【壁を叩く音】
中国地方在住のYさんから聞いた話。
かつて工場や施設などに精密機械や大型プラントを設置する会社に勤めていたYさんは、ある時、山陰地方の現場へ出かけた。
山の中に造成された工業団地の中の一工場に、大型機械を設置する仕事だ。
まだほとんど稼働していない工業団地は、真っ昼間でも作業員や立会いの人員以外には人っ子ひとりいない淋しさだ。
大きな体育館ほどもある建物のコンクリート打ちっ放しの床に、配置図の図面通りにひとつずつ機械が運び込まれ設置されていく。精密な部品も多いので、作業は迅速かつ丁寧に進められていく。
ひとつひとつ機械の作動を確認しながらの長丁場の作業は、やがて日もとっぷりと暮れ、深夜にまで及んだ。
Yさんの持ち場は、工場の内側の壁に、機械を見下ろすようにぐるりと囲んで渡してある踊り場だった。普通のビルでいえば、4階か5階くらいの高さだったそうだ。
真夜中になりいいかげん疲労の色も濃くなってきた頃、突然、Yさんの立つ場所の壁を外から激しく叩く音がした。
ドンドン、ドンドン、ドンドンと激しく連続して。
見れば、近くの窓の横のプレハブの壁が、音に合わせて大きく凹んでいる。疲れていたYさんは、外に誰かいるのだろうと、何の気なしに窓を開けて頭を出し外を覗き込んだ。
だが、外には誰もいない。
壁が叩かれていた場所は、地上から10メーターはあろうかという高さで、もちろん梯子や足場など、人の立てるようなものは何もないのだ。
窓から首を出したYさんの目に映るのは、漆黒の闇だけ。
冷ややかな風を感じたYさんは、仲間に言って、この夜の作業を中断し朝から再開することにしたという。
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