【明け方訪ねてきた男】
これもやはり大学時代、京都での話。
ある日の明け方、不思議な夢をみた。
その頃住んでいた京都北部の学生アパートの四畳半の部屋で、私は押入をベッド替わりにして寝ていた。間取りは、アパートの引き戸を開けると沓脱ぎの三和土と下駄箱があり、玄関の正面には共同の台所、左手には二階へ上る階段。右に板張の廊下が延びていて、その左右に四つずつ部屋が並んでいる。
私の部屋は玄関口から左手の最初の部屋で2号室。部屋の作りはどれも一緒で、開き戸のドアを開けると半畳の板張があり、その次が四畳半。窓は入口と反対側に一つだけ。押入は廊下側に一畳分、つまり半畳の板張の左の壁の向こうが押入になっている。
さて明け方近く眠っていた私は、夢の中で誰かが訪ねて来るのを感じていた。こんな早朝に誰だろう。その時、眠りの中の私は瞬間的に移動して、アパートの庭の上に浮かんでいた。
男がこのアパートを目指して、駅から坂道を上ってくるのが見える。男は…なんと私だ!?
次の瞬間私は、駅からの坂道にいた。どこかに泊まって、自室に朝帰りといったところだ。アパートは坂道の突当りの右手に立つ。角を曲り、庭を横切り、玄関に入り、靴を脱いで、廊下に上る。郵便受けを確かめ、朝刊を抜いて手にし、部屋へ向かう。
不思議なことに、そうやって行動している私の姿が、眠っているはずの私の意識として、逐一見えていたのだ。ほら、靴を脱いだぞ、新聞を取った、鍵を取り出し鍵穴に挿しひねる。ドアのノブに手をかけた。
あれ、変だぞ、開かない。
不思議に思った私は、呼び鈴代りのブザーのボタンを押す。寝ている私は、ブザーの音に眠りの中で、誰か来たと夢から醒め始める。ドアの前の私は、そうか開いてたから逆に鍵を掛けてしまったんだと気づき、もう一度鍵を回す。カチャリと音がして鍵が開き、ドアを開ける外の男。中の私は目覚めながら、誰だ勝手に部屋に入ってくるのは!
押入に寝ている私からは、ドアの入口は見えないはずなのに、寝ていながらその男の顔がはっきり見えたのだ。その男の顔は、やはり私なのか!?
薄れゆく夢の世界のデティールとぼんやり立ち現れてきた現実の狭間で、私は確かにその男の顔を見た! しかし、その男の顔の記憶は直ぐに全く抜け落ちてしまい、影としてしか思い出せないのだ。
やがてはっきりと目覚めて時計を見るとまだ午前5時半。誰か来たんだっけ。いや、誰もいないよな。どうでもいいけど口の中が粘ついていて嫌な感じがする。顔でも洗おうとドアノブに手を掛けると、昨夜寝る前にロックしたはずなのに、鍵が開いていた。