Author: Yasuaki Kobashi, All Rights Reserved
Date : 2000/11/28 (created)

書評 ビジュアルにオランダを紹介する2冊

ポプラ社の「オランダのくらし」と国土社の「オランダ」は見かけはよく似ているものの内容はどちらも個性的です.それぞれ「世界各地のくらし」「目で見る世界の国々」という国別シリーズの一冊で,B5版数十頁,写真が多く,図書館向きの堅牢な製本になっています.難しい漢字にルビが振ってあるというところまで同じ.

94年に出た横書きの「オランダ」のほうは,アメリカの「目で見る地理」シリーズの一冊を翻訳したもの.ページ数も68頁と比較的多く,オランダの歴史についてもその三分の一を使ってかなり詳しく書いてあります.ただ,もともとアメリカの本なので,オランダと日本の関わりについてはほとんど触れられていず,訳者あとがきで簡単に解説されているだけです.また訳者がオランダを専門としているわけではないので,せっかくの詳しい歴史記述の中で,訳が多少不正確だったりわかりにくいところがあるように思います.たとえば21頁の図の解説や,都督・総督・統領といった訳語の扱いなど.地理,歴史,社会と文化,経済をそれぞれ内容とする4つの章に大きくまとめられていて,索引があるところなどは,簡単な参考書にもなるきちんとした作りです.

97年に出た縦書きの「オランダのくらし」は副題に「日本の子どもたちがみた...」とあるとおり,日本人学校の児童の作文もコラムに取り入れられています.現地で暮らしている子どもたちの目にも入りやすいオランダの特徴的な事物を写真で紹介しながら,地理や社会文化,経済までバランス良く解説しています.歴史は4頁のみでやや少ないものの,日蘭交流の歴史にさらに2頁をとっています.

ちょっと残念なのは,「オランダ」の訳者が第二次大戦中に日蘭が敵味方であったことに一応触れて「戦争の残した心の傷跡は、なかなか完全には癒えないものですが、」と書いているのに対し,この本では「インドネシアのオランダの植民地は、オランダ軍と日本軍の戦いののち日本軍に占領されましたが、一九四五年に日本が降伏すると、...」としているだけです.どちらが悪かったかなどいうことを論じないまでも,日本との戦いで苦しい目にあった人たちがいることは事実として子どもたちに教えておいたほうが,双方の利益になると思います.また,面積,気候,人口などオランダという国の基礎的な事実を2頁でコンパクトに紹介しているオランダ・データページで,国旗の3色に勇気,信仰心,祖国への忠誠という意味を当てはめていたり,「典型的オランダ人はゲルマン系で、背がとても高く、青い目をしている」といったオランダ人なら絶対避けるであろう表現を使っているところが気になりますが,写真で紹介されている風物や生活ぶりは非常にアップトゥーデートなものです.

文字が大きく頁数も48頁とやや短めの「オランダのくらし」は,低学年の子どもたちにも薦められるものですが,大人が見ても現代のオランダ人のくらしぶりを要領よく捉えることができ,現在オランダについて出ている紹介本の中でも良いものの一つだと思います.どちらか一冊とるならわたしならこちらにしておきます.「オランダのくらし」を読んだ上で,もっと詳しく知りたいことが出てきた場合,歴史や経済についての個々の書物に進む前のワンクッションとして「オランダ」は便利かもしれません.( 小橋康章, 2000)


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