羅生門他事件

旧著作権法下において、映画の著作物の著作者は映画の全体的形成に創作的に関与したものであり、映画のスクリーンの表題部に続いて「監督黒澤明」と著作者の表示がある以上は、その保護期間は黒澤監督の死後38年間であるとされた事例
東京地裁 平一九(ワ)一一五三五、羅生門他事件、平一九・九・一四判決
(判時一九九六・一二三)
参照条文 著作権法一六条・二九条・一一二条・一一三条・附則七条

事案の概要
 大映株式会社(旧大映)は昭和24年に映画「静かなる決闘」(本件映画1)を、昭和25年に映画「羅生門」(本件映画2)を製作、公表した。監督はいずれも黒澤明監督であり、同監督は平成10年に死亡した。本件は、原告(角川映画)が、本件映画1及び2の著作権者であると主張し、本件映画1及び2を複製したDVD商品を輸入、販売する被告の行為が原告の著作権の侵害に当たるとして、当該商品の輸入、販売等の差止を求めたのに対して、被告が本件映画1及び2の著作権は存続期間満了によって消滅したと主張したものである。本件映画1及び2の著作権が黒澤明監督から旧大映に譲渡されたこと、旧大映から新大映に、新大映から原告にそれぞれ譲渡された点については特に争いがなく、もっぱら著作権の保護期間について争われた。
 
判決の要旨〔認容〕
(1) 著作者
   前提事実(2)のとおり、本件映画は独創性(旧著作権法二二条の三第二項)を有する映画の著作物であり、黒澤監督がその映画監督であり、本件映画の冒頭部分に「監督黒沢明」と表示されているところ、〔証拠略〕により認められる本件映画の内容を併せ考慮すれば、黒沢監督は、少なくとも本件映画の著作者の一人であることが認められる。
(2) 被告の主張に対する判断
  ア 撮影等を担当した者
    被告の主張が、撮影等を担当した者が著作者であると主張するものだとしても、上記(1)の認定は、黒澤監督は少なくとも本件映画の著作者の一人であるとするものであり、他に著作者がいる可能性を否定しているものではないところ、上記認定を左右するに足りる証拠はない。
  イ 旧大映
  (ア) 次に、被告の主張が、旧大映が著作者であると主張するものであるとして判断する。なお、被告の主張は、新著作権法一五条の職務著作に相当するものを主張するものではない。
  (イ) 確かに、映画の著作物は、映画製作者が、企業活動として、当初から映画の著作物を商品として流通させる目的で企画し、多額の製作費を投入して製作するものであり、その製作には脚本、音楽、制作、監督、演出、俳優、撮影、美術、録音、編集の担当者など多数の者が関与しており、その関与の範囲や程度も様々であるという特殊性を有する。しかし、著作者とは元来著作物を創作する者をいうから、映画利用の円滑化を図るために、映画製作者に著作権を帰属させる必要があるとしても、そのことから直ちに映画製作者が映画の著作物の著作者となると解することはできず、映画の著作物の著作者は、新著作権法一六条と同様に、映画の制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に関与した者であると解するのが相当である。
(中略)
(1) 旧著作権法の昭和六年改正に関与した小林尋次が「現行著作権法の立法理由と解釈―著作権法全文改正の資料として―」おいて、旧著作権法六条の規定が設けられた趣旨につき、「団体には自然の如く生死を考え得られないから、この場合も法律は、発行又は興行した時から三〇年間と言う短期保護期間を適用することにしている(著作権法第六条)。団体にも自然人の死に相当する解散ということが考えられるが、もし法人が解散しなければ保護期間は永久ということになって不合理であるから、上記の如き建前とせざるを得ないのである。」と説明しているとおり(争いのない事実)、旧著作権法六条は、団体名義で公表した場合には、自然人の生死を標準として存続期間を計算することができないために設けられた規定であることが認められる。
(2) 本件映画は、旧大映の社章と共に「大映株式會社製作」と表示され(前提事実(2)エ)、その専用系列映画館で旧大映製作の作品として公開されたものであることは、当事者間に争いがない。
    しかしながら、前提事実(2)エのとおり、本件映画の冒頭部分には、表題に続き、「監督 黒澤明」と表示されているから、著作者の実名で公表されたものであり、本件映画は、旧著作権法六条にいう団体名義の著作物に当たらない。
    したがって、本件映画の著作権の存続期限については、旧著作権法三条を適用すべきである。
    これに反する被告の主張は、到底採用することができない。
(3) 以上によれば、黒澤監督の死亡期は平成一〇年であるから(前提事実(2)オ)、旧著作権法三条、九条、五二条一項によると、本件映画の著作権は、少なくとも著作者の一人である黒澤監督の死亡した翌年である平成一一年から起算して三八年間存続するので、新著作権法附則七条、平成一五年改正附則三条により、旧著作権法の規定が適用され、本件映画の著作権は、少なくとも、平成四八年一二月三一日まで存続する。

解 説
1 旧著作権法における著作権の保護期間
  著作権の保護期間に関して、旧著作権法は、三条一項で「発行または興行したる著作物の著作権は著作者の生存間及びその死後三〇年間継続す」と規定し、さらに六条で「官公衛学校社寺協会会社その他団体に於て著作の名義を以て発行又は興行したる著作物の著作権は発行又は興行のときより三〇年間継続す」と定めています。つまり、団体名義で発行又は興行されなかった著作物は著作者の死後三〇年間、団体名義で発行又は興行した著作物は公表から三〇年間が保護期間とされています。旧六条の趣旨については、団体にも自然人の死に相当する解散がありうるが、保護期間を解散から30年間とすると団体が解散されなかったときは保護期間は永久ということになって不合理であるから、団体名義で発行又は興行された著作物については一律に発行又は興行のときより三〇年間としたと説明されています。
2 旧著作権法における映画の著作物の著作者
  現行著作権法では、映画の著作物の著作者は制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とし(一六条)、ただし、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、著作権は当該映画製作者に帰属する。としています(二九条)。ところが、旧著作権法では、映画の著作物の著作者、著作権者についてなんの定めもしていません。そこで、映画の著作物の著作者、著作権者が誰であるかが問題になり、映画製作者であるとする見解と、映画の製作に創作的に関与した者であるとする見解が対立していました。本判決は、現行著作権法の規定と同じように映画の製作に創作的に関与した者が著作者だとして、少なくとも黒澤明監督は本件映画の著作者の一人であるとしました。
3 本件映画は「団体に於いて著作の名義を以って発行又は興行した著作物」(旧法六条)
少なくとも黒澤監督が著作者の一人であるとしても、本件映画が旧大映名義で公開されたのであればその保護期間は旧著作権法六条の規定により公開後三〇年間となり、すでに存続期間が満了しています。本件映画は、冒頭に表題に続いて、「監督 黒澤明」と表示され、次に旧大映の社章とともに「大映株式會社」と表示されていました。そして、本判決は、「監督 黒澤明」と表示されたのだから著作者の実名で公表されたものであり、団体名義で公表された著作物には当たらないとしました。その結果、著作権の保護期間に関しては旧三条が適用になり、黒澤監督の死後三〇年間が保護期間であるところ、黒澤氏は平成一〇年に死亡したのだから本件映画はいまだ保護期間内にあるとしました。





東京アウトサイダーズ事件

妻が夫を撮影したスナップ写真の著作物性が肯定された事例
知財高裁平一九(ネ)一〇〇〇三・一〇〇一一、東京アウトサイダーズ事件、平一九・五・三一判決、第一審東京地裁、平一八・一二・二一判決
(判時一九七七・一四四)
参照条文 著作権法一〇条・一九条・二〇条・三二条

事案の概要
 被告Y1はジャーナリストであり、Aを含む外国人の日本における活動を評伝風に描いたノンフィクションを完成して、「東京アウトサイダーズ」の題号でY2出版社から出版した(本件書籍)。出版に際して、本件書籍に、Y1がAの友人から入手したAのスナップ写真(Aとその息子であるBが写っている・本件写真)が掲載された。ところが、そのスナップ写真はAの元妻Xが撮影したものであったために、XがYlY2を被告として、本件書籍の頒布の禁止、損害の賠償等を求めて出訴した。原審(東京地判平一八・一二・二一)は、本件書籍に本件写真を掲載した行為はXの著作権及び著作者人格権を侵害する行為であるとして、Y1らに対して、本件書籍の出版の禁止及び損害の賠償を命じた。これに対してY1らが控訴し、Xが付帯控訴したのが本件である。

判決の要旨〔棄却〕
 本件書籍には、本件写真のうち訴外Aの上半身部分が、そのまま掲載されているから、本件書籍には、本件写真の著作物性がある部分(シャッターチャンスの捉え方等)が再現されていることは明らかである。
 Yl・Y2及び角川グループ訴訟引受人は、本件写真は本件書籍にB・Aの風貌を読者に伝える目的で掲載されていること、本件書籍における本件写真の掲載の大きさは、本件書籍一においては縦四.七センチメートル、横三.五センチメートル、本件書籍二においては縦五.三センチメートル、横四センチメートルであること、本件写真のうち訴外Aの風貌がわかる部分のみを切り取って掲載していること、本件書籍における本件写真の掲載は、口絵の一頁の一部への掲載であることを主張するが、そのような事実は、本件書籍に、本件写真の著作物性がある部分が再現されている旨の上記判断を何ら左右するものではない。

解 説
 写真著作物に関しては、素人が馬鹿チョンカメラで撮った写真でも著作物と認められるかという論点があります。文献には、「各種報道写真の他、スナップショットのようなものにも著作物性を認めて差し支えない」(田村・著作権法概説九七頁)、「素人が普通のEEカメラで、パチッとシャッターを押せば、風景写真であろうと人物写真であろうと通常は著作物としての保護を受けると言わざるを得ません」(加戸・著作権法逐条講義九五頁)等あり、素人が撮った写真であっても著作物性を肯定する見解が一般的と言えると思います。特に本件では、本件書籍「東京アウトサイダーズ」は、裏表紙に「一攫千金を夢見るアウトサイダーズたちが世界中から集まる街・東京。天才詐欺師、・・・政治家を手玉にとるロビイスト、世界各国の諜報部員・・・・夜の東京に暗躍するアウトローたちに、日本の闇社会はビッグ・チャンスと失望を与えてきた。」と記載され、口絵に掲載された本件写真には、「元CIAのB・Aは・・・」と紹介されており、元妻が写真の掲載を望まない事案であることも、写真の著作物性を肯定する方向で作用していると思います。





サライ事件
写真をデジタルデータ化してCD―ROMに保存する行為が、複製利用の目的がなくても複製権の侵害に該当するとされた事例
東京地裁平一七(ワ)二四九二九、サライ事件、平一九・五・三〇判決(判タ一二五五・三二八)
参照条文 著作権法二一条・二三条・民法七〇九条

事案の概要
 原告は多数の雑誌等に写真を提供しているフリーランスの写真家であり、被告は大手出版社である。原告は、平成10年頃から同15年6月頃まで、被告が発行する雑誌「サライ」に掲載するための写真を撮影して、そのうち何枚かを選別してポジフィルムの形で被告に交付した。被告は、原告から交付を受けたポジフィルムを印刷に回し、印刷会社から返還後、少なくともポジフィルムをフィルム・スキャナーでデジタル化して、ハードディスクのサーバに蓄積保存した。原告は、被告がポジフィルムをサーバに蓄積保存することによって1000人近い社員が見ることのできる状態においた行為は複製権及び公衆送信権の侵害となり、また被告は保管していた写真を紛失したから所有権の侵害となるとして、被告に対して損害の賠償を求めた。これに対して、被告は、@複製権等の侵害に関しては、劣化や紛失を防ぐためにポジフィルムに写された写真をデジタルデータ化して社内のデータベースに保管したものであって、複製利用目的もないから複製権侵害には該当しない、Aポジフィルムの所有権は被告に帰属しているから所有権侵害には該当しないと主張した。ここでは@を扱うが、本件判決は@、Aともに被告の主張を棄却し、結論として被告に対して328万円の賠償を命じた。

判決の要旨〔一部認容〕
 Yが、本件交付ポジフィルム写真の一部について、デジタルデータ化し、サーバに蓄積する過程で、CD−ROMに保存した事実は、当事者間に争いがなく、これによれば、デジタルデータ化の作業を行って、その結果得られた本件デジタルデータをハードディスクその他の記憶媒体に保存したこと、更にCD−ROMにも保存したことは、いずれも上記ポジフィルム写真に係る複製権を侵害するものであると認められる。
 Yは、写真の劣化や紛失を防ぐためにポジフィルムに写された写真をデジタルデータ化し、社内のデータベースに保管していることは、複製利用目的もなく、当該ポジフィルムの著作権者の複製権を侵害する行為には該当しない旨主張するが、複製物の利用目的がない複製行為であっても、複製権の侵害となり得る場合があることは明らかであるから、被告の主張は失当といわなければならない。

解 説
 本判決は、写真をデジタルデータ化すれば他への利用目的がなくても複製権の侵害になるとしました。著作権は複製等専有権と観念されていて、利用の如何を問わず無断で複製等する行為それ自体が著作権侵害であるとして構成されていますので、本判決の結論はやむを得ないと思います。実質的に考えても、複製物が存在すれば、それを見たり参考にしたりできるようになるし、将来他目的に利用する者が出現する可能性もあるのですから、現時点で他目的に利用する意図がなかったとしても複製権侵害を免れることはできません。この点については、複製機器の利用に伴って必然的に生ずるRAM等への一時的蓄積が複製権侵害に当たるかという問題がありますが、本件のような事例は複製権侵害に該当することに異論はないと思います。





MYUTA事件 (MYUTA=マイウタ)

パソコン及び携帯電話のインターネット接続環境を有するユーザを対象としてCD等の楽曲を自己の携帯電話で聴くことができるようにするサービスが、楽曲をサーバ内に複製する行為及び楽曲をユーザの携帯電話に送信する行為の主体はいずれもユーザではなくサービス提供者であるとして、サービス提供者が複製権及び公衆送信権の侵害者であるとされた事例
東京地裁平一八(ワ)一〇一六六、MYUTA事件、平一九・五・二五判決
(判時一九七九・一〇〇、判タ一二五一・三一九)
参照条文 著作権法二条・二一条・二三条

事案の概要
 原告は、パソコンと携帯電話のインターネット接続環境を有するユーザを対象として、「MYUTA」の名称により、CD等の楽曲を自己の携帯電話で聞くことのできるサービス(本件サービス)を提供しようとして、平成17年11月、プレスリリースを経て無料による試用を開始した。これに対して、日本音楽著作権協会(JASRAC)が原告に対して本件サービスの中止を要請したので、原告がJASRACを被告として、差止請求権の不存在の確認を求めたのが本件である。
 本件サービスは、「MYUTA専用MUSIC UPLOADER」(本件ユーザソフト)を用いて、ユーザが楽曲の音源データを自己のパソコンで携帯電話用ファイルに圧縮し、インターネットを経由して原告の運営する「MYUTAサーバ」(本件サーバ)のストレージ(外部保存媒体。具体的にはストレージサーバ内の大容量のハードディスク)にアップロードして蔵置し、これを任意の時期に自己の携帯電話にダウンロードできるようにするものであり、これにより、ユーザにおいて、携帯電話で楽曲を自由に再生することができる。本件サービスにおいて、楽曲の音源データは、別紙「本件サービスにおける音楽著作物の利用」記載のとおり、データファイルとして形式が変換され、蔵置され、インターネットで送信されて利用される。

判決の要旨〔棄却〕
二.争点(1)ア(複製権その一)について
 (1)本件サービスの説明図Cにおいて複製が行われることは争いがないので、以下、前記認定の事実を前提に、その複製行為の主体について判断する。
  ア 目的
    本件サーバにおける音源データの蔵置に不可欠な本件ユーザソフトの仕様や、ストレージでの保存に必要な条件は、原告によって予めシステム設計で決定されるところ、本件サーバのストレージに複製された3G2ファイルは、ユーザが携帯電話にこれをダウンロードすることを予定して蔵置されたものである。すなわち、本件サーバにおける複製は、音源データのバックアップなどとして、ファイルを単に保存すること自体に意味があるのではなく、原告の提供する本件サービスの手順の一環として、最終的な携帯電話での音源データの利用に向けたものであり、本件サーバのストレージがユーザのパソコンと携帯電話とをいわば中継する役割を果たしている。
    また、ユーザが個人レベルで本件サービスと同様にCD等の楽曲の音源データを携帯電話で利用することを試みる場合、前記一(1)認定のとおり、本件ユーザソフトを用いなくても、フリーソフト等を使って3G2ファイル化することまでは可能であるが、これを再生可能な形で携帯電話に取り込むことに関しては、技術的に相当程度困難である。
    したがって、携帯電話にダウンロードが可能な形のサイト(本件サーバのストレージ)に音源データをアップロードし、本件サーバでこれを蔵置する複製行為は、本件サービスにおいて、極めて重要なプロセスと位置付けられる。
  イ 行為の内容
    説明図Cにおいて本件サーバに管理著作物が複製されることは、当事者間に争いがいない。
    本件サーバにおける3G2ファイルの複製行為は、ユーザのパソコンからインターネット回線でアップロードされ、蔵置されて行われるものである。すなわち、前記一(5)認定のとおり、ユーザのパソコンの本件ユーザソフトと本件サーバ(ストレージサーバ)内の本件ストレージソフトとがインターネットを経由して連動し、ストレージサーバのOSの機能によって、音源データのファイル保存が完了する。
    なお、このアップロードに際し、前記一(4)認定のとおり、本件ユーザソフトは、本件サーバとインターネット回線を介して連動している状態において、本件サーバの認証を受けらければ作動しないようになっており、ユーザは、利用登録時に発行されたアクセスキーによる認証を経て、本件サーバのシステムに接続され、音源データは、紐付けされた特定のストレージ領域に蔵置される。
  ウ 本件サーバの役割
    前記一(1)認定のとおり、原告は、WEBサーバ、データベースサーバ及びストレージサーバで構成される本件サーバ等の装置一式を所有するとともに、これを原告のグループ会社のサービスセンターに設置して、常時作動するように監視し、故障に対応する態勢を整えるなど、本件サーバを管理してきた。
    本件サーバは、ユーザに対する本件サービスの提供に当たって、システムの中核を構成し、前記一(2)ないし(4)認定のとおり、原告の定めたシステム設計に従って処理され、稼働するものである。原告の作成に係る本件ユーザソフトは、ユーザのパソコン内で起動され、本件サーバ内の本件ストレージソフトとインターネットを介して連動した状態で機能するが、ユーザは、本件サービスの利用に際し、前記一(3)認定のとおり、個別に利用の条件や使用の設定を変えることはできず、すべて、原告の設計したシステムに従って、これを利用するかしないかの選択しかできない。
    そして、本件サーバのストレージでは、ユーザの携帯電話にダウンロードするために音源データを蔵置することが必要不可欠であるところ、本件サービスの目的はユーザの携帯電話における音楽の楽曲の再生であり、原告によるシステム設計として、サーバ内で音源データが複製されることを当然の前提にしている。
    本件サーバは、本件サービスにおけるこのような目的を実現するため、原告が所有し、管理して、維持運営する専用サーバであって、それ以外の役割を担うものではない。
  エ ユーザの役割
    他方、本件サービスにおいて、本件サーバと一体となったシステムの利用上、前記一(4)及び(6)認定のとおり、ユーザが本件サーバにどの楽曲を複製するか等の操作の端緒となる関与を行うことが予定されている。
    しかしながら、前記一(2)ないし(4)認定のとおり、本件サーバにおける音源データの蔵置に不可欠な本件ユーザソフトの仕様や、ストレージでの保存に必要な条件は、原告によって予めシステム設計で決定されたものである。そして、本件サーバにおける3G2ファイルの蔵置は、こうした本件ユーザソフトがユーザのパソコン内で起動され、本件サーバ内の本件ストレージソフトとインターネットを介して連動した状態で機能するように仕組まれている。
    そうすると、個々の3G2ファイルの蔵置について、その操作の端緒として、インターネットを経由したユーザの行為が観念できるとしても、ここでの蔵置による複製行為は、専ら、原告の管理下にある本件サーバにおいて、行われるものである。
  オ 有償性
    原告の提供する本件サービスは、前記一(1)認定のとおり、ベータ版での試用では、月額料金が当面無料とされているが、当初から、有料化と機能の拡張が予定されていた。
  カ 小括
   以上の諸事情、すなわち、@原告の提供しようとする本件サービスは、パソコンと携帯電話のインターネット接続環境を有するユーザを対象として、CD等の楽曲を自己の携帯電話で聴くことができるようにするものであり、本件サービスの説明図Cの過程において、複製行為が不可避的であって、本件サーバに3G2ファイルを蔵置する複製行為は、本件サービスにおいて極めて重要なプロセスと位置づけられること、A本件サービスにおいて、3G2ファイルの蔵置及び携帯電話への送信等中心的役割を果たす本件サーバは、原告がこれを所有し、その支配下に設置して管理してきたこと、B原告は、本件サービスを利用するに必要不可欠な本件ユーザソフトを作成して提供し、本件ユーザソフトは、本件サーバとインターネット回線を介して連動している状態において、本件サーバの認証を受けなければ作動しないようになっていること、C本件サーバにおける3G2ファイルの複製は、上記のような本件ユーザソフトがユーザのパソコン内で起動され、本件サーバ内の本件ストレージソフトとインターネットがユーザのパソコン内で起動され、本件サーバ内のストレージソフトとインターネット回線を介して連動した状態で機能するように、原告によってシステム設計されたものであること、Dユーザが個人レベルでCD等の楽曲の音源データを携帯電話で利用することは、技術的に相当程度困難であり、本件サービスにおける本件サーバのストレージのような携帯電話にダウンロードが可能な形のサイトに音源データを蔵置する複製行為により、初めて可能になること、Eユーザは、本件サーバどの楽曲を複製するか等の操作の端緒となる関与をおこなうものではあるが、本件サーバにおける音源データの蔵置に不可欠な本件ユーザソフトの仕様や、ストレージでの保存に必要な条件は、原告によって予めシステム設計で決定され、その複製行為は、専ら、原告の管理下にある本件サーバにおいて行われるものであることに照らせば、本件サーバにおける3G2ファイルの複製行為の主体は、原告というべきであり、ユーザということはできない。
(1) 次に、本件事案の性質に鑑み、前記二の判断に加え、説明図CからDの過程における自動公衆送信権侵害の有無について判断する。
    説明図CからDの過程に関し、本件サーバからユーザの携帯電話に向けた3G2ファイルの送信(ダウンロード)について、送信行為の主体が誰かにつき検討すると、前記二と同様に、@原告の提供しようとする本件サービスは、パソコンと携帯電話のインターネット接続環境を有するユーザを対象として、CD等の楽曲を自己の携帯電話で聞くことができるようにするものであり、本件サービスの説明図CからDの過程において、音源データの送信行為が不可避的であって、本件サーバから3G2ファイルを送信する行為は、本件サービスにおいて不可欠の最終的なプロセスと位置付けられること、A本件サービスにおいて、3G2ファイルの蔵置及び携帯電話への送信等中心的役割を果たす本件サーバは、原告がこれを所有し、その支配下に設置して管理してきたこと、B本件サーバによる3G2ファイルの送信は、インターネット回線を介して、ユーザの携帯電話と本件サーバ内の本件ストレージソフトが連動して機能するように、原告によってシステム設計されたものであること、C本件サーバからの送信行為は、本件サーバでの複製行為を前提とするものであり、ユーザが個人レベルでCD等の楽曲の音源データを携帯電話で利用することは、技術的に相当程度困難であること、Dユーザは、本件サーバにどの楽曲をダウンロードするか等の操作の端緒となる関与を行うものではあるが、本件サーバによる音源データの送信に係る仕様や条件は、原告によって予めシステム設計で決定され、その送信行為は、専ら、原告の管理下にある本件サーバにおいて行われるものであることに照らせば、本件サーバによる3G2ファイルの送信行為の主体は、原告というべきであり、ユーザということはできない。
(2) 自動公衆送信行為の該当性について
    本件サービスを担う本件サーバは、前記一(2)ないし(6)認定のとおり、ユーザの携帯電話からの求めに応じて、自動的に音源データの3G2ファイルを送信する機能を有している。
    そして、本件サービスは、前記一(1)認定のとおり、インターネット接続環境を有するパソコンと携帯電話(ただし、当面はau WIN端末のみ)を有するユーザが所定の会員登録を済ませれば、誰でも利用することができるものであり、原告がインターネットで会員登録をするユーザを予め選別したり、選択したりすることはない。「公衆」とは、不特定の者又は特定多数の者をいうものであるところ(著作権法二条五項参照)、ユーザは、その意味において、本件サーバを設置する原告にとって不特定の者というべきである。よって、本件サーバからユーザの携帯電話に向けての音源データの3G2ファイルの送信は、公衆たるユーザからの求めに応じ、ユーザによって直接受信されることを目的として自動的に行われるものであり、自動公衆送信(同法二条一項九号の四)ということができる。
    このように、本件サーバは、自動公衆送信のための装置に該当し、説明図CからDの過程における本件サーバからユーザの携帯電話に向けた3G2ファイルの送信(ダウンロード)について、自動公衆送信行為がされたということが出来る。

解 説
1 本件サーバへの音楽著作物の複製(別紙「本件サービスにおける音楽著作物の利用」中のC)の主体は誰か
  本件サービスは、パソコン及び携帯電話のインターネット接続環境を有するユーザを対象に、楽曲を自己の携帯電話で聴くことのできるようにするサービスです。ユーザが楽曲を携帯電話で聴くことができるようにするためには、本件サーバのストレージのような携帯電話にダウンロード可能な形のサイト(3G2ファイル)に音源データを蔵置する複製行為(別紙「本件サービスにおける音楽著作物の利用」中のC)が必要不可欠であり、本件ではこの複製行為の主体が原告であるかユーザであるかが問題となっています。複製主体がユーザであれば私的複製(著作権法30条)であって著作権侵害とはなりませんが、後者であれば著作権侵害となります。そして、本判決は、本件サーバにおける3G2ファイルの複製は、本件ユーザソフトがユーザのパソコン内で起動され、本件サーバ内の本件ストレージソフトとインターネット回線を介して連動した状態で機能するように原告においてシステム設計されていること、3G2ファイルの蔵置の中心的役割を果たす本件サーバは原告が所有し、原告の支配下に設置して管理していること、本件ユーザソフトを提供するのも原告であり、本件ユーザソフトは原告の認証を受けなくては作動しないこと、ユーザは楽曲の選定をするものの、選定した楽曲の音源データの蔵置に不可欠な本件ユーザソフトの仕様やストレージの保存に必要な条件は原告によってシステム設計されており、その複製は原告の管理下にある本件サーバによって行われること等から、3G2ファイルの蔵置行為の主体は原告であるとしました。妥当な判決と思います。
2 本件サーバからユーザの携帯電話に向けた3G2ファイルの送信(ダウンロード)(別紙「本件サービスにおける音楽著作物の利用」中のCからD)の主体は誰か
  本件サーバにおける3G2ファイルの送信は、ユーザの携帯電話と本件サーバ内の本件ストレージソフトがインターネット回線を介して連動した状態で機能するように原告においてシステム設計されていること、3G2ファイルの送信の中心的役割を果たす本件サーバは原告が所有し、原告の支配下に設置して管理していること、ユーザは楽曲の選定をするものの、選定した楽曲の音源データの送信にかかる仕様や条件は原告によってシステム設計されており、送信は原告の管理下にある本件サーバによって行われること等から、3G2ファイルの送信行為の主体も原告であるとしました。妥当な判決と思います。
  さらに、インターネット接続環境を有するパソコン及び携帯電話を利用する者であれば誰でも会員登録をして利用できるのであるから、ユーザは「公衆」(著作権法2条5項)に該当するとして、原告を公衆送信権の侵害者と認めました。





シェーン事件

昭和二八年に公表された映画の著作物は、平成一五年一二月三一日にその保護期間が満了するから、平成一六年一月一日に現に存在する映画の著作物について保護期間を七〇年に延長する改正著作権法の適用はないとされた事例
知財高裁平一八(ネ)一〇〇七八、シェーン事件、平一九・三・二九判決、第一審東京地裁、平一八・一〇・六判決
(判時一九九〇・一二二)
参照条文 著作権法五四条、民法一四〇条・一四一条・一四三条

事案の概要
 本件は、「ローマの休日」等激安DVD事件と同様、昭和二八年に公表された映画の著作物に対して、映画著作物の著作権の存続期間を公表後七〇年に延長する改正法附則二条が適用になるかという問題(一九五三年問題)である。本件については、第一審判決(東京地裁平一八・一〇・六)及び控訴審判決もともに、「ローマの休日」等激安DVD事件と同様、映画著作権の存続期間は平成一五年一二月三一日をもって満了しており、改正法附則二条の適用はないとした。

判決の要旨〔棄却〕
(2)本件映画の著作権の存続期間
    本件映画は、上記(1)のとおり、昭和二八年に公表されたものであるから、その著作権は、公表の翌年である昭和二九年から起算して五〇年後の末日である平成一五年一二月三一日が終了するまでの間存続する、すなわち、本件映画の著作権は、同日の終了をもって、存続期間の満了により消滅するものであり、このことは、原判決(二〇頁二三行目ないし二一頁二四行目)に記載のとおりであるから、これを引用する(なお、このことは控訴人らも争わない。)。
(3)改正著作権法五四条一項の適用の有無
    本件改正法は、平成一六年一月一日から施行されたが(本件改正法附則一条)、改正著作権法五四条一項は、「映画の著作物の著作権は、その著作物の公表後七〇年(・・・)を経過するまでの間、存続する。」と規定して、映画の著作物の著作権の保護期間を五〇年から七〇年に延長した。そして、本件改正法附則二条は、「改正後の著作権法・・・第五四条第一項の規定は、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については、なお従前の例による。」と規定して、その施行日である平成一六年一月一日において、改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について改正著作権法五四条一項の規定を適用し、改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については、従前の例による、すなわち、改正著作権法五四条一項の規定を適用しないものとした。
    本件映画の著作権は、上記(2)のとり、平成一五年一二月三一日の終了をもって、存続期間の満了により消滅する。そうすると、本件改正法が施行された平成一六年一月一日においては、改正前の著作権法による本件映画の著作権は既に消滅しているから、本件改正法附則二条の規定により、改正著作権法五四条一項の規定は適用されない。
(4)控訴人らの主張について
  ア 控訴人らは、改正前の著作権法による本件映画の著作権の存続期間の満了点である平成一五年一二月三一日午後一二時は、本件改正法が施行された平成一六年一月一日午前零時と同時刻であるから、本件映画の著作権は本件改正法が施行された際現に存続していたのであり、改正著作権法五四条一項が適用されて、本件映画の著作権は、公表後七〇年を経過するまでの間、すなわち、公表の翌年である昭和二九年から起算して七〇年後の末日である平成三五年一二月三一日が終了するまでの間存続すると主張する。
    しかしながら、改正前の著作権法五四条一項及び五七条は、映画の著作物の著作権の存続期間を年によって定めたものであって(民法一四〇条)、この場合には、期間は、その末日の終了をもって満了するから(民法一四一条)、日を単位としているものである。そして、本件改正法附則一条は、本件改正法の施行の時点を日を単位として定めたものである。そうすると、両者はいずれも日を単位とするものであるから、本件改正法が平成一六年一月一日から施行され、この日が午前零時から始まるものであるとしても、平成一五年一二月三一日の終了をもって存続期間が満了する本件映画の著作権がのそ翌日である平成一六年一月一日に存続していたということはできない。

解 説
  旧著作権法は、映画著作物の保護期間を三〇年間としていましたが、その後暫定的な延長措置により三三年間とされ、さらに昭和四五年に全面改正されて(昭和四六年一月一日から施行)、保護期間は公表後五〇年(同法五四条1項)、「公表後五〇年の期間の終期を計算するときは、著作物が公表され・・・た日のそれぞれ属する年の翌年から起算する」(同法五七条)と規定されました。その後平成一五年著作権法改正(平成一六年一月一日から施行)により、保護期間は公表後七〇年間とされ(同法五四条一項)、経過措置として「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については、なお従前の例による」(附則二条)と規定され、平成一六年一月一日時点で著作権が存続する映画著作物のみ公表後七〇年間の保護期間が与えられることとされました。 
  本件映画は昭和二八年五月に米国において公表されたと認定されており、そうすると昭和四五年改正著作権法により、保護期間は昭和二九年一月一日から起算して五〇年間です。期間の計算は民法によります。民法では「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。」(民法一四〇条)と規定しており、この場合は午前零時から期間が始まりますので昭和二九年一月一日を参入して五〇年後の平成一六年一月一日が応当日となり、その前日である平成一五年一二月三一日が末日となります(民法一四三条一項)。そして期間は末日の終了をもって満了しますので(民法141条)、平成一五年一二月三一日の午後一二時に保護期間が満了します。ところが、平成一五年一二月三一日の午後一二時というのは平成一六年一月一日の午前零時のことですから、控訴人は、平成一六年一月一日時点で著作権が存続している著作物として改正法の五四条一項の保護を受けられると主張しました。本判決は控訴人の主張を否定していますが、常識的にも妥当です。