サラブレッドのメカニズム


トップページ > 講義室
視覚

 サラブレッドを含め馬の視野は350度もあります。これは顔面のやや斜め後ろに目があるためにですが、視野が広いだけでなく二つの目がそれぞれ別のものを見分けることができるという大変優れものです。これは草食動物の進化と関係しますが広い草原の中視野が広く、左右の目がそれぞれ別の対象を認識しないと肉食動物に捕まる危険性がぐんと増すからです。

 しかし利点だけではありません。まず二つの対象物を別々に認識できるものの、同時に二つの目で同じ対象物を立体的に見るのが苦手で、すぐ目の前にある対象物は見ることすらできません。一説によると、上記の理由で障害レースの馬は勘だけを頼りに障害を飛んでいるという説があります。また家畜化された馬やサラブレッドは、視野が広い故に他愛もないことで驚いてしまうようにもなっています。肉食獣に襲われる心配がないとはいえ、二つの目の習性が残っているので危険でないことにまで敏感に驚きます。これが馬券の紙くずや鳥の影などに驚くといったサラブレッドの習性につながっています。そういったことで視野を狭めようと編み出されたのがブリンカーと呼ばれる遮眼革です。脚元ばかりみたり集中できない馬にはシャドーロールを付けたりするのも同じような役割です。

 また動物の目は眼球の中に入ってくる光を調整でき、瞳孔を広げたり縮めたりすることで光を調整します。人はこの瞳孔が縦長に変形しますが、馬は広い視野をもつ特長のために横長に収縮します。また馬の眼球はややいびつな形をしているので瞳孔を通して目の中に入る光の角度の違いによって、水晶体から網膜までの距離が異なるような構造になっていて、近くの対象をみるときは頭を上げ、遠くの対象をみるときは頭を下げる仕組みになっています。つまり草を食べるとき頭を下げることは遠くの肉食獣を注意しながら食事をとることができるのです。

 また馬はどのくらいの距離のものがみえるかというと、静止物は数十メートル、動いているものの認識は100メートルとされています。色の区別はできるかというと、多少できるらしくまったくの色盲ではないらしいです。黄色系の色は多少なりとも判断できるらしいです。
嗅覚

 サラブレッドは嗅覚が人間よりもはるかに優れているというふうに言われています。ほとんどの哺乳類が嗅覚が人間より優れていますが、これは全ての臭いというわけではなく、特定の臭いらしいです。実際、馬たちは人間が敏感な血の臭いに鈍感で屠殺場へいっても格別反応することもなく、戦争で周りが血の臭いだけになっても反応することがありません。ただ、ほとんどの臭いに関しては人間より優れていて、自分の世話をしてくれる人間や住んでいる厩舎は臭いで見分けています。

 繁殖牝馬は仔馬を臭いで見分けていますし、牡馬は放牧場では犬のように放尿し自分の縄張りを尿の臭い区別させます。また、馬たちは放牧から帰ってくると臭いだけで人の先導がなくても、自分の寝床に帰ってきます。ただ臭いに頼りすぎているために逆に鈍感な部分も出てきて、家畜の馬の人工授精に使う精子は牝馬の臭いを付けた布を木の台につけておくだけで、牡馬は木の台を牝馬と勘違いして射精をしてしまうという方式で優秀な牡馬の精子を入手しています。

 これだけ臭いに敏感で臭いで物事を判別しますが、牧草に関しては判別できないらしく、放牧時間の長い外国では馬が過ってドクニンジン、トリカブトなどを食べて死亡する事件も結構あり、関係者が毒草の見分け方を勉強しています。

 性的な衝動と関係があるといわれているフレーメンという、馬が上唇をめくりあげる動作がありますが、これは最近では性的衝動とは関係がないことが判明されました。この動作は、ある特定の臭いに反応し、その時に馬が反射的にやる動作のようです。某番組でスペシャルウィークが白井調教師に人参をもらうときにフレーメンをしていたことからも性的な衝動でないことは確かでしょう。
臭覚

 サラブレッドの触覚はそれなりに敏感ですが、体の部位によって大きく異なり、個体差も結構あるといわれています。脚の下部や肋、ひばらなどをいきなりさわると蹴られてしまうのは、馬がそこを触られるのを極端に嫌うからで、治療なのでやもえず触るときは、他の部分を触り、徐々に目的の部分へとゆっくり手をもっていくくらい慎重にあつかいます。

 逆に、首の当たりは触られると気持ちがいいらしく馬と親しくなるには最初はこの部分を撫でるのは常識というくらいです。なので、競馬でも馬が1着でゴールすると騎手は首をぽんぽんたたくし、帰ってくると厩務員や調教師も首をぽんぽんとたたく光景はよく目にします。

 では、鞍を乗せている背中は?といいますと馬は背中が鈍感で結構感じにくいので、鞍を置いたり、人が乗ったりするのに適しているのです。神経が鈍いという点では鼻の方がさらに鈍く、よく種付けなどで暴れる牝馬に鼻捻棒という鼻のねじを付けておとなしくなるまでひっぱる作業がよく見られます。一見痛そうに見えるこの方法は実は、痛覚を感じる神経の少ない鼻を強くねじあげることで神経が麻痺して、麻酔のような効果になり馬がおとなしくなる効果があるのです。ただ、そういった事情を知らない動物愛護団体がこの行為を批判しているのは言うまでもありません。

 動物愛護団体と馬の触覚の問題で一番有名なのは、レース中馬に鞭をうち続けることです。これは英国や愛国ではかなり厳しく鞭の乱用を禁じ、それを破るとある程度のペナルティを受けないといけないほどです。ただ、実際はどうなのか?と言いますと。背中に近いせいか、馬は鞭で叩かれても痛みを感じることがほとんどないそうです。つまり鞭は馬に走れという合図を送っているにすぎないと科学者達も言っています。ただ動物愛護団体にしてみると痛覚の問題ではなく人間に害を加えていない馬に鞭を使うことが問題ということだそうです。
聴覚

 サラブレッドの聴覚は人間の約1.5倍ですが、他の哺乳類に比べると劣っています。野生時代に、視覚等の感覚ほど重要でなかったということでしょう。人間の呼びかけに犬などは正確に反応するのですが、馬はそういうわけでなく自分の名前に反応するのは難しいです。

 また、大きな音にはすぐに慣れてしまうという実験データもあるらしく、飼い主を足音で判断できるという説もありますが、それが難しいらいいというのは真実だそうです。大井競馬場の馬たちは、モノレールや飛行機の音に悩まされることなく生活しているのも、おそらく大きな音になれるという性質からでしょう。また過去には自衛隊の飛行訓練の音で、繁殖牝馬が流産した、馬が暴れて怪我をしたということで裁判も起きましたが、騒音を理由にそのようなことが起きたという立件ができず、裁判は敗訴に終わったという記録もあります。ただし若い馬は同じ言葉を反復して教えると聞き分ける能力があるらしく牧夫が「シー、シー」と口笛に似た声を出してやると馬が落ち着き、その牧夫に慣れ他人と区別できるようになるまでの時間が相当短縮されるそうです。

 馬は最近の研究で、コウモリのようなエコーロケーション(反響定位)能力があることが確認されています。これにより、自分の出した音と、その音が近くにある物体に当たり跳ね返ってくる時間を計り、その物体と自分の位置を計ることができるので、目の前にある物体がよく見えない馬の視覚でも障害物を飛び越えることができるといわれています。そのためにメンコは馬の聴覚を下げ、逆に落ち着かなくして能力をフルに発揮できない状態にしているという説も出てきています。実際、他国はメンコよりもブリンカーをつける傾向があり、ブリンカーよりもメンコをつける日本とは逆の傾向にあります。しかし、競走馬総合研究所での馬のメンコのテストでは特に目立った減音効果は認められなかったそうです。

 では、それだけ聴覚が発達していないのに大きな耳を持っている理由は?というと耳には物音を聞き分ける能力よりも、耳を左右前後に動かして喜怒哀楽を表したり、音の発生源を仲間に知らせる能力があるという言われています。ただ今まで述べてきたことはあくまでも説に過ぎず、反論もあるのが事実で未だ聴覚は解明されているところが少ないのが現状です。
操り方

 サラブレッドが誕生するという背景には、野生の馬が人間の道具として家畜化されていたことが必要不可欠です。家畜化されていない野生の動物を人間の手で品種改良できるわけがないのですから。つまりサラブレッドというよりも、馬が何故人間の家畜になりえ、農耕馬、軍馬などに活用し、人間が馬たちを制御できたのか?といいますと、馬具が開発されたからなのです。今では当たり前の、鐙(あぶみ)、銜(はみ)、鞍(くら)そして蹄鉄(ていてつ)、これらができたからこそ今のように競馬ができるレベルにまで馬を人間が御することができるようになったのです。(馬にとってはいい迷惑なのかもしれませんが)そこで今回は馬具について解説していきたいと思います。

 まずは、銜です。銜の発明によって、人間が初めて馬を自由自在に乗り回せるようになったとまでいわれ、人類史上でも素晴らしい発明です。銜は誰かが発明したとかではなく、人間の知識が時間をかけて改良をかさね今の形になっていったのです。銜を簡単に説明すると、馬の口にかませた金属棒のことで、棒の両端に手綱などを結びこれらの綱を引いたり、緩めたりして馬を制御する道具のことです。この口にかませるといっても、馬の歯の形をうまく利用していて、歯槽間縁という奥歯の間の隙間をうまく通してかませているので、上下の歯にかませるということをしなくてもいいのです。

 次に鞍です。銜によって馬を御することができるようになってから、馬の背中に乗るために開発された馬具です。4世紀の頃にペルシアで発明した馬具ということですが、推測の域をでていないそうです。この鞍も座りにくいとかお祭りの飾りとか様々な文化や事情を経て徐々に進化して今のように乗りやすい形になっていきました。鞍の発達に大きく貢献したのが、戦争への軍馬の導入ということだったそうです。

 そして鐙です。鐙は鞍ができてから発明されました。鐙が発明される前までは足は中でぶらぶらしているのですが、このために病気になったという文献もあり、そういったものの対策もあって発明された馬具であろうことが推測されています。もともと鐙というものは、昔の人が馬に乗るときに誰の手も借りずに乗ることから、補助する器具として開発されたというのが大方の学者の推測だそうです。鐙の発明により、ぐっと馬が乗りやすくなったのは事実です。

 最後に蹄鉄です。蹄鉄は、馬の蹄を保護するために開発されたことは事実ですが、これは権力の証でもあったそうです。権力者は金銀の蹄鉄を馬にしたりしていたそうです。紀元前から、蹄鉄は存在していたらしいということを示唆するコインがイタリア南部で発見されたりしていますが、ほとんどが謎のままだそうです。ただ日本では、明治になる前までは蹄鉄という馬具はなく、馬の蹄の保護は「馬沓」という藁や草で編んだものを使用していたそうです。
 こういったものの発明と改良により、馬を人間が制御できるようになり。「競馬」という文化を築き上げるまでになったのです。
走り方

 サラブレッドの走り方は今でこそ何種類あるかなどわかっていますが、その昔はこの走り方で様々な議論が生まれたそうです。サラブレッドという言葉が生まれる遙か昔に、古代ギリシア人が馬が走る時に地面から4本の脚全てが離れるか否かということを議論してきました。結論は、速すぎる馬の走りでお互い自分の意見が確信もてずにわからずじまいでした。
 そして、1872年にアメリカのカリフォルニアで古代ギリシア人と同じ議論で争い喧嘩になった金持ちがいました。その金持ちが、議論の結論を出すために写真家のマイブリッジ氏に写真撮影を依頼しました。このマイブリッジ氏が苦難の末、画期的な方法で馬の走りの撮影に成功し、馬の脚が走るときに地面から全てが離れるのを証明しました。この時の撮影方法が高速連続撮影写真の核となり、カメラや撮影の技術を上げるという功績を残しました。
 それ以降写真技術の進歩などから馬の走りが研究され、走り方の種類が解明されました。乗馬などでは、10種類を越える走り方があるそうですが、ほとんどの馬は生まれながらにできる4種類の走り方があるそうです。サラブレッドの走り方もこの4つをベースに細分化されています。4つというのは、「常歩」、「速歩」、「駈歩」、「襲歩」と呼ばれています。

  • 常歩
「なみあし」と呼び、普通に歩いていることで分速90mくらいです。パドックなどで、馬がゆったり「ぱっか、ぱっか」歩いている状態のことです。蹄音が4拍子になる歩き方です。「常歩」は別名「ウォーク」とも呼ばれています。左後肢→左前肢→右後肢→右前肢という具合に左右対称の動きで、必ずどこかの脚が地面についています。

  • 速歩
「はやあし」と呼び、分速120〜130mくらいで、一瞬だけは地面から全ての肢がはなれます。蹄音は2拍子になり「とっとっとっと」というリズムを刻みます。「トロット」、「ダグ」などと呼ばれたりもします。脚の運びは、左後肢+右前肢→右後肢+左前肢という具合です。

  • 駈歩
「かけあし」と呼び、時速20〜40kmくらいで、完全に全ての脚が地面を離れる走り方です。蹄音は「パカラ、パカラ、パカラ」と3拍子になります。長距離レースの途中や、ゴールしてからの徐々にスピードが落ちるときに使われる走り方です。別名「キャンター」とも言われています。
 脚の運びは、左後肢→左前肢+右後肢→右前肢となります。この走り方には、最後に右前肢がつく「右手前」、逆に左前肢がつく「左手前」があります。最後の前肢がついたあとに、全ての脚が宙に浮きます。

  • 襲歩
「しゅうほ」と呼び、もっとも速い走り方です。時速は50〜60kmくらいになるといいます。自然の馬なら、肉食動物から逃げるときに使います。蹄音は4拍子になり、「どどどど」とテレビで競馬を見るときに聞こえてくる音になります。別名「ギャロップ」ともいわれています。
 「襲歩」には、種類があり、「交叉襲歩」「回転襲歩」「ハーフバウンド」というのがあります。通常の襲歩とは「交叉襲歩」のことです。脚の運びが、左後肢→右後肢→左前肢→右前肢となります。この走りには右手前と左手前があり、レース中にこの手前が変わると「手前を変える」と言われるのです。最後の、前肢がついたあとに脚全体が宙に浮きます。
 「回転襲歩」とは手前を変えるときになる襲歩です。脚の運びが、左後肢→右後肢→右前肢→左前肢というようになり、回転していることからそう呼ばれます。
 「ハーフバウンド」は、後肢で地面を蹴り、前肢が地面につくという、ウサギや猫の走り方です。スタートの時に一瞬やります。エネルギー消費が凄いので、スピードが出るもののスタートの時しかやらないのだそうです。「みどりのマキバオー」の「マスタング走法」といったほうがわかりやすいいかもしれませんね(^^;
 また普通のサラブレッド(馬)は、「左手前」が走りやすいのだそうで、左手前だと左のカーブが曲がりやすいのだそうです。となると、普通の馬は左回りが得意ということになり、右コースが得意な馬は特殊ということなのかも知れません(?)