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はじめに
話をわかりやすくする為に、最初に言葉を再定義しておきます。

とここでは言葉を定義します。

何でこんな事を言い出すのかというと、電気楽器の進歩に非常に貢献したメーカーフェンダー(Fender)の アンプに付いているビブラートはほとんど振幅しか変化しません(この定義に従えばトレモロ)し、同じくストラトキャスターに付いているトレモロアームは周波数が変化します。(この定義に従えばビブラート)

トレモロ(Tremolo)
あまり歴史には詳しくないのですが、音響効果装置として最も初期に現れたのは電気オルガン用のトレモロだと思われます。
最初は側面に窓を開けた円筒をスピーカの前でぐるぐる回してトレモロ効果(通称リス車(^^;))を得ていました。
当時の電気オルガンは容量結合、光結合等のエクスプレッションペダルを持っていた為、機械雑音の少ない電気電子式のトレモロが発明されるのも時間の問題でした。

レスリースピーカー(Leslie Speaker)
たぶんそんな中1930年の後半に開発されたのが有名なレスリースピーカーです。
特許等の内容を知らないのですが、指向性を持ったスピーカーをぐるぐる回すことによって振幅及び周波数が変化しました。

ちなみにつまみの名称は"CHORALE"(Slow)です。"TREMOLO"(Fast)です。

レスリースピーカー及び次のスキャナーについては
高木庵さんの"Hammond Organ & Leslie Speaker"に 貴重な資料がたくさんあります。

レスリースピーカー(Leslie Speaker)のPATENT関係の資料

スキャナー(Vibrato Scanner)
元が時計屋さんだったせい?かハモンド(Hammonnd)は音の揺れるレスリースピーカーがあんまり好きではなかったようで、 1945年にVibrato Scannerと言う物を開発します。これはスピーカーキャビネットをぶん回す様な 野蛮な機械ではないので機械的雑音が少ないことが売りだったようです。
レスリーを駆逐する狙いでスキャナーは開発されましたが、それでもレスリースピーカーは売れ続けたみたいです。(^◇^;)
やっぱり、レスリーの音はビブラートとかトレモロとか電子的に置き換えられるような単純な物じゃあなかったんでしょうね。

構造的にはハモンドB3の回路図の右下にある円形のスイッチみたいな構造(SCANNER)につながったスイッチとLCRがそれです。
スキャナーはロータリースイッチのように見えますが、容量結合を利用した構造になっており、このローターをモーターで回すことにより、下のLCRの出力をアナログ的(スイッチ見たくパチッと切り替わらないでそれぞれがブレンドされながら)に徐々に切り替わりながら位相を変化させてビブラート効果を得ます。

ちなみにつまみの名称は"CHORUS"と"VIBRATO"で、それぞれ3段階の強さを選べます。
電気的には純粋な位相変化を狙ったのがビブラートでビブラートに原音を加えたのがコーラスです。
またスキャナーはレスリースピーカーと同じ位、後生のエフェクターに影響を与えました。(ユニバイブやローランドCE-1の"CHORUS"と"VIBRATO"のネーミング等)

ハモンドのハモンドらしさの一端はこのスキャナーが担っていると思うのは私だけでしょうか?

SCANNERのPATENT関係の資料

ビブラート(Vibrato)
この当時、ボールドウィン(Baldwin)等の電子オルガンは比較的容易に発振器にFM変調がかけられた(それでも結構苦労している)ようですが、ハモンドのようなトーンホイール式のオルガンやウーリツァー(Wurlitzer)の様なリードを利用した電気オルガンではビブラートを得るのに大変苦労したようです。(ピッチが安定していることの裏返しですね。)
ハモンドの回答は前述のスキャナーでしたが、ウーリツァーのとった方法が、今回紹介するウーリツァービブラートです。

純電子式トレモロ
まずはじめに純電子式なトレモロについて考えてみましょう。

左はトレモロの原理図です。

以上からVCAの制御電圧は1+D・sinVです。
このVCAに入力される入力をsinθとします。

すると出力は左のような式で書けると思います。

この式はsinθ(入力)が(1+D・sinV)の振幅変調がかかることを意味しています。

ちなみにこの式の
括弧を展開すると左のようになります。
さらに右側のDsinθsinVの項を三角関数の積和公式を使って展開すると左のようになります。
この式はトレモロが原音sinθと同時に周波数がVだけずれた音が2つ(cos(θ+V)とcos(θ-V))が同時に鳴っている物と解釈することが出来る事を意味しています。

フェンダーのツインリバーブをはじめとした真空管アンプの多くが上式の様に変調波形が正弦波風で”びょよょよょ〜ん”ってマイルドな感じな音が出ます。
それに比べてトランジスタ式のアンプが出始めた頃のVOX-THOMASやその模倣品に使われた回路では、変調波形が矩形波に近い物が多く、”ババババババ”って感じで随分刺激的な音をだしていました。(^^;)
このような変調波形の聴感上の違いを利用して、矩形波や立ち下がりのこぎり波で変調してマンドリンのトレモロのような効果を示すRepeaterやPepeat Percussionってエフェクターもありました。

ウーリツァービブラート(Wurlitzer Vibrato)
カーペンターズが使用した電気ピアノで有名なウーリツァーですが、この回路はたぶんエレピでは使われていません。時代が違うせいかもしれませんがエレピより、もっと古い時代の高価なシアターオルガン用に開発された物だと思われます。

上にウーリツァービブラートの原理図を示します。

トレモロの要領で式に展開すると左のようにかけます。
ここで、sinVでくくって
三角関数の合成公式を適用すると左になります。
ここでθ-π/4をθ'と置き換えます。
すると左のように書き換えられます。
√2でくくって

ただし
再度三角関数の合成公式を適用すると左になります。


このように、この回路はで周波数変調(FM変調)がかかることがわかりました。
しかし、周波数変調だけではなくトレモロ=振幅変調(√(1+(DsinV)^2))も同時にかかってしまうことも示しています。

まあ、レスリースピーカーもトレモロ、ビブラートが渾然一体とかかるので大きな問題ではないのかもしれません。

VOX AC-30
ウーリツァービブラートの回路を初めて見たと思う人が沢山いると思います。しかし、実はこの回路はVOX AC-30のビブラート回路として今でも脈々と作られています。

上にVOX AC-30のビブラート/トレモロの原理図を示します。

この回路はウーリツァービブラートにVibrato/Tremoloスイッチが追加されています。
Vibrato設定時はスイッチが接続状態になり、ウーリツァービブラートの動作を行います。

Tremolo設定時は加算器に入る一方の信号を切断します。すると出力は になり、トレモロ効果が得られます。
(前にも書いたようにφの移相回路で周波数により位相が変化しますが、位相の変化は人間は聞き分けられないので聴覚上ではトレモロと全く同じ音になります。)

VOX VIBRAVOX
この回路はVOXでは伝統的にVIBRAVOXと呼んでいるのですが、1960頃のカタログによれば ビブラート/トレモロユニットとして単体でも売られていたようです。
(アコーディオンやピアノの音を新時代の音に!!ってな感じで宣伝してます。(^^;))

最近になってVOX COOLTRONシリーズにも同名のVIBRA VOXと言う商品が売り出されましたが、内部はどうなっているんでしょうね。

GIBSON GAV-1
最近知ったのですが、GIBSON MODEL GAV-1 ELECTRONIC VIBRATOというアンプに接続して 使用するビブラートユニットがあります。

カタログにはTrue "Frequency Vibrato"なんて謳いあげていますが、これもVOXのAC-30 と同様にウーリツァービブラートの方式を採用しています。


ビブラートと音色
音色と言っても周波数特性の話では無くピッチの話です。
ドップラー効果を利用したレスリースピーカー、スキャナー、ウーリツァービブラートやフェイザーは入力信号の周波数に依存せず一定の周波数推移をします。
これらのピッチに注目して高調波を含んだ信号を入力した場合を考えると以下のような ピッチのビブラート出力が得られます。

倍音の周波数基音2倍音3倍音……n次倍音
入力した音sin(θ)sin(2θ)sin(3θ)……sin(nθ)
ビブラートした音sin(θ±α)sin(2θ±α)sin(3θ±α)……sin(nθ±α)

ビブラートした音の倍音関係に着目するとピッチの倍数関係がが整数になっていない事がわかると思います。
これは、何を意味するかというと、厳密にチューニングされた和音を入力しても、ビブラートした音は微妙に音痴(信号の周波数関係がずれる)になってしまう事を意味しています。

ビブラートエフェクトと考えるとこのような短所も、コーラスエフェクトとして考えると、微妙にピッチが異なった音が多数発生している=多人数で演奏している感じと解釈して、長所と考えることもできます。

ちなみにディジタルディレイラインやBBDを利用したコーラスエフェクトの場合は、

倍音の周波数基音2倍音3倍音……n次倍音
入力した音sin(θ)sin(2θ)sin(3θ)……sin(nθ)
ビブラートした音sin(θ±α)sin2(θ±α)sin3(θ±α)……sin(n(θ±α))

こんな感じになり、波形の再現性が高い、倍音系列が整った理想的なビブラート音が得られます。
これらのエフェクトのコーラス感がクールと感じるのは、ここいら辺に起因しているのではないかと思います。(フェイザーなんかの方はよりピャンピャンしたにぎやかな音である気がします。)


最後に
この次にフェイザー系の回路、BBDを利用したビブラートと定番が移り変わっていきます。色々な回路形式でビブラートが試みられていることからさっするに、時間軸方向の制御が容易に出来るまでビブラートを得るのは難しい技術の部類だったことをうかがわせます。

久しぶりに三角関数の公式なんか使ったので何回か公式集を見直してしまいました。(^^;A)

フェイザー系の回路は機会があったら紹介しようと思いますので乞うご期待下さい。!!


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Last Up Date '08/06/25 VOX VIBRAVOX追加
'07/11/23 GIBSON GAV-1追加