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Vol.14●ハッタリ

アイコラというのがある。アイドルコラージュの略だ。アイドルがあられもない姿の胴体と一緒にコラージュされ、より自分を低く落とされるのがアイコラだ。画像合成の発達とともに跋扈しだした。

このコラージュというのは切ったり貼ったりしながらひとつのものを作っていく。ひとつひとつは既知のものでたいした事はない。だが、切り張りの仕方で新しいものに生まれ変わるというのは、今風なのかもしれない。そもそも誰もが考えつかない斬新なものなんて、そうそう転がっていない。情報も伝達速度は凄まじく、ひとつ新しいものが出来るとあっという間に世の中に広まり、分析されてすぐ亜流が出てくる時代である。切ったり貼ったりしながらさらに新しい魅力を付加してくしか方法がないのかもしれない。

新しいものを生み出す力より、加工してそれらしく見せる技術が尊ばれるのは何ともやるせない事だ。本来はオリジナルこそが素晴らしいもので、どんなに成功しても亜流は亜流と蔑まれるべきものであると私は考える。しかし、時代の流れは誰にも止める事など出来ないのも確かだ。

切ったり貼ったりは、ハッタリにも通じる。普通は実力を示すものがないから自分をより高く見せる為にハッタリを使う。コラージュも人の技術の集積によって成り立っている事を忘れてはいけない。
しかし私も若い頃はハッタリかましていた時期もあった。こんな事出来ますか?と言われて、やったことなくても出来ます!と即座に答えていた。今だから言えるが仕事を引き受けてから、どうやったらええんやろ…とばかりにやり方研究していたのだ。

今は無き某地方銀行。そこの広報から絵を描いて欲しいと頼まれたのは、まだ私がMacintoshに手を染める前のアナログ時代の事だった。もう十何年も前の事になる。今の仕事を始めた時は仕事なんて選んでいる余裕などなかった。何でも出来ますってハッタリかましていた。しかし、さすがに絵だけはあまり描きたくなかった。何故って?時間がかかるからである。知人に何度か頼まれて某銀行の広報誌のイラストを描いた事はあったが、今度はカラーで何枚も描いて欲しいという。デザイン事務所なのでデザインしてなんぼの仕事だ。成り行き上絵を描く事もあったが、あくまでデザインが主体で絵はおまけ、サービス程度の位置だった。何人かで作業していたので、自分だけが関わらないといけない絵だけの仕事は自分の首をしめかねなかった。

人の紹介だったので、取り敢えずやんわりと断った。ところが広報課からいきなり事務所に電話があって、どうしても話しだけでも聞いてくれと言うのだ。間に入っていた人の顔も立てて、話をきく事だけ了承した。でも内心、絵を描くだけなら他にも人材はいくらでもいるだろうに…と思っていた。仕事を引き受ける気などさらさらなかった。自分でないといけない必然性も何もなかったのだ。

銀行の本社ビルの広報課に行くと、応接室に通された。何で絵の仕事をするのに応接室に通されるのか意味が分からない。大抵仕事を引き受ける側は下手に回ってお仕事頂戴の姿勢をとるものである。仕事をもらう方がお願いされて応接室に通される等とは主客転倒も甚だしい。まるで著名な大先生に仕事を頼むような扱いに戸惑った。まだ今のようにインターネットのような情報網が発達してなくて絵を描く人材を辿る方法を知らなかったのだろうか。その僅かなツテを辿ってやってきた私が断るものだから、余計に立場が逆転していたのかもしれない。

三人の広報課の人が次々と名刺を出してくる。自慢じゃあないが、それまで銀行なんていつもおそれ多くて、お金を預けている訳でもなくて、蔑まれるように見られた事はあっても、銀行員からうやうやしく名刺を頂いた経験なんてこれが最初であった。何か変やなあ…と思いつつ、まあおかけ下さいばかりに応接室のソファに座るようにうながされてあまりの異変に驚いた。

椅子がむちゃむちゃ柔らかいのだ。身体が地中に沈むかのように応接セットのソファにめり込んでいく。そんな椅子に座った事はないので、思い切りいつものようにどんと腰掛けたのが敗因だった。もう無重力状態のように身体の力が入らない。人間って意表を突かれると放心状態になる。頭がからっぽになってしまうのだ。廻りからソファの緩衝材に力を奪われ金縛りにあってもがいているときに次なる異変に遭遇する事になった。

三人の広報課の人達が直立不動の姿勢をとって、入ってきた人を出迎えたのだ。入って来た人は恰幅のある如何にもお偉いさんというオーラを発したおじさんで、三人に向かって、ちゃんと話はしたな?と念を押すように問いただした。その時点で話も何もただ応接室に通されただけなのに、何が何だか分からない。もがき苦しんでようやく立ちあがった私に、お偉いさんは名刺を差し出した。その名刺は最初にもらった三人とは明らかに違っていた。俺様は偉いんだぞーとばかりに金の箔押しがしてあったのだ。貫禄は身体だけでなく名刺もまた、お偉いさんだぞー!とオーラを発していたのだった。

しぶい声で「無理を言いますがよろしく頼みますよ」と言い放つと応接室から消えていった。呆然とするしかなかった。お、俺は話を聞いてくれというから来ただけで、仕事を引き受けるとは一言も言ってないぞ!…なんて言える空気はこれっぽっちもなかったのだ。は、はい分かりました!と答えていた自分が情けなかった。

してやられた。ハッタリかますのは下が上に対してするもんである。名もないローカルデザイナーの自分に、地方銀行とはいえ、何百億もの金を動かす企業がハッタリかましてどないすんねん。その後この銀行は経営破綻し、合併統合で新しい銀行になった。

私はごまかせても大蔵省の役人にはハッタリがきかなかったようである。

2004.7.30(ふゆき)

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