各種法人における残余財産の処分と分配

          −不分割・類似目的処分と出資・株式基準分配−

                                                                           堀 越 芳 昭

 本稿は、山梨学院大学『社会科学研究』第15号、
平成7(
1995)年3月掲載の同名論文に基づいている。
完成論文としては同誌を参照されたい。

            《目次》
1 はじめに−残余財産の処分と分配の意義
2 公益法人における残余財産の処分

3 営利法人における残余財産の分配
4 「中間法人」における残余財産の処分,処分・分配及び分配
5 日本協同組合における残余財産処分方式の諸事例
6 むすび
 【注】

 

 1 はじめにー残余財産の処分と分配の意義ー

  本稿の課題は,「比較企業論」の立場から,わが国各種法人の解散時における残余財産処理方式を比較検討することにある。ここにいう比較企業論とは,公益法人(公益組織),株式会社(営利組織),協同組合(協同組織)の三者を比較検討することによって,人間社会における社会経済制度(法人制度)の役割と機能,その将来展望を探求することを課題としている。これは法学的にはいわば「比較法人論」であるが,本稿は各種法人の事業体としての役割に照準を合わせて経営学的経済学的な企業論的接近を行う前提として法制的研究を試みたものである。法学については専門外であるため,その認識方法や用法に誤解があるのではないかと危ぐを抱くものであり,誤りがあればご指摘いただきたい。

  さて,各種法人の残余財産処理についてであるが,筆者は法人の財産処分がどうのように行われるか,とりわけ解散時においてそれらの法人がどのような残余財産処理を行うかということにその法人の究極的な目的・根本的な解決方法が示され,組織の本質はそこに凝縮されてあらわれるものと考えている。もちろん,解散以前つまり法人の事業継続時期に法人の剰余金(積立金)がどのように処分あるいは分配されるかということはきわめて重要な検討課題であり,剰余金処分方式と残余財産処理方式は深く関連しているのは確かである。それ故各種法人の特質を解明するには,剰余金処分方式の検討を欠くことはできないが,紙数の制約上,本稿ではその問題は残余財産処理方式の検討との関連で関説的にふれる程度に止めざるを得ず,剰余金処分に関する各種法人の検討は別の機会に譲らざるを得ない。

  さて,本題に入る前に,あらかじめ用語の整理をしておきたい。それは以下に示される。

   このように残余財産処理に2方式があり,本稿では「不分割・類似目的」(1)に処分する場合を残余財産「処分」とし「出資・株式基準」で分配する場合を残余財産「分配」という用語を使用していくことにする。 「処分」とは,私法上,財産の移転・変動,財産の物理的性状的変更,単なる始末をつけること(用例「利益処分」)である(2)が,広義の処分(財産の移転・変動一般)と狭義の処分(残余財産の不分割・類似目的処分)に区別すべきであろう。「処分」と「分配」の上記の用法が日本の法令に適っているのは後にみるとおりである。ただし本稿では行論上「残余財産処理」という用語を使用するが,こうした用法は法令にはなく,「残余財産処分」と「残余財産分配」の両者を包含した一般的便宜的な用語として使用していることを断っておきたい。

   なお本稿は通説に従って,各種法人を公益法人,営利法人,「中間法人」の3つに区分し(3),各種法人の残余財産処理について逐次検討を加えていくことにする(4)

 2 公益法人における残余財産の処分

   まず民法上の公益法人(公益社団,公益財団)や特別法上の公益法人(社会福祉法人,医療法人,学校法人,宗教法人)における残余財産処理からみていこう(5)。民法第72条は民法上の公益法人の残余財産処理の方式を次のように規定している。この規定は,特別法上の公益法人の基準にもなるものである。

  民法第72条〔残余財産の帰属〕

   @解散したる法人の財産は定款又は寄付行為を以て指定したる人に帰属する
     A定款又は寄付行為を以て帰属権利者を指定せず又は之を指定する方法を定めざりしときは理
        事は主務官庁の許可を得てその法人の目的に類似せる目的の為にその財産を処分することを
           但社団法人に在りては総会の決議を経ることを要す。
     B前2項の規定によりて処分せられざる財産は国庫に帰属する

  また,民法第78条では,次のように規定されている。

  民法第78条〔清算人の職務権限〕

     @清算人の職務左の如し
       1 現務の結了
       2 債権の取立及ひ債務の弁済
       3 残余財産の引渡

  ここで注目されるのは,第72条では残余財産の処理に関して「残余財産の帰属」を条文見出しとし,その方法について「処分」という用語を使用し,第78条では「残余財産の引渡」としていることである。すなわち,残余財産の「分配」ではなく,その「帰属」,「処分」及び「引渡」は公益法人独自の用法と考えられる。この用法は特別法上の公益法人においても完全に一致している。後にみるように,医療法人の場合の「残余財産の帰属,処分」(医療法第56条),宗教法人における「残余財産の処分」(宗教法人法第50条)という条文見出しはそのことを示している。また後述するように,営利法人の出資基準による処理方法が全て「残余財産の分配」となっていることからも間違いのないところである。民法上の公益法人や特別法上の公益法人には,「分配」なる方式は存在しないということができるのである。この点前述した用語の整理の妥当性を確認できると思われる。

 こうした用法上の区分が正しいとすれば,不明確な表現をとっている他の法(例えば後述するように「中間法人」とくに生協法,農協法,水協法)の真意は,この用法をもって判断することができるであろう。

 それはともかく,公益法人において残余財産の「処分」とはどのような方法をいうのであろうか。それについて,前述の民法第72条では3つの方法を列記していた。

 @つは定款又は寄付行為に帰属者を規定している場合である。しかし,公益法人は主務官庁の許可によって法人格をえるから,その定款又は寄付行為は主務官庁の許可を要するものとなり,残余財産処理に関しても一定の基準を満たすことが前提となるから,その法人が特定個人を帰属者として任意に規定できるものではない。したがって,民法第72条〔残余財産の帰属〕において最も重要なのは,この第1項ではなく,この第1項をも規制し定款や寄付行為に規定すべき一般的基準があるならば,それこそが本条の本意であるということができるであろう。その基準とは同条第2項の中に含意されているものである。

 つまり,A「主務官庁の許可を得てその法人の目的に類似する目的の為にその財産を処分する」こと,つまり,同種の法人,あるいは類似の目的をもった法人に譲渡するという,この第2項の方式がまさしく公益法人の残余財産処理方式(処分)の一般的な基準なのである。

 そして,Bこれらによって処分できない場合は国庫に帰属されるのである。国庫に帰属されるのは同種の法人や類似目的のために帰属させられない場合の処分方法であるが,しかし国庫に帰属された場合においても類似目的に処分されるのが原則的な方法である(6)。この点で後述するように,学校法人の場合残余財産が国庫に帰属されたとしても,私立学校教育の振興に充てなければならないとしているのは正当である。

 以上みてきたように,公益法人の残余財産処分の基本方式は,民法第72条第2項に含意されている不分割・類似目的処分が一般的基準になっており,第1項の定款・寄付行為規定や,第3項の国庫帰属規定は付随的第二義的規定であるということができるのである。

  次に,特別法上の公益法人である社会福祉法人についてみてみよう。

社会福祉事業法

   第6章社会福祉法人
   第29条〔申請〕
     B第1項第11号(注:定款の解散に関する事項)に掲げる事項中残余財産の帰属すべき者に
            関する規定を設ける場合には, その者は,社会福祉法人その他社会福祉事業を行う者のう
            ち から選定されるようにしなければならない。
   第45条〔残余財産の帰属〕
     @解散した社会福祉法人の残余財産は,合併及び破産の場合を除くほか,所轄庁に対する清
            算結了の届出の時において,定款の定めるところにより,その帰属すべき者に帰属する。
      A前項の規定により処分されない財産は,国庫に帰属する。
     第53条〔準用規定〕
         民法第78条準用

   同法第45条の条文見出しは「残余財産の帰属」であり,それは「処分」されるものである。これは,前述の民法の規定や筆者の用法区分に完全に一致している。また,同法第29条で残余財産の「帰属すべき者」を定款において規定する場合は「社会福祉法人その他社会福祉事業を行う者のうちから選定される」となっているように,先の民法第72条の規定に準拠しているのは明白である。なお,同法第53条の民法第78条準用規定は,以下にみるように,公益法人と同様の残余財産処分を行う法人の共通した準用規定でもあることに留意しておきたい。

  次に,医療法人についてみてみよう。

  医療法第56条〔残余財産の帰属,処分〕

    @解散した医療法人の残余財産は,合併及び破産の場合を除くほか,定款又は寄付行為の定
           めるところにより,その帰属すべき者に帰属する。
    A社団たる医療法人の財産で,前項の規定により処分されないものは,清算人が総社員の同
           意を経,且つ,都道府県知事の認可を受けて,これを処分する。
    B財団たる医療法人の財産で,第1項の規定により処分されないものは,清算人が都道府県知
           事の認可を受けて他の医療事業を行う者にこれを帰属させる。
    C前2項の規定により処分されない財産は,国庫に帰属する。
     第68条〔準用規定〕
       民法第78条,商法第131条準用

   このように,医療法人の場合も,「残余財産の帰属,処分」を条文見出しとし,その処分方法の基本は第3項の「他の医療事業を行う者」に帰属させることにあるのは間違いのないところである。ここにも,民法第72条における残余財産処分の「法人の目的に類似する目的の為」に処分することが一般的な基準になっているのである。なお,同条第68条に民法第78条準用規定があるのは社会福祉事業法の場合と同様である。しかし同条には商法第131条の準用規定もあるが,「分配」を前提としたこの準用規定は医療行為の収益事業としての特殊性に由来するということができるかもしれないが,公益的な医療法人にはなじまないものと思われる。(公益的法人にける商法第131条準用規定は,後述する農協中央会に関する農業協同組合法改正法にもある。)

   他方で,医療法人には剰余金配当の禁止に関して特別の条項をもっており,残余財産処分(不分割・類似目的処分)と併せて公益法人の非営利性の根拠(分配の禁止)が法文で明記されているのは,協同組合法(制限規定)や後述の厚生農業協同組合連合会に関する法令を除いて他の公益的法人には類をみないことに留意しておきたい(7)

  次に学校法人についてみてみよう。

  私立学校法第51条〔残余財産の帰属〕

       @解散した学校法人の残余財産は,合併及び破産の場合を除くほか,所轄庁に対する清算結
          了の届出の時において,寄付行為の定めるところにより,その帰属すべき者に帰属する。
       A前項の規定により処分されない財産は,国庫に帰属する。
       B国は,前項の規定によりここに帰属した財産(金銭を除く。)を私立学校教育の助成の為に,
          学校法人に対して譲与し,又は無償で貸し付けるものとする。ただし,国は,これに代えて,当
          該財産の価額に相当する金額を補助金として支出することができる。
       C前項の助成については,私立学校振興助成法(昭和50年法律61号)第11条から第13条までの
          規定の適用があるものとする。      
       D第2項の規定により国庫に帰属した財産(金銭を除く。)は,文部大臣の所管とし,第3項本人
          の処分は,文部大臣が行う。ただし,当該財産につき同項ただし書きの処置がとられた場合
          には,当該財産を大蔵大臣に引き継がれなければならない。
     第58条〔準用規定〕
         民法第78条準用

   このように,学校法人の場合も「帰属」「処分」とし,その方法はこれまでのものとやや異なっているが,寄付行為に規定された帰属者に帰属させるか,それによって処分されないものは国庫に帰属されるとしている。仮に国庫に帰属しても,「私立学校教育の助成の為に,学校法人に対して譲与し,又は無償で貸し付けるものとする」ことが特定されていることから,いずれにしても基本的には民法第72条の「法人の目的に類似する目的」のために残余財産を処分する規定であるということができる。なお,同法にも民法第78条準用規定があることに注意したい。

  宗教法人の場合はどうであろうか。

  宗教法人法第50条〔残余財産の処分〕

       @解散した宗教法人の残余財産の処分は,合併及び破産の場合を除く外,規則で定めるところ
          による。
       A前項の場合において,規則にその定がないときは,他の宗教団体又は公益事業のためにそ
          の財産を処分することができる。
       B前二項の規定により処分されない財産は,国庫に帰属する。
   第51条〔民法及び非訴訟事件手続法の準用〕
          民法第78条準用

   このように,宗教法人の場合も,「残余財産の処分」を条文見出しとし,「他の宗教団体又は公益事業のためにその財産を処分すること」が基本的な処分方式となっている。明らかに不分割・類似目的処分である。加えて,第51条には民法第78条準用規定がある。

   なお,社会福祉法人には,社会福祉事業に支障がない限り公益事業及び社会福祉事業の経営に充てることを目的とする収益事業が認められている。この点は学校法人と宗教法人においても同様である(8)。いずれにしろ,その法人が公益法人であるかどうかの決定基準は,必ずしも収益事業を行わないということではなく,どういった団体がどのような目的で収益事業を行うかに求められるということができる(9)

   以上のように民法上の公益法人も特別法上の公益法人も,完全に同一の用法と同一の残余財産処分方式を採用しているのである。それは「分配」方式ではなく,残余財産を不分割で類似目的に「処分」することであり,「法人の目的に類似する目的」のために処分することを基本的な方式としているのである。この方式は民法第72条と第78条に体現されているのであり,両条の準用は公益法人の「不分割・類似目的処分」を表しあるいは想定しているということができるのである。

  なお,以上の公益法人の残余財産処分方式は,本来の協同組合における「不分割社会的資本」(indivisible social capital) の実践・思想・立法と共通していることに注意しておきたい。すなわち,協同組合における「不分割社会的資本」とは,「協同活動の剰余から形成された積立金という形態をとり,組合解散時においても個人に分配されない,組合目的・社会目的実現のための,非個人的で永久的な,利他愛という道徳性をもった不分割共同の社会的性格をもった資本,つまり資本の公正なありかたを追求し協同組合運動のいっそうの発展を期する,協同組合の社会性(公共性・公益性)を体現した資本である」が,この点についてくわしく検討している別稿を参照されたい(10)

 3 営利法人における残余財産の分配

   次に営利法人における残余財産の処理方法をみておこう。先にみた公益法人の残余財産処理(処分)と対極にあるのがこの営利法人の残余財産処理(分配)である。

   まず,民法上の組合であるが,これは特別法による「協同組合」のことではなく,法人格のない単なる契約によって成立する営利目的の「組合」のことである。民法第688条は次のように規定している。

  民法第688条〔清算人の職務権限,残余財産の分割方法〕

       A残余財産は各組合員の出資の価額に応じて之を分割す

   ここでは,「分割」の用語が用いられているが,「出資の価額に応じて之を分割す」としているようにこの「分割」は商法における出資基準による「分配」と同じ意味であって,民法ではこの出資に基づいた「分配」を「分割」としていることに注意しておきたい。定説は,同条について「各組合員に,出資に応じて分配する」ことであるとしている(11)  合名会社については,商法第124条及び第131条において残余財産の処理を「分配」なる用法を用いて次のように規定されている。

   商法第124条〔清算人の職務権限〕

     @清算人の職務左の如し
       1 現務の結了
       2 債権の取立及債務の弁済
       3 残余財産の分配
       (参照条文:民法第688条A)
   商法第131条〔残余財産の分配〕
      清算人は会社の債務を弁済したる後に非ざれば会社財産を社員に分配することを得ず但し争
       ある債務にに付きその弁済に必要と認むる財産を留保して残余の財産を分配することを妨げず
       (参照条文:商法第124条,民法第688条A)

   この商法第124条と先の民法第78条を比較すれば,明らかなとおり,条文見出し及び清算人の3つの職務のうち,「現務の結了」と「債権の取立及債務の弁済」の2つは全く同一であるが,第3の職務について,商法は「残余財産の分配」となっているが民法では「残余財産の引渡」であった。すなわち,商法第124条は,残余財産の「分配」を清算人の職務としているのであり,この条項の残余財産の分配とは,残余財産を社員に分配することであって,この分配は営利法人としての会社の本質にもとづくものであると定説化している(12)

   そして,商法第131条では「残余財産の分配」を条文見出しとしている。この商法第131条の規定は,直接的には債権者保護のために債務弁済後に残余財産は分配されなければならないという残余財産分配の方法(分配時期)を規定したものであるが,「残余財産の分配」という条文見出しと後段の「残余の財産を分配することを妨げず」に注視するならば,その分配基準はここでは明記されていないものの「分配」そのものを前提している規定であるということができる。そうであるから同条の参照条文として,出資による「分割」(すなわち商法の「分配」)を明記した民法第688条Aがあげられているのである。

  つまり,商法第131条の規定は,確かに分配の時期に関する規定であるが,同時にそれは「残余財産の分配」を前提としており,そこには出資基準・株式基準による残余財産の分配が含意されているとみなすことができるのである。同条は,合名会社のみならず,合資会社や株式会社等の各営利法人に適用される一般規定であるのはもちろんである。

  このように,商法第124条と第131条が事実上出資基準・株式基準による残余財産の分配を規定しそれを内包しているとするならば,後述する各種法人とりわけ問題の多い「中間法人」にしばしば看取される「商法第124条準用」及び「商法第131条準用」の規定は,実質的に出資基準・株式基準による残余財産分配方式を内包・予定した規定であるということができよう。すなわち,これらの準用規定は,不明確な各種法の規定を明確にし,前述した「処分」と「分配」の中間的方式の中身を明らかにする上で極めて重要な条項である。

   次に,有限会社についてみてみよう。

  有限会社法第73条〔残余財産の分配〕

       残余財産は定款に別段の定ある場合を除くの外出資の口数に応じて之を社員に分配することを
       要す。
   第75条 商法第124条,第131条準用

   同法も「残余財産の分配」という条文見出しによっているし,第75条の商法第124条,第131条の準用規定から,有限会社は実質的には出資基準による「分配」という処理方式を採用しているといえるであろう。ただし同73条の「定款に別段の定ある場合を除く」の文言は,民法上の組合や合名会社においても同様であると解釈されており(13),後述の「中間法人」である証券取引所や相互会社の場合とも同一であるが,この「別段の定」が,残余財産の処分つまり「不分割・類似目的処分」を想定しているということはいえないとしても,不可能ではないことになる。この「別段の定」には,@出資基準以外による分配と,A分配ではない処分の2とおりの方法が考えられるが,しかし,同法の主意からすれば,Aの「分配ではない処分」ということよりも@の「出資基準以外による分配」を想定しているということが妥当であろう。つまりこの「別段の定」とは「分配」方法についてであるとみなすべきであろう。同法の真意は,同条の後段「出資の口数に応じて之を分配することを要す」というところにあると思われる。

  株式会社は商法第425条と第430条で規定されている。

  商法第425条〔残余財産の分配〕
      残余財産は各株主の有する株式の数に応じて之を株主に分配することを要す
  商法第430条〔清算に関する準用規定〕
     第124条,第131条準用

   株式基準による「分配」が株式会社の残余財産処理方法であり,それは第425条の規定に何らの疑問の余地もない。ここには,有限会社や後述の「中間法人」にみられた但書も一切ないし,「分配することを要す」と要件的な規定になっているのは,残余財産の「分配」方式における究極の姿をこの株式会社にみることができるのである。ただし,株式会社においても定款に別段の定めがあれば別の分配方法をとることができると解釈されている(14)

   以上のように営利法人は,残余財産処理が出資基準・株式基準による出資者・株主への残余財産の「分配」という方法を採っている。この点から,営利法人は公益法人等の残余財産処理(処分)とまさに対極的位置にあるのである。

   なお,営利法人の剰余金分配方法は,民法第674条,有限会社法第44条及び商法第297条(株式会社)において出資基準及び株式基準によることが明記されている(15)。この意味で剰余金分配も残余財産分配も同一の基準にもとづいており,営利法人の本質をよく表している。

  4 「中間法人」における残余財産の処分,処分・分配及び分配

  次に,特別法に基づくいわゆる「中間法人」(労働組合,商工会議所,商工会,証券取引所,相互会社,各種協同組合)についてみていこう。 これら「中間法人」には,前述してきた公益法人や営利法人にみられたような,「中間法人」としての独自の一貫した処理方式を認めることはできず,検討の余地の多いところである。これら「中間法人」の残余財産処理には,@公益法人と同じ方式の「処分」,A営利法人と同じ「分配」,Bそして公益法人と営利法人との中間的なものあるいは不明瞭なもの(処分・分配),といった3つの方式が看取される。

 (1)労働組合・商工会議所・商工会における残余財産の処分

  「中間法人」のうち,公益法人と全く同じ方式は,労働組合,商工会議所,商工会の場合である。これら3種の法人は,いずれも「帰属」「処分」の用法に基づいており,労働組合は民法第72条準用規定により,商工会議所,商工会は明確な法文規定によって,残余財産の処分つまり不分割・類似目的処分を採っている。

  まず,労働組合についてみてみよう。

  労働組合法第12条(準用規定)

     A民法第72条,第78条準用

   労働組合法は,民法第72条,第78条の準用規定が明記されており,公益法人の残余財産処分が採用されている。留意したいのは,労働者の共通の利益を実現する目的をもついわば会員組織である労働組合は公益かつ非営利の公益組織ではないけれども,その残余財産処理は全く公益法人と同一の処分方式が採用されていることである。それは,労働組合の非営利性とともにその社会的意義,つまりアソシエイション・社会組織としての労働組合の性格からきているからであると思われる。

  次に,商工会議所法についてみてみよう。

  商工会議所法 第62条(清算人)

    @清算人は,財産処分の方法を定め,議員総会の決議を得て,通商産業大臣の認可を受けな
           ければならない。
     A議員総会が前項の決議をしないとき又はすることができないときは,清算人は,通商産業大
           臣の認可を受けて,財産処分の方法を定めなければならない。
      B残余財産は,商工会議所又はその目的と類似の公益目的を有する法人その他の団体に帰
          属させなければならない。
     第63条(民法の準用)
         民法第78条準用

   ここで留意したいことは,上記の商工会議所法第62条第1項における「財産処分」の「財産」は,厳密には,積極財産と消極財産の両者を含む「総財産」のことであって「残余財産」のことではないということである。そうであるならば,この「処分」は,@債権の取立,A債務の弁済,B残余財産の処分,の3つを含んだ広い意味での「財産処分」の意味であるが,第2項の「財産処分」における「財産」は残余財産のことであり,その処分は残余財産の処分のことであるということができる。同法の残余財産処理は,第3項「その目的と類似の公益目的を有する法人その他の団体に帰属させなければならない」とあるように,先にみた公益法人における残余財産の「処分」と全く同じである。なお,第63条で民法第78条準用規定があるのは他の公益法人の場合と同一である。

   商工会については,次のように,上述の商工会議所の場合と全く同一の規定がなされている。

  商工会の組織等に関する法律 第54条(清算人)

     @清算人は,財産処分の方法を定め,議員総会の決議を経て,通商産業大臣の認可を受けな
           ければならない。
     A議員総会が前項の決議をしないとき又はすることができないときは,清算人は,通商産業大
           臣の認可を受けて,財産処分の方法を定めなければならない。
      B残余財産は,商工会又はその目的と類似の公益目的を有する法人その他の団体に帰属させ
           なければならない。
     第55条(民法の準用)
         民法第78条準用

   商工会議所と商工会が会員組織でありながら,非営利・公益の公益法人と同じ残余財産処分方式を採るのは,前述したように労働組合の場合と同様であると思われるが,商工会議所と商工会においては,公益目的が法文に明記されていることに注意したい(16)

 (2)証券取引所・相互会社における残余財産の分配

 次に,同じく「中間法人」とされる証券取引所と相互会社の場合をみてみよう。以下のとおりである。

  証券取引法 第5章証券取引所第6節解散

   第135条〔残余財産の分配〕
      
  残余財産は,定款又は総会の決議により別段の定をする場合の外,平等に,これを会員に分
         配しなければならない。
   第136条〔解散・清算に関する民商法等の規定の準用〕
      
  商法第131条

   保険業法 第3章相互会社第8節清算

     第76条〔残余財産の分配〕
     
   残余財産は定款に別段の定なきときは剰余金の分配と同一の割合を以て之を社員に分配す
         ることを要す。
     第77条〔清算に関する商法の規定等の準用〕
     
  第124条,第131条準用

  これら証券取引所や保険業の相互会社も,「残余財産の分配」という条分見出しや文言からして,基本的には出資基準による残余財産の分配を採っているといえる。定款による「別段の定」とは有限会社の個所でみたように,実質上「分配」の方法のことについてであろう。ここでは「分配」の方法について出資基準以外の別段の定めを可能としているというように理解できる。証券取引所や相互会社の場合は中間的といっても一層出資基準分配に近い残余財産処理方式といえるであろう。

  (3)各種協同組合における残余財産の処分・分配

  次に,同じく「中間法人」のうち各種協同組合をみてみよう。

  (@)生活協同組合

  まず,生活協同組合(生協)からみてみよう。消費生活協同組合法では残余財産の処理に関して次のように規定されている。

   消費生活協同組合法

     第70条(清算行為)
      
 清算人は,就任の後遅滞なく,組合の財産の状況を調査し,財産目録及び貸借対照表を作り,
        定款の定めるところにより,財産処分の方法を定め,これを総会に提出して,その承認を求め
        なければならない。
     第71条(財産分配)
      
 清算人は,組合の債務を弁済した後でなければ,組合の財産を分配することができない。
     第73条(民法の準用)
      
 民法第78条準用

  この生協法の用法は残余財産処理方法に「処分」と「分配」の両方の用語が使われている。生協法第70条の「財産処分」は,商工会議所のところで言及したように,積極財産,消極財産の両者を含む総財産に対する広い意味での「処分」であると解することが妥当であろう。第71条の条文見出しにある「財産分配」の「財産」は,債務弁済後の財産であるから総財産ではなく残余財産のことである。問題は,生協法第71条が一般的な意味での財産にせよ残余財産にせよ,それを「分配」するというところにある。「分配」とは構成員個々に分配することであり,前述のように,それは出資を基準とした分配であるからである。仮に,同条の「分配」が不分割・類似目的処分をも包含した広い意味で分配としているのであれば,それは同法の整合性に問題があるということになる。

   ただし,生協法では,「財産処分」・「財産(残余財産)分配」が総会の承認事項になっているが,果たして総会では,残余財産の処分(不分割・類似目的処分)と残余財産の分配(出資基準分配)のいずれかあるいは両方の選択を総会に委ねているということであろうか。ここでの総会の承認事項とは,広い意味での「財産処分」のことであるとすれば,その処分とは,@債権の取立,A債務の弁済,B残余財産の「分配」のことであって,結局残余財産の分配を総会で承認するということにほかならない。仮にこのBが残余財産の処分と分配の両方を含むものであるならば,不分割・類似目的への残余財産処分が総会で承認される可能性も残されているということになり,その点でこの規定は重要な意義をもつということもできる(17)。この意味で同法では,民法第78条の準用規定があるということもできる。

  なお,生協の模範定款例では,残余財産の処分について出資基準分配を基調とした上でこの「別段の議決」を可能としている。そこでは先に有限会社法の「別段の定」で考察したように,@出資基準以外の分配,A分配ではない処分の2とおりの方法が考えられるが,生協法では,その両方が含意されているとみなすことができるであろう。

  (A)農業協同組合・水産業協同組合

   次に農協法と水協法についてみてみよう。まず,今回の改正前の農協法と水協法は次のとおりで
  ある。

  農業協同組合法(改正前)

     第70条〔清算事務〕
       清算人は,就職の後遅滞なく,組合の財産の状況を調査し,非出資組合にあっては財産目録,
       出資組合にあっては財産目及び貸借対照表を作り,財産処分の方法を定め,これを総会に
       提出してその承認を求めなければならない。
     第71条〔財産分配の制限〕
       清算人は,組合の債務を弁済した後でなければ,組合の財産を分配することができない。
     第72条の2〔民法及び非訴訟事件手続法の準用〕
       民法第78条準用

  水産業協同組合法(改正前)

     第74条〔清算事務〕
       清算人は,就職の後遅滞なく,組合の財産の状況を調査し,非出資組合にあっては財産目録,
       出資組合にあっては財産目録及 び貸借対照表を作り,財産処分の方法を定め,これを総会
       に提 出してその承認を求めなければならない。
     第75条
       清算人は,組合の債務を弁済した後でなければ,組合の財産を 処分することができない。
     第77条〔民法及び非訴訟事件手続法の準用〕
       民法第78条準用

   ここでは,先に検討した生協法とほぼ同じ規定になっていることが分かる。農協法は残余財産処理に「処分」と「分配」が混在し,水協法は生協法と農協法が「分配」としたところが「処分」となっていたり,両法の不明りょう性,不整合性は歴然としている。水協法第75条の場合,「財産を処分する」としているのは,その財産は残余財産のことであるが,一般的な意味での財産処分に引き寄せられたために「処分」という表現になったのであろうか,残余財産の処分つまり不分割・類似目的処分のことであるとは断定できない。いずれにしても,これら農協法,水協法は,用法上の不明りょうさも加わって不明確な規定になっており,基本的には出資基準による残余財産の「分配」を基調としているものといえそうである。しかし,総会の承認事項になっているのは,生協法の場合と同じように,不分割・類似目的の残余財産処分が総会で承認される可能性も残されているということができる。

  ところで,上記の農業協同組合法と水産業協同組合法は,1992年,93年にそれぞれ改正され,農協法第72条の2,水協法第77条において,基本的には出資基準の「分配」を志向する商法第124条と第131条の準用が明記された。商法第124条準用規定は,「残余財産の分配」を清算人の職務と規定し,第131条の準用規定は一定の留保金を用意すれば弁済前においても残余財産の分配を可能にしたものである(18)。しかし,前述したように,商法第131条は,単に分配の時期を規定したものではなく,分配を内包した規定であり,商法第124条は明らかに「残余財産の分配」を規定している点に留意されなければならない。

 その意味で,農協法と水協法はこれらの改正によってよりいっそう出資基準による「分配」方式に接近したということもできる。そうでないとしても,前述した同法の不明確さが,この商法第124条と第131条準用規定によっていっそう増幅したのは間違いないところである。つまり,仮に農協法と水協法の残余財産処理が残余財産の処分と分配の両方を含むものならば,分配を前提・内包した商法第124条と第131条の準用規定は不適切であるといわざるをえない。

  これまでの検討から,これら生協法,農協法,水協法の三法は,用法上の不明りょうさも加わって不明確・不整合な規定になっているが,基本的には出資基準による残余財産の「分配」を基調としており,近年の法改正はいっそう分配志向を強めているといえそうである。しかし同時に「不分割・類似目的処分」が否定されているのではなくその可能性は残されているということにも留意しておきたい。

  (B)中小企業等協同組合・信用金庫・労働金庫

  同じく協同組合であるが,中小企業等協同組合,信用金庫,労働金庫は,明らかに商法第124条,第131条に準拠し,出資基準による残余財産の分配を志向しているといえよう。

  中小企業等協同組合法第69条〔商法等の準用〕

       商法第124条,第131条準用

  信用金庫法第64条〔商法等の準用〕

       商法第124条,131条準用

  労働金庫法第68条〔商法等の準用〕

 

 

       商法第124条,131条準用

   これらの協同組合法が法文上で商法第124条,第131条準用になっているのは,実質的に残余財産の分配であることを推定させる。

   中小企業等協同組合の事業協同組合と企業組合の模範定款例においては,残余財産の処理そのものについて明確な規定がないが,組合員に組合財産に対して出資口数に応じた持分を認めていることから判断すると,残余財産に対しても持分を認め,その処理方法は出資基準による分配であるということができる。これらは,本法ではいずれも商法第124条,131条の準用と規定されているのみでそれ以上明確な規定はなかったが,この商法第124条,第131条の準用規定とは実質的に出資基準による分配を前提かつ内包しているということを改めて確認しておきたい(19)  残余財産の分配という点では,信用組合,信用金庫,労働金庫ではいっそう明確である。それぞれの模範定款例をみてみよう。

  信用組合定款例

   第34条(財産の分配方法)

        この組合の解散のときにおける財産の分配は,出資額に応じてあん分して行う。

   信用金庫定款例

     第36条(財産の分配方法)
         この金庫の解散のときにおける財産の分配は,出資額に応じてあん分して行う。

   労働金庫定款例

     第35条(財産の分配方法)
         この金庫の解散のときにおける財産の分配は,出資額に応じ按分して行う。

   以上のように,信用組合,信用金庫及び労働金庫は,「財産の分配方法」という条文見出しによって解散時における「財産の分配」を「出資額に応じて按分する」旨が明記されている。このように,中小企業等協同組合法,信用金庫法,労働金庫法における商法第124条,第131条準用規定は,模範定款例においては,残余財産の出資基準による分配規定を明記しているのである。

   協同組合のなかでも公益性・公共性の高い金融機関であるこれら協同組合組織が,明確な出資基準による分配を採用しているということは,極めて興味深い事実である。

  5 日本協同組合における残余財産処分方式の諸事例

   協同組合の残余財産処理方式とは本来どういうものなのか。その点については,協同組合の起源・変遷・現状を国際的にみていくことによって理解することができるであろう。筆者は別著・別稿において,それに関して「不分割社会的資本」として詳細に検討してきた(20)。それによれば,協同組合の残余財産の不分割・類似目的処分あるいは不分割・公益目的処分が,実践・法・思想として,連綿として現代まで続いてきており,この点で,協同組合の本来の残余財産処理方式は公益法人の方式と共通している。そして,今日それが再評価されてきており,その趣旨が1995年ICAの協同組合原則改訂に生かされようとしているのである。  ところで,わが国の各種協同組合法では残余財産の出資基準分配が志向されているというのは前述してきたとおりである。しかし,わが国においてもこの残余財産処分方式をとる協同組合が全くなかったわけではなく,部分的にせよ法令化もされている。以下では,日本協同組合における残余財産処分方式の諸事例を法令に関わる限りでみていきたい。

  〔事例1〕報徳社

 「日本的信用組合」といわれた伝統的な報徳社は次のような定款を定めていた(21)

   遠江国報徳社定款(1897年)

       第52条  当社は自ら解散決議するを得ず 若し民法68条1項の3号(破産)その他におい
                て解散する場合は諸貸付金を徴収 し所有財産を売却し各種預かり金善種金を返
                付し土台金は総会の決議を以て報徳二宮神社又は当社の目的に近き事業に寄付
                すべし

   遠江国報徳社 何々報徳社定款(1906年)

       第49条  当社満期その他事由に依り解社する時は諸貸付金を徴収し財産を処分し加入金
             を返付し善種金を支払いその余土台金は本社の指揮を受け慈善又は公共事業に支
             払うべし

    この定款における「土台金」とは,報徳社の基本財産・準備金のことである。この土台金と「土台金の得益」,「酬謝金」(6年目に差し出す,5ヵ年賦無利息貸付金に対する返済額1ヵ年分相当の御礼金ー年利実質4%)は社員に分配されないで不分割資金として維持され,上記のように「報徳二宮神社」「当社の目的に近い事業」「慈善又は公共事業」に寄付されるか,その他の処分方法として,再興を期して維持されるか,小学校の基本財産あるいは慈善及び勧業事業に寄付されるのである。いずれにしても,報徳社の残余財産処理は,考察してきた公益法人の処分方法と同一であり,本来の協同組合の「不分割社会的資本」と同様の特質をもっていたのである。このことは,報徳社運動が不分割共同財産の形成を重視したドイツ農村協同組合のライファイゼン原則にのっとって日本産業組合運動から離れて,民法上の公益法人として法人格をえていったということと大きく関連しているであろう。この意味で,日本の伝統的な事実上の協同組合である報徳社は,公益法人と協同組合の結節点的位置にあったという興味深い位置付けを可能とする。

  〔事例2〕厚生農業協同組合連合会

  また,現在においては,医療や保健分野の協同組合である厚生農業協同組合連合会(厚生連)においてこうした「不分割社会的資本」つまり「不分割・類似目的処分」が採用されていることに注目されたい。

   厚生連については,「医療保健事業に係る法人税等の非課税措置の適用を受ける厚生連の定款変更の取扱いについて(昭和59年5月29日59農経A第468号農林水産省経済局長)」において農協法に基づいた模範定款例の特例として以下のように規定され,1984年度より適用されている。

  
法人税等の非課税措置の適用を受ける厚生農業協同組合連合会に関する
        農業協同組合連合会模範定款例(出資連合会の場合)の特例

     第59条 この会が解散したときは,その残余財産は,国,地方公共団体又は農業協同組合
              法(昭和22年法律第132号)第10条第1項第9号の事業を行う他の農業協同組合連合
              会に帰属するものとする。

  こうした特例は法人税法施行令の第2条2項に基づいている。

   法人税法施行令第2条の2

   (公益法人等に該当する農業協同組合連合会の要件等)

     @法別表第2第1号の表の農業協同組合連合会の項に規定する政令で定める要件は,当
        該農業協同組合連合会の定款に次に掲げる定めがあることとする。
    1 当該農業協同組合連合会の営む事業は,農業協同組合法(昭和22年法律第132号)第
        10条第1項第9号(医療に関する施設)に掲げる事業(これに付帯する事業を含む。)に限
        る旨の定め
    2 当該農業協同組合連合会は,剰余金の配当(出資に係るものに限る。)を行わない旨の
        定め
    3 当該農業協同組合連合会が解散したときは,その残余財産が国若しくは地方公共団体
        又は第1号に規定する事業を営む他の農業協同組合連合会に帰属する旨の定め

   これによれば,この厚生連が「公益法人等」に該当するための要件は,@医療事業に限定されているということ,A出資配当を禁止していること,B残余財産の処分(不分割・類似目的処分)であることの3つである。厚生連のこの残余財産の不分割・類似目的処分は,これまで検討してきた公益法人の残余財産処分と同一であり,国際的なレベルでの協同組合における「不分割社会的資本」の方式と共通しており,日本では報徳社などが実践してきた方式である。これは医療保健の公益性・公共性に由来しているのであり,前述した医療法との適合性をもたせたものということができるが,分配志向の強い日本協同組合法制においては特例として扱われている。この厚生連は,もちろん出資基準による剰余金分配,いわゆる出資配当は禁止されており実施されていないが,利用分量配当は,協同組合としての特質から認められているものの実際は実行されていない。この出資配当については,後述するように,各定款においては何らの明記をしないという形で,その禁止を表している。厚生連にこの不分割・類似目的処分が採用された経緯(22)は,医療事業を行う農協の法人税課税問題にあったが,わが国にこうした不分割・類似目的処分つまり「不分割社会的資本」が協同組合において法制上公認されたということは,特例とはいえきわめて重要な意義をもっているといえよう。  ちなみに,神奈川県厚生連合会の定款をみておこう。

   神奈川県厚生農業協同組合連合会定款

   第56条(剰余金の処分)
      
 毎事業年度の剰余金は,欠損をてん補し,第22条の規定による準備金に積み立てる金
        額及び第23条の規定による特別積立金に積み立てる金額を差引き,なお残余があるとき
        は,これを会員の事業の利用分量の割合に応じて会員に配当し又は翌事業年度に繰り
        越すものとする。
     第59条(残余財産の帰属)
      
 この会が解散したときは,その残余財産は,国,地方公共団体又は農業協同組合法(昭
        和22年法律第132号)第10条第1項第9号の事業を行う他の農業協同組合連合会に帰属
        するものとする。

    なお,厚生連とやや事情を異にする医療生活協同組合(医療生協)の場合は,残余財産の処理については消費生協模範定款例に準拠しているが,出資配当と利用分量配当は両方とも禁止されている(23)

  〔事例3〕漁業共済組合及び同連合会

  出資制度を採り漁業協同組合及び漁業協同組合連合会を会員として漁業協同組合系統の一環にある漁業共済組合及び同連合会は,出資配当を行わず,事実上残余財産を不分割・類似目的処分する方向性を志向していることから,法人税法では「公益法人等」と規定されている。1964年に制定の漁業災害補償法において,特例ではなく正規の法律で規定されているこの漁業共済組合及び同連合会における残余財産処理方式は他の協同組合法にはない明確性(整合性)と不分割・類似目的処分の可能性を示しているものとして,特筆に値する。以下同法をみてみよう。

   漁業災害補償法(清算事務)

    第58条 清算人は,就職の後遅滞なく,組合の財産の状況を調査し,財産目録及び貸借対
              照表を作り,財産処分の方法を定め,これを総会に提出してその承認を求めなけれ
              ばならない。
     第59条 清算人は,組合の債務を弁済してなお残余財産があるときは,これを組合員に対
               し,出資口数に応じて分配しなければならない。
       2 前項の規定により組合員に分配することができる金額は,その出資額を限度とする。
       3 第1項の規定による分配の結果なお残余財産がある場合におけるその財産の処分につ
          いては,政令で定める。
     第61条(民法及び非訴訟事件手続法の準用)
       民法第78条準用

  第58条は農協法・水協法と同じであるが,第59条はそれらとは著しく異にしている。

   同法では,残余財産処理について,(1)出資額限度(第59条第2項)の出資口数に応じた残余財産分配(同条第1項)と(2)さらに残余がある場合の残余財産は政令によって処分(分配ではない)される(同条第3項),という2つの方法を明記している。残念ながら処分方法に関する政令はまだないが,この規定は,出資金の払い戻しを優先しつつそれを越える残余財産は不分割・類似目的処分を想定している。同法の残余財産処理方法は,現状としては日本の各種協同組合に最も適用可能な方法ということができると思われる。

   また,同法は,先の生協法,農協法,水協法と違って,分配と処分の用法が正確に区分され使用されている。ここでは,「分配」は出資基準による分配,「処分」は残余財産の処分のことであることが明記され,その上で不分割・類似目的処分が想定されているのである(24)

  〔事例4〕農業協同組合中央会及び中小企業団体中央会

  なお,法人税との関連では,それぞれの協同組合の頂点にある農協中央会(全国及び各都道府県)や中小企業団体中央会(全国及び各都道府県)が「公益法人等」として扱われている(法人税法別表())。それはこれら中央会が経済事業連ではなく指導事業連であるということから収益事業を行っていないからであり,出資制ではなく賦課金方式による資金形成によるためいわゆる出資配当がないからであろう(25)。もっとも,既述したように,非営利・公益であるかどうかの基準は,出資制の如何ではなく出資基準分配の如何であるということ,収益事業一般ではなくどのような目的と方法によって収益事業が行なわれるのか,ということが本質的に重要な問題であるということを銘記しておきたい(26)

   以上の諸事例は,協同組合における「不分割・類似目的処分」方式について,公益法人との関連でみると4つの類型を示している。すなわち,@協同組合の公益法人化(報徳社方式),A特例による協同組合の公益法人方式の採用(厚生連方式),B正規の法律による出資制を踏まえた公益法人共通の方式の採用(漁済方式),C指導事業・中央会機能の特化による「公益法人等」の指定(中央会),である。いずれの類型も,協同組合運動全体としてみれば,協同組合運動の一環に位置付けられているのは事実である。この点で,現状の日本協同組合の総体をみると,協同組合法による協同組合だけを協同組合とすることはできないのはもちろん,もともと協同組合は協同組合法が中心であるがさまざまな法形式をとって存在する可能性があるということに留意される必要があろう。ここには協同組合の本質,それを具現した協同組合原則と法との関係についての協同組合理論上の問題を想起させる(27)

    ところで,上記の@の報徳社方式は協同組合運動の協力・関連組織として存在し,Cの中央会方式は協同組合運動の中央組織であり,両者は一般の協同組合にそのままで適用することはできない。一般の協同組合に現在適用可能な方式は,これらのうちではAの厚生連方式とBの漁済方式であろう。この厚生連方式は医療保健事業,漁済方式は漁業災害の共済という公益性の強い分野で実現した方式であるが,協同組合の公益性・社会性という観点からはこれらの方式が日本において一般化することが必要となろう。日本協同組合法制における分配志向は是正されなければならない。

   最後に言及しておきたいのは,日本の協同組合法制の全体を問題にし,協同組合法制全体を改革していくことが不可欠になるということである。その点で,石見尚の次の提言は傾聴に値する。本稿の課題に限定すれば,石見はわが国の協同組合基本法を構想して,その中で,「協同組合による社会ファンドの創設と税制上の非課税措置を講ずる」として,「協同組合が福祉,教育,文化など公共の社会的利益のために設ける基金への繰入金は,税制上損金としてあつかう。解散時に資産を分配せず社会目的に寄付することを定款に明記する場合に,特例がみとめられる。・・・残余財産の配分にあっては,一部を組合員に分配することなく,他の協同組合および協同組合の発展のため,あるいは地域社会,慈善事業に寄付することができる。それにあてた財産は非課税扱いとする。」と「新協同組合法」を提起する(28)。こうした提案が日本協同組合法制全体の問題を解決する方向であり,この点で筆者の見解も同じである。

  いずれにしても,わが国の各種協同組合法制は分配志向がつよいものの,「不分割・類似目的処分」方式を採る法制が実在し,協同組合運動の中で実践されてきているということに注目されなければならない。さらにわが国では,伝統的な協同組合や地域社会と密着した協同組合,あるいは雇用・福祉・環境等の分野の新しい協同組合等において,こうした「不分割・類似目的処分」の方式が強く志向されていく傾向が高まりつつあることも確認しておきたい。

 6 むすび

   以上,わが国の各種法人の残余財産処理規定の比較検討を行ってきた。その残余財産処理方式には不分割・類似目的処分と出資・株式基準分配との2つの方式があって,公益法人は前者の処分方式を,営利法人は後者の分配方式を採っていることが明らかである。

  ところが,複雑多様・不明確なのはいわゆる「中間法人」においてであった。そこで本稿では,「処分」と「分配」の厳密な区分,そして「商法第124条準用」「商法第131条準用」の意義を把握し,各種協同組合法については模範定款例を検討することによって,これら「中間法人」の残余財産処理方式を検討してきた。

  それによれば,労働組合や商工会議所等は公益法人と同じ処分方式であり,証券取引所や相互会社は事実上営利法人と同じ分配方式であることが明らかである。問題は各種協同組合法であるが,そのうち,農協法,生協法,水協法はかなり不明確な点が多く,総会の決議によって不分割・類似目的処分を可能とするが,結局は分配方式が基調になっており,近年の法改正は分配志向をいっそう強めているということができる。また,中小企業等協同組合や信用組合・信用金庫・労働金庫等は,営利法人とほぼ同じ分配方式であることがわかった。とくにこれら公益性を高めている金融機関としての協同組合組織がかえって営利法人と同じ分配方式に立っているというところに問題の深刻さがうかがわれる。そして,これらの協同組合金融組織が,いずれも本法では商法第124条,第131条準用とのみ規定されながら,模範定款例において「出資に応じてあん分する」と明記していることに注意を喚起したい。

  協同組合において本来的・普遍的な「不分割社会的資本」の思想や実践が,わが国では協同組合にではなく,各種の公益法人や「中間法人」たる労働組合や商工会議所等の法制において継承されている。ここに日本協同組合法制における重要な問題性を指摘せざるをえない。

   とはいえ,わが国においても「不分割社会的資本」や「不分割・類似目的処分」を採ってきたしまた採っている協同組合も実在し,医療保健分野,共済分野,中央会等においては部分的にせよ法制化もされている。,これらの協同組合は各系統のなかで重要な位置を占め協同組合運動全体に大きな役割を果たしているし,この方式は日本でも適用できない方式ではないことをうかがわせる。
 

【注】

(1) 「不分割」とは個人に分配しないことであり,残余財産が「類似目的」に処分されることと密接につな
    がっている。
(2) 林修三ら編『法令用語辞典』学陽書房,1986年,401頁。
(3) 一般に,公益法人,営利法人,「中間法人」の3区分がとられるが,こうした方法にはいくつかの問
    題が指摘されている。この点我妻栄は非営利法人と営利法人の二区分法を提起している。すなわ
    ち,「民法・商法上の法人の目的による区分を,公益と営利とにせずに,営利と非営利(中間的なも
    のを含む)とにすべきであろうと思われる。」(我妻栄『新訂民法総則』岩波書  店,1965年,139
    頁)。近年その提案は現実味を帯びてきている。(『四訂 公益法人の理論と実務』(財)公益法人
    協会,1991年,58〜59,67〜71頁,及び石村耕治 『日米の公益法人課税法の構造』成文堂,1992
    年,4〜5頁参照)。
(4) 本稿は,拙稿「『不分割社会的資本』概念の検討−協同組合におけるその
展開・特質・関連問題を
     とおして−」(首都圏労金経営研究所『労働金庫の自己資本の充実に向けて(中間報告)』(同
     所,1994年6月)の一部を大幅な加筆補正注記のうえ書き改めたものである。なお,本稿に関連
     して拙著『協 同組合資本学説の研究』(日本経済評論社,1989年)及び拙稿「協同組合における
     『不分割社会的資本』の概念−株式会社と公益組織との比較から−」 (山梨学院大学『経営情報
     学論集』第1号,1995年2月)を参照されたい。
(5) 公益法人とは,民法第34条において,非営利性と公益性の二つを要件としている。すなわち,次の
     ように規定されている。
    民法第34条〔公益法人の設立〕
     
  祭祀,宗教,慈善,学術,技芸その他公益に関する社団又は財団にして営利を目的とせさるも
        のは 主務官庁の許可を得て之を法人と為すことを得上記の「祭祀,宗教,慈善,学術,技芸そ
        の他」は公益の内容に関する例示であるが,この公益の要件は「社会一般の公益,福祉」「不特
        定多数の公益」である。この点に関して,『新版注釈民法(2)』(有斐閣,1991年) は,「公益と
        は,社会全般の利益,いいかえれば不特定多数の者の利益を指す。」(同187頁,林良平稿)と
        述べている。
       しかし「不特定多数」といっても,会員制度による特定者のための組織が公益法人とされる例は
   極めて多いし,その公益享受に一定の条件や資格が必 要な場合も多い。つまり,「特定多数」か
    「不特定多数」か,あるいは会員 組織かどうか,ということが問題の本質ではなく,その公益を享
   受する必要 のある人が,政治的思想的宗教的性的に差別されることなく,「加入脱退の自由が」
   保証されていることが公益であるための必須要件となるのである。また「営利を目的とせさる」つ
   り非営利については民法において定義づ  けられていないため,一定の考察を必要とする。通説
   では,この非営利とは  「利益を構成員に分配しないこと」とされている。営利について『新版注釈民
   法(2)』は次のように述べている。「営利とは,構成員の経済的利益を追求し終局的に収益が構成
   に分配されることである。」(同187頁,林良平 稿)。また,「営利法人はもっぱら構成員の経済的
   益をはかり,終局的には,法人の利益も利益配当その他何らかの方法で構成員個人に分配し経済
  的利益を与えることを目的とする法人である。」(同191頁,林良平稿)。
      しかし利益といっても余りにも広い概念であって,ここでは,金銭的物的利益つまり経済学的に
   は利潤,剰余金ということになろう。しかもその利益の源泉は外部であることが民法では想定されて
   いるから,ここで非営利を営利ではないこととして改めて定義づるならば,「外部から利益を獲得して
   それを内部構成員に分配するという営利を目的としないこと」ということになろう。そしてその分配は
   出資を基準とするかあるいはその他の方法でなされることを指す。したがって,非営利の指標は,
   結局「出資基準あるいはその他の方法で分配しないこと」になる。そこで,民法では「出資による分
   配」  がなされるかどうかが,営利性・非営利性を分別する重要な基準ということになる。そうである
   ならば,残余財産についても「出資による分配」が禁止されていなければならない。(この点で前掲
   石村耕治『日米の公益法人課税法の構造』第5章(105〜122頁)参照。)
    しかしこうした理解には検討すべき余地がある。内部利益や共同利益の分配は営利になるのか
    どうか。その内部利益や共同利益と外部利益との識別はどのようになされるか。また,そもそも「出
   資」とはなにか。見返りを期待する投資としての出資と,見返りを期待しない単なる資金提供として
   の出資あるいは貯蓄債権としての出資とどのように分別するか。今日の法はこうした問題に対し十
   分答えられているのであろうか。
(6)『新版注釈民法(2)』有斐閣,1991年,447頁(藤原弘道稿)。
(7)医療法では次のように規定されている。
    医療法第54条〔剰余金配当の禁止〕
         医療法人は剰余金の配当をしてはならない。
   
 他の公益法人にはこうした剰余金配当の禁止条項はない。というのも非営利性かつ公益性を特
  徴とする公益法人は,特別に規定されていなくともその非営利性として剰余金分配の禁止を要件とし
  ているからである。そうであるならば,医療法人にのみそのような規定があるのはなぜであろうか。
  考えられるのは医療法人には出資制をとるものがあるからということであるが,しかし,医療法人に
  は社団医療法人と財団医療法人の二種の医療法人があり,財団にあえて剰余金配当禁止規定を
  する必要は認められないから,この禁止規定は別の要因によるものと思われる。出資制を採るかど
  うかによるのではなく,医療事業の特質に認めるべきである。医療事業が収益事業であるとされる
  (法人税法施行令第5条@29)のは,医療行為には必然的に収益が伴うからである。医療法人はそ
  れ自体として非課税法人とは認められていない(法人税法(別表第二)「公益法人等」に医療法人は
  入っていない)ことが上記の分配禁止規定を要したものと思われる。(『新版注釈民法(2)』1991年,有
  斐閣,270〜271頁(高木多喜男稿)参照。)
(8) 以上の公益組織の収益事業に関しては,社会福祉事業法第25条,私立学校
法第26条,宗教法人
    法第6条参照。
(9) 収益事業とは,法人税法施行令第5条によれば物品販売業をはじめ33種類
の事業に及ぶが,そ
     の事業主体の性格如何,その事業の目的との関連如何及び特別産業分野や国家的観点からの
     必要等によって,同じ事業でも収益事業とはみなされないのである。
(10)注(4)の拙著・拙稿を参照されたい。
(11)『新版注釈民法(17)』1993年,有斐閣,190頁(菅原菊志稿)
(12)『新版注釈会社法(1)』1985年,有斐閣,500頁(米沢 明稿)。
(13)『新版 注釈民法(17)』1993年,有斐閣,191頁(菅原菊志稿),及び田中
誠二ら『四全訂コメンター
     ル会社法』1984年,勁草書房,201頁参照。
(14)前掲『四全訂コメンタール会社法』1529頁,及び『新版注釈会社法(13)』1990年,311頁(中西正明
     稿)参照。
(15)そもそも営利法人(会社)は,「営利を目的とする社団」(民法第35条〔
営利法人〕@,商法第52条
     〔定義〕A)であり,この営利性とは,「利益を構 成員に分配すること」である。このことから,これ
     ら営利法人は,利益の分配を目的とするのは自明といえよう。
   利益分配の基準について民法及び商法は以下のように規定している。
   民法第674条〔組合員の損益分配の割合〕
      @当事者の損益分配の割合を定めさりしときはその割合は各組合員の
出資の価額に応じて之
            を定む
     商法第293条〔利益又は利息配当の標準〕
         利益又は利息の配当は各株主の有する株式の数に応じて之を為す但
し第222条第1項の規定
         の適用を妨げず
(16)商工会議所法第6条〔目的〕には,「商工会議所は,その地区内における
商工業の総合的な改善
     発達を図り,兼ねて社会一般の福祉に資することを目的とする。」と規定されている。商工会法第
      3条〔目的〕において同じ趣旨の「社会一般の福祉」に資することが明記されている。なお,商工会
     議所法第4条〔原則〕と商工会法第6条〔原則〕には非営利性,政治的中立の「原則」が明記されて
     いて興味深い。また,商工会議所にはないが商工会法第15条には議決権・選挙権平等が規定さ
     れいる。これらのことは,協同組合原則の普遍性及びその適用可能領域をみるにあたって示唆的
     である。
(17)この点で,島村矢は,次のように述べている。「解散による場合においては,債務を完済した後に
     おける残余財産を,払込済出資額に応じて組合員に分配することが認められます。したがって,残
     余の純財産額が出資額を上回る場合は,それに応じた額を分配することができることになり
     す。・・・  また,総会の別段の議決によって,財産の全部または一部を,社会公共の目的のため
     に提供することは差し支えありません。」 (下線筆者:『増補改訂版生協法講話』日本生活協同組  
     合連合会,1981年,170〜171頁)。
(18)農林水産省経済局農業協同組合課係長内藤恵久は,次のように改正の趣旨
を述べている。「清
     算の進行を図るため,争いある債務については,その弁済に必要と認める財産を留保して残余財
     産を分配できることとした。」(同「組合の清算等に関する規定の整備について」『農業協同組合経
     営実務』臨時増刊,1993年4月,93頁)。この下線部分の「分配」は一体何を指すのか。
(19)中小企業等協同組合法制定当初,中小企業庁はこれら商法の準用規定から「残余財産を組合員
     の持分に応じて分配」することと説明していた(中小企業庁振興課『中小企業等協同組合法の解
     説』商工協会,1949年,248頁)。
(20)前掲拙稿「協同組合における『不分割社会的資本』の概念」参照。
(21)静岡県『静岡県報徳社事蹟』(報徳学図書館,明治41年再刊)付録より。
(22)さしあたり,全国厚生農業協同組合連合会『協同組合を中心とする日本農 民医療運動史・後編・
     厚生連史』(1969年)779〜789頁参照。
(23)医療生活協同組合(医療生協)では,厚生連のような独自の法令がないと
はいえ,行政指導によ
     って剰余金の分配は禁止されており,実行されていない。厚生省社会局生活課長通知(昭和62年
     6月30日社生第77号各都道府県消費生活協同組合主管部(局)長あて)「消費生活協同組合の運
     営指導上の留意事項について」の「6 医療生協」において,「(5) 剰余金が生じた場合といえど
     出資金又は利用分量に応じた割戻しは自粛すること」とされた。これによって医療生協は出資配
     当・利用分量配当のいずれも実施していないが,厚生連と違って残余財産処理に関しては前述し
     た消費生協模範定款例そのままであるためであろうか,法人税非課税措置はとられていない。例
     えば,東京医療生協,東京北部医療生協,北多摩保険生協,さいたま医療生協等の組合定款で
     は,出資配当と利用分量配当に関する規定は一切なく,剰余金処分方法は,法廷準備金,教育
     事業繰越金,組合員健康管理費用,そのための機器具整備に充て,なお残余がある場合に任意
     積立又は翌事業年度に繰り越すと規定している。
(24)なお漁業災害補償法の解説をしている『水産法規解説全集第2巻』(大成
出版社,最新版)2795〜
     2799頁参照。
(25)全国農業協同組合中央会は,定款において次のように規定している。
   全国農業協同組合中央会定款
      第17条  この会の解散時における残余財産の処分の方法は,総会でこれを定める。
  ここでは,文字どおりに理解して総会の決定事項であるが残余財産の処分をいい,その分配では
    ないところから,公益法人と同様の不分割・類似目的処分をとっていると判断することができる。そ
    うでなければ,法人税法で「公益法人等」と規定されることはないからである。しかしながら旧農協
    法では農協中央会の解散について民法第73条準用規定であったが,改正農協法(1992年改正)に
    よれば,第3章農業協同組合中央会第73条30項〔解散及び清算〕 Bにおいて商法第131条準用
    規定に改められた。そうすると,先の定款第17条は,分配規定であるのかもしれないし,それともこ
    の場合の商法第131条 準用は分配規定ではなく,処分と分配の両方の単なる時期を限定した規定
    とみなしているのかもしれない。しかし,商法第131条は「分配」の時期を限定した規定であるとはい
    えても,「処分」の時期を限定した規定ではないということは明らかである。農協中央会は出資制を
    とっていないから出資基準 以外の分配方式を予定しているのであろうか。いずれにしても「公益法
    人等」とされる農協中央会の解散について,商法第131条を準用すること自体が不整合性のあらわ
    れであり問題をいっそう複雑にしているといわざるをえない。
(26)注(7)(8)(9)参照。
(27)報徳社,中央会や厚生連は公益法人であって協同組合でないという考えが
ありえる。しかしこうし
     た考えは,あまりにも形式的で法制にとらわれ過ぎた見解といえよう。協同組合は法制以前に実
     在する実態であり,協同組合法制はそれを保護育成・規制するものとして存在する。協同組合は
     協同組合法の中にしか存在しないものではない。協同組合は,協同組合の本質→協同組合原則
     →協同組合法の連鎖として成立するものであって,決してその逆ではない。
(28)石見尚「新協同組合法の立法の構想」『いま生活市民派からの提言』(御茶の水書房,1988年)
     186,191,222頁)。
 

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