競走馬のその後


トップページ > 講義室
引退したサラブレッドは?

 サラブレッドは怪我、歳などで引退をします。中央競馬の馬は中央競馬の登録抹消後に地方競馬へ転厩、ごくまれに海外へと活躍の場を求めていくなどということもありますが、完全に競馬をやらなくなったサラブレッドにはどのような道が残されているのでしょうか?
 みなさんが真っ先に思いつくのは、「種牡馬」、「繁殖牝馬」、「乗馬」といったところでしょうか?この他にも「誘導馬」、「研究馬」、「使役馬」、「農馬」などがあります。サラブレッドたちはこのようにそれぞれ新たなる道を歩むことになります。
 しかし、この新たなる道をすすみ天寿をまっとうできる馬がどれだけいるのか?ということを考えると大変悲しい背景が浮かび上がってきます。今後の日本のサラブレッドたちの行く末を考えると大きな問題がたくさんあり、それを解決しようと多くの人たちの努力が日夜続けられているというのが現状です。
新たなるレースの始まり

 引退したサラブレッドが歩む道としての最高の形が「種牡馬」、「繁殖牝馬」と考えられがちです。牝馬にしろ、牡馬にしろ繁殖入りして初めて自分の血を後世に残すチャンスをもらえます。ただ、それだけに後世に優秀な血を残すための第2のレースが始まりです。
 現在の日本では種牡馬が飽和状態といってもいい状態です。さらに海外から優秀な競走馬、一流の血統の競走馬を種牡馬として輸入します。日本での実績も世界規模では色あせてしまいます。G1を1勝した馬や重賞勝ち馬というレベルでは、いい繁殖牝馬があつまらないという現状はおろか、ほとんど種付けできないという状態になります。いい繁殖馬が揃わず、しかも種付け頭数は極端に少ない、こういう条件でもいい結果はださなくてはいけないとてもシビアな世界なのです。繁殖牝馬にしても不受胎が多い、仔馬が勝ち鞍に恵まれないと仔馬が売れずに、人気も落ちるという状況です。イナリワン、スーパークリーク、オグリキャップらかつての名馬も最初こそ人気があっても結果が出せないともはやいい繁殖牝馬に恵まれません。かつての3冠馬ミスターシービーですら種牡馬失格の烙印をおされています。シービーは、功労馬として母シービークインと一緒に暮らしているので幸福な方です。
 種牡馬というエリートコースにのっても、結果が出せないと廃用といって殺されてしまうサラブレッドがほとんどです。繁殖牝馬も同様です。最近の例ではセイウンスカイの父シェリフブスターがいい例です。種牡馬として結果が出せないので廃用となったのです。セイウンスカイがその後運良く活躍したのです血はまだつなげますが、こういった形で活躍馬が出ないまま廃用となる種牡馬が多いのです。
 ただ、生産者の人たちの好意により廃用にされずに、毎年少頭数でも種付けをしているサラブレッドもいますし、小規模牧場むけに、種付け料を無料にしたり、受胎確認後に種付け料をもらうという工夫で数多くに種付けをして種牡馬としての成功をおさめようとしているサラブレッドもいます。激戦区の北海道をさけて青森、千葉、九州へと移っていくサラブレッドもいます。
 生き残りをかけて、引退後もサラブレッドたちは新しいレースを始めているのです。
新天地で・・・

 種牡馬、繁殖牝馬と違い自分の血を残すのとはまったく関係ない世界へと進むサラブレッドがほとんどなのが現実です。レースを誘導する華やかな誘導馬というものもありますが、誘導馬になれる馬は美しく、賢く、気性がおとなしくなくてはいけないのでなかなかなれません。
 農馬となり、農業の手助けをするサラブレッド、研究馬になって競馬関係の研究施設などで病気やトレーニングの研究やデータ集めに使われるサラブレッド、さらにはかわいそうですが、牝馬の繁殖時期を確かめるだけで決して交配することなく、あて馬としてだけ利用される使役馬として・・・こうして新天地で働くサラブレッドがたくさんいます。
 そういった中で一番よく見かけるのが乗馬です。この乗馬というものがある意味一番いろんな種類の仕事があるのでしょう。みなさんの想像通り「乗馬クラブ」にいって本当の乗馬となるサラブレッドもいますし、「乗馬競技」の馬として乗馬競技の訓練を受けるサラブレッドもいます。訓練の成果でオリンピックや国体で優秀な成績を残すサラブレッドもいます。また、警視庁騎馬隊など広義の意味では乗馬なのでしょうけど、特殊な新天地にいくサラブレッドもいます。
 しかし、乗馬というのは名ばかりで一時的に施設に預かる形にしてすぐに廃用、または「乗馬クラブ」というサラブレッドの取引場だったりと、そういう場所にいき肉用として売られるサラブレッドもいます。そういったことがめずらしいというよりも、最終的にほとんどのサラブレッドが食用肉になると言っても過言ではありません。乗馬で生き残るにも、乗馬に向いているサラブレッドでないといけません。ここでも、実績の残せなかった繁殖用の馬たちのように才能のないサラブレッドは生きるすべを失うのです。
 実はこういった状況が悲劇のように思えるかも知れませんが、まだ競走馬になれたというだけでも幸せかもしれません。厩舎に入厩した馬が無事にデビューすること自体がめずらしく、サラブレッド過剰生産と言われ、売れ残り、食用としてですら買い手がつかず、ゴミのように捨てられるサラブレッドたちもいるのです。
サラブレッドの悲劇

 引退といっても怪我や年齢によっての引退だけとはかぎりません。レース条件が厳しくなる4歳秋以降にトレセンを出されるサラブレッド達がたくさんいます。登録抹消の時に血統書を出せば加給金がもらえることも手伝って、また馬房回転率をよくするために、サラブレッドたちは登録を抹消されていくのです。こういったサラブレッドのほとんどは廃用になると思われます。ちなみに、怪我して走れなくなったサラブレッドや死亡したサラブレッドには見舞金が馬主相互会から支払われます。 
 こういったシステムがサラブレッドの処分を気軽にさせ、早めているという説もあります。もし、この説が本当ならサラブレッドは経済動物ということでしか馬主は見ていないということになるのですが、そうでないことを祈りたいものです。
一握りの幸福

 引退後、様々な道で生き残りをかけて争うサラブレッドたちの中で本当に一握りですが、天寿を全うできる馬たちがいます。引退後の生き残りを賭けた争いに勝ち残ったサラブレッドは当然ですが、一部の生産者やファンの人たちの好意によって功労馬として牧場などで生活をしているサラブレッドたちもいます。
 またそればかりではなく、最近の北海道のノーザンホースパークや静岡のつま恋乗馬倶楽部のような乗馬施設とレジャー施設の融合により、ファンがいつでも好きなサラブレッドたちに会えるという施設もできてきて、引退後もファンに見守られているサラブレッドたちも徐々に増えてきました。ただ、経営状況は赤字らしくなかなか他の業者が入るという状況ではないようです。
 欧米諸国は日本よりも乗馬が身近なために、競走馬、乗馬など問わず馬のサンクチュアリと呼ばれる「レストホーム」がたくさんあります。日本では土地の狭さや馬が身近でないことを考えるとなかなか難しいことではありますが、こういった施設を作るためにがんばっている人々が日本にもいるというのも喜ばしいことです。