近親交配について
近親交配とは大まかには「血統表内に同一の馬を持つ2頭の馬の交配」のことを差します。近親交配することをクロスとかインブリードなどと言われます。どっちを使うか迷いますが、ここでは「クロス」と呼ぶことにします。堅苦しい話ですが、クロスやインブリードについての定義は非常にあいまいなので、こう言う場合にはこの用語を使う、などとは言い切れないのです。ただ「クロス」という言葉は意味の範囲が広い言葉なのでこれを使います。ちなみにクロスは和製英語のようで、英語圏では使われないようです。この近親交配はクロスさせた馬の特徴を強く遺伝させることができるというメリットもありますが、あまりにもきついと虚弱体質になりやすいというデメリットもあるようです。 |
近親交配の歴史
近親交配とはもともと育種学上の用語で、家畜育種学は産業革命期ごろ(18〜19世紀)のイギリスで発達しました。その第一人者とも家畜育種学の祖とも言われるべき人がロバート・ベイクウェル(1725-1790)でした。産業革命による畜産物の商品化、植民地への家畜の供給などによってよりよい改良種が求められていた時代で彼は牧場経営のかたわら家畜の改良に取り組みました。そして能力検定によってよりより親を選び出し、血を濃くすれば優れた形質が確実に伝わることを知り近親交配を重ねたり、交雑(品種間の交配)によって新たな種を生み出すなどして肉用羊、牛、馬の改良に成功したのでした。この改良は馬にも用いられ、イギリス産の牝馬とアラブの種牡馬との交配によって作り出されたのがサラブレッド種なわけで、後に血統表が作られてからはさまざまな近親交配がされ、今に至っています。 |
クロスの見分け方、表し方
クロスの見分け方は血統表内に同一祖先がいるかどうかを見ればいいのでわりと簡単です。次はHyperionの血統を見ていきましょう。
Gainsborough
1915 鹿 |
Bayardo
1906 鹿 |
Bay Ronald
1893 |
Hampton
1872 鹿 | Lord Clifden |
| Lady Langden |
Black Duchess
1886 | Galliard |
| Black Corrie |
Galicia
1898 |
Galopin
1872 黒鹿 | Vedette |
| Flying Duchess |
Isoletta
1891 | Isonomy |
| Lady Muncaster |
Rosedrop
1907 栗 |
St.Frusquin
1893 |
St.Simon
1881 鹿 | Galopin |
| St.Angela |
Isabel
1879 | Plebeian |
| Parma |
Rosaline
1901 |
Trenton
1881 | Musket |
| Frailty |
Rosalys
1894 | Bend Or |
| Rosa May |
Selene
1919 鹿 |
Chaucer
1900 黒鹿 |
St.Simon
1881 鹿 |
Galopin
1872 黒鹿 | Vedette |
| Flying Duchess |
St.Angela
1865 鹿 | King Tom |
| Adeline |
Canterbury Pilgrim
1893 栗 |
Tristan
1878 栗 | Hermit |
| Thrift |
Pilgrimage
1875 | The Palmer |
| Lady Audley |
Serenissima
1913 鹿 |
Minoru
1906 |
Cyllene
1895 栗 | Bona Vista |
| Arcadia |
Mother Siegel
1897 | Friar's Balsam |
| Galopin Mare |
Gondolette
1902 |
Loved One
1883 | See Saw |
| Pilgrimage |
Dongola
1883 | Doncaster |
| Douranee |
赤色と緑色の馬がクロス馬です。そして、特定の馬がインブリードしているとき、その馬の名前を使って「○○のクロス」などといいます。Hyperionの場合、St.Simon、Galopinのクロスを持っています。何代目と何代目でクロスしているかを表すには、Hyperionの場合St.Simonが父系の4代目と母方の3代目にあるので「St.Simonの4×3」といいます。この時血統表上では同時にSt.Simonの母St.Angelaなどもクロスしているように見えます。しかし、血統表ではクロスされた馬の祖先をもクロス馬とは言いません。しかし、ここではSt.Simonの父Galopinもクロス馬になっています。なぜでしょうか?実はGalopinはSt.Simonの父としてではなくGaliciaの父としても現れているので、このような場合はGalopinのクロスも成立するということになっているのです。
またGalopinは3回現れていますが、このようにクロス馬が複数頭いる場合は個人によって様々な表現の仕方があります。単に「Galopinの4×5×4」としても問題ありません。もしこのGalopinの現れる位置を父と母とに分けたいのなら、笠雄二郎氏が考案した「Galopinの4・5×4」という方法が便利だと思います。「・」は父方もしくは母方内でクロスしているという意味で、「×」がいわゆる父母の境界線のような役割になっています。また、クロスを表現する時は血統表の上から順に何代目かを書くと混乱しません。 |
全兄弟姉妹クロス
ここからは少し特殊なクロスを紹介します。まずは全兄弟姉妹クロス、再びエルコンドルパサーの血統表で説明します。
Kingmambo
1990 鹿 |
Mr.Prospector
1970 鹿 |
Raise a Native
1961 栗 |
Native Dancer
1950 芦 | Polynesian |
| Geisha |
Raise You
1946 栗 | Case Ace |
| Lady Glory |
Gold Digger
1962 鹿 |
Nashua
1952 鹿 | Nasrullah |
| Segula |
Sequence
1946 青鹿 | Count Fleet |
| Miss Dogwood |
Miesque
1984 鹿 |
Nureyev
1977 鹿 |
Northern Dancer
1961 鹿 | Nearctic |
| Natalma |
Special
1969 鹿 | Forli |
| Thong |
Pasadoble
1979 鹿 |
Prove Out
1969 栗 | Graustark |
| Equal Venture |
Santa Quilla
1970 黒鹿 | Sanctus |
| Neriad |
サドラーズギャル
Saddlers Gal
1989 鹿 |
Sadler's Wells
1981 鹿 |
Northern Dancer
1961 鹿 |
Nearctic
1954 黒鹿 | Nearco |
| Lady Angela |
Natalma
1957 鹿 | Native Dancer |
| Almahmoud |
Fairy Bridge
1975 鹿 |
Bold Reason
1968 鹿 | Hail to Reason |
| Lalun |
Special
1969 鹿 | Forli |
| Thong |
Glenveagh
1986 鹿 |
Seattle Slew
1974 黒鹿 |
Bold Reasoning
1968 黒鹿 | Boldnesian |
| Reason to Earn |
My Charmer
1969 鹿 | Poker |
| Fair Charmer |
Lisadell
1971 鹿 |
Forli
1963 栗 | Aristophanes |
| Trevisa |
Thong
1964 鹿 | Nantallah |
| Rough Shod |
例のように赤文字の馬がクロス馬です。なんか変だと思いました?クロス馬が別の馬同士ですね。実はこのSpecialとLisadellの2頭は別馬なのですが、父と母が同じ姉妹なのです。つまり全く同じ血統をしたキョウダイで、この2頭のことを「全姉妹」といいます。そしてこのような馬同士のクロスのことを「全兄弟姉妹クロス」と呼びます。
表し方ですが、これも個人によってまちまちで「Special/Lisadellのクロス」といったり「Special(Lisadell)のクロス」といったりします。ようは全兄弟だなってことが分かればいいと思います(^^; |
さらに特殊なクロス
全兄弟姉妹クロスのほか、以下のような特殊なクロスも定義されています。このあたりになってくると複雑になるのでクロス馬そのものの血統表を使います。ちなみに以下の用語は全て笠雄二郎氏にオリジナルがあります。
4分の3兄弟姉妹の定義は「父が同じで母が親子の馬」です。NasrullahとRoyal Chargerを例として説明します。
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Nasrullah
牡 1940年生 |
Royal Charger
牡 1942年生 |
Nearco
1935 黒鹿 |
Pharos
1920 鹿 | Phalaris |
| Scapa Flow |
Nogara
1928 鹿 | Havresac |
| Catnip |
Mumtaz Begum
1932 鹿 |
Blenheim
1927 黒鹿 | Blandford |
| Malva |
Mumtaz Mahal
1921 芦 | The Tetrarch |
| Lady Josephine |
|
Nearco
1935 黒鹿 |
Pharos
1920 鹿 | Phalaris |
| Scapa Flow |
Nogara
1928 鹿 | Havresac |
| Catnip |
Sun Princess
1937 鹿 |
Solario
1922 鹿 | Gainsborough |
| Sun Worship |
Mumtaz Begum
1932 鹿 | Blenheim |
| Mumtaz Mahal |
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Nasrullahの父はNearco、母はMumtaz Begum。一方のRoyal Chargerも父はNearcoですが、母はSun Princessで祖母がMumtaz Begumになっていますのでこの2頭は4分の3兄弟となり、血統表中に彼らが現れると4分の3兄弟クロスが成立します。
4分の3同血の定義は「母が同じで父が親子の馬」です。上の4分の3兄弟姉妹クロスと上下が逆になった感じです。
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La Troienne
牝 1926年生 |
Adarigatis
牝 1931年生 |
Teddy
1913 鹿 |
Ajax
1901 | Flying Fox |
| Amie |
Rondeau
1900 | Bay Ronald |
| Doremi |
Helene de Troie
1916 鹿 |
Helicon
1908 | Cyllene |
| Vain Duchess |
Lady of Pedigree
1910 | St.Denis |
| Doxa |
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Asterus
1923 |
Teddy
1913 鹿 | Ajax |
| Rondeau |
Astrella
1912 | Verdun |
| St.Astra |
Helene de Troie
1916 鹿 |
Helicon
1908 | Cyllene |
| Vain Duchess |
Lady of Pedigree
1910 | St.Denis |
| Doxa |
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La Troienneの父はTeddy、母はHelene de Troie。一方のAdarigatisも母はHelene de Troieですが、父はAsterusで祖父がTeddyになっていますのでこの2頭は4分の3同血となり、血統表中に彼女等が現れると4分の3同血クロスが成立します。
また、4分の3同血は範囲が広く、以下のように祖父と母が同じ場合もこう呼ぶようです。
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Snip
牝 1899年生 |
St.Frusquin
牡 1893年生 |
Donovan
1886 鹿 |
Galopin
1872 黒鹿 | Vedette |
| Flying Duchess |
Mowerina
1876 | The Scottish Chief |
| Stockings |
Isabel
1879 |
Plebeian
1872 | Joskin |
| Queen Elizabeth |
Parma
1864 | Parmesan |
| Archeress |
|
St.Simon
1881 鹿 |
Galopin
1872 黒鹿 | Vedette |
| Flying Duchess |
St.Angela
1865 鹿 | King Tom |
| Adeline |
Isabel
1879 |
Plebeian
1872 | Joskin |
| Queen Elizabeth |
Parma
1864 | Parmesan |
| Archeress |
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これはあまり見られないクロスなので出会う機会は少ないかと思います。
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Orme
牡 1889年生 |
Collar
牡 1895年生 |
Ormonde
1883 |
Bend Or
1877 栗 | Doncaster |
| Rouge Rose |
Lily Agnes
1871 鹿 | Macaroni |
| Polly Agnes |
Angelica
1879 |
Galopin
1872 黒鹿 | Vedette |
| Flying Duchess |
St.Angela
1865 鹿 | King Tom |
| Adeline |
|
St.Simon
1881 鹿 |
Galopin
1872 黒鹿 | Vedette |
| Flying Duchess |
St.Angela
1865 鹿 | King Tom |
| Adeline |
Ornament
1887 |
Bend Or
1877 栗 | Doncaster |
| Rouge Rose |
Lily Agnes
1871 鹿 | Macaroni |
| Polly Agnes |
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Ormeの父Ormondeは父Bend Or、母Lily Agnes、Collarの母Ornamentも父Bend Or、母Lily Agnes。つまりこの2頭は全兄妹になります。一方Ormeの母Angelicaは父Galopin、母St.Angela、Collarの父St.Simonは父Galopin、母St.Angelaでこちらも全弟姉クロス。これらを両親に持つOrmeとCollarは全く同じ血統となるので同血となります。 |
クロスのパーセンテージ
また、クロスをパーセンテージで表すこともあります。これを血量といい、そのクロスが持つ影響力の大きさを数字で知ることが出来ます。父、母を50%、叔父、叔母25%という風に代を進めるごとに半分に割っていきます。100%−同世代にいる馬の数でも個々の馬の血量は求まります。そして、2×3なら25%+12.5%=37.5%となり、3×4なら12.5%+6.25%=18.75%となります。また、3×4のように18.75%になる血量を持つ名馬が多いのでこの血量のことを「奇蹟の血量」といったりします。Special、Lisadel姉妹のクロスは4×4×3で6.25+6.25+12.5=25.00となり3×4より大きく、いくら古い代のクロスでも数が多ければ影響力が大きくなる証拠です。 |