・商品写真無断掲載事件    知財高裁平18.3.29
・負荷率算出事件        東京地裁平17.11.17
・一般向け法律解説書事件  東京地裁平17.5.17
・計装士講習資料事件    東京地裁平18.2.27
・浮世絵模写事件(2)     東京地裁18.5.11
・まねきTV仮処分事件    東京地裁18.8.4
・「ローマの休日」等激安DVD事件   東京地裁18.7.11
・ふるさと三国志事件     東京地裁17.7.22
・おまけ用フィギュア事件    大阪地裁17.7.28
・ツーユー評判記事件     東京地裁17.1.17
・グットバイキャロル事件   東京地裁17.3.15
・インド人参論文事件     東京地裁16.11.4
・録画ネット事件         東京地裁16.10.07
・XO醤男と杏仁女事件    東京地裁平16.5.31
・NTTプログラムリース事件 東京地裁平16.6.18
・家庭用学習教材事件    東京地裁平16.5.28
・音楽ファイル交換事件    東京地裁平15.12.17
・幼児用教育教材事件    東京地裁平15.11.28
・カラオケリース事件(3)   大阪地裁平15.02.13
・社交ダンス教室事件     名古屋地裁平15.02.07
・はだしのゲン事件       東京地裁平14.08.02
・どこまでも行こう事件     東京高裁平14.09.06
・RGBアドベンチャー事件   最高裁平12.11.09
・DEAD OR ALIVE2事件   東京地裁平14.08.30
・ホテル・ジャンキーズ事件  東京地裁平14.04.15
・雪月花等事件         東京地裁平11.10.27




商品写真無断掲載事件

 平凡な商品写真をそのまま複製して利用したケースにおいて、平凡な商品写真でも被写体の組み合わせ・配置・構図・カメラアングル、光線・陰影、背景等にそれなりの独自性が含まれているとして著作物性が肯定され、このような創作性が微小な写真のときはそのままコピーして利用したような場合に限定して複製権侵害が肯定できるとして、1万円の損害賠償が認められた事例
知財高裁平一七(ネ)一〇〇九四、商品写真無断掲載事件、平一八・三・二九判決、第一審横浜地裁平一六(ワ)二七八八、平一七・五・一七判決
(判タ一二三四・二九五)
参照条文 著作権法二条

事案の概要
 本件は、インターネット上のホームページで商品の広告販売を行うA社から営業権を譲り受けた控訴人(原告)が、被控訴人(被告)がA社のホームページに掲載の商品写真及び商品説明文を無断で自己のホームページに流用掲載したとして、被控訴人(被告)に対して著作権侵害に基づく損害賠償を請求した事件である。原審たる横浜地裁は原告の請求をすべて棄却したので、原告が控訴したのが本件である。控訴審では、商品説明文に関しては複製に当たらないとして控訴人の請求を棄却しているが、商品写真に関してはこれを著作物と認め、被控訴人が無断で複製して使用したとして1万円の損害賠償金の支払いを命じている。

判決の要旨〔変更〕
 写真は、被写体の選択・組合せ・配置、構図・カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉、被写体と光線との関係(順光、逆光、斜光等)、陰影の付け方、色彩の配合、部分の強調・省略、背景等の諸要素を総合してなる一つの表現である。
 このような表現は、レンズの選択、露光の調節、シャッタースピードや被写界深度の設定、照明等の撮影技術を駆使した成果として得られることもあれば、オートフォーカスカメラやデジタルカメラの機械的作用を利用した結果として得られることもある。また、構図やシャッターチャンスのように人為的操作により決定されることの多い要素についても偶然にシャッターチャンスを捉えた場合のように、撮影者の意図を離れて偶然の結果に左右されることもある。
 そして、ある写真が、どのような撮影技法を用いて得られたものであるかを、その写真自体から知ることは困難であることが多く、写真から知り得るのは、結果として得られた表現の内容である。撮影に当たってどのような技法が用いられたのかにかかわらず、静物や風景を撮影した写真でも、その構図、光線、背景等には何らかの独自性が表れることが多く、結果として得られた写真の表現自体に独自性が表れ、創作性の存在を肯定し得る場合があるというべきである。
 もっとも、創作性の存在が肯定される場合でも、その写真における表現の独自性がどの程度のものであるかによって、創作性の程度に高度なものから微少なものまで大きな差異があることはいうまでもないから、著作物の保護の範囲、仕方等は、そうした差異に大きく依存するものというべきである。したがって、創作性が微少な場合には、当該写真をそのままコピーして利用したような場合にほぼ限定して複製権侵害を肯定するにとどめるべきものである。

解 説
本件は、被控訴人がそのホームページでA社と同一の商品を販売するに際して、A社のホームページに掲載の商品写真をそのままコピーして貼り付けために、控訴人が写真著作権侵害を理由に損害賠償を求めた事案です。論点は写真の著作物性です。写真の著作物性に関しては、全面肯定説、原則肯定説(平面的な被写体をそのまま平面写真に撮影した場合以外は肯定する)、限定説(被写体の選定、光量調節、シャッターチャンス等に創作性が認められる写真に限って肯定する)がありますが、判例の多くは限定説の立場から判決文を書いています。本件は、素人が撮影した平凡な商品写真であり、原審がこれを著作物と認めなかったのは限定説にたったものと思われます。
本判決は、写真がどのような撮影技法を用いて撮影されたかは写真自体からは知り得ず、写真から知りうるのは表現内容だけである、撮影技法のいかんを問わず写真の表現自体に創作性が認められる場合があると言っています。これは写真の著作物性は写真自体から判断すべきという意味で、妥当だと思います。そのうえで、本件のような素人の商品写真でも、被写体の組み合わせ、配置、構図、カメラアングル、光線、陰影、背景等にそれなりの独自性が表れているとして、著作物性を肯定しうる限界事例としながら著作物性を肯定しています。そのうえで、このように創作性の低い写真のときはそのままコピーして利用した場合に限定して複製権侵害を肯定すべきであるとして、本件はそのままコピーしたものであるから複製権侵害を肯定し、1万円の賠償を命じています。
素人がバカチョンカメラで撮影したような写真でも、撮影した写真から判断すると、被写体の選定や組み合わせ、配置には撮影者の独自性が表れるといえます。したがって本判決に従えば、ほとんどの写真が著作物性を認められるということになり、異論もあるでしょう。しかし、そのような写真でも撮影の時間や手間がかかっているのであり、それをそのままコピーして自己利用する行為が放任されるのはおかしいというのは正常な感覚だと思います。

商品写真無断掲載事件

他人のホームページに掲載されていた平凡な商品写真をコピーして自己のホームページに掲載したケースにおいて、侵害者自身が撮影してホームページに掲載することも容易であることに照らせば侵害者がどの程度の利益を得たかは不明であり、他社に使用させるときの使用料も不明であるとして、著作権法114条の5によって1万円の損害賠償を命じた事例 
判決、第一審横浜地裁平一六(ワ)二七八八、平一七・五・一七判決
(判タ一二三四・二九五)
参照条文 著作権法二条

事案の概要
 本件は、インターネット上のホームページで商品の広告販売を行うA社から営業権を譲り受けた控訴人(原告)が、被控訴人(被告)がA社のホームページに掲載の商品写真及び商品説明文を無断で自己のホームページに流用掲載したとして、被控訴人(被告)に対して著作権侵害に基づく損害賠償を請求した事件である。原審たる横浜地裁は原告の請求をすべて棄却したので、原告が控訴したのが本件である。控訴審では、商品説明文に関しては複製に当たらないとして控訴人の請求を棄却しているが、商品写真に関してはこれを著作物と認め、被控訴人が無断で複製して使用したとして1万円の損害賠償金の支払いを命じている。

判決の要旨〔変更〕
(1)逸失利益について
   本件各写真は本件ホームページで商品の広告販売を行うために作成されたものであり、同様にホームページで広告販売を行う会社である被控訴人らが、本件各写真を八か月間にわたり被控訴人ホームページに掲載して同一商品の広告販売を行ったことにより、A社には何らかの逸失利益の損害が生じたものと認められる。
 もっとも、被控訴人らが自ら同一商品の写真を撮影して被控訴人ホームページに掲載することは容易であり、本件各写真が被控訴人らの撮影した写真と比べて格別に優れているわけでもないことに照らせば、本件各写真を被控訴人ホームページに掲載したことにより被控訴人らがどの程度の利益を受けたのかは不明であり、また、本件各写真を他社に使用させる場合の使用料も不明である。
 したがって、本件においては逸失利益の額を証明することが極めて困難であるから、著作権法一一四条の五に基づき相当な損害額を認定するほかなく、その額については、上記事情も考慮して、一万円とするのが相当である。
(2)慰謝料について
   被控訴人らの複製権侵害行為により生じた損害は、前記(1)の損害に対する損害賠償によって回復されるのであって、本件事実関係の下においては、著作権侵害による慰謝料請求権が発生したということはできない。なお、控訴人の請求がA社の著作者人格権の侵害に基づく慰謝料請求権を譲り受けてなす請求を含むものであると解したとしても、被控訴人らの行為がA社の公表権、氏名表示権ないし同一性保持権を侵害することについての具体的な主張はなく、また、証拠上もこれらの侵害を基礎付ける事実は認め難いから、やはり慰謝料請求権が発生したとはいえない。



負荷率算出表事件

技術的知見ないしアイディアに独自性や新規性があるとしても、その技術的知見ないしアイディアを表現する方法は原告チャートの方法しかないのであるから、原告チャートには創作性がなく著作物とは認められないとされた事例
東京地裁平一六(ワ)一九八一六、負荷率算出表事件、平一七・一一・一七判決
判時一九四九・九五、判タ一二二七・三三二、戸波美代・判評五八三・二九)
参照条文 著作権法二条・一〇条

事案の概要
 原告は蒸気システム制御機器メーカーである英国法人であり、被告は弁および付属器具の製造、販売等を目的とする株式会社である。別紙目録(1)記載の図表(原告チャート(1))は、原告の職務に従事する英国人が昭和59年に作成したもので、別紙目録(2)記載の図表(原告チャート(2))はその日本語訳である。原告チャート(1)(2)は、図表の縦軸の左側が温度、右側がその温度に対応した蒸気圧力、横軸は負荷率をそれぞれ示しており、被加熱流体の入口温度、出口温度、加熱蒸気圧及び背圧の各数値を与えれば、この図表を使用して簡便にドレン滞留開始時の負荷率及びその時の外気温度を計測することができるというものである。別紙目録(3)ないし(5)記載の図表は原告チャート(1)(2)の使用例及びその説明文である。被告は、日本工業出版株式会社発行の雑誌「建築設備と配管工事」(2000年4月号)に小論文「空調機のドレン排除とドレン回収の方法」を掲載したが、同論文中の第10図とその説明文において、別紙目録(6)記載の図表及び説明文を使用した。本件は、原告が、原告チャート(1)ないし(5)について原告が著作権を有するところ、別紙目録(6)記載の図表及び説明文は原告チャート(1)ないし(5)の原告の著作権を侵害すると主張して、訴えを提起したものである。

判決の要旨〔一部認容・一部棄却〕
 飽和蒸気においては、圧力が変わるとそれに対する飽和温度(沸騰を始める温度)が変わり、両者の間には一定の関係が存在し、その温度と圧力が一対一で対応することは、自然科学上の法則にほかならないのであって、かかる法則を用いて、マトゥールチャートにおける縦軸の温度と圧力の目盛りを変更し、これを一対一で対応させて目盛り付けをすることにより、マトゥールチャートをより簡易なものとし、これにより、温度を基準として圧力をも連動的に捉えてドレン滞留点における負荷率を簡易に算出しようとすること自体は、技術的知見ないしアイデアにほかならないというべきである。そして、かかる技術的知見ないしアイデアに思い至った場合に、それを表現するに際しては、図表の縦軸における温度と圧力を一対一に対応させた目盛り付けを行うこと以外には表現の方法がないのであるから、原告チャートの図表の表現自体に創作性があるということはできない。すなわち、原告チャートを作成するに至った技術的知見ないしアイデア自体に独自性や新規性があるとしても、その技術的知見ないしアイデア自体波、著作権法により保護されるべきものと行くことはできず、著作権法は、その技術的知見ないしアイデアに基づいて個性的な表現方法が可能である場合に、個性的に具体的に表現されたものについてこれを保護するものであり、原告チャートについては、その技術的知見ないしアイデアそのものがそのまま表現されているものといわざるを得ない。
 このような技術的知見ないしアイデアに至った場合に、これをそのまま表現したものにすぎず、このような表現自体について創作性を見出すことはできない。そして、このように作成された原告チャートがマトゥールチャートに比べて簡便に使用できるということは、かかる技術的知見ないしアイデアを適用した結果によるものであるから、その表現の創作性を基礎付けるものということはできない。
 一次側の蒸気温度について入口温度から二次側の出口温度に至る温度変化を、原告チャートの使用目的を念頭において、計測上求められる厳格な数値ではなく、負荷率を変数とする一次関数で把握するということ自体は、自然科学上の法則を踏まえて、簡便に温度変化を把握するために、必要な範囲内でこれを採用し得る技術的知見ないしアイデアにほかならない。そして、かかる技術的知見ないしアイデアをチャート上に表現する場合には、チャート上の一次関数として表現することになるのであり、かかる一次関数は、著作物性の認められない原告チャート(1)の枠組みを前提として、所定の数値に対応する点や線を記入すれば、チャート上では必ず同じ表現に至るのであって、これを創作性のある表現ということはできない。したがて、原告チャート(3−1)に著作物性を認めることはできない。
 原告説明文(3−2)は、原告チャート(3−1)に示されるチャートの具体的作図方法を説明した文書であり、その説明に使用し得る用語や説明の順序、具体的記載内容については、多様な表現が可能なものであり、その説明文は、作成者の個性が表れた創作性のある文章であり、言語の著作物(著作権法一〇条一項一号)に該当するものと認めるのが相当である。

  解 説
 著作権法は自然法則の発見や技術的知見を保護するものではなく、それら自然法則や技術的知見の表現方法を保護するものですから、その表現方法が一しかないのであればその表現は自然法則や技術的知見そのものであって、著作権法では保護されません。




一般向け法律解説書事件

一般人向け法律の解説書において、既存著作物と同一性を有する部分が法令の内容や判例・学説によって当然導かれる事項である場合、手続きの流れや法令の内容等を法令の規定に従って整理したにすぎない図表である場合、法律問題に関する筆者の見解または一般的な見解である場合には、複製にも翻案にも当たらないとされた事例
東京地裁平一五(ワ)一二五五一(第一事件)、平一六(ワ)八〇二一(第二事件)、一般人向け法律解説書事件、平一七・五・一七判決
(判時一九五〇・一四七、判タ一二四三・二五九)
参照条文 著作権法二条・一九条・二〇条・二一条・二七条・一一二条・一一五条

事案の概要
  原告は弁護士であり、「図解でわかる 債権回収の実際」(原告文献1 平成14年7月25日初版発行)、「熱血選書 署名・捺印のすべてがわかる本」(原告文献2の1 同3年11月28日初版発行)、「新版印鑑・文書・契約の法律」(原告文献2の2 同7年10月19日初版発行)、「図解でわかる手形・小切手の実際」(原告文献3 平成14年7月25日初版発行)の著作者であり、著作権者である。原告文献はいずれも、法律の専門家ではない一般人向けに、図や表を多用し簡潔かつ平易な記述をもって解説する文献である。被告Y1は出版社であり、債権回収問題に関して、法律の専門家ではない一般人向けに図や表を多用し簡潔かつ平易な記述をもって解説する文献(被告文献1)を平成14年12月4日に、署名・捺印に関して、法律の専門家ではない一般人向けに図や表を多用し簡潔かつ平易な記述をもって解説する文献(被告文献2)を平成14年11月6日に、同じく署名・捺印に関して、法律の専門家ではない一般人向けに図や表を多用し簡潔かつ平易な記述をもって解説する文献(被告文献3)を平成15年2月5日に発行した。被告Y2は弁護士であり、被告各文献の監修者である。被告Y3〜Y5は被告各文献に監修者として表示された者であり、執筆を担当したものである。本件は、原告が、被告各文献が原告各文献の複製ないし翻案に当たるとして、出版社Y1、監修者Y2、著作者Y3〜Y5に対して被告各文献の差止め等の請求をしたものである。

判決の要旨〔一部認容・一部棄却〕
(1) 複製又は翻案に該当するためには、既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が、著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である(著作権法二条一項一号)。そして、「創作的」に表現されたというためには、厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく、筆者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが、他方、文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合には、筆者の個性が表現されたものとはいえないから、創作的な表現であるということはできない。
(2) 本件における原告各文献及び被告各文献のような一般人向けの法律問題の解説書においては、それを記述するに当たって、関連する法令の内容や法律用語の意味を整理して説明し、法令又は判例・学説によって当然に導かれる一般的な法律解釈や実務の運用等に触れ、当該法律問題に関する見解を記述することが不可避である。
 既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が法令や通達、判決や決定等である場合には、これらが著作権の目的となることができないとされている以上(著作権法一三条一ないし三号参照)、複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。そして、同一性を有する部分が法令の内容や法令又は判例・学説によって当然に導かれる事項である場合にも、表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎず、思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから、複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。
 また、手続きの流れや法令の内容等を法令の規定に従って図示することはアイデアであり、一定の工夫が必要ではあるが、これを独自の観点から分類し整理要約したなどの個性的表現がされている場合は格別、法令の内容に従って整理したにすぎない図表については、誰が作成しても同じような表現にならざるを得ない。よって、図表において同一性を有する部分が単に法令の内容を整理したにすぎないものである場合にも、思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから、複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。そのように解さなければ、ある者が手続きの流れ等を図示した後は、他の者が同じ手続の流れ等を法令の規定に従って図示すること自体を禁じることになりかねないからである。
さらに、同一性を有する部分が、ある法律問題に関する筆者の見解又は一般的な見解である場合は、思想ないしアイデアにおいて同一性を有するにすぎず、思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから、一般の法律書等に記載されていない独自の観点からそれを説明する上で普通に用いられる表現にとらわれずに論じている場合は格別、複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。ただし、ある法律問題についての見解自体は著作権法上保護されるべき表現とはいえず、これと同じ見解を表現することが著作権法上禁止されるいわれはないからである。
 そして、ある法律問題について、関連する法令の内容や法律用語の意味を説明し、一般的な法律解釈や実務の運用に触れる際には、確立した法律用語をあらかじめ定義された用法で使用し、法令又は判例・学説によって当然に導かれる一般的な法律解釈を説明しなければならないという表現上の制約がある。そのゆえに、これらの事項について、条文の順序にとらわれず、独自の観点から分類し普通に用いることのない表現を用いて整理要約したなど表現上の格別の工夫がある場合はともかく、法令の内容等を法令の規定の順序に従い、簡潔に要約し、法令の文言又は一般の法律書等に記載されているような、それを説明する上で普通に用いられる法律用語の定義を用いて説明する場合には、誰が制作しても同じような表現にならざるを得ず、このようなものは、結局、筆者の個性が表れているとはいえないから、著作権法によって保護される著作物としての創作性を認めることはできないというべきである。よって、上記のように表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎない場合には、複製にも翻案にも当たらない。
 他方、表現上の制約がある中で、一定以上のまとまりを持って、記述の順序を含め具体的表現において同一である場合には、複製権侵害にあたる場合があると解すべきである。すなわち、創作性の幅が小さい場合であっても、他に異なる表現があり得るにもかかわらず、同一性を有する表現が一定以上の分量にわたる場合には、複製権侵害に当たるというべきである。

一般人向け法律解説書事件

書籍の監修者は、出版物の権威づけのために名義のみ貸すにすぎない場合、単に表現上の軽微な事項や内容的に不適切な点を指摘するにすぎない場合は、著作権侵害についての共同不法行為責任を負わないとされた事例
東京地裁平一五(ワ)一二五五一(第一事件)、平一六(ワ)八〇二一(第二事件)、一般向け法律解説書事件、平一七・五・一七判決
(判時一九五〇・一四七、判タ一二四三・二五九)
参照条文 著作権法二条・一九条・二〇条・二一条・二七条・一一二条・一一五条

事案の概要
 原告は弁護士であり、「図解でわかる 債権回収の実際」(原告文献1 平成14年7月25日初版発行)、「熱血選書 署名・捺印のすべてがわかる本」(原告文献2の1 同3年11月28日初版発行)、「新版印鑑・文書・契約の法律」(原告文献2の2 同7年10月19日初版発行)、「図解でわかる手形・小切手の実際」(原告文献3 平成14年7月25日初版発行)の著作者であり、著作権者である。原告文献はいずれも、法律の専門家ではない一般人向けに、図や表を多用し簡潔かつ平易な記述をもって解説する文献である。被告Y1は出版社であり、債権回収問題に関して、法律の専門家ではない一般人向けに図や表を多用し簡潔かつ平易な記述をもって解説する文献(被告文献1)を平成14年12月4日に、署名・捺印に関して、法律の専門家ではない一般人向けに図や表を多用し簡潔かつ平易な記述をもって解説する文献(被告文献2)を平成14年11月6日に、同じく署名・捺印に関して、法律の専門家ではない一般人向けに図や表を多用し簡潔かつ平易な記述をもって解説する文献(被告文献3)を平成15年2月5日に発行した。被告Y2は弁護士であり、被告各文献の監修者である。被告Y3〜Y5は被告各文献に監修者として表示された者であり、執筆を担当したものである。本件は、原告が、被告各文献が原告各文献の複製ないし翻案に当たるとして、出版社Y1、監修者Y2、著作者Y3〜Y5に対して被告各文献の差止め等の請求をしたものである。

判決の要旨〔一部認容・一部棄却〕
 一般に、監修とは、書籍の著述や編集を監督することといわれるが(広辞苑第五版六〇〇頁)、監修者としての関与の程度には、出版物の権威付けのために名義のみを貸すにすぎないものあるいは単に表現上の軽微な事項や内容的に不適切な点を指摘するものから、監修者自ら内容を検討し、相当部分について加筆補正するなど、監修者が著作物の実質的な内容変更を行うものまでさまざまな形態が考えられる。後者の場合のように、本来の著作者とともに共同著作者とともに共同著作者と評価され得る程度に関与している場合は、監修者も著作者とともに著作権侵害について共同不法行為による損害賠償責任を負う場合があるというべきであるが、監修者としての関与の程度が出版物の権威付けのために名義のみを貸すにすぎない場合又は単に表現上の軽微な事項や内容的に不適切な点を指摘するにすぎない場合は、特段の事情がない限り、共同不法行為責任を負わないというべきである。




計装士講習資料事件

同一性保持権の侵害となる改変は、著作者の立場、著作物の性質等から、社会通念上著作者の意に反すると客観的に判断される場合であって、明らかな誤記の訂正などについてはそもそも改変に該当しないとされた事例
東京地裁平一七(ワ)一七二〇号、計装士講習資料事件、平一八・二・二七判決(判時一九四一・一三六)
参照条文 著作権法一九条・二〇条・二四条

事案の概要
被告Y2は、計装工事業に関する諸問題について調査研究等をおこなうことを目的とする社団法人であり、計装士の技術維持のための講習(本件講習)を主催している。被告Y1は計装工事業を営む会社であって、Y2の会員である。原告Xは、Y1の元従業員であって、Y1に在職中の平成10年度から同12年度までの間、Y2の依頼を受けて本件講習の講師を務め、講習資料(講習資料1・10年度資料、11年度資料、12年度資料)を作成した。その後Xは講師を辞め、後任としてY1従業員のAが平成13年度、同14年度の講師を務めた。Aは、講習資料(講習資料2)の作成にあたって、12年度資料の大部分の記述をそのまま用いて13年度資料を作成し、それを基にして14年度資料を作成して講習に使用した。また、Y2は講習資料2を受講者に配布した。
   Xは、Y1がその従業員Aをして講習資料1の複製等によって講習資料2を作成させ、Y2が講習資料2を配布するなどして、Yらは共同して、Xの著作権(複製権、口述権)を侵害したと主張して、損害賠償等を請求した。
 本件の論点は、@講習資料1は職務著作としてY1が著作者となるか、A講習資料1を複製することをXは許諾していたか、B講習資料1にかかる同一性保持権の侵害があるかである。

Y2社団法人
       ・・・・・
 会員  ・・・・・
        Y1会社

⇒ 講習を主催
  講師X(Y1従業員)−10年度資料〜12年度資料を作成
     ↓
    講師A(Y1従業員)−12年度資料を複製、変更して、13年度、14年度資料を作成

判決の要旨〔棄却〕
ア 著作者の有する同一性保持権は、著作物が、著作者の思想又は感情を創作的に表現したものであり、それによって、著作者に対する社会的な評価が与えられることから、その同一性を保持することによって、著作者の人格的な利益を保護する必要があるとして設けられているものであり、「意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。」(著作権法二〇条一項)という文言でその趣旨が表現されているものと解される。そして、意に反するか否かは、著作者の立場、著作物の性質等から、社会通念上著作者の意に反するといえるかどうかという客観的観点から判断されるべきであると考えられる。そうすると、同一性保持権の侵害となる改変は、著作者の立場、著作物の性質等から、社会通念上著作者の意に反するといえる場合の変更がこれに当たるというべきであり、明らかな誤記の訂正などについては、そもそも、改変に該当しないと解されるところである。
 本件で同一性保持権侵害の有無が問題となっている一二年度資料は、維持講習の「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする講習の資料であり、計装士の資格を有する者に対して、講習内容についての事実を正しく伝え、また、関連する最新の情報を伝えるとともに、講演者の個性ではなく当該分野での経験に基づく専門知識を伝達することが期待され、予定されている性質のものである。さらに、五年間同一のテーマで行われる維持講習の資料であって、合綴されて講習資料集としてまとめられるという性質上、他の年度の講習資料と分量的な差異がそれほど生じないようにすることも求められていると解される。そして、次年度の資料作成のため複製が許諾される場合には、講演の時期に合わせた修正がなされること、用語などについても、当該分野で一般的に用いられている最新のものを選択することがもとめられているものである。以上に加えて、著作者である原告も、同様に維持講習を受けた経験を有し、既に二年間維持講習の講師を務めているのであるから、上記のような客観的事情を十分認識して、講習資料を作成したものであると推認される。
イ また、アで検討した事情は、同一性保持権侵害の例外として認められる「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」(著作権法二〇条二項四号)に該当するか否かにおいても、同様に考慮されるべきものであると解される。
ウ そこで、このような、一二年度資料についての性質、著作権者である原告の立場を踏まえ、個々の変更箇所について検討する。
(ア) 変更箇所一覧表の番号一
    この部分は、目次の記載であり、目次の性質上、本文の内容を反映させるものであるから、この部分のみをもって改変であるということはできない。
    そこで、対応する本文の変更部分についてみると、後期(イ)、(ウ)及び(ク)のとおり、いずれも、同一性保持権を侵害するものではないから、目次の変更は、本文の変更に伴うやむを得ない改変に当たるというべきである。
(イ) 変更箇所一覧表の番号二
この部分の変更のうち、「ハセップ」から、「ハサップ」への変更は、一般的な読み方を示す言葉への置換えであり、「国際化・デジタル化」から「IT化」への変更についても、より一般的に用いられている用語への置換えにすぎず、いずれも、改変とはいえない。
一三年度資料及び一四年度資料の「空調計装分野では」から始まる段落部分の変更については、抽象的、専門的な表現から、より平易な表現への置換えにすぎず、また、一四年度資料の「深化を更に」の追加変更については、単に表現を分かりやすくしたものにすぎず、同様に、改変とはいえない。
(ウ) 変更箇所一覧表の番号三
    一二年度資料の該当部分は、「電気と工事」一九八八年四月号一〇三ページの「ゼロエミッションとCOP3」の一部を転載したもので、原告の創作に係る部分ではないから、原告において同一性保持権侵害を主張することはできない(なお、変更が加えられている一三年度資料及び一四年度資料の該当箇所の前半部分は、単に表現を平易にしたものであるし、後半部分は、環境対策に関する最新情報を盛り込んだものであり、前記ア及びイで検討したとおり、一二年度資料の性質、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習の資料に用いるという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解されるのであるから、いずれにしても、同一性保持権を侵害するものではない。)
(エ) 変更箇所一覧表の番号四
    この部分の変更は、地球温暖化に関する最新情報を盛り込んだものであり、一二年度資料の性質、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習の資料に用いるという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解され、同一性保持権を侵害するものではない。
(オ) 変更箇所一覧表の番号五
    この部分の変更のうち、一三年度資料及び一四年度資料の「氷蓄熱システム製氷時と昼間追い掛け運転時では・・・氷蓄熱では蓄熱率四〇%(蓄熱四〇+昼間追い掛け六〇=一〇〇)となる。」の部分及び「それぞれの方式の一般的な特徴としては、・・・最適なシステムを選定することが肝要である。」の部分は、いずれも、当該分野における最新情報を加えたり、説明事項を追加しているものであり、一二年度資料の性質、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習の資料に用いるという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解され、同一性保持権を侵害するものではない。
    その他の変更は、単に表現を平易にするものであり、改変には該当しない。
(カ) 変更箇所一覧表の番号六
この部分の変更のうち、一三年度資料及び一四年度資料の「(1)CGSとは」の部分の記載、「現在、CGSに使われている原動機には@ガスタービン、Aガスエンジン、Bディーゼルエンジン、C燃料電池などがある。一般的には、発電主体の小・中規模施設にはエンジンを」の部分、「他方最近では、・・・表三・一にマイクロガスタービンのラインナップを示す。」の部分及び表三・一は、いずれも当該分野における最新情報を盛り込んだものであり、一二年度資料の性質、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習の資料に用いるという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解され、同一性保持権を侵害するものではない。
その他の変更は、単に表現を平易にするものであり、改変には該当しない。
(キ) 変更箇所一覧表の番号七
    この部分の変更は、記述順序を変えて、重複する表現を一部省略したものであり、改変とはいえない。
(ク) 変更箇所一覧表の番号八
    この部分の変更は、「ハセップ」を「ハサップ」と変更するものであり、一般的な読み方を示す言葉への置換えであるにすぎないから、改変には当たらない。
(ケ) 変更箇所一覧表の番号九
    この部分の変更は、一四年度資料についてのみ該当するところ、当該分野における最新情報を加えたものであり、一二年度資料の性質、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習の資料に用いるという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解され、同一性保持権を侵害するものではない。
(コ) 変更箇所一覧表の番号一〇
      この部分の変更は、空調設備と計装技術の整合性の確保に関して紹介する具体例を三つから二つに減少させたものであるが、資料の一部に最新情報を追加したことなどに伴い、資料全体のページ数を増やさないために行われたものであるから、一二年度資料の性質、一二年度資料と分量的にもそれほど差異がないものを作成することが客観的に求められている本件講習の資料として作成するという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解され、同一性保持権を侵害するものではない。
(サ) 変更箇所一覧表の番号一一
    この部分の変更は、当該分野における最新情報を盛り込んだものであり、一二年度資料の性質、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習の資料に用いるという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解され、同一性保持権を侵害するものではない。
(シ) 変更箇所一覧表の番号一二
    この部分の変更のうち、「ブロードバンド」の記載を追加した部分は、最新情報を追加したものであり、その他の変更部分は、単に表現を平易にしたものにすぎず、いずれも、改変とはいえない。
(ス) 変更箇所一覧表の番号一三
    この部分の変更は、いずれも、当該分野の最新情報を盛り込んだものであり、一二年度資料の性質、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習の資料に用いるという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解され、同一性保持権を侵害するものではない。
(セ) 変更箇所一覧表の番号一四
    この部分の変更のうち、一三年度資料の「2)BACnet TM」における「しかし、現時点においては・・・期待されている。」の部分並びに一四年度資料の「2)BACnet TM」における「しかし、現時点においては・・・実際の現場でも多数の施工事例が進行中である。」の部分及び「3)その他」における「また、FA分野で使用されているINTOUCH、FIX等のSCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)ソフト+OPC(OLE for Process Control)技術によるオープンシステムをBA分野に利用する試みも行われている。」の部分は、いずれも、当該分野の最新情報を盛り込んだものであり、一二年度資料の性質、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習の資料に用いるという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解され、同一性保持権を侵害するものではない。
    その他の変更部分は、単に表現を平易にしたものにすぎず、いずれも、改変とはいえない。
(ソ) 変更箇所一覧表の番号一五
    この部分の変更のうち、一三年度資料の「2)SIの課題」「C国内にオープン化対応品の品揃えが少ない」における「対応製品は日々増加しているが、今後国産品はもちろん海外製品の輸入が増えたり、国内ベンダと海外ベンダの技術提携・業務提携などが増えたりして価格競争が進むことが予想される。」、「対応製品は、インバータや自動弁などで開発が進みつつある。」、「また、LONMARK会員企業数は、二〇〇一年七月現在、全世界で三一〇社以上となっている。(http://www.lonmark.org英語のウェブサイト)」及び「BACnetまたはBAS標準インターフェース対応品は、メーカ各社で実際の製品が出荷されつつあり今後一層製品ラインナップが増加するものと思われる。」の各部分並びに一四年度資料の「2)SIの課題」「Cオープン化対応品の品揃えがまだ少ない」における「前述のエシェロン社のWebページなどに情報がある。対応製品は日々増加しているが、今後国産品はもちろん海外製品の輸入が増えたり、国内ベンダと海外ベンダの技術提携・業務提携などが増えたりして価格競争が進むことが予想される。」、「対応製品は、インバータや自動弁などで開発が進みつつある。」、「また、LONMARK会員企業数は、二〇〇二年六月現在、日本企業が二三社、外国企業は二七〇社以上となっている。(http://www.lonmark.gr.jp/)」及び「BACnetまたはBAS標準インターフェース対応品は、多くの現場で施工中であり、今後一層製品ラインナップが増加するものと思われる。」の各部分は、いずれも、当該分野の最新情報を盛り込んだものであり、一二年度資料の性質、「空調技術の最新動向と計装技術」をテーマとする本件講習の資料に用いるという利用の目的及び態様から、やむを得ない改変に当たると解され、同一性保持権を侵害するものではない。
    その他の変更部分は、単に表現を平易にしたものにすぎず、いずれも、改変とはいえない。

解 説
 過去の判例において、同一性保持権侵害とされた例としては、写真、挿絵の配列の一部変更(アニメーションスクール事件)、目次の削除、あとがきの日付及び一文の削除、付録の削除、引用文言の削除、振り仮名の変更、句読点の削除、変更、改行(法政大学懸賞論文事件控訴審。同事件の原審は、振り仮名の変更、句読点の削除、変更、改行は同一性保持権侵害に当たらないとしています)、短歌に読点を2箇所加えた(連合赤軍あさま山荘事件)、写真をトリミングによって上下及び左右の一部を切除、写真に文字を重ねて掲載(イルカ事件)、ゲームソフト「トキメキメモリアル」のヒロインを男子生徒と性行為を繰り返す姿に改変(トキメキメモリアル事件2)、絵画のわずかな改変(江戸商売図絵事件)、ひらがなの漢字への変換、「?」から「。」への変換、軽微な文章の一部削除・加筆・変更(家庭用学習教材事件)、題号を切除して翻訳利用、誤訳、翻訳すべき語を翻訳していない、意訳の範囲を超える(XO醤男と杏仁女事件)例があり、同一性保持権侵害を否定した例としては、映画をテレビ化するに際してトリミングして画面の左右を削除(スゥィートホーム事件)、応募俳句を添削して雑誌に掲載(俳句添削事件)、他人の著作物を趣旨を変えて引用(ファム・ヴァン・コー事件)、ダイジェスト引用(血液型と性格の社会史事件)、人物の顔に目線を施して引用、文字の一部を丸で囲みこの丸を欄外に導く線を付加(ゴーマニズム宣言事件)例があります。
同一性保持権は著作者の人格権として認められた権利ですから、著作者が不快に感じるかどうかが判断要素となるべきですが、それは著作者の主観のみで判断するのではなく客観的に判断すべきだと思います。客観的にみて一般人がそれほど不快に感じるものでないのなら、特定の著作者が不快に感じたとしても同一性保持権の侵害と認める必要はないと思います。特許法等の産業財産権法では創作者の人格権は認められておらず、人格権を認めるのは著作権法に固有のものですが、行き過ぎになってはならないと思います。そして、客観的にみて著作者が不快に感じるといえるのは、創作部分を意図的に改変した場合が典型的であり、それ以外の配列の一部変更、目次の削除、振り仮名や句読点の変更、改行程度は同一性保持権侵害と認めるべきではないし、誤訳や誤記のような過失もこれに当たらないといってよいと思います。この点について、本判決では、著作者の立場、著作物の性質等から、社会通念上著作者の意に反するといえるかどうかを客観的観点から判断すべきであって、明らかな誤記の訂正などについてはそもそも改変に該当しないと言っていますが、妥当だと思います。
そして、本判決は、次のとおり、過去の判例と比較してかなり広く同一性保持権侵害にならない範囲を広く認めています。これほど広く同一性保持権侵害にならない範囲を認めたのは、著作物が、講演者の個性ではなく当該分野での経験に基づく専門知識を伝達することが期待され、予定されており、5年間同一テーマで行なわれる維持講習の資料であって、合綴されて講習指導集としてまとめられること、他年度の講習資料との間で分量的差異がそれほど生じないようにすべきこと、一般に用いられる最新の用語を選択することが求められるといった著作物の性質、さらにそういう著作物の性質を原告自身も知悉していた事情が考慮されたものです。

変更点 同一性保持権侵害と認めない理由
目次の変更 本文の変更に伴うやむをえない改変である
・「ハセップ」→「ハサップ」
・「国際化・デジタル化」→「IT化」
一般的に用いられている用語への置換である
  抽象的、専門的表現から、より平易な表現への置き換えである
  最新情報を盛り込んだだけ 説明事項を追加しただけである
  記述順序を変えて、重複する表現を一部省略しただけであって、改変ではない
照会する具体例を3つから2つに減少 最新情報を追加したことなどに伴い、資料全体のページ数を増やさないための改変である



浮世絵模写事件(2)

模写作品は、原画の創作的表現とは異なる模写制作者による新たな創作的表現が付与されている場合に限り、原画の二次的著作物として著作物性を有するとして、江戸時代に制作された浮世絵の模写作品1点の著作物性が否定された事例
東京地裁平一七(ワ)二六〇二〇号、浮世絵模写事件(2)、平一八・五・一一判決(判時一九四六・一〇一)
参照条文 著作権法二条・一〇条・一九条・二〇条・二一条・一一二条・一一四条

事案の概要
Zは、吉川英治文学賞を受賞したことのある江戸風俗の研究家であり、江戸時代に制作された本件原画を参考として、それを模写して原告絵画目録1〜4記載の原告絵画を制作し、それを「定本江戸商売図絵」(昭和61年5月15日発行)に収録した。被告は豆腐の製造販売業者であり、平成4年10月頃から、豆腐のパッケージにZに無断で原告絵画を印刷して使用した。そこで、Zは、平成17年3月12日に被告に対して著作権侵害の警告をしたために、被告は同月18日からは原告絵画の使用を中止した。そして、同年6月15日にZが死亡した後、Zの長男である原告が著作権と被告に対する損害賠償請求権を相続承継して、被告に対して訴訟を提起した。

判決の要旨〔棄却〕
 機会や複写紙を用いて原画を忠実に模写した場合には、模写制作者による新たな創作性の付与がないことは明らかであるから、その模写作品は原画の複製物にすぎない。また、模写制作者が自らの手により原画を模写した場合においても、原画に依拠し、その創作的表現を再現したにすぎない場合には、具体的な表現において多少の修正、増減、変更等が加えられたとしても、模写作品が原画と表現上の実質的同一性を有している以上は、当該模写作品は原画の複製物というべきである。すなわち、模写作品と原画との間に差異が認められたとしても、その差異が模写制作者による新たな創作的表現とは認められず、なお原画と模写作品との間に表現上の実質的同一性が存在し、原画から感得される創作的表現のみが模写作品から覚知されるにすぎない場合には、模写作品は、原画の複製物にすぎず、著作物性を有していないというべきである。
 上記のとおり、原告絵画を本件原画と比較すれば、原告絵画が本件原画の模写作品であるため、江戸時代の豆腐屋の店先における日常の出来事を躍動的に描こうとした本件原画の特徴的な表現をそのまま再現しているものというべきであり、その間に実質的同一性があることは明らかである。そして、次に述べるとおり、原告絵画においては、本件原画にはない創作的な表現が付加されていすものと認めることはできない。
 原告絵画においては、確かにこれを詳細に見れば、本件原画における、男性の頭が肩にめり込み、怒り肩になっていた浮世絵に特徴的な誇張的表現を、首のめり込む程度を若干減らし、怒り肩も若干盛り上がりを抑えた表現で描かれているものの、全体的に見ると両者の差異は細部における僅かなものであり、これを原告絵画における創作的な表現とみることは到底できないものである。また、原告絵画においては、女性に背負われた幼児の頭が反り返った程度が、若干抑えられて描かれているものの、これにより、石臼をひくために前傾姿勢を取っている女性と首を後ろに傾かせて寝ている幼児とのバランスに特段の変化が生じているということもできず、これを原告絵画における創作的な表現とみることもできない。さらに、画面右側上部の奥座敷に座り、油揚げをあげている老婆については、本件原画より原告絵画の方が若干小さく描かれているほか、顔のしわなどの描写が多少簡略化して描かれているものの、顔のしわの描写については単に簡略化されただけであるとの印象を否定することはできず、老婆の体の大きさがやや小さめに描かれているとしても、その姿態から着物の柄に至るまで実質的に同一であり、そこに何らかの創作的な表現が付加されたことを肯定することはやはり困難である。またさらに、豆腐屋の店舗の様子についても、画面左下にある豆腐を入れる箱の上部四隅の金具、屋根、屏風の色ないし明暗、及び登場人物の着物の色などにおいて、異なる部分があるものの、これらは原告絵画において、精密な描写を省略し、若干の簡略化がなされたという程度のものであると印象を否定することはできず、そこに何らかの創作的な表現が付加されたものということはできない。




まねきTV仮処分事件

利用者からロケーションフリーテレビの構成機器であるベースステーションを預り、環境を設定して、利用者がインターネット回線を通じてテレビ番組を視聴できるサービスは、送信可能化権の侵害には当たらないとされた事例
東京地裁平一八(ヨ)二二〇二七号、まねきTV処分事件、平一八・八・四決定(判時一九四五・九五)
参照条文 著作権法二条・九九条の二・一一二条

事案の概要
 債権者はNHKで、債務者は電気通信事業等を目的とする株式会社である。債権者は、別紙放送目録記載の放送(本件放送)について送信可能化権等の著作隣接権を有している。債務者は、「まねきTV」という名称で、利用者がインターネット回線を通じてTV番組を視聴できるようにするサービス(本件サービス)を提供している。本件サービスは、ソニー製の商品名「ロケーションフリーテレビ」の構成機器であるベースステーションを用い、インターネット回線に常時接続する専用モニター又はパソコンを有する利用者が、インターネット回線を通じてTV番組を視聴できるものである。本件は、債権者が、債務者に対して、本件サービスが本件放送にかかる債権者の送信可能化権を侵害していると主張して、本件サービスの停止を求めたものである。

決定の要旨〔却下〕
(3) 送受信の主体
   ア 以上によれば、本件サービスは、利用者の所有するベースステーションを債務者の事務所に設置保管して、放送波を受信するものではあるが、それに使用される機器の中心をなすベースステーションは、名実ともに利用者が所有するものであり、その余は汎用品であって、特別なソフトウェアも使用していないものであるから、放送波は、利用者が各自の所有するベースステーションよって受信しているものといわざるを得ない。
     なお、債権者との視聴契約も利用者が行うことになっており、債務者は同契約に関与しないことからも、本件放送の受信者は利用者である。
   イ 本件サービスにおいては、@ それに使用される機器の中心をなし、そのままではインターネット回線に送信できない放送波を送信可能なデジタルデータにする役割を果たすベースステーションは、名実ともに利用者が所有するものであり、その余は汎用品であり、本件サービスに特有のものではなく、特別なソフトウェアも使用していないこと、A 一台のベースステーションから送信される放送データを受信できるのはそれに対応する一台の専用モニター又はパソコンにすぎず、一台のベースステーションから複数の専用モニター又はパソコンに放送データが送信されることは予定されていないこと、B 特定の利用者のベースステーションと他の利用者のベースステーションとは、全く無関係に稼働し、それぞれ独立しており、債務者が保管する複数のベースステーション全体が一体のシステムとして機能しているとは評価し難しいものであること、C 特定の利用者が所有する一台のベースステーションからは、当該利用者の選択した放送のみが、当該利用者の専用モニター又はパソコンのみに送信されるにすぎず、この点に債務者の関与はないこと、D 利用者によるベースステーションのアクセスに特別な認証手順を要求するなどして、利用者による放送に視聴を管理することはしていないことに照らせば、ベースステーションにおいて放送波を受信してデジタル化された放送データを専用モニター又はパソコンに送信するのは、ベースステーションを所有する本件サービスの利用者であり、ベースステーションからの放送データを受信する者も、当該専用モニター又はパソコンを所有する本件サービスの利用者自身であるということができる。
      そうすると、本件サービスにおけるベースステーションがインターネット回線を通じて専用モニター又はパソコンに放送データを送信することを債務者の行為と評価することは困難というべきであって、かかる送信は、利用者自身が自己の専用モニター又はパソコンに対して行っているとみるのが相当である。
   ウ 以上のとおり、本件サービスにおいては、利用者が自己の所有するベースステーションによって、放送波を受信し、自己の専用モニター又はパソコンから視聴したい放送を選択し、当該放送を上記ベースステーションによってデジタルデータ化した上、上記専用モニター又はパソコンに対し、デジタルデータ化した放送データを送信しているものである。
     これを利用者の立場からみれば、ソニー製のロケーションフリーテレビを債務者に寄託することにより、その利用が容易になっているにすぎない。
(4) 自動公衆送信装置について
   ア 債権者はベースステーションが自動公衆送信装置に当たる旨主張する。
     しかしながら、まず、「自動公衆送信装置」とは、「公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置」である(著作権法二条一項九号の五イ)。
     そして、「自動公衆送信」とは、「公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)であり(同項九号の四)、また「公衆送信」とは、「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(有線電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(中略)を除く。)を行うこと」をいう(同項七号の二)
     ここで、同法二条五項は、「公衆」には、「特定かつ多数のものを含むものとする。」と定めているから、送信を行う者にとって、当該送信行為の相手方(直接受信者)が不特定又は特定多数の者であれば、「公衆」に対する送信に当たるということができる。
   イ 前記の(3)のように、本件サービスにおけるベースステーションからの放送データの送信の主体を債務者と評価することはできないから、ベースステーションによる放送データの送信は、一主体(利用者)から特定の一主体(当該利用者自身)に対してされたものである。そうすると、ベースステーションによる送信は、不特定又は特定多数の者に対するものとはいえず、これおもって「公衆」に対する送信ということはできない。
     したがって、本件サービスにおける個々のベースステーションは、「自動公衆送信装置」には当たらない。
     よって、債務者がインターネット回線に接続されているベースステーションを分配器に接続して放送波が入力されるようにすることは著作権法二条一項九号の五イに当たらないし、同分配機に接続されているベースステーションをインターネット回線に接続することは同ロに当たらないというべきである。
(5) 債権者の主張(2)について
   ア 債権者は、債務者が、(a)既にインターネット回線に接続されているベースステーションに放送波を入力し、同時に、(b)既に放送波が入力されているベースステーションをインターネット回線に接続して、利用者が当該放送を視聴し得る状態にしていることが、物理的に、それぞれ著作権法二条一項九号の五イの「情報を入力すること」及びロの行為に当たる旨主張する。
   イ しかしながら、まず、前記(4)のとおり、本件サービスにおけるベースステーションは、「自動公衆送信装置」に当たるとはいえない。
   ウ また、送信可能化とは、著作権法二条一項九号の五イ又はロの行為により「自動公衆送信し得る」ようにすることをいう(同号柱書)。よって、送信可能化について権利侵害に問われるべき者は、「自動公衆送信し得る」状態にない放送を「自動公衆送信し得る」状態にしたいといえることが必要である。
     上記(a)について検討すると、「自動公衆送信し得る」のはデジタルデータ化された放送データのみであり、アナログのままの状態ではインターネット回線を通じて「送信」することができないから、仮にアナログの放送波がベースステーションに流入しているとしても、その放送波の流入によっては、同号柱書の「自動公衆送信し得る」ようにしたものとはいえない。また、放送データは、利用者の選択があった場合のみ送信し得る状態になり、デジタルデータ化するのは利用者が所有するベースステーションであることからすれば、債務者が利用者の選択によることなく放送データをベースステーションに入力しているということはできない。そして、利用者が選択しない限り本件放送がデジタルデータ化されていることを認めるに足りず、仮にそれがデジタルデータ化されているとしても、利用者から選択がされない以上、その放送データは送信されることのないものであるから、「自動公衆送信し得る」ようにしたとはいえない。
     上記(b)については、ベースステーションをインターネット回線に接続した結果、利用者が選択した放送データのみを当該利用者自身が所有するベースステーションから自己の専用モニター又はパソコンに送信しているのであって、特定の一主体に送信しているといわざるを得ないから、「自動公衆送信し得る」ようにしたとはいえない。なお、債務者がベースステーションをインターナット回線に接続することは、利用者に代わって、その手足として行っているものである。
   エ そして、ベースステーションから専用モニター又はパソコンへの放送データの送信が「公衆」に対するものとはいえないことも、前記のとおりであるから、債務者が「自動公衆送信し得る」ようにしたということはできない。
   オ 以上のとおり、債務者が送信可能化を行っているとの債権者の主張は、理由がない。

解 説
1 ソニー製「ロケーションフリーテレビ」とは
  「ロケーションフリーテレビ」は、外出先や海外でもテレビ放送の視聴を可能にする機能を有する装置です。
2 本件サービスの概要
  本件サービスで使用されるソフトウェアは、いずれもソニーが開発したものであって債務者が独自に準備したものはありません。また本件サービスを構成する機器類は、ベースステーションは利用者の所有物であり、それ以外の機器類はすべて汎用品で本件サービスに固有のものはありません。
 @ ベースステーション
テレビチューナーを内蔵し、テレビアンテナから入力されたアナログの放送波をデジタルデータ化し、対応する専用モニター又はパソコンからの指令に応じて、インターネット回線を通じて当該モニター又はパソコンへ上記デジタルの放送データを自動的に送信する機能を有します。
 A 分配器
   放送波を各ベースステーションに供給するための分岐点の役割を果たします。
 B ハブ
   一つ以上のLAN回線を束ねる役割を果たします。
 C ルーター
   ハブとインターネット回線の間に介在して、相互の信号やデータの割振りを行ないます。
3 本件サービスの利用手順
 @ 本件サービスへの加入手順
   利用希望者は、債務者のホームページにアクセスして利用申込を行い、ロケーションフリーテレビを購入して、それを債務者のデータセンターに送付または持参して預けます。入会金は3万1500円で、月額利用料金は5040円です。
 A ベースステーションの設置、専用モニターの発送
   債務者は、申込者から送付されたロケーションフリーテレビのうち、ベースステーションを債務者の事務所に設置し、必要な設定をしてインターネット回線に接続します。さらに、専用モニターが他の場合は、専用モニターを申込者に発送します。
 B 債務者と利用者との契約
   債務者と利用者間の契約には、本件サービスは利用者が単独あるいは同一世帯内で有料サービスを受けるためのものであり、不特定多数の視聴の用に供してはならないこと、利用者が放送番組の著作権及び著作隣接権を侵害するおそれがあるときは契約の解除ができること等の定めがあります。
     以上のとおり、本件サービスは、債務者が、利用者からベースステーションを預り、必要な環境を設定して、放送波をインターネット回線を通じて利用者が視聴可能とするものです。
4 判決が債務者の行為を送信可能化権の侵害に当たらないとした理由
  判決が債務者の行為を送信可能化権の侵害に当たらないとした理由は、ベースステーションが自動公衆送信装置に当たらないとしたからです。「自動公衆送信装置」とは、公衆の用に供する電気通信回線に接続することによって、情報を自動公衆送信する機能を有する装置ですが(著作権法2条1項9号の五イ)、「自動公衆送信」とは、公衆送信のうち公衆からの求めに応じて自動的に行なうものであり(同項9号の四)、「公衆送信」とは、公衆によって直接受信されることを目的とする送信ですから(同項七号の2)、公衆に対して送信しない限り「自動公衆送信装置」にはあたりません。
  ところが、判決は、本件サービスにおいて、ベースステーションで放送波を受信して専用モニターまたはパソコンに送信するのは利用者であり、ベースステーションからの放送データを受信する者も利用者であり、つまり、ベースステーションは公衆に対して送信していないから「自動公衆送信装置」にあたらないとしました。そのように考える骨子は、本件サービスにおいては、@ ベースステーションは利用者の所有物であり、その余の機器は汎用品であって本件サービスに特有の機器を使用しないこと、A 1台のベースステーションからは、当該利用者の選択した放送データのみが当該利用者の専用モニターまたはパソコンに送信されること、B ベースステーション相互間はまったく独立していて、一体のシステムとなっていないこと、C 債務者は、ベースステーションを介した送信にまったく関与しておらず、利用者による放送の利用を管理していないことをあげています。つまり、債務者は、利用者からベースステーションを預って、利用者の代わりに環境を設定するだけであって、実際に放送波を受信して、それをデジタル化してインターネット回線を通して送信するのは利用者自身であるとしたものです。
  録画ネット事件では、債務者が、システム構成の全てを調達、設定、管理し、特別の機器やソフトウェアを用意してシステム全体を管理していましたが、本件はこれとまったく事情が異なり、送信主体は利用者自身であるとしました。




「ローマの休日」等激安DVD事件

昭和二八年に公表された映画の著作物は、著作権の保護期間を公表後70年に延長する旨の改正法の適用がなく、平成一五年一二月三一日の終了によって満了するとされた事例
東京地裁平一八年(ヨ)二二〇四四、「ローマの休日」等激安DVD事件、平一八・七・一一決定(判時一九三三・六五、判タ一二一二・九三)
参照条文 著作権法六条・二一条・二六条・一一二条、旧著作権法五四条・五七条・附則一条・附則二条(平一五法八五改正前)、民法一四〇条・一四一条・一四三条

事案の概要
 本件は「ローマの休日」等の昭和二八年に公開された映画の著作権の存続期間が満了したか否かが争われた事件である。
 債務者が「ローマの休日」等の映画を複製したDVD商品(本件DVD)を、保護期間の満了したパブリック・ドメインに帰属する著作物として格安販売していたところ、債権者は、著作権侵害を理由として、本件DVDの製造販売の仮処分を申立てた。争点は、映画著作物の著作権の存続期間を公表後七〇年に延長する改正法の附則二条の解釈である。

決定の要旨
 本件映画の保護期間の終期の計算については、本件映画が公表された日の属する年の翌年である昭和二九年から起算する(著作権法五七条)。そして、改正前の著作権法五四条一項によれば、映画の著作物の著作権は、公表後五〇年を経過するまでの間存続するから、年による暦法的計算をして(民法一四三条一項)、五〇年目に当たる平成一五年が経過するまでの間存続することになる。期間は、その末日の終了をもって満了する(同法一四一条)から、改正前の著作権法の下では、本件映画の著作権は、平成一五年末日である同年一二月三一日の終了をもって、存続期間の満了により消滅する。
本件改正法は、平成一六年一月一日から施行され(附則一条)、本件改正法附則二条は、「この法律の施行の際」と規定しているところ、「施行の際」とは、附則一条の施行期日を受けた平成一六年一月一日を指すものである。そして、附則二条の規定は、この法律の施行期日をうけた平成一六年一月一日において、現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物か、又は、現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物かによって適用を分ける趣旨のものと解される。
本件映画の著作権は、改正前の著作権法によれば、上記のとおり、平成一五年一二月三一日の終了をもって存続期間が満了するから、本件改正法が施行された平成一六年一月一日においては、改正前の著作権法による著作権は既に消滅している。よって、本件改正法附則二条により、本件改正法の適用はなく、なお従前の例によることになり、本件映画の著作権は、既に存続期間満了により消滅したものといわざるを得ない。

解 説
現行著作権法は、映画の著作物の保護期間について、当初は公表後五〇年間と定めていましたが(改正前の五四条一項)、その後、平成一五年法律第八五号(改正法)により、公表後七〇年に延長しました(改正後の五四条一項)。改正法の施行は一六年一月一日からで(附則一条)、経過措置として、改正後の著作権法五四条一項は、この法律施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し、この法律施行の際改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物についてはなお従前の例による、とされています(附則二条)。なお、著作権法においては、保護期間の計算は、著作物が公表された日のそれぞれ属する年の翌年から起算することとされています(五七条)。
すると、昭和二八年(一九五三年)に公表された映画の著作権は、著作権法57条により昭和二九年から起算して、改正前の著作権法によれば五〇年目にあたる平成一五年(二〇〇三年)が経過するまで存続することとなります。そして、期間はその末日の終了をもって満了しますので(一四一条)、改正前著作権法では、平成一五年(二〇〇三年)の一二月三一日の終了によって満了することとなります。
 これに対しては、文化庁長官官房著作権課が、平成一五年(二〇〇三年)の一二月三一日の午後一二時は同一六年一月一日の午前零時のことだから、平成一六年一月一日の改正法施行の際に改正前の著作権法による著作権が存する場合にあたり、附則二条により著作権は七〇年に延長されるとの見解を表明しており、本件の債権者はかかる主張に則りました。ところが、判決では、平成一五年一二月三一日の午後一二時=同一六年一月一日の午前零時であるとしても、同一六年一月一日には保護期間が満了しているとして、債権者の主張を却下しました。法律の文言を素直に解釈すれば判決の立場の方が正しく、文化庁長官官房著作権課の立場がおかしいと思います。




ふるさと三国志事件

作曲家と地方のTV放送局との間における、TV番組の背景音楽等に使用する楽曲を提供する契約は、諸般の事情を考慮すれば、TV放送局がそのTV番組を1回放送するのみではなく、再放送、全国放送、他局への放送権の許諾、譲渡等の一切を許諾したものであるが、楽曲の著作権まで譲渡したものではないとされた事例
東京地裁平一六(ワ)一七七五〇、ふるさと三国志事件、平一七・一二・二二判決(判時一九三〇・一三三
参照条文 著作権法二条・四四条・六三条・九二条・九四条

事案の概要
 原告は作曲家であり、被告は地方のTV放送局である。原告は、被告の委託により、被告が昭和56年に放送予定の「ふるさと三国志」シリーズ用の音楽を作曲して被告に提供したのを皮切りに、平成14年3月までの間、被告が放送するTV番組の背景音楽等に使用する楽曲を原告の主張によれば6万曲以上被告に提供し、その対価として総計約6200万円を被告から受領した。被告は、これら楽曲を使用したTV番組をローカル番組で放送する以外にも、再放送、全国放送、他局への放送権の許諾ないし譲渡等をしたが、原告は、平成15年にいたるまで、被告に対して、それらの放送分の追加代金の請求はしていない。その後、原告は、ローカル番組で1回使用する限度で楽曲の使用を許諾したにすぎないと主張して、被告に対して、著作権侵害による損害賠償金5億円を請求した。これに対して、被告は、原告との契約は著作権の買取であり、その楽曲を使用したTV番組に関する使用については一切許諾を受けたものであると反論して争った。

判決の要旨
上記各認定事件によると、本件楽曲等は、数秒から長くても数分程度の短いものであり、テレビ番組の映像のイメージに合わせて挿入される背景音楽等であり、本件各番組と一体となって使用されることが当然の前提となっているものである。また、テレビ番組が、本件各番組のように、ローカル番組として再放送されたり、全国放送されたりすることはよくあることである。さらに、スポット用の背景音楽等については、スポット番組の性質上、反復継続的に使用されることは当然の前提とされているものである。そして、Yは、従前から、このような背景音楽については、いわゆる「買い取り」の合意をしていたことから、本件契約についても同様に理解していたものであること、及び、Xも、本件各番組について、約二二年の長期間にわたり、本件再放送等がなされており、これがテレビで放送されるだけでなく、新聞のテレビ番組予定表やその番組紹介欄にも掲載され続けてきており、本件再放送等の事実を当然に認識し得る状況が続いていたにもかかわらず、約二二年間、本件再放送等について追加の対価を請求していなかったことからすれば、Xは、Yに対し、本件契約により、本件楽曲等に関する本件再放送等も含めた利用について、その都度支払を受けた報酬をもって、少なくともこれを包括的に許諾していたものと認めるのが相当である。また、Xは、平成一〇年の本件差押事件とこれに続く和解交渉等において、XがYに対し本件楽曲等の本件再放送等に伴う対価請求権を有しているとの主張を一切しておらず、このような請求権がないことを前提として行動しているものであり、このことも本件楽曲等の利用について包括的許諾があったことを強く推認させるものである。
Yは、本件契約は、本件楽曲等の著作権の譲渡を内容とするものであったとも主張する。しかし、著作権の譲渡は著作権者に重要な影響を及ぼすものであるにもかかわらず、本件契約においては、契約書等、譲渡の合意があったことを明確に示す文章が作成されていないこと、Yとしては、本件再放送等において追加の対価を支払うことなく自由に本件楽曲等を使用することができれば、本件契約の目的を十分達成することができること、Xが平成七年にJASRACに加入する際、当時、Y編集局テレビ編成部長であった石山は、同年一二月一 三日付けで、本件楽曲等の一部(三曲)について、Xに著作権があることを前提としていると思料される作品公表証明をしていること、XがYに対し、本訴提起の数年前に、本件楽曲等の一部をXが制作するCDに使用して良いかを念のため問い合わせたところ、Yが本件各番組とは別個に本件楽曲等を使用することについては承諾していることなどからすると、本件楽曲等については、本件契約により、Yに対し、Yが本件各番組の背景音楽等あるいはスポットとして使用することについては包括的な許諾がなされたものと認められることは前記のとおりであるものの、著作権譲渡の合意があったとまでは認めることはできない。

解 説
 判決は、Xの提供した楽曲はTV番組の背景音楽であって番組と一体として利用されることが前提となっていること、TV番組が再放送や全国放送されることはよくあることであること、さらにXYの意思としても、Yはこれまでこのような背景音楽については買取をしていたことから、本件も同様に理解していたこと、Xも再放送等の事実を知りながら22年間も追加代金請求をしなかったことから、XY間において、Xの提供した楽曲を使用して製作したTV番組の再放送等の包括的使用が許諾されていたとしました。さらに、Yの主張した著作権の買取については、著作権譲渡を明確に示す書面が作成されていないこと、楽曲の一部をX自身のCDに使用する点についてYが承諾したことがある等の理由からこれを否定し、楽曲の著作権はXにあることが確認されました。




おまけ用フィギュア事件

菓子のおまけ用フィギュアー製造用の模型原型の著作物性が認められた事例
大阪高裁平一六(ネ)三八九三、おまけ用フィギュア事件、平一七・七・二八判決、第一審大阪地裁、平一六・一一・二五判決
(判時一九二八・一一六、判タ一二〇五・二五四)
参考条文 著作権法二条・一〇条

事案の概要
 本件は、原告が、被告が製造販売する菓子類のおまけとなる各種のフィギュアの模型原型を製造して被告に提供するにあたり、両者間で複数の著作権使用許諾契約を順次締結し、許諾料や違約金について定めていたところ、原告が、被告に対して、被告が商品の製造数量について過少申告をした等主張して、許諾料及び約定違約金合計1億8011万7389円の支払を求めた事案である。これに対して、被告は、反訴を提起して、著作権使用許諾契約の一部について、それら契約はフィギュア模型原型が著作物であり、原告が著作権を有していることを前提として締結されたものであるが、実際にはフィギュア原型模型は著作物ではないから、それら契約は錯誤により無効であり、また許諾料が高すぎて公序良俗違反だから無効である等主張して、不当利得として許諾料の一部である572万5048円の返還を求めたものである。
 本件訴訟の対象物であるフィギュアーは、日本の動物シリーズ、妖怪シリーズ、アリスコレクションからなる。一審である大阪地裁平16・11・25日判決(平15(ワ)10346号ほか)は、本件模型原型が「思想または感情を創作的に表現したもの」といえるかについて、動物シリーズ、妖怪シリーズについては肯定し、アリスコレクションについては否定した。次に、日本の動物シリーズ、妖怪シリーズについて、「専ら美の表現のみを目的とするいわゆる純粋美術と同視できるような創作性、美術性を有するもの」として著作権法による保護の対象となるかの検討をした結果、いずれも、純粋美術と異なり「一定の限界の範囲内での美的表現にとどまっている」として、結局すべてについて著作物性を否定した。

判決の要旨〔棄却〕
「応用美術は、@純粋美術作品が実用品に応用された場合(例えば、絵画を屏風に仕立て、彫刻を実用品の模様に利用するなど)、A純粋美術の技法を実用目的のある物品に適用しながら、実用性よりも美の追求に重点を置いた一品制作の場合、B純粋美術の感覚又は技法を機械生産又は大量生産に応用した場合に分類することができる。このことに、本来、応用美術を含む工業的に大量生産される実用品の意匠は、産業の発達に寄与することを目的とする意匠法の保護対象となるべきものであること(意匠法一条)、これに対し、著作権法は文化の発展に寄与することを目的とするものであり(著作権法一条)、現行著作権法の制定過程においても、意匠法によって保護される応用美術について、著作権法による保護対象にもするとの意見は採用されなかったこと、一品制作の美術工芸品を越えて、応用美術全般に著作権法による保護が及ぶとすると、両方の保護の程度の差異(意匠法による保護は、公的公示手段である設定登録が必要である(方式主義)上、保護期間(存続期間)が設定登録の日から一五年であるのに対し、著作権法による保護は、設定登録をする必要はなく(無方式主義)、保護期間(存続期間)が著作物の創作の時から著作者の死後五〇年を経過するまでの間、法人名義の著作物は公表後五〇年を経過するまでの間等とされている。)から、意匠法の存在意識が失われることにもなりかねないことなどを合わせ考慮すると、応用美術一般に著作権法による保護が及ぶものとまで解することはできないが、応用美術であっても、実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となるだけの美術性を有するに至っているため、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価される場合は、「美術の著作物」として、著作権法による保護の対象となる場合があるものと解するのが相当である。」との一般論を述べた上で、動物シリーズは、実際の動物の形状、色彩等を忠実に再現した模型であり、造詣師が独自の解釈、アレンジを加えたというような事情は見当たらないから、純粋美術と同視できる程度の美的創作性があるとは認められないとして一審判決を維持し、妖怪シリーズについては、動物シリーズとは異なって空想上の妖怪を造詣しており、一部烏山石燕が著した「画図百鬼夜行」を原画とするものの、製作者は絵画に描かれた妖怪の全体像を想像力を駆使して把握し、絵画に描かれていない部分についても描かれた部分と違和感が生じないように構成する必要があるから、製作者の思想勘定が反映されるとして、純粋美術と同視しうる程度の美的創作性を具備していると判断した。アリスコレクションについては、創作性は肯定したものの、純粋美術と同視しうる程度の美的創作性を具備してはいないとした。




ツーユー評判記事件

他人が撮影した写真を、撮影者の許諾を得ることなく、撮影者の氏名を表示しないで新聞広告に使用した行為について、広告写真の場合は撮影者の氏名を表示しないのが通例である等の理由から、著作権法19条3項の氏名表示を省略できる場合に該当するとして、氏名表示権侵害の主張が棄却された事例
大阪地裁平一五(ワ)二八八六、ツーユー評判記事件、平一七・一・一七判決(判時一九一三・一五四)
参照条文 著作権法一五条・一九条、民法七〇九条

事案の概要
 原告Xは広告写真家である。被告Y1は建築材料等の大手メーカーであり、被告Y2は被告Y1の子会社であり、建築工事の設計、施工等を目的とする株式会社である。被告Y3は広告制作会社である。被告Y2は、被告Y1が製造した建築部材を用いて、「セキスイツーユーホーム」の名称で木造住宅を建築しており、その広告宣伝のために不定期に「ツーユー評判記」を発行している。「ツーユー評判記」は、被告Y2が被告Y3に委託して制作している。被告Y3は、平成9年3月10日、原告Xとの間で、「ツーユー評判記」に掲載する写真の撮影に関する請負契約(本件契約)を締結し、原告Xは、平成9年から同13年までにかけて写真を撮影し、そのフィルム(本件フィルム)を被告Y3に引き渡し、被告Y3はその対価として取材先一軒あたり8万円とフィルム代、現像代、交通費を支払った。ところが被告Y1Y2は、(「ツーユー評判記」への掲載ではなく)「セキスイツーユーホーム」の広告宣伝のための読売新聞広告に、被告Y2が保管していたフィルムを使用して、原告Xに無断で、かつ原告Xの氏名を表示することなく、本件契約に基づいて原告Xが撮影した写真17点(本件写真)を掲載して使用した(本件使用)。そこで、原告Xが、著作権および著作者人格権(氏名表示権)侵害を理由に被告Y1Y2Y3を訴えたのが本件である。

判決の要旨〔一部認容・一部棄却〕
 これを本件についてみるに、本件写真は、「セキスイツーユーホーム」の宣伝誌である「ツーユー評判記」に掲載するために、すなわち「セキスイツーユーホーム」の宣伝広告に用いる目的で撮影されたものであるところ、本件使用も、まさに「セキスイツーユーホーム」の広告である新聞広告に用いたものである。そして、X本人尋問の結果によれば、一般に、広告に写真を用いる際には、撮影者の氏名は表示しないのが通例であり、Xも従来、この通例に従ってきたが、これによって特段損害が生じたとか、不快感を覚えたといったことはなかったことが認められる。
 上記の事情に照らせば、本件使用は、その目的態様に照らし、Xが創作者であることを主張する利益を害することはなく、公正な慣行にも合致するものといえるから、同項によってXの氏名表示を省略する場合に該当すべきである。

解  説
 著作権法19条3項は、著作者名の表示は、著作物の利用の目的および態様に照らして著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り省略できることを定めています。そして、判旨は、本件が同条項の氏名表示を省略できる場合に該当する理由として、原告Xの本人尋問の結果によれば、広告に写真を掲載する場合は撮影者の氏名を表示しないのが通例であること、原告もこれまでこの通例に従ってきたが、格別に損害を生じたことも、不快感を感じたこともなかったことをあげています(どうして原告自らこのような供述をしたのかは不明)。原告は、本件のような無断利用のケースには著作権法19条3項は適用にならないと主張しましたが、判旨は、著作者人格権は著作権とは別個の権利であることを理由にその主張を斥けています。

ツーユー評判記事件

写真を撮影者に無断で広告に使用したケースにおいて、広告主は広告制作会社を信頼して写真を使用しても過失がないとしてその責任を否定し、広告制作会社の責任のみを認めた事例
大阪地裁平一五(ワ)二八八六、ツーユー評判記事件、平一七・一・一七判決(判時一九一三・一五四)
参照条文 著作権法一五条・一九条、民法七〇九条

事案の概要
 原告Xは広告写真家である。被告Y1は建築材料等の大手メーカーであり、被告Y2は被告Y1の子会社であり、建築工事の設計、施工等を目的とする株式会社である。被告Y3は広告制作会社である。被告Y2は、被告Y1が製造した建築部材を用いて、「セキスイツーユーホーム」の名称で木造住宅を建築しており、その広告宣伝のために不定期に「ツーユー評判記」を発行している。「ツーユー評判記」は、被告Y2が被告Y3に委託して制作している。被告Y3は、平成9年3月10日、原告Xとの間で、「ツーユー評判記」に掲載する写真の撮影に関する請負契約(本件契約)を締結し、原告Xは、平成9年から同13年までにかけて写真を撮影し、そのフィルム(本件フィルム)を被告Y3に引き渡し、被告Y3はその対価として取材先一軒あたり8万円とフィルム代、現像代、交通費を支払った。ところが被告Y1Y2は、(「ツーユー評判記」への掲載ではなく)「セキスイツーユーホーム」の広告宣伝のための読売新聞広告に、被告Y2が保管していたフィルムを使用して、原告Xに無断で、かつ原告Xの氏名を表示することなく、本件契約に基づいて原告Xが撮影した写真17点(本件写真)を掲載して使用した(本件使用)。そこで、原告Xが、著作権および著作者人格権(氏名表示権)侵害を理由に被告Y1Y2Y3を訴えたのが本件である。

判決の要旨
1 Y1Y2の過失について
 ア 被告Yらは、建築材料の製造販売や、建築工事の設計施行等を目的とする会社であり、宣伝広告の広告主となることはあっても、自ら広告を製作することを業とする会社ではない。
   このような会社が、少なくとも、Y3のような広告制作会社から、その顧客として、広告用写真のフィルムを借り受け、これを使用するに当たっては、その写真について別に著作権者が存在し、使用についてその許諾が得られていないことを知っているか、又は知り得べき特別の事情がある場合はともかく、その写真の使用に当たって別途著作権者の許諾が必要であれば、貸し出し元の広告制作会社からその旨指摘されるであろうことを信頼することが許され、逐一、広告会社に対し、その写真の使用のために別途第三者の許諾が必要か否かを調査確認するまでの注意義務を負うものではないと解すべきである。
   すなわち、広告制作会社から、その顧客として、広告用写真のフィルムを借り受け、これを使用するに当たっては、その広告制作会社から、別途著作権者の許諾が必要であると指摘されない限り、その写真の著作権が既に消滅しているか、その広告制作会社が著作権を取得しているか、著作権者から使用の許諾を受けているかはともかく、その写真を使用することが他社の著作権を侵害するものではないものと考えて、その写真を使用したとしても、注意義務に違反するものとはいえない。
2 Y3の過失について
Y3は、広告制作会社であるところ、広告制作会社は、その業務上、他社が作成した著作物である写真や文章等を取り扱って利益を得ているのであるから、そのような著作物の著作権について十分な注意を払って事務処理をすべき義務を負うものというべきであり、その顧客からの求めに応じて保管してある写真フィルムを貸し出す際には、その写真の著作権者や使用許諾の有無範囲を調査し顧客が予定している使用状態が著作権者から予め得ている使用許諾の範囲外であるおそれがある場合には、自ら著作権者から使用許諾を得るか、顧客に対し、別途著作権者から使用許諾を得る必要があることを伝える等の手段により、顧客による著作権の侵害が発生することのないよう、細心の注意を払うべき義務があるものと解すべきである。
これを前提として検討するに、Y3は、本件写真の撮影者がXであることを知っており、また、前記三で検討したとおり、本件写真の著作権について、Xから譲り受ける旨の合意は存在せず、さらに、前記四で検討したとおり、Xは、本件写真を「ツーユー評判記」以外に使用することを許諾したとは認められないのであるから、本件写真を「ツーユー評判記」以外に使用するためには、改めて著作権者であるXから許諾を得る必要があるものである。仮に、Y3が、本件写真の使用許諾の範囲として、「ツーユー評判記」への使用に限定されず、「セキスイツーユーホーム」の広告一般への使用について許諾を受けていたと信じていたとしても、前記三(1)及び四で検討したところに照らせば、Y3そのように信じることが相当であったというべき事情はなく、Y3がそのように信じたことに過失があったというべきである。そして、Y3は、セキスイツーユーホーム大阪に本件写真のフィルムを貸し出すに際し、上記(1)ウのとおり、本件写真について、これを使用する際には別途著作権者の許諾が必要である旨を伝えたり、示唆したりしたことは全くなかったのであるから、Y3は、顧客による著作権侵害の発生を防止するための注意義務に違反したというべきである。

解  説
 本件の広告は、広告主であるY1Y2が、広告制作会社であるY3から、X撮影にかかる広告用写真フィルムを借り受けて行ないました。判旨は、このような場合、広告制作会社であるY3は、他者の著作物を取扱って利益を得ているのであるから、他者の著作権について十分な注意を払って事務処理をする注意義務があるとし、本件写真は「ツーユー評判記」以外に使用することの許諾を得ていないのに、それを「セキスイツーユーホーム」の広告に利用するに際しては、改めて著作権者から許諾を得なくてはならないのにそれを怠った過失があり、かりに「セキスイツーユーホーム」の広告に利用することまで許諾の範囲であると信じていたとしても、そう信じることに過失があったとしました。これに対して広告主Y1Y2に関しては、広告制作会社Y3を信頼して、Y3に対して第三者の著作権の有無を確認しなくても過失はないとしました。
 一般に、著作権侵害部分を含む書籍を発行してしまった出版社は過失責任を負うものとされており(訓話の事典事件、医学部助手論文事件、地のさざめごと事件、日照権事件、アメリカ語用語集事件、豊後の石風呂事件、樹林事件、例外はぐうたら健康法事件)、著作権侵害の番組を放映してしまったTV会社の責任も肯定されており(妻たちはガラスの靴を脱ぐ事件)、パンシロン事件では著作権侵害の点についてデザイナーに簡単に確認したにすぎないデザイン委託者の過失を肯定していますが、本件では、広告制作会社を信頼して、それに著作権の帰属の確認もしなかった広告主の過失責任が否定されました。




グッドバイキャロル事件

著作権法一五条一項の「法人等の業務に従事する者」に該当するか否かは、法人等と創作者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して判断すべきものとし、職務著作には当たらないとした事例
東京地裁平一五(ワ)三一八四、グッドバイキャロル事件、平一七・三・一五判決(判時一八九四・一一〇、判タ一一九六・二七〇)
参照条文 著作権法二条・一五条・一六条・一九条・二〇条・二一条・二二条・二二条の二・二六条・二七条・二九条・六三条・一一二条・一一四条・一一四条の五

事案の概要
(1)本件作品の制作、放送
昭和五〇年四月一三日に行われたキャロルの解散コンサートに際して、「グッドバイキャロル」と題する、同コンサートのシーン等を中心とするドキュメンタリー映画が製作された。これが「本件作品」で、撮影は原告会社(X1)によって行われ、監督は原告会社の代表者(X2)が行った。本件作品の撮影をすることに関して、レコード会社F社とX1との間になんらかの合意があった。本件作品は、同年、TBSで放映された。
(2)本件ビデオの販売
   F社は、昭和五九年頃、X1に対して本件作品の編集作業を依頼し、X1が編集した作品を「燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ」と題するビデオとして制作販売した。これが本件ビデオであり、本件ビデオの販売に際して、X2に対して許諾料の支払を提示していない。F社は、平成一二年に、音楽関係の事業一切を被告Yに営業譲渡し、YはF社が有する音楽関係の著作権等の全ての権利関係を承継した。
(3)本件DVDの販売
Yは、平成一五年一月二二日、「燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ」と題するDVD作品を制作販売した。これが本件DVDで、本件DVDは本件ビデオの媒体をDVDにしたもので、本件ビデオと同一の映像である。Yは、本件DVDの制作及び販売についてX1から明示の許諾を得ていない。 (4)特典DVDの販売
   Yは、本件DVDと同時に「ザ★ベスト」と題するキャロルのベスト盤CD(本件CD)を発売した。Yは、この両商品の宣伝のためのプロモーションビデオ映像を作ることを企画し、本件作品の一部を使用して「ファンキー・モンキー・ベイビー」と題するプロモーション映像(本件プロモーション映像)を制作した。Yは、本件プロモーション映像をTV放映等することによって本件CD及び本件DVDを宣伝した。また、本件プロモーション映像を、本件CDの初回購入特典として、DVDに収録し(これが「特典DVD」である)、これを本件CDに付加して販売した。Yは、本件プロモーション映像及び特典DVDの映像制作及びその利用についてX1から明示の許諾を受けておらず、それらのオリジナル映像を撮った監督がX2である旨の表示をしていない。
(5)以上の事実関係において、X1が本件作品の著作権に基づき、X2が著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)に基づき、Yに対し、本件ビデオ、本件DVD、特典DVD、本件プロモーション映像の複製等の差止を求めて出訴した。

判決の要旨〔一部認容・一部棄却〕
(2)著作権法一五条(職務著作)の主張について
   Yは、本件作品は、F社の職務著作であると主張する。
ア 著作権法一五条一項は、法人等において、その業務に従事する者が指揮監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し、これが法人等の名義で公表されるという実態があることにかんがみて、同項所定の著作物の著作者を法人等とする旨を規定したものである。同項の規定により法人等が著作者とされるためには、著作物を作成したものが「法人等の業務に従事する者」であることを要する。そして、法人等と雇用関係にあるものがこれに当たることは明らかであるが、雇用関係の存否が争われた場合には、同項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して、判断すべきものと解するのが相当である(最高裁平成一三年(受)第二一六号同一五年四月一一日第二小法廷判決・裁判集民事二〇九号四六九頁)
イ F社とX2との間には、雇用関係は認められない。そこで、X2がF社の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを検討する。
 前記一(3)アのとおり、X2とA又はF社との間に、本件作品の撮影をすることについて合意があったことは認められるが、A又はF社がX2に撮影を委託したものであるのか、X2がA又はF社に撮影の許可を求めたものであるのかは、明確には認定できない。
 しかし、仮にA又はF社がX2に撮影を委託したものであったとしても、前記一(1)イ及び一(3)イで認定したとおり、本件作品の内容の決定、撮影、編集等は、すべてX2又はX1会社によって行われ、F社は製作に全く関与していなかったこと、前記一(ウ)で認定したとおり、X2は、本件作品をF社に相談なく、TBSと交渉して放送に至ったことからすると、本件作品の製作に関して、X2はF社の指揮監督下にあって、F社の手足として撮影だけを担当したものとはいえず、X2とF社は、映画製作会社とレコード会社の対等な契約関係を前提として、本件作品の撮影を行ったものであると認められる。
 なお、F社からX2に本件作品に関し支払った金銭があるか否かは明らかでないが、仮に撮影代金が支払われているとしても、パビックへの支払など、撮影に関する支払は、すべてX2又はX1会社から行われていることは、前記一(1)カ認定のとおりであるから、上記認定を左右するに足りない。
 したがって、X2は、F社の「業務に従事する者」には該当しない。
ウ X2が「業務に従事する者」に該当しないことに加えて、本件作品が、F社の名義の下に公表させたものではないことに照らしても、本件作品がF社の職務著作であるとの主張は、理由がない。

グッドバイキャロル事件

著作権法114条2項(侵害者の得た利益額を損害額と推定)が適用されるためには、著作権者が侵害者と同様の方法で著作物を利用して利益を得られる蓋然性が必要であるとし、本件においてはかかる蓋然性があったとして侵害者の得た利益額を損害額として認めた事例
東京地裁平一五(ワ)三一八四、グッドバイキャロル事件、平一七・三・一五判決(判時一八九四・一一〇、判タ一一九六・二七〇)
参照条文 著作権法二条・一五条・一六条・一九条・二〇条・二一条・二二条・二二条の二・二六条・二七条・二九条・六三条・一一二条・一一四条・一一四条の五

事案の概要
(1)本件作品の制作、放送
昭和50年4月13日に行われたキャロルの解散コンサートに際して、「グッドバイキャロル」と題する、同コンサートのシーン等を中心とするドキュメンタリー映画が製作された。これが「本件作品」で、撮影は原告会社(X1)によって行われ、監督は原告会社の代表者(X2)が行った。本件作品の撮影をすることに関して、レコード会社F社とX1との間になんらかの合意があった。本件作品は、同年、TBSで放映された。
(2)本件ビデオの販売
   F社は、昭和59年頃、X1に対して本件作品の編集作業を依頼し、X1が編集した作品を「燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ」と題するビデオとして制作販売した。これが本件ビデオであり、本件ビデオの販売に際して、X2に対して許諾料の支払を提示していない。F社は、平成12年に、音楽関係の事業一切を被告Yに営業譲渡し、YはF社が有する音楽関係の著作権等の全ての権利関係を承継した。
(3)本件DVDの販売
Yは、平成15年1月22日、「燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ」と題するDVD作品を制作販売した。これが本件DVDで、本件DVDは本件ビデオの媒体をDVDにしたもので、本件ビデオと同一の映像である。Yは、本件DVDの制作及び販売についてX1から明示の許諾を得ていない。
(4)特典DVDの販売
   Yは、本件DVDと同時に「ザ★ベスト」と題するキャロルのベスト盤CD(本件CD)を発売した。Yは、この両商品の宣伝のためのプロモーションビデオ映像を作ることを企画し、本件作品の一部を使用して「ファンキー・モンキー・ベイビー」と題するプロモーション映像(本件プロモーション映像)を制作した。Yは、本件プロモーション映像をTV放映等することによって本件CD及び本件DVDを宣伝した。また、本件プロモーション映像を、本件CDの初回購入特典として、DVDに収録し(これが「特典DVD」である)、これを本件CDに付加して販売した。Yは、本件プロモーション映像及び特典DVDの映像制作及びその利用についてX1から明示の許諾を受けておらず、それらのオリジナル映像を撮った監督がX2である旨の表示をしていない。
(5)以上の事実関係において、X1が本件作品の著作権に基づき、X2が著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)に基づき、Yに対し、本件ビデオ、本件DVD、特典DVD、本件プロモーション映像の複製等の差止を求めて出訴した。

判決の要旨〔一部容認・一部棄却〕
イ 著作権法一一四条二項適用の可否
(ア)  著作権法一一四条二項は、当該著作物を利用して侵害者が現実にある利益を得ている以上、著作権者が同様の方法で著作物を利用する限り同様の利益を得られる蓋然性があるという前提に基づき、侵害者が侵害行為により得た利益の額をもって著作権者の逸失利益と推定する規定であると解される。
    したがって、同項の適用が認められるためには、著作権者が侵害者と同様の方法で著作物を利用して利益を得られる蓋然性があることが必要である。
(イ)  本件については、以下の事実が認められる。
a 有限会社カムストックとX1は、昭和五八年七月一日、「矢沢永吉ヒストリー」の原盤を株式会社シービーエス・ソニーに提供し、ビデオディスクに複製し販売頒布せしめる目的をもって、株式会社ワーナー・パイオニアに対してビデオカセットによる上記原盤に基づき製作された商品を販売委託する目的で共同製作を行う旨の契約を締結した。同契約においては、原盤製作費、ビデオカセットの製造に要する費用は、有限会社カムストックとX1がそれぞれ五〇%の割合で負担している。
b 株式会社音とX1は、平成一三年一一月二六日、矢沢永吉の実演による「TEH STAR IN HIBIYA」の原盤を株式会社ソニー・ミュージック・エンタテイメントに提供し、DVDによる上記原盤に基づき製作された商品を販売委託をする目的をもって共同製作を行う旨の契約を締結した。同契約によれば、原盤製作費もDVD製造に要する費用も、X1と株式会社音がそれぞれ五〇%の割合で負担している。
c X1は、今年も株式会社音と共同製作を行う旨の申し込みをした。
d X1は、映像作品の企画製作を行う会社であり、映像をDVD化することはさほど困難な作業ではない。
  以上の事実からすれば、X1は、他社と契約すること等により、本件作品を利用してDVDを製造販売する方法を有しており、被告と同様の方法で著作物を利用し、同様の利益を得られる蓋然性があったものと認められる。
(ウ) Yは、X1が行っているのは、作品の製作までで、その後の発売業務や費用の負担は、株式会社音や有限会社カムストックが行っており、X1は事業主体ではないと主張し、株式会社音の代表取締役竹田和則の陳述書にも、それに沿う記載がある。
    しかし、X1が自己の作品をDVD化して製造販売し、著作権料のみならず、その販売利益を享受している事実がある以上、X1は、本件作品についてもこれを利用し、Yと同様の利益を得られる蓋然性があったということができ、発売に関してX1が実際に行う業務の内容や費用の負担割合などがどのようなものであろうと、著作権法一一四条二項の適用に障害はないというべきである。
(エ)  被告は、解散コンサート収録時、キャロルとF社が専属契約を締結しており、X1はキャロルの実演を収録する権限やそこに収録されている実演についての著作隣接権を有していなかったから、X1が本件DVDを製作販売することはできないと主張する。
    前記二で認定したとおり、F社は、漆原を通じて解散コンサートを撮影しその映像を収録することをX1に許諾していたと認められるから、許諾を得て収録した映像の著作権は、映画製作者たるX1に帰属するのであり、X1が著作権を有する本件作品を自らDVD化して販売することに何ら問題はない。
    そして、映画の著作物である本件作品は、キャロルの実演を録音し、録画する権利を有するF社の許諾を得て録音され、録画されたものであり、キャロルの実演については、著作権法九一条二項、九五条の二第二項により、実演家の録音権、録画権及び譲渡権が及ばないから、X1が本件作品の複製物であるDVDを製作販売することが著作権法上も可能である。
    また、仮にDVDの販売にキャロルの許可が必要であるとしても、キャロルとF社との専属契約の締結は、X1がDVD販売についてキャロルからの許諾を得ることにつき事実上の障害とはなり得るものの、上記専属契約は、永久に存続するものではないし、現に、キャロルのメンバーであるジョニー大倉及び内海利勝がX1に許諾をしたように、キャロルがX1に許諾を与えることもあり得るのであるから、X1によるDVDの販売が、法律上絶対に不可能というわけではない。
    よって、キャロルとF社との専属契約の存在は、本件作品の著作権者であるX1との関係では、著作権法一一四条二項の適用の可否を決定するものとはいえず、損害額の算定において、X1がYと同様の方法で著作物を利用して利益を得られる蓋然性がないことの根拠とはならない。
(オ)  以下のとおりであるから、X1の本件DVDに関する損害は、著作権法一一四条二項に基づいて算定することとする。 

解  説
 著作権法一一四条は著作権等が侵害されたときの損害賠償額を推定又は擬制していますが、同条二項は、侵害者の得た利益額を著作権者等の蒙った損害額と推定しています(同種規定として特許法一〇二条二項、実用新案法二九条二項、商標法三八条二項、意匠法三九条二項)。著作物の利用によって侵害者がそれだけの利益を得られたのだから、著作権者が利用したとしても同額の利益が得られた筈であるという推定に基づきます。そこで、二項を適用するためには著作権者等が実際にその著作物を利用している場合であることを要するか否かについて見解が分かれていました。この点につき、本判決は、二項を適用するためには、著作権者が侵害者と同様の方法で著作物を利用して利益を得られる蓋然性のあることが必要としました。そして、X1が実際に他の会社と契約して映像をDVD化した実績があることより、本件作品を利用してDVDを製造販売して被告と同様の利益を得られる蓋然性があったとしました。また、被告は、キャロルとの専属契約に基づき、X1に対して解散コンサートを撮影してその映像を収録することを許諾していたと認められ、許諾により収録した映像の著作権はX1に帰属するから、著作権者であるX1が本件作品をDVD化して販売することに支障はない、また著作権法九一条二項、九五条の二第二項により実演家であるキャロルの権利も及ばないから、X1が本件作品の複製物であるDVDを販売することに著作権法上なんの問題もないとしました。すなわち、著作権法九一条二項は、実演家の許諾を得て映画著作物に録音または録画された実演については実演家の録音権、録画権が及ばないことを定めており、同法九五条の二第二項は、同法九一条二項該当の実演について実演家の譲渡権が及ばないことを定めているところ、本件作品は実演家キャロルの実演を録音、録画する権利を有するF社の許諾を得て録音、録画された映画著作物であるから、実演家キャロルの録音権、録画権、譲渡権は本件作品に及ばないわけです。最後に、仮にDVDの販売にキャロルの許諾が必要であるとしても、キャロルと被告との専属契約は永久に存続するものではなく、キャロルがX1に対して許諾を与えることもありうるから、X1によるDVDの販売が法律上絶対に不可能とはいえないとしました。



インド人参論文事件

自然科学上の知見それ自体は表現ではないから、同じ自然科学上の知見が記載されていても著作権の侵害には該当しない、自然科学上の知見が同じであるために表現が決まってしまうものは創作性がないとして、自然科学上の知見を記載した論文に関する著作権侵害を認めなかった事例
大阪地裁一五(ワ)六二五二、インド人参論文事件、平一六・一一・四判決(判時一八九八・一一七)
参照条文 著作権法二条・一九条・二〇条・一一五条

事案の概要
 原告は、中華人民共和国籍を有し、平成9年3月から同11年4月まで京都薬科大学生薬学教室に在籍した。被告は、京都薬科大学教授であり、原告が教室に在籍していた平成9年3月から同10年3月まで原告の指導教員であった。原告は、平成10年12月末までに、本研究における実験結果を基にして原告論文を発表した。その後、被告らは、平成12年11月頃までに、被告論文を作成して「Bioorganic&Medicinal Chemistry」誌に投稿し、これが同誌の2001年9月号に掲載された。執筆者としては被告他3名の氏名が掲げられ、原告の氏名は掲げられていない。原告は、被告論文は原告論文に依拠するものでありながら、執筆者として原告の氏名が掲げられていない等として、被告論文の発表は著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)の侵害にあたるとして、損害賠償等を請求した。

判決の要旨〔棄却〕
自然科学に関する論文と著作物性について
著作権法において、著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(二条一項一号とされている。すなわち、著作権法が保護する対象は、思想又は感情の創作的な表現それ自体であって、思想、感情もしくはアイディア、事実もしくは事件など表現それ自体でないもの又は表現上の創作性がない表現は、著作権法が保護するものではないと解するのが相当である(最高裁判所第一小法廷平成一三年六月二八日判決・民集五五巻四号八三七号参照)。
 したがって、論文に同一の自然科学上の知見が記載されているとしても、自然科学上の知見それ自体は表現ではないから、同じ知見が記載されていることをもって著作権の侵害とすることはできない。また、同じ自然科学上の知見を説明しようとすれば、普通は、説明しようとする内容が同じである以上、その表現も同一であるか、又は似通ったものとなってしまうのであって、内容が同じであるが故に表現が決まってしまうものは、創作性があるということはできない。
 もっとも、自然科学上の知見を記載した論文に一切創作性がないというものではなく、例えば、論文全体として、あるいは論文中のある程度まとまった文章で構成される段落について、論文全体として、あるいは論文中のある程度まとまった文章として捉えた上で、個々の文における表現に加え、論述の構成や文章の配列をも合わせて見たときに作成者の個性が現れている場合には、その単位全体の表現として創作的なものということができるから、その限りで著作物性を認めることはあり得るところである。

解  説
本件は江差追分事件の最高裁判決を引用して、「著作権は思想または感情の創作的な表現それ自体であって、思想、感情もしくはアイディア、事実もしくは事件など表現それ自体でないもの又は表現上の創作性がない表現は、著作権法が保護するものではない」として、自然科学上の知見それ自体は著作物ではないから、被告論文に原告論文と同じ自然科学上の知見が記載されていても、著作権侵害には当たらないとしました。そして、被告論文によって著作者人格権の侵害があったか否かを判断するためには、両論文の表現を比較すべきであり、そこに記載されている研究過程や成果といった内容を比較すべきではないとしました。そこで、両論文をひとつひとつ比較し、両論文に表現の類似性がないわけではないが、それは内容が同一であるから誰が書いても同一又は類似する表現になってしまうものであって、これらの類似性を理由に著作権侵害と認めることはできないとしました。もっとも、自然科学上の知見を記載した論文は一切著作権侵害に該当しないというわけではなく、ある程度まとまった文章として捉えたうえで、個々の文における表現に加え、論述の構成や文章の配列をも合わせてみたときに個性が表れている場合は、著作物性を認められるとしています。



録画ネット事件

海外などの利用者がインターネットを通じて業者事務所に設置されたテレビパソコンを操作して録画予約し、録画されたファイルを各利用者の自宅パソコンに転送することにより、日本のテレビ番組を海外などで視聴できるようにしたサービスが、放送事業者の有する著作隣接権の侵害に該当するとされた事例
東京地裁平一六(ヨ)二二〇九三、録画ネット事件、平成一六年一〇・七決定
(判時一八九五・一二〇、判タ一一八九・三三五)
参照条文 著作権法九八条・一一二条

事案の概要
債務者は「録画ネット」の名称のサービス(本件サービス)を提供する有限会社である。本件サービスの概要は、債務者が利用者ごとに一台ずつ販売したテレビチューナー付のパソコン(テレビパソコン)を、債務者の事務所内にまとめて設置し、テレビアンテナを接続するなどして放送番組を受信可能な状態にするとともに、各利用者がインターネットを通じてテレビパソコンを操作して録画予約し、録画されたファイルを自宅などのパソコンに転送できる環境を提供することにより、海外などにおいて、日本国内のテレビ番組を録画して視聴できるというものである。そこで、債権者NHK(在京の民放5社も同様の仮処分申立をした)が、本件サービスが放送事業者の有する著作隣接権(著作98条・放送にかかる音、映像の複製権)を侵害しているとして、債権者の放送を本件サービスによる複製の対象とすることの禁止を求めた仮処分事件である。

決定の要旨〔認容〕
イ 債務者の管理・支配性
(ア) 本件サービスにおいては、上記のとおり、多くの機器類をネットワーク回線等によって接続した一つのシステムが構成されており、それらはすべて債務者が調達、設定し、管理している。
(イ) 機器類の中で、各テレビパソコンの所有権者は、確かに各利用者に帰属しているが、販売するテレビパソコンは債務者が選定、調達したものであり、販売後の設置場所も債務者の事務所に限られる。さらに、債務者は録画予約等のためのソフトウェアをインストールするほか、各種のデータを記録し、保守管理を行うなどして、利用者が本件サービスを継続する限り、これを管理・支配下に置いている。
(ウ) 実際の録画の過程という側面から見ても、現実の複製に当たって利用者が行う行為は、上記ソフトウェアの動作に従った録画予約の指定のみであり、その後の録画は、上記のとおり債務者が構築し、管理するシステムによって自動的になされている。さらに、本件サービスにおいては、本件サイトを経由してのみ録画予約が可能になっており、債務者の管理・支配の程度がより強くなっている。この点は、債務者が主張するとおり、本件サービスの本質的な要素ではないとみることもできるが、仮にこれを除外しても、録画の過程が債務者により規定されていることに変わりはない。
ウ 利用者の管理・支配性
(ア) 利用者は、テレビパソコンを購入し、その所有権を有しているとはいえ、そもそも、債務者が調達、販売する以外のテレビパソコンを購入して本件サービスに加入することはできず、テレビパソコンの設置場所も債務者の事務所に限られている。
(イ) さらに、テレビパソコンについて利用者ができる操作は、上記ソフトウェアを通じたもののみであり、それ以外の用途に利用することも、それ以外の方法でハードディスクのデータにアクセスすることもできない。テレビパソコンの返還を受けることはできるが、それは本件サービスを解約した場合のことであるから、本件サービスにおいて、利用者がテレビパソコンを管理・支配する程度は、極めて弱いといわざるを得ない。
(ウ) 実際の録画の過程についても、上記イ(ウ)のとおり、利用者の行為は限られたものである。
エ 以上のとおり、本件サービスにおける複製は、債務者の強い管理・支配下において行われており、利用者が管理・支配する程度は極めて弱いものである。   より具体的にいえば、本件サービスは、解約時にテレビパソコンのハードウェアの返還を受けられるという点を除き、実質的に債務者による録画代行サービスと何ら変わりがない。債務者が主張する、テレビパソコンの販売とその保守管理というのは、本件サービスの一部を捉えたものにすぎず、サービス全体の本質とはいえない。
オ 以上によれば、本件サービスにおいて、複製の主体は債務者であると評価すべきである。

解  説
著作権法30条1項は私的複製を許容していますが、同条項には使用者自身が複製するという要件が課されています。したがって、本件サービスにおける複製の主体を利用者とみれば同条項の私的複製として許容される可能性がありますが、本件サービスの複製主体を債務者とみれば同条項に該当せず、債務者の行為は複製権侵害とされます。この点について、本決定は、「本件サービスにおける複製にかかる債務者の管理・支配の程度と利用者の管理・支配の程度などを比較衡量した上で、複製行為の主体を認定すべきである」とし、
@ 本件サービスのシステム構成は全て債務者が調達、設定、管理している。
A 各テレビパソコンは債務者が選定、調達したものであり、販売後の設置場所も債務者の事務所に限られ、さらに債務者は録画予約等のためのソフトウェアをインストールする他、各種のデータを記録し、保守管理を行うなどして、これを管理・支配下においている、
B 録画の過程において利用者が行う行為は、上記ソフトウェアの動作に従った録画予約の指定のみであり、その後の録画は、債務者が構築し、管理するシステムによって自動的になされている等、本件サービスにおける複製は、債務者の強い管理・支配下において行われている、
C 利用者は各テレビパソコンを購入して、その所有権を有しているとはいえ、債務者が調達、販売する以外のテレビパソコンを購入して本件サービスに加入することはできず、その設置場所も債務者の事務所に限られている、
D 利用者ができる操作は、上記ソフトウェアを通じた録画のみであり、それ以外の用途に利用することも、それ以外の方法でハードディスクのデータにアクセスすることもできず、利用者が管理・支配する程度はきわめて弱い として、本件サービスにおける複製は債務者の強い管理・支配下において行われており、利用者が管理・支配する程度はきわめて小さいから、本件サービスにおける複製の主体は債務者であり、私的複製にはあたらないとしました。債務者は、債務者はテレビパソコンの販売とその保守管理をするだけであると主張しましたが、本決定は、本件サービスの本質を債務者による録画代行サービスと捉えて、債務者の主張を斥けました。



XO醤男と杏仁女事件

引用として許容されるためには、その引用が公正な慣行に合致し、かつ報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われなければならないとして、本件における詩の利用は、利用された詩が本文中のストーリーの一部を構成していること、利用目的は主人公の心情を描写するためであって研究や批評のためではないこと、当該場面において主人公の心情を描写するために必ず本件の詩を利用する以外の方法がないわけではないことから、公正な慣行に合致しかつ引用の目的上正当な範囲内で行われたものではないとされた事例
東京地裁平一四(ワ)二六八三二、XO醤男と杏仁女事件、平一六・五・三一判決(判タ一一七五・二六五)
参照条文 法例一一条、著作権法六条・二〇条・三二条・六〇条・一一二条・一一六条・民法七〇九条

事案の概要
 Aは中国における著名な詩人、作曲家であり、平成6年8月に、中国の鷺江出版社から詩集30を出版した(この詩集中の9篇の詩を被告が後記被告小説に翻訳引用した。これを「本件詩@〜H」という)。Aは原告として本訴を提起した後に死亡し、その相続人であるAの両親とAの子が原告らとなった。BはAの弟であり、以前東京都中野区で被告と同じ職場で働いており、被告と交際していたことがあった。被告は在日中国人女性で、東京都中野区でアパレル関係の仕事をしている。被告は、Bとの関係を素材とした小説「XO醤男と杏仁女」(被告小説)を著作し、出版社より出版した。被告小説は、「プロローグ」「春」「夏」「秋」「冬」「エピローグ」から構成される全253頁の小説で、主人公は被告自身をモデルとした在日中国人企業家「小悦」であり、小悦がBをモデルとする「古林」と交際するようになって、やがて別れ、古林の子を身篭るというものである。そして、被告小説の中に、古林の兄の「古森」が現代中国詩人として登場する。  被告小説において、次のように本件詩@〜Hの翻訳が記載されていた。
ア、本件詩@〜Hは、被告小説の9箇所において合計20頁にわたって、それらの全文の翻訳が記載されている。
イ、本件詩の翻訳は、本文との間に行間を開け、本文よりやや小さく本文とは異なる字体で記載されている。
ウ、被告小説の末尾には、「本文中引用の詩」について、A著鷺江出版社よりとして、本件詩の各題号が記載され、その翻訳は被告小説の作者である被告が行ったことが記載されている。
エ、被告小説において、本件詩@ないしDは、いずれも主人公の小悦が「南国文学ノート」と題された詩集に収録されている詩を読むという設定の下に、主人公の心情を描写するために使用されており、本文中のストーリーの一部を構成している。本件詩Fは「古森の詩」として掲載され、本文中のストーリーの一部を構成している。本件詩EGHはそのような設定ではなく、本文中にはなんらの出典の記載もなく、主人公小悦の心情を描写し、本文中のストーリーの一部を構成している。
オ、被告小説において、本件詩@の著者は「私と同郷で厦門鼓浪嶼出身の中国詩人」とされ、本件詩CFの著者は「古林の兄の古森」とされている。
カ、被告小説において、本件詩ACEGHは題号を省略して利用されている。本件詩@BDFは、題号は本文中に記載され、詩と同じ位置に同じ字体で記載されているわけではない。
本件は、原告らが、被告小説によって、名誉を毀損され、さらに本件詩を無断で翻訳利用されて著作権(翻訳権)を侵害され、並びに本件詩の題号を切除して利用されて著作者人格権(同一性保持権)を侵害された、として、被告小説の頒布の禁止等を求めて出訴したものである。

判決の要旨〔棄却〕
(1)公表された著作物を引用して利用することが許容されるためには、その引用が公正な慣行に合致し、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行わなければならない(著作権法三二条一項)。そして、ここでいう「引用」とは、自己の著作物中に、他人の著作物の原則として一部を採録するものであり、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、上記両著作物の間に、前者が主、後者が従の関係があると認められる場合をいうと解すべきである(最高裁昭和五一年(オ)第九二三号同五五年三月二八日第三小法廷判決・民集三四巻三号二四四頁参照)。
(2)これを本件について見るに、@利用されたのは中国語で書かれた本件詩九編全文であり、これが日本語に翻訳され、利用したのは日本語で書かれたモデル小説であること、A本件詩の翻訳は、表現形式上は、被告小説の本文と区別して行間を開けた上、本文と異なる字体で記載され、被告小説の巻末に、利用された本件詩の出所が明示されているが、本件詩の一部においてはその題号が巻末以外には掲載されていないし、題号が掲載されているものも本文中に記載されており、本件詩と同じ位置に同じ字体で記載されているわけではないこと、B本件詩は、被告小説において、主人公小悦が「南国文学ノート」と題された詩集に収録されている詩を読むという設定の下に小悦の心情を描写するために利用されたものと、本文中には何の出典もなく単に主人公小悦の心情を描写するために利用されたものとがあるが、いずれも本文中のストーリーの一部を構成していること、C被告小説における本件詩の利用目的は、それを批評したり研究したりするためではなく、本文中においてある場面における主人公小悦の心情を描写するためであることは、前記2で認定したとおりである。そして、これらの事情に、当該場面において当該心情を描写するために必ずしも本件詩を利用する以外の方法がないわけではないことを併せて考慮すれば、本件においてその引用が公正な慣行に合致し、かつ、引用の目的上正当な範囲で行われたものということはできず、被告小説における本件詩の利用は、著作権法三二条一項所定の引用に当たるということはできないと解される。

XO醤男と杏仁女事件

著作権法20条2項4号にいう「やむを得ないと認められる改変」に該当するためには、同項1号ないし3号に掲げられた例外的場合と同程度の必要性が存在することを要するとして、中国詩の翻訳において、
一 題号を切除して翻訳利用する行為は同一性保持権侵害に該当する
二 誤訳、翻訳すべき語を翻訳していない、意訳の範囲を超えている部分は同一性保持権侵害に該当する
とされた事例。

判決の要旨〔棄却〕
ア 被告小説において、本件詩A、C、E、G及びHにつき、題号を切除してその全文が使用されていることは、前記2認定のとおりである。著作者は、その題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してその切除その他の改変を受けないものとされているところ(著作権法二〇条一項)、Yの上記行為は、本件詩の題号についてAの有していた上記権利を侵害するものといわざるを得ない。
イ Yらは、本件詩を被告小説の主人公の心情描写に必要な範囲において本件詩を引用したものであり、題号の切除も、かかる目的に照らしやむを得ない改変である(著作権法二〇条二項四号)と主張する。
 しかしながら、著作権法二〇条二項四号は、同一性保持権による著作者の人格的利益の保護を例外的に制限する規定であり、かつ、同じく改変が許される例外的場合として同項一号ないし三号の規定が存することからすると、同項四号にいう「やむを得ないと認められる改変」に該当するというためには、著作物の性質、利用の目的及び態様に照らし、当該著作物の改変につき、同項一号ないし三号に揚げられた例外的場合と同程度の必要性が存在することを要するものと解される。しかるところ、Yら主張の事情をもってしても、被告小説において本件詩の題号を切除することにつき、上記のような必要性が存在すると認めることはできない。  したがって、著作権法二〇条二項四号が定める「やむを得ないと認められる改変」に該当するということはできない。
(2)翻訳による表現の改変について
ア 前記3認定のとおり、Yは、著作者であるAの許諾を得ることなく、本件詩を翻訳したものである。しかも、本件詩の訳文のうち、少なくとも、以下のイないしキの箇所は、客観的にみて誤訳であるか、又は翻訳すべき語を翻訳していないものであるか、若しくは意訳の範囲を超えているものであって、これらはいずれも意に反する改変といわざるを得ないから、本件詩についてAが有していた同一性保持権を侵害するものである。
イ 本件詩@について
(ア)本件詩@の「女巫」は「巫女」の意味であるところ、被告小説においてはこれを「婆や」と翻訳しており、これは誤訳であると認められる。
(イ)本件詩@の「女妖」を被告小説においては「妖怪」と翻訳しているところ、「妖」に「妖怪」の意味があるとしても、「女」の部分を翻訳していない。
ウ 本件詩Aについて
(ア)本件詩Aの「深藏」を被告小説においては「冬眠した」と翻訳しているところ、「藏」は「隠す、隠れる」の意味であり(大修館書店「新版漢語林」九四六頁)、その対象は「愛」であるから、かかる翻訳は、意訳の範囲内ということはできない。
(イ)本件Aの「穿行」は、「通り抜ける」の意味であるにもかかわらず、被告小説においてはこれを「いったりきたり」とほんやくしており、「穿行」にこのような意味があるとは認められないから、かかる翻訳は、意訳の範囲ということはできない。
エ 本件詩Dについて
(ア)本件詩Dは「たくさん、多数」の意味であるところ、被告小説においてはこれを「遠い」と翻訳しており、これは誤訳であると認められる。
(イ)本件詩Dの「注定」は、「(神や運命によって)定められている、決定される」の意味であるところ、被告小説においては上記「注定」の部分を翻訳していない。
(ウ)被告小説においては、本件詩Dの一〇行目及び一三行目の「?」(「あなた」の意)の部分を翻訳していない。
オ 本件詩Eについて
 被告小説においては、本件詩Eの二行目の「?」(「あなた」の意)の部分を翻訳していない。
カ 本件詩Fについて
(ア)被告小説においては、本件詩Fの二行目、八行目及び一四行目の「怡」(「よろこぶ」、「楽しい」の意)の部分を翻訳していない。
(イ)被告小説においては、本件詩のFの二行目を「黄昏の」と翻訳しているが、本件詩Fには、これに対応する語がなく、しかも前後の文脈から「黄昏の」と翻訳する必然性があると認めるに足りないから、かかる翻訳は、意味の範囲内ということはできない。
(ウ)本件詩Fの「徐徐」は、「ゆっくりと、おもむろに、ゆっくりと」の意味であるところ、被告小説においてはこれを「見る見るうちに」と翻訳しており、これは誤訳であると認められる。
(エ)被告小説においては、本件詩Fの五行目の「灯火」の部分を翻訳していない。
(オ)被告小説においては、本件詩Fの最終行を「恋人のささやきが波を立てていく」と翻訳しているが、本件詩Fには「恋人」に対応する語がないことから、かかる翻訳は、意味の範囲内ということはできない。
キ 本件詩Gについて
(ア)被告小説においては、本件詩Gの二行目の「望」を翻訳していないことが認められ、主語が「あなた」になってしまい、その意味が変わっていることが認められる。
(イ)被告小説においては、本件詩Gの四行目の「送」を翻訳していないことが認められ、主語が「あなた」になってしまい、その意味が変わっていることが認められる。
ク 被告らは、上記改変はいずれも著作権法二〇条二項四号の「やむを得ないと認められる改変」に当たると主張する。
 しかしながら、上記(1)イに述べたとおり、同項四号にいう「やむを得ないと認められる改変」に該当するというためには、著作物の性質、利用の目的及び態様に照らし、当該著作物の改変につき、同項一号ないし三号に揚げられた例外的場合と同程度の必要性が存在することを要するものと解されるところ、誤訳や翻訳すべきものを翻訳しないことがやむを得ないということができないのは明らかであるし、その余の上記改変も、いずれも翻訳として許される意訳の範囲を超えたものであって、被告小説において本件詩に改変を加えるにつき、上記のような必要性が存在すると認めることはできない。  よって、著作権法二〇条二項四号が定める「やむを得ないと認められる改変」に該当するということはできない。
(3)以上のとおり、被告小説は、Aが有していた本件詩についての同一性保持権を侵害するものである。






NTTプログラムリース事件

1 プログラム使用許諾契約書中に、リース業者がプログラムの使用者(リース先)を変更するためには使用権設定者(著作権者)との協議が必要である旨が定められていた場合において、リース業者がリース先をNTTのグループ企業内で変更するときにも著作権者との協議が必要であり、これをしないで著作権者に無断で他のグループ企業にリースする行為はプログラムの貸与権の侵害である
2 著作権法26条の3の「公衆」には不特定少数者も含むとして、プログラムをグループ内の他企業にリースする行為も「公衆」に対する提供といえる とされた事例
東京地裁平一四(ワ)一五九三八、NTTプログラムリース事件、平一六・六・一八判決(判時一八八一・一〇一、判タ一一七九・三二〇)
参照条文 著作権法二六条ノ三・一一四条、民法七〇三条・七一九条

事案の概要
原告Xは、NTTの電話料金のビリング業務(請求書作成及び発送業務)のためのコンピュータープログラム(本件各プログラム)を作成した株式会社である。被告エヌ・ティ・ティ・リース株式会社(Y1)はNTTグループの知的財産権の取得、リースなどを目的とする株式会社であり、Xから本件各プログラムの使用許諾を受けて、NTT関連法人である財団法人電気通信共済会(訴外財団法人)との間で本件各プログラムのリース契約を締結して、訴外財団に本件各プログラムを提供してNTTのビリング業務を委託していた。XとY1の使用許諾契約では、本件各プログラムの使用者を変更するためにはXと協議をすることが必要であると規定されている。その後、NTTが子会社であるエヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社(訴外コムウェア)を設立して、同社にビリング業務を営業譲渡したことに伴い、同社から同社の子会社のエヌ・ティ・ティ・コムウェア・ビリングソリューション株式会社(Y2)にNTTのビリング業務が委託されることとなり、Y1と旧委託先の訴外財団、新委託先のY2の三者間で、本件各プログラムの大半に関する訴外財団のリース契約上の地位をY2が承継する旨の契約(本件権利義務譲渡契約)を締結して、Y1は、Xから使用許諾を受けた本件各プログラムをY2に使用させていた。また、訴外財団は、本件各プログラムのうちの一部のプログラムに関するリース契約上の地位を訴外A社及び訴外B社に譲渡したので、これらの会社も本件各プログラムを使用するようになった。以上の使用者の変更についてXの承諾はなく、Y1は、Y2、訴外A社、訴外B社からリース料を徴収していた。

判決の要旨〔一部認容・一部棄却〕
 以上のとおりであるから、Yらの上記主張はいずれも採用することができず、結局、本件各使用権設定契約において、Xは、Y1に対し、使用者すなわち貸与の相手方を訴外財団だけに限定して使用権を設定し、Xの承諾を得ないで訴外財団以外の者に貸与することを禁じたものであり、Y1が原告の承諾を得ることなく訴外財団からY2に使用者を変更したことは、本件各使用権設定契約によるXの許諾の範囲を超えるものであったと認められる。  そこで判断するに、著作権法二六条の三にいう「公衆」については、同法二条五項において特定かつ多数の者を含むものとされているところ、特定かつ少数の者のみが貸与の相手方になるような場合は、貸与権を侵害するものではないが、少数であっても不特定の者が貸与の相手方となる場合には、同法の二六条の三にいう「公衆」に対する提供があったものとして、貸与権侵害が成立するというべきである。  この点、本件のように、プログラムの著作物について、リース業者がリース料を得て当該著作物を貸与する行為は、不特定の者に対する提供行為と解すべきものである。ただし、「特定」というのは、貸与者と被貸与者との間に人的な結合関係が存在することを意味するものと解されるところ、リース会社にとってのリース先(すなわちユーザ)は、専ら営業行為の対象であって、いかなる意味においても人的な結合関係を有する関係と評価することはできないからである(被告ら自身、プログラム・プロダクトに関するファイナンスリース契約は、経済的にはユーザに対する金融であり、場合によっては、リース業者はリース目的物を換価したり他の者にリース契約を承継させるものであることを認めている。前記第二、二(2)被告らの主張参照。)。  本件においては、Y2、A社及びB社は、いずれもNTTグループの企業であるにしても、リース業者であるY1との関係では単なるリース先(ユーザ)であるから、Y1がY2等に対して本件各プログラムを貸与した行為は、公衆に対する提供に当たり、Xの貸与権を侵害するものというべきである。

NTTプログラムリース事件

1 無権限リースを受けたリース先は、単独で著作権侵害の責任を負うことはなく、無権限リースであることを知りながらリースを受けた場合につきリース業者の共同不法行為者としての責任(著作権法113条2項)を負う
2 この場合において、リース先は使用料相当額の不当利得を返還する義務を負う(リース料を支払ったことは不当利得の発生を否定する事情とはならない) とされた事例
東京地裁平一四(ワ)一五九三八、NTTプログラムリース事件、平一六・六・一八判決(判時一八八一・一〇一、判タ一一七九・三二〇)
参照条文 著作権法二六条ノ三・一一四条、民法七〇三条・七一九条

事案の概要
原告Xは、NTTの電話料金のビリング業務(請求書作成及び発送業務)のためのコンピュータープログラム(本件各プログラム)を作成した株式会社である。被告エヌ・ティ・ティ・リース株式会社(Y1)はNTTグループの知的財産権の取得、リースなどを目的とする株式会社であり、Xから本件各プログラムの使用許諾を受けて、NTT関連法人である財団法人電気通信共済会(訴外財団法人)との間で本件各プログラムのリース契約を締結して、訴外財団に本件各プログラムを提供してNTTのビリング業務を委託していた。XとY1の使用許諾契約では、本件各プログラムの使用者を変更するためにはXと協議をすることが必要であると規定されている。その後、NTTが子会社であるエヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社(訴外コムウェア)を設立して、同社にビリング業務を営業譲渡したことに伴い、同社から同社の子会社のエヌ・ティ・ティ・コムウェア・ビリングソリューション株式会社(Y2)にNTTのビリング業務が委託されることとなり、Y1と旧委託先の訴外財団、新委託先のY2の三者間で、本件各プログラムの大半に関する訴外財団のリース契約上の地位をY2が承継する旨の契約(本件権利義務譲渡契約)を締結して、Y1は、Xから使用許諾を受けた本件各プログラムをY2に使用させていた。また、訴外財団は、本件各プログラムのうちの一部のプログラムに関するリース契約上の地位を訴外A社及び訴外B社に譲渡したので、これらの会社も本件各プログラムを使用するようになった。以上の使用者の変更についてXの承諾はなく、Y1は、Y2、訴外A社、訴外B社からリース料を徴収していた。
判決の要旨〔一部認容・一部棄却〕
 著作権法上、貸与行為について一定の行為が著作権(貸与権)侵害とされているにもかかわらず、被貸与者の行為について著作権侵害となる行為が規定されていないこと、著作権法一一三条二項が、プログラム著作物の違法複製物の使用について、違法複製物であることを知って複製物の使用権原を取得した場合に限って著作権侵害を構成するものとしていることに照らせば、プログラム著作物について貸与権侵害行為が行われた場合においても、被貸与者の行為が独自に著作権侵害を構成することはなく、ただ、被貸与者において貸与者が権限なく貸与行為を行っていることを知りながら貸与を受けた場合につき貸与者の行為に意を通じて加功したものとして、共同不法行為者としての責任を負う場合があるにすぎない。
 Y1が本件各リース契約をY2に承継させ、同被告に本件各プログラムを使用させた行為は本件各プログラムの貸与権侵害に該当するものであるから、Y2は法律上の権原なくして本件各プログラムを使用して利益を得たものであり、Xは同Y2が本件プログラムの貸与を受けて使用した期間につき使用料相当額の損失を被ったものというべきであるから、上記五において認定した損害額(使用料相当額)と同額につき、Y2は不当利益を得たものというべきである(Y2がY1にリース料を支払ったことは、不当利得の発生を否定する事情とはならない)。



家庭用学習教材事件

フェアー・ユースの法理を適用ないし類推適用すべき場合があるとしても、一般書店で販売されている家庭用学習教材の販売には同法理の適用ないし類推適用はなく、著作権侵害にあたるとされた事例
東京地裁平一四(ワ)一五五七〇、家庭用学習教材事件、平一六・五・二八判決(判時一八六九・七九)
参照条文 著作権法一九条・二〇条・三二条・三六条・一一二条・一一四条

事実の概要
 原告Xらは詩人又は童話作家であり、被告Yは学習教材等を制作販売する教材出版会社である。Yは、Xらの著作物(本件著作物)を複製した教材(本件教材。国語ドリルや中学入試問題集等)を印刷、出版して、全国の書店を通じて譲渡しているが、本件著作物の利用についてXらの同意を得ておらず、またXらの氏名を表示しておらず、さらに、かなを漢字に変換するなど表現が改変されているので、Xが、著作権侵害、著作者人格権(同一性保持権、氏名表示件)侵害を理由に、その差止、損害の賠償を求めて出訴したものである。これに対して、Yは、@Yらの行為は引用(著作三二I)に当たるから著作権侵害ではない、A試験問題としての複製(著作三六I)に当たるから著作権侵害ではない、Bフェアユースの法理が適用されるから著作権侵害ではない、C「意に反する改変」に当たらないから同一性保持権の侵害ではないと主張した。さらに、D既に本件教材の出版を中止しているから差止の利益はないと主張した。この章ではそのうちのBを扱う。

判決の要旨〔一部認容・一部棄却〕
 仮に、我が国においてフェア・ユースの法理を適用ないし類推適用すべき場合があるとしても、本件各教材が一般書店で販売されている家庭用学習教材であり、復習用のドリルないし中学受験用問題集であることに照らせば、被告主張の要件のうち少なくとも使用の目的及び性格という要件を欠き、本件は、フェア・ユースの法理を適用ないし類推適用すべき場合に当たらない。




音楽ファイル交換事件(3)

ピア・ツー・ピア方式による電子ファイル交換サービス提供者に対する差止判決の範囲が決定された事例(平成一五年法律第八五号改正前)
東京地裁平一四(ワ)四二三七、音楽ファイル交換事件(3)、平一五・一二・一七判決(判時一八四五号三六頁、判タ一一四五号一〇二頁)
参照条文 著作権二条・二一条・二三条・三〇条・四九条・一一二条・一一四条・一一四条の四

事案の概要
 原告Xは、著作権等管理事業法に基づき登録を受けた音楽著作権等管理事業者であり、内外国の音楽著作物の著作権者から著作権ないしその支分権の信託を受け管理し、国内の公衆送信事業者をはじめとする音楽の利用者に対して、音楽著作物の利用を許諾し、その対価として利用者から使用料を徴収するとともにこれを著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人(日本音楽著作権協会)である。被告Y1は、ソフトウェアの開発、販売等を目的とする有限会社であり、被告Y2は、Y1の代表者である。Y1は、利用者のパソコン間でデータを送受信させるピア・ツー・ピア(Peer To Peer)技術を用いてサーバ(以下、「被告サーバ」という)を設置し、インターネットを経由して被告サーバに接続されている不特定多数の利用者のパソコンに蔵置されている電子ファイルの中から、同時に被告サーバにパソコンを接続させている他の利用者が好みの電子ファイルを選択して、無料でダウンロードできるサービス(以下、「本件サービス」という)を提供している。そして、本件サービスによって利用者間で送受信されるデータのほとんどが著作権者の許可を得ることなくMP3形式により複製された音楽電子ファイルである。(ただし、被告サーバに送信されるのは送信者情報のみで、電子ファイル自体は送信者と受信者の間で直接送受信され被告サーバを経由しない。)そこで、Xは、Y1の電子ファイル交換サービスを提供する行為はXの有している著作権を侵害するとして、Y1に対して、電子ファイルの送受信の差止めを、Y1及びY2に対して、著作権侵害による共同不法行為に基づき損害賠償金の支払いを求めて訴えを提起した。本件は中間判決がなされており、ここに登載したものは終局判決である。本件の論点は、@Y1は著作権侵害に該当するか、AY1,Y2は著作権侵害の不法行為を理由とする損害賠償義務を負うか、BY1に対する差止請求の範囲、CXの被った損害額であり、@Aについては、中間判決でY1、Y2は著作権侵害を理由とする損害賠償義務を負うとされている。そして、終局判決でBCが判断されており、ここではBを扱う。

判決の要旨〔一部認容・一部棄却〕
(1)差止めの対象となる行為の特定
 そこで、差止めの対象となるY1の行為をどのように特定した上で、Xの求める差止請求を認めるのが相当かを検討する。まず、Xの有する送信可能化権を侵害するY1の行為を客観的に特定すべきことが必要であることはいうまでもない。しかし、本件においては、この点を厳格に求めることは、以下の理由から妥当ではない。すなわち、第一に、本件中間判決で判示したとおり、本件サービスにおいては、被告サーバに接続している利用者のパソコンの共有フォルダ内の電子ファイルのみが送信可能化されており、当該パソコンが被告サーバとの接続を解消すると、上記電子ファイルは送信可能化の対象でなくなることから、現に送信可能化されている個々の電子ファイルを差止めの対象とした場合は、その判決が確定する段階では、当該電子ファイルのほとんどすべては送信可能化が終了しており、その判決の実効性がないこと、第二に、将来送信可能化されると予想される電子ファイルを差止めの対象としようとしても、前述のように、本件サービスにおいては、本件各管理著作物を複製したMP3ファイルが、送信者により、時々刻々と新たに、送信可能化状態に置かれるため、当該電子ファイルを、あらかじめ厳格に特定することは、不可能であること等の事情が存在するからである。ところで、〔証拠略〕によれば、本件サービスの利用者(送信者)が市販のレコードを複製したMP3ファイルにファイル名を付す場合、他の利用者(受信者)が電子ファイルの内容を認識し得るようなファイル名を付することが一般的であると認められ、そのようなファイル名としては、通常、当該レコードの題名や実演家名を表示する文字を使用することが最も自然であり、また、その場合の題名及び実演家名の表記方法は、当該レコードの表記方法と同一のものばかりではなく、適宜、漢字、ひらがな、片仮名及びアルファベット等で代替して表記することが推認される。以上によれば、差止めの対象とすべきY1の行為を特定する方法としては、送信側パソコンから被告サーバに送信されたファイル情報のうち、ファイル名又はフォルダ名のいずれかに本件各管理著作物の「原題名」を表示する文字及び「アーティスト」を表示する文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のあるものについては、いずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報に関連付けて、当該ファイル情報に係るMP3ファイルの送受信行為として特定するのが、最も実効性のある方法といえる。なお、本件の差止めの対象とすべきY1の行為を上記のような方法で特定すると、利用者がファイル名を付する際に、単純に表記を誤ったり、原題名のみを表記したなどの場合には、本件各MP3ファイルであっても差止めの対象から除かれることになることが考えられる。しかし、〔証拠略〕によれば、上記のような場合は極めて稀にしか生じないものと認められることに加え、Y1が提供する本件サービスの性質上、他に差止めの対象とすべき本件各MP3ファイルを特定する的確な方法はないことに鑑みれば、上記の特定方法によってもXの保護に欠ける結果とはならないというべきである。
(2)過大な差止めを肯認するとの被告らの反論について
 上記の点に対して、被告らは、ファイル名等に本件各管理著作物の「原題名」を表示する文字及び「アーティスト」を表示する文字の双方が表記されたファイル情報に係るMP3ファイルの中には、本件各MP3ファイル以外のMP3ファイルが含まれている可能性があり、そのようなMP3ファイルの送信可能化を差し止めることは、Y1が差止義務を負う範囲を超えて差止めを肯認することになるから許されない旨主張する。しかし、いやしくも、利用者は、自ら創作した音楽の電子ファイルをMP3ファイル形式にして本件サービスにより送信しようとした場合には、可能な限り、市販のレコードとの混同を避けるはずであるから、市販のレコードの題名や実演家名と同一の名称を使用することはないと解するのが合理的であること、本件全証拠によるも、本件サービスにおいて、本件各管理著作物の「原題名」及び「アーティスト」を表示する文字の双方を表記したMP3ファイルであって本件各MP3ファイル以外の電子ファイルが存在することを窺わせるに足りる事実は認められないこと等に鑑みれば、ファイル名等に本件各管理著作物の「原題名」及び「アーティスト」を表示する文字の双方が表記されたMP3ファイルの中に本件各MP3ファイル以外の電子ファイルが含まれていることを前提としたYらの上記主張は理由がないことになる。

解説
 Xの求めた差止請求の主文は、「Y1は、別紙楽曲リスト記載の各音楽著作物につき、自己が運営する「ファイルローグ」という名称のインターネット上の電子ファイル交換サービスにおいて、MP3形式によって複製された電子ファイルを送受信の対象としてはならない」でした。しかし、Xの管理する音楽著作物を無断で送受信の対象としてはならないことは法の規定そのものであり、このような抽象的な差止請求は認められないのが一般です。差止めの対象はより具体的行為でなければならないと考えられています。例えば、「原告の著作した絵画を複製してはならない」といった抽象的な差止請求は認められず、原告の絵画のうちで被告が複製している、あるいは複製するおそれのある絵画を特定して、「OOO及びOOOを複製してはならない」と請求しなくてはならないと考えられています。そこで、本判決は、Xの請求どおりの差止めは認めませんでした。本判決は、第一に、被告サーバに接続している利用者のパソコンの共有フォルダ内の電子ファイルのみが送信可能化されており、利用者のパソコンが被告サーバとの接続を解消すると、その電子ファイルは送信可能化の対象ではなくなることから、現に送信可能化されている個々のファイルを差止めの対象とした場合は、判決確定段階では殆どのファイルが送信可能化が終了していて判決の実効性が期しがたいと述べ、第二に、将来送信可能化されると予想されるファイルを差止めの対象としようとしても、管理著作物を複製したMP3ファイルが、送信者により時々刻々と新たに送信可能化状態に置かれるため、そのファイルを予め特定できないと述べ、いずれの方法も適切ではないとしました。そして、サービス利用者(送信者)が市販レコードを複製したMP3ファイルにファイル名を付す場合、受信者が電子ファイルの内容を認識できるように、レコードの題名や実演家名を表示する文字を使用することが一般的であるとし、結局次の判決主文を出しました。「Y1は、Y1が「ファイルローグ」という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙楽曲リストの「原題名」欄記載の文字及び「アーティスト」欄記載の文字の双方が表記されたファイル情報に係る、MP3形式によって複製された電子ファイルを送受信の対象としてはならない」




(幼児用教育教材事件)

幼児用教育教材における類似点は、思想、アイデア若しくは素材など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分であるから、たとえこれらの点が類似していても翻案には当らないとされた事例
東京地裁平一四(ワ)二三二一四、幼児用教育教材事件、平一五・一一・二八判決(判時一八四六号九〇頁)
参照条文 著作権法二条・二一条・二七条・六五条・一一二条・一一四条

事案の概要
 原告Xは、出版社とイラストレーターであり、被告Yは出版社である。X、Yらは、共同で、「多湖輝の頭脳開発シリーズ」(当初シリーズ)を企画・製作し、Yがこれを出版した。Yは、その後「多湖輝の頭脳開発シリーズ」(新シリーズ)を、さらにその後「多湖輝の新頭脳開発シリーズ」(本件シリーズ)を出版した。Yは、当初シリーズと新シリーズにおいては、Xらとの間で出版契約を取り交わしたが、本件シリーズのうち平成一三年以降に出版した書籍(本件書籍)については出版契約を取り交わしていない。そこで、Xらは、本件書籍の著作権が原告らと被告との共有に属することの確認を求めるとともに、著作権を根拠に、本件書籍の出版の指し止め及び損害賠償を求めた。

判決の要旨〔棄却〕
 Xらが主張する類似点は、思想、アイデア若しくは素材など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分における同一性をいうもので、たとえこれらの点が類似していても翻案には当らない。そして、本件各書籍に接する者がこれに対応する新シリーズの各書籍の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる箇所は見当たらない。なお、本件各書籍とこれに対応する新シリーズの各書籍の表紙裏に記載されている「この本のねらいと構成」は、まさに書籍として表現するにあたっての思想又はアイデアを記したものであり、思想又はアイデアが類似していても翻案には当たらない。また、年齢別、分野別としたこと、一枚ずつ外して使えるものとしたこと、シールを利用したこと及びボードをつけたこと等原告ら主張のノウハウは、本件シリーズ等を製作するにあたって利用されたアイデアであって、表現それ自体ではないから、この点が類似していても、翻案には当たらない。(著作権法・商標法判例解説集抜粋)



(カラオケリース事件(3))

飲食店に対する通信カラオケリース業者が「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」(著作権法一一二条一項)に該当するとして、同リース業者に対して、カラオケ用楽曲データの送信禁止が命じられた事例
大阪地裁平一四(ワ)九四三五、カラオケリース事件(3)、平一五・二・一三判決
(判時一八四二号一二〇頁、判タ一一二四号二八五頁)
参照条文 著作権法一一二条

事案の概要
  原告Xは、著作権等管理事業法に基づく音楽著作権等管理事業者である日本音楽著作権協会(JASRAC)であり、被告Yは、スナック等の社交飲食店に対する通信カラオケリース業者である。通信カラオケとは、音楽著作物をコンピューターの記憶装置にデータベースの構成部分として複製し、それを送受信装置を用いて有線送信して利用に供するシステムをいう。本件のYは、@一定の信号を送信することによってシステムの使用を不能にすることができ、A鍵を保管しており、毎月店舗と被告が立ち会って装置を開扉し、Bリース料は毎月定額で決められており、CXによる証拠保全に際して店舗が著作物使用許諾契約を締結していないことを確認できたのに、依然としてリース契約を継続していた。

判決の要旨〔認容・控訴〕
 著作権法一一二条一項にいう「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」は、一般には、侵害行為の主体たる者を指すと解される。しかし、侵害行為の主体たるものではなく、侵害の幇助行為を現に行う者であっても、@幇助者による幇助行為の内容・性質、A現に行われている著作権侵害行為に対する幇助者の管理・支配の程度、B幇助者の利益と著作権侵害行為との結びつき等を総合して観察したときに、幇助者の行為が当該著作権侵害行為に密接な関わりを有し、当該幇助者が幇助行為を中止する条理上の義務があり、かつ当該幇助行為を中止して著作権侵害の事態を除去できるような場合には、当該幇助行為を行う者は侵害主体に準じるものと評価できるから、同法一一二条一項の「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に当たるものと解するのが相当である。けだし、同法一一二条一項に規定する差止請求の制度は、著作権等が著作物を独占的に支配できる権利(著作者人格権については人格権的に支配できる権利)であることから、この独占的支配を確保する手段として、著作権等の円満な享受が妨げられている場合、その妨害を排除して著作物の独占的支配を維持、回復することを保障した制度であるということができるところ、物権的請求権(妨害排除請求権及び妨害予防請求権)の行使として当該具体的行為の差止めを求める相手方は、必ずしも当該侵害行為を主体的に行う者に限られるものではなく、幇助行為をする者も含まれるものと解しえることからすると、同法一一二条一項に規定する差止請求についても、少なくとも侵害行為の主体に準じる立場にあると評価されるような幇助者を相手として差止めを求めることも許容されるというべきであり、また、同法一一二条一項の規定からも、上記のように解することに文理上特段の支障はなく、現に侵害行為が継続しているにもかかわらず、このような幇助者に対し、事後的に不法行為による損害賠償責任を認めるだけでは、権利者の保護に欠けるものというべきであり、また、そのように解しても著作物の利用に関わる第三者一般に不測の損害を与えるおそれもないからである。
 前記四〔省略〕で述べた著作権法一一二条一項の解釈を前提として、Yが同項の「著作権を侵害する者又はそのおそれのある者」に当たるといえるかについて検討するに、@Yは、本件各店舗において管理著作物に係る歌詞・楽曲の演奏・上映行為を行うについて、必要不可欠といえるカラオケ装置(同装置に蓄積された楽曲データを含む。)を提供していること、AYは、本件各店舗にカラオケ装置をリースするに際し、管理著作物に係る使用許諾契約の締結又申込みの有無を確認すべき条理上の注意義務を怠り、そのような確認をしないでカラオケ装置を引き渡したものであり、しかも、その後、現に本件各店舗の経営者がXの許諾を受けないで管理著作物に係る歌詞・楽曲の演奏・上映による著作権侵害行為を行っていることを知りながら、これら経営者に許諾を受けることを促し、それがされない場合にはリース契約を解除してカラオケ装置の停止の措置をとり、カラオケ装置を引き揚げるべき条理上の注意義務に反して放置しているものであること、BYは、同カラオケ装置について、作動可能にするか作動不能にするかを決める制御手段を有していること、CYが得るリース料は、本件各店舗において管理著作物に係る歌詞・楽曲の演奏・上映行為と密接な結び付きのある利益といえることからすると、Yは、本件各店舗で行われている著作権侵害行為の侵害主体に準じる立場にあると評価できる幇助行為を行っており、かつ、当該幇助行為を中止することにより著作権侵害状態を除去できる立場にあるというべきであるから、著作権法一一二条一項の「著作権を侵害する者又は侵害するおそれのある者」に当たると解するのが相当である。

解説
 カラオケリース事件(2)の最高裁判決は、リース業者は、飲食店等とリース契約を締結するに際して、飲食店等が著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結すべきことを告知するだけではなく、著作物使用許諾契約の締結又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引渡す条理上の義務があるとして、それを怠ったリース業者の損害賠償責任を肯定しました。
 本判決は、リース業者に損害賠償責任を問うた事案ではなく、リース業者に対して差止を求めた事案ですから、楽曲データの直接的利用者ではないリース業者が「著作権を侵害する者又は侵害するおそれのある者」(著作権法一一二条一項)にあたるかが問題とされました。そして、本判決は、侵害行為の主体ではない幇助者であっても、@幇助行為の内容,性質,A幇助者の管理、支配の程度,B幇助者の利益と著作権侵害行為の結びつき等を総合勘案した結果、幇助者の行為が著作権侵害行為と密接な関係を有し、幇助者に幇助行為を中止する条理上の義務があり、幇助行為を中止して著作権侵害の事態を除去できるような場合は、幇助者も侵害主体に準じるとしました。そして、本件のリース業者は、@飲食店等が管理著作物を演奏するのに必要不可欠なカラオケ装置(同装置に蓄積された楽曲データを含む)を貸与する者であり,A飲食店等にカラオケ装置をリースするに際しては著作物使用許諾契約の締結又は申込みの有無を確認すべき条理上の義務があるのに、かかる義務に違反してカラオケ装置を引渡し、さらに、その後著作権侵害行為の事実を知ったのだからカラオケ装置を引き上げる条理上の義務があるのに、これを怠って放置したものであり、B同カラオケ装置を作動可能にするか作動不能にするかの制御手段を有していること、Cリース料は無断上映行為と密接な結びつきがあることを考慮すると、本件リース業者は侵害主体と評価できるとしました。(著作権法・商標法判例解説集抜粋)




「社交ダンス教室事件」 

日本音楽著作権協会(JASRAC)の許諾を得ることなく、社交ダンス教室で音楽著作物を録音したCD等を再生する方法で演奏する行為は、著作物を公に演奏する行為であって(著作権法22条)、非営利演奏(著作権法38条1項)にあたらないから、著作権侵害行為に該当するが、録音物再生装置及び関連機器の撤去までは認められないとされた事例
名古屋地裁平一四(ワ)二一四八、社交ダンス教室事件、平一五・二・七判決
(判時一八四〇号一二六頁、判タ一一一八号二七八頁)
参照条文 著作権二条・二二条・三八条・一一二条・一一四条・一一四条の四

事案の概要
 原告X(日本音楽著作権協会・JASRAC)は音楽著作物の管理事業を主たる業務とする者である。他方、被告Yらは、それぞれ社交ダンス教授施設(以下、「本件各施設」という)において社交ダンス教室を経営している者であり、一部の社交ダンス教授施設については被告らのうちの2名が共同経営をしている。Yらはそれぞれ経営する本件各施設において、営業時間中、別紙物件目録(省略)記載のCDプレーヤー等の録音物再生装置及び関連機器(以下、「本件物件」という)を設置し、これを操作してXの許諾を得ることなく、CD等に録音された管理著作物を含む音楽著作物を再生する方法により演奏し、顧客が社交ダンス教授所所属のダンス教師の指導を受けながら音楽にあわせてダンスする形式で授業(少なくともその一部)を行っている。
 そこで、Xは、Yらに対し、著作権法一一二条に基づき、Xらが管理する音楽著作物の使用差止め(同条一項)と録音物再生装置等の撤去(同条二項)等を求めて出訴したのが本件である。
 本件の主な争点は、@Yらの行為は原告の演奏権を侵害するか、AXが、Yらに対し、Xの使用料規定等に基づいて著作物の使用料を請求することは権利濫用にあたるか、BYらによるCD等の再生は、平成11年法律第77号による改正前の法附則一四条の適用対象となるか、C損害等の有無及び額がいくらか、である。ここでは@について扱い、@の争点をさらに詳説すれば、YらによるCD等の再生は、ア)公衆に対する演奏(著作権法二二条)に当たるか、イ)非営利の演奏(著作権法三八条)に当たるか、ウ)著作物の公正な利用(いわゆるフェア・ユース)に当たるか、である。

判決の要旨〔一部認容・双方控訴〕
一 公衆演奏の該当性
  著作権者は、その著作物を公衆に直接見せまたは聞かせることを目的として(「公に」)演奏する権利を占有しており(法二二条)、「演奏」には、生の演奏だけでなく、著作物が録音された者を再生することを含むとされている(同法二条七項)ところ、前記前提事実(2)〔省略〕のとおり、Yらは、本件各施設において、ダンス教師が受講生に対し社交ダンスを教授するに当たり、管理著作物を含む音楽著作物を録音したCD等を再生する方法により演奏していることは当事者間に争いがない。
  しかるところ、Xは、前記のとおり、受講生に対し社交ダンスを教授するに際して管理著作物等を再生する行為は、「公に」演奏する行為に当たると主張するのに対し、Yらは、上記再生行為は、特定かつ少人数の者に対する者であると主張して、「公に」演奏する行為であることを否定するので、まず、この点について検討する。
  一般に、「公衆」とは、不特定の社会一般の人々の意味に用いられるが、法は、同法における「公衆」には、「特定かつ多数の者」が含まれる旨特に規定している(同法二条五項)。法がこのような形で公衆概念の内容を明らかにし、著作物の演奏権の及ぶ範囲を規律するのは、著作物が不特定一般の者のために用いられる場合はもちろんのこと、多数の者のために用いられる場合にも、著作物の利用価値が大きいことを意味するから、それに見合った対価を権利者に還流される方策を採るべきとの判断によるものと考えられる。かかる法の趣旨に照らすならば、著作物の公衆に対する使用行為に当たるか否かは、著作物の種類・性質や利用態様を前提として、著作権者の権利を及ぼすことが社会通念上適切か否かという観点をも勘案して判断するのが相当である(このような判断の結果、著作権者の権利を及ぼすべきでないとされた場合に、当該使用行為は「特定かつ少数の者」に対するものであると評価されることになる。)
  これを本件についてみるに、Yらによる音楽著作物の再生は、本件各施設においてダンス教師が受講生に対して社交ダンスを教授するに当たってなされるものであることは前記のとおりであり、かつ、社交ダンスはダンス楽曲に合わせて行うものであり、その練習ないし指導に当たって、ダンス楽曲の演奏が欠かすことのできないものであることはYらの自認するところである。そして、証拠(甲五の一ないし七)によれば、Yらは、格別の条件を設定することなく、その経営するダンス教授所の受講生を募集していること、受講を希望する者は、所定の入会金を支払えば誰でもダンス教授所の受講生の資格を得ることができること、受講生は、あらかじめ固定された時間帯にレッスンを受けるのではなく、事前に受講料に相当するチケットを購入し、レッスン時間とレッスン形態に応じた必要枚数を使用することによって、営業時間中は予約さえ取れればいつでもレッスンを受けられること、レッスン形態は、受講生の希望に従い、マンツーマン形式による個人教授か集団教授(グループレッスン)かを選択できること、以上の事実が認められ、これによれば、本件各施設におけるダンス教授所の経営主体であるYらは、ダンス教師の人数及び本生として迎え入れることができ、このような受講生に対する社交ダンス指導に不可欠な音楽著作物の再生は、組織的、継続的に行われるものであるから、社会通念上、不特定かつ多数の者に対するもの、すなわち、公衆に対するものと評価するのが相当である。
  この点につき、Yらは、@本件各施設におけるCD等の再生は、Yらとダンス指導受講の契約を結んだ特定の生徒に対し、ダンス技術の指導に伴ってなされるものであり、両者の間には密接な人的接合関係に依存した継続的な関係が存することに照らせば、本件各施設におけるCD等の再生は特定の者に対してなされるものであること、AYらのダンス指導は個人レッスンを基本としているところ、その生徒数は数名、多くとも一〇名程度であるから、多数の者に対する演奏ともいえないこと、などを理由に、公衆に対するものではないと主張する。
  なるほど、証拠(乙一〇の一ないし七、一二、一八ないし三三)によれば、顧客である受講生らとYらとの間にダンス指導受講を目的とする契約が締結されていること、この契約は、通常、一回の給付で終了するものではなく、ある程度の期間、継続することが予定されていること、本件各施設において、一度にレッスンを受けられる受講生の数に限りがあること、本件各施設におけるダンス教授が個人教授の形態を基本としていること、以上の事実は否定できない。しかしながら、受講生が公衆に該当するか否かは、前記のような観点から合目的的に判断されるべきものであって、音楽著作物の利用主体とその利用行為を受ける者との間に契約ないし特別な関係が存することや、著作物利用の一時点における実際の対象者が少数であることは、必ずしも公衆であることを否定するものではないと解される上、@上記認定のとおり、入会金さえ支払えば誰でも本件各施設におけるダンス教授所の受講生資格を取得することができ、入会の申込と同時にレッスンを受けることも可能であること、A一度のレッスンにおける受講生の制約は、ダンス教授そのものに内在する要因によるものではなく、当該施設における受講生の総数、施設の面積、指導者の数、指導の形態(個人教授か集団教授か)、指導日数等の経営形態・規模によって左右され、これらの要素いかんによっては、一度に数十名の受講生を対象としてレッスンを行うことも可能と考えられることなどを考慮すると、受講生である顧客は不特定多数の者であり、同所における音楽著作物の演奏は公衆に対するものと評価できるとの前記判断を覆すものではないというべきである。
二 演奏の非営利性
  Yらは、本件各施設における音楽著作物の再生は、営利性を欠くと主張するところ、法は、公表された著作物につき、@営利を目的とせず、A聴衆等から料金を受けない場合には、著作権に服することなく公に演奏等を行うことができる旨規定する(法三八条一項)。これは、公の演奏等が非営利かつ無料で行われるのであれば、通常大規模なものではなく、また頻繁に行われることもないから、著作権者に大きな不利益を与えないと考えられたためである。このような立法趣旨にかんがみれば、著作権者の許諾なくして著作物を利用することが許されるのは、当該利用行為が直接的にも間接的にも営利に結びつくものではなく、かつ聴衆等から名目のいかんを問わず、当該著作物の提供の対価を受けないことを要すると解すべきである。
  しかるところ、Yらが、本件各施設におけるダンス教授所において、受講生の資格を得るための入会金とダンス教授に対する受講料に相当するチケット代を徴収していることは前記のとおりであり、これらはダンス教授所の存続等の資金として使用されていると考えられるところ、ダンス教授に当たって音楽著作物の演奏は不可欠であるから、上記入会金及び受講料は、ダンス教授と不可分の関係にある音楽著作物の演奏に対する対価としての性質をも有するというべきである。
  この点につき、Yらは、@社交ダンスは一つの芸術ないしスポーツであり、社交ダンス教授所はその教育という公益目的に従事するものであって、受講生から得た受講料はダンス教師の技術の向上や本件各施設の運営費用に振り向けられているから、営利を目的としたものではないこと、A受講料は、ダンス指導の対価であって、音楽著作物の演奏に対する対価ではないから、受講料は法三八条一項の「料金」に当たらないこと、などを理由に、本件各施設における管理著作物の再生は、営利を目的としない利用としてXの著作権が及ばない旨主張する。
  しかしながら、社交ダンスが一つの芸術ないしスポーツの側面を有していることは承認できる(乙一ないし三、八)としても、スポーツ等が営利目的と併存し得ることは、プロ野球やプロサッカーの例を挙げるまでもなく、疑いを容れる余地がないし、Xらが主張するように、受講料がダンス教師の技術の向上や本件各施設の運営費用に振り向けられれば、本件各施設の運営費用に振り向けられれば、本件各施設の人的物的施設が維持改善されて同施設の競争力が高まり、更に受講生の獲得、受講料収入の増加につながるという循環を生み出すことが考えられるから、これらだけではダンス教授所が営利を目的としないとはいえない。かえって、前記認定のとおり、本件各施設におけるダンス教授所は、入会金と受講料を定め、受講生から徴収しているが、これらは教授所を維持するのに最低限必要な経費から割り出されたものではなく、受講生が増加すれば増加するほどその経営者の取得する所得が増加する関係にあり、現に、証拠(甲五の一及び五ないし七)によれば、被告株式会社A、被告G、被告H、被告I、被告Jの経営にかかるダンス教授所においては、受講勧誘文言を記載した入会案内書を作成、配布している事実が認められるから、これらを総合すれば、Xらの経営するダンス教授所が営利の目的を有していないものであるとは到底認めることはできない。そして、前記のとおり、社交ダンスの教授に際して音楽著作物を演奏することは必要不可欠であり、音楽著作物の演奏を伴わないダンス指導しか行わない社交ダンス教授所が受講生を獲得することはおよそ困難であって、そのような社交ダンス教授所が施設を維持運営できないことは明らかであるから、結局、本件各施設における音楽著作物の利用が営利を目的としないものであるとか、上記受講料がその対価としての料金には当たらないとのYらの主張は採用できない。
三 録音物再生装置等の撤去
  法一一二条二項は、著作権者が著作権侵害者に対し、同条一項に規定する差止請求権を実効あらしめるために必要な具体的措置として、「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」の廃棄等を請求することができると定めているところ、Xは、本件物件は「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」に当たると主張するのに対し、Yらはこれを否定する。
  そこで検討するに、本件物件は、CD等の録音物の一般的再生装置であって、管理著作物以外の音楽著作物の再生にも供しえるものである。他方で、本件各施設に本件物件を残しておくと、Yらによって管理著作物の演奏が再開される可能性があることは否定できない。このような観点からすると、上記の「専ら」の要件を満たすか否かについては、著作物の種類・内容、侵害行為の方法・態様、侵害行為の数及び程度、供用物件の性質、取り得る具体的措置の内容等を総合考慮して判断するのが相当である。
  これを本件についてみるに、本件報告書(甲五の一ないし七)によれば、本件各施設におけるダンス教授所で演奏された音楽著作物中に占める管理著作物の割合は、平均して八〇パーセントを超えていることが認められるが、他方で、いわゆるダンス教授所において使用される音楽、いわゆるダンス音楽は極めて選択の幅が広く、必ずしも管理著作物を用いなくともダンス指導は可能と考えられるから、Yらに管理著作物の使用の差止めを命ずることによって、それ以降の侵害が停止されることが期待できるというべきであり、実際にも、本訴提起後にYらが行った本件各施設における音楽著作物の使用実態の報告書(乙七の一ないし七)によれば、使用された楽曲の中には管理著作物以外のものも相当数使用されている事実が認められること(なお、Yらの上記報告書は、調査主体や調査方法が必ずしも明らかでなく、また使用楽曲数が本件報告書とかい離しているなど、管理著作物を使用することについて自重していることがうかがわれるが、そうであっても、否、そうであればこそ、上記の判断の裏付けとなるというべきである。)に照らせば、法が侵害行為の差止めに加えて侵害専供用物件の廃棄等請求を認めた趣旨を考慮しても、なお、本件物件が「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」に当たると認めることは相当でない。
  この点につき、Xは、本件物件を本件各施設から撤去するだけであれば、被告らに加重な負担を強いるものではないから、Yらはこれを甘受すべきである旨主張するが、上記撤去請求は、現時点で存在する本件物件の撤去にとどまらず、将来置かれ得る本件物件に対してもその効力を有するといわざるを得ないから、これを認容するためには、Yらが本件物件を使用することによって将来にわたり管理著作物を侵害する蓋然性が高いことの立証が必要というべきところ、これが尽くされたといえないことは前記判断のとおりであるから、Xの上記主張は採用できない。
  したがって、Xの法一一二条に基づく本件物件の撤去請求は理由がない。

解説
一 ダンス教授所におけるレッスンに際してCDを再生する行為が「公に上演」(著作権法二二条)にあたるか。
  著作権者が専有する演奏権は、生演奏だけではなく録音物再生も含むとされていますが(著作権法二条七項)、それは「公に=公衆に直接見せまたは聞かせることを目的とする」演奏する権利(同法二二条)ですから、公の演奏にあたらない限りは著作権侵害にはなりません。そして、「公衆」には不特定人だけではなく特定かつ多数人も含みます(同法二条五項)。そこで、被告らは、被告らが経営するダンス教授所でのレッスンに際してのCDの再生は、被告らと契約を結んだ特定人に対してなされ、さらに生徒数は多くても一〇名程度であるから多数人とはいえず、したがって「公に」の要件を満たさないと主張しました。これに対して、判決は、公衆を対象とする演奏にのみ演奏権が及ぶのは、著作物の利用価値が大きいときにはそれに見合った対価を著作権者に還流させる趣旨であるとして、かかる趣旨に照らせば、被告らのダンス教授所においては、誰でも受講生資格を得てレッスンを受けられること、施設的要因や経営的要因さえ満たせば一度に数十人を対象としてレッスンすることも可能であることを考慮すると、受講生は不特定多数人であるから「公に」にあたるとしました。妥当な判断と思われます。
二 ダンス教授所におけるレッスンに際してCDを再生する行為は非営利行為か
  音楽著作物を公に再生する行為であっても、営利を目的とせず、聴衆等から料金を受けないときは著作権侵害に該当しないこととされていますが(著作権法三八条一項)、判決では、その趣旨を非営利演奏は通常大規模なものではなく、また頻繁に行われるものではないから、著作権者に大きな不利益を与えない点にあるとし、かかる立法趣旨に照らせば、同条に該当するためには、演奏が直接にも間接にも営利に結びつくことなく、かつ名目の如何をとわず対価を受けないことが必要であるとしました。そして、被告らの経営するダンス教授所では、入会金やチケット代を徴収しているのだから、非営利演奏にあたらないことはいうまでもないとしました。被告らは、社交ダンスは芸術ないしスポーツであって、その教授は公益目的であるとか、受講料はダンス指導の対価であって演奏の対価ではないと主張しましたが、判決ではいずれも斥けています。妥当な判断と思われます。
三 録音物再生装置等の撤去は認められるか
  著作権法は、差止請求権を実効あらしめるために、「専ら侵害の行為に供せられた機械若しくは器具の廃棄」の請求が認められています(著作権法一一二条二項)。そこで、録音物再生装置が「専ら」侵害行為に供せられた機械等であるかが問題となりました。常識的に考えれば、CD装置等は原告らの管理著作物以外の音楽も再生できるのですから「専ら」の要件を満たしません。しかし、原告は、ダンス教授所で使用される音楽の八〇%以上を原告らの管理著作物が占めていることから、ダンス教授には管理著作物の使用が必然的に伴うので、その再生装置は「専ら」侵害行為に供せられるものであると主張しました。これに対して、判決では、管理著作物を利用しないダンス教授も可能であること、撤去判決は将来置かれうる物件に対しても効力を及ぼすこと等を理由に、撤去請求は棄却しました。(著作権法・商標法判例解説集抜粋)


(はだしのゲン事件) 

漫画の原作に基づいて創作された講談用脚本において、原作にある複数のエピソードを選択、再構成して講談用に脚本したものが著作者であり、講談用に演じやすい言い回しに修正した者は共同著作者ではないとされた事例
東京地裁平一三(ワ)五六八五、はだしのゲン事件、平成一四・八・二判決
(判時一八一六号一三五頁、判タ一一二九号二五八頁)
参照条文 著作権法六五条・一一二条

事案の概要
 被告Yは、講談師であり、昭和六一年ころ原告Xとともに太平洋戦争の戦跡や広島の原爆資料館を訪れたことを契機として、講談によって戦争や原爆の惨状を伝えたいと考え、太平洋戦争末期からその後の混乱の時期を力強く生き抜いた中学生ゲンの行動を通して反戦反核を訴えた漫画作品「はだしのゲン」(以下、「はだしのゲン」という)を講談で上演することを思いたち、その著者である中沢啓治氏(以下、「中沢」という)から、同作品及び中沢の被爆体験をドキュメンタリー風に記述しながら反戦反核を訴えたエッセー作品「はだしのゲンはピカドンを忘れない」の脚本化について許諾を得た。しかし、Yは、脚本を作成できずに悩んでいた。そこで、当時夫であったXが、被告のために講談用の脚本を作成することにした。以後、Xは、講談用各脚本「はだしのゲンパート1」(以下「本件著作物1」という。)、「はだしのゲンパート2」(以下「本件著作物2」という。)及び「新釈四谷怪談」(以下「本件著作物3」という。)を創作し、著作権を取得したと主張しており(本件著作物1及び2については、被告は、原告と被告の共同著作であると主張しており、争いがある)、各著作物の内容は以下のとおりである。
本件著作物1は、太平洋戦争末期から原爆投下及びその後の混乱の時期を力強く生き抜いた中学生ゲンの行動を通して反戦反核を訴えた漫画作品「はだしのゲン」、及びはだしのゲンの著者中沢啓治氏が自らの被爆体験をドキュメンタリー風に記述しながら反戦反核を訴えたエッセー作品「はだしのゲンはピカドンを忘れない」を原作とし、各作品の中の原爆投下の直前から原爆投下時までの複数のエピソードを選択、再構成して、講談用に脚色したものである。
本件著作物2は、本件著作物1と同様に、「はだしのゲン」及び「はだしのゲンはピカドンを忘れない」を原作とし、各作品の中の原爆投下時からその後の混乱期のエピソードを選択、再構成して、講談用に脚色したものであり、本件著作物1の続編である。
本件著作物3は,鶴屋南北作の「四谷怪談」を原作として、Xが、平成四年五月に、講談用に脚色した作品であり、Xが著作権を取得した(X・Y間で争いがない)。
Yは、現在、本件各著作物を上演しているが、X・Y間では平成四年ころから夫婦関係が悪化するようになり、平成七年四月二六日に両者は調停により離婚し、平成七年六月ころ、X・Y間において、被告が本件各著作物を上映することについて許諾する旨の合意(本件上演許諾合意)が成立したものの、XはYに対し、平成一二年一〇月八日、本件上演許諾合意を解約する旨の意思表示をした。
そこで、Xは、Yに対し、本件各著作物の上演の差止め等を求めた。本件における主な争点は、@本件著作物1及び2は原告が創作したか、A本件各著作物の上演許諾合意についてのXの解約の意思表示の有効性及びXの権利濫用の有無についてである。ここでは@について扱う。

判決の要旨〔認容〕
一.本件著作物1について
(1) Yは、Xとともに、「はだしのゲン」の中で、原爆投下直後までの時期のゲンを中心とした場面に限定するという方針を立てたこと、前期A及びEのエピソードについては、特に、YがXに対して、選択するように意見を述べたことから、Xが単独で第一稿を創作したのではない旨主張し、乙一四(被告陳述書)には、これに沿う記載が存在する。また、Yは、Xが執筆した脚本について、Yが実演に当たり語りにくい部分、説明不足で分かりにくい部分、講談用の語りとしては不自然な部分を、Xとともに推敲し、講談用に演じやすい言い回しに修正したので、Xが単独で本件著作物1を創作したのではない旨主張し、乙一四には、これに沿う記載もある。
  しかし、上記陳述書を除いて、これに沿う他の証拠は存在せず、Yの上記主張を採用することはできない。
  かえって、Yは、平成六年以前から、Xの許諾を受けた上で、本件著作物1をはじめとする本件各著作物の上演を行っていたこと(甲一二)、平成七年六月には、Xとの間で、本件上演許諾合意を締結したこと、Yは、「女医レニヤの物語」(甲一)を執筆したが、その著作の中でも、本件著作物1及び2について、Xが執筆したと記述していること、Yが、本件著作物1及び2について、自ら創作したと主張したのは、Xから本件訴訟を提起された後に至ってからであること等の事実に照らすと、Yの前記主張を採用することはできない。
  のみならず、Yが主張するような関与があったとしても、Xが、原作を脚色した創作性の程度に比較すると、Yの関与は、アイデアの提供や助言や上演をするうえでの工夫にすぎず、それにより、共同で創作したと評価することはできない。
(2) 判断
    上記認定した事実によれば、本件著作物1の第一稿は、Xが単独で創作したと認めることができる。そして、初演時脚本は、第一稿を講談としての上演にふさわしいように、若干の修正を加えたものであり、さらに、本件著作物1は、初演時脚本の言い回しの一部を修正削除したものであり、いずれも、第一項と実質的に同一であると解される。
  そうすると、Yが、本件著作物1に基づいて上演することは、Xが第一稿、初演時脚本及び原告著作物1について有する著作権を侵害することになる。
    なお、XとYとの共同著作物であることを前提とするYの主張は、採用できないことになる。  
二.本件著作物2について
(1) 事実認定
    〔証拠略〕によれば、以下のとおりの事実が認められ、これに反する証拠はない。
    Xは、昭和六三年五月ころ、当時米国留学から一時帰国したとき、本件著作物2(乙二)を単独で執筆して、完成させた(Xが単独で脚本を執筆したことは当事者間に争いがない。)。Xは、本件著作物1と同様に、中沢が著作した原作「はだしのゲン」及び「はだしのゲンはピカドンを忘れない」の中から、原爆が投下された時からその後の混乱期のエピソードを選択、再構成して、講談用に脚本化する作業を行った。Xは、本件著作物1を執筆した経験から、講談用の脚本構成に慣れたため、助力を受けずに、講談独特の修羅場調子や五、七調を盛り込んだり、結末部分を中沢の原作「はだしのゲン」と異なる内容にするなどの創作を加えて、独りで、第一稿を作成した。本件著作物2は、本件著作物1の続編に位置づけられる作品である。
    これに対して、Yは、XとYとが話し合って、原作品から四つのエピソードを選択した旨主張するが、これを裏付けるに足りる証拠はない。また、Yは、第一稿の完成後、Yが単独で、第一稿について、講談独特の修羅場調子に変えたり、最終場面を、ゲンと弟の隆太が土手を歩いていくシーンに変更し、未来に希望を与えるような表現にした旨主張し、これに沿う陳述記載(乙一四)もあるが、この主張を認めるに足りる証拠はない。のみならず、Yが主張するような関与があったとしても、Xが、原作を脚色した創作性の程度に比較すると、Yの関与は、アイデアの提供や上演をするうえでの工夫にすぎず、それにより、共同で創作したと評価することはできない。
(2) 判断
    以上認定した事実及び前記一(1)ウ記載の事実を総合すると、本件著作物2はXが単独で創作したと解するのが相当である。そうすると、XとYとの共同著作物であることを前提とするYの主張は、採用できないことになる。

解説
  判決文では、本件著作物1の第一稿、初演時脚本、本件著作物1の創作者に関して次のように認定しています。
一 本件著作物1の第一稿、初演時脚本
Xが、「はだしのゲン」及び「はだしのゲンはピカドンを忘れない」の中から
   @ ゲンの父親が戦争反対の信条を抱いており、竹槍訓練をまじめに行わない。
   A そのため、ゲンとその姉弟が、父の塗装した下駄を納品にいく途中、町会長の息子らから下駄を川に落とされ、けんかになり、ゲンが町会長の息子の指を噛み切る。
   B ゲンの父が警察に逮捕される。
   C ゲンの家族は非国民との非難を受け、いじめを受ける。兄が耐えかねて海軍に志願する。母が、町内会長の抗議に対して、包丁を持って追い返す。
   D 隣人の朝鮮人と親密な交流があった。
   E ゲンの母が栄養失調で倒れ、ゲンとその弟が道端で浪花節を披露して金を稼ぎ、家計を助ける。
   F 原爆が投下され、ゲンと母だけが助かり、父と兄弟が焼死する。
   G 原爆の被害を受けた人々の姿、ゲンの母が錯乱する様子、妹の誕生
のエピソードを選択し、引用、並べ替え、加筆をして第一稿を完成させた。その際に、原告は、「はだしのゲンはピカドンを忘れない」の中で中沢自身がその心境を言葉で表現している部分は、怒りを込めつつも静かに抑制した調子でまとめ、「はだしのゲン」の中で絵柄でストーリーを展開している部分は徐々に盛り上げるようにした。原爆で被災した人々の姿や腐乱した死体の山を詳細克明に描写して聴衆に強い感動を与えるように意図し、ゲンの台詞は原作と異なり未来に希望を抱くような台詞に変更した。
二 その後の修正(初演時脚本、本件著作物1)
  X・Yが、演出、音楽や文芸を専門にしている友人に呼びかけて、第一稿に基づいて講談を実演し、同人らの感想を参考にして二人で脚本を手直しした。具体的には、被告が練習する中で語りの難しい部分を語りやすいように修正したり、重要でない部分を削除したり、会話部分を標準語から方言に修正し、誰の台詞か分るようにナレーションを補ったり、語りにメリハリがつくように工夫し、独白で終わっている結末を主人公ゲンの台詞に変更した。
 これによれば、第一稿がXの著作物であることは明らかです。しかし、初演時脚本、本件著作物1に関してはYも関与しています。しかし、右の程度に関与しただけではその共同著作者にはならないとしました。その理由を、Yの関与は、アイディアの提供、助言、上演をする上での工夫に過ぎないからだとしています。(著作権法・商標法判例解説集抜粋)





(どこまでも行こう事件)

楽曲「どこまでも行こう」と楽曲「記念樹」の同一性判断において、楽曲の同一性の判断は、メロディーの同一性を第一に考慮し、必要に応じて他の要素(和声、拍子、リズム、テンポ等)を考慮すべきであるとし、メロディーの同一性は一定のまとまりをもった音列を単位として対比した上でそれらの対比を総合して判断すべきとし、両楽曲のメロディー、和声、拍子を対比した結果複製ではないと判断した事例
東京地裁平一〇(ワ)一七一一九・二一一八四、どこまでも行こう事件、平一二・二・一八判決
(判時一七〇九・九二、判タ一〇二四・二九五)
参考条文 著作権法二〇条・二一条

事案の概要
 原告Xは楽曲「どこまでも行こう」(甲曲)の作曲者と著作権者であり、被告Yは楽曲「記念樹」(乙曲)の作曲者である。本件は、Xが楽曲「記念樹」(乙曲)は、楽曲「どこまでも行こう」(甲曲)の複製であるとしてYに対して損害賠償を求め、これに対してYが、楽曲「記念樹」(乙曲)は楽曲「どこまでも行こう」(甲曲)とは別個の楽曲であると主張して、Yが楽曲「記念樹」(乙曲)についての著作者人格権を有することの確認を求める反訴請求をしたものである。

判決の要旨〔棄却〕
 両楽曲の同一性の判断において考慮すべき要素としては「甲曲はいわゆるコマーシャルソングであり、乙曲は唱歌的なポピュラーソングであって、両極とも比較的短くかつ分かり易いメロディーによって構成されているものと認められるから、両曲の対比において、第一に考慮すべきものは、メロディーであると認められる。
 しかしながら、〔証拠略〕によると、音楽は、メロディーのみで構成されているものではなく、和声、拍子、リズム、テンポといった他の要素によっても構成されているものと認められ、前記第二の一(争いのない事実等)1、2に弁論の前趣旨を総合すると、両曲とも、これらの他の要素を備えているものと認められる。
 そうすると、両曲の同一性を判断するに当たっては、メロディーの同一性を第一に考慮すべきであるが、他の要素についても、必要に応じて考慮すべきであるということができる。」とし、メロディーの同一性の判断方法について「本件のように、ある楽曲全体が別の楽曲全体の複製であるかどうかを判断するに当たって、メロディーの同一性は、一定のまとまりを持った音列(フレーズ)を単位として対比した上で、それらの対比を総合して判断すべきである。」とし、各フレーズの対比は
「(1) フレーズAとフレーズa
・フレーズA
「ドレミーードシードレドーーー」
(どこまーーでもーゆこうーーー)
・フレーズa
「ドレミーーミレーレドドーーー」
(こうてーーいのーすみにーーー)
 右のように、フレーズAとフレーズaは、フレーズに使用される各音符の長さ並びに冒頭の「ドレミーー」及び末尾の「ドーーー」において相対的な音階が共通するが、右各フレーズを全体として比較すると、異なる音階の変化によって構成されているというほかなく、これらが同一性のあるフレーズであるとは認められない。
(2) フレーズBとフレーズb
・フレーズB
「ドドファーーファファファソラソーーー」
(みちは ーーき び し くともーーー)
・フレーズb
「ドドファファファファララソファ(#)ソーーー」
(みんな で う え たきねん じゅーー)
右のように、フレーズBとフレーズbは、冒頭の「ドドファ」とそれに続く八分音符三個分、その後の八分音符二個分を経た後の八分音符「ソ」及び末尾の「ソーーー」において相対的な音階が共通するが、フレーズ同士を全体として比較すると、前半部分の音階の変化を共通するに過ぎず、前半部分においても、音符の数及び長さは異なっている上、後半部分は、音階も明らかに異なるから、これらのフレーズに同一性があるということはできない。
(3) フレーズCとフレーズc
・フレーズC
「ソソラーーソファーソラソーーミド」
(くちぶーーえを ーふきなーーがら)
・フレーズc
「ソソラーラソファーソラソソミレド」
(いつのーひにか ーとおいところで)
 右のように、フレーズCとフレーズcは、末尾の二音「ミド」(フレーズC)と三音「ミレド」(フレーズc)を除いて、その音階の変化が同じであり、この点で相当程度類似しているということができるが、同一の音階の中にあっても、音符の数及び長さは異なっている上、右のとおり末尾の音階も異なっているから、これらのフレーズに同一性があるとまでいうことはできない。
(4) フレーズDとフレーズd
・フレーズD
「ドレミードシードレドーーーー」
(あるいーーてゆーこーうーーー)
・フレーズd
「ドレミーードラーミーレーーー」
(おもいーーだすーだーろーーー)
 フレーズDとフレーズdは、前半部分において音階(ドレミーード)を共通するのみであり、後半部分は全く異なるから、両フレーズに同一性があるということはできない。
(5) フレーズeないしフレーズh
フレーズeないしhは、フレーズaないしdと類似性があるということができるが、単純な繰り返しでないことは明らかであり、フレーズaないしdを繰り返し記号を用いて反復したり旋律を転記したからといって直ちにフレーズeないしhになることはない。その意味では、乙曲のフレーズeないしhについては、これに対応する甲曲のフレーズが存在しないというほかない。
  もっとも、右の類似性に鑑み、以下では、フレーズAないしDとフレーズeないしhについて対比する。
(6) フレーズAとフレーズe
・フレーズA
「ドレミーードシードレドーーー」
(どこまーーでもーゆこうーーー)
・フレーズe
「ドレミーーーレーードドーーー」
(それはーーーたーーぶんーーー)
右のように、フレーズAとフレーズeは、冒頭の「ドレミーー」及び末尾の「ドーーー」において相対的な音階が共通するが、右各フレーズを全体として比較すると、異なる音階の変化によって構成されているというほかなく、フレーズに使用される各音符の長さも同じではないから、これらが同一性のあるフレーズであるとは認められない。
(7) フレーズBとフレーズf
・フレーズB
「ドドファーーファファファソラソーーー」
(みちは ーーき び し くともーーー)
・フレーズf
「ドドファファファファララソファ(#)ソーーー」
(つらい と き な きたいと きーーー)
 右のように、フレーズBとフレーズfは、冒頭の「ドドファ」戸それに続く八分音符三個分、その後の八分音符二個分を経た後の八分音符「ソ」及び末尾の「ソーーー」において相対的な音階が共通するが、フレーズ同士を全体として比較すると、前半部分の音階の変化を共通するに過ぎず、前半部分においても、音符の数及び長さは異なっている上、後半部分は、音階も明らかに異なるから、これらのフレーズに同一性があるということはできない。
(8) フレーズCとフレーズg
・フレーズC
「ソソラーーソファーソラソーーミド」
(くちぶーーえを ーふきなーーがら)
・フレーズg
「ソソラーラソファーソラソーミレド」
(みどりーいろの ーはっぱーかぜに)
右のように、フレーズCとフレーズgは、末尾の二音「ミド」(フレーズC)と三音「ミレド」(フレーズg)を除いて、その音階の変化は同じであり、この点で相当程度類似しているということができるが、同一の音階の中にあっても、音符の数及び長さは異なっている上、右のとおり末尾の音階も異なっているから、これらのフレーズに同一性があるとまでいうことはできない。
(9) フレーズDとフレーズh
・フレーズD
「ドレミーードシードレドーーー」
(あるいーーてゆーこーうーーー)
・フレーズh
「ドレミーードれーードドーーーーー」
(ゆれるーーきねーーんじゅーーーー)
 フレーズDとフレーズhは、前半部分において音階(ドレミーード)を共通にするのみであり、後半部分は全く異なるから、両フレーズに同一性があるということはできない。」
とし、その結果メロディーの同一性は「以上のとおり、甲曲と乙曲をフレーズごとに対比してみると、一部に相当程度類似するフレーズが存在することは認められるが、右のフレーズを含めて各フレーズごとの同一性が認められるとはいえないから、それらのフレーズによって構成されている乙曲のメロディーと甲曲のメロディーの間に全体としての同一性を認めることはできない。」と判断した。さらに、和声については「甲曲は、三種類の和声によって構成される楽曲である。
〔証拠略〕によると、乙曲の和声も、基本的には甲曲と同様の三種類の和声によって基礎づけられるものであり、両曲は、和声において、基本的な枠組みを同じくする楽曲であると認められる。
もっとも、具体的には、甲曲の和声が三種類のみからなっており、和声自体の変化を抑えた比較的単純な構成となっている(別紙楽譜一参照)のに対して、乙曲の和声は、多様な短和音を多数配している点に特徴があり、同一和声に調和するメロディーの中でも敢えて細かく和声を変化させて流れを作り出している(別紙楽譜二参照)ということができる。」拍子について「甲曲は二分の二拍子であるのに対して、乙曲は四分の四拍子である。
〔証拠略〕によると、二拍子と四拍子では、アクセントが異なるので、聞き手が曲から受ける感じが異なるものと認められる。」とし、結論として「右二のとおり、両曲は、対比する上で最も重要な要素であるメロディーにおいて、同一性が認められるものではなく、和声については、基本的な枠組みを同じくするとはいえるものの、具体的な個々の和声は異なっており、拍子についても異なっている。
そうすると、その余りの点について判断するまでもなく、乙曲が甲曲と同一性があるとは認められないから、乙曲が甲曲を複製した者ということはできない。」と判断した。

控訴審判決の要旨〔一部変更〕
 控訴審……東京高裁平一二(ネ)一五一六、平一四・九・六判決 
(判時一七九四・三、判タ一一一〇・二一一)
 参照条文 著作権法二条・一九条・二〇条・二七条・一一四条
 
 「編曲」とは、既存の著作物である楽曲(以下「原曲」という。)に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が原曲の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物である楽曲を創作する行為をいうものと解するのが相当である。
 乙曲は、その一部に甲曲にはない新たな創作的な表現を含むものではあるが、旋律の相当部分は実質的に同一といい得るものである上、旋律全体の組立てに係る構成においても酷似しており、旋律の相当部分や和声その他の諸要素を総合的に検討しても、甲曲の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しているものであって、乙曲に接する者が甲曲の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものというべきである。
 以上の認定判断を総合するに、甲曲は、昭和四〇年代から乙曲の作曲された当時(平成四年)にかけての時代を我が国で生活した大多数の者によく知られた著名な楽曲であって、甲曲と乙曲の旋律の間には乙曲が甲曲に依拠したと考えるほか合理的な説明ができないほどの上記のような顕著な類似性があるほか、被控訴人が乙曲の作曲以前に甲曲に接したであろう可能性が極めて高いことを示す客観的事情があり、これを否定すべき事情として被控訴人の主張するところはいずれも理由がなく、他に的確な反証もないことを併せ考えると、乙曲は、甲曲に依拠して作曲されたものと推認するのが相当である。(著作権法・商標法判例解説集抜粋)



(RGBアドベンチャー事件)

「控訴人が就労ビザを取得して来日し、被控訴人から支給を受ける給料が月二五万円と増額し、被控訴人から雇用保険料、所得税、雑費の控除を受けるに至った時点をもって控訴人被控訴人間に雇用契約が締結されたとし、その日以前に控訴人が創作した図画については控訴人の著作性を認め、その日以後に控訴人が創作した図画については被控訴人の著作権を認めた事例」
東京高裁平一一(ネ)四三四一、RGBアドベンチャー事件、平一二・一一・九判決
第一審東京地裁平一一(ワ)五二〇〇、平一一・七・一二判決
(判時一七四六・一三五)
参考条文 著作権法十五条

事案の概要
 原告Xは中国国籍のデザイナーで、被告Yはアニメーション等の企画、撮影等を業とする株式会社である。本件は、Yの依頼によりXが創作した図画の著作権の帰属、すなわち職務著作物に該当するかが争われた事件である。
 Xは平成五年七月から平成六年一一月頃までの間に、Yの依頼により図画(本件図画一ないし二三)を創作した。すなわち、
@ 本件図画一ないし五、一九ないし二三は、第一回目の来日期間中の平成五年七月ころ、Yが企画した潟Zガ・エンタプライゼスへのプレゼンテーション用ゲームソフトのサブキャラクターとして創作し、
A 本件図画六、九は、第二回目の来日期間中の平成五年一一月ころ、Yが企画した潟oンプレストへのプレゼンテーション用キャラクターとして創作し、
B 本件図画七、八、一〇ないし一七は、平成六年五月下旬、同年四月上旬、同年一〇月から一一月ころまでに、Yが企画した七〇ミリ・シージー・ステイション・シュミレーション・ライド・フィルム「RGBアドベンチャー」に用いるキャラクターとして創作した。
 ところが、前二者の企画は不採用になったので、本件図画はすべてRGBアドベンチャー用として使用されることになり、Yは、本件図画を使用したRGBアドベンチャーを製作し、これをショウスキャン用として米国のタレントファクトリー社に配給し、日本でも「ナムコ・ワンダーエッグ2」におけるアトラクションとして上映されたが、同作品にXの氏名は表示されなかった。
 そこで、Xは、著作権並びに著作者人格権の侵害を理由にYを訴えた。原審では、本件図画は職務著作物であるからその著作権はYに帰属するとして、Xの請求を棄却した。そこで、Xが控訴したのが本件である。

判決の要旨〔変更〕
 一二万円から二五万円に一か月当たりの支払額が増額されたのは、控訴人が就労ビザを取得して来日した第三回目の来日の際においてであり、その際に被控訴人が控訴人に就業規則を提示したことを認めるべき的確な証拠はないものの、就労目的の来日ビザを取得した上のものであり、雇用保険料、所得税等の控除が行われ、前示のとおりこの間の平成七年四月一日に、控訴人は雇用保険被保険者資格を取得していたことなどからすると、第三回目の来日の平成六年(一九九四年)五月一五日の翌日からは、控訴人は雇用契約に基づき被控訴人に勤務するようになった者と認めることができる。
 以上判示したところに従えば、第一回目の来日期間中に作成、創作された本件図面一ないし五及び一九ないし二三、第二回目の来日期間中に作成、創作された本件図画六及び九並びにその後の香港滞在中に作成、創作された本件図画八については、雇用契約に基づき職務上作成されたものであるとする被控訴人の主張は認めることができず、著作権法十五条一項の規定に基づき被控訴人が著作者であると認めることはできないし、また後に被控訴人がその著作権の譲渡を受けたことの主張、立証もない。しかし、第三回目の来日期間中に作成、創作された本件図画七及び一〇ないし一七は、被控訴人と控訴人との間の雇用契約が成立した後に作成、創作されたものであり、また、前示事実及び弁論の全趣旨に照らし、本件図画七及び一〇ないし一七の作成は法人である被控訴人の発意に基づくのもであり、かつ、これらの本件図画は被控訴人の法人名義の下に公表することが予定されているものであると認められるので、著作権法一五条一項の規定に基づき、被控訴人が著作者であると認めることができる。

解説
 本件判決は、平成六年五月一五日に雇用契約が締結されたとし、それ以後に創作した図画は職務著作物であるからYの著作権に帰するが、それ以前に創作された図画はXの著作権に帰するとして、雇用契約締結日前に創作された図画に関してのみXの差止請求を認容し、損害賠償請求も認容しました。職務著作物の成立要件たる「法人等の業務に従事する者」の意味については、雇用契約の存在が必要であるとするもの(斉藤博・著作権法一一七頁)、基本的には雇用契約の存在が必要であるが、雇用契約がなくても雇用者と同程度の具体的な指揮命令関係が成立している場合は別途検討とするもの(加戸・著作権法逐条講義新版一一六頁、作花文雄・詳解著作権法一八七頁、判例では四谷大塚進学教室事件、SMAP事件)がありますが、本判決は、雇用契約の成立だけを基準にしているようです。
 一五条の立法趣旨は、@被用者は雇用者の提供する職場、給料、施設を利用して創作したものだから、その成果も雇用者に帰属させることが公平であること、Aそれが雇用者、被用者の意思にも合致すること、B法人等の内部で職務上作成された著作物については、社会的には法人が評価や信頼を得てその責任を負担するものであること、C法人を著作者としたほうが著作物の円滑な利用に資することといった様々な理由があげられています。そして、理由の多様性に応じて解釈もケースバイケースになってきます。@の理由を考えれば、雇用契約でなく委託契約であっても、委託者が報酬を支払い施設を提供していれば委託者に著作権を認めることが公平であるし、また給料を支払い施設を提供していれば、指揮命令関係が存在しなくても職務著作とすることが公平であることとなります。AからCの理由に関しても、必ずしも雇用契約に限る必要はないし、必ずしも指揮命令関係の存在を要件とする必要もないと思います。非理論的説明ではありますが、立法趣旨を総合的に考えてどちらを権利者とすることが公平であるかによりケースバイケースに判断するしかないでしょう。
 本件は、XはYオフィスで就業していたようですが、長期間海外に滞在する等典型的な雇用契約の事例ではありません。かかるケースにおいて、判決は、Yが雇用保険料や所得税を支払い、雑費を控除する程度に負担を負うに至った時点を基準にして、それ以後の図面についてはYの権利とすることが公平であると判断したのでしょう。かならずしも雇用契約の成立という形式的基準のみを採用したわけではないと思います。

上告審判決の要旨〔破棄差戻し〕
 上告審……最高裁一三(受)二一六、平一五・四・一一判決(裁時一三三七・四、判時一八二二・一三三、判タ一一二三・九四頁、労判八四九・二三、岩出誠・労判八五二・五)
 参照条文 著作権法一五条
(1) 著作権法一五条一項は、法人等において、その業務に従事する者が指揮監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し、これが法人等の名義で公表されるという実態があることにかんがみて、同項所定の著作物の著作者を法人等とする旨を規定したものである。同項の規定により法人等が著作者とされるためには、著作物を作成した者が「法人等の業務に従事する者」であることを要する。そして、法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかであるが、雇用関係の存否が争われた場合には、同項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその物に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して、判断すべきものと解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると、上述のとおり、被上告人は、一回目の来日の直後から、上告人の従業員宅に居住し、上告人のオフィスで作業を行い、上告人から毎月基本給名目で一定額の金銭の支払を受け、給料支払明細書も受領していたのであり、しかも、被上告人は、上告人の企画したアニメーション作品等に使用するものとして本件図画を作成したのである。これらの事実は、被上告人が上告人の指揮監督下で労務を提供し、その対価として金銭の支払を受けていたことをうかがわせるものとみるべきである。ところが、原審は、被上告人の在留資格の種別、雇用契約書の存否、雇用保険料、所得税等の控除の有無等といった形式的な事由を主たる根拠として、上記の具体的事情を考慮することなく、また、被上告人が上告人のオフィスでした作業について、上告人がその作業内容、方法等について指揮監督をしていたかどうかを確定することなく、直ちに三回目の来日前における雇用関係の存在を否定したのである。そうすると、原判決には、著作権法一五条一項にいう「法人等の業務に従事する者」の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、論理は理由がある。
    以上によれば、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、前記の点につき更に原審を尽くさせるため、上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

上告審判決の解説
 原判決では、上告人が雇用保険料や所得税を支払い、雑費を控除する程度に負担を負うに至った時点を基準にして、それ以後の図画の著作権については上告人に著作権を認めましたが、本判決では、被上告人が一回目の来日直後から上告人の従業員宅に居住し、上告人オフィスで作業を行い、上告人から毎月基本給名目で一定額の金銭の支払を受け、給与支払明細書も受領し、被上告人は上告人の企画したアニメーション作品等に使用するものとして本件図画を作成したこと等を考慮し、原判決は具体的事情を考慮することなく形式的事由を主たる根拠として雇用関係の存在を否定したとして「法人等の業務に従事する者」の解釈の適用を誤ったものであるとしました。



(DEAD OR ALIVE2事件)

一 編集ツールによって作成したゲームソフト用メモリーカードを用いてゲームソフトの映像を改変する者がいることを予期して、当該編集ツールを含むCD―ROMを多数販売することは、ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして民法709条の不法行為に基づく損害賠償責任を負う
二 右CD−ROMを購入したユーザーによる右メモリーカードを使用する行為は公衆に見せるものでなくとも、当該CD−ROMを購入した者がゲームソフトを改変するといった結果を生じさせ、その結果は広範囲も生じているから、不特定多数が見たものと同じであり、当該CD−ROMを販売する行為は同一性保持権の侵害である
三 現実に侵害行為をしていない者を侵害行為主体と認定するための要件は@その者の管理、支配の下に、現実の行為者が当該利用行為を行っていること、Aその者が、現実の行為者により利用行為がされることにより利益を得ることを目的としていること、(最判昭和六三年三月一五日・クラブキャッツアイ事件)の要件を満たしたもの者に限られない
とされた事例
東京地裁平一三(ワ)二三八一八、DEAD OR ALIVE2事件、
平一四・八・三〇判決
(判時一八〇八・一一一、判タ一一一四・二七二、藤田康幸・別冊NBL七九・一二六)
参考条文 著作権法二条・二〇条・民法七〇九条

事案の概要
 原告Xは、コンピューターゲームの製造販売事業を主たる業務とする株式会社であり、プレイステーション2(以下、「PS2」という)用ゲームソフト「DEAD OR ALIVE2」(以下、「本件ゲームソフト」という)に関する著作権及び著作者人格権を有するものである。本件ゲームソフトの内容は、一二人のキャラクターの中から一人を選択し、対戦相手と戦闘しその戦闘に勝てば場面が変わり次の対戦相手と戦闘するというストーリーである。プレーヤーは、市販のPS2用メモリーカードをスロットに挿入して本件ゲームソフトを起動させると、キャラクターの戦闘姿をデモンストレーションするオープニングムービーが表示され、その中にゼリー状のカプセルに包まれた裸体の「かすみ」が登場する。
他方、被告Yは、本件ゲームソフトに「かすみ」という名称で登場する女性キャラクターについて、ユーザーが裸体の「かすみ」を選択し、その裸体画像によって戦闘できるように編集できるプログラム(以下、「本件編集ツール」といい、本件編集ツールによって書換られたPS2専用メモリーカードを「本件メモリーカード」という)を開発し、これをCD−ROM(以下、「本件CD−ROM」という)に収録し販売した。ユーザーが本件メモリーカードを使用すると「かすみ」の使用可能なコスチューム数をゲーム設定当初の最大値六から七に変更することができ、七が「かすみ」の裸体静止画像で、七を選択すると裸体画像の「かすみ」が相手方と戦闘する。
そこで、Xは、Yの行為は、本件ゲームソフト中の、戦闘時におけるコスチュームを着用して表示されている「かすみ」の画像または「かすみ」がオープニング画像において裸体で表示される画像を改変する行為であり、Xの翻案権又は同一性保持権を侵害すると主張して損害賠償を求めて訴えを提訴した。
これに対し、Yは、@本件ゲームソフトには、戦闘シーンにおいて「かすみ」の裸体画像を表示する機能が予め組み込まれていたのだから、この画像をモニター上に表示することは改変にあたらない、Aユーザーが、本件メモリーカードを使用しても、通常それによって表示された「かすみ」の裸体画像を公衆に見せるものではないから、同一性保持権の侵害ではない、B最高裁判例(クラブ・キャッツアイ事件、最三判昭六三・三・一五民集四二・三・一九九)を引用して、現実に改変行為を行っていないものが侵害行為主体となり得るためには、@)その者の管理支配、A)利益を得る目的、の要件を満たさなければならないところ、Yはこれを具備していないから侵害行為主体とはならない、と主張した。

判決の要旨〔一部認容・一部棄却〕
「本件ゲームソフトの映像は、思想又は感情を想像的に表現したもので、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとして、著作権法二条一項一号にいう著作物ということができるものと解される。そして、上記(1)で認定した事実によると、本件編集ツールによって編集された本件メモリーカードを使用して、本件裸体映像を表示することは、本件ゲームソフト中の「かすみ」のコスチュームの映像を改変するものであって、Xの本件ゲームソフトに対して有する同一性保持権を侵害するものと解するのが相当である。なぜなら、上記(1)で認定した事実によると、通常市販されているメモリーカードを使用した場合には、「かすみ」の使用可能なコスチューム量の最大値は六であって、本件裸体映像を表示することはできないところ、本件メモリーカードを使用することによって、上記コスチューム数の制限を超え、本件裸体映像を表示することが可能になるからである。
 以上のとおり、通常市販されているメモリーカードを使用した場合には、表示されない本件裸体画像が、本件メモリーカードを使用することによって、表示される以上、上記(1)認定のとおり、本件ゲームソフトには、「かすみ」の裸体画像が3Dポリゴンデータの形式で格納されており、また、オープニングムービー中に「かすみ」の裸体画像が表示され、その他、前記第三の一【被告の主張】(1)においてYが主張する事実が存するとしても、これらのことは、上記同一性保持権を侵害するとの認定を左右することはないというべきである。」
「以上述べたところを総合すると、本編集ツールは、本件裸体画像を表示することができることを主要な目的としているところ、Yは、そのような本件編集ツールを使用して作成した本件メモリーカードを使用して、本件裸体画像を表示させる者がいることを予期して、本件編集ツールを含む本件CD−ROMを多数販売し、その結果、ユーザーが被告の指示した方法に従って機器を操作することによって本件メモリーカードを作成し、それを通常のメモリーカードの使用方法に従って使用することにより、本件裸体画像が表示され、本件ゲームソフトが改変されたものと認められるから、本件CD−ROMに本件編集ツールを収録して販売し、その使用を意図して流通に置いた被告は、本件メモリーカードの使用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして、民法七〇九条の不正行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である(最高裁判所第三小法廷平成一三年二月一三日判決・民集五五巻一号八七頁参照)。
 (4)Yは、ユーザーによる本件メモリーカードを使用する行為は、通常それによって表示された「かすみ」の裸体画像を公衆に見せるものではないから、同一性保持権侵害に当たらないと主張するが、上記(3)で述べたとおり、Yは、本件編集ツールを本件CD−ROMに収録して多くの本件CD−ROMを販売することにより、それを買い受けた者が、本件メモリーカードを使用して、本件ゲームソフトを改変するという結果を生じさせたのであるから、その結果は、広範囲に生じており、不特定多数の者が改変された映像を見たものと認められる。したがって、被告の行為により同一性保持権侵害が生じたものということができることは明らかである。
 (5)Yは、現実に利用行為を行っているわけではない者を規範的に利用行為の主体と認定するためには、@その者の管理、支配の下に、現実の行為者が当該利用行為を行っていること、Aその者が、現実の行為者により利用行為がなされることにより利益の得ることを目的としていること、以上の要件が具備されることを要するところ、本件については、これらの要件を具備していないから、Yを侵害行為の主体と考えることはできないと主張する。
 上記@、Aの要件を具備している者が、著作権侵害の主体として責任を負うことがあるとしても、著作権侵害の責任を負う者が、このような者に限定される理由はない。本件においては、前記(3)のとおり、Yは、本件編集ツールを含む本件CD−ROMを多数販売し、その結果、ユーザーが、本件メモリーカードを作成使用することにより、本件ゲームソフトが改変されたものと認められるから、このような事実関係の下では、Yについて不法行為の成立を認めるのが相当であって、それが妨げられる理由はない。」



(ホテル・ジャンキーズ事件)

「インターネットのホームページ上の掲示板に書き込んだ投稿文章の一部が著作物として認められた事例」
東京地裁平一三(ワ)二二〇六六、ホテル・ジャンキーズ事件、
平一四・四・一五判決
(判時一七九二・一二九、判タ一〇九八・二一三、金融商事一一四六・四八)
参考条文 著作権法二条・一〇条・二一条・一一二条・一一四条

事案の概要
 原告Xらは、ホームページ上の掲示板に文章の書き込みをしたと主張する投稿者らである。被告Y1は情報産業に関連するインフォメーションサービス、出版事業等を営む株式会社であり、その事業の一つとして、「ホテル・ジャンキーズ・クラブ」という名称で、ホテル愛好者の親睦と情報交換のための会員制組織を運営している。被告Y2は主にホテルに関する執筆活動をしているジャーナリストであり、Y1の取締役である。被告Y3は図書及び雑誌の出版を業とする株式会社である。
 Y1及びY2は「世界極上ホテル術」と題する書籍(以下、「本件書籍」という)を執筆、作成し、Y3は本件書籍を出版、販売頒布し、また、その宣伝広告をしている。Y1は「ホテル・ジャンキーズ」という名称のホームページを設置管理しており、同ホームページ上には「サロン・ドゥ・ホテル・ジャンキーズ」というホテルに関しての情報交換を主とする掲示板(以下、「本件掲示板」という)を設け、そこに無料で本件掲示板の閲覧及び書き込みをさせていた。
 本件書籍に記載されている文章は、本件掲示板に書き込まれた文章の一部を転載して、これを編集したものである。本件掲示板に書き込まれた文章は別紙「原告記述及び転載文一覧表」の「原告記述」欄記載(以下、「原告各記述」という)のとおりであり、Yらが本件書籍に転載した文章は、別紙「原告記述及び転載文一覧表」の「転載文」欄記載(以下、「本件各転載文」という)のとおりである。
 そこで本件掲示板に文章を書き込んだXらが、同文章の一部を複製(転載)して書籍を作成し出版したYらに対し、Xらの著作権を侵害するとして、本件書籍の出版等の差止め及び損害賠償金の支払等を求めた。
 本件では@原告各記述は原告らによって記載されたか、A原告各記述部分には、著作物性があるか、BY3には、著作権侵害について過失があるか、CYらは、本件書籍を作成、出版、頒布するに当たり、Xらの承諾を受けたか、Xらの請求は権利の濫用か、が争点となった。ここではAの原告各記述部分には、著作物性があるかを取り上げる。両者の主張は、Xらは、原告各記述部分はXらの思想又は感情を創作的に表現したものであるから、著作物性が認められると主張し、Y1及びY2は、原告各記述部分は事実の報告又は感想にすぎず、思想又は感情を表現したということはできないし、その表現もありふれた平凡なものであり創作性は極めて乏しい等と主張した。

判決の要旨〔一部認容・一部棄却〕
 「思想又は感情を表現した」とは、単なる事実をそのまま記述したような場合はこれに当たらないが、事実を素材にした場合であっても、筆者の事実に対するなんらかの評価、意見等が表現されていれば足りる。また、「創作的に表現したもの」というためには、筆者のなんらかの個性が発揮されていれば足りるのであって、厳密な意味で、独創性が発揮されたものであることまでは必要ない。他方、言語からなる作品において、ごく短いものであったり、表現形式に制約があるため、他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合には、筆者の個性が現れていないものとして、創造的な表現であると解することはできない。
 原告各記述部分のうち、以下の部分は、@文章が比較的短く、表現方法に創意工夫をする余地がないもの、Aただ単に事実を説明、紹介したものであって、他の表現が想定できないもの、B具体的な表現が極めてありふれたもの、として筆者の個性が発揮されていないから、創作性を否定すべきである。 
 すなわち、原告記述1@、同2−(2)A、同2−(2)B、同2−(3)@ないし同2−(6)A、同2−(6)Cないし同2−(7)C、同3−(3)、同5−(2)、同5−(3)Aないし同5−(4)B、同5−(6)A、同5−(13)@、同5−(16)@、同5−(20)@ないし同6−(1)B、同6−(2)A、同7−(2)@、同7−(2)A、同7−(2)C、同7−(2)D、同7−(3)@、同7−(6)@ないし同7−(6)B、同7−(9)ないし同8@、同10A、同11−(1)、同11−(3)Aは、創作性を否定すべきである。


(雪月花等事件)

「他人の著作物である書を小さく写真複製した場合において、書は文字の選択、文字の形、大きさ、墨の濃淡、筆の運びないし筆勢文字の相互の組み合わせによる構成等により筆者の個性的な表現が発揮されている美術の著作物として保護の対象たりうるものであるから、複製の有無を判断するにも書の創作的な表現部分が再現されているかを基準に判断すべきであるとして、書を小さく写真複製しても墨の濃淡、かすれ具合、筆の勢い等を感得できないから書の複製とはならないとされた事例」
東京地裁平一〇(ワ)一四六七五、雪月花等事件、
平一一・一〇・二七判決
(判時一七〇一・一五七、判タ一〇一八・二五四)
参考条文 著作権法二条

事案の概要
  原告Xは書道家であり、平成四、五年頃までに「雪月花」「吉祥」「遊」の各作品(各原告作品、判決文に掲示なし)を完成した。被告Y2は広告代理店であり、被告Y1の依頼により被告各カタログを製作して被告Y1に交付し、被告Y1はこれらを配布した。被告各カタログには照明器具を配した和室を撮影した写真が掲載されているが、写真において原告各作品が被写体とされて床の間の壁面に配置されている(別紙は被告カタログに掲載された写真であり、床の間に原告作品中の「雪月花」が配置されている。別紙目録一ないし三は被告カタログに掲載された写真を拡大複写したものである。原告作品自体は裁判に提出されていない。)そこで、Xは、複製権、氏名表示権、同一性保持権の侵害を主張して損害賠償を請求した。

判決の要旨〔棄却〕
 「著作権法は、複製について「印鑑、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」をいうと規定する(著作権法二条一項一五号)。右複製というためには、原著作物に依拠して作成されたものが、原著作物の内容及び形式の特徴部分を、一般人に覚知させるに足りるものであることを要するのはいうまでもなく、この点は、写真技術を用いて再製された場合であってもなんら変わることはない。
 ところで、書は、本来情報伝達という実用的機能を有し、特定人の独占使用が許されない文字を素材とするものであるが、他方、文字の選択、文字の形、大きさ、墨の濃淡、筆の運びないし筆勢、文字相互の組み合わせによる構成等により、思想、感情を表現した美的要素を備えるものであれば、筆者の個性的な表現が発揮されている美術の著作物として、著作権の保護の対象となり得るものと考えられる。そこで、書について、その複製がされたか否かを判断するに当たっては、右の趣旨に照らして、書の創作的な表現部分が再現されているかを基準としてすべきである。・・・・・・原告各作品は、前記のとおり、原告作品一については「雪月花」の各文字を柔らかな崩し字で、原告作品二については「吉祥」の文字を肉太で直線的に、原告作品三については「遊」の文字を流麗な崩し字で、Xが、四〇センチメートルないし七、八〇センチメートルの紙面上に毛筆で書したものである。なお、本件において、原告各作品そのものは提出されていないので、細部の筆跡は必ずしも明らかでない(原告作品一及び二は、被告各カタログ中の原告作品一及び二部分を拡大複写したものによって推認した。)。他方、被告各カタログ中の原告各作品部分は、原告各作品が、紙面の大きさ六ミリメートルないし二〇ミリメートル、文字の大きさ三ミリメートルないし八ミリメートルで撮影されているが、通常の注意力を有する者がこれを観た場合、書かれた文字を識別することはできるものの、墨の濃淡、かすれ具合、筆の勢い等、原告各作品の美的要素の基礎となる特徴的部分を感得することは到底できないものと解される。
 してみれば、被告各カタログ中の原告各作品部分は、墨の濃淡、かすれ具合、筆の勢い等の原告各作品における特徴的部分が実質的に同一であると感知し得る程度に再現されているということはできないから、原告各作品の複製物であるということはできない。」

解説
 本件は、カタログに掲載された写真中に他人の著作物である書が入っていたので、その他人が複製権侵害を主張したものです。最高裁判例(最判昭五三・九・七、昭五〇(オ)三二四、ワン・レイニーナイト・イン・トーキョー事件)において、複製とは「既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう」と定義されています。そうすると、本件において、カタログ写真中の書は各原告作品であるとわかるわけですから、被告写真は各原告作品の複製にあたることとなります。しかし、著作物は思想、感情の創作的表現物ですから、創作的部分が感得できなければ複製とはなりません。そして、文字は情報伝達ツールであり、特定人の独占的利用を許さないものであるところ、書においては文字の形やその選択、墨の濃淡、筆勢といった作者の個性的表現のなされている部分が美術著作物として保護されるのですから、その創作的部分の再製でなくては複製にあたらないということになります。本件では写真複製によって小さく複製されており、これら特徴部分を感得できるものではなかったことにより複製が否定されました。

控訴審判決の要旨〔棄却〕
控訴審・・・・・・東京高裁平一一(ネ)五六四一、平一四・二・一八判決(判時一七八六・一三六)
参考条文 著作権法二条・十九条・二〇条・二一条・二七条・三二条

 書は、本来的には情報伝達という実用的機能を担う者として特定人の独占が許されない文字を素材として成り立っているという性格上、文字の基本的な形(字体、書体)による表現上の規約を伴うことは否定することができず、書として表現されているとしても、その字体や書体そのものに著作物性を見いだすことは一般的には困難であるから、書の著作物としての本質的な特徴、すなわち思想、感情の創作的な表現部分は、字体や書体のほか、これに付け加えられた書に特有の上記の美的要素に求めざるを得ない。そして、著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を感知させるに足りるものを再製することであって、写真は再製の一手段ではあるが(著作権法二条一項一五号)、書を写真により再製した場合に、その行為が美術の著作物としての書の複製に当たるといえるためには、一般人の通常の注意力を基準とした上、当該書の写真において、上記表現形式を通じ,単に字体や書体が再現されているにとどまらず、文字の形の独創性、線の美しさと微妙さ、文字群と余白の構成美、運筆の緩急と抑揚、墨色の冴えと変化、筆の勢いといった上記の美的要素を直接感得することができる程度に再現がされていることを要するものというべきである。