くらやみ砂絵
都筑道夫 著
連作時代本格推理 なめくじ長屋捕物さわぎ
中秋の名月を、あすにひかえた八月十四日の晩、神田上白壁町の長崎屋という呉服屋で、なんとも奇妙なできごとがあった。あるじの幸右衛門が死んで、奥座敷には三十人ちかい客が、通夜につめかけていた。そのなかのひとりが、殺されたのだ。犯人はだれの目にも、あきらかだった。長崎屋のあるじ、幸右衛門。つまり、死体が人殺しをして、逃げ出したのだ。客の多くは酔ってはいたが、気が狂っていたわけではない。(第二席 天狗起し その一 冒頭)
「このところ、ひと助けばかりしていた」ので、心を入れ替えて、ちゃんと金になるはたらきをすることにした、センセーとその仲間たち。とはいえ、たいした金になりそうもない話にも、おもしろそうだからとか気になるからという理由で首を突っ込むことはある。で、最終的には金を手にする。
全体的には面白いので、多少の毒には目をつぶるつもりだが、「けっきょく、この人たちって、こうなのか」と幻滅を感じる部分がある。もともとの素性はどうやら学もあり腕も立つさむらいであるらしいセンセーはともかくとして(いや、センセーだって、いまの状況にいたる原因が何かしらあったんだろうから同じかもしれないが)、設定上、長屋の仲間たちは金になって自分がお縄にならないならそれこそ何だってする連中なわけで、だったらあれで当然なんだろうけれど、親しみを感じつつ読んでいるこちらとしては、素人娘をみんなでいたぶったら金になるという話がきたと喜ぶ姿はちと辛いのよね。
ルビはあいかわらず凝っている。
模伝留、
才気照突、
離立浮、
娯知派、
不安(←役者が危害にあうかもしれないと思って「わたしが身代わりになります」と押しかけてきた娘たち)、
乗句、
編出案
第一席 不動坊火焔
調伏の値段は二十五両
第二席 天狗起し
でえも天狗(駄右衛門天狗)
第三席 やれ突けそれ突け
突然あらわれた「吉さん死ぬ」という文字
第四席 南蛮大魔術
旦那衆の集まりで、余興の手妻の種をあばくはずが
第五席 雪もよい明神下
半鐘を鳴らして落ちてきた死体
第六席 春狂言役者づくし
羽子板が切り裂かれて役者が殺される
第七席 地口行灯
解説 神様と早呑み込みの迷惑な愛読者 北村薫
解説の北村氏は、「天狗起し」を初めて読んだ場所(地下鉄の車内)を覚えているという、「それくらいこの作品の印象は強烈」だったそうだ。わたしは、物事の起きた状況(いわばトリック)は予想通りで全然意外ではなかったのだが、そこにいたる理由にうなった。そうか、江戸時代だもんね。