はじめに
発明をしたら
特許出願をしましょう
特許出願のその後
特許権とのつきあい方

特許出願をしましょう

 あなたがした発明について特許出願をすることになったとします。どうすればいいでしょう?
 特許公報っていうのをご覧になったことがありますよね。「特許請求の範囲」・「請求項」とか「発明の詳細な説明」とかが書いてあって図面が付いたりしているアレです。特許出願をするには、あのような内容を書面に記載して特許庁に提出します(最近は通信回線で提出することもできます)。
 提出する書面は、願書と明細書、要約書、図面(発明によっては図面は不要)です。特許出願を自社(特許部など)でされる会社もありますが、普通は弁理士を代理人にして、つまり特許事務所に依頼して特許出願を行われています。
 エンジニアとして関心がおありになるのは、どんな発明だったら特許になるのかという点、それに、明細書に何を書いたらいいのかという点でしょう。

 このページでは、
を紹介します。

特許出願の概要はこちら

1.どんな発明だったら特許される?

 特許出願は特許庁に宛てて行います。そしてその出願について審査請求を行いますと、特許庁審査官の審査を受け、それにパスすれば特許されることになります。しかし、発明が特許要件を満たさないなど法定の拒絶理由に該当する出願については、拒絶査定、すなわち特許できないという旨の査定を受けます。したがって、特許されるためには、その発明についての特許出願が特許法に規定の拒絶理由に該当しないことが必要です。

(1) 特許出願についての拒絶理由

 拒絶理由、つまり特許されないとして出願が拒絶される原因には、以下の1.〜10.などがあります(これ以外にないわけではありません。特許法49条を参照)。これらに該当しないなら、その特許出願について特許査定され得ることになります。
1. 請求項の発明が、出願前に公知(いわゆる公用・文献公知を含む。以下も同様)であった事項と同一である =新規性欠如(特許法29条1項)
・請求項の発明は原則として請求項の記載どおりに認定されるが、発明の詳細な説明に説明等あれば参酌される(下記の2.・4.・5.についても同様)
2. 請求項の発明が、出願前に公知であった事項に基づいて当業者が容易にできたものである =進歩性欠如(29条2項)
・進歩性の有無は、請求項の記載事項と公知事項との相違点、機能・作用の相違点、有利な効果の有無などによって判断される
3. 請求項の記載内容が、法上の発明でない(29条1項柱書)
・「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの。自然法則に反するものや課題の解決が明らかに不可能なもの等は、発明に該当しない。対象の物理的性質または技術的性質に基づく情報処理(コンピュータ・ソフトウェア関連発明)等は発明に該当する
4. 請求項の発明が、出願時に未公開だが後に公開等された他人の先願における出願時の明細書・図面に記載の発明と同一である(29条の2)
・先願との間で発明者または出願人が完全同一である場合は適用除外
・両発明に相違点があっても、それが課題解決のための具体化手段における微差(下記39条の記載を参照)であれば実質的に同一とされる
5. 請求項の発明が、先願の請求項に記載の発明と同一である(39条)
・両発明に相違点があっても、イ)周知事項の付加・削除・転換等であって新たな効果を奏するものでない、ロ)下位概念である先願の請求項の発明を上位概念で表現したことによる差異しかない、または、ハ)「物」と「方法」との差異しかない、といったものなら、実質的に同一であると判断される
・先願との間で出願人が異なる場合にも、また出願人が同一である場合にも適用される
6. 明細書中の詳細な説明について記載不備(36条4項)
・発明の詳細な説明は、請求項の発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載しなければならない。課題の解決手段が十分に示されていない場合はこの記載不備に該当する
7. 特許請求の範囲について記載不備(36条6項)
・特許請求の範囲に記載の発明は、詳細な説明に記載したものでなければならない
・特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明を明確に記載しなければならない。請求項にたとえば、日本語表現の不適切、技術的な不整合、技術的でない事項の記載、発明の外延の不明確などが含まれると、明確でないと判断される
8. 出願の単一性の要件に違反(37条)
・一の特許出願における各請求項の発明は、互いに所定の関係を満たさねばならない
9. 請求項の発明が公序良俗に違反(32条)
10. 出願当初の明細書・図面に記載した事項の範囲を越える補正をした =新規事項追加(17条の2第3項)
・当初の記載事項から当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項であれば、当初の記載事項として取り扱われる
・最後の拒絶理由通知(一度補正した請求項についての通知)に対する特許請求の範囲の補正が請求項の削除・限定的減縮・誤記訂正等以外である場合には、補正却下される(53条)

(2) 注意すべきこと

 上記のうち、出願に先だってエンジニアの方によく検討していただきたいのは、2.の点です。特許公報等の調査によって関連ある公知技術がいくつか見つかりましたら、あなたが発明した装置や方法をそれら公知技術や周知事項等と比べていただき、あなたの発明に進歩性がある旨を主張できるかどうかを考えてほしいのです。構成面で特別な工夫があるとか、効果の面でとくに有利な面があるとかの主張ができるなら、進歩性の存在が認められて特許される可能性は高いはずです。
 2.にいう進歩性が満たされれば、1.の新規性は当然に満たされます。3.・6.・7.・8.・9.・10.は特許部や特許事務所の方で避けられる問題(つねに完全に避けることは無理としても)でしょうし、4.・5.は、出願時に未公開である他人の先願を比較の対象とするものですから調査が不可能で、出願前には対処できません。また、実際に審査官が指摘する拒絶理由通知の7割前後は進歩性欠如、つまり上記2.の点です。そのように考えますと、特許出願に際して関係者の全員が最もチェックすべきであり、またそれが可能であるのは、上の2.だといえます。
 あなたの発明について2.の進歩性が満たされると確信が持てるようでしたら、強気に出て、たとえば、その発明のうちのより本質的な事項のみを抽出することにより、1.の新規性は満たすとしても2.の進歩性までは微妙だと思われる上位概念的な発明を特定し、別の請求項の発明として同じ出願に含めることを考えればよいでしょう。
 
 また、上記1.〜10.のような拒絶理由があることから、特許出願の際にはつぎのような点に注意が必要です。
  • イ) 上記1.のとおり出願前の公知事項には特許されませんので、発明をしたら、特許出願が終わるまでは、守秘義務のない不特定の人にその内容を公表してはいけません。発明者本人が公表した場合であってもその発明は新規性を喪失したことになり、所定の要件下で公表日から6ヶ月以内に出願される特別な例外を除いて特許されることがないからです。
  • ロ) 「この特許出願には拒絶理由がある」と特許庁審査官から拒絶理由通知書を受けた場合、明細書を補正してその拒絶理由を解消する必要がありますが、上記10.の理由から、特許出願後に明細書を大幅に書き換えることは困難です。また、上記6.・7.のような拒絶理由もあります。そのため、明細書は特許出願のときからしっかりと書いておかなければなりません。
  • ハ) 本来的には素晴らしい発明が明細書中に記載されていても、その明細書の補正を適切に行えない場合には上記10.等の拒絶理由によって特許されないことがあります。したがって、特許法等の規定に詳しい人と相談しながら手続をすることがやはり必要です。
 一方、1.〜10.の中にも、またそれら以外の稀な拒絶理由のうちにも、「他人の特許権を侵害する」とか「他人の特許発明(または出願された発明)を利用しなければ発明の実施ができない」とかいったものはありません。つまり、特許庁の審査においては、先に出願等された発明と同一でないか(上記1.・4.・5.を参照)、進歩性を有するか(2.を参照)等は判断されますが、権利侵害や発明の利用については考慮されません。
 そのため、たとえば、特定の形状をもつボルトについて他社が特許権を有する場合に、被締結部材の形状・寸法に特定の工夫をするとともにそのボルトを使用するという締結構造についてあなたの会社が特許出願しますと、特許される可能性は十分にあります。その被締結部材の工夫に基づいて発明の進歩性が満たされるなどする限りは特許されることになり、「ボルトについての他社の特許発明を利用する発明であるから拒絶する」などという扱いは受けないのです。
 ただし、あなたの会社がその締結構造を実施する際には、そのボルトを特許権者等から正当に購入して使用する、または、特許権者の許諾を得てそのボルトを自社製造し使用する、といった対応が必要です。

2.明細書には何を書く?

 明細書には、「特許請求の範囲」という部分と「発明の詳細な説明」という部分とがあります。「特許請求の範囲」には、特許を受けようとする発明、つまり独占権を得たい発明を書きます。そして「発明の詳細な説明」には、特許を受けようとする発明について当業者が実施できる程度の、詳しい説明を記載します。以下には、これらの記載についてもう少し詳しく説明します。拒絶されないように書くことが重要ですので、こちら1.(2)に紹介した「拒絶理由通知に対する応答例」も参考になるはずです。

(1) 特許請求の範囲

 「特許請求の範囲」は、特許出願する側にとって最も重要な部分です。この部分の各請求項に書かれた発明こそ、審査官による審査(特許できるか否かの審査)の段階で新規性や進歩性等の特許要件の判断の対象になり、また特許されたのちの特許権の及ぶ範囲(権利範囲)を定めるからです。なお、特許請求の範囲はいくつかの請求項に分けて書かれますが、請求項ごとに特許要件が判断され、また特許後は請求項ごとに権利行使できることとなります。
 公知技術等と比較した場合の特徴的な事項が請求項のうちに記載されていなければ、その請求項を含む出願は進歩性欠如などの理由で拒絶される(つまり特許されない)可能性が高くなります。一方、請求項のうちに余計な事項が記載されていますと、その事項にて限定されることにより、特許後の権利範囲が狭くなります。ですから、特許請求の範囲における各請求項の記載にあたっては、発明の本質を把握したうえ、特徴的であって不可欠な事項のみを過不足なく記載するよう、細心の注意を払う必要があります。
 一件の出願のうちに複数の請求項を含められる多項制を利用して、記載事項が少なくて範囲の広い上位概念的な請求項から、範囲は狭いが記載事項の多い下位概念的な請求項まで、段階的に複数の請求項を作成しておくのもよいでしょう。発明の表現形式(方法か物か、素材か完成品かなど)が異なる別の請求項を作成しておけば、後の権利行使が容易にならないかどうか、といった点も検討に価します。

(2) 発明の詳細な説明

 「発明の詳細な説明」には、請求項の発明をフォローする記載、たとえば、その発明の目的や作用・効果、実施例などを説明します。権利範囲を直接に示す部分ではないから重要ではないかというと、そうではありません。なぜなら、
  • a) 特許を受けようとして特許請求の範囲に記載した発明について、作用や効果等をこの部分に十分に説明しておかないと、審査官や第三者、裁判官などが、発明の価値や真の技術的範囲を理解してくれない、
  • b) 「発明の詳細な説明は、当業者が発明を実施可能な程度に明確かつ十分に記載する」という法律の規定があるので、十分な説明をしておかないと拒絶され(前記の6.)、特許を得られない、
  • c) 特許を得るために請求項の発明を補正する必要が生じたとき、その補正は、出願時に明細書と図面に記載していた事項の範囲内で行わねばならない(前記の10.)ので、ここに十分な説明が記載されていないと必要な補正が行えず、そのために特許されなくなる危険性が高くなる、
  • d) この部分に記載した発明は、特許請求の範囲に記載されていないものであっても、後にされる他人の出願を排除する(拒絶に追いやる)効果を発揮するが、明瞭に記載されていないと期待どおりの効果は得られない
---といった事情があるからです。

3.現場リポート---Aさんの発明が特許出願されるまで

(1) Aさんのアイデア

 自転車部品のメーカーに勤めるAさんは、自転車のライト(前照灯)の設計をしているとき、ふと気づきました。
 「発電機による普通のライトは、点灯するとき発電機のヘッドをタイヤに押し付けるので、ペダルをこぐのが重くなり、上り坂ではしんどくなる。電池式のライトなら、ペダルは楽だが短期間で電池を交換しなければならない。上り坂では発電をしないで下り坂などでだけ発電をするようにしてその電力を充電器に蓄えておき、夜はその電力を使用して上り坂でも下り坂でも点灯できるようにすれば、坂道を走る人に喜ばれるはずだ」
 そこでAさんは、会社の特許担当をしている総務部のBさんに、
 「上り坂では発電をしないで下り坂などでのみ発電をする発電機と、その電力を蓄えられる充電器とを有する自転車---なんていう内容で特許を取れないかなぁ」
 と相談しました。
 Bさんは、
 「面白いけど、実際にはどうやってやるんだい。具体的な仕組みを考えておかないとダメだと思うよ」
 と言いながらも、いつも特許出願を依頼している特許事務所に連絡をとってみました。その事務所の弁理士であるCさんは、面会の日を決めながら、
 「ええ、やはり課題の解決手段が示されないと拒絶されますので、具体的な仕組みを考えておいてほしいとAさんに伝えて下さい。それと、Bさんの方で先行技術を調査していただけませんか? いつものように自転車関連の特許公報・実用新案公報のほか業界紙やカタログなどを調べていただき、類似の技術が書かれていたらとっておいて下さい」
 と言いました。

(2) 先行技術

 さて面会の日です。Bさんは、平成7年の公開特許公報のうちにつぎのようなものがあったと、Aさん・Cさんに見せました。その公報にはつぎのような図が添付されておりました。

 
 つまり公報の技術は、図のような遊星回転伝動機構50を有する自転車用発電装置を自転車に搭載するというものです。チェーンによってペダルに連結されたスプロケット(ギヤ)43と駆動側車輪41の回転軸42との間に遊星回転伝動機構50を配置し、その太陽歯車51と一体に回転する傘歯車54を発電機60に接続しています。スプロケット43の付け根の部分、それに発電機60のローターと小傘歯車61との間の部分には、一方向クラッチ57・62がそれぞれ装着されています。
 図のような発電装置でも、発電機60は、上り坂では発電をしないで下り坂などでのみ発電をします。その仕組みは、ちょっとややこしくなりますが、説明しますとつぎのとおりです。1.下り坂などで、スプロケット43を回転させずに惰性により自転車を走行させるときは、遊星回転伝動機構50と一方向クラッチ57・62の作用によって、小傘歯車61が正回転し発電機60(のローター)も回転します。2.しかし、上り坂を走る場合を含めて、ペダルを踏んで運転者がスプロケット43を回すときには、遊星回転伝動機構50や一方向クラッチ57の作用で小傘歯車61が逆回転をするものの、一方向クラッチ62の機能により、その向きの回転が発電機60に伝わらないのです。ペダルを踏まないとき回転する発電機60が、ペダルを踏むときには回転しないので、上り坂を走行するときなどには発電機60を回転させる労力がいらないわけです。技術常識からして、このように下り坂などでのみ発電される電力は、一旦充電器に蓄えられたうえ使用されると思われます。
 こんな自転車用発電装置が公知になっている以上、Aさんがはじめに考えていた
 「上り坂では発電をしないで下り坂などでのみ発電をする発電機と、その電力を蓄えられる充電器とを有する自転車」
 というのは、公知技術と同一であるから新規性がない(したがって進歩性もない)、といった拒絶理由をも有するといえるでしょう。

(3) Aさんの発明

 一方、Aさんが考えてきた具体的な仕組みはつぎのようなものでした。図のように、発電のための磁石31を後ろの車輪(駆動側車輪)10のハブ11に取り付け、やはり発電のための電機子(コイル)32を、車輪10への伝動手段であるスプロケット20に取り付けて、それら磁石31と電機子32とを各回転軌道が接近し合うように配置する、というのです。
 



 Aさんは、その仕組みをつぎのように説明しました。
 「自転車の車輪10とスプロケット20との間には、ほとんど例外なく、ラチェット(一方向クラッチ)25が装備されています。そのため、ペダルをこいでチェーンやスプロケット20を回すときには車輪10を回転させて自転車を駆動することができる一方、自転車が惰性で走行するときには、ペダルやスプロケット20を回さなくても車輪10が自由に回転します。つまりそのラチェット25があるために、車輪10とスプロケット20との間には、a)上り坂などでペダル等を回す駆動走行時には相対回転がなく、b)下り坂などでペダルを回さない惰性走行時には相対回転が生じる−−という関係があります。
 元々そのような関係にある車輪10とスプロケット20との間に磁石31と電機子32とを配置するのですから、下り坂などでの惰性走行時(上記b))には、車輪10とスプロケット20との間に生じる相対回転にともなって磁石31と電機子32とが接近・離反し合うことにより電機子32に起電力が発生し、その一方、上り坂などでの駆動走行時(上記a))には、車輪10とスプロケット20との間に相対回転が生じないので起電力は起こりません。摩擦などの機械的なロスは生じませんし、磁石31とコイル32との間の磁力的な反発による制動力が発生するのも下り坂などでの惰性走行時のみです。もちろん、起電力のそのような発生・不発生について、何らのスイッチ操作も不要です。
 その特許公報に書かれている発電装置では、遊星回転伝動機構50が重そうでコストも高そうですし、坂を上るとき発電機60が回転しないとはいえ伝動機構50や傘歯車54は回転しますので、ペダルをこぐのにやはり相当の負担がかかります。しかし、私の考えたこの仕組みだと、そのような大そうな機構は不要ですし、上り坂での負担も全くありません」

(4) 特許請求の範囲についての検討

 Aさんのその説明を聞いて特許担当のBさんは、「それはいい」と言ったうえ、
 「請求項1を、たとえば、“後輪とその駆動用スプロケットとの間の相対回転を利用して発電をする発電機に、それが発電した電力を蓄える充電器を組み合わせて備える自転車”−−なんていう広い内容にして特許を取れませんかねぇ、Cさん」
 とCさんに意見を求めました。Cさんは、
 「Aさんの発明は、たしかに後輪とスプロケットとの間の相対回転を利用して発電をしますのでそう表現することができますが、それでは公知技術と差が出ませんので、やはり新規性や進歩性が否定されると思います。先の特許公報の発明も、後輪とスプロケットとの間の相対回転を利用して発電をすることに違いはないからです」
 と言いました。続けて、
 「でも、Aさんの発明には先の特許公報の発明とは大きく異なる部分がありますので、請求項をうまく書けば、他に類似の先行技術がない限りは特許される可能性が十分あると思いますよ」
 「それに、Aさんが提示して下さった発明を基本にして色々な応用が可能でしょうから、かなり範囲の広い請求項も作成できそうな気がします。たとえば、必ずしも充電器と組み合わせなくても発明は実施できそうですし、磁石31と電機子32の取付け位置も図の例には限定されないでしょうからね。その一方、電機子32の電線33の通し方やスリップリング34・ブラシ35についての図示の配置も特徴的ですので、具体的な内容の請求項も作成できると思います。御社が部品メーカーであることも考慮して、自転車ではなく発電部品を権利範囲とする請求項も作成してみましょう」
 と語り、明細書など特許出願書類の案文をCさんが作成することになりました。

(5) 特許出願

 Cさんが後日作成した案文はAさん・Bさんがチェックし、そののちCさんの特許事務所から特許出願が行われました。願書には、発明者としてAさんの名前が書かれ、出願人の欄にはAさんの所属する自転車部品メーカーの名が記載されています。代理人はCさんです。
 そして、願書に添付された明細書の第1ページにはつぎのように書かれています。
【書類名】
明細書
【発明の名称】
自転車および自転車用発電部品
【特許請求の範囲】
  【請求項1】
発電のための界磁と電機子とのうちいずれかが駆動側車輪と一体に取り付けられ、残りの一方が、駆動側車輪への伝動手段であるスプロケットと一体に取り付けられて、それら界磁と電機子とが、それぞれの回転軌道が接近し合うように配置されていることを特徴とする自転車。
  【請求項2】
界磁としての磁石が、駆動側車輪のハブ上の円盤またはスポークに取り付けられ、電機子が、スプロケットのうち上記の円盤またはスポーク寄りの側面に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の自転車。
  【請求項3】
電機子につながるブラシと整流子とが、スプロケットを保持する円筒体のうち車体フレーム寄りの端部に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の自転車。
  【請求項4】
灯火手段が、発電された電力を蓄える充電手段を介して上記の電機子に接続されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の自転車。
  【請求項5】
駆動側車輪のハブ上の円盤またはスポークに、スプロケットのある側へ磁極面を向けて取り付けられる磁石と、上記の円盤またはスポークのある側へ巻線中心を向け、上記磁石の磁極面の回転軌道に対して接近し合うようにスプロケットの側面に取り付けられる電機子とを含むことを特徴とする自転車用発電部品。
  【請求項6】
上記電機子につながる電線を通され得るスプロケット保持用の円筒体と、その円筒体の端部に被せられるとともに、内側にあるブラシと整流子との接触部分を介して上記電線につながる出力電線を外側に接続され得る出力用キャップとを、さらに含むことを特徴とする請求項5に記載の自転車用発電部品。
  出願の直前にAさんが、
 「チェーンをスプロケットに掛けるのでなくベルトをプーリーに掛けて駆動する自転車も稀にあります。発明がそんな場合を含むようにすることはできないでしょうか?」
 とCさんに電話をしました。スプロケットとプーリーとをまとめて表す良い文言は見つかりませんけれど、とAさんが言いましたので、Cさんは、出願前の明細書の【発明の詳細な説明】の欄に、つぎの一文を入れておきました。
 
 “請求項にいう「スプロケット」は、チェーン等を介してペダル等から動力伝達を受ける回転体を意味し、一般に「ギヤ」と呼ばれるものをさすほか、チェーンに代えてベルトによる動力伝達を受ける場合の「プーリー」をも含むものとする。”
 
 
 ---特許されるかどうかはまだ不明ですが、Aさんの発明はこうしてめでたく特許出願されました。
 
 なお、この特許出願のその後については、こちらの方で実況中継(?)しています。興味がおありでしたら覗いてみてください。

発明をしたら  特許出願のその後

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