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Vol.16●ぴんぽ〜ん

もうすぐアテネオリンピック。スポーツとは縁遠い生活になってしまった。いや、若いときから無縁だったとも言える。そんな中でスポーツに人生を賭けた若者が集うのがオリンピックだ。福原愛なんてこのオリンピック目指してあのマイナーな競技で頑張って来たようなものだ。シドニーからもう4年経ったのかあ…と思う。東京オリンピックから数えたら一体…って、止めよう。空しくなるだけだ。あと何回オリンピックを見るのだろう。福原愛はまだ15才。一体あと何回オリンピックに出るのだろうか?

なんで福原愛ばかり出すのかって?卓球の話でも書きたいのだろうって?

ピンポ〜〜〜ン!

卓球はそう呼ばれていた。今もそう言うのだろうか。

会社から突然、卓球台が寮にプレゼントされたのは、私が二十代の前半を過ごした独身寮時代の事だった。寮は5階建て。1〜2階が会社の営業所で、その上が寮。3階には食堂兼娯楽室があった。それからというものしばらく独身寮に卓球ブームが到来した。しかし体育館とは違いそんなに広いスペースがある訳ではない。後ろは充分にスペースがあったのだが、左右には贅沢な広さが確保されてはいない。ここで寮の人間が食後によく卓球に勤しんだ。

寮の中で卓球の強さでベストスリーは、私と、先輩のフクシマさん、ちょっと落ちて後輩のシバタだった。私は高校時代に放課後毎日のように卓球で遊んでいたので、自信があった。フクシマさん(花火の狂宴字は顔だ参照)も強かった。シバタ(デフレ脱出の鍵参照)は卓球が強いというのではなく、急速に力をつけて上手くなっていったタイプだ。他のみんなが弱かった訳ではない。同期入社の浜上(体育会系炎の挑戦者参照)なんて、ラリーをすると延々といつまでも続く位にラケットさばきが上手かった。だけど、こと勝負となると話は違っていたのだ。

最初は、食後に軽い運動のつもりでみんな卓球をしていたのだが、各々強さが違う。段々実力が拮抗する者同士が対抗意識を燃やして闘う事になるのに時間はかからなかった。しまいには日曜日、朝から何人かでトーナメントで勝ち抜きをし始める事になる。しかし、左右の場所が狭いという環境が、ローカルルールを作り出して行く。片方は壁で卓球台から1.5メートルと離れていないからだ。斜めにスマッシュを打ち込まれると、受けようにも受けきれない事がある。しかし、そこはあるものはあると受け入れる度量を持った田舎者達ばかりである。ゴルフと同じで、壁はあるんだからと…壁に当たってもそれを受ければ構わないルールが出来た。壁に当たってもそれを直接受けて返せばいいのだ。反対側には食卓があったが、卓球となると隅っこに片づけて面積を確保した。卓球をしている時に飯を食う奴は丼や味噌汁のお椀の中にピンポン玉が飛び込んでくる位の事は覚悟して食事する勇気がいった。

人間なんて環境に順応しやすいように出来ている。壁は次第に壁ではなくなり、卓球をする為には無くてはならないものなっていくのは自然な事だった。そうなるとその壁を利用した戦法も発達していく。壁に向かってスマッシュを打ち込んで相手のエリアに打ち込むという高度な技が磨かれたのだ。

フクシマさんの得意技はカットだ、同じラケットを使っているのに、何でこんなに切れるんだという位にスピンが掛かる。まともに受けたらあさっての方向にピンポン球は飛んでいく。殆どのみんなは受け損なって、サーブでフクシマさんは得点を稼いだ。私はバックハンドが得意だった。だから逆方向に攻められるのは、都合が良かった。バックハンドで相手の逆方向にスマッシュすると、大体決まった。シバタは何がうまいのか分からないのだが、粘っこい受けと訳の分からない攻撃で勝ち進む。

最初はみんな楽しむだけだったのだが、勝負事は実に恐ろしい。やがて昼御飯を賭けて戦う事になる。金品が絡むと人間は変わる。シバタは汚い手を使わせたら寮では一番だった。角をねらい、相手の逆をつく、サーブがせこい、口も立派な武器となる。こういう奴に負けると実に腹が立つ。目には目を、歯には歯を。ハムラビ法典の教えの通り、ありとあらゆる戦法を使いだした。目の視点とスマッシュする方向が違う、スマッシュする瞬間に手首を返して、体をひねった方向と違う方向にピンポン玉が飛ぶ。相手を怒らせて冷静さを失わせる、じらす、虚をついてサーブする。スマッシュも綺麗なフォームで打ち込むスタイルから、鬼のように叩きつけるに変化していった。いくつピンポン玉が割れたか分からない。賭けるものも、飯から段々、金に変化していった。この頃になると、フクシマさんと私とシバタの三人の独壇場になり、他は問題ではなくなった。激しく闘争心を燃やし、戦いは続いた。

土曜日は隔週週休二日制だったので、社員の半分が休みで半分が仕事だった。その日仕事だった私は、夕方、晩飯を食うために3階の食堂にあがると、シバタとフクシマさんの激しい戦いの場に遭遇した。口汚く罵り合いながら、卓球をしている。金をかけていた。負ける度にシバタは負けと同額の金を次に賭けていくので、掛け金は倍々ゲームで膨らんでいた。フクシマさんの連戦連勝でシバタはあつくなっていた。負けが込むと、人間冷静さを失う。

私が、どんぶりを抱えながらテレビのある畳の場所に待避しながら、眺めていたときには、シバタの負けは国家予算並になっていた。シバタは叫んだ!

今度は二十兆円!

ブームはあっと言う間にやってきてあっという間に過ぎ去る。寮の卓球ブームも例外ではなかった。あんなに熱く情熱を傾けた卓球も、いつの間にか忘れ去られ、卓球台が物置台になるのに時間はかからなかった。

そんな情熱のこもった卓球台も寮の建物も今はない。

最近、15才になるうちの長男が、何度も卓球やろうぜ…という。この俺に勝てると思ってるのか?と聞くと…さあ、どうかな…とニタリと笑った。9才の次男に将棋で完璧に負けて、今度長男に卓球で負けたら、何だか俺の立場はひどく危ういものになるなあ。

2004.8.06(ふゆき)

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