【カメラの後ろから】
前回に続いて、中国地方在住のYさんから聞いた話。
かつてYさんが不動産関係の仕事をしていたある日のこと。
カメラとビデオカメラを持って、山間部の町へと向った。ある土地の購入を検討しているクライアントのために、資料となる映像を撮ってこいと上司に命じられたのだ。
地図を見ながら、いろいろ人に道を尋ねて、ようやく現場へ辿り着いたのは、もう夕方近くだった。山の夕方は早いので、急いで撮影を済ませようと、Yさんはあちこちカメラのシャッターを切りながら、ビデオの三脚を立てるのにいい場所を探した。
その現場は、周辺には人家の一軒もない山中に開けた空き地だった。もともとはなにかの敷地だったのか、整地されたような痕跡が残り、山際の傾斜地なのにそこら一帯だけ地面はほぼ水平である。
ただなにかが建っていたにしろ、おそらく随分以前のことのようで、一面ススキやカヤなどの雑草や笹、潅木が生い茂り、虫や鳥の棲み家の薮と化している。
Yさんは空き地の一角から斜面に登り、全体が見渡せる場所を見つけた。三脚を立て、ビデオカメラを据え付け、アングルを調整する。
さあ、いよいよボタンを押して録画開始だ。ゆっくりパンしながら広角で全景を写し込む。日は山陰に隠れてしまったが、幸いまだ明るいので、かろうじて撮影は可能だ。
撮り始めてどれくらいたったろうか、少しずつ空の色がくすみだし、夜の気配が濃くなってきた。背中を風が吹き抜けていく。
突然、Yさんのすぐ耳元で男の叫び声が響いた。
「うををををををんんんん…」
とでも書いたらいいだろうか、文字にしがたい、威嚇するような、悲鳴をあげるような長い叫びだったという。
肝を冷やしてふり返っても、後ろには暮れゆく山の景色が広がっているだけ。Yさんはほうほうの体で現場をあとにした。
ビデオや写真になにか写ってなかったのかと聞くと、Yさんはテープとフィルムを会社に提出したものの、とても怖くて見ていないという。
ただ、ビデオと写真を見た上司のつぶやいた一言は忘れられないそうだ。
「こりゃあとてもじゃないが使えんな…」
やがて、その土地の購入計画も理由がはっきりしないまま中止になったとか。