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1.どんな発明だったら特許される?特許出願は特許庁に宛てて行います。そしてその出願について審査請求を行いますと、特許庁審査官の審査を受け、それにパスすれば特許されることになります。しかし、発明が特許要件を満たさないなど法定の拒絶理由に該当する出願については、拒絶査定、すなわち特許できないという旨の査定を受けます。したがって、特許されるためには、その発明についての特許出願が特許法に規定の拒絶理由に該当しないことが必要です。(1) 特許出願についての拒絶理由拒絶理由、つまり特許されないとして出願が拒絶される原因には、以下の1.〜10.などがあります(これ以外にないわけではありません。特許法49条を参照)。これらに該当しないなら、その特許出願について特許査定され得ることになります。
(2) 注意すべきこと上記のうち、出願に先だってエンジニアの方によく検討していただきたいのは、2.の点です。特許公報等の調査によって関連ある公知技術がいくつか見つかりましたら、あなたが発明した装置や方法をそれら公知技術や周知事項等と比べていただき、あなたの発明に進歩性がある旨を主張できるかどうかを考えてほしいのです。構成面で特別な工夫があるとか、効果の面でとくに有利な面があるとかの主張ができるなら、進歩性の存在が認められて特許される可能性は高いはずです。2.にいう進歩性が満たされれば、1.の新規性は当然に満たされます。3.・6.・7.・8.・9.・10.は特許部や特許事務所の方で避けられる問題(つねに完全に避けることは無理としても)でしょうし、4.・5.は、出願時に未公開である他人の先願を比較の対象とするものですから調査が不可能で、出願前には対処できません。また、実際に審査官が指摘する拒絶理由通知の7割前後は進歩性欠如、つまり上記2.の点です。そのように考えますと、特許出願に際して関係者の全員が最もチェックすべきであり、またそれが可能であるのは、上の2.だといえます。 あなたの発明について2.の進歩性が満たされると確信が持てるようでしたら、強気に出て、たとえば、その発明のうちのより本質的な事項のみを抽出することにより、1.の新規性は満たすとしても2.の進歩性までは微妙だと思われる上位概念的な発明を特定し、別の請求項の発明として同じ出願に含めることを考えればよいでしょう。 また、上記1.〜10.のような拒絶理由があることから、特許出願の際にはつぎのような点に注意が必要です。
そのため、たとえば、特定の形状をもつボルトについて他社が特許権を有する場合に、被締結部材の形状・寸法に特定の工夫をするとともにそのボルトを使用するという締結構造についてあなたの会社が特許出願しますと、特許される可能性は十分にあります。その被締結部材の工夫に基づいて発明の進歩性が満たされるなどする限りは特許されることになり、「ボルトについての他社の特許発明を利用する発明であるから拒絶する」などという扱いは受けないのです。 ただし、あなたの会社がその締結構造を実施する際には、そのボルトを特許権者等から正当に購入して使用する、または、特許権者の許諾を得てそのボルトを自社製造し使用する、といった対応が必要です。 2.明細書には何を書く?明細書には、「特許請求の範囲」という部分と「発明の詳細な説明」という部分とがあります。「特許請求の範囲」には、特許を受けようとする発明、つまり独占権を得たい発明を書きます。そして「発明の詳細な説明」には、特許を受けようとする発明について当業者が実施できる程度の、詳しい説明を記載します。以下には、これらの記載についてもう少し詳しく説明します。拒絶されないように書くことが重要ですので、こちらの1.(2)に紹介した「拒絶理由通知に対する応答例」も参考になるはずです。(1) 特許請求の範囲「特許請求の範囲」は、特許出願する側にとって最も重要な部分です。この部分の各請求項に書かれた発明こそ、審査官による審査(特許できるか否かの審査)の段階で新規性や進歩性等の特許要件の判断の対象になり、また特許されたのちの特許権の及ぶ範囲(権利範囲)を定めるからです。なお、特許請求の範囲はいくつかの請求項に分けて書かれますが、請求項ごとに特許要件が判断され、また特許後は請求項ごとに権利行使できることとなります。公知技術等と比較した場合の特徴的な事項が請求項のうちに記載されていなければ、その請求項を含む出願は進歩性欠如などの理由で拒絶される(つまり特許されない)可能性が高くなります。一方、請求項のうちに余計な事項が記載されていますと、その事項にて限定されることにより、特許後の権利範囲が狭くなります。ですから、特許請求の範囲における各請求項の記載にあたっては、発明の本質を把握したうえ、特徴的であって不可欠な事項のみを過不足なく記載するよう、細心の注意を払う必要があります。 一件の出願のうちに複数の請求項を含められる多項制を利用して、記載事項が少なくて範囲の広い上位概念的な請求項から、範囲は狭いが記載事項の多い下位概念的な請求項まで、段階的に複数の請求項を作成しておくのもよいでしょう。発明の表現形式(方法か物か、素材か完成品かなど)が異なる別の請求項を作成しておけば、後の権利行使が容易にならないかどうか、といった点も検討に価します。 (2) 発明の詳細な説明「発明の詳細な説明」には、請求項の発明をフォローする記載、たとえば、その発明の目的や作用・効果、実施例などを説明します。権利範囲を直接に示す部分ではないから重要ではないかというと、そうではありません。なぜなら、
3.現場リポート---Aさんの発明が特許出願されるまで(1) Aさんのアイデア自転車部品のメーカーに勤めるAさんは、自転車のライト(前照灯)の設計をしているとき、ふと気づきました。「発電機による普通のライトは、点灯するとき発電機のヘッドをタイヤに押し付けるので、ペダルをこぐのが重くなり、上り坂ではしんどくなる。電池式のライトなら、ペダルは楽だが短期間で電池を交換しなければならない。上り坂では発電をしないで下り坂などでだけ発電をするようにしてその電力を充電器に蓄えておき、夜はその電力を使用して上り坂でも下り坂でも点灯できるようにすれば、坂道を走る人に喜ばれるはずだ」 そこでAさんは、会社の特許担当をしている総務部のBさんに、 「上り坂では発電をしないで下り坂などでのみ発電をする発電機と、その電力を蓄えられる充電器とを有する自転車---なんていう内容で特許を取れないかなぁ」 と相談しました。 Bさんは、 「面白いけど、実際にはどうやってやるんだい。具体的な仕組みを考えておかないとダメだと思うよ」 と言いながらも、いつも特許出願を依頼している特許事務所に連絡をとってみました。その事務所の弁理士であるCさんは、面会の日を決めながら、 「ええ、やはり課題の解決手段が示されないと拒絶されますので、具体的な仕組みを考えておいてほしいとAさんに伝えて下さい。それと、Bさんの方で先行技術を調査していただけませんか? いつものように自転車関連の特許公報・実用新案公報のほか業界紙やカタログなどを調べていただき、類似の技術が書かれていたらとっておいて下さい」 と言いました。 (2) 先行技術さて面会の日です。Bさんは、平成7年の公開特許公報のうちにつぎのようなものがあったと、Aさん・Cさんに見せました。その公報にはつぎのような図が添付されておりました。![]() つまり公報の技術は、図のような遊星回転伝動機構50を有する自転車用発電装置を自転車に搭載するというものです。チェーンによってペダルに連結されたスプロケット(ギヤ)43と駆動側車輪41の回転軸42との間に遊星回転伝動機構50を配置し、その太陽歯車51と一体に回転する傘歯車54を発電機60に接続しています。スプロケット43の付け根の部分、それに発電機60のローターと小傘歯車61との間の部分には、一方向クラッチ57・62がそれぞれ装着されています。 図のような発電装置でも、発電機60は、上り坂では発電をしないで下り坂などでのみ発電をします。その仕組みは、ちょっとややこしくなりますが、説明しますとつぎのとおりです。1.下り坂などで、スプロケット43を回転させずに惰性により自転車を走行させるときは、遊星回転伝動機構50と一方向クラッチ57・62の作用によって、小傘歯車61が正回転し発電機60(のローター)も回転します。2.しかし、上り坂を走る場合を含めて、ペダルを踏んで運転者がスプロケット43を回すときには、遊星回転伝動機構50や一方向クラッチ57の作用で小傘歯車61が逆回転をするものの、一方向クラッチ62の機能により、その向きの回転が発電機60に伝わらないのです。ペダルを踏まないとき回転する発電機60が、ペダルを踏むときには回転しないので、上り坂を走行するときなどには発電機60を回転させる労力がいらないわけです。技術常識からして、このように下り坂などでのみ発電される電力は、一旦充電器に蓄えられたうえ使用されると思われます。 こんな自転車用発電装置が公知になっている以上、Aさんがはじめに考えていた 「上り坂では発電をしないで下り坂などでのみ発電をする発電機と、その電力を蓄えられる充電器とを有する自転車」 というのは、公知技術と同一であるから新規性がない(したがって進歩性もない)、といった拒絶理由をも有するといえるでしょう。 (3) Aさんの発明一方、Aさんが考えてきた具体的な仕組みはつぎのようなものでした。図のように、発電のための磁石31を後ろの車輪(駆動側車輪)10のハブ11に取り付け、やはり発電のための電機子(コイル)32を、車輪10への伝動手段であるスプロケット20に取り付けて、それら磁石31と電機子32とを各回転軌道が接近し合うように配置する、というのです。![]()
Aさんは、その仕組みをつぎのように説明しました。 「自転車の車輪10とスプロケット20との間には、ほとんど例外なく、ラチェット(一方向クラッチ)25が装備されています。そのため、ペダルをこいでチェーンやスプロケット20を回すときには車輪10を回転させて自転車を駆動することができる一方、自転車が惰性で走行するときには、ペダルやスプロケット20を回さなくても車輪10が自由に回転します。つまりそのラチェット25があるために、車輪10とスプロケット20との間には、a)上り坂などでペダル等を回す駆動走行時には相対回転がなく、b)下り坂などでペダルを回さない惰性走行時には相対回転が生じる−−という関係があります。 元々そのような関係にある車輪10とスプロケット20との間に磁石31と電機子32とを配置するのですから、下り坂などでの惰性走行時(上記b))には、車輪10とスプロケット20との間に生じる相対回転にともなって磁石31と電機子32とが接近・離反し合うことにより電機子32に起電力が発生し、その一方、上り坂などでの駆動走行時(上記a))には、車輪10とスプロケット20との間に相対回転が生じないので起電力は起こりません。摩擦などの機械的なロスは生じませんし、磁石31とコイル32との間の磁力的な反発による制動力が発生するのも下り坂などでの惰性走行時のみです。もちろん、起電力のそのような発生・不発生について、何らのスイッチ操作も不要です。 その特許公報に書かれている発電装置では、遊星回転伝動機構50が重そうでコストも高そうですし、坂を上るとき発電機60が回転しないとはいえ伝動機構50や傘歯車54は回転しますので、ペダルをこぐのにやはり相当の負担がかかります。しかし、私の考えたこの仕組みだと、そのような大そうな機構は不要ですし、上り坂での負担も全くありません」 (4) 特許請求の範囲についての検討Aさんのその説明を聞いて特許担当のBさんは、「それはいい」と言ったうえ、「請求項1を、たとえば、“後輪とその駆動用スプロケットとの間の相対回転を利用して発電をする発電機に、それが発電した電力を蓄える充電器を組み合わせて備える自転車”−−なんていう広い内容にして特許を取れませんかねぇ、Cさん」 とCさんに意見を求めました。Cさんは、 「Aさんの発明は、たしかに後輪とスプロケットとの間の相対回転を利用して発電をしますのでそう表現することができますが、それでは公知技術と差が出ませんので、やはり新規性や進歩性が否定されると思います。先の特許公報の発明も、後輪とスプロケットとの間の相対回転を利用して発電をすることに違いはないからです」 と言いました。続けて、 「でも、Aさんの発明には先の特許公報の発明とは大きく異なる部分がありますので、請求項をうまく書けば、他に類似の先行技術がない限りは特許される可能性が十分あると思いますよ」 「それに、Aさんが提示して下さった発明を基本にして色々な応用が可能でしょうから、かなり範囲の広い請求項も作成できそうな気がします。たとえば、必ずしも充電器と組み合わせなくても発明は実施できそうですし、磁石31と電機子32の取付け位置も図の例には限定されないでしょうからね。その一方、電機子32の電線33の通し方やスリップリング34・ブラシ35についての図示の配置も特徴的ですので、具体的な内容の請求項も作成できると思います。御社が部品メーカーであることも考慮して、自転車ではなく発電部品を権利範囲とする請求項も作成してみましょう」 と語り、明細書など特許出願書類の案文をCさんが作成することになりました。 (5) 特許出願Cさんが後日作成した案文はAさん・Bさんがチェックし、そののちCさんの特許事務所から特許出願が行われました。願書には、発明者としてAさんの名前が書かれ、出願人の欄にはAさんの所属する自転車部品メーカーの名が記載されています。代理人はCさんです。そして、願書に添付された明細書の第1ページにはつぎのように書かれています。
「チェーンをスプロケットに掛けるのでなくベルトをプーリーに掛けて駆動する自転車も稀にあります。発明がそんな場合を含むようにすることはできないでしょうか?」 とCさんに電話をしました。スプロケットとプーリーとをまとめて表す良い文言は見つかりませんけれど、とAさんが言いましたので、Cさんは、出願前の明細書の【発明の詳細な説明】の欄に、つぎの一文を入れておきました。 “請求項にいう「スプロケット」は、チェーン等を介してペダル等から動力伝達を受ける回転体を意味し、一般に「ギヤ」と呼ばれるものをさすほか、チェーンに代えてベルトによる動力伝達を受ける場合の「プーリー」をも含むものとする。” ---特許されるかどうかはまだ不明ですが、Aさんの発明はこうしてめでたく特許出願されました。 なお、この特許出願のその後については、こちらの方で実況中継(?)しています。興味がおありでしたら覗いてみてください。 このページのTOPへ |
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