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「尻別川の未来を考えるオビラメの会」は、北海道尻別川に生息する「南限のイトウ」保護に取り組むNGOです。

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福島路生(アラスカ大学ジュノー校水産学部大学院)
北海道・猿払川におけるイトウの産卵環境と生殖

FGF研究成果報告

 北海道の森と川を語る会会報「森と川」No.3/1993に収録された上記論文の一部を、著者の福島路生氏(現・環境庁国立環境研究所研究員)と「北海道の森と川を語る会」小野有五代表(北海道大学大学院地球環境研究科教授)のご許可を得て、抜粋・収録しました。福島・小野両氏に深く感謝いたします。(なお*印のついた図表は省略しました)

イトウとはどんな魚か

 イトウ(Hucho perryi Brevoort )は日本最大の淡水魚で、分類上はサケ科イトウ属に属する。ほかのサケ科の魚と比べ体高が低く、頭は小さく平坦である。また、背面は青みがかったオリーブ色をして頭部側面から体側部にかけて濃褐色の小点が散在する。腹面は白く、体側は銀白色であるがやや赤みを帯びているものもある。オスは産卵期にこの体側の赤みが強まり、鮮やかな朱色に染まる。(写真1および表紙写真参照)

 体長は1m以上、体重は25-45kgに達する(Berg、1962)とされるが、近年は生息域の縮少、資源量の減少とあいまって、とくに大型の個体を見かけることは極めてまれになりつつある。

 イトウ属はユーラシア大陸に広く分布し日本に生息するイトウHucho perryiの他にシベリヤに生息するタイメン(アムールイトウ)H.taimen、朝鮮半島の鴨緑江上流のコウライイトウ(チャチ)H.ishikawai、中国の揚子江上流の虎魚H.bleekeri、ヨーロッパのドナウ河のフーヘンH.huchoの4種が知られている。これらイトウ属の魚はよく似た形態をしているが、イトウ(Hucho perryi)の側線鱗数は100〜125で、他の4種の側線鱗数150〜200に比べて著しく少ないことから区別できる。イトウは主として北海道、南千島、樺太の河川、湖沼に分布するほか、過去に措いては青森県の小川原沼で捕獲されたこともある。日本以外ではウラジオストック・オリガ及びアマグ(沿海州)からの記録があるが、北千島・カムチャッカ半島以北からの報告はない。一般に平野をゆるやかに流れる河川に多く見られ、北海道では道北・道東の一部の河川に比較的多く生息している。また。本種はイトウ属の中で唯一降海するものであり、沿岸水域でも生息していると考えられている(木村1966)。

 山代(1965)は、この魚についての研究はこれまで単に分類学的記録にとどまり、その生態に関する報告はないに等しい、と述べている。それから30年近く経った現在も状況はさほど変わらず、生態についてはわずか数編の論文が発表されているに過ぎない(例えば、本村、1966;Gritzenko et al,、1976;川村他、1983)。

 イトウの生活史について、これまでにわかっていることをまとめると以下のようである。

 イトウの年齢と成長との関係は道東の河川においては満1年で体長10cm、2年で15cm、5年で30cm、8年で50cm位、道北の河川では1年で10cm、2年で20 cm、5年で50cm、8年で70cm位とされ、各河川により差が見られるが、その成長度はサケ・マスの中では決してよい方とは言えない(山代、1988)。

 イトウの卵は発眼までに積算温度200℃強、孵化までに350℃、浮上までに600℃を要し、仔魚は7月〜8月に浮上する。(川村洋司、北海道立水産孵化場、私信)。稚魚はその後1〜2年は上流域に生息し、主に水生昆虫を餌としていると考えられるが、その詳細については明らかにされていない。さらに成長し体長が30cmを越える頃になると食性は魚食性へ変化してフクドジョウなどの小魚を食べるようになり、生息域も下流へと変化してゆくと考えられる。イトウが初めて成熟する大きさは雄で体長45cm位、雌で55cm位で、シロザケのよぅに一生に一回の産卵で生命を終えるのではなく生涯に数回の産卵を繰り返す。 飼育されるイトウの成魚については毎年産卵することが確認されているが、天然のイトウの産卵については断片的なデータしかなく、毎年産卵しているのか、数年に一度しか産界しないのか、明らかになってはいない。イトウの産卵についてこれまで明らかにされていることを以下に簡単に紹介しておこう。タタール海峡(間宮海峡)に注ぐ沿海仰の河川では7月に産卵することが知られている(Berg、1962)。サハリン・ボガタヤ川では5月の終わりに河口で産卵後の個体を見かけるが、産卵期はその後6月下旬ごろまで続くようである。(Gritzenko et al.、1974)。北海道東部では河川の氷がとける3月中旬から4 月下旬の問に産卵すると推定されており(木村、1966)、緯度が低くなるに従って産卵期が早まる傾向が窺える。産卵個体群の年齢組織はサハリン・ボガタャ川で8+から16+、このうち最も頻度が高かったのは10+と11+である(Gritzenko et al.、1974)。北海道北部では比較的若齢の5+(メス)および3+(オス)で成熟し、という報告がある。(寺西哲夫、川村洋司、北海道水産孵化場、山内晧平、北海道大学水産学部、未発表)。またイトウの産卵環境に関する文献はわずかに木村(1966)と筆者によるFukushima(1990)があるのみである。しかも木村(1966)は北海道東部で発見された産卵床をわずか1例記載しているに過ぎない。

 日本産サケ科魚類とは異なり春の4月下旬から5月にかけて行われ、親魚は雪解けによる増水時に下流域や湖から上流や支流の小河川に遡上して産卵する。産卵は河床が砂礫であり、川の淵から瀬に移行する部分で行われ、他のサケ・マス類同様に雌が産卵床を掘り、その中に産卵して砂礫をかぶせる。雌は一度に全部の卵を産卵するのではなく卵を数カ所に分けて産む。本種が生態的特徴について他のイトウ属とはっきり異なっている点は、イトウ属のなかで唯一降海することにある。本調査でも、沿岸の定置網にイトウが漁獲されたという報告を得ることができたので、イトウがその生活史のある時期を沿岸で過ごしていることはまちがいないであろう。しかし、イトウが1年を通じてどんな場所にいるのか、どこで越冬しているのか、わからないことはまだ無数にある。イトウはやはり最も謎に満ちたサケ科魚類なのである。

 本文中ではいたるところでイトウ他のサケ科魚類との比較を行っているが混乱を避けるため本文では一般名のみで表示し、以下に一括してぞの学名を付記して分類を明確にしておくこととする。サケ科魚類の分類は今もって未解決の問鹿をかかえているようだが、ここでは一応最近された論文(Phllllps et al.、1992)に基づいて分類を行なう。なおサケ科以外でも本文に登場するものはすべてその他の魚種として紹介した。
サケ科
イトウ属 イトウ (Hucho perryi)、フーヘン(Hucho hucho hucho)、タイメン(Hucho hucho taimen)
イワナ属 アメマス(Salvellnus leucomaenis)、ミヤペイワナ(S. malma miyabei)
Salmo属 ブラウントラウト(Salmo trutta)、大西洋サケ(S. saiar)
サケ属 ニジマス(Onrhynchous mykiss)、サクラマス(O. masou)、マスノスケ(O. tshawytscha)、ギンザケ(O. kisutch)、シロザケ(O. keta)、ペニザケ(O. nerka)、カラフトマス(O. gorbuscha)
* Salmo属にはつい最近までニジマスが含められ、ニジマス属という和名が与えられていたが、ニジマスがサケ属に移されてからはSalmo属に適当な日本名が与えられていない。
その他の魚種
ウグイ(Leuciscus bakonensis)、フクドジョウ(Noemacheilus barbatulus)、カワヤツメ(Lampetra japonica)、スナヤツメ(L. reissneri)

 

2.調査河川の概要(略)

3.イトウの産卵場所の分布――1991年の調査結果――(略)

4.イトウの産卵生態――1992年の調査結果――(略)

5.(略)

(C)尻別川の未来を考える オビラメの会 1999-2008