論文の構成(目的・対象・方法・結果・考察・結語)


研究論文(学術論文)の構成とまとめ方

 
 “卒論(卒業論文)、修論(修士論文)に限らず、研究論文(学術論文)を構成するパートには、概ね基本形があります。ここでは、「目的」、「対象」、「方法」、「結果」、「考察」、「結語」という名称の6つのパート(章あるいはセクション)で論文を構成する仕方を説明します。”

 “ただし、実際の論文では各パートの区切り方(章立て)は次のように多種多様です。

「目的」の他に  
  研究目的 課題 はじめに 緒言 
  <問題意識・先行研究・仮説> <課題と方法>
「対象」の他に  
  調査対象 材料 データ <対象と方法> 
  対象を独立させずに方法のなかに記述する書き方も
「方法」の他に  
  分析方法 接近方法 
  分析の枠組みを独立させる例もある
「結果」の他に  
  調査結果 分析結果
  (内容に即した名称も少なくない) 
「考察」の他に  
  総合考察 <結果および考察> 
「結語」の他に  
  結び おわりに 摘要 総括

 パートの分け方や名称の許容幅は広いものの、まとめ方のポイントはほとんど変わりません。”

 “なお、ここでは論文の構成について要点を述べますが、これを読んだだけで論理的な筋立てをもった論文がかけるようになるわけではありません。材料(データ)があっても、論文の構成についての形式的な知識だけでは、論文をまとめるのは容易ではありません。実際の論文(それも優れた論文)を注意深く読み込んだ経験こそが、論文をまとめるための近道になります。論文を書く上で自分のとテーマや方法が近い実際の論文がもっとも優れた教材・お手本になります。以下の論文の構成に関する記述は、ガイドや指針ではあっても、論文作成のハウツーでもマニュアルでなく、それらの代わりになるわけではないことにご注意ください。”

*社会科学の論文作成を念頭においていますが、
 基本的には自然科学の論文と共通です。


1)「目的」のまとめ方

(1)問題意識を論じる

・冒頭に、研究上の問題(課題)の背景として、実際の社会の動向や現実の問題(政策、運動、経営上の課題)への関心・態度を冒頭に示した方がよい。ただし、意見の詳述は控える。純粋な自然科学の論文にはこの部分はないが、研究の意図や現実社会への関わり方を他者が理解するうえで、研究の背景の記述は意味をもっており、書かれていないと読み手にとって問題意識がわかりにくくなる。
 (現実の問題は研究の出発点であるが、それ自体は研究上の問題ではない)

・論文執筆にいたる個人的動機や興味を持つに至った経緯の記述は不要。

・問題意識の問題とは既存研究の一連の成果を振り返ってみての研究上の問題である。冒頭に挙げた現実の問題に関係した既往研究について問題をまとめるようにする(問題とはあるべき姿と現状の姿とのギャップで、改善すべき事態を意味する)。

・関心を持っている現実の問題に深い関わりのある先行研究の系列を整理・紹介してから、先行研究の到達点を確認する。

・研究のあるべき姿からみて先行研究の問題点(限界、欠漏)を指摘し、論点を開示する。
 (論点の着眼点の例:事実認識の当否、視点の置き方、理論の適用の仕方、研究対象の範囲、証拠の充実程度、方法・手法の妥当性、観測対象の選択等)

・論点開示では不当な論難、誹謗中傷はいけない。課題化しない論点も不要。

・実践で解決すべき現実の問題と、解明すべき研究上の問題とは峻別すべき。
 (いかに自給率を上げるか、いかにして環境と調和させるか等は現実の問題)

(2)研究課題を設定する

つぎに、(研究上の)問題意識を受けて研究課題(明らかにすべき問題)を設定する。

・論点に一定の決着をもたらすように(自ら指摘した先行研究の問題点を克服できるように)課題を設定する。(論点もなく実態はどうかという課題はよくない)

・叙述の仕方は様々でも、通常、研究課題は仮説の検証を目指す形態をとる。

・課題は限定しておく。絞り込む。一論文一課題。(課題が狭くなっても可)

・はっきりしない課題設定は誤解のもと。また、他人からちゃんと読んでもらえない。

・課題設定は当該分野の研究の発展・深化への積極的な提案でもあるべき。

(3)留意すべきこと

・「結果」や「考察」とのリンクを忘れてはならない。結論の伏線を張るのはよいが、ここで早まって結論を下さない。「目的」は「結果」や「考察」を書いてから、あらためて整合するように書き直す方がまとめやすい。

・「目的」を「課題」より上位に置く例もあるがここでは両者を区別していない。

・論文で想定する読者は新聞等と違って一般の読者でなくて、当該分野の研究者である。研究者への情報発信として纏めること。


2)「対象」および「方法」のまとめ方

(1)「対象」のまとめ方

・研究の材料・素材(=家族、組織、地区等の事例)の情報を整理・要約する。
  (ここでの「対象」とは観測対象で研究対象の1要素。研究対象は課題で設定。)

・地域概況等の観測対象の付帯情報は本来は「結果」に含まれない(例外はある)。しかしながら、この情報は結果に関連が深い情報であり、通例は周知の情報でもないので、結果に関連ある限りで必要な情報を厳選して載せておく。

・「対象」が短いときは「方法」と一括りでもよい(自然科学ではよくある)。この場合は、いわゆるIMRADになる。

・社会科学では調査対象の情報が多いので独立のパートとなるケースもあるが、自然科学系の論文と同様に「方法」の中で調査対象の情報を書いて「対象」のパートを独立させないこともできる。

(2)「方法」のまとめ方

・研究の手続きをかくさないでつまびらかにする(公開性:手の内を明かす)。
 分析で用いる重要な概念・指標や調査方法・分析手法の提示をおこなう。

・他者が追試できるように、再現できるように書く(手続きの客観性の保証)。
 ただし、要点を述べ、くどくどと書かないほうが良い。

・フレームワークやモデル、類型化については、独立したパートにしてもよい。

・簡潔に記述できるときは「課題と方法」のように一緒にしてもよい。


3)「結果」のまとめ方

(1)調査した事実、計算結果はありのままに書く

・結果は客観に徹する。都合の悪い結果をかくさないこと。事実を曲げないこと。

(2)できるかぎり簡潔にまとめる

・議論の筋立てに沿って叙述する。知っていることをすべて書くわけではない。 

(3)「結果」(事実やデータ、データの加工・変換)とその解釈を混同しない

・「結果」(調査結果や分析結果)は本来、解釈を挿む場所ではない。研究成果たる"結論"は解釈を要する(主観が入る)ので「考察」以降にまわす。

・「結果及び考察」もあり得るが、できる限り分離した方がよい。

(4)図表は研究成果を含むものに限定すること

・むやみに図表をふやさない。参考情報は図表化する必要はない。

(5)調査地・調査対象者の概要の記述の扱い

・本来「対象」に属するので概要を紹介する程度なら「結果」に置く必要はない。

・地域経済の特徴の議論等、なんらかの分析を行っているときは「結果」におく。

(6)「結果」はあくまで分析結果、調査結果

・「結果」はあくまで分析や調査の結果であって研究の"結論"ではない。


4)「考察」のまとめ方

(1)「考察」とはどのようなものか

・「考察」は結論を下す場
 "結論"は「考察」で言及される。「結果」をもとに何が分かったかを述べる。

・「考察」は仮説の成否を検討する場
 自ら設定した課題(目的)にどこまで接近できたかを論じる。

・「考察」は討論(discussion)の場
 潜在的反証者(仮想の論敵)を念頭において、反駁できるように討論を行う。

・「考察」は説得の場
 読者が納得するような議論の運び(レトリック)が必要。心証を誘導する。     (例:新発見ならば著者の驚きやその意外性を読者に伝えるようにする)

・「考察」は複眼的な思考や視点の転換を行う場
 調査・分析の結果からいったん抜けて、それを外から冷静に見つめる。

・「考察」は思慮と判断の場
 「結果」では"事実"と根拠のある"推定"まで。「考察」では"推察"も許される。

(#)「結果」は客観的でないといけないが、「考察」は必ずしも主観(筆者の判断)を排除しない。

(2)「考察」に含めるべき議論

以下の4種の議論をふくめるべき。 

・「結果」の解釈をめぐる議論

  調査、計算の結果の読み込んで洞察して解釈する。既存知見も援用してよい。

 ◎解釈では断片的事実から全体像を再構成することもある。推察も部分的に許容される(客観性や再現性を保持していて確度の高い推定や推測よりも推察は確度が落ちる)。「結果」で出した事実や推定をもとに現実世界の絵解きを行う。

・手続きの妥当性に関する議論

 手続き上、論証がどこまで成功しているか吟味する(必ず問題点・弱点はある)。(素材選定の偏り、方法に由来するバイアス、未分離要因の影響、推定精度等)
 
 ◎手続きに規定される認識の限界の自覚(ぎりぎりどこまでいえるか)。弱点への意図的言及と防御(自己弁護しておかないと突き崩されやすい)

・認識の普遍性に関する議論
                
次の3点について検討すべきである。

 知見は他でも通用するか。他事例も踏まえる。拡張できるか。 
    → "一般性の検討"

 認識の枠組みの偏りへの疑い。理論も一つの偏見としてみる。 
    → "現実性の検討"

 他の代替的見解・見方との対比。論敵を論破できるか。    
    → "優越性の検討"
   他人は別の解釈や反対解釈をするかもしれない。
   対立する解釈の排除が必要。看過できない
   (潜在的な)反証者・論敵・批判者への反論を
   議論に含めること。

・知見の意義に関する議論

 本稿の知見のどこに新規性があるか?、または、進歩性があるか?
 当該分野の認識がどう深まったか? 既存研究の限界をどう超えたか?

 ◎知見の研究上の意義(オリジナルティ)をアピールする(自己評価への言及)。

(#)議論に必要な事実関係の情報や方法の詳細は先行するパートに書いておく。「考察」は最も難しい。対象の情報と先行研究に詳しくないとうまくかけない。


5)「結語」のまとめ方


・全体の要約・主旨、提言等の含意、残された課題、研究の展望等を簡潔に記す。

・「結語」は結論を含みうるが結論を導くパートでないし、内容は結論だけでない。

・結論に至る立論の再整理、結論の意義を論じる場でもある。短い論文では省略可。


    新潟大学農学部 平泉 光一 <農業経済学>
 
     禁無断転載
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                 (最終改訂2012.10.01)
 

◎関連項目
「論文の「考察」の書き方」
これ以外にも論文作成に関するページを用意しています。

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