真夜中のキンキキッズ 〜その後のパフェ編〜
勢いでタクシーを呼びつけ乗り込むと、もう後戻りできない覚悟めいた気持ちが生まれていた。 光一は今至極冷静だった。 剛は車中ではずっと無言を通していたので、彼の心中まではわからなかったが、 たぶん同じようなものだろう。 「行くで」 目で剛に促して、光一は先に立ってファミレスの扉を押した。 「いらっしゃいませ」 深夜の外の暗さとは、まるで別世界の明るい店内に一瞬目が眩む。 こうゆうやたら明るい照明は苦手だった。 大体なんでファミレスなのか。 一歩店内に入っただけで光一は顔をしかめ、今自分がここにいる状況は、 それこそ自分が言い出した結果だということを忘れてしまっていた。 後から剛がちゃんと入ってきたのを確認して、奥の席へと案内される。 二人で真夜中に深夜のファミレス。 なんとも現実感がわかないシチュエーション。 店員の顔なんて見ないように俯いていたから、向こうが気づいたのかどうかなんてわからない。 ただ黙って、椅子を引き、相方と向かい合わせで席についた。 「お決まりになりましたらお呼びください」 店員がすぐに水を運んできてメニューを置いて一礼して去っていくと、思わず肩の力が抜け、 いかに自分が緊張していたのがわかる。 光一は、ほっとして大きく息をつくと、いかにもファミレスらしい やたらと大きなメニューを手に取った。 そして向かい側で黙りこくっている剛に見せるために、 上下の位置を確認してテーブルの上に広げた。 「何食う?」 え? 剛の目が不思議そうに見開かれた。 あれ、おかしなこと言ったかなと光一は思ったがそれもそうだと本来の目的を思い出した。 光一は慌ててメニューをめくり後ろのほうにあるはずのそれを探した。 目的はただひとつだった。 パフェを食べさしたるという、執念にも似た一心でここまで剛を引き連れてきたのだ。 こんな時間に、こんなところまで、タクシーを飛ばして。 「すげーいろいろあるんや」 光一はデザートのページを見ながら感嘆してみせた。 スイーツに興味はないといってもパフェくらいならわかる。 「ストロベリーパフェ、チョコレートパフェ。マンゴー、バナナ、和風黒蜜、 いろいろあるんやな。どれにする」 メニューを読み上げもう一度剛のほうへメニュー表をよく見えるように押しやった。 剛は無言のままメニューに目をやった。 光一も口を閉じて剛の動向を見守った。 「あんまり食いたないわ」 「あ?」 やっと言葉を発したかと思うと、そんな素っ気無い言い方に光一はむっとした。 大体、食べることを承諾してここまで一緒に来たくせに、 この場に及んでそんなことを言い出すのは理不尽すぎる。 たぶんわざとだ・・・ 光一は剛のその小悪魔的な発言は無視することに決めた。 大体なんでオレが、剛さん、なんとか食べてください。みたいな感じになってるいう話や。 おかしいやん。 剛はちら、と光一の視線を受け止めると憮然としている彼の表情を読み取って、 「まあ、食えんこともないけど」 ぼそっと付け足した。 こいつ・・・! 自分が甘い態度を見せているといつまでどこまでもつけあがっていく目の前の剛に どついたろか 関西人とはいっても普段は口に出すこともない、 しかも全く彼には似わないオラオラ言葉が喉元まで出かかったがそれを飲み込み、 光一はなんとかひきつった微笑を貼り付ける。 今日のオレはほんまに我慢強いわ。 ・・・気を取り直し 「なんやったら全部食うてもええんやで。オレのおごりやからな」 剛への敵対心を隠し光一は彼特有のふにゃふにゃした笑い顔を見せた。 剛がマシュマロ笑顔と名づけたあの顔だ。 しかし剛は何も言わず、対外的に向けるあのつくったクールな表情でメニューを眺めている。 普段、二人でいるときそんな顔は決してしないくせに、 今この時にに限ってすかした表情を作っているのが、むかつく。 何を考えているかさっぱりわからないのが不気味だ。 ・・・しかし、こうゆうときの剛は大体突拍子もないことを考えていることが多い。 ということだけは長年の付き合いをしてきただけあって光一にはわかった。 ただそれがどんな突拍子もないことなのか・・ということまではわからない。 それが自分に被害が及ばない範囲なら別にどうでもいいことだが、 そうとは安心もしていられないようなカンが働いてしまうこの状況に 光一は身を引き締める。 「あーそうや」 剛が唐突にメニューを指差した。 やっと決まったのかと光一はそのメニューを覗き込んだ。 「こおいちも食うんやろ」 「は?」 「オレだけ食うのはなんや変やもん。そんなんよう食われへんわ」 確かに剛の言い分は最もだ。 「オレはこれにするわ、光一はどれ?」 剛はひとつのパフェを指差すと、光一が見やすいようにとメニューを回し彼へと向けた。 ぐっ・・と喉を詰まらせて光一は 「ああ、そうやな」 と頷いた。 おもむろに前へとページをめくっていく。 ホットケーキを嫌というほど胃に収めたのはつい20分程前のこと。 何も食べたくなかった。 でも飲み物だけにしたらきっとまた剛の機嫌を損ねてしまうと思い、 何か食べられそうなものはないかと探す。 「じゃあ・・オレはこれにしよかな」 サイドメニューを見てなんとかつまめそうなチキンバスケットに決めたところ 「おまえも食うんやで。パフェ」 剛が光一からメニューを取り上げた。 「えっ」 素で驚いた。 「食べない言うならオレ帰るからな」 どうやら冗談ではないらしい。 唇の端を少し吊り上げた剛に光一は恐れおののいた。 「なあ・・剛」 いや、ここで彼のペースにはまってたまるか。 光一はお願いモードな声をつくって話しかけた。 「そんなん意地悪言いなって。もう機嫌直してーな」 「別に・・オレ機嫌悪いちゃうよ。普通やし」 ふふっと笑った剛が小憎たらしい。 「・・オレが悪かったって。な」 なんでこうなるんや。なんで謝ってるんオレ。 光一はどんどん自分の立場が悪くなるような気がして、 剛からメニューを取り返すとそれをまた開いた。 そして、何気なくめくったメニューの最後のページにはさまっているそれを見つけた。 あれ・・・なんやこれ。 期間限定のデザートメニューと書かれている一枚だけのメニュー表をじっと見る。 デラックスジャンボパフェ 4,500円。 そう書かれていて、他のデザートは載ってなく、 そのパフェの大きな写真がひとつ、でーんと、載っていた。 値段の設定から見て、どれだけの大きさなのか想像すると眩暈がしそうだ。 写真を見る限りでは、かなり大きな器に生クリームとアイスとチョコの海。 そのなかにフルーツがたくさん入っていて、 上にはさらにソフトクリームがそびえ立てられていた。 通常のパフェの3倍・・・いや、5倍かそれ以上はあるだろう。 ちゅうーか、ほんまにあった・・・ 出てくる前に自分が剛に言った台詞を思い出す。 「ジャンボパフェ食わしたる」と。 それがあった。ありやがった。 「ん、どうしたん?」 剛は光一がじっとメニューを凝視しているのに気づいて上から覗き込んだ。 それでジャンボパフェなるものがメニューにあるということを知った剛に ある素敵な考えが浮かんだ。 「なあ・・」 光一は光一でこの際・・と、ある提案を剛に持ちかけようと考えていた。 「ん?」 剛にメニューを渡す。 「おまえこれ食えや」 直球を投げる。 「なんやの」 「これええやん。ジャンボパフェ。全部はいってるで、イチゴもバナナもチョコも」 単純に剛がどれくらい食べられるか興味があった。 それにせっかく二人できたファミレス。 しかもパフェを頼むなんてそう何度もあることではない。いや一生に一度かもしれない。 そう思うと普通で終わってしまうのがもったいないような気になってきていた。 第一通常、ジャンボパフェなんていう代物がメニューにあることはめったにないはずだ。 これはもう・・・剛に食わせろという神様の思し召しに違いない・・・ なんて柄にもないことまで考えてしまっていた。 剛は黙ってそのパフェの写真を眺めている。 何も言わないし下を見ているので、その表情も読み取れない。 断られるか?さすがに断るか・・ 仕事以外のことで相方といて、こんなに胸の鼓動が早くなることはかつてない経験だった。 ドキドキと波打つ胸を抑え光一は剛の返事を待った。 と、「ええよ」 剛が顔をあげた。 「えぇ!?」 その答えにまた驚いてしまう。 「なんやの。君が言い出したんでしょ」 剛の余裕の笑みに光一はちょっと背筋がざわっとした。 「え・・いや、まあそうなんやけど・・大丈夫か」 無理をさせて腹でも壊されたらやばい。 自分の方が逃げ腰になってしまう。 「ええよ。オレこれにするわ。なんやむっちゃ食べたなってきた」 「ああ・・」 まあ、本人がそう言うならいいか。 光一も複雑な気持ちながら頷いた。 それに食べきらなかったら、お店の人には申し訳ないけど残すという手もあるのだ。 別に罰金をとられるなんて但し書きはない。 「光一も頼むんやろ」 「え?」 「パフェ」 ・・・・・「いや、オレは・・・」 言いかけた光一を手で制して剛は店員を呼ぶコールボタンを押した。 そして、オーダーをとりに来た店員に「ジャンボパフェ二つ」と真面目な顔で注文した。 ああ!? 光一は声にならない叫び声をあげた。 「・・デラックスジャンボパフェでございますか・・?」 店員は明らかに動揺を見せた。 そして確認するようにそのメニューを指で示した。 「はいこれ二つで」 剛はきっぱり顔をあげて答える。 「あかん」 光一は思わず立ち上がっていた。 店員がびっくりして光一を見やった。 そして座っている剛に視線を走らせ、二人を認識すると「あ」と声を発し、 その口元が控えめながらもはっきりと「キンキキッズ・・・・」と動いた。 なんでキンキキッズが二人揃いにそろってこんな深夜の、それも地方のファミレスにいるんだ。 そしてジャンボパフェを注文しているんだろうか? 思わず二人を交互に見る店員の目には、ありありとそんな困惑と興味の表情が浮かんでいたが、 それはいたしかない事だろう。 はっとして光一は腰を下ろしたが、しかし怯まなかった。 「あかんて。絶対食えんもん」 それだけは無理だった。 なーに立ち上がってるんや光一は・・・・ 相方の、予期せぬスタンドアップにびっくり顔という、まるでドラマ仕立てな驚きぷりを見て (おいおいそのリアクション、ベタすぎるわ〜)と笑いをこらえていた剛だが 「どうされますか・・」 店員が困っている様子を見ると彼は、まあしゃーないか・・・と妥協案を出した。 「じゃあジャンボはひとつで、あとは・・そうやな普通のパフェで。この抹茶和栗パフェを。 それとコーヒーをください二つ」 「かしこまりました」 店員が去っていくと光一はふーぅと息を吐いた。 んふふふ・・・ 剛はの様子を見て、ここに来て初めて、すました表情を崩し屈託のない笑顔になった。 「・・・っていうか」 光一は気づいた。 「あれ・・・おまえもういっこパフェ頼んだ?抹茶なんとかって・・・」 「うん。二つ」 「二つって」 「おまえも食うんやろ今日は。それにオレ抹茶味も食いたいもん。二種類楽しめるやん」 ! おのれは・・・あほかぁあああああああああ! ちゅーか・・・こいつ絶対あほやん!!! 光一は絶句し、呆れるを通り越し胸の中で絶叫した。 ジャンボパフェの他にまだ抹茶味も食べるのだと主張する剛が恐ろしくもあり楽しくもあり、 何か自分には決してつかみきれない彼の本質を垣間見た気がしていっそ怖いもの見たさ気分で わくわくと高揚感すら覚えたほどだった。 それで自分がこれからパフェを食べるのだという恐怖心はすっかり忘却の彼方にいってしまって、 「何が『あんまり食いたない』や。同じ口でよう言うで」 と、ここに来た当初彼が言った台詞を、口の中で呟いてみるのだった。 「お待たせしました。こちらジャンボパフェでございます」 そうしてかなり待たせられた後そのジャンボパフェは運ばれてきた。 もちろん普通のパフェも。 ジャンボのほうは剛の前に置かれたが、 「でかっ!」 思わず光一は声をあげた。 剛も覚悟していたとはいえ目の前に現れたそのブツを見るとさすがにびびる。 想像を絶する容量だ。普通のパフェと比べてみると一目瞭然。4,5人前はあるだろう。 「ごゆっくりどうぞ」 店員が笑いをこらえきれないような表情を取り繕っていなくなると 「ひゃっひゃっひゃ」 光一は遠慮なしに笑った。 ありえへんわこれギャグやろ!と。 しかし次の瞬間その笑いも見事に引くことになる。 「おまえも食えや」 剛が殺伐とした空気を漂わせて言ったのだった。 「はい。いただきます」 二人でそれぞれのパフェにとりかかった。 そうして20分後。 「もうカンベンして」 光一がネをあげていた。 だらしないのう 剛は普通のパフェも食べきれないのかと、光一に冷たい目線をくれてやった。 「もう無理って。生クリームめっちゃきついって」 光一の痛切な訴えを聞いて剛は、やれやれという顔をして見せた。 でもまあ、確かに生クリーム以外はほとんど食べてるし、 ここであんまりいじめてもな・・。 剛はとりあえずはそれで満足することにした。 光一がパフェを頼んで食べたということだけで目的は果たされたようなものだったし。と。 でも自分の分は・・・ さっきから食べ続けてる割にまだ半分くらいしか減ってない気がする。 剛はげんなりしながら自分の前のそれを見た。 そういや、ジャンボパフェに取りかかる前に、先に光一の抹茶味もご賞味したんやった・・・ 今になってばかなことをしたものだと、後悔じみた気持ちが浮かんでくる。 光一の苦痛にゆがむ顔見たさに自分が多大なる犠牲を払ったことに 今更ながらに気づいた剛だったが、時はすでに遅し。 もうゲームは始まってしまっていた。 最初は余裕をかましていたが、今では、何人分かのパフェを飲み込んだ胃が膨張していて、 喉元までクリームがあがってきているような感覚に時折襲われている始末だ。 それにやたら体が冷える。 ホットコーヒーをちびちび飲んでやり過ごしていたが、それもすっかり冷め切っていて 胃腸が弱い自分には厳しい。 光一にパフェを食べさせてやるという目的だけに固執していたので、 自分の身の危険についてまでは頭が回っていなかったのがたたった。 「オレもきついわ・・・」 思わず漏らした本音。 「大丈夫か」 光一が心配そうに剛の顔を覗きこんだ。 「うん・・・」 「無理すんな」 「うん。でも・・・」 頼んだものを残すのはやっぱり罪悪感がある。 うん。そうや・・・・ 剛には策があった。 光一の、一度やると決めたら己の限界を超えてまでも最後まで遣り通すという、 MなんだかSなんだかわからないくらいの完璧主義な彼の性分を熟知している剛には。 しかも今、光一は自分のことがかなり心配らしい。 なんだかんだいっても、光一は自分に対しては絶対無理強いをさせたりすることはない ・・・というか、 まぁぶっちゃけ一言でいえば自分に対しては「甘い」というより「非常に甘い」 ことを知っている剛は、その過大な自信からこの策を実行に移すことに 何のためらいもなかった。 「なあ光一・・・」 剛は上目遣いで光一を見た。 「え」 じっと自分を見つめる剛の心中を光一は一瞬にて察した。 さすが相方だ。 なんて相方愛を確かめてる場合ではない。 やばい・・・ でもまさか・・・ そう思って視線を逸らしたそのとき 「これ食べて」 信じられない言葉を聞いた。 「は?」 なんですか? あなたは何を言うて・・・ 「オレもうだめや。無理。これ以上食うたら腹壊してまう。こおちゃん食べて」 「食べてって・・・」 唖然とする光一に剛はジャンボパフェの器を押しやった。 「生クリームはあんまないから大丈夫や」 「いや、大丈夫ちゃうて」 「大丈夫。光一は全部食べてくれるもん。せっかく頼んだこれ、 途中で放ることようせえへんもん。せやろ?」 にっこり笑って首を傾げた剛に光一は 「・・・はい」 なんだかわからないうちにそう返事をしていた。 そうしてまさに命がけ、一生懸命苦手なパフェを食べだした光一を見て剛は思った。 ほんまにこいつ、あほちゃうかと。 (自分がそうさせたくせにである。) いや、今まで何度も自分の相方が天然を通り越したあほかと疑っていたことはあったが、 こうまであほと思ったことはなかった。 それほどあほな光景だった。それは。 額には汗のようなものをうかべ、苦渋に満ちた顔で一匙掬っては、 口の中にクリームを流し込むその様子からどうやら彼にとって、 パフェを食すということは拷問に近いらしいということがわかる。 むしろ拷問そのものなのかもしれない。 しかし光一は食べ続けた。 苦手なあまったるいクリームをその胃に収め続けた。 剛は半分感心して半分呆れてそれを眺めていた。 ふとテーブルの上を見ると、自分の前にはコーヒーと水があるのみで、 食べ終わった普通のパフェの器は光一側のテーブルにあり、 今も金魚鉢のようなばかでかい器の中身と彼は格闘している最中である。 傍目からだと、まるで光一だけがパフェを注文して食べたように見えることだろう。 なんや光一、パフェ大食い選手権に挑戦しているみたいやな・・・ 大食い、そして甘い物・・・・ 光一とは一番結びつかない二つの条件が今、同時に成立していて、 さらに自分とのツーショというおまけつきだということに気づくと、 今度はそれがツボにはまり、ひとりほくそ笑んでしまう。 そもそも剛が、卑怯ともいえる彼の得意技の、上目遣いおねだり目線手法を使って、 光一に食べてと言い出したことなのに、彼ははすっかりそれを失念して、 光一が、恐らく見るだけでも拒否反応を引き起こすであろうはずの その甘いパフェを食べ続けていることが、おかしくてたまらなくなった。 んふふふ・・・ 手で口元を隠しながら笑いに耐えていたが剛は、はたと気づいた。 「おまえ何わろてるん」 光一がじっとこちらを見ていた。 かなり恨みがましい顔で・・・ 途端に都合が悪くなって剛は顔を逸らした。 「いや・・なんや・・・おまえ・・・必死やん。かわええな思って」 口が勝手に喋っていた。 「・・・はぁ!?」 思いがけない言われようにぽかんとした顔を晒した光一の顔がまた笑える。 なんちゅーあほ面・・・と剛は心の中で呟いてから自嘲した。 いや。それはきっとファンの子からすれば かわいくてたまらない光ちゃんのぽかん顔といったところか・・・ そこまで思って気色悪いわ・・・・と やはり【バカっぽいあほ面】に訂正する。 「ちょおなんやそれ、大体これ何の罰ゲーム」 光一のちょっと間の抜けたような声に さあ・・と剛は首を振る。 なんでこんなことになってるのか、なんだかもうわけがわからなくなっていた。 「いや、おかしいやん。なんでオレがこんなんなってパフェ食うてるんやろ。 なんでおまえ・・涼しい顔してオレのこと見とんのや」 ようやくそこに疑問を持ったのだろうか。 光一はスプーンをパフェの器に残っている、アイスクリームだか生クリームだか、 もはやパフェとはいえない、なんだかわからないどろどろした物体に突き刺して首を傾げた。 「・・・・ほんまやな・・・・」 二人同時に呟いていた。 一瞬の間があいた後、あまりの自分達のバカさ加減がおかしくて二人で顔を見合わせて笑いあった。 剛が本当に光一があほだと確信した瞬間だった。 やっぱりオレの相方ほんまもんのあほやな・・・と。 「ありがとうございましたー」 店に居合わせた全ての店員、いや数少ない客までにも笑われていたような気がしていたが、 それは気のせいではないだろう。 しかし剛も光一も、もはや気になどしていなかった。 「ごちそうさんでした」 まさにこれぞアイドルの鑑。 さわやかにレジを済ませて二人はファミレスを後にした。 綺麗に空にした金魚鉢を残して。 結局あれから二人協力してジャンボパフェを完食したのだった。 食べ終わったときは、その様子を遠目で見ていたらしき店員や客たちに拍手喝さいをもらうばかりか、 さらに握手を求められ、それに応えたほど充実感でいっぱいになっていた。 今では胃はもちろん、内臓全部がアイスクリームの脂肪分で一杯になっているような苦しさに 耐えている始末だが・・ もうどちらがどうではなくて、二人とも罰ゲームをさせられた気分になっていて、 しかもなんでこんな目にあったのかもわからなくなっていた。 それでも、ただひたすら自分達の状況が、もう笑うしかないほどおかしいと思えるのがまだ救いだった。 ファミレスを出た後、タクシーで別荘まで戻りリビングに入ると、 予期していたこととはいえキッチンが、出てきた当初のままを保っている状態が目に入った。 つまり汚れていた。 もう時間は28時を回っていた。 今日の撮影の入りは確かAM7時・・・ということを思い出す。 これからこれを片付けないといけないのかとうんざりした光一だったが、 テーブルの上にあったホットケーキの皿を見るとその憂鬱さも一瞬吹っ飛んだ。 剛のアイスチョコがけホットケーキが、 アイスがとけてチョコとバニラの混じったマーブル模様の液体の中に無残にもつかっていて、 自分が落としたウィンナーがその上にちんまりと乗っかっているその様を見て。 光一は痛み始めた胃を抱えて、あのときの泣きそうな剛の顔を思い出すと、 ひとり笑ってしまうのだった。 最初から余計なことはせず、剛の焼いたホットケーキを素直に食べきってさえいれば、 こんな真夜中に尋常じゃない量のパフェを食べる羽目になり、 その結果当然ともいえる胃痛に悩まされることにはならなかったということに 最後まで彼が気づくこともなく・・・・ 「なあこうちゃん、またいこなパフェ食べに」 その甘ったるい声に光一が振り向くと 剛の屈託のない顔が彼を見ていて、 にっと笑うのでつい光一もぞっとした笑みを返してしまうのであった・・・・