Home


 *ここは首都圏から遠く離れたとある貸し別荘。
 映画の撮影のため、しばらくこの別荘で二人きりで生活する羽目になったキンキキッズ。
その生活 にもかなり慣れてきたある夏の真夜中のこと・・・・


 

真夜中のキンキキッズ  〜最初はホットケーキ編〜



 


なにやらリビングのドアの向こうから声が聞こえます。
 
 
しかもやけに楽しそうな声が。


「え〜オレそんなに食えないって」
 
「そんなん言うても今さら遅い」
 

そう、そのドアの向こうで行われていたことは・・・


 
「こんないっぱい焼くことないやん」
 
「おまえが食いたい言うたんやで」
 
「オレは一口くらいなら食うたろか思っただけやもん」
 
光一は剛が焼いた、明らかに二人では食べきれないであろう数のホットケーキを前に閉口していた。
 
「オレかて・・・ほんまはこんなに作るつもりはなかったよ。けどお前が食う言うから、
袋全部あけてもうて・・・そしたら焼くしかないやん」
 
剛の説明は最もで
 
「・・せやな」
 
それもそうだと納得すると、光一は素直に頷くしかないわけで。
 
「せやからおまえ、これおまえの割り当てやからな、食えよ」
 
剛は自分の非を認めた光一に対して、嬉しさを隠しきれないように顔をほころばせながら、

光一の分のホットケーキを取り分けるとその皿を押しやった。
 
「絶対無理や・・全部食うのは」
 
見ただけで胃があがってきそうなあまったるい二オイを放つそれを見て、ぼそっと不平を呟いた光一に
 
「なんか言うたか?」

といった剛の声には、有無を言わせない響きがあった。
 
「・・・はい・・いただきまーす」

覚悟を決めた光一はため息をはいて、ホットケーキの頂点にフォークを突き刺した。
 
「いただきまーす」
 
剛は剛で自分の分のホットケーキにシロップをたっぷりかけて、

お行儀よく小さく切ったそれを口に含んだ。
 
幸せそうな顔で。
 
メープルシロップはなんてええにおいなんやろ。
 
子供の頃のなつかしいこの感じ。
 
たまらんわ。と思いながら熱々のホットケーキをほおばる瞬間は至福の時。
 
それを横目で見つつ光一は、少し小さめに焼かれているホットケーキを切り分けないで、

大胆にもそのまま口の中に押し込んだ。
 
口の中の水分がもっていかれるこの感じ・・・・
 
もぐもぐもぐ・・・
 
もぐもぐもぐ・・・・ごくん。
 
とりあえず1枚目はコーヒーで流し込んだ。
 
今度は別のシロップをかけたほうが食べやすいかもしれない。

2枚目を前に考える。
 
味にバリエーションをつけるといけるかもしれへんな。
 
トッピングとして剛が用意しているのは

メイプルシロップ、チョコレート、はちみつ、生クリーム・・・ジャム各種
 
どれも虫がよってきそうなほどあまったるそうで、実際あまいものだ。
 
チョコレートならいけるかもな。
 
光一は迷ったがシロップはやめてチョコレートをかけた。
 
が、
 
!
 
甘かった。

虫歯になるかと思うくらいの甘すぎのチョコレートソースが、

どろりとした感触で食道を通った瞬間、ぐっときてあわててまた水で流し込んだ。

残り2枚。
 
涙目になって格闘している光一を、剛は平然な顔でちらりと見やった。
 
いつもこうゆうとき剛は、悪魔的ともいえる冷酷な表情をする。
 
まさに情状の酌量など一切ないのだ。
 
「ホットケーキはうまいなあ〜」

光一が苦しんでるのを十分分かっていながら、そんな台詞も吐いてみる。
 
ああ、楽しい・・・

めっちゃ楽しい・・・
 
相方が苦しんでる姿を見るのはなんでこんなに楽しいんやろ。オレって小悪魔様やな。
 
剛はこれ以上ないというほど至福を味わう。

「なあ・・つよっさん・・」
 
訴えるような声を出して、光一は剛を上目遣いで見上げた。
 
「もう残り2枚やん。オレの焼いたホットケーキはうまいやろ、なかなか」
 
剛は、光一の気持ちがわかっていながら、不敵ともいえる笑みを浮かべて、

彼の無言の訴えを退ける。
 
あかん。
 
許してもらえそうにないということを知ると光一はそれ以上何も言えず、頷くしかなかった。


 
さて残り2枚。
 
もう1枚はなんとか腹の中に収めることはできそうだ・・と光一は思ったが

最後の1枚はかなりきつい戦いになるだろうということがすでにわかる。
 
自分の胃はこれ以上甘いものが入ってきたら暴れ狂ってしまうだろう。
 
ああ・・・確かにそうだ。

ほんの20分前のことだ。


 
キッチンに入ると剛がホットケーキを焼いてた。
 
水を飲みにきた自分だったが、なにも言わずにそこから去るのもなんだかはばかられて

挨拶代わりに言ったのだった。
 
剛のその目が

「おまえも食うか?」

「いや、普通この状況見たらおーうまそうやなとかそれくらい言うやろ」

という顔をしていたので言ったのだった。
 
「うまそうやな。おれにもくれ」と言ったのは確かにそう、自分だ。
 
見事に剛のもくろみにはまってしまったと気づいたが後の祭りで。
 
「そうかそうか。じゃあちょっと待ってな。これ、この粉一袋全部あけてまうわ」
 
剛の嬉しそうな返事を聞いた瞬間、やばいと思ったがもう遅かった。
 
しかし1枚くらいなら食べれんこともないやろ・・と、たかをくくっていたのが甘かった。

さすがにこれほどの量のホットケーキを

こんな真夜中に食べる羽目になるとは予想できなかったわけで・・・
 
一度テレビの収録で、時間制限を設けられ、

苦手なまんじゅうを何個食べれるか競争させられたことを思い出した。
 
負けず嫌いな光一はあのときも、許容量を超えたあんこを食べ続けたのであった。
 
胃がせりあがってきそうな苦痛に顔をゆがめる。
 
う・・・ 

しかし現実逃避している場合ではない。

とにかく今目の前のこれをなんとか食べきらないと・・・
 
憂鬱な気分で皿の上のそれを眺めても、食欲は減退する一方。
 
一方、剛といえば、光一が苦悶しているのを知ってか知らずか
 
「ああそうや。アイス乗せたらもっとうまいんちゃうかな」
 
突然のひらめきに目を輝かせると、彼は早速冷蔵庫へアイスクリームを取りに行った。

 
.....! 
 

冷凍庫からアイスを取り出し、にこにこして戻ってきた剛・・・

その手の中にあるカップが2つだという事実に

軽く衝撃を受けながらも、光一は無関心を装った。
 
剛は上機嫌でひとつのアイスカップからアイスを丸ごとスプーンで取り出し、

ホットケーキの上に乗せた。

そしてその上に、当然のようにチョコレートソースをたっぷりとかけた。

かけた。

 
やはり剛の動向が気になりチラ見していた光一は、そのホットケーキを見てしまうと

自分が食べるわけでもないのに心臓がばくばくいいだし、

背筋がすっと寒くなるような感覚を覚え、思わず身震いしていた。
 
頭で認識するよりからだがいち早く、これからわが身に起こるであろう危険を察したのだ。
 
「カフェデザートみたいやぁ おしゃれさんになった」

剛はたいそうご満悦だ。
 
「剛もういっこのアイスは・・」

つい気になっていたことが口をついて出ていた。
 
それが失敗だったということを、光一は、

剛のにんまりとした笑顔がこちらに向けられたことで悟った。

「ああ、これはこぉちゃんの分や」

無邪気に微笑んだ剛を見て、光一は一瞬たじろいだものの、やんわりと断った。
 
「いや俺は・・まあ・・・それはいいや」
 
その瞬間空気が凍った。

明らかに剛が不機嫌になったのが光一はわかった。
 
しかし情にほだされてはいけない。

今は自分の胃腸の方が大事なのだ。
 
光一は、この場は断じてアイスクリームを食べるわけにはいかないと心を決めると、

もう剛から目を離し、自分の分のホットケーキに集中するべき目の前の皿を見やった。
 
「まあいいわ。ならもういっこ乗っけるから」

剛は挑発するように光一を見た。

その言葉にぎょっとした光一は思わず

「そんなんやめとけ腹壊すで」と言いそうになって慌てて口をつぐんだ。
 
そんなことを言ってしまったら相手の思う壺だ。
 
そのアイスが自分の胃に、残りのホットケーキと共に流し込まれることになるに相違ない。
 
・・・・
 
光一は無言を通した。
 
少しの沈黙が部屋を満たした。
 
剛は自分の作戦が失敗したのを知ると、あきらめたように、でも半分は予想していたのか

特に失望の様子も見せず、もういっこのアイスも取り出すと最初に乗せたアイスの上に重ねた。
 
「ダブルや。めっちゃ豪華なった」

そうしてまたチョコレートソースをかけた。

「このあたかいホットケーキとつめたいアイスの取り合わせが絶品やねん」

と、すぐに溶け出してどろどろになってるアイスの無残な姿を嬉しそうに眺め、

スプーンですくって食べだした。
 
光一はとりあえず自分の分にアイスを乗せられる危険から回避されたので安心し、

アイスがけのホットケーキよりははるかにましな、ただのホットケーキにとりかかった。
 
なんとか3枚目のホットケーキを胃に収め、さて残り1枚となったところで光一はふと思った。

剛の真似をするわけではないが、苦手なものを同じ味で食べ続けるのは確かに苦痛だが

工夫をすればそれなりに美味しく食べることができるのではないかと。
 
ホットケーキはそれだけで食べると味は薄いのだ。甘さだってそれほどではない。

だからこそ美味しくないのだが、そうか。

光一は冷蔵庫へと向かった。
 
中から取り出したのはウィンナーとチーズ。
 
これをサンドしたらホットドックもどきになるような気がした。

光一はフライパンを取り出し火にかけると、早速ウィンナーを炒めだした。
 
じゅうっという音と共に良い香りがそこらじゅうに充満した。
 
光一はさっきまでの憂鬱な気持ちも忘れむしろうきうきしながら、

火の通った熱々のウィンナーをチーズと一緒に、ホットケーキの中央に置いた。

そしてマスタードとケチャップもつけた。

それをタコスのように両側から半分に折って出来上がり。
 
「お〜うまそ」

光一がかぶりついた瞬間。

実はさっきからその様子を見ていただろう剛の視線に、ようやく気づいた。
 
にっこり微笑む剛とばっちり目があって、

光一は口に入れたホットケーキを喉に詰まらせそうになった。
 
「こぉいちそれ美味い?」

無邪気に聞いてきた剛に、胸をどんどんたたきながら 

「あぁうまいで」

答えたもののちょっとぞっとした。
 
「そうか〜うまいんか〜」

なんやこいつ・・・
 
光一は食べる手を止めて、何か言いたげな剛に目線を止めた。
 
おまえはダブルアイスでご機嫌やろ。

そんな高カロリーのもん夜中に食うて、また太ったらどうすんねん。

ちゅうか、おまえが太ろうがもうどうでもええわ。

さっさとそれ食って寝ろ。

心の中で悪態をついてみたがしかし、何かが引っかかった。
 
あ。
 
そうか・・・剛これも食べたいんやな。
 
それに気づいた光一は猛烈に反省した。

どちらかというと後悔に近かった。
 
そうだ。

剛が2個分のアイスを持ってきたのも意地悪からではなくて俺が食べたいだろうと思っての

あいつのやさしさからだったのかもしれない・・・・
 
それをオレは・・・
 
光一は猜疑心でいっぱいだった自分が恥ずかしくなった。
 
元々オレのために、わざわざ新たにホットケーキを焼いてくれたわけで、

何もいやがらせしようとしたわけではないんだ。剛は・・・
 
オレはそんな剛の気持ちも知らず・・
 
「剛、おまえの分のウィンナー焼くか?」

光一は、自分でも気味が悪くなるほどの猫なで声をだして問いかけた。
 
すると剛は

「うん」

こっくり頷くのだ。



光一は食べかけのホットケーキをひとまず置いて、冷蔵庫へと走り、

ウィンナーを取り出すとフライパンでそれを丁寧に焼いた。

そうして
 
「剛できたで〜おまえもケチャップとかいる?」
 
熱々のウィンナーを箸でつまんでそれを持っていき

剛の残りのホットケーキの上に乗せようとしたそのセツナ。

「あ」
 
運んでいる途中でそのウィンナーは、光一の意思に反してつるりと箸から滑り落ちると、

なんと剛が今食べていたご機嫌なアイスチョコがけホットケーキの上に、ぽとり・・・・と落ちた。
 
あろうことか、アイスクリームのド真ん中に落ちやがった。

「・・・・・」
 
ウィンナーの脂がアイスクリームと混じり、その熱でさらにアイスクリームが溶けると、

なんともその場を凍らせる匂いがあたりに漂った。
 
「ひゃっひゃっひゃ・・」
 
それを見てつい笑ってしまった光一はしかし、剛が落ち込んでいる姿が目に入り口を押さえた。
 
「ごめん!ごめん!」

必死に手を合わせて剛に謝る。しかしどうしても笑ってしまうので光一は顔を下げてこらえた。
 
「・・・・わざとやった」

剛は唇をすぼめて言う。
 
「わざとやないて」

真剣味が足りなかったことを反省して光一はもう一度謝る。
 
「ごめんごめん。ほんまにごめん。わざとやないて」
 
「・・・・ほんまに・・?」
 
「ほんまに」
 
「ほんまのほんまに?」
 
「ほんまのほんまやって。そんなんわざとやるわけないやろ。オレかてショックやわ。
一生懸命焼いたやつやもん」
 
光一は剛の機嫌を直そうと弁明したが、それは本当の気持ちだった。
 
「ほら、オレのホットケーキやるから・・・」
 
光一は自分の食べかけがのってる皿を剛に手渡そうとした。
 
しかし剛はそれは受け取らず

「それは光一のやもん」とそっぽを向く。
 
「じゃあ・・・」

じゃあ、どないせいちゅうねん。と吐き捨てたくなるのをこらえ光一は、頭を働かせた。
 
「じゃあ・・・さ・・・今度パフェでもおごるわ。食いにいこ」

咄嗟に出てきた甘やかな言葉に、自分自身驚いた光一だったが、

この場がそれで収まるならいいかと思い繰り返し言った。
 
「な?パフェおごったる」
 
女を口説く時だってこんなに熱心になったことはないのに、

なんでこいつ相手にここまで必死なんやオレ・・・光一は密かに首を傾げた。
 
本音はパフェなんて金輪際食べたくもないし、

剛と二人でそんなところに行くのにも抵抗があった。
 
「ほんまに・・・おまえが?」
 
「ああ・・」
 
そう返事をしながら光一は、自分を見上げる剛の子供のような目に

まるでいたいけな幼子をだましてるような罪悪感に捉われてしまい、

つい目を逸らしてしまったそのとき。

 

「おまえとパフェなんていややわ」


Σ(゚Д゚;)


恐るべし、あまのじゃく剛。
 
まるで光一の気持ちを見透かしたかのように、彼は素っ気無くも、

王子のやさしい申し出をばっさりと拒否したのだった。
 
「なんでやねん!オレが誘ってんのにおまえ断るんか?」

ありえない展開に光一は声を荒げた。

こいつ・・・絶対調子こいとる・・・・

今、絶対自分が有利な立場にいることを自覚してやがる。
 
しかし今夜の光一は我慢強かった。
 
がんばれオレ・・・・
 
剛のこの自己中心的態度を引き起こしたのも元々は自分のせいなのだからと思い、

今すぐ「そんならもうええわ」と、この場を放り出してしまいたい気持ちをぐっとこらえ、

なんとか自尊心を捨てるのに成功すると、再度彼の持つ精一杯のやさしい声を出した。

「なんでや、なー行こうて」
 
「いやや」 

「なんでーな。オレが誘てるんやで?ほらデラックスパフェ頼めばえーやん」
 
「・・・おまえのその目ぇ、嘘やもん」
 
「なんで嘘つかなあかんねんて!そんなもんで。嘘やないて」
 
「オレにはわかるんや」
 
「あーそーか!もうわかった。じゃあ行こ。今行こ!24やってるファミレスあるやろ。
早よ支度せぇや、今行くからな。絶対行ってジャンボパフェ食わしたる!」
 
とうとうムキになった光一を見て、剛は意地悪な優越感に歓喜を覚えると小さくほくそえんだ。
 
どこまで光一ががんばれるか見とこか・・・
と。

 
そうして・・・
 
くだらなくも楽しく切ないキンキキッズの夜は今日も更けていく・・・・




next