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企業博物館戦略の研究

コニカ株式会社・企業文化室 星合重男 ( 1993年11月 )

 最近、博物館を運営する企業が多くなっている。企業が多くの費用をかけて運営する企業博物館に求めているものは何か。博物館の運営で得られるものは何か。全国230の企業博物館の調査で、代表的運営形態を「史料館」「歴史館」「啓蒙館」「産業館」「技術館」「他」の6形態に分類し、その、企業博物館の現状と目的と結果について分析し考察した。
 「企業博物館」とは、企業の資料室と企業理念の広報室との、2つの機能を持つ、企業活動の一つであると結論を得た。

目次

1 はじめに
 1-1 企業博物館の業態分類の試み
2 調査の方法
3 結果及び分析
 3-1 業種と博物館形態
 3-2 企業の博物館設置目的の考察
 3-3 設置時に目的とした来館者像は誰か
 3-4 企業のイメージアップに役立った
 3-5 どの様な効果が有ったか
 3-6 博物館の所属と公開方法
 3-7 史料収集組織と担当者
 3-8 展示面積・入場者・見学時間
 3-9 休館日・販売品・年報
4 新設館を成功させる既設館のアドバイス
 4-1 運輸・交通館の意見 4-9 生活関連館の意見
 4-2 エネルギー館の意見 4-10 精密機器館の意見
 4-3 化学・薬品館の意見 4-11 繊維館の意見
 4-4 ガラス・土石館の意見 4-12 通信・放送館の意見
 4-5 金融館の意見 4-13 鉄鋼館の意見
 4-6 建設館の意見 4-14 電機館意見
 4-7 醸造館の意見 4-15 その他館の意見
 4-8 食品館の意見  
5 考察・企業博物館戦略
 5-1 企業戦略1「史料館」
 5-2 企業戦略2「歴史館」
 5-3 企業戦略3「啓蒙館」
 5-4 企業戦略4「技術館」
 5-5 企業戦略5「産業館」
 5-6 企業博物館に望むもの。
 5-7 「企業博物館」とは。
6 おわりに
7 引用文献・参考文献

1 はじめに

 企業が企業活動の一環として博物館を運営することが多くなった。企業が博物館を運営するためには、かなりの費用と時間がかかる。これらを克服して博物館を運営する企業の戦略はなにか。創業者の創業理念や先人の史料を大切に保存したいと言う館もあれば、独自の企業戦略を大衆に浸透させたい館もある。また、いかに良い商品を作っているかと言う技術を理解させるための宣伝媒体であることもある。
1 はじめに
2 調査の方法
3 結果及び分析
4 新設館を成功させる既設館のアドバイス
5 考察・企業博物館戦略
6 おわりに
7 引用文献・参考文献

   @何の目的で、誰に何を発信したいのか。
   A史料の収集、保存についての、企業の本音は。  

 明治に入ってから近代的な組織をもった会社がぞくぞくと出てきた。これらは現在100年以上もたっており、この企業の多くは、すでに古い史料は紛失している。資料は商法等の規程によっても10年間程度の保存が決められている程度で、地価の高騰している最近の事業所では、企業活動に直接関係のない史料は捨てられてしまう。本当に邪魔者なのか、企業活動に影響を与えないのか、企業博物館の運営によって生ずる利益は何か、既に運営中の企業博物館は何の目的で、どの様な活動をしているかを調査し、企業博物館活動はなにかを検証した。
 企業博物館から生まれる利益は、企業イメージの向上とか、企業理解など目にみえない部分が多く、本当に企業に貢献しているかどうか、明確な答えをだすのには時間がかかる。住民に憩いの場を提供し、その一部に企業の目指す理念とか、製品の優秀さを示す展示をするのは、企業博物館と言えるかどうかと言う様なことは、本調査研究では問題としなかった。というのは、いわゆる「博物館機能」を完備した企業博物館はたいへん少ないからである。企業博物館は「博物館」のなかの特異な1ジャンルといえる。

1−1 企業博物館の形態分類の試み。

 一口に企業博物館といっても、その形態や目的に大きい違いがある。それは、企業の設立目的が異なるためで、自社、関連業界の史料を専門家が丹念に収集分類し、研究者に役立つ研究報告と年報を発行している館もあれば、企業の事業について理解をさせるための、産業理解を中心にした見学館もある。今回は次のようなある程度の分類を試みた。機能が混在しているのが普通であるが、展示目的の大きい割合のものを、アンケートの回答とカタログを比べて形態分類をした。

@史料館・会社創業者の創業理念、歴史的史料・歴品を収集・展示し、企業の社会に貢献してきた過程などを理解させる。
     (例・松下電器歴史館、島津創業記念館)
A歴史館・自社製品や関連する歴史的産業コレクションを収集・展示して解説する。その歴史的背景や地域の状況なども理解させる。
     (例・竹中大工道具館、内藤記念くすり博物館)
B技術館・新技術の解説や新しい商品の特徴や活用法などを展示し、技術的優位を誇示し理解させる。開発中の未来技術について企業の夢を語る。
     (例・松下技術館、INSプラザ)
C産業館・工場見学などを中心とした、産業理解のためのコース。
     (例・サッポロビール博物館、グリコピア神戸)
D啓蒙館・自社の企業理念やそれによる社会への貢献、関連産業の商品や技術を判りやすい展示で一般人に理解させる。
     (例・UCCコーヒー博物館、浜岡原子力館)
Eその他・企業やグループが収集した関連史料・文書などの収集館。
     今回の調査では、殆ど史料館に含めた。
     (例・三井文庫、池田文庫、高島屋史料館、資生堂アートハウス)

 この分類が「ある程度の分類」というのは、企業博物館の殆どが、一つのジャンルだけを展示してあるという場合が無いからである。技術館の一部に、会社の歴史が併せて展示してあるのは、ごくありふれたものであり、社史を中心に史料を集めた館は、主として社員の教育や販売店の顧客にも、創業者の創業の精神を判って貰えるようないろいろな工夫をしてある。これは当然のことであって、この混然とした内容を、ある程度のおおまかな分類として、その目的をどのように扱うかは、今回もっとも苦心したところでもある。
 まず博物館側の申告を重視した。博物館はどのような目的で設置したのか、運用にあたりどの様な対象を目的に運用しているかを聞き、そのうえで、展示内容についての回答を、史料、技術、見学等の展示割合で答えていただいた。これらのアンケート欄を総合して判断し、博物館の主とした目的を確認し、さらに館のカタログと照らし合わせて一部は変更することになった。明快に分類できたのは、46館で、展示内容の項目に、例えば、社史100%と記入されているような館である。明らかに異種の2館が併設されているときは、それぞれの分類に入れた。
 この分類により、企業博物館の性格をかなり明確に区別することができた。エネルギーや通信のような公共的な企業は、企業の社会的責任を見る人に理解させようとした「啓蒙館」「産業館」であり、醸造は、企業の特性から、古い伝統的機材や史料を、設備更新時に「史料館」「歴史館」として一般に公開している。醸造館のなかでも、ビールは見学コースをもった「産業館」が多く、試飲コーナーもある。ガラス・土石業では、工場見学コースのほかに、ガラスや陶器その物が美術品であり、「その他(美術館)」的要素を持つところもあり、今回は美術館比重の特に多い館は除くことにした。

2 調査の方法。

@郵送によるアンケート調査と
     直接訪問による調査。

A調査用紙の発送日 1993年5月5〜7日
B調査の回収最終日 1993年6月15日
C調査対象数335館
  対象となった企業博物館リストは、企業史料協議会資料、企業と資料2巻(87年)の企業博物館リストと丹青社総合研究所の里見氏の 助言によるもの。宛て先不明で返送されたのは8通である。
1 はじめに
2 調査の方法
3 結果及び分析
4 新設館を成功させる既設館のアドバイス
5 考察・企業博物館戦略
6 おわりに
7 引用文献・参考文献
D回答数230館 回収率68.6%
  回答の無かった施設の一部に連絡を取った。私の職歴と関係のある カメラの2社の「センチュリーカメラ博物館」は閉館。「エルモ史料館」は、現在は担当者が居ないので一般公開はしていない、史料はそのまま保管している、との事であった。無回答館の殆どは現在活動していない館と考えてよいと思われる。
  また、私どもの施設は博物館と言うようなものでなく恥ずかしくてお答え出来ないという連絡を頂いた館もあった。
Eアンケートを作成するには、その凡その業態分類が必要であった。
 形態調査と確認のために直接訪問したのは次の館である。
 サッポロビール博物館、雪印史料館、ミツトヨ博物館、沼田記念館、ペンタックスカメラ博物館、東電電力館、たばこと塩の博物館、東芝科学館、セイコー時計資料館、西濃記念館、大和ハウス30周年記念館、シャープ歴史・技術ホール、サントリーウイスキー博物館、資生堂企業史料館・アートハウス、内藤記念くすり博物館、江崎記念館、島津創業記念館、竹中大工道具館、松下電器歴史館、松下電器技術館、白鶴酒造史料館、グリコピア神戸、UCCコーヒー博物館、日本はきもの博物館。他4館。

3.結果及び分析

表一覧
1 はじめに
2 調査の方法
3 結果及び分析
4 新設館を成功させる既設館のアドバイス
5 考察・企業博物館戦略
6 おわりに
7 引用文献・参考文献

3-1 設立者の業種と博物館形態。

全博物館の内訳(表1)をみると、設立者の業種別館数は、エネルギー関連企業で19.3%、続いて醸造業15.6%と続く。この2つを合計すると全館数の35%を占める。館の形態別では「史料館と歴史館」が最も多く56%を占めてはいるが、博物館の重要機能である史料の収集保存を目的としない館が多いのが企業博物館の特徴といえる。
 エネルギー産業は公共的色合いが強く、自社の仕事を一般の人に理解を深めてもらう事が望まれ、特に原子力関係の事業所はその必要から、必ずといってよいほど博物館を持っている。原子力の安全性や、原子力が発電にどのように重要な役割をしているかを、地元住民をはじめ一般に理解させようとしている。地元住民との融和をはかるために、家族で参加できるユニークな施設(遊具やグランドなど)を併設していることもある。六か所原燃PRセンターは本体施設の稼働に先だって、いち早く博物館が建設され運用されている、原燃理解のための広報施設を兼ねた博物館である。
 エネルギー関連博物館を、形態別に見ると、「啓蒙館と産業館」がもっとも多く全施設の84%になる。これはこの業種の特徴的なことである。新しい技術に関する展示や、住民との親しさを求める施設が多く、児童、生徒を対象とした展示や見学コース、イベントで家族ぐるみで大勢の人を集める。館の多くは都市から離れた景観のいい所に立地し観光コースにもなっている。エネルギー館にも歴史をのこす「史料館、歴史館」があるが、これらは早い年代に建設された水力発電所のダム工事に関係するもので、当時の大工事を理解させるものや、水没した集落の生活の様子や物品を展示している。館数はずっと少ない。
 通信・放送業種館も、「技術館、啓蒙館」が多い。エネルギーと同じように公共的性格が強く、新しい企業が多いからである。
 醸造業の97%は「史料館と歴史館」である。醸造業は伝統的技術を受け継ぐ業種であり、長い歴史をもっている。建屋や器具の更新時に、長年使った昔の器具や古文書などが残りやすい業種であり、それらを関連史料とともに展示している。醸造業博物館は、地方に多く観光客対象の地酒販売をあわせて行う事が多い。新しい醸造業博物館は、「サッポロビール博物館」が代表するように、工場見学ルートと併せて、歴史資料、技術資料、試飲など、総合的に企業理解が進むようになっている。これら醸造業館の物品販売品比率は比較的高く39%となっており、これは最近のミュージアムショップの先駆けともいえる。
 企業博物館を持つのが少ない業種としては、鉱業1館、製紙1館、建設2館、印刷・事務機3館、鉄鋼3館、である。87年調査1)より、特に少なくなった業種は、鉱業で7施設から1施設となった。減少した6館を追跡するとその殆どは現在機能していない事がわかる。歴史的著名館である「和銅記念館」も閉鎖され、収蔵物は安来市に委託された。企業の姿勢の時代変化がその原因といえる。製紙業は「紙の博物館」1館である。旧王子製紙の企業博物館であったが、現在は関係業界の財団として、業界をまとめて資料の収集、保存、研究を13名の専任者で進めている。年報も発行しており、業界の総合情報センターとしての役割もあり、すぐれた企業博物館の一つの形といえる。
 「史料館」と「技術館」の中間的性格としてガラス土石、装飾品業界がある。ガラス、陶器、装飾品は大衆に興味のある業界である。硝子業者がガラス美術館を、製陶業者が陶器美術館を併設するのは当然のことで、いずれも産業館か啓蒙館の形をとっていることが多い。

3-2 企業の博物館設置目的はなにか。

殆どの館が複数の回答 (表2)をしている。展示の内容は史料の保存であったり、宣伝普及であったり、社員教育のためであったり、これらが混在している。全施設平均でみると、最も多いのは、当然のことではあるが、企業史料の保存が1位で64%、関連業界の理解のためが47.3%と続く。つまり自社の史料を中心に収集保存し展示しているが、その時代の業界の背景となる商品や、他社の同種製品などを収集し、当時の地域や業界の背景もあわせて理解できるようになっている。企業博物館の設立の目的が、かなり明快に理解出来る数字である。
 観光地対策が大きい比重をもっている業種は、装飾品80%、ガラス・土石58%、酒造54%である。装飾品は一般的に多数の人が興味を持つものであり、鳥羽の「真珠博物館」は、これを代表するもので、年間入場人員も最上位にランクされている。来館者の大部分が観光客で自社イメージの向上に役立てている。
 観光客を全く無視しているのは、印刷・事務機、化学・薬品、機械・自動車、建設、精密、製紙、電機である。
 企業理念や創業者の創業の精神を理解させるのに最も熱心なのは、電機67%、繊維45%である。それぞれ優れた創業者を持ち、社員教育にも創業者精神の理解などを重視している。この項目の少ないのは、醸造0.03%でついでエネルギーの0.05%である。
 業界の資料センターとして設置したのは、製紙100%、精密43%、生活関連31%となっている。製紙は前述のように業界の情報センターとしてすでに確立されているが、それ以外も、業界において指導的役割の企業が含まれている。記念事業として設立した博物館も38施設18%あり、創業○○周年などに作ることが多い事がわかる。

3-3 設立時のターゲットとした利用者像は何か。

表3
 公開の施設はどこでもそうであるように、出来るだけ大勢の人に来て貰いたいのが本音であろう。といっても、誰でもよいと言うのではなくて、狙った人が来てくれる様に、収集も展示も考えられている。ターゲットを明確にして、博物館の企画を作るのは当然のことである。
 全体の平均は、一般人を対象としたのが80.3%で一番多く、続いて観光客48.6%、学童生徒47.6%、地域住民47.1%となっている。一般人をとくに強調している業種は、エネルギー92.5%、繊維90%、金融85.7%である。「一般人」という設問は、良くなかった様である。一般人という括りは明確でなくて、興味のある人々は誰でも入館してもらいたい、だれでも入館していただき、わが社に興味をもっていただき理解してもらう、という事になると、多くの公開施設はそのように希望するだろうと思われる。したがってここでは、逆に一般人を対象としなかった施設は何処かという方が、その特徴が明確になる。それは機械の62%、電機の43%であった。機械と電気業界は社員教育の比率がとりわけ高い。電機の100%、機械の68%が社員教育を重点的に対象として取り上げている。会社の理念や創業者の考えを強く打ち出した結果、あまり一般人に無理強いしないというような考えなのではないかという興味深い結果を示している。
 学生・生徒を対象とした業種は、エネルギー80%、通信71%、機械70%である。これらは学生ばかりでなく一般大衆に理解を求めなければいけない企業である。あるエネルギー施設では、学生や生徒を対象とすると、学校や、家族をふくめて多くの入場者が見込めるので、効率がよいとの意見があった。機械では「トヨタ」と「IBM」が学童に力をいれているように見られる。 
 地域住民目的としては、何といっても、エネルギーがトップの78%で、あとはずっと低くなり、通信の57%以下となっている。エネルギーの地元重視は、特に原子力発電関連施設では、もっとも大切な項目である。地域住民重視の館では、博物館機能以外の付加価値にも気を使う館が多く、エネルギーの2館では、ときには簡単なお土産を用意するので、これの工夫が大切であるとの意見をいただいた。
 観光客を対象としたものは、装飾100%、ガラス土石92%、醸造81%で、いずれも販売品を置くことが多い業種である。諸展示を見てもらうと同時に、観光客にお土産として関連する商品の購入を期待しているように思われる。印刷、機械、建設、精密、製紙、鉄鋼はいずれも観光客対象は0であった。
 研究者を対象とした業種はたいへん特徴的である。製紙100%、精密83%、印刷・事務機67%、それ以下はずっと少なくなって、低いのは、エネルギー0.1%、醸造0.06%、0の業種も多い。前述の観光客対象館と、丁度、正反対の業種となっていることがわかる。この種の館は、博物館の機能である、収集、保存、展示、教育に忠実な施設で、研究者の研究にも耐えうる正確で、しかも豊富な資料を収蔵し研究者に役立たせている。
 社員対象館を調べて、思ったより少ないのに驚いている。折角の史料や歴史的製品を集め、また新技術の先端的研究を見せているのであるから、社員の教育としては最適の場と考えるがいかがなものか。創業者の理念や先輩の業績を振り返るのは、社員にとってはたいへん意義のあることであると思う。電機の一社からのご意見で、定期的に社員を集め創業者の企業理念について研究会を開催しているとの報告もあった。電機の100%、機械の68%が社員教育を対象としている。  

3-4 企業のイメージアップに役立ったか。(貢献項目)

 殆どの館といえる92%の館が「企業のイメージアップ」に役立っていると答えている (表4)。
どのようなイメージアップに貢献しているかは、「伝統ある企業」というイメージが向上した、というのがもっとも多く53%であった。殆どの業種でこの項目をあげている企業が多いことは、博物館の機能そのものが、歴史的資料の収集に重点をおき、企業の歴史や伝統を伝える施策であることからもうなずけるが、対象的な位置に、エネルギー産業0.05%(最低値)がある。エネルギー産業では企業の歴史や伝統はむしろ無視され、新技術や安全性、公共性ををうたい、地域の住民とのコミニケーションに博物館を役立てようという姿勢がありありとよみとれる。「親しさ」の項目では、エネルギー産業は36%と高位にあることを見ても、エネルギー産業の企業博物館の目的がハッキリとみえるように思う。
次に「文化の香りのある企業」をあげた館が43%。この項目では、小売り業の83%、ガラス土石75%、生活関連73%と商品の販売品のある業種が高い。
つぎに「社会貢献をしている企業」というイメージが続き42%となっている。博物館そのものが、文化的であり、社会貢献事業であると考えて発信している企業も多い。金融の71%、エネルギーの62%も、社会への貢献企業である事を周知させたいということををあげている。「親しさ」23%もエネルギー、通信・放送の公共企業と、機械・自動車の業種で多いのが目立つ。「高品質・高技術」21%では、精密器機が71%と抜き出て、その他の企業はいずれも関心の少ない予想外の数字が出ている。
「大規模企業」とか「力づよさ」の重高長大イメージを訴えたい企業は非常に少なく0.01%にすぎなかった。これは日頃の企業イメージと博物館イメージの印象的落差の大きい項目であった。

3-5 どの項目に効果があったか。 (貢献項目)

表5
 全館数の51%が史料の保存に役立っているというのは当然のことのように思うが、最高値で51%しかないと、少々考えさせられる。博物館で歴史的資料の保存に役に立っているというのが、約半分しかないとはどう言うことだろうか。前述の調査でも判るように、企業博物館のもっとも期待していることは企業のイメージアップであり、それに企業史料は半分位しか貢献しない、と言うように読める。学童生徒に企業のことを理解して貰ったという項目も同じく最高値の51%である。企業遺産の保存と児童生徒への貢献が同数というのは、極めて興味深い。これは企業博物館の大きな特徴であるといえる。半分は史料派、半分は啓蒙派と企業博物館の目的は大きく二分されていると考えてよいと思う。
 エネルギー館の場合、企業内容の理解に最も効果があったという。85%と高率で、啓蒙、産業館系の館として、面目躍如たるものがある。企業博物館の企業PR効果は十分な手応えを感じさせる。
史料歴品の保存に役立ったのは、製紙100%、建設100%、食品100%、精密87%、化学・薬品83%、醸造74%で、啓蒙館系のエネルギーは10%で最低値となっている。
 観光客対策に役立っているのは、醸造83%、ガラス・土石76%、装飾60%、エネルギー56%で、観光客を無視しているのは、印刷、機械・自動車、建設、精密、製紙、鉄鋼、電機である。
 研究者の役に立つ、業界の資料センターとして役立っているのは、製紙「紙の博物館」が最上位にランクされている。
 社員の教育に最も効果をあげたのは、電機館で70%で断然1位。
 顧客や販売店の役に立ったと、宣伝の役に立ったという企業は予想に反して一様に低い。販売と博物館の連携は組織的に難しい様である。

3-6 企業博物館の所属と公開方法。

表6
 企業活動の一つとして、企業博物館を運営するとき、多くの費用が掛かる割には、直接的な利益をもたらさないと考えている館が多い。調査の博物館の多くは、後述する様に企業のトップの史料や博物館に対する考え方が最も大切であり、博物館の開設だけでなく、その後の運用にもトップの意見に左右されると述べている。
 役員室所属の館は14%と以外に少ない。印刷の67%、化学の50%が目立つ程度である。しかし個々に尋ねてみると、総務部に属しているが、担当役員がいるところが結構ある。
 広報部門所属はエネルギーの68%、精密機器の50%、それ以外はずっと少ない。エネルギーは博物館を広報戦略の一手段と考えているようにも見える。家族ぐるみ引きつけて、ときには簡単な土産物を用意すると答えた館もエネルギーの2館である。
 総務部門担当も意外と多く機械67%、精密機器50%で、役員室に直結している館も組織上は総務部門に属していることがある。
 公開方法は、80%の館が、何時でも自由に見てほしいという。しかし予約が必要という館も36%あり、かなり混雑するので予約の必要なところと、殆ど来館者がないので、来る時には予約が欲しいとの二つに別れる。案内の都合上団体は必ず予約してほしいという。
 有料の館は全体で17%である。これも、展示物に自信を持っている見識のある館と、少しでも費用を頂けば助かるいう館の二つに別れる。「島津創業記念館」では、1年程前から有料(300円) にしたが、有料になってからのほうが来館者の態度が良くなっており、それでいて来館者の数に変化はないという。企業博物館は無料の館が83%と圧倒的に多いが、有料か無料かはむづかしい問題である。

3-7 史料の収集組織と担当者について。

 企業の歴史資料収集は決まったルートが作られていないと、紛失してしまうことが多い。担当者が変更になったり、組織がかわったりすると保管されていた史料が、どこか無くなってしまう。史料の収集には、きっちりと決められた収集ルートを作ることが必要である。組織が大きくても小さくても収集の規則つくりが大切である。企業が史料の収集に掛ける熱意を問うてみた。
 博物館の調査であるにもかかわらず、史料収集を博物館が担当しているのは40%しかない (表7)。博物館が担当する業種は上位から、ガラス70%、運輸交通66%、醸造52%の順となっている。この上位3業種のなかで、収集規則、担当者、コード表のある館はきわめて少ないことが判る。これらの企業博物館の役割は何であろうか。史料が見つかると博物館にいれるが、規則も担当者もいないというのであれば、何とはなく収集、保存、展示していると言うといい過ぎになるだろうか。企業における博物館戦略の一端を見る感じがする。企業博物館は一部の開設理念のはっきりした著名館を除いてその殆どは、昔の古いものを展示して来館者に見ていただくという程度のものと考えてよいようである。

              ガラス・土石 運輸・交通  醸造業
   収集を当館が担当    70%   66%    52%
   収集規則あり       0%   33%  0.03%
   収集担当者がいる    10%    0%  0.03%
   コード表あり       0%   17%    16%

 全業種で14%の企業は収集規則があり、29%の企業がコード表をもっているが、担当者のいるのは11%に過ぎない。
 多くの企業博物館は、収集、保存、展示という、博物館機能はない。

3-8 展示面積・入場者・見学時間・担当者

表8 表9
 展示面積の広さの全平均値は1033uとなりかなり広い。一般的博物館の常識的広さにくらべて大きいのは、企業博物館の特徴である施設の見学コースを持った産業館と、展示物の大きい交通関係の博物館や産業遺構を持つ館があるからである。「サッポロビール博物館」は、見学コースと一緒になった本格的博物館であるが、展示のスペースについては答えられないという。何処からどこまでが展示スペースと言ってよいか判断できないのであろう。またかなり広い試飲ホールもある。これは企業博物館に共通した問題で、平均の広さが1000u以上ある業種が8業種もあるのが企業博物館の特徴である。自社の製造設備や産業遺構の見学は企業を理解する重要な博物館要素のひとつであると考えると当然と思う。
 同じように、収蔵庫をもった博物館が少ないのも特徴の一つである。全館の51%の館が収蔵庫を持っていない。これは製造施設や遺構そのものが展示品になることと、エネルギー館等の啓蒙館では展示を更新したときに、古い展示の殆どは廃棄されるからである。これはつねに新しい技術を展示し、集客のために展示の更新を繰り返すためである。エネルギー館の収蔵庫を保有する館数は21%で、見学コースをもつ鉄鋼とともに最も低い数値となっている。
 企業理解のために設置した企業博物館の役割のひとつに社員の教育がある。博物館を設置したからには内容を充実し、社員の教育に十分に利用されていると考えたが予想外の数字がかえってきた。入場者のなかで社員の占める割合は、電機22%、通信放送9%、他は殆ど関心がない数字となっている。別格として創業理念の理解に力をいれている電機では、新入社員だけでなく販売店の教育にも利用されている。
 平均見学時間は、総平均で55分となっている。鉄鋼の100分〜製紙の30分まで様々であるが、年齢の若い人は短時間で終わってしまい、年をとるにしたがって長い時間をかけるという。若い人は文字を読まないで、自分で触れたり動かしたりする展示に集中し、高年の方は逆である。また工場設備の見学がルートに組み込まれていると、どうしても長くなり60分を越える。全体の見学時間を60分が限度である(見学ルートを持った醸造著名館)と言う意見がある。
 入場者の平均年齢は、総平均34.3才であるが、その他業種46才、精密44才、印刷43才と高齢者が多く、エネルギー31才、電機28才、運輸24才と若くなる。とくにエネルギー館の入場者は、若年(12才以下)と高齢(60以上)の人がいて中間値がなく、平均値は取りにくいですよ、との指摘があった。まあどちらかと言うと若い人(学童)が多いのでこの程度の数字になったという。学生生徒が団体で工場見学にくる施設は企業の貢献項目にも生徒対策に高い数値がでており、企業イメージをあげるのに有効であるという結果が出ている。また子供の喜ぶ施設をつくることが、家族も一緒に参加するので効果的(通信著名館)であるとの意見もある。この入場者の平均年齢はあまり参考にならない。むしろ、どの年齢層をターゲットにするかと言う博物館の方針が大切で、それによって館の性格が大きく左右される。
 専任担当者の居ない博物館が結構多い。企業の収益と直接に結びつかないと考えると、なるべく経費をかけないようにするのか、あるいは居なくても間に合う程度の博物館機能しか持たないのか、専任者の不在館が50%を越える業種は、印刷67%、醸造62%、食品64%で、いずれも仕事の合間をみて兼務者が博物館業務を担当しているものと考えられる。

3-9 休館日・販売品・年報について。

表10
 日曜は電機、鉄鋼、金融、印刷が100%休む、ついで精密、化学・薬品、機械と、段々と日曜祭日も開館するところが多くなる。啓蒙館のエネルギー館では日曜休館は17%しかない。年中無休というのは全体で8.7%、醸造5館、繊維3館、ガラス2館のように販売品のある館が多い。装飾業も年末しか休まない。観光客相手の館と住民重視の館は日曜祭日に開館しないと意味がなくなる。そのための特別の勤務形態をとることが重要という意見(醸造著名館)がある。観光地や市内の複合商業ビルに併設されたところは、ビルの休日にあわせて、無休となる。最近これが増えるようになった。担当者兼務の館は、会社休日にあわせるところが多くなっている。
 販売品の有無はかなり大切であるし、館の性格を左右する。全体の35%の館は販売品をもっている。最近はやりのミュージアムグッズやカタログ、展示目録の販売、企業本来の商品の販売など、いろいろな販売品があるが、今回は販売品の種類を質問する事をしなかったので内容は明らかにできなかった。最近物品の販売が好評であるとの意見がでて販売を始めた館もあるが、販売品の選定はなかなかむづかしい(エネルギー館)、良質なショップの経営は企業博物館にぜひとも必要(その他館)、との意見があった。
 14%の館は年報を発行している。博物館を組織的に運用するためにも必要な項目であるが、印刷、機械、金融、小売業、醸造、生活関連、鉄鋼、電機に発行している館は無い。その他の業種もそれぞれ1〜2館と少ない事が目立つ。この数少ない館は設立の古い著名館である。このあたりも企業博物館の特徴的項目といえる。

4  新設館へのアドバイスにみる企業戦略。


 企業博物館を新設するとき、どのようなことに注意して、企画、建設運営しなければいけないか、既設館の経験を生かして述べて欲しいという質問をした。ご意見は92館から250件を越える、多くの意見をいただいた。
1 はじめに
2 調査の方法
3 結果及び分析
4 新設館を成功させる既設館のアドバイス
5 考察・企業博物館戦略
6 おわりに
7 引用文献・参考文献
博物館の形態、業種、設立年度、所在地、著名館、などによってかなり異なる意見があり、方針とか展示などの項目ごとに纏めてしまうと、ごく平凡な意見になってしまうので、あえて纏めることはしなかった。それぞれの館種を頭において読んでいただくと大変判りやすく有効なご意見が多い。また、各業種の企業戦略の概観を十分に読み取ることができる。
 最も多く重要なご意見は、博物館の位置づけのようである。○○記念とか、会社の景気のよい時に博物館の建設はしたものの、後々の運営には、人もなければ、金もないという事態にならないようにすることで、「作るより後のことが難しい」との意見に集約されるようである。何のために、何処に、何を作るか。企業としての戦略を、十分に論議したうえで、トップを含めた全社のコンセンサスを得ておくことが重要であるという戦略以前の問題が提起されている。
 著名館のご意見をまとめると、およそ次のようになる。これは企業博物館全体を通じて、もっとも必要なことであり、重要な意見であった。

  @確固たる博物館建設のコンセプトをもつこと。
  A運営予算を確保すること。
  B質問に答えられる豊富な知識の担当者を養成すること。
  C偉大なプロデューサーをもつこと。
  D常に時代を感じるセンスを持って運営にあたること。

★印は筆者のコメント。・印は既設館のご意見。

4−1 運輸・交通館の意見。

★自由に見せて、楽しませて、企業イメージを上げようという施設である。交通に事故は禁物。事故にはかなりの注意を払っている。
・展示物は展示するだけでなく、自由に使え、触れることが出来て動く、そしてすぐに結果のでるシミュレーターなどが喜ばれている。
・危険防止と、いたずら防止に、展示物の陰など目の行き届きにくい場所には監視用のモニターを設置すること。絶対安全。

4−2 エネルギー館の意見。

★企業理念をいかに明確に打ち出せるかということに専念し、広い遊び場をつくり、家族揃ってエネルギーへの理解を進めている。またこの業種がもっとも明確なコンセプトを持っているのに、社内での位置づけがハッキリしないという意見や、運営体制をハッキリさせること、と言う意見のあるのはどういうことか不思議になる。
@方針・ターゲット
・社内での位置づけをしっかりしておくこと。(2館)
・運営体制をはっきりさせること。
・博物館の設置の目的、見学対象者像をはっきりさせる。
・対象は出来るだけしぼり込み明確にすること。
・企業の理念を明確に打ち出すことにより、館の方針、特徴が出る。
・館の方針を明確にすることは大切であるが、それを全員が理解していることがもっと大切である。
・集客を図るのに子供、家族をターゲットにした展示、イベントの開催を考えた方がよい。また、企業色は出来るだけすくなくし、住民の憩いの場として気軽に来館していただける様な設備、雰囲気を作ることが大切である。
・無料か有料か(エネルギー企業の場合は無料が多い)難しい。
・展示品の修理にかかる費用を予算化しておくこと(開館後)。
A展示
・時代に相応しい、洗練された遊び心のあるものにする。
・新しいレジャースポーツとなるような展示物を考える。
・社会への貢献をアピールするコーナーの設置する。
・エコロジーリサイクルを提唱する商品の展示。
・暮らしや趣味に関する新情報のあるコミュニケーションスペース。
・見学者といかにコミュニケーションが図れるかがポイント。
・地域社会へ文化貢献のできるギャラリーやホールの併設。
・学校週休二日制への対応(科学実験コーナーなどの設置)。
・館内に一つでも珍しい目玉商品を展示すること。(3館)
・参加型の展示物の充実。・娯楽性を取り入れる。(2館)
・展示物、映像物の更新を頻繁におこない、リピーターを確保すること。
・ディズニーランドの三大方針の一つ「常に未完成であれ」は、名言である。
・展示施設の更改時期の判断が大切。
・子供と女性をターゲットとした内容のものにすると、家族連れ、カップル、女性同士のグループと、来館者の幅が広くなる。(2館)
・創業から戦後の混乱および現在までの長い間に培われた技術が、優秀な製品を作ることに不可欠であるという歴史を示して、企業に親しみを覚える展示をする。
・教育が最高のアミューズメントと考える。
・たまにはシャープペン、ボールペン、下敷き等を土産にする。
・幅ひろい世代に理解できる内容とし、専任のガイドを配置して、企業を展示物と解説をつうじて理解させる。
・展示品そのものだけでなく、地域周辺の資料を収集することにより、企業の背景などを判りやすく説明することが必要である。
・見せる側の立場に立たずに、見る側の立場でつくること。
・子供のいたずら防止。
・各展示物のメンテナンスの配慮。
B担当者
・説明者、案内者が来館者に好感をいだけること。
・企画力や展示の専門的知識、技術力を保有する人材を確保すること。
・案内担当者の採用は、国際化に対応して語学力保有者の採用する。
・説明員の役割は(説明役か、案内役か、監視役か)接遇面での質。
・係員の教育は最重要な課題。
・ガイド(案内者)の知識、数の充実。
C設備
・当館においてはPR館の回りを約26000uの公園(テニスコート3面を含む)としたことで次世代を含めた多数の皆様が訪れてくれる。これで企業イメージの向上等、大きな効果をあげていると思う。
・団体見学者(大型バスなど)も乗り入れ可能な駐車場の確保。(3館)
・食事をとる場所の確保(雨の日に特に必要になる)。(2館)
・動く模型、AV機器の故障、修理、メンテナンス、庭のある場合は植裁体制を整えておくこと。
・洗面所は特にきれいな方がよい。
・ミュージアムショップの設定(オリジナル商品以外の選別は大変難しい)。
Dその他
・好まざる客(ホームレス、精神異常者、宗教関連)の対応。

4−3 化学・薬品館の意見。

★展示物、資料もかなり限定しているので、博物館としての機能を持ちやすい業種である。内藤記念くすり博物館の意見に代表されるように、スタッフ、事業資金、長期計画が最も重視されている。
・建設担当者の方が実際に国内外の博物館を見聞きし、これからの博物館はどうあるべきかという理念をはっきりさせること。
・博物館の性格に沿ったスタッフを揃えること。
・活動に応じた事業費を用意すること。(2館)
・長期の活動計画を遂行できる組織と、小回りのきく組織を組み合わせると良い。
・展示目的を明確にすること。
・独自性が高い、他所には無い展示品を作る。
・自社が得意とする分野に限定する。
・見学者が身近に感じられるような展示をする。
・歴史的な部分は正確に、それと「今日」との繋がりを明らかにする。
・開館時間、休館日は、立地や来客層を考えて適切な結論を出す。
・二度と入手不可能な動物、鉱物生薬があり、これからの若い漢方を研究する方又、興味有る方々にぜひ紹介したい。
・日本国内に数少ないこの資料館を、薬学、医学関係者に紹介したい。
・現在の収集品の図録を作製し、販売することを考えている。
・館全体のメンテナンス計画と予算の設定。

4−4 ガラス・土石館の意見。

★博物館規模が小さい業種であり、入場料の有無が問題になっている。販売品が多く、観光バスの乗り入れや駐車場、トイレ整備が問題。
・当社の場合は無料で、常に目新しいものを少しずつでもいいから変えてゆくので、同じ方でも2〜3回と来館してくださる。
・入館無料にすれば当然維持費が問題となる。当社の場合は展示販売コーナーがあり、また立地条件が観光ルートに入っているので良い。
・資料の紛失や汚損の防止のため、完全な設備、監視体制を強化。
・駐車場の確保。バスの運転手、ガイド、添乗員、一般のお客さん等の休憩所の設置。
・オープン間もない時は、館のPRに努力していくこと。

4−5 金融館の意見。

★企業色を出さないことを重視しているが、殆どは金融機関の館内に併設されている。専任者が少ないのもこの業種で、社内での位置づけもハッキリしていない。
・社内での位置づけを明確に設定すること。
・展示物を通して間接的に企業の内容、目的、方針を理解してもらえるように、展示レイアウトを工夫する。
・企業色を色濃く出さない展示を心掛けることにより、多方面からの注目をあびることとなる。
・人にみてもらえるような開放的な雰囲気。
・テーマを定める。
・展示品の説明はパネル、ナレーションより館員が案内し説明する方が喜ばれる。
・貯金箱といった見向きもしなかった資料が、歴史を辿るとお金の誕生と同時に発生していたなど、貯蓄に関連した経済史が理解できる。
・他の文化施設等と見学コースに入るような立地条件が必要。
・来館者を増やすには団体の誘致をはかること。
・専任担当者を設置すること。
・設立準備よりも開館以降の方が大変であることを認識した方がよい。

4−6 建設館の意見。

★竹中大工道具館の意見である。さすが、著名館であり、しっかりしている。
・設立目的、方針の明確化。     ・事業運営計画の確保。
・学芸員専門家の配置。       ・学芸的専門家の育成。
・運営資金の確保。


4−7 醸造館の意見。

★意見はかなり多く、規模の大小が極端になっている。いずれも入場者増に期待をかけているのがわかる。大型駐車場、団体の勧誘、展示品の充実、館内の混雑、館の徹底PRに意見が多い。
@方針・ターゲット
・地道に長くつづけてゆくこと。
・健全な財務体質をつくること。
・方針と、営利か非営利かを明確にすること。
・文化(酒)について考えること。
・そんな大それたことを考えて運営しない方がよい。
・ユニークさが大切。
A展示
・展示の内容をどこに絞り込むのか中心を考え、そのテーマに添った全体像を作ることが大切と思う。
・イベントをどう仕掛けていくか。私どもも開設十年になるが、とかくマンネリになりがちな運営となってしまっている。
・判りやすく面白さのある展示。 ・社品の宣伝は適度に抑える。
・知的好奇心を満足させる展示。 ・従業員の"おもてなし"の心。
・来館者に理解される展示。
・「何が何でもお客様を楽しませる」精神。
・適度な見学時間の設定。観光客を対象とする場合は限度60分。
・収蔵保存庫の充実とコレクションの充実。(2館)
・他の博物館、資料館にはない、ここでしか見えないものを大きく表にだすことだと思う。
・小人数の場合はゆっくり話しながら案内できるが、バスが何台も集中すると、思うようにこちらの意思が伝わらないので注意。
・企業イメージの扱い方を確認しておく。
・年代順に並べる。
・古文書は現代文に表現させる。
・ビジュアルで、かつ簡単な説明内容とする。
・あらゆる媒体を使い、広告宣伝をするとよい。
・団体客と個人客を区別して対応する。
・見学する意欲を持った人を対象とした運営が望ましい。
・見学者の滞留ができないような見学通路を考える。
・清掃、保管法、入場料。
B宣伝
・設置しただけでは来館者は来ない。積極的なPR努力が必要。
・各種新聞雑誌等から取材紹介してもらえるようになればベスト。
・特別展(期間限定)の開催。マンネリ化を防ぎ、ある程度来館者増につながる一つの方法である。マスコミにもとりあげてもらう。
・地域社会、官公庁などにできるだけ早く認識されること。
・PR活動(楽しさを特に)。
・近くに観光地があれば、観光ルートに入れさせる。
C担当者
・担当者の深い知識。
・専属の案内嬢(人件費との関連を考えて)。
D設備
・観光客対応上、駐車スペースの確保。(3館)
・観光会社のトイレ休憩場所になりやすいので考慮しておく。(3館)
・物販コーナーをつくる。
・即売コーナーの設置は、来場者に親密感をあたえる。

4−8 食品館の意見。

★醸造館に似て、大量観客動員をめざす傾向があり、PRに力を入れている。観光客の誘致も熱心で、駐車場、団体の案内など、そして来館者サービスに留意している。
@方針・ターゲット
・企業内の位置づけの明確化。
・確固たるコンセプトを樹立すること。(2館)
・企業のPRの場としないこと。
・メンテナンスに対する予算計画を当初から作成すること。
A展示
・常に時代の息吹を感じる場とすること。
・企業よりの一方通行でなく施設内に遊び心を取り入れることが、来館者に喜ばれることと思う。
・観光コース的な施設となると多くの団体が入館する。予約制をとっているが、時間がばらばらになり、待ち時間が発生することがある。このことが運営上の最大問題点となっている。(2館)
・資料の保管維持対策と補修、代替品対策。
・メンテナンス経費等の予算の確保。
B宣伝
・広報宣伝活動との連携。
・観光バス全体および旅行会社の連携策。
・観光業者、タクシー会社へのPR。雑誌の取材によるPR。
C係員
・館の長期的運営を考えることのできる専任スタッフの確保。
・休日(土、日、祭)開館の要員確保のシステムの確立。
・偉大なプロデューサーを擁立すること。
・関連知識豊富な専任者の確保。
D設備
・駐車場を確保して、立地条件がよいこと。
・将来にわたって収集するものまで考えた収蔵庫、搬入口等の確保。
・資料の展示優先でなく、設立後の目的を持った機能を優先。
・駐車場対策とトイレ設備の充実。

4−9 生活関連館の意見。

★小規模館が多く、博物館が企業にどのように役立っているかがポイントとなっている。社内のコンセンサスを十分にはかり、納得性を重視した業務の展開を望んでいる。10年たつと何とはなく役目が判ってくるという意見は説得力がある。
@方針・ターゲット
・経費のかかる事業なので、仮に入場料を取るとしても採算はとれるものではない。したがって、それだけの出費があっても運営を続けられるように、社内のコンセンサスを事前に得ておくことが大切である。
・成功させるポイントではないが、開設して10年くらいたつと何か企業や社会のなかで、館がはたしている役割が見えてくる。
・あらかじめ長期ビジョンを確立しておくこと。
・社員全員の認識、協力が必要。
・年間予算の明確化。
・催し物の資金確保。
A展示
・レイアウトのコンセプトを明確にして来館者が納得し易くする。
・一人よがりの自己満足にならないよう、第三者が見て面白く楽しい博物館になるような展示物、展示方法を考えるべきである。
・順路はストーリーを持たせて面白く見れるようにする。
・自社のPRを前面に出さない。
・遊び心を採りいれたディスプレイ。
・案内者は来客のニーズに合わせて説明するようにする。客の要望に関係なくバスガイドのように一方的にしゃべると満足度が減少する。
B係員
・形だけの館員でなく、心からその博物館員になりきれる人が必要。いつも頭の中に博物館を良くする事しか考えておらず、その為常時アイデアがポンポンとびだす人が居ること。言われたことはきちんとやるが、それ以上のことはやらないという人は何人いても進歩しない。当社は2ヶ月毎に展示内容の変更があり、来客もリピートする。
C設備
・交通の便が立地上の大きなポイントになる。
・駐車場、休憩場等、団体客を取る事に必要な施設の整備。
・展示品によっては、温度湿度の調整が大切なものがある。

4−10精密機器館の意見。

★博物館らしい博物館が多い。とても金儲けにはならないが企業貢献として、企業のトップの理解をえて、地道な活動を望んでいる。
・企業トップクラスの継続的な理解。
・金儲け主義的な考えを起こさないこと。
・顧客には出来るだけ親切に対応すること。
・入場料は無料にするよりも有料の方が見学態度が良いと思う。
・団体客が重複して多人数になった時の処遇を検討しておくこと。
・万一、事故、災害(有時)の時の対応は要検討である。

4−11繊維館の意見。

★繊維は美術品の展示館が多い。有料で企業色をなくし、楽しめる博物館となっている。学芸員のいるところも多い。
・先ず遊び心を、そしてまた、遊び心を。
・限りなく企業色を無くすること。(2館)
・来館者が楽しめる、あるいは又来館したくなる施設づくり。
・すべてのスペースに余裕をもたす。
・展示運営をする学芸員は開館準備からプロジェクトに参加すること。
・全体のスペースをゆったりとる。
・遊びの部分(空間)をつくる。  ・照明はできるだけ明るく。
・順路を明確に。         ・読ませるよりも見せる。
・保存方法。温湿度関係調整を専門家が行う。
・当社の場合、土蔵を改造したため空調問題の難問を抱えている。
・メンテナンスを十分考慮に入れた建築設計。建物と内容(展示)の不整合のないよう当初から考える。
・運営の人数はなるべく必要最小限にする。職員が多いと比例して活力が失われる傾向がある

4−12通信館の意見。

★大企業の啓蒙館である。広く大きい展示室に、老若男女を問わない生涯学習型の展示をめざす。企業理念の長期的学習に社内のコンセンサスを得ている。大駐車場、団体(学童)の大量動員を図る。
・長期的観点に立った設立コンセプトを明確にし、社内のコンセンサスを確立しておくこと。継続的に相当な費用が必要であること。
・社業に貢献するという、全社的コンセンサスが得られているか。
・高齢化社会の到来で、生涯学習型をめざす。
・企業内の史料が間違いなく博物館へ入ってくるルールを確立しておくことが必要である。企業が大規模になると博物館側が知らないうちに貴重な資料がどんどん散逸してしまう。
・収集整理の人手、時間、人件費がかかること。
・史料のデータベース化を最初から考えた方がよい。
・博物館=古い物、の既成概念を破る未来指向型をめざす。
・知覚、聴覚に訴える展示が必要である。
・多人数で来館した際、館内は人で埋まってしまい、遊べない人もでるから、見学者の喜べる空間を広くとっておく。
・展示の方法は、団体客を主とするか、個人客を主とするか。
・メンテナンスは迅速な修理、対応が可能かどうか。
・交通の便の良いところであれば、旅行会社が活用してくれるので、パンフレットを作成し、近隣の旅行会社へ発送しておく。
・交通案内、高速道路、主要道路、JR各駅等からの案内看板の設置。
・お客に対し、見る食べる買うの欲望を満たせられるか。
・説明員には専門的知識のある経験者が当たること。
・運営維持費の確保をどうするか。当館ではレストラン、売店、有料展示物を併設しているが、維持費をまかなうには至っていない。

4−13鉄鋼館の意見。

★学童児童にターゲットを絞った社会見学施設として運用している。生産設備を見学させて、企業の社会貢献につなげようというもの。
・見学対象者をどこに絞るかが大切と思われる。
・建設の目的を明確にする。例えば、営利を目的とする、完全にボランティアにする等。
・来館者のターゲットを明確にする。
・見せることを目的にするなら、それなりの演出の工夫が重要。
・案内の合理化(ビデオテープなどの有効活用) →受入れ能力増大。
・おみやげ品の検討。
・赤字を出すことの是非について、はっきりと認識しておく →企業PRで社会的貢献ととらえるか、利益は出さないまでも赤字は避けるなどの基本的コンセプトを決めておく。

4−14電機館の意見。

★史料館と技術館の両極端の意見がでている。史料館は社員教育を中心におき、販売店対策を考えているのに対し、技術館は便利な立地で大勢の若年層に企業をPRしようとする。
・設立のねらい、性格、そして予定来館者対象を明確にしておくこと。又自己評価メジャーを定めておくことも役立つことである。(3館)
・安定的(継続的)運営のための、人的、財政的措置。
・全体の流れの中の一業務である事に留意する。
・地理、交通上の有利、近隣他館と競合と相乗効果のバランス。
・交通の便。 ・子供たちにも利用できる内容にすること。
・一般人の利用開放の基準をつくること。
・立地条件。 ・集客力の強化。 ・企業の知名度。
・一般業務とは違う勤務体制に留意する。
・スペースはゆったりと。
・創立記念日には必ず経営理念の勉強会をする。
・企業内の短大、高等工業学校(各40〜50名)で年間社史授業。
 ・記帖・創業者理解月間・目的別分類・広報物への定期紹介
 ・新入社員教育コース、工場見学ルート組込み(社内、得意先とも)。
・映像ソフトを積極的に活用すること。
・説明員の配置の必要。またなくても利用できること。
・専任者がぜひ必要。(我々は小規模なのでいない為) 
・休館の設定。祝祭日又は会社の休日にもオープンするか。
・利用度を上げるためには休日にオープンする。(2館)
・展示品の更新のための設備費(経費)予算措置(長期計画連動)。
・普及活動(各種催し物など含む予算措置)。
・一度来た方が再び訪れるようRepeaterキャンペーンが必要。
・企業方針により異なるものであり、いろいろのものが考えられる。

4−15その他館の意見。

・親企業の継続的な積極的理解(支援)。
・立地条件のよいこと(集客力のある場所)。
・高品質の施設であること(明るくきれい)。
・動きのある楽しい参加型の展示方式をとること。
・お客様の興味のある展示物はなにか、常に考える。
・良質の案内方式(知識の高いガイド、コンパニオン)。
・良質のショップとサービス施設(喫茶室など)。
・展示替えを含めて十分な運営費の確保。建設後は熱意が冷める。
・専門知識のある係員の養成と人員の確保―運営の要になる。
・メンテナンスの容易な展示、運営方法―メンテナンスに苦労する。
・管理スペースに余裕を持たせて建設―必ず手狭になる。
・企業の発展の歴史や、進んできた道を示す資料の展示。企業イメージを訴えるものであること。
・メインテーマについては長い目で考え決める必要がある。時代の流れによるテーマ設定は経過によるズレを生み、存続が困難となることもありうる。また、オープンしてからすぐ"次のこと"を考えなければ 施設の陳腐化が進む。


5.考察・企業の博物館戦略。

以上企業博物館の実態について分析してきたが、博物館法にうたわれている、資料の収集・保存・展示・研究・教育の目的に合う館は、極めて少数である。多くの館は単に名品、古品を陳列誇示し、企業の理論を押しつけているだけといわざるを得ない。
1 はじめに
2 調査の方法
3 結果及び分析
4 新設館を成功させる既設館のアドバイ
5 考察・企業博物館戦略
6 おわりに
7 引用文献・参考文献
それは、まず研究者が少ないこと。今回は研究者の数と言わないで、あえて専任担当者と言いかえたが、それでも少ない数の回答であった。収蔵庫も、コード表も、年報もない館が多い。企業の博物館は、およそ次の企業戦略によるものと分類できる。

5−1  企業戦略1 創業者を讃える社員教育の「史料館」

 創業者の創業理念や遺徳を讃えるもので、社員の教育に重点を置いている。代表的な施設は、松下電器歴史館で、創業者の創業時の苦労や偉業を当時の製品の陳列に並列して判りやすく説明してある。開設目的そのものが社員の教育を目的としたものである。一般人の見学を拒否はしないが、PRもしていない。販売店の主人が事業に困ったとき「ここに来て30分もいると、いい知恵が出てくる」と言うのが、松下電器の企業戦略だろう。他にグリコの江崎記念館、ミツトヨの沼田記念館、西濃歴史館などが同じような目的で建設されている。

5−2 企業戦略2  業界地位の誇示と情報センターの「歴史館」

 歴史の長い企業は、歴史の長さそのものが、企業の優位さを誇示することになる。この歴史的遺産に、さらに関連する業界の収集品を加えて展示している。この収集品が多ければ多いほど、業界に貢献し、業界の中心的企業としての地位の匂いがしてくる。内藤記念くすり博物館を、企業地位の誇示と指摘すると、お叱りを受けるだろう。しかしこの博物館では、くすりの事はエーザイにまかせて欲しいという企業の姿勢を明快に披瀝している。研究員がいてすぐれた年報を発行し、財団の運営ではあるが、エーザイの川島工場の中にあり、薬種園も併設している。自社を育てた業界の歴史的品々の散逸を防ぎ、後世の研究者に役立つように考え、学術的優位と社会貢献を示すものである。
 竹中大工道具館、セイコー時計資料館も同じタイプの博物館である。

5−3  企業戦略3  企業広報部のイメージ戦略 「啓蒙館」

 エネルギー業界、通信業界のように、公共的な責務が大きい企業は、自社が如何に世の中に役立っているかを地域の住民や一般の人々に理解させるための博物館戦略をとる。とくに環境や公害に関係する企業は環境破壊に如何に注意して企業活動をしているかを知らせる。スポーツやゲームの要素をもった施設や、快適な休憩所、大きい駐車場を備え、多数の人を集め企業理念を理解させようとする。KDDでは、学童のパラボラアンテナに持つ科学的興味をうまく利用して、通信の原理を説明し周囲の景観も含めて、年少者と家族の観光地として客を集めている。この種の館は一般に好評である。これらの館は、ホールはあるが収蔵庫はなく、資料の収集もしない、学芸員もいない、展示物は一回限りの作り物が多いのが特徴で、最近のテーマパークの一つともいえる。難しい科学知識を判りやすく理解させようとしているので、学童や親にとっては一度は行って見たくなるような施設である。同時に設置企業の目的である企業の社会的役割についても良く理解させてくれる。
 「UCCコーヒー博物館」も優れた「啓蒙館」のひとつである。コーヒーの知識を判りやすく説明し、クイズなどで楽しく理解させている。ユニークな外観や、UCCの本社ビルと並列にあるのも、企業の博物館にかける、なみなみならぬ戦略が感じられ、同時にそれは、コーヒーにかける同社の熱意を人に強烈に伝えている。

5−4  企業戦略4  技術誇示と商品PR。「技術館」

 ショールームをもう少し発展させたもので、商品そのものもあるが、機械の動く仕組みや、安全性、より高度な技術の解説、企業の技術がどの様に社会に役立っているか、過去のものよりも、むしろ未来のものに重点を置いた展示をした施設が多い。製品の信頼性のベースになる技術について理解させ、企業の将来の発展性や未来の夢を語る。科学博物館の要素のある判りやすい展示の館と、販売店や社員教育のためにも使える難しい館がある。やさしい館は市街地のビルのなかにあったり、ショールームの一部にあったりもするが、難しい館は普通、研究所や開発部門の中にあることが多い。松下電器の技術館は難しい館で、これを全部理解することはかなりの基礎的知識を必要とする。したがって来場者も関係者に限られているのではないか。NISプラザもこの種の館で、子供にも理解できるようにやさしく展示したのは、放送文化館である。

5−5 企業戦略5  工場見学を楽しみ、お土産つきの「産業館」

 最近のビール工場や食品工場は、初めから見学通路を考えて工場施設をつくる。見学窓や解説のパネルなどの位置は見学者の都合を考えて作られている。さらに植え込みや池など、工場の環境についても見渡されるように設計されている。見学者は自分がいつも口にしている飲食物が素晴らしい工場で出来るのを見て安心し、その上に試食品のお土産があると、さらに親しみを感じてくれる。新製品の味についてのアンケートをとったりすることもある。昔の技術や風俗を産業遺構とともに見せている館もある。醸造業は古い建物や道具を、繊維は工場や設備の跡を、食品の味噌醤油業にも多い。この戦略は消費者との距離を少なくする優れた企業戦略であるといえる。グリコピア神戸は前者の新しい施設であり、サッポロビール博物館や白鶴酒造史料館は旧工場施設である。

5−6  企業は博物館に何をもとめているか。

 企業の博物館に求めるものはなにか。企業の資料館としての役割と、企業理解のPR館と考えてよい。費用のかかるわりには役に立たないという声もあるが、有ると無いでは大ちがいで、長い目でみるとその効果は必ず企業に帰ってくる。企業に長期的戦略の出来る人がこの場合のキーマンで、企業トップの理解が必要というのはそのためである。また創業者社長は博物館活動に理解が得られやすいのもこのためである。企業の威信をかけた大規模な博物館をつくるのもよし、ささやかな資料を必要な研究者に役立てるのもよい。しかし、企業が企業理念を掲げて企業活動をしている以上、博物館に企業効果を期待するのは当然である。
 アンケートにも明らかなように、その求めるものは「企業イメージの向上」であることがわかる。

5−7 「企業博物館」とは何か。

 企業博物館とは「自社の歴史とその背景の保存、企業理念の理解のために企業が設立した博物館」と考えたい。ここで言う「博物館」という概念がひっかかってくる。博物館法に期待されている「資料収集・保存・展示・研究・教育で、国民の実生活の向上をはかる」というのは、企業博物館に全部はぴったりとはあてはまらない。企業博物館の目的は、先に述べたように企業活動そのものであると言える。「特定専門博物館」7)として十分に通用する館もあるが、それでも企業の広報・宣伝活動の場といえる。会社の色を出さないと言う館も多い。会社の色を出さないボランティアでも、会社の色を出さない企業広報活動の一手段であると考えられてよい。企業博物館は、最終的には企業に何かをもたらさなければならない。それは「どう言う目的で」「誰に」「何を」というような方針を、あらかじめ企業は決めて設立しているはずである。しかし現状では、設立後時間がたつと、このコンセプトもハッキリできない館が多いことが、アンケートで判明している。
 企業博物館は、企業目的で「自社の歴史とその背景の保存、企業理念の理解のために企業が設立した博物館」ということになり、「博物館」というものの、博物館法に求める「博物館」との違いは明確である。

6.おわりに。

我社に企業博物館を作ろうと考えたのは丁度2年前で、早速、博物館について勉強しようと調べたところ、放送大学の「博物館学講座」がみつかった。講座の指導担当の矢島国雄教授にお願いしてこの調査を実施し、研究レポートとして纏める事が出来たことを大変な幸せと思う。矢島国雄教授には、本論文の作成にあたっても、ご多忙にかかわらず貴重な時間をさいていただいた。
1 はじめに
2 調査の方法
3 結果及び分析
4 新設館を成功させる既設館のアドバイ
5 考察・企業博物館戦略
6 おわりに
7 引用文献・参考文献
丹青総合研究所の里見親幸氏には、今回の調査対象とした企業博物館のリストについて多くのご助言を頂いた。今回のアンケート調査は、快くご回答いただいた多くの企業博物館の担当者の方々、訪問調査に貴重な時間を割いてご意見をいただいた方々 およびコニカ企業文化室の諸氏のご好意によって出来上がったものである。ご協力頂いた皆様がたに心より厚く御礼を申し上げる。

7.引用・参考文献。

1)企業と史料(2)産業遺産の保存と企業博物館
   87.7企業史料協議会
   期待される企業博物館像  佐々木 朝登
2)The New Thrust of 
  Corporate Museum
      "Museum News"1986
       Victer J.Danilov
1 はじめに
2 調査の方法
3 結果及び分析
4 新設館を成功させる既設館のアドバイ
5 考察・企業博物館戦略
6 おわりに
7 引用文献・参考文献
3)企業と史料(2)産業遺産の保存と企業博物館 87.7企業史料協議会
    企業博物館・史料館の実態に関する調査報告 里見親幸 安井亮
4)季刊 MUSEUM DATA 1988.4 90.7 91.8 92.8 93.8 
                      丹青研究所・文化空間研究部
5)最近設立された企業博物館の館名所在地メモ      里見親幸
6)全国博物館総覧 1978年 社・日本博物館協会編 株式会社ぎょうせい
7)博物館学講座 昭和56.1月 1巻・ 200頁      雄山閣出版株式会社
8)博物館学序説 昭和52.9月 加藤友次著       雄山閣出版株式会社
9)毎日グラフ別冊 にっぽん全国 企業博物館 1988年12月毎日新聞社
10)日本の博物館 13巻 産業の発達史(企業博物館)昭和56年5月
                                        吉田光邦編  講談社

8.その他

この論文は下記の出版物の転載です
書名 企業博物館戦略ウの研究
発行日 1994年1月31日
発行所 コニカ株式会社