山梨学院大学 堀 越 芳 昭
本稿は、日本経営学会『経営学論集』第65集、千倉書房、
平成7(1995)年9月掲載の同名論文に基づいています。《 目 次 》
はじめに
1 協同組合原則の意義と構成
2 各種協同組合原則の比較検討
3 ICA原則の成立と展開
4 今日の協同組合原則改定問題と資本原則
5 協同組合の資本特性と資本原則
新しい経済システム,新しい経営方式が求められているとき,それに応えるには,私企業,公益組織,協同組合組織のそれぞれを比較検討することが必要であると思われる。本報告は,この課題に何らかの意義を認めて,比較的視点を背後に据え,主として協同組合の原則とりわけ資本原則を中心に,その変遷と今日的状況に検討を加えるものである。
まず,協同組合原則の意義と構成についてみておきたい。
協同組合原則の意義は,第1に国際協同組合同盟(ICA)の加入資格であること,第2に協同組合法の理念的基礎であること,第3に協同組合の特質を具現し,協同組合でないものとそうでないものとを分別する基準を明示すること,に求めらるであろう。
協同組合原則とは通常,1937年にICAが制定した協同組合原則及び1966年に改訂され今日に及んでいる現行の協同組合原則が,国際的に認知された協同組合原則とされている。このICAは,1895年に設立され,1992年に開催された第30回東京大会まで,3〜4年毎に国際大会が開催されてきた。その30回に及ぶ大会では,協同組合原則の制定・改訂をはじめ協同組合がかかえる重要問題を検討し,世界の協同組合の指針を提示してきた。1994年4月現在,97ケ国,219組織,7億2千万人の人々がこのICAの傘下に入っている。名実共に世界最大のNGO組織であり,国際赤十字(IRC,1863年設立)に次いで歴史の古いNPO組織である。現在,国連の諮問機関という地位を得ている。このICAの動向は世界の協同組合の発展にとって重要な影響を与えてきたのであり,とりわけ共通の協同組合の基準,協同組合原則に関して,ICAは決定的ともいえる重大な役割を果たしてきたし,また果たしているのである。
それでは,この協同組合原則はどのような構成になっているのか。これまでの協同組合原則から,協同組合原則はほぼ次のような構成から成り立っているといえよう。
T 組織原則 (A)資本原則
(@)組合員原則(メンバーシップ原則) (B)分配原則
(A)運営原則 〈(A)と(B)を含めて「広義の
(B)連帯(組織化)原則 資本原則」とする〉
U 経営原則 V 教育原則
(@)事業原則 W 社会原則
しかし,これまでの協同組合原則には協同組合の「目的原則」に相当するものが必ずしも明確ではなかった。この点が,現行協同組合原則に対する批判的見解の有力根拠であった。すなわち,協同組合原則は慣行を原則にまで引き上げたところの単なる運営規則にしか過ぎないという批判である。
協同組合運動の国際的な歴史からみれば,協同組合原則といわれるものに,先のICA原則のみならず,次のようないくつかの協同組合原則が存在していた。
(1)ビュシェの原則(フランスの労働者生産協同組合の原則)
(2)ロッチデール原則(イギリスの消費者協同組合の原則)
(3)シュルツェ原則(ドイツの都市信用協同組合の原則)
(4)ライファイゼン原則(ドイツの農村信用協同組合の原則)
(5)ハースの原則(シュルツェ原則とライファイゼン原則の中間的な原則)
(6)ルザッチの原則(イタリア都市における庶民金庫の原則)
(7)ウォレンボルグの原則(イタリア農村金庫の原則)
これら各種の協同組合原則は,協同組合の形態(生産,消費,信用)と基盤(都市,農村)の違いから生じてきたものである。これらの相違点は,資本原則については,出資制をとるもの(ロッチデール,シュルツェ)と非出資または出資に消極的なもの(ライファイゼン,ルザッチ,ウォレンボルグ)との違い,出資権の売買譲渡を容認するもの(シュルツェ)と売買を不可とするもの(ロッチデール,ライファイゼン,ルザッチ,ウォレンボルグ)との違い,積立金の不分割規定(ビュシェ,ライファイゼン,ウォレンボルグ)と積立金に対する持分の設定(シュルツェ)との違い,剰余金配分に関して,労働分配
(ビュシェ),利用高分配(ロッチデール),出資配当重視(シュルツェ),出資利子の制限(ライファイゼン,ロッチデール)との相違となっている。 (別紙第1表参照)
これらの中から,ロッチデール原則が普遍的な協同組合原則として国際的に受け入れられていき,ICA原則はこのロッチデール原則を基礎として成立していった。
初期のロッチデール原則は主としてG.J.ホリヨークによってまとめられた原則に集大成できる。というのは,1844年創設時の「ロッチデールの目的」には,消費組合店舗だけではなく,住宅・雇用・農業・生産等を含めた総合的な協同組合が構想され,最終的には自助的な共同体建設を究極の目的としていたのである。さらに,1854年規約においては,解散時において残余財産は慈善団体に帰属させるという規定もなされていた。総じてこのころのロッチデール原則には,協同組合原則の構成のうち,「社会原則」が大きく位置付けられていたということができる。ホリヨークはまさにこの社会原則を継承し,分配原則として利用高分配に加えて,労働に応じた分配,自らの出資による資本形成,社会変革,自助の精神等が原則とされていた。しかしこれらの多くは後のロッチデール原則において含まれていないものであった。
ホリヨーク以後,ロッチデール原則は大きく変更されていった,そのように理解されていったというほうがより正確であろう。その一つが,1921年ICA第10回バーゼル大会におけるロッチデール原則定式化の試みであった。この6項の原則がほぼロッチデール原則としてまとまりをもったものといえよう。その第1原則は資本原則で,組合員出資制と出資の配当ではない出資利子付与が規定されている。事業原則としては,第2・第3原則として,現金主義の原則,市価主義があった。また第4原則においては,分配原則(広義の資本原則)として利用高分配が規定されていた。第5原則は表決権平等の原則であり,教
育原則は第6原則にあった。しかし,社会原則及び目的原則に相当するものはなかった。このように,この1921年原則は6つのうち第1〜第4原則までのいわば先の協同組合原則の構成でいえば,主として経営原則によっていたということができる。かくして当時理解されたロッチデール原則は,消費組合の経営原則中心の原則であって,資本原則は積極的な「資本形成の原則」ではなかったといえよう。 (別紙第2表参照)
しかしロッチデール原則とはなにか,当時においてもその解釈は様々であった。そこでICA第13回ウィーン大会(1930年)でロッチデール原則の定式化とその適用を検討することが提案され,同第14回ロンドン大会(1934年)への提案・不採択を経て,第15回パリ大会(1937年)においていわゆる「1937年協同組合原則」が公式にICAの協同組合原則として採択されたのである。
1937年原則の特徴は,第1に,ホリヨークの原則とは異にして,1921年第10回大会に提示された原則やキャサリン・ウエッブそしてG.D.H.コールらのいう原則にほぼ照応していた。そこには,労働分配,社会原則は全く存在しなかったのである。
第2の特徴は,組織原則の組合員原則である(1)加入脱退自由の原則,同じく運営原則である(2)民主的管理の原則,及び,経営原則のうちの分配原則である(3)利用高配当の原則,同じく資本原則である(4)出資金利子制限の原則,以上の4原則を基本的原則として絶対的に守らなければならない原則,つまりICAの加入条件とした。そして,ある意味では社会原則でもある(5)政治的宗教的中立の原則,事業原則である(6)現金取引の原則,そして教育原則に相当する(7)教育促進の原則,以上の3原則を任意原則,つまり加入条件ではないとして,協同組合原則を基本的原則と任意原則との二極構成にしたことである。このような二極構成になったのは,これまで原則とされてきたものが時代の変化によって重要度が低下したことを反映していたが,加えて,当時の国際協同組合運動が抱えていた深刻な問題(ソ連問題や協同組合の政治活動等)があったために,ICAの統一を図るといった要請が先行したからであると思われる。
第3に,上記の7原則とは違ってロチデール原則には明示的に含まれていない原則として,(1)員外利用の制限,(2)自発的協同,(3)市価販売,(4)不分割積立金,の4原則が,いずれも1937年原則からは除かれたということである。このうちかつての事業原則ともいえる市価販売の原則は時代の変化から除かれたものであるが,組合員原則と事業原則の合一したものともいうべき「員外利用の制限」,組合員原則として基本的な「自発的協同」,資本原則かつ分配原則としての「不分割積立金」といった原則は当時はもちろんその後の協同組合運動にとっても決定的ともいえる重要な意味をもっていたのであって,協同組合原則の再検討がなされる場合にしばしば取り上げられてきた原則であった。資本形成の問題に関しては,当時G.フォーケらの強い要請があり,1966年原則にも消極的であるが取り上げられ,さらに1992年ICA第30回大会の「ベーク報告」において重要視された原則はこの不分割積立金の原則であったということに留意したい。また1970年代以降の欧米消費組合の後退現象は,「員外利用」の重視その結果としての「組合員の顧客化」に大きな
要因があったといってもよいのである。さらに協同組合の自発性の問題は先の「ベーク報告」においても決定的な問題の一つに数えられているのである。このようにこれら除かれた諸原則の問題が未解決なまま,否むしろ増幅されて今日に及んでいるということを重要視しなければならないであろう。1937年原則の問題性はここにあったのである。
上記の基本的原則,任意原則そして除かれた4原則といくつかの原則のうち,わが国各種協同組合法が準拠し現在に至っているのは,現行原則ではなく,主としてこの4つの基本的原則であったというところに,わが国協同組合法制の問題性を指摘しておきたい。
「1966年原則」は,30年を経た旧1937年原則を改訂し,新しいICAの協同組合原則としたものであった。現行原則の特徴は,1937年原則の基本的原則をほぼそのまま継承するが,利用高分配の比重の相対的低下をもたらし,持分のない準備金形成を重視し,任意原則の政治的宗教的中立原則を現行第1原則の中に含意させ,同じく任意原則の現金取引の原則を取り除き,教育促進の原則を第5原則として独自の位置を与え,第6原則として協同組合間協同の原則を新たに設けたところにあった。この改訂は,協同組合原則の時代的適合化と多国籍企業との競争激化に対応して組合組織の強化を図るものであった。しかし,1937年原則で除かれた,組合員の員外利用制限の原則と自発的協同の原則は全く考慮されず,不分割積立金に関しては依然アイマイなままに終わっていたのである。
さて,現行協同組合原則を資本問題に引き付けて考察しよう。現行協同組合原則は第1原則から第6原則まで有機的に関連しているのであって,資本形成問題もこれら原則全体と深く関わっているとみなすべきであろう。組合員原則たる加入脱退自由の原則(第1原則)は,資本形成において組合員による規定性を表し,協同組合の資本とりわけ出資金が可変的特質をもつことを示す。組織運営原則である民主的運営の原則(第2原則)は,組合の意思決定方式を組合員主体とすることであり,資本(出資)の支配によるものではないことを示す。資本原則の出資利子制限の原則(第3原則)は,文字どおり資本題に関わる原則であり,そこでは出資に対する利子付与が必ずしも絶対的ではなく,出資に利子を付与する場合には厳しく制限されなければならないとする。この出資利子は,「出資配当」(dividend)ではなく,出資に対する利子(interest)と解釈されている。この原則は,協同組合の非営利性の根拠として重要な原則である。資本原則かつ分配原則である剰余金配分の原則(第4原則)は,剰余形成の貢献者へ,他人を犠牲にしない公正な分配(非搾取の原則)を明記した原則である。ここでは利用高分配を絶対化するのではなく,協同組合の事業のための準備金や共通サービスのために準備されることを重要視して,協同組合の資本とりわけ積立金の共同的社会的性格を特色づけている。これらの準備金には組合員の持分が否定されているが,しかし,解散時の残余財産をどう処分するか不明瞭であり,この持分否定は明確な不分割思想が反映したものかどうか疑問である。教育の原則(第5原則)では,教育準備金の形成を規定している。事実上,組織化原則かつ社会原則である協同組合間協同の原則(第6原則)は,組合員とコミュニティのために(金融や資本形成を含む)あらゆる方法で地方的・全国的・国際的レベルで各協同組合は協同すべきことを規定している。
このように,現行協同組合原則は,アイマイであるとはいえ基本的には,資本の支配性
を否定し,組合員を主体とした協同組合のあり方を規定している。そこには独自の原則になっているのではないが,社会原則が含意されているといえる。そして資本形成はこれら6原則全部に深く関わり,協同組合の資本は組合員とコミュニティのための可変性(組合員出資制)と社会性(不分割積立金)との相互補完的統一として基本的には位置づけられているのである。 (別紙第2表参照)
今日の協同組合原則改定問題において,協同組合原則の背後にある協同組合の基本的価値が解明され,協同組合原則はその価値と実践のかけ橋と位置付けられている。
〔協同組合の基本的価値〕→〔協同組合原則〕→〔協同組合実践〕
このようにして,協同組合原則の前提として,基本的価値が位置づけられることになったのであるが,この価値論が提起されたのは,1つは協同組合原則の改訂のための基準としてであるが,もう1つは協同組合への異質の価値の侵入によって協同組合のアイデンティティが喪失してきたからである。そこではつぎのように提起された。L.マルコスによれば,協同組合の基本的価値は,参加,民主主義,誠実,他人への配慮の4つであった。S. .ベークによれば,基本的理念(基本的価値の中で強調される価値)と基本的倫理(協同組合精神,協同組合文化)の検討から「基本的諸原則」(「組織志向の価値」,「手段としての価値」)を抽出し,いわゆるこれらの伝統的価値の上に立って「行動志向」のグローバルな価値として未来を展望した価値を次の五つに集約したのである。すなわち,(1)(人間的)ニーズに応える経済活動,(2)参加型民主主義,(3)人的資源の開発,(4)社会と環境に対する責任,(5)国内的・国際的な協力,であった。 (別紙第3表参照)
このような価値論からベークは,現行協同組合原則の改訂について次のように勧告した。すなわち,@協同組合原則の基本的原則と基本的規則(機能的原則)との二区分に再構成し,A現行原則の「出資利子制限の原則」をより柔軟にして,Bこれと「剰余金配分の原則」を統合して「協同組合の資本形成の原則」を設定すること,C新たに「自立・独立の原則」を設けること,D民主的運営の原則に「職員の運営参加」を加えるという,協同組合原則改訂の方向性であった。そして1995年ICA100周年の大会において協同組合原則は改訂されることになる。
それでは,この「協同組合の資本形成の原則」とはどういうものか。ベークによれば,その内容は,「協同組合の資本形成の原則は,組合員出資を基本として,組合員の利益と組合の自主性・民主主義が損なわれない限り補完的な出資金調達の諸方法を用いるべきである」というものである。ベークは協同組合の資本形成に関して,「民主主義経済のための資本形成」と題して詳細な検討をして,次のような結論を導き出している。
(1)協同組合の資本形成は組合員出資を基本とすべきである。ただし組合員出資は,義 務的出資のみならず組合員の自発的出資金が重要視されなければならない。
(2)協同組合への外部からの資本導入は,条件付きで容認される。その条件とは,組合 員利益,組合員の自主性・民主主義が損なわれないことである。(無議決権優先株の 導入についてはベークは明言していないが,おそらくこの条件を前提として容認して
いる。つまり株式市場上場ではなく協同組合ファミリー〈いわば協同組合的「内部市 場」〉内での優先株である。)
(3)出資金に協同組合の資産価値を反映させるという方法は拒否される。ただし,出資 金に特別の配当をするという方法は十分検討に値する。
(4)協同組合の株式会社化,株式上場による資本調達は危険であり容認できない。ただ し事業の分野によっては株式会社形態を利用することはありえるであろう。とはいえ 株式会社化した協同組合はいずれ再び協同組合に戻る必要がある。
(5)国際的な協同組合の協力,地域的及び世界的協同組合銀行の創設は急務である。
(6)出資利子の制限の原則をより柔軟にして,公定歩合をやや超える程度の利子を付与 することは必要である。
このベーク提案に基づき,今日の協同組合原則改訂は進められる。その際,今日のスペイン・モンドラゴン協同組合の原則やクレジットユニオンの原則等が参考になるであろう。この原則改訂作業は現在I.マクファーソンらによって進行中であり,そこでは,協同組合の定義,目的,価値が示され,運営や分配において「労働」が再評価され,協同組合の社会原則が積極的に提起されていく方向性を示している。 (別紙第2,第4表参照)
協同組合の資本原則を確定するにあたって,どうしても検討しておかなければならないことは,株式会社や公益組織と比較しつつ,協同組合の資本特性を明らかにしていくことである。そこで以下では,協同組合の資本特性にふれて本報告のむすびにかえたい。
協同組合の出資金の基本的特質はその可変的性格(variable capital)に求められる。この可変性とは組合員の増減と共に出資金が増減するという特質をいうが,このことはとりもなおさず協同組合の出資金が組合員と一体となって存在し組合員の規定性による資本であるということを示している。これは協同組合の人的性格を資本の側面で体現したものである。したがって,出資金は組合員の増大(量的側面)と組合員の積極的参加(質的側面)によってはじめて充実することができる。協同組合の出資金の可変性という強さ(組合員との一体性)と弱さ(変動性・不安定性)はいずれもその根拠をここに求めることができる。しかしこの可変性とは,出資金の個別所有,個別性を表しており,それ故,出資金は払い戻し可能になっている。ここに,出資者(株主)が株式証券を交付される代わりに,拠出した出資金(資本金)に対して,払い戻し請求権が否定されている株式会社とは著しく異にしている。株式会社では出資と資本金が分離しているのである。つまり出資金は,組合員の投資ではなく,組合利用権を確保するものであり,払い戻し可能な貯蓄債権により接近した性格をもっているといことができるのである。
次に,協同組合の資本のもう一つの重要な形態である積立金はどのような特質をもっているか。この積立金については,協同組合の人的性格を根拠にして消極的にしか評価されなかったり,あるいは経営主義的にそれ自体が自己目的化されてきた。両者共,協同組合の積立金を一般企業のそれと同一視して,その特質を看過したものといえるであろう。
協同組合の積立金は法定準備金等各種の準備金,特定目的積立金等任意積立金の形態で
存在し,組合員の個人所有からはなれ,いわゆる共同所有,組合所有となっている。こうした積立金が発生するのは,組合事業が発展し無利息の安定的な資金を内部に蓄積する必要性からであるが,問題はこの積立金がどこに帰属しどのように運用されるかである。
一般的にはこれらの積立金は個人に帰属するものではない。しかし若干の協同組合は,解散時において現存組合員に出資額に応じて残存財産を分配している。わが国の商法によれば,会社の解散時に残余財産は出資額(株式数)に応じて分配することになっており,日本の協同組合の多くがこの商法の規定に準じている。しかしこうした分配方式は協同組合の本質に必ずしも合致しているとはいえない。というのは,協同組合の積立金(剰余金)の源泉は,現在の組合員はもちろん,それだけでなく,役職員,過去の組合員,他の協同組合員,非組合員,海外の組合員,地域社会,組織的価値それに社会経済的要因等に求められるからである。剰余金はその源泉に帰属すべきであり搾取を排除するというのが協同組合の最も原則的なあり方であるから,これら剰余金は上記の各貢献者のために処分あるいは運用されなければならない。こうした剰余金を組合員だけに専一的に分配するのは,自己の貢献に基づかない成果の取得ということになる。そうであるなら,協同組合の積立金は,共同所有として,本来的に「不分割社会的資本」(indivisible social capital)でなければならない。つまり,それは「協同活動の剰余から形成された,解散時においても個人に分配されない,組合目的・社会目的実現のための,非個人的で永久的な,道徳性をもった不分割共同の社会的資本」というものである。それは社会的公共的に運用される。それは協同組合の発展に寄与するために,共通のサービスのために使用され,協同組合の解散時には,残余財産はその時の組合員に出資を基準とした分配によって費消されることなく,近隣の協同組合,中央協同組合基金あるいは地域社会(地方公共団体)または公益組織に寄贈され,それとも再興を期して,文字どおり永久に保持される。こうした協同組合の積立金の「不分割社会的資本」の実践と思想と立法は,イギリス,フランス,ドイツ等協同組合の創設以来連綿と続いてきたのであり,先にもふれたように,必ずしも明瞭ではないが現行協同組合原則の第4原則に含意されており,今日の新しい協同組合(スペイン・モンドラゴン協同組合やイギリス・フランス・イタリア・日本等の雇用創出型のワーカーズコープ等)においても追求されているものである。
そして注目されなければならないのは,この社会性(公共性・公益性)において,協同組合の「不分割社会的資本」は公益組織の剰余金処分(剰余金の分配禁止)や残余財産処分(不分割・類似目的への処分という方式)と共通しているということである。この点で,わが国の,民法第34,72条,社会福祉事業法第25,45,55条,医療法第51,54条,労働組合法第12条,商工会議所法第62条等,及びイギリスのチャリティ法第13条「シー・プレス」(cy-pr s)(可及的近似)の原則を参照されたい。 (別紙第5表参照)
このようにして,協同組合の資本は,組合員と一体化している出資金と不分割社会性をもつ積立金とが相互補完的に存在しているということができる。協同組合原則にはこの協同組合の資本特性が反映されなければならないのはもちろんのことである。
(注記:報告当日に別紙の各表と参考文献名を提示します。)