協同組合の基礎概念

           ―その哲学・定義・特質―

  

                            
                                                                                      堀 越 芳 昭

                   
はじめに
                T ICA声明の基本的意義
                U 協同組合の哲学
                    (1)協同組合の哲学
                      (2)協同組合の人間観
                    (3)相互自助
                    (4)経済の民主主義
                V 協同組合の定義
                  (1)協同組合の定義の意義
                  (2)ICA定義の分析
                  (3)ICA定義の基因 
                  (4)ICA定義の3要素 
                  (5)組織構造の二重性
                W 協同組合の特質:「二重性」
                  (1)「協同組合の二重性」論の展開
                    (2)「協同組合の二重性」
                おわりに
 

                                            【注】                                                               《PDFファイル版》

                       
【注記】本稿は、日本大学経済学部『経済集志』第72巻第1号、
                                      2002年4月に掲載された同名論文によっている。
                            完全論文としては同上誌を参照していただきたい。
                          なお引用等で活用する場合は、ルールをお守りください。

horizontal rule

―その哲学・定義・特質―

                                                                Basic Concepts of Co-operatives 

堀 越 芳 昭

 

はじめに

 

  社会科学の研究はその対象の基礎概念から出発しそこに帰着する.それは「協同組合論」においても同様であり,「協同組合論」の出発点であり終着点であるのは,それが対象とする「協同組合」の概念であり,「協同組合とは何か」,すなわち「協同組合の本質」・「協同組合の特質」を解明することである.

  本稿の課題は,対象としての協同組合を総体として把握するという方法的観点に立って,「協同組合論」の出発点であり終着点でもある「協同組合の基礎概念」を明らかにすることにある.ここで「総体としての協同組合」を対象とするということは,協同組合を経済的側面のみに限定されないものとしてとらえることである.

 「総体としての協同組合」を対象とするということは,もちろん「総体でない協同組合」を対象とすることがあることを想定している.事実,これまでしばしばみられた協同組合の研究方法は,対象としての協同組合に一定の社会科学上の方法を適用するというものであった.そこでは協同組合に内在する独自性は軽視ないしは看過される.わが国では「近藤理論」,いわば典型的な「経済学的協同組合論」にその顕著な例をみることができる1).協同組合が経済的機能を有する限り経済学的アプローチは一定の有効性をもっているが,協同組合が非経済的機能をあわせ有するものであるならば,この経済学的アプローチは一定の限界をもたざるをえない.なぜならこうした経済学的アプローチは,総体としての協同組合ではなく,経済的側面に限定された協同組合を対象とするか,限定しないまでも経済的側面の決定性を前提として協同組合を扱うからである.

 本稿は協同組合の総体を対象とし,主として協同組合を推進する主体者であるICA国際協同組合同盟International Co-operative Alliance)の諸文書および協同組合研究者の諸説を手がかりに,協同組合に内在する協同組合の基礎概念を解明していく.

 

T ICA声明の基本的意義

 

  ICA(国際協同組合同盟1895年創立,1995年現在90ケ国,215組織,75千万人加盟)百周年大会(19959月,イギリス・マンチェスターで開催)において,「協同組合のアイデンティティに関するICA声明」(The ICA Statement on the Co-operative Identity)と題した新しいICAの協同組合原則が21世紀の協同組合原則」として採択された2.ICAの協同組合原則は,ほぼ30年ごとに,1937年,1966年,1995年と三段階にわたって変遷してきたことになる3

    ICAは現在では国際連合の経済社会委員会の諮問団体になっており,国際赤十字に次ぐ歴史をもつ国際的なNGO,NPOである.そのICA原則は,ICAへの加入資格を定めるということだけではなく,各国の協同組合法の基準になり,協同組合の特質(独自性)を明確にするという点で,国際的にも重要な意義をもっている4

 このICA声明・新協同組合原則はこれまでの各種の協同組合原則やICA原則の批判的検討を踏まえて,基本的には「21世紀の協同組合原則」にふさわしい内実をもって改訂されたと評することができる.このICA新原則の基本的意義は次の諸点に求めることができるであろう.

   第1は,1995年ICA原則は「協同組合の本質的自己規定」を明確にしたものである.協同組合のアイデンティティの喪失,協同組合への「異質の価値」の浸入,貧困・格差・自然破壊など人間存在の根本に関わる本質的問題を前にして,協同組合の役割が増大しているにもかかわらず,協同組合陣営は協同組合の役割や独自性に関する確固たる信念に欠いていた.これらを解決するためには,協同組合とはなにか,なにを目的とするのかが明確にされなければならないのである.それはまさしく「協同組合のアイデンティティ」の確立であり,そこでは「協同組合の定義」が明確にされ,「協同組合の価値」が明らかにされなければならない.はじめての「協同組合の定義」,そして「協同組合の価値」と「協同組合原則」といった構成によって「協同組合の本質的自己規定」は明らかになるのである.

   第2に,1995年ICA原則は,「ロッチデール原則(消費組合中心の原則)」から多様な各種の協同組合すべての協同組合原則への脱皮を図ったことである.1937年原則は文字どおり「ロッチデール原則(消費組合の原則)」であり,1966年原則も「ロッチデール原則(消費組合中心の原則)」の現代化の域を抜け出ることはできなかった.レイドローベークらの1966年原則に対する批判を想起したい5.1995年原則は5つの伝統(消費,労働者生産,信用,農業,サービスの多様な各種の協同組合)と5つの未来(農業,消費,サービス,金融,労働者の多様な各種の協同組合)といった協同組合の多様性が尊重され,それぞれが対等であり,多様な協同組合すべてにふさわしいものが目指されたのである.

   第3に,1995年ICA新原則は,組合員中心主義に立ち返り(組合員志向),地域社会に貢献することなど社会に目を向け(社会志向),そのために組合を強化すること(組合志向),つまり組合員志向・組合志向・社会志向の調和的統合的追求を基調としている,ということができる.それは,組合員中心主義の強調,第7原則の新設,第3原則の整備,および第3原則の共同財産・不分割積立金の新設などに現れている.

  しかし,新協同組合原則の基本志向が組合員志向と組合志向と社会志向の調和的統合に求められるという観点からすると,問題点もいくつか残されているのも事実である.いま必要なことは,ICA新原則の意義を正確に深く把握し,同時に未解決の問題点を明らかにし,その解決のためのルール化など価値と原則の具体化をはかっていくことにあると思われる.この問題点と解決方向については別の拙稿を参照されたい6)

  このような意義を有するICA声明(21世紀の協同組合原則)は協同組合の実践のための指針であり,それ以上でもそれ以下でもない.実はその背後にありそれを決定づけるもの,協同組合の価値や原則がよって立つ基本的な立脚点があるはずである.協同組合の定義・価値・原則を決定づける不変的な考え方,すなわち「協同組合の哲学」が見出されなければならない.次にこの検討を行いたい.

 

U 協同組合の哲学

 

(1)協同組合の哲学

 

  協同組合の定義・価値・原則の背後にあってそれらを規定する「協同組合の哲学」とは何か.それは1995年『協同組合に関するICA声明の背景文書』(“Background Paper on the ICA Statement on Co-operative Identity”,以下「背景文書」)において示唆されている.すなわち同文書の序文の第5項に次のように記述されている7)

     協同組合運動はその歴史をつうじて,常に変化を繰り返してきた.将来も引き続き

    そうであろう.もっとも,変化の底辺には,全人類に対する根本的な尊敬や,相互自

    助をつうじて経済的にも社会的にも進歩していく人びとの力量に対する信頼がある.

    さらに協同組合運動は,経済活動に民主的手続を適用することが実現可能で望ましく,

    効率的であると信じている.また,民主的に管理される経済組織が公共のために貢献

    することも信じている.1995年の原則の声明はこうした中核となる哲学的見解に基づ

    くものである.

この記述によれば,これまで絶えず変化してきた協同組合運動の底辺に変化しない根本的なものがある、それが「協同組合の哲学」であり,@「人間の尊厳」,A「相互自助」,B「経済の民主主義」の3つからなっていると整理することができる.第1の「人間の尊厳」とは,協同組合のみに通じる哲学ではなく,他の形態の組織や制度にも妥当する全人類的な普遍的なものである.もちろん人間組織としての協同組合においてこれは特に根本的な立場であるということができる.第2の「相互自助」とは,人びとの自助のために相互に協力し,同時に自立した人びとによる協同を追求するということであり,「相互扶助」と「自助」が統一された概念である.これは他の組織にはみられない,協同組合の独自の基本的な立場である.そして第3の「経済の民主主義」は,民主的である経済が効率的であるということで,協同組合の経済に固有のあり方である.

  協同組合運動,そして協同組合の定義・価値・原則は,人類に普遍的な「人間の尊厳」,協同組合に

独自 の「相互自助」,協同組合経済に固有の「経済の民主主義」といった基本的な「哲学」に立脚してい

るということができる.

 

(2)協同組合の人間観

 

 普遍的な「人間の尊厳」が「協同組合の哲学」の第1にあげられているが,そこにいう「人間」とはいかなるものであろうか.協同組合は人間をどのように捉えるのであろうか.そこに「協同組合の人間観」を見ることができる.

協同組合の人間観は,まず「協同組合の定義」の中に見出される8).協同組合の定義については項を改めて詳述するが,人間観に関わるところをとりあげれば,人々の結合体としての協同組合の目的を,人びと自らの共通の経済的,社会的,文化的ニーズと願いを実現することとしているところに看取される.ここでは 人間を,経済的ニーズをもつものに限定せず,社会的文化的ニーズをあわせもつものとして,いわば人間を総体として捉えているのである.人間の総体的把握,それが協同組合の定義における重要な人間観のひとつであり,協同組合の目的はこうした人間の総体的なニーズに応えることであるとしているのである.

 さらに協同組合の人間観について,『背景文書』において「協同組合の価値」の第1の価値である「自

助」(“self-help”)の説明の中にうかがうことができる.そこでは自助の価値について次のように説明さ

れている9)

      「自助」は,人はすべて自分の運命を切り開くよう努力できるし,また努力すべきだ

      という信念に基づいている.しかし協同組合人は,完全な個人の発展は他人との協同

      によってのみ達成できると信じている.・・・個人はまた,協同組合の成長を促すため

      に学んだ技術,仲間の組合員から得る理解,自分たちの属している広範な社会につい

      ての洞察により,共同の行動をつうじて発達する.・・・

 

  ここには,自己と他者と社会(世界)が相互的で一体のものであるという人間観が示されているという

ことができる.すなわち,自分の運命を自分で決定するという自己の確立と自己の発達は,他者との関

わりの中で達成することができ,他者との関わりや共同の行動により,さらに社会(世界)を理解するこ

とができ、協同組合は,@自己確立とA他者理解とB世界理解をともに追求するものであると.

  この「自己の確立」は協同組合における自己決定の信念に由来する.人びとが協同組合を設立し活動に加わるのは,社会的経済的に自己の確立を図るためである.独立経済主体の協同に協同組合の特性があり,その独立性を促進するために協同するのである.自己の確立,すなわち「自己実現」は終わることのない無限の過程であり,その意味でマズローの自己実現の理論は協同組合においても妥当する10

 しかしこの自己の確立は他者の自己の確立を前提とし,それを尊重するところに,すなわち他者理解,他者との協同によってはじめてよりよく実現する.自己の確立が自己だけの確立として,すなわち,他者との関わりなしに,または他者の自己の確立なしに,さらに他者の自己の確立を否定することによっては,自己の確立は成立しない.他者を支配するところに自己の確立はない.また自己の確立は自己の閉鎖的なものではなく,開放的な他者理解,他者との協同性を不可欠とする.人びとの社会経済的独立性は,他者の社会経済的独立性を前提とし,それを尊重する.協同組合の哲学における第2の概念「相互自助」もこうした人間観と深く関連している.「相互自助」とは「自助」と他者との「相互扶助」を含んだ概念であり,その相互関係を重視した考え方であるからである.

  さらに,自己と他者のみならず,それらを含みつつもそれらを超えた「世界」が存在しそれを理解することが求められる.自己と他者の関係を含みつつも,それを超えた世界(社会,時代,歴史,自然)を理解し,世界(社会,時代,歴史,自然)の要請を理解することが求められる.こうした世界から賦与されるのが「使命」であり,「使命」は自己および自己と他者との関係を超えて存在する.この「使命」はすぐれて人間的な特性である「自覚」によって理解されるものであり,それは自己の確立なしに把握することはできない11.協同組合の人間観における世界理解とは,世界から与えられた「協同組合の使命」を把握することにつながる.協同組合の使命は,個人のニーズの発展,他者との共同の発展から自動的に生まれてくるのではなく,世界(社会,時代,歴史,自然)が協同組合や人間に対して賦与するものとしてあらわれる.

  この協同組合の使命について,『21世紀に向けての協同組合の宣言』(“Declaration towards the 21st Century”)は次のように述べている12

         協同組合運動が課題に効果的に対応し,好機をとらえるべきものだとするならば,

          協同組合の特 性を明確に提示しなければならない.協同組合は人びとや地域社会

          を参加させる能力を明示しなけ ればならないし,商品やサービスの効率的な供給者

          としての能力を照明しなければならないために,協同組合の歴史的使命(historical

          mission)からくる誓約(the promise,約束−筆者)を実現し,現代 的な実行能力を発

          揮しなければならない.

         結局,協同組合運動の未来は協同組合人がその使命(mission)をどう理解し,協

     同組合がその好機をどう見つけだすかにかかっている.

  さらに同『宣言』の最終箇所における次の文言に示されている13

          協同組合の誓約(the co-operative promise,約束−筆者)とは,組合員と地域社

         の現在および長期的な利益のために,経済的・社会的問題を民主的に,かつ責任

         をもって取り扱うことが可能であり,結局必要だということである.それは簡単でも単

         純でもでもないが,最高の代案でありうる.

  すなわち,ここにいう「協同組合の約束」(“The Promise”)が協同組合に与えられた「歴史的使命」であり,それは組合員とその地域社会の利益のために経済的社会的問題に民主的に責任をもって当るということである.

 こうした「使命」という考え方は,新しいICA定款においても,その冒頭に「使命声明」(“MISSION STATEMENT”)として,「国際協同組合同盟は,全世界の協同組合を結びつけ,それを代表し,それに奉仕する独立した非政府組織である.」(“The International Co-operative Alliance is an independent non-governmental association which unites represents and serves co-operatives worldwide.”)と宣言しているところにも現れている14.協同組合は世界(社会,時代,歴史,自然)から与えられたこうした使命の自覚が求められるのである.

すなわち「協同組合の人間観」は,@自己確立,A他者理解,B世界理解の統一として人間を把握し,自己→他者→世界と,自己←他者←世界の相互連関のなかに人間をとらえようとするものである.そしてこのような人間観に立脚することにより,協同組合の組織・事業・経営が行われるのである.

 

(3)相互自助
 

協同組合の哲学における第2の「相互自助」の概念は,前述したように「自助」と他者との「相互扶助」を含んだ概念であり,その相互関係を重視した考え方である.これは国際協同組合運動において長年にわたる中核的概念であった.まずこの点についてふれよう.

1921年のICA10回大会で採択された定款の第1条と第8条は,次のように「相互自助」を位置づけていた15

      第1条 1895年ロンドンで創設された本組織は国際協同組合同盟と称する.

             国際協同組合同盟(ICA)は,ロッチデール先駆者たちの事業を受け継いで,

              完全独立と自力の方法で,現時の競争的な私企業制度を,公共の利益のた

              めに組織され,相互自助に基づく協同組合システムに転換することを追求する.

      第8条  本同盟の会員資格は以下のとおりである.

        (a)協同組合の全国連合会または全国連盟

        (b)協同組合連合会の全国連盟

        (c)協同組合の地域連合会または地域連盟

        (d)協同組合

        (e)全国連合会または全国連盟の加盟する承認された全国補助組織

     第2項(ICA加入組織の種類を規定:筆者注)の協同組合の加入要件は,

         法律上の位置にかかわらず以下のとおりである.

           1 ロッチデール原則,特に以下の点に関して合致する消費組合.

            (a)各自の有する出資額の如何にかかわらず,全組合員の議決権は平等であること.

            (b)出資金に対する制限利子を控除したのちの剰余金は,購買高に比例して組合員に,

                    あるいは共同の積立金に,あるいは教育と連帯の事業への充当に,分配すること.

             2 相互自助に基づいて事業を推進することによって組合員の社会的経済的改善を目的

                 として,ICA定款と各大会の決議によって定められた原則を実際に遵守している,その

                他全ての人々の結合体. (下線筆者)     

この第1条と第8条にICAの目的とロッチデールの基本原則を明確に看取することができる.それによれば,協同組合の目的としての相互自助,そしてロッチデール原則として@議決権平等,A出資利子制限,B剰余金分配(購買高分配または共同積立金または教育と連帯事業)に集約することができる.相互自助の目的と3つの原則である.

  この「相互自助」は,ICA定款の規定であるが,協同組合原則というよりも当時の協同組合の価値あるいは目的として位置づけられる.後にみるようにその後のICA大会で若干の改正がみられるもののICA定款において一貫して堅持されてきた重要な価値・目的である.この「相互自助」は,協同組合原則のなかにはみられないが,ICAおよび協同組合がもつ「相互扶助」と「自助」の両方を含意する協同組合にとって最も重要な価値であり目的であった.

 この点に関して,同第8条を高く評価するG.フォーケは,1934年の第14回大会の原則討議において次のように発言しているところに注意したい16

          一般原理―自助と相互扶助(self-help and mutual aid―すなわち集団的努力と結び付いた

           個人的努力と責任は,バーゼル大会のICA定款の中に明記されたものである.これら二つの原理は,公式の規定すべてに貫徹し,協同組合とは何かを明確にする.これらはその条件でもあり結果でもある.これら二つの原理を無視することは,協同組合を破壊し,その方向性を逸脱させ,名称だけの協同組合と混同させることになる.(下線筆者)     

   ここには,「相互自助」(mutual self-help)が「自助」(self-help)と「相互扶助」(mutual aid)の二つからなる協同組合の一般原理であることが示されている.

  1992年のベーク報告では,協同組合の基本的価値の検討を行った結論として,いくつかの価値の中から最も本質的な価値として,@平等と公正,A自発性と相互自助,B経済的社会的な人間の解放,をあげていた17

そして現行のICA定款においては次のようになっている.

「第1条 名称と所在地」についで「第2条 目的」のa)項に「相互自助と民主主義に基づいて世界協同組合運動を促進すること.」(“to promote the world co-operative movement based upon mutual self-help and democracy”)をあげている18

  このようにICAをはじめとした国際協同組合運動の根幹的位置にあるのが,この「相互自助」である.これは前述の人間観とも関わり,他の組織にはみられない協同組合の独自性を発揮しているのである.ところで現在わが国政府の政策理念となっている「自助と自律の精神」「自立自助」の基本理念はこの「相互自助」と異なるものである19

 

(4)経済の民主主義
 

  協同組合の哲学の第3は「経済の民主主義」である.「経済の民主主義」は民主主義的な経済のあり方が効率的であるというものである.一般に「民主主義」と「経済的効率性」は対立する概念とみなされてきた.「民主主義」は意思決定を遅らせ,変化に対応できない,経済効率のためには「民主主義」は犠牲となる,しかし協同組合であるためには民主主義は不可欠であり,ここに「民主主義」と「効率性」の調和がどのように追求されるかが重要になると.しかしここでは,経済において民主主義が効率的であるという.協同組合において民主主義は「民主的運営」「11票」に集中的に現れるが、これこそが効率的であるというのは,経済の方法・仕組が異なるのである.組合員中心の経済がそこにはある.

 

  以上「協同組合の哲学」,すなわち協同組合の定義・価値・原則の根幹をなすもの,それらの背後にある究極的な考え方として,@「人間の尊厳」,A「相互自助」,B「経済の民主主義」について,そして「協同組合の人間観」について論じてきた.次に協同組合の定義について検討したい.

 

V 協同組合の定義

 

(1)協同組合の定義の意義

 

   第1文書の「声明」で「協同組合の定義」が定式化されたのはICAの歴史上はじめてのことである.定義が定められた意義はどこにあるのであろうか.ICA声明の「背景文書」によれば,今回のICAの定義は,簡潔であること,多様な各種の協同組合に適うように幅広くしているという.あらゆる協同組合に共通する最小限の定義として定式化されたのである.

   そもそも定義とは,そのものの本質を定式化したものであり,それがそのものであるか,それとも似て非なるものであるかの判別を行う基準となる.協同組合にとってこれが意味することには二つある.

  第1に,「協同組合の多様性」という特質にどのような共通の基準を設定するかということである.協同組合はそれぞれ対等な5つの伝統(@消費組合,A労働者生産組合,B信用組合,C農業協同組合,Dサービス協同組合)から発展してきており,それが協同組合運動の優位性の一つである,と第2文書の「背景文書」や第3文書の「宣言」において強調されている.そうであるからこそ,こうした多様性をもった協同組合の定義が最小限必要になったといえよう.そしてこのことは,これまでのICA原則(@1937年原則,A1966年原則)が事実上消費組合中心の原則であったことの反省から生じてきたということができるのである.

   第2に,近年とりわけ1970年代,80年代,世界の協同組合が倒産・一般企業への身売り・事業の後退などの深刻な事態を生起させてきたのは,協同組合運動が「思想上の危機」(レイドロー)に陥り,協同組合運動内部に「異質の価値」(マルコス)が侵入し,「協同組合のアイデンティティ」が不鮮明になってきたからである.したがって,本物の協同組合と偽物の協同組合を分別し,時代に適合した「協同組合のアイデンティティ」を明確にし,協同組合の定義を定式化することが必要になったのである.

 

(2)ICA定義の分析
 

  さて,ICAの「協同組合の定義」は次のように定式化されている20

 

                                 <ICAによる協同組合の定義>

           協同組合は,人びとの自治的な組織(結合体−筆者)であり,自発的に手を結んだ

              人びとが,共同で所有し民主的に管理する事業体をつうじて,自らの共通の経済的,

              社会的,文化的なニーズと願いをかなえることを目的とする.

                                                DEFINITION

          A co-operative is an autonomous association of persons united  voluntarily

     to meet their common economicsocialand cultural needs and aspirations

     through a jointly-owned and democratically-controlled enterprise

 

      このICAの定義を分析的に考察しよう.

  @協同組合は「人びとの結合体」an association of persons)であるとしている.そして,これが本文の骨格をなしているのは英文構成からも容易に知ることができる.

 Aその結合体は自治的なものである.外部の国家や資本によって支配されない.

 B「人びとの結合体」のその「人びと」とは人類や人民一般ではなく,生活し生きている具体的な存在としての複数の人間である.抽象化された人間ではない.

 Cその「人びと」は「経済的,社会的,文化的なニーズと願い」(economic socialand cultural needs  

      and aspirations)をもった具体的で多面的な「総合人」である.

 D協同組合の目的は,こうした人びとの経済的ニーズのみならず,社会的,文化的なニーズおよび人間解放や社会改革などの願いを実現することである.

 E彼らの多面的で総合的ニーズや願いは人びとの共通のものcommon)であるから,それを満たすために(to meet),彼らは自発的に結びつく(united voluntarily)(自発的に協同する).

 F彼らが満たすものは「自らの」(their)ニーズであって,決して「他人の」ニーズではない.またそのニーズは「他人に」販売してそのニーズ以外のもの(例えば利潤,権力など)を満たすためでもない.協同組合は,「他人の」ニーズを満たす「慈善組織」でも「他人に」販売して利潤を追求する「営利企業」でもない.

 G「自らの共通の経済的・社会的・文化的なニーズと願望を満たすために,自発的に結びついた人びと」(united voluntarily to meet their common economicsocialand cultural needs and aspirations persons)の「結合体」,これが協同組合の定義の核心部分である.

 Hどのようにして人びとのニーズや願いを満たすのか.それは,自らのニーズや願いを「事業体」enterprise)をつうじて(through)満たすのである.ここに,各種の協会や労働組合など一般の「結合体」とは違った協同組合の独自性があるのであるが,まさにこの「事業体」はニーズを満たすための手段である.

 Iその「事業体」は,(人びとによって)「共同で所有され民主的に管理される」(jointly-owned and democratically-controlled).協同組合の「事業体」は所有と管理(決定)は分離されず一致している.この「事業体」は「営利企業」などの他の「事業体」に対してこの点で独自性をもっている.

 Jその「事業体」の所有者・管理者(決定者)は自らのニーズと願いを実現しようと結びついた協同組合の利用者である「人びと」である.

  Kその「事業体」は手段とはいえ,人びとのニーズを実現するためには不可欠である.したがって,効率的効果的に組合員に役立つように運営されなければならない.

   以上から,「協同組合とは自らが所有し管理する『事業体』を手段として自らのニーズと願いを実現するための『人びとの結合体』である」というのが,ここでいう協同組合の定義であるということができるであろう. 

 したがって,協同組合の定義において基本となるのは,第1に,核心的な協同組合の本質的規定,つまり「人びとの結合体」かそれとも「事業体」か,両者の関連をどのようにみるのか,である.そのためには,いわゆる協同組合の「二重性」論が吟味されなくてはならない.第2に協同組合の目的についてである.協同組合の目的は,だれのどのような目的であるのか,目的の性格が検討されなければならない.第3に協同組合の組織構造の特質である.協同組合の所有と管理(決定)そして利用が検討されなければならない.そのポイントは協同組合の「三位一体の原理」である.このように,協同組合の定義においては,本質的な規定に基づいた協同組合の目的と構造を確定することが求められるのである.

 

(3)ICA定義の基因

 

  このICAの定義は突然にあらわれたものではない.それはこれまで,協同組合理論や協同組合運動において議論されてきたのであり,その定式化にあたって参考にされた定義があるはずである.

   ICAの定義に深い関連があるのは,おそらくシャルル・ジードの定義ILOの定義の二つであろう.

   ジードの定義は,『レイドロー報告』の中で最も満足のいく,役に立つ定義として高く評価されたものである.それは次のとおりである21

 

                                     <シャルル・ジードの定義>

      協同組合は,事業経営を手段として,共通の経済的,社会的および 教育目的を

      追求する人びとの集まりである.

        A co-operative is a grouping of persons pursuing common economic social

   and educational aims by means of a business enterprise

 

   ここでは,協同組合の定義が「人びとの集まり」(a grouping of persons)とされ,「事業経営」(business enterprise)を「手段として」(by means of),「共通の経済的,社会的および教育目的」(common economic social and educational aims)を追求することであると規定されている.

 つまり,@協同組合を「人びとの集まり」すなわち「人びとの結合体」であるとし,「事業体」を手段として位置付けたこと,A協同組合の目的の性格は,その共通性と総合性にあること,という点で,ジードの定義は今回のICAの定義と基本的に合致しているのは明らかである.しかし,協同組合の「事業体」がどういうものであるかについては,ここにはふれられていない.なお,“a grouping of persons”が“an association of persons”と同じ意味であることは後にもみるとおりである.

   次にILOの定義をみてみよう.それは,1966年ILO勧告No127パラグラフ12(1)(a)で定式化されたもので,H.H.ミュンクナーが高く評価している定義である.それは次のとおりである22

 

                                       <ILOにおける定義>

       協同組合とは,必要な資本を公正に拠出し,組合員の積極的参加による事業のリス

        クと利便を公正に配分する民主的に管理された組織を形成することを通して,共通の

        目的を達成するために,自発的に結び付いた人びとの結合体である.

      “A co-operativeis an association of persons who have voluntarily jointed together

       to achieve a common end through the formation of a democratically-controlled

      organization making equitable contribution to the capital requiredand accepting

      a fair share of the risks and benefits of the undertaking in which the members actively

      participate

 

   ここでは,協同組合は「共通の目的を達成するために,自発的に結び付いた」(voluntarily jointed together to achieve a common end)人たちによる「人びとの結合体」(an association of persons)であり,その共通の目的を達成するために,事業(undertaking)の「組織」(organization)を形成する.その「組織」は「必要な資本を公正に拠出し,組合員の積極的参加による事業のリスクと利便を公正に配分する」(making equitable contribution to the capital required and accepting a fair share of the risks and benefits of the undertaking in which the members actively participate)もので,「民主的に管理された」( democratically-controlled)組織である,と定式化されている.

  つまり,@「結合体」という本質的な規定,事業の組織(事業体)の手段といった位置付け,A協同組合の目的の共通性,B事業体は組合員が出資し参加し民主的に管理される,という3点で,ICAの定義と基本的に合致する.これは,ICA定義よりも「事業の組織」についてはより具体的に規定されているが,しかし協同組合の目的の内容とその総合性ついてはふれられていない.

 以上のようにみてくると,ICAの定義は,一方でジードの定義に欠如している組織構造的特質とりわけ「事業体」のあり方を補うこと,他方でILOの定義に欠如している協同組合の目的の内容と性格(総合性)を補うこと,によって成り立っている.つまり,このILOの定義にジードの定義における目的の総合性を補い,ILOの定義における「事業の組織」の内容を整備することによって,あるいは,ジードの定義にILOの定義における「事業の組織」を整備して補うことによって,ICAの定義は成立することになるのである.それゆえ,ジードの定義とILOの定義をともに継承・整理・発展させたのが,今回のICAの「協同組合の定義」であるということができるのである.

 ところで,20016月のILO総会において,1966年のILO127号勧告が見直され,「協同組合の促進」に関する新勧告案が提出された.同勧告案は1年間の検討の上,20026月のILO総会で採択に付されるが,それによれば,ILOによる協同組合の定義が修正されている.その点を付記しておきたい23

 

ILO新勧告案における定義〉

       「協同組合」とは共同に所有される事業の設立を通じて経済的,社会的及び文化的な

            ニーズと目標(願い−筆者)を達成するために,必要資金を公平に拠出し,リスク

            と利益を公平に分配し,かつ民主的な運営に積極的に参加する,任意(自発的−筆者)

           に集まった人々の自治的協会(結合体−筆者)をいう.

           Term “cooperative” means an autonomous association of persons who voluntarily join

           together to meet their economic social and cultural needs and aspirations through the

           formation of a jointly owned enterprise making equitable contributions to the capital

           required accepting a fair share of the risks and benefits and participating actively

           in its democratic management

 

 この新勧告案の新ILOの定義は,「自治」と目的に関わる「ニーズ」についてICAの定義が取り入れられ,その上で1966ILO定義の enterprise の特質を引き継いでより厳密な規定をしている.協同組合のメンバーシップ性や参加性が強調されており,ICA定義より優れているということもできる24

 

(4)ICA定義の3要素

 

   ICAの定義は,3つの要素から成り立っている.

   第1の重要な要素は「アソシエイション」である.協同組合の本質・協同組合の定義を明らかにするものはこの「アソシエイション」である.協同組合を「アソシエイション」であるという場合,そこには人びとの共通目的の実現をはかる自発的な共同活動が含意されている.そしてまた,このことが重要なのであるが,「アソシエイション」ではその構成員(協同組合では組合員)と「アソシエイション」とが分離・対立するのではなく,構成員によって規定されるということが重要である.

  この点についてレイドローは,1980年の『レイドロー報告』「第V章 協同組合−理論と実践」の「1 協同組合の本質」の箇所で次のように述べている25

    

       あらゆる協同組合に存在する共通の概念は,社会的に見て望ましく,また(同時に−筆者)

   すべての参加者に利益(beneficial)を与える(になる−筆者)ようなサーヴィスや経済的取決め

   を確保するために,民主主義と自助を基礎として共同行動に参加した人びとの集まり

   a group of people)ということである.

     この「人びとの集まり」(a group of people)は「人びとの結合体」(an association of persons)と同義であることは後述のミュンクナーの用例でも明らかである.

 さらにレイドローは,協同組合は「アソシエイションの概念」に基づくと指摘する26

 

       法律上の要件と法人(corporation)という組織構造も,基本的には法人よりもずっと結社

    (結合体−筆者)(association)に近い協同組合の真の性格をゆがめるかも知れない.言い

   換えれば,協同組合は法的には法人として設立されるが,その実践が結社(結合体

   −筆者)(association)の概念にもとづいている時に真の性格を見出すことができる.通常の

   法人は,その権力基盤から離れて存在し,活動しうるが,協同組合は組合員である人び

   との集団(a body of people)から離れて存在しえない.

 

   このように,協同組合は「人びとの結合体」=「アソシエイション」であって,それは構成員から離れて存在しえない,自発的な共同の結合体である.そして,「事業体」は,そのアソシエイションの,つまり,組合員の目的を実現するために設立・運営されるのである.

   第2の要素は,協同組合の目的についてである.

  ニーズの内容は「経済的,社会的,文化的なニーズ」であり,けっして経済的ニーズに限定されない.「経済目的と社会目的」の実現を協同組合の目的としたレイドローが提起した「二重の目的」dual purpose)の真意を想起したい27

人びとのニーズはけっして経済的なものだけではなく,健康・医療・福祉・人間関係などの社会的なものであり,教育・教養など文化的なもの,総合的なものである.そもそも人間は多面的な「総合人」であるのだから,このことは当然すぎるのであるが,近現代の工業社会では片寄った人間観(「経済人」あるいは「管理人」)に寄り掛かりすぎてきたのである.協同組合の「ニーズ論」を考える場合,こうした「総合人」としての総体としての人間観に立脚することが重要であり,先の協同組合の人間観で述べたところである.

第3の要素は協同組合の組織構造についてである.協同組合の本質論,「二重性」論をめぐる問題は,項を改めて詳述する.ある意味で協同組合の組織構造の問題であるが,ここでの組織構造とは,目的との関連での組織構造であることに留意したい.

    ICAの定義でこれに直接関連した部分は,"jointly-owned and democratically-controlled”(「共同で所有され民主的に管理される」)と規定されているところである.これはいわゆる「三位一体」そのものではないが,"to meet their common needs and aspirations”(「自らの共通の〜ニーズと願いを満たすために」)にあるように「自らの」ニーズと願望を実現するということは組合員の直接利用ということであるから,全体としてみるとこの定義は「三位一体の原理」を追求しているということができるのである.

  この点について,今回の第2文書「背景文書」では,「所有と民主的管理という二つの特徴」として説明されている28が,これだけでは資本企業や政府企業と区別されるものではないであろう.協同組合の独自性は,利用が組合員によって行われるところにあるからである.「宣言」では,所有者(ただし参加者,決定者としての),利用者,出資者の3つの側面が「組合員組織の強み」として強調されている29とおりである.

    ミュンクナーは「三位一体」を協同組合の独自的組織構造として強調する30.「協同組合の組合員は共同企業の共同所有者であり,共同経営者であり,顧客である.」営利企業や非営利企業では,資本所有者と意思決定者の一致,あるいは意思決定者と顧客の一致がありえるが,資本所有者と意思決定者と顧客(または労働)の三者が一致するのは協同組合だけである.公益的非営利組織もこの三者の同一性はないと.そういう意味で「三位一体」は協同組合の本質的組織構造をなすものである. 

 

(5)組織構造の二重性

 

    以上「協同組合の定義」を検討・吟味してきた.

  それによれば,そこには,協同組合の@本質規定A目的B組織構造が示されている.協同組合は第一義的にアソシエイションである.これには人間的側面,社会的側面が体現されている.そして「協同組合の二重性」の一つとされている「事業体」がそのアソシエイションの目的実現の手段として存在するところに協同組合の独自性がある,ということができる.いわゆる二重性論は,二元的・並立的に理解されるのではなく,人間の結合という決定的要素を明確にして立体的にとらえるべきである.それはもはや語の意味での「二重性」とはいえない.

  そして,その「事業体」が実現する協同組合の目的とは,人びとの経済的・社会的・文化的ニーズという総合的人間観に立脚した総合的多面的なものであり,より高い願いをもあわせ持っている.しかもその「事業体」は三位一体の原理に基づいている.つまり,協同組合の「事業体」の特質は,@「事業体」の手段性とA「事業体」自体の独自な目的と構造の2点に求められる.協同組合の「事業体」はそれ自体独自の特質をもつということに留意を払う必要があるのである.

   協同組合の「事業体」が手段であるとしても,それは不可欠なものであって,それを欠いては協同組合の独自性が失われてしまう.「事業体」の強化・発展が重要な課題となるのである.

  ところが,「手段の目的化」「手段の自立化」が進んだ場合,やはり協同組合の独自性が失われる.近年の協同組合をめぐる問題状況はこうした傾向の現れである.そこで,どのように協同組合の構造が推移していくかみておきたい.それは次のように図示される【図表1】

【図表1】

 

 

   協同組合の本源的形態である「立体的・統合的構造」(第T形態)は,「二重構造の端緒的構造」(第U形態)を経て,「二元的・並立的構造」(第V形態)「事業主導的・統合構造」(第W形態)のいずれかに分化する.この二つの形態の「二重構造」はいずれも「事業体」だけの「一元的構造」(第X形態−これは図示できなかったが)に移行する可能性をもつ.この「一元的構造」は協同組合にとっては最悪の状況であり,その現実性は困難であろう.なぜならば,「事業体」のみの構造の典型である営利企業でさえ,今日では手段としてであれ,内に「結合体」を含む「事業体」に推移してきているのであり,上記の「事業体主導的・統合的構造」に類似してきているからである.もし,協同組合がこの「一元的構造」に転換することは,それこそ最悪の「事業体」が形成されることになる.

   こうした危険性は,端緒的には上記の「事業体の自立化傾向」を内包した第U形態の「二重構造の端緒形態」に発芽する.この段階の問題の所在を検討することが重要な意味をもつのであるが,ここではその点に立ち入る余裕はない.しかし次のことだけは指摘しておきたい.この段階では,問題はまだ顕在化していないが,@「結合体」を優先する方向とA「事業体」を優先する方向と,そしてB両者を等量に重視する「中間的折衷的方向」の三者の分離対立が共存する.しかしこのBの方向性は,事業体自立化傾向の中では,「二元的・並立的構造」に転化するか,「結合体」を手段としそれを「事業体」の支配下におく「事業体主導的・統合構造」に移行する.後者の場合は,協同組合の本源的形態の転倒した形態となる.

  この「二元的・並立的構造」と「事業体主導的・統合構造」とは,まさに今日の世界の協同組合そして日本の協同組合の問題状況をあらわしているのである.その解決方向はなにか.それは,いま再び「事業体」は「結合体」=「アソシエイション」=組合員に規定される存在に立ち返る必要があろう.このことが新協同組合原則(とくに価値と原則)の主要な意義でもあり,まさに定義の趣旨と合致している.「協同組合の定義」はその意味で理論面ばかりでなく実際面においても重要な役割を演ずると思われる.

 

W 協同組合の特質:「二重性」

 

  これまで「協同組合の哲学」における「相互自助」の概念(自助と相互扶助の「二重性」),協同組合の定義における「二重の目的」「組織構造の二重性」として「協同組合の二重性」にしばしば言及してきた.いまここで「協同組合の二重性」について整理し,立ち入った検討を行っていきたい。なぜなら,この「協同組合の二重性」が協同組合の特質を如実にあらわしているからであり,またこの「二重性」の理解が必ずしも一律ではないからである。

 

(1)「協同組合の二重性」論の展開

 

  協同組合を「二重性」で捉えることはかなり行われている.わが国においても代表的な協同組合理論では協同組合を二重性で把握されている31

  協同組合の二重性を最初に本格的に論じたものはG.フォーケであった.フォーケは,協同組合の本質について,それは独自の方法をとる「民衆のアソシエイション(人びとの結合体−筆者)」(people's association)である,とする.その独自性は「事業体」によって人びとの目的を追求することにある.つまり筆者の用語によれば,「事業体」という方法で目的を実現する「結合体」であるとするのである.フォーケは次のようにいう32

 

          協同組合組織における特色は,二つの結合した要素(two conjoined elements)−

      社会的なもの(one social)と経済的なもの(the other economic)との間で形成される

      といわねばならぬ.

           (1) 自らの欲求について,共通性を認め,個人的方法よりも共同事業によってよりよく

               充足できる可能性を認識し,将来もそれを続ける人々の協同組織(結合体−筆者)

               an association of persons)であること.

    (2) 充足されるべき要素とぴったり対応する対象を持つ共同の事業体(a common

            undertaking)であること.

        協同組合のこの二つの性格(double character)が,協同組織(結合体−筆者)

     (association)のメンバー相互の社会的関係(social relations)と,事業的行動

           (undertaking)に関する相互の経済的関係(economic relations)を規定する組織

           の社会的ルール(the society's rules of organization−ここの訳は「組織に関する

           組合規則」とすべきである−筆者)の原点を提示する.

        集合する単位集団の個人的あるいは家族的性格によって協同組合的協同組織

           (結合体−筆者)(co-operative association)は,資本の非人格的集合体

           (an impersonal grouping of capital)ではなく,言葉の最高の意味での人間の結合体

           (an association of persons)である.・・・ 協同組合的事業体(co-operative undertaking

           は,組織された組合員の欲求を充足する目的(供給,販売機能,労働等)のために設

           立され,運営される.

 

      このようにフォーケは,協同組合が「人々の結合体」であることと「共同事業体」の「二重性」(double character)をもつことを強調した.ここに明確な協同組合の「二重性」論をみることができる.

  ここでのフォーケの強調点は,「協同組合とは,事業体という独自の方法で,共通利益の実現,防衛,精神的効用,解放を実現する人的結合体である」としているところにあるのは間違いのないところであろう.この「事業体」によって目的を実現するということが一般の「結合体」と違った協同組合の独自性なのであるが,協同組合が「結合体」であるのは間違いのないところである.そしてここでは協同組合の組織原則が「結合体」と「事業体」の両方に関連しているのであり,決して「結合体」だけに関わっているとはみなしていない.組織=「結合体」/目的あるいは機能=「事業体」という観点ではないのである.そういう意味でフォーケの「二重性」論は組織と機能を分離するような二元論ではないのである.フォーケの「二重性」論は語の意味の二重性というよりも「立体的・統合的構造」論というべきものである.

筆者の管見した限りでは,フォーケのこの「二重性」論はその最初のものである.

ドイツの協同組合学界では,協同組合の「二重性」についていち早く指摘し,この「二重性」でもって協同組合を「特殊な企業形態」としたのは,G・ドラハイムの著書(Die Genossenschaft als Unternehmungstyp Gottingen 1952.)であるとされている33.わが国の協同組合理論もこの影響を強く受けているものと思われる.

  それによればドラハイムは次のように主張する.つまり,協同組合は,一方で,社会学,社会心理学的な意味において,結合体(association),集団(group)であり,その組合員は,協同組合を所有し管理するものであるが,他方で,組合員の個別経済(家計,個人農家や事業)の共同事業企業(jointly undertaken enterprise)であり,その協同組合事業体(enterprise)の所有者は協同組合結合体(group 集団)の個々の組合員である,と34.このドラハイムの「二重性」論は,語の意味での「二重構造」的な「二重性」であり,本稿にいう「二元的・並立的構造」とでもいえよう.

  ところでフォーケはドラハイムのそれよりも早く協同組合の「二重性」に注視していたのであるが,フォーケの「二重性」論は,ドラハイムの「二重性」論とは異にして,「立体的・統合的構造」とでもいえるものであったことに留意しておきたい.同じ「二重性」でも異なっているのである.

次に,協同組合の「二重性」を強調するミュンクナーの見解をみてみよう.ミュンクナーはICAの基本的価値論議においても今回の協同組合原則の改訂においてもアドバイザーとして活躍したドイツの協同組合法学者であり,新協同組合原則の作成においても重要な役割を果たした.氏は次のようにのべている35

 

       協同組合の基本的組織構造は,社会的経済的実在として人的結合(a group of

       persons)(association)と企業(enterprise)というその二重性(double nature)によって

       決定される.それは,さらに組合員増進という特別な協同組合目的によって決定される.

      協同組合法を立案するとき立法者が抱える困難のほとんどは,結合体(group)と企業

       (enterprise)という協同組合の二つの異なった要素をお互いに調和させる必要から生じ

       るし,この組織に組織の二重性(double nature)によって規定される要件を一致させるこ

       とだけでなく最も効果的な方法で組合員増進を可能にする形式を与える必要から生じる.

      協同組合の組織構造に関するルールを定式化する場合,次のような本質的特徴が考

      慮に入れられなければならない.

    ・協同組合は,少なくとも一つの共通の経済利益と可変的組合員制度をもった人々の

          結合体(a group of persons)である.

    ・その結合体の基本目的(aim)とその結合体の各組合員個人の目的は,相互援助に

         もとづいた共同行動によって共通のニーズ(common needs)を充足させることである.

        ・この目的を達成する手段(means)は,共同の企業(a common enterprise

       (協同組合企業)(co-operative enterprise)を設立することである.

この企業の主要な事業目的(object)は,その結合体(group)の組合員の経済的地位

  の増進(いっそう正確にいえば,組合員の企業または家計の経済的地位の向上)の

  ために貢献することである.

 

また別のミュンクナーの論稿をみてみよう36

 

      この(協同組合の−筆者)構造とは,協同組合は人々の結合体(an association of

     persons)であると同時に,共同で運営される企業(jointly operated enterprise)であり,

     その結合体の組合員は同時に共同企業の共同所有者であり,共同経営者であり,

     顧客であり(同一性の原則),その企業は組合員の経済的利益の増進を目的とするもの

     である(=組合員の利益増進,自助および相互扶助の原則).・・・協同組合の特徴は,

     その二重性(dual nature)である.すなわち社会的単位(social entity)(組織された人々の

     集団(group of persons))であるとともに,必要なものでありながら個々人では同等に有利

     な条件では入手できないかまたは全く入手できない,財貨やサービスを入手する手段

     means)として,組合員によって利用される経済的単位(economic unit)(共同で資金を調達

      し,管理しコントロールされる企業)(entenprise)である.

 

 また次のようにのべている.

 

      真に協同組合の本質を決定する特質は4つある.(1)個人の結合体(an association

    of person)(協同組合集団)(co-operative group)で自らの共同事業(joint enterprise

   (協同組合企業)(co-operative enterprise)を経営するという,二重構造(dual structure).

   (2)資本の所有者と意思決定者と顧客または労働者が一致していること.すなわち,

   協同組合結合体の組合員は同時に協同組合事業体の所有者であり顧客/労働者である.

   (3)協同組合事業体の組合員に対するサービス志向.(4)資本の役割を強調しないこと.

 

  ここでミュンクナーにあっては,"group”と"association”が同義として用いられていること,基本目的としての“aim”と具体的な事業目的としての“object”とを区別し,基本目的は結合体の目的であり,事業目的は事業体の目的であるとしているところに注目したい.ここで,ミュンクナーは明確に「結合体」と「事業体」の二重性論を展開しそれを強調しているのであるが,しかし,子細にみるならば,「事業体」は組合員のニーズを実現するための手段であると位置付けられている.けっして「結合体」と「事業体」を二元的・並立的にとらえているのではない.また,ミュンクナーも組織=人的結合,機能・目的=事業体といった区分をしないで,協同組合の組織は両方に関わっていることがらとしていることに留意しておきたい.この点で,ミュンクナーの「二重性」論も基本的には,フォーケと同じ「立体的・統合的構造」論とでもいうべきものである.

   さらに,ベークの見解をみておこう.「ベーク報告の」中で,「協同組合の有効性と効率」を論じる場合,「経済と思想」(economy and ideology)をどのように統合するかという問題で,2つの伝統的な考えがあったと次のようにのべる37

  1つの考えは,「協同組合組織は『二重の性格』("dual character”)をもっているという考え方に基づいている.つまり,人々による社会的な結社(結合体−筆者)(a social association of persons)であると同時に,こうした結社(結合体−筆者)による経済的な手段(the economic instruments of that association)であるというものである.」

  2つめの考えは,「こうした二重性(dual character)の存在を否定し,協同組合組織の統一的な性格(unity character)を強調するものである.結社(結合体−筆者)とその経済的手段(an association and its economic instruments)という区別は基本的にはつくられたものにすぎない.」というものである.

 第3のアプローチは,「組合員および組合員の代表に対して権限を保証する必要性を強調するものである.」

  ベークはさらに,この問題の実際的な経験について言及する.

  1つは,「2つを独立してあつかい,ほとんど2つの平行する組織があるかのような運営の仕方を選んでいる.」2つには「同じ機構のなかで2つの問題を扱うことを選択した.」この両者の良否についてはいちがいに判別できない.二重化によってそれぞれの分化と対立,思想的側面の後退,そして結局経済的機能による統合になってしまうという問題点を生むことになる.また統合化は経済的側面による民主主義や思想のコントロールが生じる危険もある.いずれにしても,極端な二重性の追求ではなく,民主主義と思想面を意識的に適度の独立性をもって追求し,組織の主要面は統合されながらもあまりにも一元的な方法は避けて,健全な「弁証法」を生かすべきである,とベークは総括する.

    このベークの説明は,二重性論統合論のそれぞれの長短を認識し,基本的な統合を基調とした適度の二重性を追求するものとなっていると読むことができる.しかし,これは主として連合会や中央会,さらに大規模組合を念頭に置いた所論でもある.したがって二重性論が,ベークにあっては二重の組織,二重の連合会,二重の役職員に分化し,結局は経済に統合化されることに懸念を抱いているのである.もちろん統合化も,意識的独自的な思想面の追求を軽視したならば,「経済的現実主義」に従属され経済に統合化される危険がある.問題は,いずれも経済が支配的なものになるということである.

    「二重性」か「統合化」かという議論は抽象的で無意味であるとしてその実態を問題にするベークにおいては,1つめの二重性の問題は「二元的・並立的構造」を示し,2つめの統合化の問題は「事業体主導の統合的構造」を表しているということができる.

  重要なのは,「二重性」か「統合化」ではなく,民主主義や思想が基本となった仕組みを形成することであり,「人々の結合体」を基本とし組合員を中心とした協同組合全体のあり方を追求すべきことなのである.これがベークが指摘した「二重性」論でもない「統合化」論でもない,「組合員コントロール」を保証するという第3のアプローチというものである.ベークが示唆しているものは,二元的・並立的な二重性論ではなく,一元的な(結局は事業体主導になる)統合論でもなく,組合員つまりアソシエイションを中心とした立体的な構造が構築されなければならないということである.そうであるならば,ベークの真意は,フォーケ,ミュンクナーらの見解に連なる「立体的・統合的構造」を主張しているということができるであろう.

  以上の検討からいえることは,フォーケ,ミュンクナーのいわゆる「二重性」論は,語の意味での「二重構造」ではなく,「結合体」(アソシエ,イション)と「事業体」(エンタープライズ)の「立体的・統合的構造」をいうものである.そしてこの立場はICA新原則の「協同組合の定義」にも合致するものである.

 

(2)「協同組合の二重性」

 

協同組合の二重性とはこのように2つの立場があるようであるが,いま改めて整理しよう.協同組合の二重性という場合,それはつぎの6つの二重性がある.

@     組合員の二重性

A     目的の二重性

B     組織の二重性

C     運営原則の二重性

D     資本の二重性

E     所有の二重性

@ 「組合員の二重性」とは,構成員としての組合員が利用者であるという特質である.この場合構成員とは,協同組合の主体者であり,決定者である.それは出資組合では出資者でもあるが出資者が出資者としての資格で構成員になるとは限らない.構成員として認められた場合に組合員となるのであって,出資条件はひとつの条件にすぎない.そうした構成員が協同組合の利用者であるというのがここでの二重性である.利用者とは協同組合の諸機能を利用して便益をえるのであり,購買機能,販売機能,金融機能,労働機能などである.協同組合の直接利用によって利益を享受する.組合員の二重性というばあい,構成員と利用者の一致をあらわし,二重性といっても2つの要素の一体性が重要である.組合員の二重性とは,「構成員」が「利用者」であるという二重性であり,いわば「一体的二重性」である38

A  「目的の二重性」は,すでに述べたように協同組合の目的が「経済目的」「社会目的」の二重性のことをさす.この二重性は人間観および協同組合の定義でふれたように人間の総体的把握に由来する,「総体的二重性」である.

B 「組織の二重性」とは,すでに詳述したが「結合体」「事業体」の二重性,「社会組織」「経済組織」の二重性のことであり,いわば「立体的二重性」であった.

C 「原則の二重性」とは,平等原則と公正原則である.協同組合ではこの2つの原則が貫徹している.平等原則は,人格的平等のことであり,身分・宗教・富裕にかかわらず,すべての人を対等に処する.協同組合原則の公開的組合員制度の原則,民主的運営―1人1票―の原則がその反映したものであり,協同組合の社会組織としての特性に基づいている.公正原則は,貢献度に応じた評価であり,出資額に基づくものではない.協同組合原則では「利用高分配」がその反映したものであり,協同組合の経済組織としての特性を反映している.この原則の二重性は,「平等原理」と「公正原理」の二重性であり,組織構造の二重性に由来し,「立体的二重性」である39

D  「資本の二重性」とは,「出資金」「積立金」の資本構成の二重性であり,「相互補完的二重性」である40

     E 「所有の二重性」とは,「個人所有」「共同所有」の二重性のことであり,出資金および積立金のうち

          個人持分部分が「個人所有」で,積立金のうち「不分割積立金」は「共同所有」である.協同組合はこ

          うした二つの所有形態が相互補完的に存在している.

 いまこれら二重性について整理しその特徴を示したのが【図表2である.

              

【図表2】協同組合の二重性の特質

 

 

 

 

 

基本要素

展開要素

  特   徴

@組合員

構成員

利用者

一体性

A目 的

社会目的

経済目的

総体性

B組 織

結合体

事業体

立体的相補性

C原 則

平等原則

公正原則

立体的相補性

D資 本

出資金  

積立金

相補性

E所 有

個人所有  

共同所有

相補性

 

 このように「協同組合の二重性」の特徴は一体性・総体性・(立体的)相補性の別表現である.それぞれの二重性にはその特徴に幾分の違いがあり,単純に2つのものの結合とか,平面的並列的に存在しているとはいえない.それらの特徴を把握した上で,「協同組合の二重性」の観点で協同組合をみるとよく説明することができる.

なお上記の図表では,組合員の一体性を基礎に,目的=組織=原則の「二重性」が相互に深く関わっていることにも留意したい.すなわち,〔基本要素〕社会目的=結合体=平等原則,〔展開要素〕利用者=経済目的=公正原則である.

 

おわりに

 

 以上協同組合の基礎概念を把握するため,協同組合の哲学,協同組合の人間観,協同組合の定義,協同組合の特質=「協同組合の二重性」について検討してきた.協同組合をその総体として把握する試みであったが,しかしそれは協同組合自体を内在的に把握することに主眼をおいたため,協同組合が存在する資本主義体制,私企業制度との関わりは検討外であった.

社会経済総体と協同組合との関連,地域経済の中での協同組合の位置等協同組合の外部環境との関わりがその後の検討課題であるが,その前提としてまず協同組合の基礎概念,協同組合の特質が把握されておかなければならないのである.本稿はそのための試論である。

 

  

 

 

 

【注】

       1) 近藤理論を代表するものは,近藤康男『協同組合原論』(高陽書院,1934)および『協同組合の理論』(お茶

   の水書房,1962)であり,そこで協同組合の本質として「資本主義埒内での流通過程合理化組織」(前著),

     「商業資本の 特 殊な企業形態」(後著)と定式化された.これは協同組合の機能的なしかも経済機能に限

   定された把握であり,協 同組合の組織的なしかも非経済的機能の把握は排除されている.その結果,協

   同組合論としては内在的主体的検討を欠いた客観的協同組合論となっている.こうした近藤理論の成果

   と問題点については,拙著『協同組合資本学の研究』(日本経済評論社,1989年)第1部第1章参照.

          2)ICA声明」=「21世紀の協同組合原則」に関連して3つの基本文書が提出されている.

      @「協同組合のアイデンティティに関する声明」(The International Co-operative Alliance Statement on the

       Co-operative Identity 以下略記する場合「声明」とする.)

       A「協同組合アイデンティティに関する声明の背景文書」(Background Paper on The ICA Statement on the

       Co-operative Identity 以下略記する場合「背景文書」とする.)

      B「21世紀に向けての宣言:協同組合の過去,現在,未来」(Declaration towards the 21th  Century:

       Co-operatives YesterdayToday and Tomorrow 以下略記する場合「宣言」とする.)

        これらの英文は,DrIan MacphersonCo-operative Principles for the 21st CenturyStudies and Reports

           No26 ICADecember 1995.に収められている.

      その邦訳には次のものがある.

       @藤澤光治訳注『21世紀の協同組合原則』(全国協同出版,1995年)

      A日本生活協同組合連合会企画編集『21世紀を拓く新しい協同組合原則』(コープ出版,19961月)

           B全国農協中央会訳編『21世紀の協同組合原則』(同会,1996)

     C日本協同組合学会訳編『21世紀の協同組合原則』(日本経済評論社,2000年)

               以下本稿での引用は日本協同組合学会訳を使用するが,英文に照らし訳出上の注記を付していく.

3)協同組合原則の三段階発展について,拙稿「第三段階のICA(国際協同組合同盟)原則−その系譜と定

     義・価値 ・原則の検討−」山梨学院大学社会科学研究所『社会科学研究』第20号,199612月,参照.

4)協同組合原則と協同組合法の関連について,以下の拙稿参照.

     ・「国際協同組合原則と独占禁止法−原則・組合法・独禁法の相互関係−」

        山梨学院大学『経営情報学論集』第4号,1998年2月

      ・「米国対日占領政策の展開と協同組合−独禁法の成立・協同組合原則の導入と農協法成立−」中央協

              同組合学園『農協基礎研究』第18号,1998年9月

           ・「独占禁止法適用除外制度の成立過程」山梨学院大学『経営情報学論集』第5号,1999年2月

     ・「欧米諸国の労働者協同組合法制」『協同の発見』第89号,19999

           ・「協同組合の独占禁止法適用除外制度」経営行動研究学会『経営行動研究年報』2000年5月

               ・「独占禁止法の適用除外制度成立に関する資料」山梨学院大学『経営情報論集』第6号,2000年1月 

     また,ICAILO・国連等国際機関との関連について,次の拙稿参照.

              ・「国際協同組合運動の現代的課題と協同組合法制の基本問題」日本協同組合学会『協同組合研究』第20

                 第3号,通巻53号,20013

)1966年原則を批判的に検討している文献に以下のものがある.

          Maurice ColombainFrom the Rochdale Rules to the Principles of Co-operationCo-operative Information

            3/1976ILO. 邦訳「ロッチデールの規則から協同の原則へ」協同組合経営研究所『研究月報』No330

            19813月)

         ・Hans-HMunknerCo-operative Principles and Co-operative Law1974

        邦訳:H.ミュンクナー著/石塚秀雄・堀越芳昭(訳・解説) 『ハンス・H・ミュンクナーにみる現代ドイツの協

     同組合理論』生協総合研究所『生協総研レポート』No1119955

     Alex LaidlawCo-operatives in the Year 2000ICA1980

            日本協同組合学会訳『西暦2000年における協同組合』日本経済評論社,1989年)

          ・JG.クレイグ/SK.サクセナ,栗本昭訳「協同組合原則の批判的検 討」

 日本労働者福祉研究『労働者福祉研究』26号,19852

   William PWatkinsCo-operative Principles:Today and Tomorrow1986

            協同組合経営研究所監訳『協同組合原則をどう生かすか』家の光協会,1987

          Lars MarcusCo-operatives and Basic Values1988

            JJC(日本協同組合連絡協議会)訳『協同組合とその基本的価値』1988

      ・Hans-HMunkner Co-operative Ideas Principles and Practices1989

                JJC訳『「協同組合と基本的価値」に関するモスクワシンポジウムへの提出論文@』199110

          Sven Ake BookCo-operative Values in a Changing WorldOctober 1992

            JJC訳『変化する世界 協同組合の基本的価値』19927

            日生協/生協総研訳『変化する世界における協同組合の価値』コープ出版,1993

6)ICA新原則の問題点と解決方向について,注3)と次の拙稿を参照.

        ・「協同組合原則と資本形成の原則−その総括と一つの提案−」『新原則時代の協同組合』家の光協会,

      1996年.

7)Opcit.,DrIan Macpherson p6

    前掲,日本協同組合学会訳編『21世紀の協同組合原則』24頁.

  8)Ibid.,DrIan Macphersonp3

        同前,日本協同組合学会訳編『21世紀の協同組合原則』16頁.

    9)Ibid.,DrIan Macphersonpp1314

           同前,日本協同組合学会訳編『21世紀の協同組合原則』3132頁.

      10AH.マズロー著/小口忠彦訳『人間性の心理学 モチベーションとパーソナリティ』産業能率大学出版部,

           1987年参照.

      マズローの自己実現論にはもちろん,本稿における他者理解と世界理解が含意されているが,わが国マネ

           ジメントへの導入においてはそれらがしばしば欠落し,個人主義的・エリート主義的に適用されたことに注意

     したい.

       11「自覚」の人間にとっての根本的意義について,E.F.シュマッハー著/小島慶三・斎藤志郎訳『混迷の時

        代を超えて  人間復興の哲学』佑学社,1980(原著1977)3245頁参照.

             12Opcit.,DrIan Macphersonp48

                  前掲,日本協同組合学会訳編『21世紀の協同組合原則』68頁.

             13Ibid.,DrIan Macphersonp69

                  同前,日本協同組合学会訳編『21世紀の協同組合原則』9293頁.

   14ICAICA RULES1993p5

      15ICAReport of the Proceedings of the Tenth Congress of the International Co-operative Alliance held

           at Basle 22nd to 25th August1921pp7275

           なお,ICA定款に関して次の拙稿参照.

1937ICA原則の成立とICA定款の展開−独占禁止法適用除外要件の根拠−」

       中央協同組合学園『農協基礎研究』第17号,1997年7月.

            16ICAReport of the Proceedings of the Fourteenth Congress of the  International Co-operative Alliance

                 at London 4th to 7th September1934 p167

      17SAベーク著/日本生協連・生協総研訳『変化する世界における協同組合の価値』コープ出版,1993年,

             843185頁.

       SAke BookCO-OPERATIVE VALUES IN A CHANGING WORLDReport to the ICA Congress Tokyo October 1992 Studies and Reports No19p1351206

  18ICAReview of International Co-operation Volume 90No31997p15

  19わが国政府は「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針について」(平成13 年6月

          26閣議決定)において,社会保障や地域経済や地方自治体の改革のための基本理念に「自助と自律の

          精神」をおいた.また経済財政諮問会議は,「規制改革による雇用創出型構造改革の強力な推進を:経済財

          政諮問会議サービス部門における雇用拡大を戦略とする経済の活性化に関する専門調査会【提 言】」(平

          成13119日)におい て, 「小泉構造改革の究極の目標は,キャッチアップの時代に築かれた政府主導の

          経済システムのなかで,歴史の役割を終えて桎梏となり経済活力の発揮をむしろ妨げている公的部分を削

          除し,民間中心の自立自助の市場経済を構築しようというものである.」という根本理念を設けた.

         ここにおける「自助と自律の精神」は個人(自己)という同一レベルにおける二つの概念の結合であり,「自

      立自助」は 自助の同義反復に他ならない.いずれにしても徹底した個人(自己)レベルの概念であり,協同

      組合における「相互自助」とは異にしている.

 20Opcit., Dr Ian Macpherson pp1314

      前掲,日本協同組合学会訳編『21世紀の協同組合原則』3132頁.

 21A..Laidlaw Co-operatives in the Year 2000 ICA CEMAS1987 p33

          A.レイドロー著/日本協同組合学会訳『西暦2000年における協同組合』日本経済評論社,1989年,86頁.

  22Hans-HMunknerPossible ICA Development Strategy for the Next DecadesReview of International

          CooperationVolume85 No11992p82

          なお,ILORecomendation No127Recomendation concerning the Role of Co-operatives in the

          Economic and Social Development of Developing Countriesin:ILOInternational Labour Conventions

          and Recomendations  Volume U 1952-1976Geneva 1996p348         

          同勧告の邦訳は,大谷正夫訳がある(日本協同組合学会「シンポジウム『協同組合の促進』に関するILO

         新勧告 案をめぐって」資料集,2002126日に収録.

    23)ILOReport W()Promotion of Co-operatives2001p6

          邦訳はILO東京支局訳がある(同前,日本協同組合学会資料集に収録.)

    24拙稿「新勧告案の背景と意義・問題点」日本協同組合学会「シンポジウム『協同組合の促進』に関するILO

           新勧 告案をめぐって」要旨集,2002126日,23ページ. 

   25Opcit.,ALaidlawCo-operatives in the Year 2000p32

           前掲,A.レイドロー著/日本協同組合学会訳『西暦2000年における協同組合』84

    26Ibid.,ALaidlawCo-operatives in the Year 2000p33

           同前,A.レイドロー著/日本協同組合学会訳『西暦2000年における協同組合』85頁.

    27Ibid.,ALaidlawCo-operatives in the Year 2000pp3839

           同前,A.レイドロー著/日本協同組合学会訳『西暦2000年における協同組合』99103頁.

    28Opcit.,DrIan Macpherson p12

           前掲,日本協同組合学会訳編『21世紀の協同組合原則』30頁.

    29Ibid.,DrIan Macpherson p51

            同前,日本協同組合学会訳編『21世紀の協同組合原則』7172頁.

    30)Opcit., Hans-HMunkner Possible ICA Development Strategy for the Next Decadesp83909192

    31わが国の代表的な協同組合論である伊東勇夫氏と三輪昌男氏の「二重性」論は次のとおりである.

 《伊東勇夫》

          「協同組合は二つの側面,すなわち主体的には資本主義の矛盾に対する抵抗として形成され,自衛的性格をもちながら,それが組織をつみあげ,上部組織をつくるにしたがって,構成員主体とかい離し,資本のための媒介体として機能するという二重性をもってくる.・・・ 要するに,協同組合は主体的には資本主義への抵抗形態として組織されながらそれ自体,企業体として展開する可能性をもち,また資本主義の媒介体の機能をはたす両側面をもつ矛盾の統一物といわなければならない.」(同『現代日本協同組合論』御茶の水書房,1960年,132~133頁)

       《三輪昌男》

           「協同組合は一面では,一定の商業活動を行いつつ,社会的に利潤を追求し取得する一個の経営体,要す

            るに 資本主義的な商業組織である.協同組合のこの側面は,一括して経営体的側面とよぶこともできる.

             しかし,協同組合は他面では,・・・ 独自性をもった商業組織である.・・・ 協同組合の独自性を一括し,協

            同組合のもっているその側面を,さきの経営体的側面との対比において,組織体的側面とよぶこともで

            きる.・・・ 協同組合は,経営体的側面と組織体的側面という二つの側面−二面性−をもったものであり,

            その統一物としてとらえられることになる.」(同『協同組合の基礎理論』時潮社,1969年,159160頁)

       伊東氏のそれは,大衆組織体的側面と企業体的側面の矛盾の統一物として,三輪氏のそれは組織体的

            側面と経営体的側面の二面性としてとらえられている.

  32GFauquetThe Co-operative Sector1951pp2022.(初出1935年).

      G.フォーケ著/中西啓之・菅伸太郎訳『協同組合セクター論』日本経済評論社,1991年,3132頁.

    33)ドイツの協同組合学界では,協同組合の「二重性」についていち早く指摘し,この「二重性」でもって協同組合

         を「特殊な企業形態」としたのは,G・ドラハイムの著書(Die Genossenschaft als Unternehmungstyp

          Gottingen 1952.であるとされている.(Alfred HanelDual or Double Nature of Co-operativesin

          International Handbook of Co-operative OrganizationEdited by  Dulfer1994pp271273.)

   34Ibid.,Alfred HanelDual or Double Nature of Co-operativespp271273

    35Opcit., Hans-HMunknerCo-operative Principles and Co-operative Lawpp2324.前掲石塚秀雄・

          堀越芳 昭(訳・解説)『ハンス・H・ミュンクナーにみる現代ドイツの協同組合理論』4748頁.

    36Opcit., Hans-HMunkner Possible ICA Development Strategy for the Next Decadesp8392

    37Opcit.,SAke Book CO-OPERATIVE VALUES IN A CHANGING WORLD  p169173

     前掲SA.ベーク著/日本生協連・生協総研訳『変化する世界における協同組合の価値』コープ出版,

          1993年,150154頁.

    38「組合員の二重性」は次のようにフランスの協同組合のリーダーたちが特に強調する特質である.

      ・ブルーノ ローラン(Bruno Roelant)(CECOP開発コーディネーター),

     「ILOの協同組合に関する世界的勧告に対する総括と提案」協同総合研究所『協同の発見』第106号,2001

     4月,59頁.

     ・フランソワ エスパーニュ(Francois Espagne)(フランス労働者協同組合総連合法律専門家・上級アドバイ

           ザー,元同連合専務理事) 「F・エスパーニュ氏からのコメント」(前掲,日本協同組合学会「シンポジウム『協

            同組合の促進』に関するILO新勧告告案をめぐって」資料集,96頁. 

    39M.コロンバン(Maurice Colombain)著・桜井安右衛門訳『協同組合』ILO東京支局,1957年,3637頁.

    40協同組合の資本に関して次の拙著・拙稿を参照.

・『協同組合資本学説の研究』日本経済評論社,1989

・「協同組合における資本特性−価値と資本に関する国際的議論から−」

      日本協同組合学会『協同組合研究』第11巻第1号,199110

       ・「協同組合における『不分割社会的資本』の概念−株式会社と公益組織との比較から−」

           山梨学院大学『経営情報学論集』第1号,1995年2月

    ・単著「各種法人における残余財産の処分と分配−不分割・類似目的処分と出資・株式基準分配−」

            山梨学院大学『社会科学研究』第15号,1995年3月

    ・「協同組合の資本原則の検討」日本経営学会『経営学論集』第65集,千倉書房,1995年9月

・「『不分割積立金』の本質と存在形態」協同総合研究所『協同の発見』1996年1月

 

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                                         《本ページの先頭》 

             はじめに
                T ICA声明の基本的意義
                U 協同組合の哲学
                (1)協同組合の哲学
                     (2)協同組合の人間観
                   (3)相互自助
                (4)経済の民主主義
                V 協同組合の定義
                (1)協同組合の定義の意義
                (2)ICA定義の分析
                (3)ICA定義の基因 
                (4)ICA定義の3要素 
              (5)組織構造の二重性
                W 協同組合の特質:「二重性」
                (1)「協同組合の二重性」論の展開
                (2)「協同組合の二重性」
                おわりに
 

                                            【注

 

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