卒論・修論 課題設定の考え方(研究テーマの決め方)


課題(研究テーマ)をどう立てるか


“ここでは、卒論や修論における課題設定(研究テーマ決定)について、できればこうしたらよいのではないかという提案をまとめてみました。もっとも、卒業論文や修士論文の作成でこうやったら必ずうまくいくというような既成のハウツーや決まった手順はありません。以下の提案はテーマを学生・院生が自ら立てる場合の助言(アドバイス)です。ガイドや手引きの一種ではあっても、論文作成のマニュアルではありません。なお、私見とは別の見解の人もいますので、これしかないと考えないほうがよいでしょう。”


0.はじめに---研究課題とは?

 年度当初に学生に「卒論のテーマを何にしたいか」と問うと、たとえば、「スローフードにしたい」とか、「コメの生産過剰問題についてやりたい」とかの様々な回答が返ってくる。多くの学生は特定のキーワードについては、概ねはっきりしたこだわりがあるようである。ところが、「それで、どんな問題に取り組みたいか」と尋ねると、明快な回答が得られることはあまりない。この状態は関心のある研究対象のイメージがあるだけであって、まだ、研究テーマや課題設定が設定できていない段階である。研究テーマや課題設定が明確になるというのは、注目する対象やキーワードが絞り込まれるということだけではなくて、具体的には、疑問文で表現される問題に関心を寄せることである。たとえば、「なぜコメの消費が減少しているのか」とか、「どうしたらスローフードがもっと普及するか」とかのような形になると、少しばかり研究テーマに近くなる。研究課題を立てるというのは、基本的には、自分が取り組む問題(解明すべき問題や解決すべき問題)を決めることである。普通は最初に立てた問題は大きすぎるのが通例で、徐々に課題を小さくしていく(テーマを絞っていく)ものだが、とりあえずは問題がないことには、始まらない。ただ、「スローフードについて勉強したい」では、卒論のテーマにはならない。仮に「私の研究課題は○○(たとえば、スローフード)です」というように対象だけをあげる学生がいるとすれば、その学生は研究課題とは何であるかを理解していないかもしれない。まずは問題意識を持つことが出発点である。

 


1.課題設定のタイプ

 望ましい課題設定の在り方の議論に入る前提として、そもそも課題設定には
どんなタイプがあるかを整理しておこう。
 課題設定のタイプには、大きく分けて次の3つの種類(A,B,C)がある。

A.「どうしたらよいか?」という問題を中
  心におくタイプ 

 「どうすべきか?」、あるいは「どうある
べきか?」という問題に答える課題。
現実の問題解決を目指す課題である。

 例:どうしたら過疎化を阻止できるか?

 ただし、その前提として、「どうなってい
るか?」(状況把握)と「なぜそうなってい
るか?」(原因追究)を踏まえるべきである。

 *問題解決型の研究には、設計・計画や
  ソフトウェア開発等のデザインの科学を
  含む。解決のための経験則を見いだす
  のであれば、認識研究になるが、解決
  のためのツール(手段)を生み出すか、
  改良するのであれば、開発研究になる。
 
      
B.「なぜそうなっているか?」という問題
  を中心におくタイプ

 因果関係を解明しようとする課題。

 認識研究(実在研究)の一種に位置づけ
られる。

  例:なぜ過疎化が起きるか?

 ふつうは「どうなっているか?」を把握して
から、「なぜそうなっているか?」を詰める。

このタイプでは次のことを心掛けるべき。
・なぜを説明する仮説を自分で立てること
・本格的な調査方法や分析技法を修得す
 ること
・「どうしたらよいか?」も考慮してもらい
 たいが、あくまで研究結果に基づくこと

 *ここでいう「なぜ」には作用因(アリス
  トテレスのいう動力因)だけでなくて
  目的因(ねらいや意図)も含む。
  自然科学では、通常は、原因には
  作用因だけを問題にするが、社会
  科学では、目的因も無視しない。

      
C.「どうなっているか?」という問題を中
  心におくタイプ 

 実態、状況を明らかにする課題。

 認識研究(実在研究)の一種に位置づけ
られる。

  例:ある地域で過疎化がどう進んだか?

 ファクトファインディング(事実発見)を行う
研究はこのタイプに属する。

 このタイプには因果関係の解明に繋がる
問題に取り組む課題も含まれる。そうした
問題で重要なものには、例えば次がある。

・「ある活動(政策、運動、選択・決定)が
 どのような影響をもたらすか」
・「ある環境や条件が人間(または経営)の
 行動をどのように規定しているか」
・「注目する効果がどのくらいあるか」
・「ある現象の内実はどのようになっている
 か」(=構成要素への分解=質料因)
・「ある現象が発現するメカニズムはどうな
 っているか」(=実質的には「なぜ」=作
 用因)
 *つまり、Cには因果関係解明型の
  研究も含まれる。

 ※認識研究および開発研究の意味に
  ついては「研究のアプローチの選択」
  のページを参照されたい。

 

2.課題の設定の仕方

 課題の設定の仕方には特に注意すべきである。もちろん、学生の自主性は尊重すべきで、農林業、農村、食料、生物資源に関するものならば、どんな題材、トピックスを選択してもかまわない。とはいえ、いい論文を書くには課題設定に工夫が必要である。解くべき問題は十分に明確(通常は1文の疑問文に書ける)で、実行可能(証拠入手や計量分析ができる)でないといけない。

 従来、新潟大の農経分野の卒論や修論では上記のCに属するテーマが選択されることが多かった。現場重視はよき伝統である。しかし、仮説検証や因果関係の解明もなく、現状紹介と問題点指摘にとどまってものが少なくない。論点や仮説が明確で焦点を絞ったものならば、Cのタイプの現状解明でも立派な研究になりうる。だが、Cのタイプの卒論や修論のほとんどは、残念ながら調査対象の素描や事例紹介の域を出ていない。

 ここでCのタイプの課題設定が望ましくないというつもりは毛頭ない。研究経験を積んだ者ならばCのタイプで事実発見型の研究を首尾よく実行しうるが、経験の浅い者がクリアな問題意識もなく現状だけ調べても論文とは別のジャンルのたんなるレポートしか残せないということを指摘したいだけである。

 そこで、たんなるレポートにならないようにするために、次のことを推奨する。

・学部学生には原則的に実証研究を勧め
 る。
・実証研究でも実態把握だけのCのタイプで
 は推奨しない。
 Cのタイプの課題の場合は、広い意味で
 因果関係の探求にあたる研究はよい。
 そうでない場合、問題意識が明確である
 (なぜその実態・現状に注目するのか、
 また、何を明らかにするために調査する
 のかをはっきり自覚している)ことが求め
 られる。
 因果関係解明型でないタイプCの課題
 であって、事例研究でヒアリング調査する
 方法の場合(実はこの種の課題と方法
 の組合せの卒論が最も多い)は、概要
 のルポや事例紹介に終りやすいので
 特段の注意が必要である。
・学部生にはAも選択肢として許容できる。
 現実の問題解決のために研究を役立て
 ほしいからである。ただし、実態把握と
 原因解明を忘れないこと。
・学部生で大学院進学希望者にはAよりB
 を勧める。Aを中心におくと本格的な社会
 科学の方法を学びにくいから。因果関係
 解明型に限ってCのタイプも歓迎。

 学部学生が実証研究以外に取り組むことはあまり勧めたくはない。特に手法改良が主課題になるのは勧めたくない。まずは、現実をよく知ってほしいからである。理論研究はそれを目指しても学説の勉強で終わりかねないので推奨しにくい。開発研究も否定しないが、現実の問題状況の把握が先にあるべき。

 大学院生には次のように考える。

・大学院生のテーマでAは望ましくない。
 解決の経験則解明の実証研究か、解決
 手段の開発研究として取り組むべき。
・Bのタイプは望ましい。
・Cのタイプで因果関係解明型でない課題
 は、極力避けるべきである。例外は、先行
 研究の整理に基づいて論点や仮説が
 明確である場合に限られる。やみくもに
 現状把握するだけでは許容されない。
・大学院生には実証研究以外にも、理論研
 究や手法研究も歓迎する。開発研究も可。

 

  大学院生の場合は、既存の研究蓄積を前提にして、何かしらオリジナルな研究成果になるような研究であることが望まれる。そうなると、課題設定は先行研究の限界点や弱点を乗り越えることを意図するようなものでなければならない。実証研究における課題設定では、「○○についての先行研究は××という点で限界があり、△△が十分にわかっていない。そこで××という問題を□□によって解決して△△について明らかにする」というのが常套のパターンになっている。基本的にはこのようなパターンに当てはまるような課題設定が望ましい。


3.おわりに

 学部生と大学院生に対してそれそれ課題設定の考え方(テーマの立て方) を示した。ただし、以上はあくまで教員としての「希望」であり、決して「指示」ではない。研究の課題の内容については、もちろん助言は惜しまないが、あくまで自己責任で決めることである。学部生・院生にも研究の自由がある限り、自己責任もセットになっているといえる。

              農学部 平泉光一 
              (農業経済学)

              初版   2002.01.15
              最終改訂2009.10.09

                   禁無断転載

 


前のページへ
前のページへ
トップページへ
トップページへ
次のページへ
次のページへ