ムーン・リー
李賽鳳
英語名:Moon Lee
広東語:Lei Choi Fung
北京語:Li Sai Feng
月の天使──ムーン・リー小伝
月の誕生
ムーン・リー(以降は「月」と表記)が生まれたのは、1965年2月14日で、生地は香港である。幼い頃からバレーを習い、そこで培われた見事なプロポーションと愛くるしい顔立ちが認められ、14才からCMタレントとして活躍した。
中学を卒業すると、クンフーの指導を受けていたツイ・シャオミン(徐小明=「天山回廊」の監督)の推薦で「麗的電視台」(RTV=現ATV)に女優として入社して、『大地恩情』・『越女劍』などのTVシリーズに出演した。
その後、ゴールデン・ハーベストと契約し、映画界入りを果たす。記念すべき月の処女作は、本来であればユン・ピョウ主演の「チャンピオン鷹」(1983年10月公開)になるはずだったが、実際は後から撮影に入った「蜀山奇伝/天空の剣」(1983年2月公開)が先に劇場公開された。
1985年にはTV界を退き、映画1本に絞ってジャッキー・チェン主演の「プロテクター」と、日本でも大ヒットした「霊幻道士」に出演するが、役柄はさして重要ではなかった。
翌年もヒット・シリーズとなった「霊幻道士2/キョンシーの息子たち!」と、中国革命の父と云われる孫文の生誕120年を記念して作られた「孫文」(原題を『國父孫中山與開國英雄』といい、同年に日本と中国の合作で制作された同名の「孫文」とは別作品で、こちらはアレックス・マン主演)にそれぞれ出演するが、これまた脇役の域を出ていない。
月の天使
1987年に、月はゴールデン・ハーベストから星輝影業公司へ移る。この移籍が功を奏し、月の代表作となるエンジェル<Vリーズが始まる。
第1作「天使行動」は、同年の10月に公開された(タイトルからして、これが1970年代に人気を博したアメリカのTVシリーズ「チャーリーズ・エンジェル」を模倣したことは明らかである)。
チームのリーダーにジョン・チャン、配下のエンジェルに月とエレイン・ルイ、日本支部から来た西城秀樹、そこにCIA局員のアレックス・フォンが絡む。悪玉には大島由加里。
クライマックスは、月と大島の対決がメインとなる。壮絶な死闘の末に、何とか大島由加里を倒した月がボロボロになりながらも西城秀樹に抱きつくところなど、なかなかの熱演ぶりであった。また、クンフー・アクションもまだ板についておらず、飛び抜けて強いわけでもないので、派手に痛めつけられるシーンも多く、逆にそれが共感を呼んだのかも知れない。
翌年公開された「天使行動2」では、マレーシアを舞台にクーデターを企む反政府ゲリラを相手に、エレイン・ルイやアレックス・フォンに混じって月も激しい銃撃戦やクンフー・バトルを繰り広げる。
前作より格段に進歩したクンフー・ファイトも見ものだが、月の最大の見せ場は高さ数10メートルはあろうかという大木から飛び降りるスタント・シーンである。もちろんワイヤーで吊っているとは思うが、スタントマンを使わずに本人が演じているのは画面を見れば明らかである。
日本のアクション男優だってここまでやる人は少ないと思う。それを香港の女優が、それもアイドル女優が成し遂げてしまうのだから、香港映画は凄い(というか、乱暴というべきか)。さすが、過激なスタントを俳優に要求することで悪名高いスタンリー・トンである(この作品ではアクション監督)。
この年、月はノン・アクションのドラマに出演し、新境地を開拓する。それがジョニー・マック製作の『盡訴心中情』(1988)だ。幼い娘と生き別れた母親の苦悩と再会後の母娘の葛藤を描いた力作で、省港旗兵<Vリーズに代表される社会派映画に真骨頂を見せる、いかにもジョニー・マックらしい作品である。
母親と否応なく引き離され、大陸で成長した娘が香港に住む母親とどうしても打ち解けることができない、という役柄を月は精一杯熱演しているが、演技の素養がないためか芝居が浮いてしまっている。これを反省したのか、以降月はアクション映画に専念することになる。
1989年には4本の映画に出演している。そして、それまで所属していた星輝影業公司を離れ、フリーとなった。星輝は年に1作エンジェル<Vリーズしか撮らなかったのがその原因らしい。
この頃、月は「霊幻道士」シリーズで知り合ったリッキー・ラウ監督と恋人関係にあり、結婚も間近と噂されており、絶頂期にあった。しかし、それも長くは続かなかった。5月、悲劇が月を襲った。
月の悲劇
1989年4月に「キラー・エンジェル/戦慄の天使たち」が公開されるが、これはエンジェル<Vリーズの設定をそのまま頂いたもの。珍しい月の歌やダンスが披露されるなどのボーナス映像もあるが、本家のシリーズに較べてすべてスケールが小さく、アクション・シーンもチープだった。
そして、悲劇が5月に起こった。このとき、月はレイ・ロイやシベール・フーとともにアクション映画「群狼大戦」を撮影中だった。5月19日、この日も撮影は順調に進み、夕方にクライマックスとなる爆破シーンを撮ることになった。ギャングのボスであるン・ジャンユー(呉鎭宇)が3人に追いつめられ、ガス・ボンベを撃って自爆を図る場面だ。
それを見た3人が窓から飛び出すのだが、爆破係が経験不足だった(!?)ため、一拍早く爆破スイッチを入れてしまう。レイ・ロイは一瞬早く逃れるが、月とシベール・フーはあっという間に爆発による巨大な炎に飲み込まれてしまう。特に、シベールは一番遅れていたので、全身を炎に包まれながら落下していく。2人の悲鳴が響き渡る・・・・。
この事故によって、シベール・フーは身体の25%が火傷するという重傷を負い、月もまた髪の毛が全部燃え上がり、顔や腕にも大火傷を追って、3週間絶対安静の状態が続いたという。その後、2人は整形手術を受け、数ヶ月後には無事映画界に復帰することが出来た。
何とも酷いと思うのは、この事故の模様が「群狼大戦」のクライマックス・シーンとしてそのまま本編に使われていることである。
本来であれば、この映像はNGであり、本編に使われるものではないはずなのに、この映画ではそれを平然と使い、しかもご丁寧に2度3度とハイ・スピードで繰り返し、なおかつこの事故を扱った新聞記事(顔を包帯で包んだシベールの写真付き)まで見せるという念の入りようで、完全に見せ物にしているのだ。
被害にあった女優たちの人権をまるで無視したとしか思えない、こうした製作者たちの態度には本当に腹が立つ。彼らは果たして、俳優が死んでもそれを利用しただろうか。もし、こうした行為が許されるなら、あらかじめ事故を想定した映画作りも行われてしまうのではないか。
極端にいえば、スナッフ映画を認めることになる。こうした撮影事故はハリウッドや日本でも起きているが、それを本編に使うことはさすがにしない。人権意識が薄いといわれる香港だから許されるのか。それにしても、経験不足のスタッフを大事な爆破係にする、という行為自体が既に間違っていると思うのだが。
月の彼方
この事故により、まさに月のツキも尽きたように、いつのまにかリッキー・ラウとの婚約は解消となり、これ以降出演作品の殆どが興行的に失敗し、また日本でも「天使行動3」以後の作品はすべて未公開に終わっている。
「天使行動3」では、何故かクライマックス・シーンに登場していないが、それ以前に一人で大勢の男たちと迫力に満ちたクンフー・ファイトがあり、月にとって最高の見せ場となっている。トンファーやヌンチャクを器用に使いこなす月のクンフーはすっかりお手の物になっていて、ただただ見とれるばかり。
翌年の「赤色大風暴」では、既婚で子持ちという初めての役柄に挑んでいる。夫役のレイ・ロイとともに空港警察に勤めており、2人は税関の所長でありながら密売組織と組んで武器の密輸をしているロビン・ショウの悪事をかぎつけるが、逆に組織に娘を誘拐されたうえに惨殺されてしまう。
復讐に燃える2人は組織の銃器を奪い、ロビンを人質にしてギャングたちと対決する。この作品はガン・ファイトが主体なので、月の得意な肉体アクションは殆どないが、アンドリュー・カム監督(「城市特警」)の粘っこい演出が功を奏して見応えのある作品に仕上がっている。
しかし、これ以後、月の出演作品は急激にレベル・ダウンしていく。1992年以降の映画はそれが顕著で、見通すのが苦痛になってくるほどだ。
たとえば、『偸神家族』(1992)はコメディ・タッチのアクション映画だが、まるで笑えない。オチが見え見えだったり、テンポが悪くてギャグもことごとく上滑りしている。コメディは苦手ですが一所懸命勉強して作ってみましたというスタッフの姿勢が透けて見えて、クスリとも笑えないのだ。
『覇海紅英』(1992)に至っては、口が裂けてもB級・C級作品とはいえないZ級レベルの映画で、見ていて情けなくなってしまう。シンシア・カーン、大島由加里、西脇美智子、さらにレイ・チーホンまで動員しているのに、ストーリーは滅茶苦茶、監督の演出力は素人以下という恐ろしい映画だった。こんなの公開するなよな。
そして、1993年以後はとうとう出演作品の殆どが劇場未公開となり、いきなりビデオ落ちという扱いを受けるに至った。映画での興行価値を失った月は、その後活躍の場を求めて古巣のTV界に戻るが、結局そこでも往年の人気を取り戻せなかった。噂によれば、既に芸能界を引退し、バレー教室を開いて子供たちにバレーを教えているという。
現在では、月を知るファンも少なくなったが、かつて香港に世界一可愛いアクション女優≠ェいた、という稀少価値で映画史に残る女優だと思う。
補記── その後に調べたところ、デビュー作はやはりフィルモグラフィで未確認作品にしておいた『交叉零蛋』(1981)らしい。
Top│侠女傳奇│Bio│Film│Photo│少林傳説│黄飛鴻傳│閑話休題│更新情報│自己紹介│BBS│Links