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江戸謙顕氏(学術振興会科学技術特別研究員)
イトウは絶滅危惧種であり、緊急的な保護措置が必要であることはいうまでもありません。ところがそのための法整備はどうかというと、ほとんど進んでいないのが現状です。
唯一、例外的に法的な保護対策がとられているのが空知川上流域で、産卵期の捕獲が禁止されています。これは北海道内水面漁場管理委員会指示によるのですが、これによって実際、産卵期に釣りに来る人がかなり減ったので、効果はあったと思います。それまでは産卵場所に釣り人がずらっと並ぶような状況でしたが、委員会指示が出されてガクンといなくなったんです。
ただ、罰則規定はありません。(違反している)釣り人を発見しても、ただ注意することしかできないんです。また委員会指示は1年ごとに更新されるのですが、このために毎年資料を出して、「効果があるから禁漁にしてください」といちいち頼まなくちゃならないんです。メンドクサイし、いつかは指示を解除しなくちゃならない。もし解除したらどうなるか。いま「金山湖上流域は禁漁」とバーンと地図まで出して禁漁にしていて、逆にいうと「ここにイトウがいる」とみんな分かってる。いま指示が解除されたら、空知川上流でイトウ解禁だっていうことになって、増えたイトウが全部釣られてしまうでしょう。
そもそも委員会指示では釣り人の規制しかできません。イトウ保護のために生息環境を守ることはできません。空知川は唯一の例外で、これ以外の生息地で保護のための法規制は何もないんです。これでイトウを保護できるでしょうか。
ではどんな法律が求められるのか。まず開発行為の制限ですが、イトウが減少した最も大きな原因は生息地の破壊と分断化であると考えられます。ダム、堰堤、河川改修、森林伐採などですが、これをなんとか制限できればイトウはあるていど、保全できるのではないか。どういう開発をするか事前に情報公開して、第三者機関を置いてアセスメントし、もしイトウに影響がありそうだとすれば開発行為を制限する、こんな法律があればかなり効果が期待できます。
ふたつめは、捕獲・移植放流の制限です。たとえば猿払なんか、釣り人がかなり増えていて、キャッチ&リリースする人も多いですけれど、効果はよく分かりません。猿払の個体群は比較的安定しているのでまだいいのですが、たとえば親魚が4匹しかいないと考えられる十勝川なんかで、たまたまそこで釣り人がバタバタと2本くらい釣ってしまったら、それでもうイトウが半分いなくなってしまうわけで、これはやはり規制しなくてはならないでしょう。
移植放流も問題で、たとえば尻別川の「オビラメの会」は尻別産のイトウを使って本来の尻別イトウを増やしたいと活動しているわけですが、「尻別にイトウいなくなっちまったから猿払からイトウを持ってきてやれ」と、わーっと持ってきてわーっと放流されてしまうと、尻別産と猿払産が混ざってしまって、本来の尻別産のものが失われてしまいます。遺伝的多様性が失われてしまうということです。こうしたことをあらかじめ規制できれば、イトウ保護は一歩前進すると思います。
3番目は、すでに個体群が崩壊した支流もしくは水系、これに対しては開発規制・釣り人の規制をしてもどうしようもない。復元をしていく必要があり、このための制度が求められます。
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イトウの保護に利用可能な法律
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法律名
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対象地域・個体群
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内容
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問題点
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| 北海道希少種保護条例 |
絶滅危機個体群(尻別、釧路、斜里等) |
開発行為・移植放流の制限、増殖事業 |
指定が困難、全面禁漁 |
| 町村、流域自治体条例 |
道内全域 |
個体群の状況に対応して制定 |
制定が困難、自治体の協力 |
| 河川法 |
道内全域 |
開発行為の制限、生息環境の復元 |
意見反映の程度が不明 |
| 内水面漁業調整規則 |
道内全域、各地域 |
産卵期の禁漁、有害物遺棄等禁止 |
制定が困難 |
| 漁業法 |
朱鞠内 |
捕獲・開発行為等の制限、増殖事業 |
漁業権をもつ水域のみ |
さて、では現状どんな法律の適用が考えられるでしょうか。一つずつ見ていきましょう。まず北海道希少種保護条例です。指定した種に対して保護管理事業をおこなえる仕組みで、保護管理事業では、解釈の仕方によっては、ちょっと強引に(笑)開発規制もできるのではないか、さきほど述べた内容のかなりの部分をこの条例でできると思います。そう思うのですが問題点もありまして、まず指定種は捕獲禁止、釣りができなくなっちゃいます。あるていど安定しているイトウ個体群に対しては、釣りを認めながら維持管理していくという手法のほうがよいと思うのです。釣りを通してイトウの価値を一番よく知ってますし。人とイトウとの関係を遮断してしまうのは問題だと思います。もうひとつ、この条例はなかなかいい条例なのですが、指定を受けるのが非常に困難なのです。現在指定されているのは一部の高山植物で、生息地が非常に限定されているものです。イトウのように生息域の広い動物が指定されるかどうか。イトウを指定すれば流域全部を指定することになりますからね。当然抵抗勢力が出てくるでしょう。ただ「絶滅危機個体群」については、指定されればかなり効果的だと思います。
次に市町村条例を挙げました。地域個体群の状態に合わせて中身はかなり自由に制定できるはずです。たとえば猿払村で、釣りを認めながらイトウ保護管理を進めていきたいという条例を作ることもできるでしょう。そういう進んだ条例ができれば画期的なことです。問題点としては、自治体の協力が必要だということ。地元のやる気が不可欠です。開発行為の制限など、あまりに厳しい内容にすると抵抗勢力に潰されますし、緩すぎては効果が出ない。妥協点を模索するのが難しいかもしれません。
河川法です。1997年の改正で河川環境保護が目的に加わりました。河川計画の立て方も変わって、地元や学識経験者の意見を聞くようにもなっています。環境保全のために河川法は有効になったのではと期待が持てるのですが、どのくらい意見が反映されるのかはまだ不明です。ホントに意見を採り入れてイトウ生息環境の保護につながるかどうか、これはやってみなければ分かりません。住民の側もそうとう具体的な内容をもって提案していかなければ、方向を変えることはできないわけです。やり方によっては有効だけれども、半端にやってしまっては全然効果はないでしょう。
次は北海道内水面漁業調整規則です。道内全域、もしくは地域を指定して捕獲を制限することができます。産卵期禁漁も可能です。ただ、そもそもイトウを水産資源といえるのかどうか。イトウをこの法律にぶち込んでどうこうすることができるかどうかが問題です。
次が漁業法。保護増殖のためにいろいろ制限できるんですが、漁業権が設定されている場所でのみ有効ですので、いまのところ朱鞠内湖淡水漁協さんで可能です。
こうした状況下で何ができるか、考えてみます。まず河川法に基づいて情報収集をして、イトウ保護のための意見をどんどん言っていくことは可能です。今回、イトウ保護連絡協議会ができましたが、各地域でどんどん意見を言うことです。次は漁業調整規則による産卵期の禁漁措置。せめて産卵くらいちゃんとさせてあげようよ、と思うのです。これはぜひ実現させたいです。これも連絡協議会で意見を申し入れたりできるはずです。
猿払のような比較的安定した個体群の地域では、釣りも認めながら保護管理をおこなうイトウ保護条例をぜひ実現してい欲しい、猿払さんにはぜひがんばって欲しいなと思います。朱鞠内さんや金山湖でもこういうことはできると思います。
次が尻別・十勝・斜里など絶滅危機個体群における条例の制定です。こうした生息地では何かアクションを起こさなければどうしようもない状況です。全面禁漁しなくてはなりません。
5番目が釧路における希少種保護条例地域指定。この条例は種指定が非常に困難だと先ほど言いましたが、釧路は比較的やりやすいと思うのです。釧路湿原保全の気運は高まっていますし、流域面積のかなりの部分をこの湿原が占めているので効果も期待できる。
そして最後が、イトウの管理主体を明記した新しい法律の制定。イトウも含め、日本の法律では野生生物は「無主物」として扱われていて、管理主体が存在しない状態です。絶滅しようがなにしようがだれも責任を負わない。釣ったら釣った人のもの。こうしたことは時代にそぐわないでしょう。イトウを国民の共有財産であるということを明記して、この共有財産を保護する責任主体を明らかにする法律を作るんです。行政がその任を負うことになるでしょうが、もしイトウが絶滅しそうになっているのを分かっていながら対策を何もしなかったら、そういう行政の怠慢を住民が訴えたりだとか、アメリカでは実際にそういう訴訟が起きています。現行法をムリクリ拡大解釈して利用するより、そんな概念の新しい保護法をつくることが必要で、そんな法律を提案していくことにも首を突っ込んでいかなくてはならないのではないかと思っています。
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