あやかし砂絵
都筑道夫 著
連作時代本格推理 なめくじ長屋捕物さわぎ
神田の筋違御門うち――現在の万世橋へんにあった八辻が原の、松の大木が影を落としているすみに、いつも茣蓙を敷いてすわっている大道絵師は、浪人らしい丸腰で、素性も名前も、だれも知らない。前の地面に水を打って、膝もとの小袋から赤、藍、黄いろ、色とりどりの砂を手のひらにすくい、あるいは太く、あるいは細く、指のあいだから振りおとして、鶴亀、富士山、怪童丸、えがいてみせる砂絵の腕はじつに見事で、大道芸人の仲間からもセンセーと呼ばれている。けれども、いまの神田駅のあたり、白壁町は下駄新道にすむ常五郎が、しばしば八辻が原へやってくるのは、砂絵を見るためではない。このセンセー、ふしぎな推理の才があって、常五郎にとっては、かっこうの相談相手だったからだ。
(第三席 不動の滝 抜粋)
年増、年増っていろんな人の描写に何度も出てくるから辞書(広辞苑)でたしかめたら、江戸時代には二十歳を過ぎたら年増と呼ばれたとあった。なるほど、それなら30を過ぎたら大年増もいいところで、40はばあさん扱いのわけだ。やっぱり江戸時代は平均寿命も婚姻年齢も違ったんだなあ。
このシリーズの何を好きになるかはたぶん人それぞれ。この巻の裏表紙には「江戸の住人になったような錯覚をおぼえる精緻な風物描写」という文句がある。そう、それも間違いなく魅力のひとつだとわたしは思う。
でも、解説の新保氏によると「推理真熟屋はもっぱら初期三冊しか評価していない」そうだ。初期三冊とはすなわち『ちみどろ砂絵』、『くらやみ砂絵』、『からくり砂絵』だろう。物語性に重点があるもの、トリック本位のもの、犯人の心理に興味がうつった頃のものと、シリーズ中にも傾向の変化があるらしい。
小説家、
理導、
破落窟、
有明道、
第一席 張形心中
心中に見せかけられた男女の死体。下手人としてつかまったのは、センセーの仲間のアラクマだった。
第二席 夜鷹ころし
夜鷹の連続殺人事件。被害者はまっぱだかで、顔をめった刺しにされていた。
第三席 不動の滝
滝に打たれに来た酒屋のおかみさんが、忽然と消えた。
第四席 首提灯
ろくでなしの勘五郎の首無し死体と生首が、別々の場所で発見された。
第五席 人食い屏風
画家が二人、それぞれ自分の描いた虎に食い殺されたという。
第六席 寝小便小町
船上の密室でおきた刺殺事件。しかしその場にいた若旦那は、自分は気を失っていただけだという。
第七席 あぶな絵もどき
茶屋の女や商家の後家たちの醜聞を書いた紙が出回っていた。
解説 なめくじ長屋はいかに改装されたか? 新保博久
後出数、
真熟屋、
魅筋点理別推読典、
優新工、
哀疎郎、
離苦例小夢、
歯有奴暴意留道、
代印具命絶時、
太夫、
切裂き邪悪、
別床、
侮楽銘留、
洒論駆法務頭、
派弄出、
道理奇異、 このシリーズの解説では他の人もやってることだけど、それにしても新保さん、ずいぶんはりきってルビをお使いですこと。(^^;