論文の「考察」の書き方



「考察」というパートで何を書くべきか


 “毎年のように、論文作成に取り組む学部生や院生から、「考察で何を書いたらいいかわからない」という声を聞きます。私には、どうしてそういう声があがるのか不思議な気がします。というのも、研究方法が自分のと同種の論文から良質のものを3本も読めば、論文を構成する各々のパートで何を書くべきかは自ずからわかるはずであるからです。「考察」の書き方も先行研究のフォローをきちんとすれば、副産物として自然に身に付くはずであって、本来は特別に取り上げて教えるべきことではないのかもしれません。”
 “とはいえ、「考察」がいちばん難しいパートであることはまちがいありません。論文の考察で何をどう書くべきかが分からなくて立ち往生したことのある人は少なくないでしょう。一度は壁にぶつかって試行錯誤をするのも、あながち無駄な経験ではないはずです。ですが、壁を前にして前に進めないままになっていては時間がもったいないので、ここに「考察」の執筆で参考となるように「考察」の要点についてメモを用意することにしました。”
 “ただし、学問に王道なしという諺の通りで、研究内容を抜きにして、こうやったら誰でも論文を書けるというマニュアルがつくれる訳ではありません。「考察」で書くべき項目が分かっても、書く中身が思いつかないこともあるでしょう。本稿は「考察」というパートはどうあるべきかについて考え方の「交通整理」を試みているに過ぎません。”

 “なお、以下では、実証研究の論文を
 目的 → 対象と方法 → 結果 → 考察 → 結語
という5つのパートで構成する前提で説明します。”

 “なお、「考察」というパートがどうあるべきかがわかると、他のパートの役割もはっきりしてくるはずです。論文を正しく構成するうえで「考察」はキーポイントとなります。”

*社会科学の論文作成を念頭においていますが、
 自然科学の論文と実質的にほぼ共通です。


1.「考察」の役割


 「考察」は、「結果」で示した調査結果や分析結果を吟味して結論にいたるまでの議論を展開するパートである(「考察」のパートは英文の論文では“discussion”という名称であって、文字通り議論する場である)。ここでいう結論とは、「目的」で設定した研究課題に対する答えである。結論は、「結果」から抽出した価値ある確かな情報(新知見が明示的に含まれることが求められる内容)であり、著者の判断が加わって導かれるものである。もちろん、情報の価値の有無・大小や確からしさは著者の責任で判断するしかない。考え方や判断力に個人差がある以上、「結果」から導くことができる結論は自明でなく、ある程度の幅があるはずである。むしろ、ある特定の調査や計算の結果に対して万人が全く同一の結論を導くことはほとんどないと言ってもよい。したがって、「考察」での議論のプロセスは結論の適切さを保証するうえで不可欠のプロセスとなる(取り上げている現象・対象への深い洞察と、既往の研究成果への十分な理解がないと、当を得た判断ができないことはいうまでもない)。

2.「考察」の内容


 「考察」で書くべきことは、通例、以下の5点である。ただし、下記の順番は論理的に問題がない限り入れ替わってよい。

A 「結果」(調査や分析の結果)を解釈して
  「目的」で述べられた研究課題への回答と
  なる諸命題を引き出す。
  (結論として何が分かったのかを示す。
      このAが「考察」の中核部分である。
   課題への回答としての命題には、既往の
   研究の限界を克服する方向での、独自の
   見解(新知見)が含まれるべきである。
   先行研究の知見の再説や研究者の常識
   の再確認では研究の価値無し。) 

B かかる命題の成立条件や限定範囲があれ
 ば但し書きをつける。
 (命題とその付帯条件が結論となる)

C  「対象と方法」で記述した、調査や分析の
 手続きについて弱点ないし誤解を生じやすい
 点があれば、補足説明をする。

D 自ら提起する新たな知見と先行研究との
 関係に言及する。

E 必要なら、得られた認識の含意(インプリ
 ケーション)を示す。
 (含意が認識でなくて政策や運動、経営等
  への提言ならば、次のパートの「結語」
  に譲るほうがよい)

3.「考察」の注意点


 「考察」を書く際には次の諸点に注意すべきである。

1) 研究課題と同等の一般化したレベルでの認識を示すこと。
 (特定対象の調査でも結論は特定対象に限定されてはいけない)

2) 調査や分析の結果から自動的に結論が導出されるわけではないので、洞察力を働かせて価値ある確かな情報を引き出すこと。

3) 仮説はどこまで立証できたか、また、論点にどのように決着をつけたか、について丁寧に議論すること。

4) 既存研究の成果もふまえて結果を解釈すること。

5) 潜在的な批判者に対して防御すること。 

6) 文言の選択には細心の注意を払うこと。

7) 立証の過程で論理の飛躍が起きないようにすること。

8) 「考察」で新たな事実提示や新規のデータ解析を行わないこと。
 (「考察」で吟味すべき材料は「結果」までに書いておく)

9) 研究課題と関係ない議論を不用意に展開しないこと。

10) 自ら提示した調査結果や分析結果を根拠としない命題を結論として打ち出さないこと
 (バックデータのない主張は慎む)

4.他のパートとの関係


 「考察」は「目的」で掲げた課題への答えを示す場であるから、「目的」に照応していなければならない。もし、「考察」で述べるところの、「結果」から得られた価値ある情報が「目的」で書いた研究課題への答えとしてどうしてもフィットしない場合は、「考察」でなくて「目的」の文言を修正することもありうる。

 「結果」で示される調査や分析の結果は、観測されたデータそのもの、あるいは、それを再現性のある方法で処理した加工されたデータであって、結論を支える根拠・材料だとしても結論そのものではない。「結果」を書いただけで結論を出したつもりになってはいけない。研究の結論(研究課題への回答)は「結果」でなくて「考察」での議論のなかではじめて明らかにされる(ちなみに最後の「結語」も結論を導き出すパートでない)。なお、「結果および考察」のように「結果」と「考察」を一緒にする場合もあり得るが、本来は「結果」と「考察」は別々の方が望ましい。

 研究の結論は原則的に「結語」でなく「考察」で最初に言及する。「考察」で得られた結論は次のパート(「結語」)であらためてまとめてもよいし、そうしないで考察で終わらせてもよい(短い論文では「結語」は省略可)。「結語」は、いわば追加的な総括であり、研究内容の要旨・整理と結論の確認、その含意、残された課題等からなり、研究成果の意義や限界を補足する役割もはたす。


    新潟大学農学部 平泉 光一 <農業経済学>

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       (2002.02.03初版 2013.02.26最終改訂)


◎関連項目
「 論文の構成(目的・対象・方法・結果・考察・結語) 」
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