「見たような顔だと思ったら、おめえさん、八辻が原の砂絵かきだな? ぶらさがってる仏に心あたりでもあるのか。だったら、遠慮はいらねえ。こっちへ来て、とっくり見てくんねえ」ガンニンというのは、なめくじ長屋に住む願人坊主。
横柄に声をかけたのは、いまでいえば神田駅の東がわあたり、当時は白壁町の下駄新道にすむ常五郎だった。
「こりゃあ、白壁町の親分。かまわないなら、見せていただきますよ」
六尺棒を押しのけて、センセーが入っていくと、やじ馬たちに背をむけながら、下駄常は声をひそめた。
「へっへっへっ、でけえ面をして、すいません。ガンニンの声が聞こえたときにゃあ、助かった、と思いましたよ。まったくセンセー、いいところへ来ておくんなすった」(第二席 首つり五人男 抜粋)
地名を出すときに、現代だとどこにあたるのかを説明してくれるのもこのシリーズの特徴。残念ながらわたしは東京の地理がさっぱりわからないので、せっかく説明してもらっても全然わからない。地図があったらいいのになあ。当時の簡単な地図。あ、現代のを用意しておいて照合すればいいのか!
短編集なので、どの巻から読んでも大きな問題はないが、たとえば下駄常だって最初から先生にこんなに信頼を寄せていたわけではなくて、いろいろないきさつがあって今に至っているのだから、できればもともとの順番どおりに読んだほうがいいとわたしは思う。
この巻は見事なパズラーだった。
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