74.宝物を失った日
一体人生の中にいくつの出逢いを繰り返さねばならないのだろうか。
そしていくつの別れを乗り越えなければいけないのだろうか。
大学に入った僕、山本賢一は一つの大事な宝物を見つけた。しかしその宝物を僕は手放してしまい、そして傷つけた。
彼女との出逢いは入学式だった。それはきっとこの先もう2度と無いだろう一目ぼれだった。
そして僕は初めて自分から告白した。
「一緒にいたい。好きだから。」
この一言を言うのに僕は1時間もかかってしまった。この不器用な告白にその間彼女はじっと聞いてくれ、そして彼女は
「いっぱい一緒にいてね。」
そういうと、僕に微笑んでくれたのだ。
その娘の名前は理香といい、いつも一緒にいた、ずっとこのままでいられると僕は思っていた。
それが突然大学2年の秋に、別れがやってきた。
理香が突然別れを告げて僕のもとを去ったのだ。
突然という言葉が似合いすぎていて僕はそれを理解するのに時間がかかりすぎた。
最初の1年は何も解らずただ自分を見失っていた。
次の1年は失われた自分と時を取り戻す為に悩み、がむしゃらに暴れていた。
そして自分を取り戻した時、僕は少し泣いた。
僕はその後1人の女性と付き合ったが、数ヶ月で別れた。
その時僕は、「ごめん、一緒にいても笑わせる事が出来なくって」と、ただあやまるだけだった。
そして気がつくと僕は大学4年になっていた。
とある日の夜、友人と飲んでいた僕は午後10時過ぎに友人と別れるとふらふらと近所の公園へむかっていた。
なぜそこに向かったのかは、全く解らなかった。
ただの気まぐれだったのか。それとも雲一つない夜空に浮かぶ満月が足を運ばせたのだろうか。
公園に着くと、僕はベンチに腰掛け、煙草を取り出し火を付けた。
その時、自転車の音が後ろで止り、ふと僕が後ろを向いたのは全くの偶然だったのかもしれない。
「何してるの」
きょとんとして少し驚いたような顔でこっちを見ていきなり言ってきたその女性に僕は見覚えがあった。
それは理香だった。
「何時だと思ってるんだよ。」
突然の声に僕はなんとも意味不明な返事を返していた。
「それはそっちも同じでしょう。なんか顔が赤いよ飲んでたの。」
「いや…ちょっとだけだよ。」
「そっか。そうだ、今時間ある?」
「ああ、もうちょっとな」
「それじゃあちょっと付き合ってよ。」
そういうと、その女性は自転車から降りるとかごに入っているコンビニのビニール袋から缶ビールを2本取り出すと1本を僕に渡した。
ビールを受け取りながら僕は頭の中で
「なんで・・・理香が・・・」
などと考えながら酔った頭をふっていた。
理香はビールを勢いよく開けると
「久々の再会で公園で乾杯。なんか良くない。」
と、僕に屈託の無い笑顔を見せながら言った。
飾らないところも変わらないなと、苦笑いをうかべ僕もビールを開けた。
「乾杯! 久しぶりだね」
理香はにっこり笑うとビールを僕に向かって突き出した。
「久しぶり」
僕はビールををこつんとあわせるとぐいっとビールを半分近く一気に飲み干した。
「で、何してたんだ」
「別に・・・買い物の帰りにだだ来てみただけ・・・・・」
理香は少し口篭もりながらそういうと僕の真似をして一気にビールを飲み干そうとしてむせ返った。
「弱いのは変わってないな」
そう言って僕は理香の背中をさすってあげた。
「賢一だって・・変わってないよ。。。やさしいのは」
理香はむせながらそう言うとじっと僕を見つめていた。
僕はその目を見つめ返しながらどうしていいのか解らず止っていた。
「あのね・・・窓から月を見てたらね、ここに来たくなったの。来たら賢一がいるんじゃないかなって。」
理香の意外な言葉に僕は返す言葉もなくただ黙っていた。
「あのね、なんでだろうな。賢一と別れてからずっと考える事はおんなじ事だったんだ。」
これ以上理香の話を聞くのが怖かった僕は話を遮るように、
「お前酔ってるだろう、あんまり飲めないのに飲むからだよ」
僕にはこれだけを言うのがやっとだった、しかし理香は僕の肩を掴むと自分の方を向かせるようにぐいっと引っ張り大声で、
「そんなことない! 本当なんだよ。だって今も賢一の事好きだから」
理香は泣いていた。そして理香の腕には僕の机の引き出に入っているものと同じ時計が付けられていた。
それは付合って1ヶ月目の記念に2人で選んだものだった。
その瞬間理香が何故今日この公園に来たのか、理香の今の気持ち全てを理解した。
そんな理香の気持ちを受け止めながらもその時僕は驚くほど心が落ち着いていくのを感じていた。
そして、僕はゆっくりと理香に向かって話し始めた。
「あのな、俺の好きな子はずっと前を見ているんだよ。すっごく前をみているんだ。
決して後ろなんかを振り向いたりしないし、だから俺は好きになったんだ。」
僕は話続けた。
「俺は好きな人と別れた時辛かった。その時は何にも考えられなかった。
でも今は言える。あの時逢えた自分がいたから今の自分はここにいるんだってね。
その人は今も俺の中で輝いているんだ。最高に、一生懸命・・・」
賢一の不器用でがむしゃらな言葉は理香の心に突き刺さっていた。
あの時、そんな不器用だけど何にでも一生懸命な僕が大好きで、けど自分がいたのでは僕の進む道の足手纏いになってしまう。
そう思って別れを告げたのではなかったのか。また同じ事を繰り返したいのか。
理香は賢一が一生懸命自分を見つけ出して生きているのを知った。
そして賢一の心の中に自分がまだいる事、でもそれは今こんな取り乱したりしてる私ではないのだと知った。
「変わってないよね。冗談をまじめに受け止めるところも。少しは大人になんなよ」
理香は笑ってそう言うのがやっとだった。
僕は理香の気持ちが痛いほどに伝わっていた。しかし知らないふりをして、
「飲んでいたからだよ。さてと帰るかな。酒ごちそうさん」
そういうと、手を軽く上げ立ち上がり公園を後にしようとした。
「賢ちゃん・・・」
理香は昔の呼び方で僕を呼んだ。
「理香、お前はそのままが一番だからな。」
振り返らずにそう言うと僕はそのまま公園を出ていった。
公園を出た僕は、
「これが一番いいんだよ。誰がなんて言ってもな。」
そう言うと、俯いてほんの少し泣いた。
しばらく経って顔を上げた僕はすっきりとした顔をしていた。
そして僕は前を真っ直ぐ見つめ歩いていった。
もう後ろを振り向く事は決してないだろう。あいつの為にも。
※編注(2000-12-03):この文章は、やまも〜さんが書かれたものです。もりぽむがこんな文章書ける筈がありません(笑)
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