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Date : 4 December 2007(author address updated); 17 August 2003 (web version created); 1999 (published)

支援を記述することばを開発するための一考察

A step towards a framework for describing supportive actions.

小橋康章

株式会社大化社・東京理科大学
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Abstract

A checklist is proposed which helps prepare more comprehensive descriptions of supportive activities such as cognitive support by means of external aids.. The list integrates three distinct perspectives to support: the agent's, the supporter's, and the observer's. The use of the list is explained with an illustrating case.

以下は第2回認知科学国際会議/日本認知科学会第16回大会合同会議発表論文集(1999, pp.1167-1170)に収録された著者の発表予稿に若干の手を加えたものである.この文書の著作権は小橋康章に所属する.(2003年8月17日)
上記の連絡先は論文発表当時のものとは異なる.(2007年12月3日)


1.はじめに

 どんな支援がよい支援か,支援システムは何をすべきであるか,という一見単純な問いに答えられるようになりたいというのが,この考察の動機である.考察の性質上,フォーマルな実験や開発経験に基づくものではなく,きわめて思弁的なものであることをことわっておく.そうはいっても,全く現実世界との接触を欠いているわけでもなくて,何年かにわたって学際的な研究会に参加してきた経験に基づいている.

 この研究会の参加者の専門は経営学,社会学,経営工学,情報科学,認知科学と多岐に渡っており,それぞれの学問領域における常識や価値判断を留保はしつつも,「支援」という共通の関心事を焦点にして,情報や意見の交換,そのほかの共同作業を続けてきた.共同作業の内容は領域を超えた支援の共通定義の作成,事例の収集などを含んでいる.

 

1.1 支援の臨時的な定義

 共同作業を進める上で,必要に迫られて作成した支援の定義は次のようなものである.こうした定義がないと事例の収集もできないし,情報や意見の交換も散漫になる恐れがある.

定義(支援基礎論研究部会,1995):

支援とは他者の意図を持った行為に対する働きかけであり,その意図を理解し,その行為の質の改善,維持あるいは行為の達成をめざすものである.このとき働きかけを行うものを,支援者と呼び,支援を受ける行為者を,被支援者と呼ぶ.

このような一般的な定義だが,それでも認知科学の文献で通常見られる支援の用法とは力点の場所が異なっていることがわかる.ここでは支援自体が行為であり,支援者の存在に注意が向けられている.経営学や社会学では「管理(management)」の概念が中心的な役割を果たしてきたが,その行き詰まりから,管理を「支援」の概念で補完ないし代替しようという動きが見られる.このことを反映した定義でもある.

 明示されていないが,支援される行為は無支援でも実現できる可能性があり,支援を受けることによって完遂される確率が高まったり,負荷が軽減したり,所要時間が短縮されるという含意がある.

 この定義に当てはまる支援には,企業文化や制度による新製品開発の支援,高齢者医療制度,人材派遣サービス,係争国への人道的支援,ラジオの交通情報,街づくりワークショップ,訴訟時の原告(被告)支援団体の活動,介護支援専門員の業務,カーナビゲーションシステム,交通機関路線案内プログラム,ハイキングルートの案内板,インターネットのウェブ検索ページ,ユニバーサルデザイン,物理学問題解答時の図の提供,発音記号の考案といった多様な現象がある.

 

1.2 認知科学における支援の扱い

 認知科学の分野でも支援あるいは支援システムに関する研究が見られるようになってきている.三宅・波多野(1991)は,外的支援を内的知識と並ぶ一種の制約と見なして,その限界や,限界を乗り越えるメカニズムについて考察した.人間の行為の認知的な側面を支援するシステムの開発や研究も進んできていると言っていいだろう(例えば,西田・佐伯,1991).認知における内的,外的な資源の相互作用への着目(鈴木,1995ほか)も,認知の支援に関わっている.典型的には図などの外的資源が認知を支援する側面があるとしており,「自然な物理的環境,人工物,図,他者,社会,文化」などに依存し,それらを利用することで人間の認知が成り立っているという.

 認知科学の分野以外でも,例えば社会心理学では,古くから援助行動の研究(中村・高木,1987)が行われてきており,ソーシャルサポート(浦,1991)も重要な研究領域になっている.

 

1.3 さまざまな支援のイメージ

 このようにいろいろな分野で支援に関する研究が行われつつあるが,表面的な類似を超えて,これらさまざまな分野間の対話を成り立たせることが意外に難しい.それはなぜだろうか.認知科学者が最近は社会や文化にも関心を寄せるようになってきているとは言いながら,個人の思考や行動を常に視野の中心に置き,経営学者や社会学者が企業や組織に重点を置くことは,それぞれの分野の性質上やむをえない.しかし問題はそこにあるのではないらしい.

 ここでは,研究者たちが支援を議論する際の関心のずれを,上記の定義における行為者と支援者の視点の違いを手がかりに検討し,このずれを埋める方法を考案したい.

 

2.支援を語るための視点

 支援を語る切り口は何通りもありうるが,次のように大きく分けて3つの立場,あるいは視点を区別する方法がある.ひとつは支援されたり支援を利用しつつ何事かを成し遂げる行為者の立場,もうひとつは支援を提供したり計画する支援者の立場,最後はこれら2つの立場をともに視野に入れる観察者,あるいは研究者の立場である.

 

2.1 行為者の視点

 被支援者(行為者)から見ると,環境の全てが多かれ少なかれ彼の生存や活動をサポートしている.平らな地面は人間の直立歩行をサポートし,見通しの良い空間は視覚的な手がかりと予測にもとづいた運動をサポートする.しかしその環境を細かく分けて見ていくと,それらの部分のサポート機能の程度は様々である.

 例えば,月面は人間の生活をサポートする環境ではない.あるオペレーティングシステムは別のオペレーティングシステム上で稼働するプログラムをサポートしていないというのと同じ意味である.従って月面で人間が生活を続けるには,特別なライフサポートシステム,すなわち生命維持装置が必要になる.また病気などによって一時的に環境との関係が悪化すると,それなりの特殊なサポート手段が必要になる.

 人間は環境が自らの生存や活動をサポートする機能を増すように環境を再配置することが出来る.この視点ではこうした人工的環境のうち,特定のサポート目的に特化したものが支援システムである.

 

2.2 支援者の視点

 支援者の立場から見ると支援はそれ自体が意図的な行為であるが,支援金,支援物資など,その活動の産物として,あるいは道具として被支援者に提供できるモノに支援を代表させることもできる.被支援者から依頼やなんらかの信号を受けて支援にとりかかる場合もあれば,自ら支援の機会を求め積極的にそれを作り出すこともある.この視点では支援行為を体現し,あるいはその分配を自動化したものが支援システムである.支援者の側からは,被支援者の真の意図や目的を知ることは一般には難しい,など,被支援者のみに着目していたのでは視野に入らない特有の問題がある.

 

2.3 観察者の視点

 研究者は客観的に支援現象を捉えるために行為者と支援者をそれぞれ公平に視野に入れる立場をとるべきだろうが,実際には焦点を支援がわに絞っていたり被支援者がわに絞っていたり,あるいは自ら行為者や支援者の視点をとっていたりしていることが見られる.観察者はどちらも視野に入れるがどちらにも深くコミットしない.支援の意図せざる効果(小橋,1988)や支援者と行為者の意図のずれを反省的に把握するために有利な視点である.

 

3.これまでの支援研究の視点

 こうした視点の違いを念頭に見直してみると,社会心理学的な援助行動研究(中村・高木,1987)は(例えば緊急時の)援助行動の引き金をひくものはなにか,という関心から,(1)援助行動の分類や,援助の開始に至るメカニズムの意思決定モデル,(2)個人の成長過程での援助行動の形成や発達,(3)パーソナリティや援助を必要とする事態の特徴など援助行動を引き起こす要因を検討しているので,焦点は支援者側にあるといってよいだろう.

 同じく社会心理学のソーシャルサポート研究(浦,1991)は情報の情緒的な支援効果,たとえばストレスの軽減など,を扱っているので,被支援者を主な観察対象としている.

 意思決定システムの設計の分野では,最近 Chuang and Yadav(1998) が適応的意思決定支援システムの包括的な概念モデルを提案しているが,支援提供者(システム)側の反省や自己修正,学習を含むモデルであって,ユーザである意思決定者の視点は二次的なものに留まっている.

 前出の三宅・波多野(1991)は,支援を個人の能力,あるいは効果的な行動,を可能にする外的な認知資源であると同時に,その制約でもあると考える.外的な認知資源とは道具(例えば航海用計算尺,メモ帳,グラフ,など)や他の人間である.そして個人の内なる知識も同様の資源かつ制約であると考えるので,個人と環境の相互作用にも着目している.支援者の行為そのものには言及が少なく,どちらかというと被支援者に焦点を置いているようだが,内的知識の社会的文化的起源を論じる中で,教える者の存在が,また社会的文化的制約を超えるメカニズムの考察の中で,2人の共同による課題解決で,より理解の進んでいるパートナーが他者に説明したり質問に答えることを通じて,さらに理解を深めることが言及されている.

 同じように認知の内的資源と外的資源の関わりを分析している村山(1995)の場合,認知主体に焦点を置きながらも,認知主体に「与えられる」課題としての練習問題に着目することで,認知主体を望ましい方向に変えようとする社会や文化の能動的な機能も示唆している.

 これらに対し管理の対案として支援を考えるアプローチでは,完全な管理を一方の極に,完全な放任を他方の極においた連続体の上に支援を置き,規制をゆるめることのさまざまな形態やその効果に関心がある.ここでは主たる視点は支援者の側にあるが,上に引用した支援基礎論研究会の定義を採用すると,被支援者の意図を視野に入れねばならず,当然,被支援者の視点も考慮に入れざるをえない.

 こうした視点の違いをもう少し体系的に調査すると,学際的な研究における他領域の理解の難易度との関係が確定できるかも知れない.

4.支援事例記録用チェックリスト

 異なる視点を整理し,支援者,被支援者の立場をともに考慮に入れた,支援記述用の編集とその値のセットを考えてみた.「支援事例記録用チェックリスト」と呼んでいるが,支援事例を発見して記録する時点ではなく,記録に抜けや偏りがないかどうかをチェックする目的で使うことを想定している.

 

4.1 構成

 以下は「変数:可能な値1;値2;値3;...」のように表すものとする.かっこ内は例やコメントである.

 


A.事例の記述そのものの性質

<変数>  <可能な値>
記録者の
スタンス: 記述的;規範的
 抽象性: 実例(経験的な事実の記述);概念例(抽象的な概念を事例にする)
 ビュー: パーソナルビュー;システムビュー
  視点: 行為者の視点;支援者の視点;観察者の視点

B.支援の客観的記述

<変数>  <可能な値>
 被支援
  行為:(支援される行為の名称)
被支援行為
のタイプ: 物理的移動(e.g.車椅子);
      認知的行為(e.g.物理学問題解決);
      社会経済的行為(家計の収支あわせ);
      健康な生活;
      その他
被支援者
の特定度: 特定(e.g.カウンセリング);不特定多数(e.g.案内板)
被支援者
のタイプ: 個人;小集団;地域集団;組織;その他の知的システム(動植物,AI)
支援者
のタイプ: 個人;組織
支援の意
図,目的: 行為の実現;修復;維持;拡張
 介入点: 被支援者そのもの(e.g.教育,手術,物資提供);
      被支援者の環境(e.g景気,室温,被支援者の家族);
      インタフェース(制度,道具)
支援手段
のタイプ: 物理的;経済的;情報の道具的用法;情報の情緒的用法
 

C.効果性の評価

<変数>  <可能な値>
負荷の軽減: 有;無;不明
課題の変更: 有;無;不明
被支援者の
行為の変化: 汎化可能な効果;長期的効果;
       一時的効果;効果なし;不明
 プラスの
 副次効果: 有;無;不明
マイナスの
 副次効果: 有;無;不明


4.2 解説

 事例は,現実に存在する支援現象がありのままに記述されている場合もあるし,ソーシャルサポートや特定の型式の意思決定支援システムの機能,というふうに,個別的な実例が記述されているのではなくて,理論的,普遍的な概念が事例として記述されている場合もある.前者を実例,後者を概念例と呼ぶことにする.実例を多く記録収集するのは博物学的なアプローチであるし,概念例は主に学問的知識の中に存在する.また事例はあるべき姿の範例として提出される場合もあるので,これを規範的事例として記述的事例と区別する.

 事例は第2節で述べた3つの視点のいずれかで記述されているほか,Norman(1992)の言うパーソナルビュー,システムビューのいずれかで記述されているものと思われる.システムビューは行為が支援を受けていかにより効果的になるかに注目するのに対し,パーソナルビューは行為者にとって支援がいかに行為を変質させるかに焦点を合わせる.

 B.支援の客観的な記述のセクションは回答に複数の視点やビューを必要とするため,回答が困難だったり回答出来ない場合も生じるかも知れない.

 C.支援は通常意図に沿った望ましい効果をもつことが前提にされているので,真の主効果や副次効果を確定するには,よほど理論的,あるいは経験的な知識を獲得できないと難しい.

 

4.3 使用例

 「高速道路と自動車」誌((財)高速道路調査会)に発表された紹介(加治屋, 1999)を素材に峠画像の伝送という支援事例をリストによりチェックする.

A.事例の記述そのものの性質
 具体的な実例を記述する.システムビュー,観察者の視点.

B.支援の客観的な記述
 北海道開発局の道路管理部門では積雪寒冷地の峠部の自動車通行を,現地の気象状況をリアルタイム画像を含めてインターネットで公開することにより支援している.[その後,道路監視カメラ画像の公開は各地で実現している.2003/08/17 小橋]
 支援される行為は物理的な移動ではなく,通行の可否や準備に関する意思決定である.
 支援を受けているのはウェブにアクセスできる不特定多数の個人である.支援者は行政機関(道路管理者)である.支援の意図は安全な道路通行の維持であると考えられる.情報を道具的に使用し,遠隔の峠の現状をリアルタイム画像で見られると言う情報環境を作り出している.

C.効果性
 支援意図どおりの効果に加えて以下のような効果が考えられる.
 この支援のない状態では運転者は全般的な気象状況と,もしあるなら,同状況時の峠の道路状態に関する知識,一般的な注意表示などをもとに運転を続けるかどうかの判断等を行ったはずだが,この支援を受けるにはウェブへのアクセス手段が必要になり,その分の負荷はかえって増える.運転者の課題は現地の画像を見ての直観的な通行可能性の判断を含むものに変わる.
 運転者の峠通行の判断に関わる一時的な効果のほか,道路通行時には難地点のリアルタイム画像を常に確認するという新しい習慣が形成されるかもしれない.車載ウェブ端末の普及促進や休憩施設等でのウェブ端末サービスを促進するという副次効果も考えられる.反面,画像があるが故に「あれくらいなら大丈夫」という誤判断を招く副作用がないとはいえない.

5.考察と結論

 支援に対する異なる立場を整理し,支援者,被支援者の視点をともに考慮に入れた事例の記述法を提案した.

 チェックリストの効用の一つは使用例のような詳細な事例の記述を可能にすることで,一応の成果は見られる.しかし,事例によってはこのようなフレームワークでは記述しにくい場合もある.またチェック項目間の依存関係や冗長性もあるので,まだ完全なものとは言い難い.

 また,こうしたリストを使わない場合と使った場合の事例の質の差,さらには記述された事例の改善への貢献度なども実証的に検討する事が望ましい.

もともとよい支援の事例,悪い支援の事例を収集して,そこから支援に関する普遍的な知識を引き出したいという動機で始めたことなので,もうすこし事例を集めた上で,こうしたアプローチの有用性に関して結論を出したい.

参考文献:

Chung, T.-T. and Yadav, S.B., The development of an adaptive decision support system. Decision Support Systems, 1998, 24, pp.73-87.

Norman, D.(野島久雄訳), 認知的な人工物.In: 安西祐一郎・石崎俊・大津由紀雄・波多野誼余夫・溝口文雄編,「認知科学ハンドブック」,共立出版,1992, pp.52-64.

浦光博,「支えあう人と人:ソーシャル・サポートの社会心理学」,サイエンス社,1992.

支援基礎論研究部会,「『支援』概念の基礎づけに向けて」,オフィス・オートメーション学会,1995

浦光博,「支えあう人と人:ソーシャル・サポートの社会心理学」,

サイエンス社,1992.

加治屋安彦,冬期道路のためのITS技術:インターネットのフル活用を軸に.高速道路と自動車,1999, 42, (2), pp.49-53.

小橋康章,「決定を支援する」(認知科学選書18),東京大学出版会,1988.

鈴木宏昭,「特集:認知における内的,外的資源」編集にあたって.認知科学,1995, 2,(4), pp.3-6.

中村陽吉・高木修編,「『他者を助ける行動』の心理学」,光生館,1987.

西田正吾・佐伯胖,「ヒューマンコンピュータ交流技術」,オーム社,1991.

三宅なほみ・波多野誼余夫,日常的認知活動の社会文化的制約.認知科学の発展,第4巻,1991, pp.105-131.

村山功,外的資源による課題と認知主体の変化.認知科学,1995, 2,(4), pp.28-38.