今回よりこのコーナーは、私や知人たちが体験したミステリーなことを、毎回読切りで取り上げてゆく、いわば「耳袋」形式にしていこうと思う。まずは、私が体験したことの中から、いくつか紹介してみたい。
【縄跳びの少女】
私がまだ箱崎に住んでいた頃だから、もう6年くらい前になるだろうか。仕事を終え、なんとか最終の地下鉄で帰ってきた私は、いつものように地下鉄の駅近くのコンビニに寄って、ちょっとした買物をすませ、アパートまでの夜道を歩いていた。
その道は、国道からひとブロック分だけ住宅地に入った市道で、大学の近くとはいえ、さすがに夜の12時を過ぎると人通りもほとんどない。
通りに面して、公団住宅や商店、飲食店、保育園やNTTなどが立ち並ぶが、どこも明かりはほとんど消えていて、電柱に取り付けられた街灯の灯だけが道を照らしていた。
すると道のむこうの暗がりから、スタッ、スタッという音が聞こえてくる。
なんだろうと見ていると、街灯の灯に浮かび上がったのは、白い体操着に黒いブルマーの少女だ。見たところ、小学校5、6年生の背格好で、長めのおかっぱ頭にやはり白い鉢巻きが、夜目にもくっきりとしている。
その子が道の真ん中を、縄跳びをしながらこちらへゆっくりと駆けてくる。スタッ、スタッ、スタッと音を立てながら。
私は思わず立ち止まって、その子を見つめていた。少女は私には目もくれず、そのまま前を駆けていく。街灯の灯が途切れ、暗がりの中へ溶け込むように見えなくなっていく。ただスタッ、スタッという音だけを残して。
こんな夜中まで縄跳びの練習か、小学生も大変だなと思いながら、アパートまでの残り数十メートルを歩きだす。しかし、少女の無表情な顔が気になって思わず振り向くと、もうその辺りにいてもいいはずの次の街灯の灯の下には、誰もいない。考えてみればもう11月も末で、あんな夏服の体操服じゃ寒くてたまらないはずだ。
それから何回も同じ時間帯にその通りを通ったが、その縄跳びの少女と再び会うことはなかった。