天使について

 ビザンチンの神学僧は、イスラム軍に取り囲まれ、まさに陥ちなんとするとき、天使の性について議論していました。天使は男か女か?
 ご存じのように、フランス語は名詞にいちいち性別があります。天使ange(アーンジュ、だったら鈴木杏樹は鈴木天使って意味か!?)は男性名詞です、フランス語では天使は男ということなのでしょうか。
 そうは言いつつ、mon bel ange(モン ベラーンジュ)というと「私の可愛い人」という意味で女性に対して使います。
ま、どうもよくわかんない。
 絵画を見ると、天使は大体やさしい顔立ちをしています。女性的な容貌といってもよいでしょう。
 だから、先程のようなフランス語の表現が生まれるわけですが、これをご記憶くださいね。後程、
あっと驚くようなとんでもない天使の姿をご紹介しますから。
 しかしながら、大天使ミカエルは悪魔と闘うため、鎧兜姿で描かれることが多く、やや男性的です。槍を携えた天使をみたら、ミカエルと思って間違いないでしょう。
 ただし、男性的と言ってもあんまり髭面の天使というのは見たことがありません。ミカエルにしても雄々しいというよりは、凛々しいという感じに描かれます。凛々しいというのは、女性に使ってもおかしくないですからね。
 現在では、アンドロギュヌス(両性具有)といわれているようですが、今でも神学者は議論しているのではないでしょうか。
 ところで大天使って偉いんですか?という素朴な質問を受けたことがあります。
「大」と付いていれば普通そう思いますよねえ、当然そう考えるでしょう。
ミカエルは英語でマイケル富岡、フランス語でミシェル・クワン(アメリカのフィギュア代表じゃないか!すいません)、ドイツ語では当然ミハエル・シューマッハですね。
 ま、ずいぶんとポピュラーな名前です。ジョン・トラボルタ主演の映画「マイケル」は大天使が主人公でした。中年太りの天使が登場するという、ふざけた映画です。
 大天使はミカエルだけでなく、ガブリエル、ラファエル、ウリエル、ラゲル、サリエル、イェラミエルと7人います。
 天使には3大別のヒエラルキーがあり、それぞれがまた3段階に分かれています。すなわち全部で9段階。
 英語でいうと、9段階のヒエラルキーは上から@seraphim,熾天使Acherubim,智天使Bthrones,座天使Cdominations,主天使Dvirtues,力天使Epowers,能天使(決して能天気ではない)Fprincipalities,権天使Garchangels,大天使Hangels一般の天使、となっていて・・・、
大天使はarchangels、その第3群のヒエラルキーの真ん中ですから、トータルで上から8番目、下から2番目です。これが中世のもっとも一般的な分類でして、そうしてみると、あんまり偉いとはいえないでしょう。
この分類には、ほかにもヴァリアントがあります。DとFが逆、あるいはEとFが逆だったり、9段階ではなく7段階や11段階だったりです。
 暁の子という意味のルシフェル(ルシファー)は、もともとは第7番目のヒエラルキーに属する権天使でした。神の作った人間を認めず堕落させ、神と同じ奇跡を起こせると考えました。その傲慢により神ヤーウェ(エホバ)から追放され悪魔サタンとなりました。
 この辺は、キリスト教もイスラム教も同じようです。どっちもユダヤ教の系統ですからね。これも皆さんよくご存じでしょうが、あの仲の悪そうな3つの宗教は根っこで繋がってます。イスラム教では、キリストは預言者の一人で、最も偉大な預言者がマホメットなんです。(預言者ですからね、予言者じゃないです。神の言葉を預かる者だから預言者といいます。)
そーいやー現在のヒンズー教では、仏陀が神の一人に取り込まれてしまってます。
いかんいかん、話がそれちゃいました。天使の話に戻しましょう。
 実は人間と接触できるのは、3大別の第3群の低い位の天使たちなのです。マリアに受胎告知に訪れた大天使ガブリエルは、こう言いました。
「マドモアゼル・マリア
あなたは懐妊あそばした。
あなたは夫もないくせに
男のお子さん生みになる。
大きにお邪魔さまでした、
ごめんあそばせ・・・・・」
こう言って
天使が帰ってしまいます。
 え、ふざけてるって?とんでもない、これはジャン・コクトーの詩「村へ来た天使ガブリエル」の冒頭を堀口大学(学校じゃなくて人名です、念のため)が訳したものです。うーん、そうですね、私もふざけるんじゃないかって思いました、正直なところ。
 マリアにキリストの懐妊を告げる場面は、美術作品にも多く題材とされています。そこに描かれるガブリエルは、現代のわれわれが想像する常識的な姿でしょう。2枚の鳥のような翼をもった人の姿です。皆さんが思い浮かべる姿も大体おなじではないでしょうか。あるいは森永製菓のエンゼル・マークのような子供の姿で、やはり2枚の鳥のような翼を持っているとか。そのへんになってくると、ギリシャ神話の神アフロディテ(ローマではウェヌス=ヴィーナスは英語読み)の息子エロス(クピド=キューピッド)と混同されているような感じです。というか完全に混同してます。
 天使の翼は何枚でしょう。そりゃ2枚じゃなきゃ飛びにくくってしょうがないでしょうが。中世の絵画では6枚の翼を持った赤い天使がseraphimセラピム、4枚の翼を持った青い天使がcherubimケルビムということになっていました。6枚全部を羽ばたかせて飛んでたら忙しかったでしょうね。聖書には2枚で顔を覆い、2枚で足を隠し、残りの2枚で飛ぶとあります。
 後代に至り各天使の違いがだんだんわかんなくなって4枚翼の大天使も登場します。セラピム、ケルビムは、図案化されて装飾に使われることが多く、皆さんもちょっと注意してみるとあちこちで目にとまるものと思います。
 歴史の変遷とともに、天使の姿も変わってくるのでした。
じゃ、もともとはどーだったの?うーん、天使の故郷は、天国・・・じゃなくて、シリアやペルシャ、アッシリアといった地域のようです。キリスト教自身が、もとはユダヤ教ですからこれらの地域の影響を色濃く受けています。これらの地域で信仰されていた神や精霊がキリスト教に取り入れられ、あるものは天使に納まったと考えられます。ヒンズー教みたいな多神教だとそのまま神になってたんでしょうけど、一神教では、天使、精霊、妖精、妖怪、悪魔などになるしかないのでした。
 セラピム、ケルビムのアッシリアでの原形は、翼のある牡牛あるいは、人頭有翼、鷲頭有翼の牛だったようです。あるいは有翼の獅子、なーんてなると、もうスフィンクスと区別がつかなくなります。スフィンクスもいろいろ種類があって、有翼のライオンで女の頭をしたものがヨーロッパではポピュラーです。オエディプスに謎を解かれたのは、このタイプだったと思います。ナポレオンが鼻を吹き飛ばしたスフィンクスには翼がないですけど。
 それでは最後に、エゼキエルの幻に現れる
まるで地獄図絵のようなケルビム天使の姿をご紹介しましょう。
四箇の生き物からなり、四つの顔と四つの翼を有し、四つの顔はそれぞれ人間の顔、獅子の顔、牡牛の顔、鷲の顔をし、その生き物の形は熾れる炭火のごとく松明のごとし。四箇の顔の前に地の上に車あり。その車の形と作りは黄金色の玉のごとし。車の行く時は四方に行く。その車輪は高くして怖ろしくあり。車輪は四箇ともに皆ことごとく目あり。生き物の行く時はその傍らに行き、生き物の地を離れて上る時は車もまた上る。
な、な、なんという凶凶(まがまが)しい姿をしてるんだああああああ!エヴァンゲリオンの使徒と間違えてるんじゃありません。こんな姿が天使では、mon bel angeなんて言われた日にゃ、あなた怒り猛り狂うしかありません。(^^)/~~~

<追補>
じつは、こいつらは天使じゃありません。

皆さんよく見る絵だと思いますが、可愛い絵ですねえ。
フランス人の画家ブギュロー(Bougureau)が描いた「エロスとプシュケー」です。
ギリシャ神話に題材を取ったもので、蝶の羽を付けたプシュケーにエロスがキスをしているところ。
もともとはエロスは青年の姿をしていたのですが、ローマで美神アフロディーテ(ビーナス)の息子という面が強調されて子供の姿で表されることが多くなりました。
プシュケー(Psyche)は蝶の化身ですが、精神や霊魂を象徴しています。綴りからも分かりますが英語のサイコの語源になっています。
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