Author: Y. Kobashi
Date : 96/07/02(modified); 96/04/30 (created)
オフィス・オートメーション学会支援基礎論研究部会研究報告書 「『支援』概念の基礎づけに向けて」(1995)第1部第1章として発表


なぜ支援について考えたいのか

小橋康章


なぜわたしたちがいま支援について考えたいのか,その理由はいくつかある.この報告書のなかで何人かの担当者が述べているように管理から支援へという社会的関心のシフトも無視できない.今後の企業経営を考える上で管理科学的な手法だけでは充分でない,「これまでは,経営者がいかにうまく生産を管理し,品質を管理し,労働を管理するかに意を注いできたが,今後は,企業構成員の創造性,やる気,能力の発揮をいかに支援するか,製品,サービスの顧客をいかに支援するかを中心に考えなければならない」[ 1]という.また,企業経営に限らず,大きな災害に際して官公庁の対処が迅速でも充分でもなく,当事者の自助やボランティアの活動が重要であり,そこでも支援という活動が注目を集めることになった.さらに十年以上前から市場には「○○支援システム」と称するコンピュータをその中心的な構成要素とする製品が多数見られるようになってきた.OAがオフィスにおける活動のオートメーション(自動化)ではなくオーグメンテーション(拡張 augmentation)を行なう支援システムの利用を意味する日も遠くないかもしれない.ところが支援は難しい.

支援は難しいが,支援が簡単であれば改めて研究する必要はないので,べつに驚くべきことではない.問題は支援という行為そのものを反省的にとらえる枠組みをわれわれが充分に持ち合わせていなかったことである.さまざまな分野で多かれ少なかれ支援の研究に関わってきたわたしたちが,支援に関する共通の認識や定義に容易にたどり着くことが出来なかったという事実も,この難しさを裏書きするものである.

ここで,あらためて一般に支援というものはなぜ失敗するのか,その難しさは何に由来するのかを考えて[ 2],支援基礎論の必要性を論じたい.

1.1 支援は遍在する

支援行為はわれわれの生活のあらゆる局面に見いだされる.子どもや老人が道路を渡るのを手伝うことから,学生が教材の理解をふかめるための支援,論争している人々がお互いの言い分をより正しく理解する手伝い,進路相談などやっかいな意思決定の場面での支援,はじめての目的地へ訪問者が無事に到着するための案内,社会福祉制度による援助,発展途上国への経済援助など,その規模において,主体にあるいは,受益者において,また支援される活動の種類,支援の方法(経済的,社会的,教育的,認知的,など),さらには制度化の程度において,さまざまな支援が存在する.
 伝統的な支援の形態に加えて,今日では設計支援システム,事務処理支援システム,意思決定支援システム,学習支援システム,文章推敲支援システム,翻訳支援システム,交渉支援システムなどコンピュータの機能の利用を前提とした支援形態が開発されている.
 これらの多様な支援行為および支援システムの背後にある一般的な原理を探るとともに,それぞれの特殊性を的確に記述する方法が必要である.さもなければ,支援は管理の厳しさを隠ぺいする隠れ蓑に堕してしまうかもしれないし,充分自動化できないシステムの欠陥を覆い隠す言い訳に使われるかもしれない.支援自体の責任範囲と評価基準を確立し,また現存するさまざまな支援の形態に学んで支援の改善をはかるためにも,一般原理が求められている.

1.2 支援は難しい

支援の試みがひろくおこなわれている一方で,行為を支援するのは一般に難しいことが知られている.この困難の事例も,われわれの日常生活の中から多数上げることが出来る.次のようなものをただちに思いつくであろう.

こうしたことはなぜ起きるのだろうか.よかれと願って行なわれるはずの支援がかえって害をもたらすような事態は,なぜ,いかにして発生するのだろうか.そうした事態を理論的研究や技術開発によって改善することは可能なのだろうか.

1.3 支援という行為の性質

支援の定義はこの報告書の別の個所でおこなうことにする.ここでは一般に支援という行為に見いだすことが出来る特徴を考察し,支援が失敗する理由をいくつか指摘する.

(1)支援の一般的な特徴
(a)意図的である
われわれが支援について語るとき念頭におくのは,何者かが行為の質の維持や改善の意図ないし目標をもって,意識的に実行する行為である.どんなものでも特定の条件のもとでは役に立つ道具であり助けにもなりうる.一個の石ですら,その使い方を知る利用者には街道の道しるべとなるであろう.しかしわれわれはこの石を普通,支援者とは呼ばない.
 支援システムという以上は何かその望ましい性質を保証し,維持する仕掛が組み込まれていなくてはならないと考えるであろう.単にある行為を支える役にたっているだけでなく,役にたち続ける意志と企図をもっている,あるいはある行為を「そのようなもの」としてとらえるとき,われわれは支援について語っているのだといえる.

(b)二次的である
支援があらためて問題になるような場面では,支援を受けるべき,何らかの主体による何らかの行為がすでに進行中である.支援を試みるものは,白紙の上にまったく新しい行為を設計するわけにはいかない.目標を選びとることは被支援者の役目である.行為の中で被支援者自身がその目標に未だ気づいていないとしても.従って支援は被支援者にとってわかりやすくなくてはならず,被支援者の変動する目標に対応できなければならない.
 また支援がいわば外部からつけ加わる行為である以上,支援される行為が抱える問題と支援行為の問題は区別しておく必要がある.
 「常に正しい解を導く」方法やそれを体現したシステムは支援するのではなく代行するのである.

(c)知識に依存する
支援は支援者の知識や経験によって巧みにも稚拙にも行われる.すべての支援が適切なわけではないし,ある時点で適切だった支援が常にそうであるわけではない.なんらかの調査研究にもとづき,支援のための知識を拡充することによって,よりよい支援を実現できるはずである.
 さらに支援は被支援者の知識にも依存する.そのため,ある被支援者に適切な支援が他の被支援者には適切でないということが起こりうる.

(2)支援が失敗する理由
より知的に行動する為の手だてや方策としての支援がうまくゆかない理由としては,

a.方策が受容されない,
b.改善の評価(法)がはっきりしない,
c.約束された効果が現れない,
d.望ましい効果が消滅する
e.望ましくない副次効果がある,

などさまざまなものが考えられる.

(a)受容の問題
規範的理論としてはいかにも論理的に健全であっても,何らかの理由で実践者に受容されない場合がある.例えば,統計的決定理論にもとづいた医療診断システムが現実の医療機関で受容されないケースが知られている.オペレーションズ・リサーチの実践においても,解決案が問題保持者に受け入れられないことがある.

(b)評価の問題
支援によって何が変化すればよいのか評価の方法が明示できないと,なんでも支援になってしまう,どんなものでも支援システムと呼ばれてしまうという事態が生じ,支援や支援システムの概念をはなはだ空疎なものにしてしまう.この危惧が現実のものとなった例が製品としての意思決定支援システムである.経営者の役にたつと思われるデータを整理格納しておける(はずの)データベース・マネジメント・システム,経営者に役にたつデータを見やすく提示できる(はずの)グラフ作成プログラム,経営者が決定の参考にする予測に必要なシミュレーションを能率的に設計・実行できるプログラムなど,またこれらを開発するための枠組みとなるシステム,そのすべてが意思決定支援システムの名のもとに製品化されているといっても言い過ぎではないであろう.

(c)効果のフィードバックの問題
方策が受容され,実践者がそれを実行しているつもりでも,約束された効果がなかなか現れない場合がある.続ければ効果のあるものをあきらめてしまう場合と,何らかの理由でその方策を用いることが適当でないのに,よりいっそうの努力をそそぎ込んでしまい,かえって逆効果になる場合がある.多くの心理的社会的な問題は問題解決の努力によって解決されるかわりにむしろ維持されている.

(d)効果の消滅の問題
採用の時点で効果があった方法やシステムが時間の経過とともに劣化して効果を失うばかりか,有害になる場合がある.有害であっても支援システムとしてのイメージを維持し続けている場合があるので二重に危険である.たとえば山中を歩く人のための案内板は,経験や適当な案内人があれば絶対不可欠のものではないが,多くの登山者にとって役にたつ支援システムとして出発する.ところが時間がたつにつれて地形と案内板はそれぞれ固有の因果関係によって変化するので,実際にはそれを作った瞬間から劣化のプロセスが始まっている.地形と合わない案内図はまことに危険である.

(e)副作用の問題
方策が受容され,実施の段階で一応の評価をえられるような効果が上がったとしても,これにともなって望ましくない副次的効果の発生することがある.

などのバリエーションが指摘できる.

1.4 まとめ

支援が失敗する原因を検討し,なぜ支援は難しいかを考えた.また,支援をめぐるさまざまな未解決の問題があることを確認した.支援にはさまざまな潜在的な困難があるが,人間の優秀な知能の働きが多くの場合それらに見事に対処したり,困難の発生自体を予防したりするために,その実態が覆い隠されていることも多い.しかし今後,行為の支援の制度化が進んで,未熟な支援者が増加したり,コンピュータを利用した相談システムなどの人工物が支援を実行することが広く行われるようになると,行為の支援の困難さとそのもたらすさまざまな問題はより表面化してくるであろう.
 支援システムの開発や支援方法の実践だけでなく,その正当化と批判を含む研究が必要とされるゆえんである.

参考文献

[1]経営情報学会経営情報学カリキュラム研究部会,研究報告書,1993.
[2]小橋康章,「決定を支援する」,東京大学出版会,1988.

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