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Vol.8●ケンちゃんの憂鬱

昔、ビデオデッキの黎明期に裏ビデオで洗濯屋ケンちゃんという有名な名作があったと噂に聞く。これが見たさにビデオの普及に拍車がかかったと言う話がある位だ。当時としては余程面白かったのだろう。残念ながら私は見た事はない。今回の話はこの洗濯屋でもなければ、引越屋でもない。中出しでもなければ、外出しでもない。後出しじゃんケンちゃんの話である(持って行き方にかなり無理がある)

後出しジャンケンというのは、相手がジャンケンで何を出したかを見てから自分が手を出す実に卑怯で姑息な手段である。この後出しに何度も私は苦しめられた思い出がある。実は最近もこれに苦しめられている。

絵を頼まれた。で、絵を描く。これはごく普通の成り行きである。こんな絵って言うのを聞いて描く訳だが、できてから、いやこういう絵を描いて欲しい。さらに描くと、実はこうなんだとどんどん変化していく。実にやっかいである。見てから決めるのだ。発注側の想像力の欠如である。

昨年の暮れに遭遇した事例はひどかった。言われた通りの絵を描き言われた通りの雰囲気でデザインして、全部できてから担当者も綺麗にできたと喜んだ後に悲劇は起こった。上司が後ろから出てきて、どれどれ…と見に来たらしい。絵はやっぱりこういう絵でなくちゃ…と突然言い出したのだ。その見本の絵が全く訳の分からない、子どもの落書きのような絵で、下手ウマとも違う何と形容していいのか分からない、30年ほど前にタイムスリップしたような古くさ〜〜い絵なのだ。しかもデザイン自体も全体を無視して細部に変なこだわりをして異様な仕上がりを要求するのである。

これが自分の想像する仕上がりより更にレベルの高いものを要求するのなら、まだ話は分かる。まるで、これなら誰が見ても美人やろ…って女性を紹介したら、お前の連れてくる彼女は不細工やなあ、ほんまの美人とはこういうのを言うねんと言いつつ、むちゃむちゃ不細工な女性の写真を見せられて、こういうのを連れて来いと言われたようなものだ。

間に入っていた人が困惑して、金がかかる、納期も余分にかかると交渉したら、かまわんと言われてしまった。お、おい、急ぎの仕事だったんちゃうのか。納期がないって言ってたんちゃうのか。一体どうしたら良いのか分からなくなる。相手の審美眼の基準が分からないからだ。こういう場合、殆どやる気を失う。しかし、間にいる人の立場もある。引き受けたものは完遂しなければならない所が辛いとこで、嫌々ながらもプロ根性が出て、相手の望むものをやったるわいとばかりに苦痛に顔を歪めながらも、何とか頑張って仕上げる。辛い辛い瞬間だ。こんな仕事するんじゃなかったと後悔する。

だが、できた後に、いや、これじゃない。こうして欲しいと、いきなり最初とは全く違う要望が出てくる。家が建った後に、何で地下室がないんだ…とごねるようなものだ。設計図にないやんか〜〜!と思っても、地下室を作れと譲らない。地下室作ったら、今度は屋上がないと急に言い出す。もうめちゃめちゃだ。こういう迷路に迷いこむと、まるでタチの悪いヤクザにからまれたような気分になる。

訂正しながらも、如何に冷静な私でもどんどんハラワタが煮えくり返ってくるのが分かる。お、おのれ〜、後出しジャンケンばかりしやがって、やり直しの割増しの訂正料金に、頭に血がのぼって頭を冷やすのに使った冷却費用、心肺機能が激しく動いたヘモグロビン割増し料金と心臓負荷負担、深夜勤務の割増し、さらに俺の精神的苦痛の慰謝料、心に受けた傷の治療代、この仕事をする上でなくした遺失利益もぜ〜〜〜んぶ加味してやる。覚えとけ〜〜〜!

この時、もしも発注側の相手の担当者と顔をあわす事ができるならば、私は相手に向かって絶対にこう叫んだに違いない。

この苦痛から逃れさせて頂くには、いくら支払えば良いのでしょうか。金払うから勘弁して下さい。お願いです。このとーりです。(なんでやねん)


金払ってでも逃れたいのだ。他の誰かがこの理不尽な要求に顔を歪めて苦しむのを見る事ができるなら少々支払っても惜しくはないぞ…と思ったりもする。

ここで、全国の発注担当の皆様にお願いです。後出しジャンケンはやめましょう。想像力を鍛えましょう。仕事をする環境こそが大切です。会社が働く環境を充実すると人間が変わるように、相手の気分をよくさせると、単価以上の仕事をします。結果ローコストで良いものができます。単価を下げさせるだけが決してコストダウンではありません。10万で20万円分の仕事をしてもらうこともコストダウンのひとつです。そういう事を踏まえて発注すれば、ひいては発注担当者の株もあがりと言えるでしょう。

その上でどんどん私に仕事を発注致しましょう(…ってムシが良すぎるか)

2004.3.19(ふゆき)

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