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■はじめに
話をわかりやすくする為に、最初に言葉を再定義しておきます。
■トレモロ(Tremolo)
あまり歴史には詳しくないのですが、音響効果装置として最も初期に現れたのは電気オルガン用のトレモロだと思われます。
最初は側面に窓を開けた円筒をスピーカの前でぐるぐる回してトレモロ効果(通称リス車(^^;))を得ていました。
当時の電気オルガンは容量結合、光結合等のエクスプレッションペダルを持っていた為、機械雑音の少ない電気電子式のトレモロが発明されるのも時間の問題でした。
■レスリースピーカー(Leslie Speaker)
たぶんそんな中1930年の後半に開発されたのが有名なレスリースピーカーです。
特許等の内容を知らないのですが、指向性を持ったスピーカーをぐるぐる回すことによって振幅及び周波数が変化しました。
ちなみにつまみの名称は"CHORALE"(Slow)です。"TREMOLO"(Fast)です。
レスリースピーカー及び次のスキャナーについては
高木庵さんの"Hammond Organ & Leslie Speaker"に
貴重な資料がたくさんあります。
レスリースピーカー(Leslie Speaker)のPATENT関係の資料
- US.PAT 02489653(Nov 19, 1949)
PORTABLETREMYLANT SOUND PRODUCER:DEC 10,1940に出荷したD.J Leslie社のシリアルナンバー369413音響効果装置について
■スキャナー(Vibrato Scanner)
元が時計屋さんだったせい?かハモンド(Hammonnd)は音の揺れるレスリースピーカーがあんまり好きではなかったようで、
1945年にVibrato Scannerと言う物を開発します。これはスピーカーキャビネットをぶん回す様な
野蛮な機械ではないので機械的雑音が少ないことが売りだったようです。
レスリーを駆逐する狙いでスキャナーは開発されましたが、それでもレスリースピーカーは売れ続けたみたいです。(^◇^;)
やっぱり、レスリーの音はビブラートとかトレモロとか電子的に置き換えられるような単純な物じゃあなかったんでしょうね。
構造的にはハモンドB3の回路図の右下にある円形のスイッチみたいな構造(SCANNER)につながったスイッチとLCRがそれです。
スキャナーはロータリースイッチのように見えますが、容量結合を利用した構造になっており、このローターをモーターで回すことにより、下のLCRの出力をアナログ的(スイッチ見たくパチッと切り替わらないでそれぞれがブレンドされながら)に徐々に切り替わりながら位相を変化させてビブラート効果を得ます。
ちなみにつまみの名称は"CHORUS"と"VIBRATO"で、それぞれ3段階の強さを選べます。
電気的には純粋な位相変化を狙ったのがビブラートでビブラートに原音を加えたのがコーラスです。
またスキャナーはレスリースピーカーと同じ位、後生のエフェクターに影響を与えました。(ユニバイブやローランドCE-1の"CHORUS"と"VIBRATO"のネーミング等)
ハモンドのハモンドらしさの一端はこのスキャナーが担っていると思うのは私だけでしょうか?
SCANNERのPATENT関係の資料
- US.PAT 02382413(August 14, 1945)
Electrical Musical Apparatus:SCANNERのアイディア- US.PAT 2509923(May 30, 1950)
Electrical Musical Apparatus:SCANNERの特許- US.PAT 2560568(July 17, 1951)
Vibrato Apparatus:SCANNERの要の容量結合したコンデンサ
■ビブラート(Vibrato)
この当時、ボールドウィン(Baldwin)等の電子オルガンは比較的容易に発振器にFM変調がかけられた(それでも結構苦労している)ようですが、ハモンドのようなトーンホイール式のオルガンやウーリツァー(Wurlitzer)の様なリードを利用した電気オルガンではビブラートを得るのに大変苦労したようです。(ピッチが安定していることの裏返しですね。)
ハモンドの回答は前述のスキャナーでしたが、ウーリツァーのとった方法が、今回紹介するウーリツァービブラートです。
■純電子式トレモロ
まずはじめに純電子式なトレモロについて考えてみましょう。
左はトレモロの原理図です。
すると出力は左のような式で書けると思います。![]() | 括弧を展開すると左のようになります。 |
![]() | さらに右側のDsinθsinVの項を三角関数の積和公式を使って展開すると左のようになります。 |
■ウーリツァービブラート(Wurlitzer Vibrato)
カーペンターズが使用した電気ピアノで有名なウーリツァーですが、この回路はたぶんエレピでは使われていません。時代が違うせいかもしれませんがエレピより、もっと古い時代の高価なシアターオルガン用に開発された物だと思われます。
上にウーリツァービブラートの原理図を示します。
![]() | トレモロの要領で式に展開すると左のようにかけます。 |
![]() | ここで、sinVでくくって |
![]() | 三角関数の合成公式を適用すると左になります。 |
![]() | ここでθ-π/4をθ'と置き換えます。 |
![]() | すると左のように書き換えられます。 |
![]() | √2でくくって |
![]() ただし ![]() | 再度三角関数の合成公式を適用すると左になります。 |
で周波数変調(FM変調)がかかることがわかりました。■VOX AC-30
ウーリツァービブラートの回路を初めて見たと思う人が沢山いると思います。しかし、実はこの回路はVOX AC-30のビブラート回路として今でも脈々と作られています。
上にVOX AC-30のビブラート/トレモロの原理図を示します。
この回路はウーリツァービブラートにVibrato/Tremoloスイッチが追加されています。
Vibrato設定時はスイッチが接続状態になり、ウーリツァービブラートの動作を行います。
Tremolo設定時は加算器に入る一方の信号を切断します。すると出力は
になり、トレモロ効果が得られます。
(前にも書いたようにφの移相回路で周波数により位相が変化しますが、位相の変化は人間は聞き分けられないので聴覚上ではトレモロと全く同じ音になります。)
■VOX VIBRAVOX
この回路はVOXでは伝統的にVIBRAVOXと呼んでいるのですが、1960頃のカタログによれば
ビブラート/トレモロユニットとして単体でも売られていたようです。
(アコーディオンやピアノの音を新時代の音に!!ってな感じで宣伝してます。(^^;))
最近になってVOX COOLTRONシリーズにも同名のVIBRA VOXと言う商品が売り出されましたが、内部はどうなっているんでしょうね。
■GIBSON GAV-1
最近知ったのですが、GIBSON MODEL GAV-1 ELECTRONIC VIBRATOというアンプに接続して
使用するビブラートユニットがあります。
カタログにはTrue "Frequency Vibrato"なんて謳いあげていますが、これもVOXのAC-30
と同様にウーリツァービブラートの方式を採用しています。
■ビブラートと音色
音色と言っても周波数特性の話では無くピッチの話です。
ドップラー効果を利用したレスリースピーカー、スキャナー、ウーリツァービブラートやフェイザーは入力信号の周波数に依存せず一定の周波数推移をします。
これらのピッチに注目して高調波を含んだ信号を入力した場合を考えると以下のような
ピッチのビブラート出力が得られます。
| 倍音の周波数 | 基音 | 2倍音 | 3倍音 | …… | n次倍音 |
|---|---|---|---|---|---|
| 入力した音 | sin(θ) | sin(2θ) | sin(3θ) | …… | sin(nθ) |
| ビブラートした音 | sin(θ±α) | sin(2θ±α) | sin(3θ±α) | …… | sin(nθ±α) |
| 倍音の周波数 | 基音 | 2倍音 | 3倍音 | …… | n次倍音 |
|---|---|---|---|---|---|
| 入力した音 | sin(θ) | sin(2θ) | sin(3θ) | …… | sin(nθ) |
| ビブラートした音 | sin(θ±α) | sin2(θ±α) | sin3(θ±α) | …… | sin(n(θ±α)) |
■最後に
この次にフェイザー系の回路、BBDを利用したビブラートと定番が移り変わっていきます。色々な回路形式でビブラートが試みられていることからさっするに、時間軸方向の制御が容易に出来るまでビブラートを得るのは難しい技術の部類だったことをうかがわせます。
久しぶりに三角関数の公式なんか使ったので何回か公式集を見直してしまいました。(^^;A)
フェイザー系の回路は機会があったら紹介しようと思いますので乞うご期待下さい。!!
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Last Up Date '08/06/25 VOX VIBRAVOX追加
'07/11/23 GIBSON GAV-1追加