【空を翔ぶもの】
その1:桜の木の下で
10年ちょっと前、私が劇団Kで活動していた時期の、桜の花がちらほらと咲いていたから、たぶん三月末くらいの頃だ。
当時の劇団Kは某大学内に練習場所を持っていた。ある休日の午後の練習日、いい天気だったので劇団員たちは外で体操やランニング、柔軟運動をすることにした。一通り身体を動かして、しばしの休憩。のどかな春の陽射しとあたたかなそよ風が心地よい。みな、芝生の上でゆったりと寝転んでいた。
すると、桜の木の根元で舞い散る花びら越しに空を見上げていた私の目の前を、なんだか白くて薄い布のようなものが通り過ぎた。見れば、桜の木の周りを半透明の衣がいくつか翔んでいるではないか。
思わず起き上がってよく見ようと目を凝らすと、もはやその衣は見えなくなっていた。たぶんあれは、陽気に誘われて踊っていた桜の精か、はたまた天女だったのではと勝手に想像しているのだが。
その2:海上を飛び交う光
これも10年ほど前、友人Aと夜のドライブに出かけた。
行先は志賀島・海ノ中道方面。季節はすでに秋で、夏は夜中でも賑やかな海岸沿いも人気なくひっそりとしている。折しも低気圧が近づいてきているのか、玄界灘の波は高く風もけっこうきつい。
我々は車を路肩に駐め、風でざわざわと騒ぐ松林を抜けていった。目指すは海に面してそびえ立つ砂丘。パラグライダーのフライト基地や地元でのCMロケ地として知る人ぞ知る場所だ。
ほどなく砂丘の上についた。波打ち際から短い砂浜を挟んで十数メートルほどの高さの砂の崖の上だ。時刻は午後10時を回っている。ずっと弓形に反った海岸線のところどころに人家の灯が見える他は、海が荒れているので烏賊釣りなどの夜間操業の漁船の灯もない。
真っ暗にうねっている海を見下ろしながらポツリポツリと話をしていると、なんだか海の向こうがうすら白く光る。見るとはなしに見ていると、突然ぼんやりと白く発光している巨大な物体が、ぶわあと水平線から現われ、我々の目の前をよぎって飛び去っていった。
あれはなんだったのか、今でもよくわからない。それでなくとも夜の海の上の空には、よくわからないエネルギー体が蠢いていたのを肌で感じていたので、日が替らないうちにと家路を急いだのだった。