっそう大きな声をあげながら。
「どうしたの? 雷がこわいの? だいじょうぶだよ。
手をさわるよ。そろそろ右手をブレーキに・・・」
側に来ると、けんちゃんは、ぼくの体を思いきり突き飛ばした。
ぼくは壁に突き出している何かに頭をぶつけた。
たいしたことはなかったけど、少し頭から血が出た。
血を見ると、けんちゃんはまた、すごい声をあげた。
けんちゃんは泣いていた。
きげんを悪くした赤ちゃんよりもひどく、大声で泣きじゃくった。
ぼくが突き飛ばされたものだから、
一号車に乗っていた大人の人たちがやって来て、
「なんてことすっべ?!」
と、けんちゃんをなじった。
それでもけんちゃんは、
窓ガラスをどんどんやりながら 泣いているばかりだった。
そのうち頭までぶつけだしたので、本当にガラスが割れそうだった。
大人の人が止めようとしたが、やっぱり突き飛ばされた。
何人もの人が来て、けんちゃんを落ち着かせようとしたけど、
少しでも近づいたら、みんながどーんと突き飛ばされた。
けんちゃんは力が強いので、思いっきりやられたら、痛い。けがもする。
けんちゃんが突然泣き出すのは初めてではなかったから、
今度も何とかなるだろうと思っていた。
朝市列車のときも持ち直してちゃんと時間通りに運転できたし、
かんしゃく玉のときも、ちゃんと心を落ち着かせることができた。
でも、今度のは、今までのとはちょっとちがう。
けんちゃんが運転もできなくなるなんて。
なかの駅はとっくに通り過ぎていた。
もうすぐ終点なのに けんちゃんはもう運転どころではない。
スピードもずっとそのままだ。
いつもならもうスピードを落としているはずなのに。
けんちゃんは落ち着きそうにない。
どうするんだよ? 止まってよ。けんちゃん!!
みどりの駅が見えてきた。
「駅だよ けんちゃん、終点だよ!」
でも、だめだ。
そのとき、運悪くまた雷が光って鳴って落ちた。
けんちゃんは大声を出して、泣いて、あばれている。
大人の人達が三人がかりで、必死にけんちゃんを落ち着かせようとしている。
それでもけんちゃんは、だれかが何か言うほどに、
だれかが体をおさえるほどに、ひどくあばれた。
もう、だめだ!
汽車は止まれない。ぶつかる!
そのとき、ミヨちゃんの声が聞こえた。
「アキラくん、おねがい!」
ぼくはとっさに運転席について、マスコンハンドルとブレーキを握った。
やらなければ、死ぬかもしれない。
ええい、止まればいいんだ。止まれば!
ええっと、マスコンハンドルで減速して、ブレーキを作動させる。
・・・あれっ? なぜだか手が自然に動く。
そういえば、ぼくはちょうど、けんちゃんに運転の特訓を受けていたところだったんだ。
もちろん、止まり方も。
「運転のしかた、教えて」
と、何の気なしに言ってみた。
運転のことなら、何でもしゃべってくれるってわかっていたから。
でも、すぐに、言うんじゃなかったと後悔した。
けんちゃんは、それはそれは真剣に教えてくれた。うんざりするほど。
「ちがう、そうじゃない!」
と、何度も何度もしつこく練習させられた。
きびしいんだよ。ハンドルのにぎり方、ブレーキのかけ方 ひとつひとつに
けんちゃん流のやり方というものがあって、少しでも順番をまちがえたら
少しでも手つきが悪かったら、「ちがう、やり直し!」と何度もやらされた。
ぼくはいいかげんにあきてしまい、もう運転なんてどうでもよくなった。
それでも、それから毎日、学校帰りの汽車がみどりの駅についてから30分間、
みっちりしごかれた。もちろん、汽車は止めたままでだけど。
いやになって、逃げようとしたら、ぐいっと手をつかまれて、また練習させられた。
今日こそは逃げてやろうと心に決めていたけど、
まさか、「実習」するハメになるなんて。
汽車は止まった。けんちゃんのようにうまくはいかない。
がくんと急停車してしまった。
それでもとにかく止まった。
みんながほっとした。
ミヨちゃんが運転室に入ってきた。
ぼくはやったよ! すごいだろう?
ところが、ミヨちゃんはぼくのことなんか無視して、けんちゃんに言ったんだ。
「だいじょうぶよ。ちゃんと止まったから」
急停車のショックか、けんちゃんはようやく落ち着いていた。
どうやら雷もおさまったらしい。
「だめだ。ブレーキの使い方が雑すぎる」
ぼくはちょっとムッとしたけど、
いつものけんちゃんに戻ったみたいなので安心した。
「そうだね」
みんな、やれやれという感じで、汽車をおりた。
すぐに駅長さんがとんできた。
駅長さんは、いきなり、
「どういうことなんだ? なかの駅で止まらなかったんだって?」
と、大きな声でけんちゃんをしかった。
だめだよ、そんな大声で言ったら、せっかく落ち着いたのに、
ああ、また涙がこぼれてきた。
けんちゃんは、
「止まらなかった! 止まらなかった! 失敗した! 失敗した!」
と言って泣いた。そして、
「4時26分! 早すぎた! 早すぎた!」
と、いっそう大きな声をあげて、泣きじゃくった。
「泣くな! 自分が悪いんだ!
大人のくせに、男のくせに、泣くんじゃない!」
そっとしておいてあげればいいのに、駅長さんがまたどなった。
けんちゃんは、突っ伏して大泣きした。
次の発車時刻まで、けんちゃんは泣きやまなかった。
その日のことにはまだ続きがある。
駅長さんもけんちゃんがかわいそうになったのか、
「今日の後の便は運行停止にする。もう帰って休め」
と言った。
でも、けんちゃんは聞き分けない。
やだ、やだ、次はちゃんとやる!と言ってゆずらない。
結局、「人命をあずかる」仕事だし、何かあったら大変だからということで、
駅の人と、近くを通りかかった男の人達が六人がかりで、
けんちゃんを力ずくで 駅長さんの家に連れて行って、
鍵のかかる部屋に閉じ込めた。
けんちゃんが寝泊りしている仮眠室には外から鍵が掛けられないし、
ぜったい戻ってきて発車してしまうにちがいないから、
しかたなく連れて行ったと駅長さんは言い訳したけど、
こんなやり方って、ひどいよ、あんまりだよ。
大人はみんな、仕方がない、あんな状態で運転されちゃ困る、
駅長さんの判断は正しいって言うんだけど、
ぼくはやっぱりひどいと思う。
けんちゃんは、ちゃんとやると言っていた。
もう雷は鳴っていないし、ちゃんとやれたはずだ。
6
再び村議会。
ぼくは、正直に「わかりません」と言った。
けんちゃんが運転中に大泣きしてあばれ出したら、どうしたらいいのか?
ぼくにもよくわからなかった。しかったりしたら余計に泣き出すし、
無理に体をおさえようとするのも無理だ。そっとしておいてあげるしかない。
でも、運転中にまたあんなことになったら・・・?
「わからないとはどういうことだ?」
駅長さんが言った。
「あんたはわかるんか?」
村長さんが言った。
「いやあ・・・、わからんから、こうしてここにアキラに来てもらっとるわけで」
「大人が頭を使わずに、四年生の子どもに考えさせるっつーのも情けねえべな。
この機会に、みんなで考えてみっべ」
「んーーーーーっだ!」
議員さんたちは、頭をひねった。
でも、ものの五分もたたないのに、村長さんは言った。
「こんなに考えても、わかんねえものは、わかんねえだ。
人間っつーのは複雑なもんで、考えても結論が出んこともあるべ。
とりあえず、あげなことにならんようにしてやればいい。
それと、アキラの言うとおり、ああなっても、おこっちゃいかん。
けんちゃんのせいじゃないべ。
なんかこう、複雑なもんがこんがらがって、からみあって、
それで、なんかがきっかけで出てくるんだべ」
「それでは、天気予報が雷の日は運行休止にするということですか?」
駅長さんが聞いた。
「んだ、しかたないべな」
「ちょっと待ってください」
ぼくは言わずにいられなかった。
「運転中にああなったのは、あのとき一度きりです。
その前にも、後にも、雷が鳴ったことはあったけど、
けんちゃんは、大丈夫だった。
駅に止まっているときには、声をあげたりもしていたけど、
走らせてしまえば聞こえないみたいでした。
あの日だけです。5月29日」
「5月29日・・・」
「そう、5月29日だけ。あの日だけは、朝から変でした」
「5月29日っつーと、何の日だべか?」
議員さん達はまた頭をひねった。
そして、突然、駅長さんが、みんながびっくるするほどの大きな声で
「おんもい出した!」
と言った。
「5月29日っつーと、横浜大空襲の日だべ」
「でも、まさか、それを思い出してってこっちゃないでしょう?」
駅長さんが言った。
「彼は昭和十九年の九月生まれです。昭和二十年の五月のことをまさか
覚えとることはないでしょうな」
「んーっだ、んーっだ!」
議員さんたちは言った。
「空襲っつーと、わしも東京で大変な目に合ったが、とても全部は覚えとられん。
ちったあ、忘れねば生きていけんべ」
「んーっだ、んーっだ」
「そりゃあ、あれから何年かは、雷のたんび、花火のたんびに思い出す人もいたべ。
でも、戦争が終わってから、もう二十二年もたったんだべ。
今っころまで引きずっとっちゃあ生きていけん」
「んーっだ、んーっだ」
「もはや戦後ではないと言われて久しい今、
昭和二十年の五月二十九日を思い出して、ああなるっつーことはないでしょう。
もっとも、彼が覚えているはずもないが」
駅長さんがしめくくった。
そうだよね。おぼえているはずがない。
そんな、赤ちゃんのときのこと。
いや、けんちゃんなら、わからない。
けんちゃんはぼくたちとはちがうんだ。
けんちゃんなら、そういうこともありうるのかもしれない。
二十二年も前の戦争のことが忘れられなくて、何かのきっかけがあるたびに思い出して、
生きてゆけないほどの苦しみを感じているのだとしたら・・・?
「その人にはやさしくしてあげなさい」
ぼくは、公園で駄菓子屋のおじいさんが言った言葉を思い出した。
結局―
ぼくが書いた17番まではそのまま採用(いいのかなあ?)。
そして、18番にけんちゃんが大変なことになったときのことを、
今話し合ったことを参考に考えて(ぼくが)つけ加える
ということで可決した。
今話し合ったことって? 結論が出てないじゃないか。
あとは小学四年生のぼくにまかせるって?
いいかげんな村議会だなあ! 大ざっぱすぎるよ。
「本当に、アキラはすごい子どもだ。村の誇りだべ!
おらのことも手引書つくってもらって、各家庭に配布すっか?」
「んーっだ、んーーっだ! それがいいべ」
議員さんたちは爆笑した。
なんて明るい、なんて大ざっぱな村議会なんだ!
こういう大ざっぱさは村長さんのカラーで、
それにみんながすっかりそまってしまっている。
駅長さん一人ががんばってみても、どうしようもない。
でもね、こういう大ざっぱのおかげで、ぼくらの村はみんな楽しくやっている。
色々困ったことは起こるけど、何とか明るく乗り切ることができる。
細かいことにはこだわらない!
いやなことは忘れる!
できないことはできる人にまかせる!
それで、ぼくらの村は貧ぼうだけど、そんなことも気にならないくらい、
毎日 楽しくやっているんだ。
でも、けんちゃんは?
ついでに、けんちゃんの夏休みの旅行のことまで可決してしまった。
けんちゃんと、村長さんと、ぼくの三人で行く。
行き先はけんちゃんが決める。
ぼくと村長さんは、けんちゃんが困らないようにめんどうをみること。
旅費は、村長さんとぼくの分は村長さんが出す、
けんちゃんの分は、今までのほとんど使ってないお給料から出す、
それと、村から今まで「がんばってくれてありがとう」という気持ちをこめて
「ちびっとだけど」おこづかいを出すということまで可決した。
村長さんは、どうしても一緒に行きたいらしい。
「アキラ、村長さんのめんどうもしっかりたのむべ」
議員さんが言った。一同爆笑。
これにて、臨時村議会 閉会。
解散しかけたとき、
「ちょっと、待ったあ!」
村長さんがいきなりまた大声で言った。
「すんばらしいアイデアを考えついただんべ!」
議員さんは席にもどって村長さんの話を聞くことになった。
「汽車の止め方の講習をやるべ。
アキラにできたんだから、大人にできないはずはないべ。
今日からでもすぐにやるべ!
それと、運転室には、もしものときの止め方を書いた紙をはっておくべ。
何かあっても、止まりさえすりゃあ、死にゃあせん」
「し、しかし、それは・・・」
駅長さんが口をはさんだ。
「何だべ? 駅長さん、他に考えがあるべか?」
「いや、本来ならですな、こういう場合、
駅の方で、責任持ってもう一人乗務員を乗車させねばならんのです。
緊急時の停車方法を心得ている者を車掌として。
でも、実際問題、人員不足でして、ワンマン運転でないとどうも・・・」
駅長さんは、申し訳なさそうに言った。
そうなんだ。
大体、運転できる人が一人しかいないのに鉄道を運営するということ自体が
無謀なことで、それは、ゴンタおじさんのときから、皆がわかっていた。
ゴンタおじさんが復帰したら、運転士さんは二人になるので、
その問題はとりあえず解決される。
「つーこって、駅長さんも賛成したみたいだべ。
んーっだ。この機会に皆で汽車の止め方を覚えるべ。
アキラにできたのだから、できるはずだ。
止まりさえすりゃあいい。止まりさえすりゃあ死にゃあせん」
んーっだ! と、せっかく可決しかけたところだが、
「講習」で教えるなんて、けんちゃんにできるはずがない。
やっぱり言っておかなくては。
「ちょっと、待ってください!」
「何だべ? アキラ」
駅長さんの言うことはろくに聞いてあげなかったのに、
ぼくの言うことは聞いてくれるらしい。
「あの、講習って、だれが教えるんですか?
けんちゃんには、無理です。講習会とかで、大勢の人に教えるのは」
「でも、アキラは、けんちゃんに習って、ちゃんとできたわけだべ」
「教えてって言ってみたら、しつこいくらいに教えてくれたから。
いやになるほどのしつっこさだから、覚えられたんだけど。
・・・けんちゃんも、一人ずつに教えるのは大丈夫だと思います」
「講習会は、ゴンタさんにやってもらおうと思っとったが、
実際、いつできるかわかんねえべ。
んだべか、しつっこく教えてくれるんだべか・・・」
「はい、それはもう。
教えてって言ったら、今日にでも、すぐにでも教えてくれると思います」
「んーっだ、わかった! そのへんのとこも、書いといてくれや。
一応、ゴンタさんが復帰次第、講習会はやってもらうが、
しつっこく教えてくれるんなら、教えてもらえばいいべ」
「んーっだ!」
可決。
それで、ようやく臨時村議会は閉会になった。
はっきり言って、村役場の会議室は暑い。
みんなもう限界だった。
村役場を出ると、議員さん達がホースで水をかけ合ってわいわいやっていた。
そこへ、近所のおばさんが大きなすいかを持ってきてくれた。
おばさんが包丁で切ろうとすると、
「ちょっと、待ったあ!」
と村長さんがやってきた。
「アキラも入るべ」
と言うから、おじさん達の輪に入れてもらい、みんなでじゃんけんをした。
ぼくが勝った。
「よっしゃ!」
と、村長さんがぼくに目隠しをして棒を渡した。
「え?」
「すいか割りだべ」
「ええっ? こんなところで?」
村議員さんたちが、アキラ! アキラ! と手拍子ではやし立てるので、
付き合ってあげるしかない。
ぼくは見事にすいかを割った。大拍手!
それでみんなですいかを食べた。
通りかかった子どもたちにも分けてあげた。
すいかはそれほど冷えてはいなかったけど、甘くておいしかった。
これでいい。
じきに、「手引書」が各家庭に配布されて、
みんながもっとけんちゃんのことを考えてくれるようになる。
そして、「もしものとき」の汽車の止め方をみんながわかるようになれば、
けんちゃんが大変なことになったときも、何とかなる。
けんちゃんには運転はまかせられないなんてことを言われることもない。
よかった、よかった。
何かを成しとげた後のすいかって、こんなにおいしく食べられるんだ。
18.けんちゃんは時々、大変なことになる。
前にも書いたけど、ぼくらが見ているかぎり何でもないことで、
すごい悲鳴をあげたり、大泣きしたりする。
壁やガラスをたたいたり、そばにある物を投げつけたり、
こわしたりするかも知れない。
助けようとして体にさわった人や、
たまたま近くにいた人を突き飛ばすこともあるかも知れない。
どうしてそんなことになるのかわからないし、
どうしたら気持ちを落ち着かせてあげられるかも わからない。
こんなとき、どうしたらいいのか、
みんなで考えていかなければならないのだろう。
いいやり方があったら教えてほしい。
こんなときでも、お願いだから、けんちゃんのこと おこらないで。
たたかれて痛くても、どうか我慢してあげてほしい。
けんちゃんはたぶん、もっと痛いんだ。苦しいんだ。
そして、自分で自分をどうしようもない。
そっとしておいてあげるのがいいかもしれない。
ちょっとはなれた所で、見ていてあげるのがいいのかも知れない。
もし、運転中に何かあったら、ぼくが乗っていたらぼくを呼んで。
ぼくが汽車を止めてあげる。大人の人で、汽車によく乗る人は、
けんちゃんに「止め方を教えて」と、言ってみるといい。
しつっこいくらい一生けんめいに教えてくれるから、ぜったいに覚えられる。
そのときは、一人ずつにしてね。
一度に二人以上の人に教えるのは、ちょっとムリ。
ついでに・・・朝市列車のときに気をつけること
1.野菜などは、必ず後の車両に全部乗せる。
2.人は前の車両に乗ってもいいいけど、手をよく洗って、
土や畑のにおいをよく落としておくこと。
3.野菜をおろすのは、けんちゃんが汽車をおりて、別のホームに行ってからにすること。
4.野菜をおろしたら、窓を全部開け、そうじをして、汽車の中をきれいにしておくこと。
野菜や土のにおいが残ってはだめ。
5.発車時間が変わるときには、前の日に言っておくこと。
そして、帰りの発車時刻を書いて運転室に貼っておくこと。
色々書いたけど、けんちゃんの友だちとしてのぼくからのお願いです。
無理なことも言ったかも知れないけれど、どうかよろしくお願いします。
けんちゃんが、この村で少しでも生きやすくなるように。
みんなもよく知っている通り、けんちゃんはすごくいい人なんです。
昭和42年8月 三輪アキラ
(つづく…)