レストランカフェ事件

管理著作物の無断演奏に対する店舗経営者の責任について
1 ピアノ演奏は、客から演奏鑑賞料を徴収せず且つ演奏者に演奏料を支払っていないとしても、ピアノ演奏を店舗の雰囲気作りに利用していると認められる以上は店舗経営者が利用主体であり、
2 演奏者主催のライブは、演奏者が利用許諾を得ているか否かを確認しないで演奏の場を提供し、著作権侵害行為の場を提供するものであるから、店舗経営者も演奏者と共同して利用主体となる、
3 結婚式の披露宴の二次会等の貸切営業における招待客の行う演奏は、店舗経営者は管理しておらず、店の雰囲気作りにも利用していないから、店舗経営者は利用主体ではない
と認定して、
1 管理著作物の使用禁止請求は認容、
2 ピアノの撤去請求は認容し、ピアノ以外の楽器及び音響装置の撤去請求は棄却、
3 ピアノ及び楽器の搬入禁止請求は認容し、音響装置の撤去請求は棄却した
事例
大阪地裁平17(ワ)10324、レストランカフェ事件、平19.1.30判決(判時2000・103)

事案の概要
 原告Xは、著作権等管理事業法に基づき、文化庁長官の登録を受けた音楽著作権等管理事業者たるJASRACである。被告Yは、レストランカフェ「デサフィナード」の経営者であり、平成13年5月30日の開店後同17年2月末日までの間、本件店舗の営業時間中に、Xの許諾を得ることなく、Xの管理楽曲についてピアノリクエスト、ピアノBGM、ピアノ弾き語りなどの備え付けピアノによる演奏(ピアノ演奏)や、ライブを開催して歌手及び楽器奏者を出演させ、マイク、アンプ、ミキサー等の音響装置を用いて、歌唱や、備え付けの楽器又は楽器奏者が持ち込む楽器による演奏を行わせ、あるいは結婚披露宴の二次会やパーティーのための貸し切り営業を行う際に、来店した客に対し、歌唱や備え付けの楽器又は楽器奏者が持ち込む楽器による演奏を行わせている。そこで、Xは、Yに対して、管理著作物の著作権(演奏権)の侵害を理由に、管理著作物の使用の差止め、楽器、音響装置の撤去、店舗内への搬入禁止を求めて出訴した。

判決の要旨〔一部認容・一部棄却〕
3 争点3(被告は本件店舗で演奏される管理著作物の利用主体か否か。)について
(1)ピアノ演奏について
   前記2(1)イ(ア)において認定したとおり、本件において損害賠償請求又は不当利得返還の対象となっているピアノ演奏は、通常のレストラン営業の傍らで定期的に行なわれるものであって、被告が本件店舗に設置したピアノを用いて行われ、スタッフと呼ばれている複数の演奏者が定期的に演奏を行っていたものであり、ウェブサイトにおいても「毎火・金・土曜日にはピアノの生演奏がBGMです。」と宣伝していることからして、ピアノ演奏は、本件店舗の経営者である被告が企画し、本件店舗で食事をする客に聴かせることを目的としており、かつ本件店舗の「音楽を楽しめるレストラン」としての雰囲気作りの一環として行われているもと認められる。そうすると、ピアノ演奏は、被告が管理し、かつこれにより利益を上げることを意図し、現にこれによる利益を享受しているものということができるのであって、被告の主張するように、これをレストラン営業とは無関係にアマチュアの練習に場所を提供しただけであると見ることはできない。
   被告は、客から演奏鑑賞料を徴収していないし、演奏者に演奏料を支払ってもいないとも主張するが、そうであるとしても、被告がピアノ演奏を利用して本件店舗の雰囲気作りをしていると認められる以上、それによって醸成された雰囲気を好む客の来集を図り、現にそれによる利益を得ているものと評価できるから、被告の主観的意図がいかなるものであれ、客観的にみれば、被告がピアノ演奏により利益を上げることを意図し、かつ、その利益を享受していると認められることに変わりはないというべきである。
   以上によれば、本件店舗でのピアノ演奏の主体は、本件店舗の経営者である被告であるというべきである。
 (2)ライブ演奏について
   ア 本件店舗が主催するライブについては、前記2(1)イ(イ)bのとおり、本件店舗が最終的に企画し、客からライブチャージを徴収した上で、演奏者等に演奏料を支払うのであるから、その演奏は本件店舗の管理の下に行われるものと評価でき、またそれによる損益は本件店舗に帰属するものであったといえる。したがって、この形態のライブ演奏の主体は、本件店舗の経営者である被告であることが明らかである。
   イ 演奏者等が主催するライブについて
  (中略)
  (イ)しかしながら、本件店舗においてライブを開催させるというのは、本件店舗の基本的な営業方針であり、演奏者側が本件店舗にライブ開催を申し込むのも、このような本件店舗の営業方針があってこそのことであると考えられるのであって、本件店舗においてライブが開催されるに当たっては、本件店舗のこのような営業方針が不可欠の要素となっているものといえる。そして、また実際にも、本件店舗は、ちらしを作成してライブの開催を宣伝するほか、チケットの販売、予約の受付等の事務を行い、求めがあった場合の楽器の提供を行うなど、ライブが順調に開催されるための種々の支援も行っているのであって、ライブ開催に対する被告の関与は決して小さなものではないというべきである。
     また、被告は後記6(1)のとおり、平成13年6月末までには本件店舗において管理著作物を演奏するには、原告との音楽著作物利用許諾契約を締結する必要があることを認識していたのであるから、(平成17年2月までは、被告がライブ主催者に、原告から管理著作物の利用許諾を得ていたか否かを確認していた形跡がないことによれば、本件店舗のように生演奏を営業政策の一環として取り入れている飲食店においては、むしろ飲食店において音楽著作物利用許諾契約を締結するのが通常であるものと推認される。)、ライブ主催者が原告と音楽著作物利用許諾契約を締結していない場合は、自ら同契約を締結しない限り無許諾で管理著作物の演奏がなされることになり、管理著作物の著作権が侵害されることとなることを認識していたものである。したがって、被告ないし本件店舗は、事前に主催者である演奏者等に対し、演奏曲目が管理著作物である場合には、原告からの利用許諾を得ているか否かを確認することが期待し得たものであり、確認した結果によっては、本件店舗でのライブの開催を断ることができるという意味では、著作権侵害行為を予防し得る立場にあったものである。
     加えて、本件店舗はライブ開催時には、メニューは簡素なものであるが客に有料で飲食物を提供しており、この売上げは本件店舗の営業収入となるから、ライブ演奏をそのレストラン営業の一部として取り込んでいるものといえる。また、本件店舗は、ライブを開催することによって、「音楽を楽しめるレストラン」という本件店舗のイメージを定着させるのに役立っているということもできる。
  (ウ)以上のような演奏者等の第三者が主催するライブにおける被告の関与の状況及び営業上の利益の帰属状況等にかんがみれば、被告がライブ主催者に対して、原告からの管理著作物の利用許諾を得たか否かを確認もせずに、本件店舗で原告からの管理著作物の利用許諾を得ないままライブを行うことを黙認して、著作権侵害行為をする場を提供することは、いわば、ライブ主催者による著作権侵害行為を利用して、自らの営業上の利益を得ることを図るものであるから、著作権法の規律の観点からは、ライブ主催者である演奏者等と共同して管理著作物の著作権を侵害する行為に該当するというべきである。また、主催者である演奏者等と共同して管理著作物の著作権侵害行為を行うことについて過失も認められる。
     よって、この形態のライブ演奏については、本件店舗の経営者である被告も演奏の主体であると評価するのが相当である。
 (3)貸切営業における演奏について
前記2(1)イ(ウ)において認定したとおり、貸切営業において、被告は、場所及び楽器、音響装置及び照明装置を提供しており、本件店舗における演奏を勧誘しているのであるが、結婚披露宴や結婚披露宴の二次会、各種パーティ等において、招待客や参加者が本件店舗内において管理著作物をピアノで演奏したり歌唱したとしても、そもそも演奏するか否か、さらにいかなる楽曲を演奏するか、備付けの楽器を使用するか否か、音響装置及び照明装置の操作等について上記招待客等の自由に委ねられているものであり、その演奏形態は一様ではないといえる。
また、前記認定事実のとおり、本件店舗にウェブサイトには、貸切営業の際に通常営業も行うこともできるとの記載があるが、本件において提出された証拠によっては、貸切営業が実際にいかなる場合に通常営業と並行して行なわれているのかは明らかではなく、むしろ多くの場合、貸切営業においては本件店舗を訪れる不特定多数の客ではなく、専ら当該結婚披露宴の二次会などの招待客に聴かせることを目的とするものであることが認められる。これらの事情にかんがみれば、貸切営業における招待客や参加者が行う演奏行為は、被告によって管理されているとは認めることはできず、むしろ被告とは無関係に行われる場合が多いと認められ、また、被告がその演奏自体を不特定多数の客が来訪する店の雰囲気作りに利用するなどして、これによる収益を得ているとは認められない。
したがって、貸切営業における演奏については、管理著作物の利用主体は本件店舗の経営者たる被告であると認めることはできない。
 (中略)
 (3)請求の趣旨第2項の差止請求に関する差止めの必要性について
〔証拠略〕によれば、本件店舗のおけるピアノ演奏で演奏された楽曲のほとんどは管理著作物であったことが認められるから、本件店舗に備え置かれたピアノは、主として原告の演奏権を侵害する管理著作物の無断演奏に使用されていたと認められる。もちろん、ピアノは、本来、管理著作物以外の楽曲の演奏の用にも供し得るものではあるが、現実の使用態様が主として管理著作物の無断演奏に供されるもので、その状態が今後も継続するおそれがある場合に、原告がその撤去を求めることは、本件店舗における被告による演奏権の侵害を停止又は予防するために必要な行為に該当する(著作権法112条2項)。
前記(1)のとおり、たとえ被告が現時点においてはピアノリクエスト、ピアノ弾き語り及びピアノBGMを中止していたとしても、今後、これらの演奏が再会されれば管理著作物が無断で演奏されるおそれがあることは否定できない。よって、ピアノについては、請求の趣旨第2項の差止請求を認める必要がある。
他方、原告が撤去を求めるその他の楽器、すなわちウッドベース、ドラムセット、ギター、パーカッション、ベースについては、ライブ奏者であれば自ら使用する楽器を持参する場合も多いと推認され、これらの楽器が貸切営業においても使用される可能性が否定できず、専ら著作権侵害の行為に供された機械又は器具であるとまで認めることができない。
ミキサー、アンプ、マイクなどの音響装置などについては、ピアノ演奏、ライブ、貸切営業のいずれかの演奏態様においても用いることがあるものである。そして、貸切営業の営業日数は、月によっては一か月に7日ある場合もあり、営業日数全体に占める割合がごくわずかであるとまでいうことはできない。また、上記のとおりピアノの撤去請求が認められ、かつ、後記のとおりピアノを含むその他の楽器の搬入禁止請求が認められる(ただし、貸切営業を除く。)ことによれば、ライブの出席者がこれらの楽器を持ち込むことも禁止されるのであるから、被告による著作権の侵害行為の予防の観点からも、被告による管理著作物の利用行為に当たらない貸切営業にも使用され得る音響装置の撤去まで命じる必要はないというべきである。
よって、請求の趣旨第2項のうち、本件店舗からピアノの撤去を求める部分は理由がある。
 (4)請求の趣旨第3項の差止請求に関する差止めの必要性について
前記(1)のとおり、被告は、原告が再三にわたって音楽著作物利用許諾契約の締結を促しても、これに応じなかったばかりか、自ら本件店舗においては管理著作物は演奏しないという方針を明らかにした後も、管理著作物の演奏を継続してきたものである。このような経緯に照らせば、被告が判決により管理著作物の使用を差止められても、これに従わず、また、ピアノを撤去されても、ピアノその他の楽器を搬入して、管理著作物の使用を継続するおそれが高いものといわざるを得ない。
ただし、マイク等の音響装置の搬入禁止を求める部分は、上記(3)のとおりマイク等の音響装置の撤去を禁じていない以上、搬入禁止を命じる必要はないというべきである。
よって、請求の趣旨第3項のうち、本件店舗に「ピアノリクエスト・ピアノ弾き語り・ピアノBGM」における演奏、入場料を徴収する「ライブ」における演奏において、ピアノその他の楽器の搬入禁止(ただし、貸切営業を除く。)を求める部分は理由がある。

解 説
1 ピアノ演奏、ライブ演奏、貸切営業のそれぞれについて、判決は、Yの関与形態及び利用主体性について次のように判断して、ピアノ演奏、ライブ演奏についてはYの利用主体性を認め、貸切営業については被告の利用主体性を否定しています。

 
被告の関与
被告の利用主体性
ピアノ演奏  Yが店舗に設置したピアノを用いて、スタッフと呼ばれる複数の演奏者が定期的に演奏していた。Yのウェブには「毎週火・金・土曜日はピアノの生演奏がBGMです」と記載。  客から演奏鑑賞料を徴収しておらず、演奏者に演奏料を支払っていないとしても、被告が企画し、「音楽を楽しめるレストラン」の雰囲気作りの一環として行われ、それによって客を来集して被告が利益を得ているのだから、演奏主体は被告。
ライブ演奏

【店舗主題のライブ】

店舗が最終的に企画し、客からライブチャージを徴収した上で、演奏者等に演奏料を支払う。

 

店舗の管理下に演奏され、損益は店舗に帰属するものであったといえるから、演奏主体は店舗経営者たる被告である。

 

【演奏者等が主催するライブ】

演奏者は、自らチケットやチラシを作成して店舗以外でも配布し、ライブチャージを全額取得している。店舗は客を招聘せず、曲目の選定に関与しないが、チラシを作成してライブの開催を宣伝するほか、チケット販売、予約受 付等の事務を行い、求めがあった場合に楽器の提供を行う。ライブ開催時に客に簡素な飲食物を提供し、その売り上げを取得している。
Yは、ライブ主催者が管理著作物の利用許諾を得たか否かの確認もしないで、ライブ主催者が著作権侵害行為を行う場を提供することは、ライブ主催者による著作権侵害行為を利用して営業上の利益を得ることを図るものであるから、ライブ主催者と共同して管理著作物の著作権を侵害する行為に該当する。
貸切営業 Yは、結婚披露宴の二次会、ピアノ発表会、パーティ等のための貸切営業を行なっており、貸切営業において楽曲演奏が行われる場合には必要に応じて店舗に置いてある楽器、音響装置等を提供し、必要に応じてその操作を従業員に当たらせている、被告のウェブには「お客様もプロ顔負けのステージ練習を楽しむことができますよ!」と記載されている。ピアノ発表会のときは会場使用料を請求している。 招待客が店舗で管理著作物をピアノで演奏したり歌唱したとしても、演奏するか否か、曲目の選定、備え付けの楽器を使用するか否か、音響装置や照明器具の操作等について招待客の自由にゆだねられているものであるから、貸切営業における招待客の行う演奏はYによって管理されておらず、Yがその演奏自体を不特定多数の客が来訪する店の雰囲気作りに利用して収益を上げているとは認められず、利用主体はYではない。

2 原告の各種請求について判決は次のように認定しました。

管理著作物の使用禁止請求 認める。
撤去請求

@備え付けピアノの撤去請求

ピアノは、本来は管理著作物以外の演奏にも使用できるが、演奏された楽曲のほとんどは管理著作物であったから現実的には主として無断演奏に使用されていたと認められる。Yは現在はピアノリクエスト、ピアノ弾き語り、ピアノBGMを中止しているが、将来再開されるおそれがあるからピアノの撤去請求は認容。

A楽器の撤去請求

 ウッドベース、ドラム、ギター等の楽器は、ライブ奏者が自らの楽器を持ち込んで使用することも多いし、Yによる著作権侵害とは認められない貸切営業に利用されることも多いし、専ら著作権侵害に利用されたとはいえないから、楽器の撤去請求は棄却。

Bミキサー、アンプ、マイクなどの音響装置の撤去請求

  音響装置はYによる著作権侵害とは認められない貸切営業に利用されることも多いし、ピアノの撤去請求及びピアノを含む楽器の撤去請求が認められる(ただし貸切営業以外)のだから、音響装置の撤去までは不要。
搬入禁止請求 @ピアノ、楽器の搬入禁止請求
Xが再三著作物利用許諾契約の締結を求めても応ぜず、管理著作物の無断演奏を継続してきた経緯に照らせば、ピアノを撤去されても、ピアノや楽器を搬入して無断演奏を再開するおそれは高いから、ピアノ、楽器の搬入禁止請求は認容。ただし、被告による著作権侵害とは認められない貸切営業のために搬入する部分はのぞく。 A音響装置の搬入禁止請求  音響装置の撤去請求が認められないのだから、搬入禁止請求も認められない。




ライブドア裁判傍聴記事件

裁判所の証人尋問の傍聴記の著作物性が否定された事例
知財高裁平20(ネ)1009、ライブドア裁判傍聴記事件、平20・7・17判決
(判時2011・137、判タ1274・246)
参照条文 著作権法2条・10条

事案の概要
 原告Xは、Aに対する証券取引法違反被告事件に関する、東京地方裁判所の公判期日において行われた証人尋問を傍聴した結果をまとめた傍聴記(原告傍聴記)をインターネットを通じて公開した。ところが、第三者が被告Y(ヤフー株式会社)の管理・運営する「Yahoo!ブログ」のうちの「Yahoo!ブログ・ライブドア被害者日記」と題するブログに、Xに無断で証人尋問に関する記事(本件ブログ記事)を掲載した。そこで、Xが、Yに対して、プロバイダ責任制限法4条1項に基づいて、本件ブログ記事の発信者情報の開示を求めるとともに、著作権法112条2項に基づいて本件ブログ記事の削除を求めた。第一審判決は、X傍聴記は著作物に該当しないとの理由で、プロバイダ責任制限法4条1項及び著作権法112条2項の適用はないと判決したので、Xが控訴したのが本件である。

判決の要旨〔棄却〕
ア 原告傍聴記における証言内容を記述した部分(例えば、「○ライブドアの平成16(2004)年9月期の最初の予算である」「○各事業部や子会社の予算案から作成されている」)は、証人が実際に証言した内容を原告が傍取したとおり記述したか、又は仮に要約したものであったとしてもごくありふれた方法で要約したものであるから、原告の個性が表れている部分はなく、創作性も認めることはできない。
イ 原告傍聴記には、冒頭部分において、証言内容を分かりやすくするために、大項目(例えば、「『株式交換で20億円計上』ライブドア事件証人・B氏への検察側による主尋問」)及び中項目(例えば、「証人のパソコンのファイルについて」)等の短い表記を付加している、しかし、このような付加的表記は、大項目については、証言内容のまとめとして、ごくありふれた方法でされたものであって、格別な工夫が凝らされているとはいえず、また、中項目については、いずれも極めて短く、表現方法に選択の余地が乏しいといえるから、原告の個性が発揮されている表現部分はなく、創作性を認めることはできない。
ウ この点について、原告は原告傍聴記は本件ノートに基づいて作成したものであり、本件ノートと対比すればその「分類」と「構成」に創意工夫されているから、原告傍聴記に創作性が認められるべきであると主張する。そして、具体的には、@原告傍聴記2の証人の経歴に関する部分は主尋問と反対尋問から抽出していること、A原告傍聴記1の「○クラサワコミュニケーションズとの株式交換も計上していることを口頭で説明した」、「■A被告は何も言わなかったが、分からないときは質問するので、説明を理解していたと思う」の記述及び原告傍聴記2の「○大学卒業後、未来証券に新卒入社」、「■個人投資家からの株式売買受託やベンチャー企業の資金調達に携わる」、「■1年半弱で退社」の記述は、実際に証言された順序ではなく、時系列にしたがって順序を入れ替えたこと、B原告傍聴記2において固有名詞を省略したこと等を創意工夫として例示する。
 しかし、原告の主張する創意工夫については、経歴部分の表現は事実の伝達にすぎず、表現の選択の幅が狭いので創作性が認められないのは前記のとおりであるし、実際の証言の順序を入れ替えたり、固有名詞を省略したことが、原告の個性の発揮と評価できるほどの選択又は配列上の工夫ということはできない。原告の主張は採用できない。

解 説
裁判所が著作物性を否定した理由は次のようです。
全般 証言内容をXが録取したとおりに記述したか、ありふれた方法で要約したものであり、創作性がない。
大項目の表記の付加(例・「株式交換で20億円計上」ライブドア事件証人・B氏への検察側による主尋問) 証言内容のまとめとして、ごくありふれた方法でなされたもの。
中項目の表記の付加(例・証人のパソコンのファイルについて) 極めて短く、表現方法に選択の余地が乏しいから、創作性がない。
証人の経歴に関する部分は主尋問と反対尋問から抽出している 経歴部分の表現は事実の伝達にすぎない。
時系列に従って順序を入れ替えた部分 Xの個性の発揮と評価できるほどの選択又は配列上の工夫とはいえない。
固有名詞を省略した部分






羅生門他事件

旧著作権法下において、映画の著作物の著作者は映画の全体的形成に創作的に関与したものであり、映画のスクリーンの表題部に続いて「監督黒澤明」と著作者の表示がある以上は、その保護期間は黒澤監督の死後38年間であるとされた事例
東京地裁 平一九(ワ)一一五三五、羅生門他事件、平一九・九・一四判決
(判時一九九六・一二三)
参照条文 著作権法一六条・二九条・一一二条・一一三条・附則七条

事案の概要
 大映株式会社(旧大映)は昭和24年に映画「静かなる決闘」(本件映画1)を、昭和25年に映画「羅生門」(本件映画2)を製作、公表した。監督はいずれも黒澤明監督であり、同監督は平成10年に死亡した。本件は、原告(角川映画)が、本件映画1及び2の著作権者であると主張し、本件映画1及び2を複製したDVD商品を輸入、販売する被告の行為が原告の著作権の侵害に当たるとして、当該商品の輸入、販売等の差止を求めたのに対して、被告が本件映画1及び2の著作権は存続期間満了によって消滅したと主張したものである。本件映画1及び2の著作権が黒澤明監督から旧大映に譲渡されたこと、旧大映から新大映に、新大映から原告にそれぞれ譲渡された点については特に争いがなく、もっぱら著作権の保護期間について争われた。
 
判決の要旨〔認容〕
(1) 著作者
   前提事実(2)のとおり、本件映画は独創性(旧著作権法二二条の三第二項)を有する映画の著作物であり、黒澤監督がその映画監督であり、本件映画の冒頭部分に「監督黒沢明」と表示されているところ、〔証拠略〕により認められる本件映画の内容を併せ考慮すれば、黒沢監督は、少なくとも本件映画の著作者の一人であることが認められる。
(2) 被告の主張に対する判断
  ア 撮影等を担当した者
    被告の主張が、撮影等を担当した者が著作者であると主張するものだとしても、上記(1)の認定は、黒澤監督は少なくとも本件映画の著作者の一人であるとするものであり、他に著作者がいる可能性を否定しているものではないところ、上記認定を左右するに足りる証拠はない。
  イ 旧大映
  (ア) 次に、被告の主張が、旧大映が著作者であると主張するものであるとして判断する。なお、被告の主張は、新著作権法一五条の職務著作に相当するものを主張するものではない。
  (イ) 確かに、映画の著作物は、映画製作者が、企業活動として、当初から映画の著作物を商品として流通させる目的で企画し、多額の製作費を投入して製作するものであり、その製作には脚本、音楽、制作、監督、演出、俳優、撮影、美術、録音、編集の担当者など多数の者が関与しており、その関与の範囲や程度も様々であるという特殊性を有する。しかし、著作者とは元来著作物を創作する者をいうから、映画利用の円滑化を図るために、映画製作者に著作権を帰属させる必要があるとしても、そのことから直ちに映画製作者が映画の著作物の著作者となると解することはできず、映画の著作物の著作者は、新著作権法一六条と同様に、映画の制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に関与した者であると解するのが相当である。
(中略)
(1) 旧著作権法の昭和六年改正に関与した小林尋次が「現行著作権法の立法理由と解釈―著作権法全文改正の資料として―」おいて、旧著作権法六条の規定が設けられた趣旨につき、「団体には自然の如く生死を考え得られないから、この場合も法律は、発行又は興行した時から三〇年間と言う短期保護期間を適用することにしている(著作権法第六条)。団体にも自然人の死に相当する解散ということが考えられるが、もし法人が解散しなければ保護期間は永久ということになって不合理であるから、上記の如き建前とせざるを得ないのである。」と説明しているとおり(争いのない事実)、旧著作権法六条は、団体名義で公表した場合には、自然人の生死を標準として存続期間を計算することができないために設けられた規定であることが認められる。
(2) 本件映画は、旧大映の社章と共に「大映株式會社製作」と表示され(前提事実(2)エ)、その専用系列映画館で旧大映製作の作品として公開されたものであることは、当事者間に争いがない。
    しかしながら、前提事実(2)エのとおり、本件映画の冒頭部分には、表題に続き、「監督 黒澤明」と表示されているから、著作者の実名で公表されたものであり、本件映画は、旧著作権法六条にいう団体名義の著作物に当たらない。
    したがって、本件映画の著作権の存続期限については、旧著作権法三条を適用すべきである。
    これに反する被告の主張は、到底採用することができない。
(3) 以上によれば、黒澤監督の死亡期は平成一〇年であるから(前提事実(2)オ)、旧著作権法三条、九条、五二条一項によると、本件映画の著作権は、少なくとも著作者の一人である黒澤監督の死亡した翌年である平成一一年から起算して三八年間存続するので、新著作権法附則七条、平成一五年改正附則三条により、旧著作権法の規定が適用され、本件映画の著作権は、少なくとも、平成四八年一二月三一日まで存続する。

解 説
1 旧著作権法における著作権の保護期間
  著作権の保護期間に関して、旧著作権法は、三条一項で「発行または興行したる著作物の著作権は著作者の生存間及びその死後三〇年間継続す」と規定し、さらに六条で「官公衛学校社寺協会会社その他団体に於て著作の名義を以て発行又は興行したる著作物の著作権は発行又は興行のときより三〇年間継続す」と定めています。つまり、団体名義で発行又は興行されなかった著作物は著作者の死後三〇年間、団体名義で発行又は興行した著作物は公表から三〇年間が保護期間とされています。旧六条の趣旨については、団体にも自然人の死に相当する解散がありうるが、保護期間を解散から30年間とすると団体が解散されなかったときは保護期間は永久ということになって不合理であるから、団体名義で発行又は興行された著作物については一律に発行又は興行のときより三〇年間としたと説明されています。
2 旧著作権法における映画の著作物の著作者
  現行著作権法では、映画の著作物の著作者は制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とし(一六条)、ただし、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、著作権は当該映画製作者に帰属する。としています(二九条)。ところが、旧著作権法では、映画の著作物の著作者、著作権者についてなんの定めもしていません。そこで、映画の著作物の著作者、著作権者が誰であるかが問題になり、映画製作者であるとする見解と、映画の製作に創作的に関与した者であるとする見解が対立していました。本判決は、現行著作権法の規定と同じように映画の製作に創作的に関与した者が著作者だとして、少なくとも黒澤明監督は本件映画の著作者の一人であるとしました。
3 本件映画は「団体に於いて著作の名義を以って発行又は興行した著作物」(旧法六条)
少なくとも黒澤監督が著作者の一人であるとしても、本件映画が旧大映名義で公開されたのであればその保護期間は旧著作権法六条の規定により公開後三〇年間となり、すでに存続期間が満了しています。本件映画は、冒頭に表題に続いて、「監督 黒澤明」と表示され、次に旧大映の社章とともに「大映株式會社」と表示されていました。そして、本判決は、「監督 黒澤明」と表示されたのだから著作者の実名で公表されたものであり、団体名義で公表された著作物には当たらないとしました。その結果、著作権の保護期間に関しては旧三条が適用になり、黒澤監督の死後三〇年間が保護期間であるところ、黒澤氏は平成一〇年に死亡したのだから本件映画はいまだ保護期間内にあるとしました。





東京アウトサイダーズ事件

妻が夫を撮影したスナップ写真の著作物性が肯定された事例
知財高裁平一九(ネ)一〇〇〇三・一〇〇一一、東京アウトサイダーズ事件、平一九・五・三一判決、第一審東京地裁、平一八・一二・二一判決
(判時一九七七・一四四)
参照条文 著作権法一〇条・一九条・二〇条・三二条

事案の概要
 被告Y1はジャーナリストであり、Aを含む外国人の日本における活動を評伝風に描いたノンフィクションを完成して、「東京アウトサイダーズ」の題号でY2出版社から出版した(本件書籍)。出版に際して、本件書籍に、Y1がAの友人から入手したAのスナップ写真(Aとその息子であるBが写っている・本件写真)が掲載された。ところが、そのスナップ写真はAの元妻Xが撮影したものであったために、XがYlY2を被告として、本件書籍の頒布の禁止、損害の賠償等を求めて出訴した。原審(東京地判平一八・一二・二一)は、本件書籍に本件写真を掲載した行為はXの著作権及び著作者人格権を侵害する行為であるとして、Y1らに対して、本件書籍の出版の禁止及び損害の賠償を命じた。これに対してY1らが控訴し、Xが付帯控訴したのが本件である。

判決の要旨〔棄却〕
 本件書籍には、本件写真のうち訴外Aの上半身部分が、そのまま掲載されているから、本件書籍には、本件写真の著作物性がある部分(シャッターチャンスの捉え方等)が再現されていることは明らかである。
 Yl・Y2及び角川グループ訴訟引受人は、本件写真は本件書籍にB・Aの風貌を読者に伝える目的で掲載されていること、本件書籍における本件写真の掲載の大きさは、本件書籍一においては縦四.七センチメートル、横三.五センチメートル、本件書籍二においては縦五.三センチメートル、横四センチメートルであること、本件写真のうち訴外Aの風貌がわかる部分のみを切り取って掲載していること、本件書籍における本件写真の掲載は、口絵の一頁の一部への掲載であることを主張するが、そのような事実は、本件書籍に、本件写真の著作物性がある部分が再現されている旨の上記判断を何ら左右するものではない。

解 説
 写真著作物に関しては、素人が馬鹿チョンカメラで撮った写真でも著作物と認められるかという論点があります。文献には、「各種報道写真の他、スナップショットのようなものにも著作物性を認めて差し支えない」(田村・著作権法概説九七頁)、「素人が普通のEEカメラで、パチッとシャッターを押せば、風景写真であろうと人物写真であろうと通常は著作物としての保護を受けると言わざるを得ません」(加戸・著作権法逐条講義九五頁)等あり、素人が撮った写真であっても著作物性を肯定する見解が一般的と言えると思います。特に本件では、本件書籍「東京アウトサイダーズ」は、裏表紙に「一攫千金を夢見るアウトサイダーズたちが世界中から集まる街・東京。天才詐欺師、・・・政治家を手玉にとるロビイスト、世界各国の諜報部員・・・・夜の東京に暗躍するアウトローたちに、日本の闇社会はビッグ・チャンスと失望を与えてきた。」と記載され、口絵に掲載された本件写真には、「元CIAのB・Aは・・・」と紹介されており、元妻が写真の掲載を望まない事案であることも、写真の著作物性を肯定する方向で作用していると思います。





サライ事件
写真をデジタルデータ化してCD―ROMに保存する行為が、複製利用の目的がなくても複製権の侵害に該当するとされた事例
東京地裁平一七(ワ)二四九二九、サライ事件、平一九・五・三〇判決(判タ一二五五・三二八)
参照条文 著作権法二一条・二三条・民法七〇九条

事案の概要
 原告は多数の雑誌等に写真を提供しているフリーランスの写真家であり、被告は大手出版社である。原告は、平成10年頃から同15年6月頃まで、被告が発行する雑誌「サライ」に掲載するための写真を撮影して、そのうち何枚かを選別してポジフィルムの形で被告に交付した。被告は、原告から交付を受けたポジフィルムを印刷に回し、印刷会社から返還後、少なくともポジフィルムをフィルム・スキャナーでデジタル化して、ハードディスクのサーバに蓄積保存した。原告は、被告がポジフィルムをサーバに蓄積保存することによって1000人近い社員が見ることのできる状態においた行為は複製権及び公衆送信権の侵害となり、また被告は保管していた写真を紛失したから所有権の侵害となるとして、被告に対して損害の賠償を求めた。これに対して、被告は、@複製権等の侵害に関しては、劣化や紛失を防ぐためにポジフィルムに写された写真をデジタルデータ化して社内のデータベースに保管したものであって、複製利用目的もないから複製権侵害には該当しない、Aポジフィルムの所有権は被告に帰属しているから所有権侵害には該当しないと主張した。ここでは@を扱うが、本件判決は@、Aともに被告の主張を棄却し、結論として被告に対して328万円の賠償を命じた。

判決の要旨〔一部認容〕
 Yが、本件交付ポジフィルム写真の一部について、デジタルデータ化し、サーバに蓄積する過程で、CD−ROMに保存した事実は、当事者間に争いがなく、これによれば、デジタルデータ化の作業を行って、その結果得られた本件デジタルデータをハードディスクその他の記憶媒体に保存したこと、更にCD−ROMにも保存したことは、いずれも上記ポジフィルム写真に係る複製権を侵害するものであると認められる。
 Yは、写真の劣化や紛失を防ぐためにポジフィルムに写された写真をデジタルデータ化し、社内のデータベースに保管していることは、複製利用目的もなく、当該ポジフィルムの著作権者の複製権を侵害する行為には該当しない旨主張するが、複製物の利用目的がない複製行為であっても、複製権の侵害となり得る場合があることは明らかであるから、被告の主張は失当といわなければならない。

解 説
 本判決は、写真をデジタルデータ化すれば他への利用目的がなくても複製権の侵害になるとしました。著作権は複製等専有権と観念されていて、利用の如何を問わず無断で複製等する行為それ自体が著作権侵害であるとして構成されていますので、本判決の結論はやむを得ないと思います。実質的に考えても、複製物が存在すれば、それを見たり参考にしたりできるようになるし、将来他目的に利用する者が出現する可能性もあるのですから、現時点で他目的に利用する意図がなかったとしても複製権侵害を免れることはできません。この点については、複製機器の利用に伴って必然的に生ずるRAM等への一時的蓄積が複製権侵害に当たるかという問題がありますが、本件のような事例は複製権侵害に該当することに異論はないと思います。