「水貴」
水の中に倒れていた水貴は、懐かしい声に呼ばれた。聞き間違えるはずのない・・・“恋人”天神の声・・・。
「天神・・・」
水貴は痛む体とかすむ頭を無理矢理起こした。目の前には、青い髪の青年・・・。
「水貴・・・私は・・・こうなってしまったんだ」
天神の腕が爆ぜた。真っ赤で、巨大な腕・・・悪魔、それも上位ランク・・・のものだ。「こんな私を・・・君は・・・愛してくれるかい?」
「天神・・・あたしは」
水貴は異形と化した天神の腕を抱きしめた。いつの間にか、水貴の頬には涙が伝っている。
「地獄の暗殺者だったあたしを愛してくれた・・・本当は恐ろしい怪物かもしれないのに・・・だからあたしも・・・」
涙の粒が、悪魔の腕に落ちた。そのとたん、涙の落ちた場所がキラキラと輝き始め、光の海を作り出す。
「あたしは、どんなに変わってしまおうと、天神が好き」
その言葉が終わるとともに、水貴は暖かい光の海につつまれた・・・。
「天・・・神!!」
水貴はがばっと起きあがった。横には心配そうな顔のリカが居る。ハートのロードが、ハートのカードをリカに渡す。
「見事です」
「ハートのロードさん、教えてください。他のみんなは・・・」
リカがハートのロードに尋ねた。ハートのロードは瞳を閉じ、そっと語り始めた。
「黒髪の少女と赤帽子の少年は・・・我が弟の試練を乗り越えたようです・・・・けれど」
水貴とリカの視線を受けながら、ハートのロードが続けた。
「黒き魔法師と蒼の舞師は・・・まだ我が兄と会っていないようです」
「どうすれば・・・闇慈さんとサーレントさんに再会できるのですか!?」
焦るリカを、ハートのロードの剣が制止した。あっけにとられるリカに、ロードは優しく言う。
「待つのです。我らが選んだ戦士。必ず、試練を乗り越えてくるでしょう・・・」
「くっ・・・・!」
何度目かも分からない攻撃を、左手の小太刀で受け止める。裸の上半身には無数の傷口が開いている。
「闇・・・慈」
足下のサーレントが目を覚ました。口を開くが、か細い声しか出ない。それでもサーレントは声を出そうとする。
「私に・・・かまわず・・貴方だけでも・・・彼女の元に・・・」
「バカ言うんじゃねえ!」
サーレントに振り下ろされようとした爪を受け止めながら、闇慈が怒鳴った。サーレントはきょとんとした顔をしている。
「ここで死んだら確実に“消失”だぞ!?お前は・・・カナの悲しむ顔が見たいのか!?それに・・・」
闇慈はサーレントの方を向き、微笑を浮かべる。そして。
「俺だって、好敵手が居ないと張り合いがないしな。」
ドラゴンフィンのブレスが来た。超高速詠唱で闇慈の口は呪文を組み立てた。その呪文は・・・
「我が腕に守りの壁! コルツ!!」
虹色の壁が2人の前に現れ、冷気のブレスをはじき返す。 しかし、ブレスは止まることなく吐き出される。闇慈の顔に疲労の色が浮かび始める。
『このままじゃいずれ呪文が切れて2人とも・・・・・ん・・・・これは何でしょう?』 サーレントのリュックの中から、1本の刀が出てきた。達人の刀を拾った際に、捨てるわけにも行かないのでサーレントが預かっていた闇慈が故郷から持ってきた刀である。ちなみに、タイマーが何回鑑定しても失敗する。
『どうせピンチなんです・・・ならば!!』
サーレントはコルツを唱えながら、刀を闇慈に渡した。刀が闇慈の手に触れたとたん、刀から虹色の光がほとばしる。
「おいまさかこれ・・・・ありがとな・・・!」
闇慈は地面を蹴った。そのまま、サーレントに向かってブレスを吐こうとしたドラゴンフィンに近づく。
「ほうけてんじゃねえぞ」
謎の刀は、ドラゴンフィンの鱗を紙のように切り裂いた。鮮血を吹き出しながら、巨大な首が水の中に落ちる。
「おい、サーレント。大丈夫か?」
闇慈はサーレントに手をさしのべた。袖のカバーをはずして、砕けてしまったショルダーガードの代わりに、サーレントの肩に掛ける。
「歩けないならおぶってやるから、早く行こうぜ?」
「屈辱かも・・・」
結局歩けずに闇慈におんぶされているサーレントがぼやいた。女顔でも立派な男性。やはり屈辱なのだろう。
「お前なぁ・・・おんぶしといてもらって文句を・・・ん?あれは・・・スペードのロード!!」
2人の行こうとした先に、スペードを刻んだ鎧と盾を持った若い男が居た。2人が向かうと、彫像のように止まっていたスペードのロードが口を開いた。
「来たか・・・勇者よ・・・そなたらの試練は・・・これだ」
スペードのロードが剣で指した先には、鏡から抜け出してきたようにそっくりなカナが居た。
・・・カナとよく似た女は目を開き、ロビンソードを抜いた。全身から、おぞましいほどの闘気と殺気をみなぎらせている。
「彼女はお前達の大事な人かもしれないし、そうではないかもしれない。自分の全てを信じて行動しろ。それが我の試練」
カナがロビンソードを構えて突進してきた。間一髪でそれをかわしながら、闇慈は刀を抜き、サーレントは呪文の詠唱に入る。
『カナは剣の腕も立つが呪文の方が得意・・・・ならば!!』
サーレントは呪文を紡ぐ。手の中の札に、その呪文を込めて投げつける。風を切って飛んだその札は、寸分違わずカナの胸鎧に張り付く。
「夢よ砕けよ! バコルツ!!」
カナの胸の札が紅の電光を放った。電光はしばらくカナの体をつつんでいたが、しばらくすると吸い込まれるようにして消えた。
「闇慈、今です!!」
「言われなくても!!」
謎の刀を抜きながら、闇慈はカナの方に飛んだ。カナのロビンソードを叩き折り、そのまま胸を一閃する。
盗賊の持てる程度の防具では、レベルの高い侍の斬撃を防ぎきれなかったようだ。血を流し、そのままドォッと倒れる。
「カナはもっと美人だっつーの。偽物さん」
闇慈は刀をしまいながら、偽物に吐き捨てた。サーレントが駆け寄ってくる。
「確かに、本物の方がかわいいですよね」
「なー」
2人がそういった時だった。2人の側にスペードのロードが現れた。手にはスペードのジャックを持っている。
「見事だ、勇者達よ。さぁ、仲間の元へ送ろう」
2人の体は、蒼い光につつまれた・・・。
「遅い!!」
カナが叫んだ。すでにリカ、水貴の合流には成功したのだが、闇慈、サーレントと合流できないのでいらついているのだ。
「あ、あの影・・・闇慈とサーレントだ!!」
タイマーが言うやいなや、カナは影の方へ駆け寄っていく。やがて影が、リカのロミルワの範囲内に入ってきた。やはり、影の正体は闇慈とサーレント。
「無事で良かったですわ。ところで、誰かクラブのエースは手にいれましたの?」
カナ、サーレント、水貴の3人が首を振った。リカが目を向けると、タイマーと闇慈も申し訳なさそうな顔をしている。
「どうしましょう・・・このままじゃ」
「心配する必要はない!」
6人のうち誰でもない声が響いた。あわてて振り返ると、そこには最初に出会ったロード・・・クラブのロードが居た。
「証をここに」
闇慈、リカ、カナがカードを出した。すると3枚のカードは光の帯となってダンジョンを照らし・・・。光が止んだ時、カナの手のひらには一枚のカードがあった。−クラブのエース。
「やった!」
タイマーが喜びの声を上げる。呼応して全員が喜ぶ。6人の喜びをよそに、さらにロードは続ける。
「しかし、今のそなたらにもはやあやつと闘うだけの力は残っておらん。城へ戻してやろう。」
6人はそこから居なくなった。残ったのはロードただ一人。
「頑張っておくれ・・・・勇者達よ・・・。」