小橋康章
なぜわたしたちがいま支援について考えたいのか,その理由はいくつかある.この報告書のなかで何人かの担当者が述べているように管理から支援へという社会的関心のシフトも無視できない.今後の企業経営を考える上で管理科学的な手法だけでは充分でない,「これまでは,経営者がいかにうまく生産を管理し,品質を管理し,労働を管理するかに意を注いできたが,今後は,企業構成員の創造性,やる気,能力の発揮をいかに支援するか,製品,サービスの顧客をいかに支援するかを中心に考えなければならない」[ 1]という.また,企業経営に限らず,大きな災害に際して官公庁の対処が迅速でも充分でもなく,当事者の自助やボランティアの活動が重要であり,そこでも支援という活動が注目を集めることになった.さらに十年以上前から市場には「○○支援システム」と称するコンピュータをその中心的な構成要素とする製品が多数見られるようになってきた.OAがオフィスにおける活動のオートメーション(自動化)ではなくオーグメンテーション(拡張 augmentation)を行なう支援システムの利用を意味する日も遠くないかもしれない.ところが支援は難しい.
支援は難しいが,支援が簡単であれば改めて研究する必要はないので,べつに驚くべきことではない.問題は支援という行為そのものを反省的にとらえる枠組みをわれわれが充分に持ち合わせていなかったことである.さまざまな分野で多かれ少なかれ支援の研究に関わってきたわたしたちが,支援に関する共通の認識や定義に容易にたどり着くことが出来なかったという事実も,この難しさを裏書きするものである.
ここで,あらためて一般に支援というものはなぜ失敗するのか,その難しさは何に由来するのかを考えて[ 2],支援基礎論の必要性を論じたい.
こうしたことはなぜ起きるのだろうか.よかれと願って行なわれるはずの支援がかえって害をもたらすような事態は,なぜ,いかにして発生するのだろうか.そうした事態を理論的研究や技術開発によって改善することは可能なのだろうか.
(1)支援の一般的な特徴
(a)意図的である
われわれが支援について語るとき念頭におくのは,何者かが行為の質の維持や改善の意図ないし目標をもって,意識的に実行する行為である.どんなものでも特定の条件のもとでは役に立つ道具であり助けにもなりうる.一個の石ですら,その使い方を知る利用者には街道の道しるべとなるであろう.しかしわれわれはこの石を普通,支援者とは呼ばない.
支援システムという以上は何かその望ましい性質を保証し,維持する仕掛が組み込まれていなくてはならないと考えるであろう.単にある行為を支える役にたっているだけでなく,役にたち続ける意志と企図をもっている,あるいはある行為を「そのようなもの」としてとらえるとき,われわれは支援について語っているのだといえる.
(b)二次的である
支援があらためて問題になるような場面では,支援を受けるべき,何らかの主体による何らかの行為がすでに進行中である.支援を試みるものは,白紙の上にまったく新しい行為を設計するわけにはいかない.目標を選びとることは被支援者の役目である.行為の中で被支援者自身がその目標に未だ気づいていないとしても.従って支援は被支援者にとってわかりやすくなくてはならず,被支援者の変動する目標に対応できなければならない.
また支援がいわば外部からつけ加わる行為である以上,支援される行為が抱える問題と支援行為の問題は区別しておく必要がある.
「常に正しい解を導く」方法やそれを体現したシステムは支援するのではなく代行するのである.
(c)知識に依存する
支援は支援者の知識や経験によって巧みにも稚拙にも行われる.すべての支援が適切なわけではないし,ある時点で適切だった支援が常にそうであるわけではない.なんらかの調査研究にもとづき,支援のための知識を拡充することによって,よりよい支援を実現できるはずである.
さらに支援は被支援者の知識にも依存する.そのため,ある被支援者に適切な支援が他の被支援者には適切でないということが起こりうる.
(2)支援が失敗する理由
より知的に行動する為の手だてや方策としての支援がうまくゆかない理由としては,
などさまざまなものが考えられる.
(a)受容の問題
規範的理論としてはいかにも論理的に健全であっても,何らかの理由で実践者に受容されない場合がある.例えば,統計的決定理論にもとづいた医療診断システムが現実の医療機関で受容されないケースが知られている.オペレーションズ・リサーチの実践においても,解決案が問題保持者に受け入れられないことがある.
(b)評価の問題
支援によって何が変化すればよいのか評価の方法が明示できないと,なんでも支援になってしまう,どんなものでも支援システムと呼ばれてしまうという事態が生じ,支援や支援システムの概念をはなはだ空疎なものにしてしまう.この危惧が現実のものとなった例が製品としての意思決定支援システムである.経営者の役にたつと思われるデータを整理格納しておける(はずの)データベース・マネジメント・システム,経営者に役にたつデータを見やすく提示できる(はずの)グラフ作成プログラム,経営者が決定の参考にする予測に必要なシミュレーションを能率的に設計・実行できるプログラムなど,またこれらを開発するための枠組みとなるシステム,そのすべてが意思決定支援システムの名のもとに製品化されているといっても言い過ぎではないであろう.
(c)効果のフィードバックの問題
方策が受容され,実践者がそれを実行しているつもりでも,約束された効果がなかなか現れない場合がある.続ければ効果のあるものをあきらめてしまう場合と,何らかの理由でその方策を用いることが適当でないのに,よりいっそうの努力をそそぎ込んでしまい,かえって逆効果になる場合がある.多くの心理的社会的な問題は問題解決の努力によって解決されるかわりにむしろ維持されている.
(d)効果の消滅の問題
採用の時点で効果があった方法やシステムが時間の経過とともに劣化して効果を失うばかりか,有害になる場合がある.有害であっても支援システムとしてのイメージを維持し続けている場合があるので二重に危険である.たとえば山中を歩く人のための案内板は,経験や適当な案内人があれば絶対不可欠のものではないが,多くの登山者にとって役にたつ支援システムとして出発する.ところが時間がたつにつれて地形と案内板はそれぞれ固有の因果関係によって変化するので,実際にはそれを作った瞬間から劣化のプロセスが始まっている.地形と合わない案内図はまことに危険である.
(e)副作用の問題
方策が受容され,実施の段階で一応の評価をえられるような効果が上がったとしても,これにともなって望ましくない副次的効果の発生することがある.
などのバリエーションが指摘できる.
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