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アユの嘆き(upload.7.6/pm6:00)

連日暑い日が続いている。もうすぐ海も人の波でごったがえす時期である。泳ぐのはどちらかと言えば得意だ。でもよく考えてみたら最近は泳いだ事がない。

しかし、海は大の苦手だ。山の多い田舎で育ったので、川でしか泳いだ事がなかったからである。いわば淡水魚のアユみたいなものだ。しかし、社会人になって独身寮の仲間と夏になる度に海へ出かけるようになると、海が苦手だとばかりも言えない。その代わりに海には特典としてナイスバディのおねーちゃんがいっぱいいた。

それは、仲間と車何台かを連ねて日本海だったか、太平洋だったか(他にあるんか!)に行った時の事だ。
独身寮の仲間は海育ちが多く、浜に出るといきいきとしていた。まるでカツオである。股間を立てて…、いや背ビレを立てたかの如く、一気に沖へ沖へと泳いでいく。川は向こう岸があるが海にはない。これが私が海が嫌いな一因でもあった。おまけに平泳ぎが大の苦手で手で水をかきわけ、足でキックするたびに後ろに進んでいるちゃうか…と思うほど遅かった。この嫌いな泳ぎ方で嫌いな海を泳ぐのである。おいおい、どこまで行くねんと…どんどん不安になっていく。廻りに誰もいない沖まで出て、やっぱ海はええな〜〜!と仲間がのたまったとき、後ろを振り返って私は恐怖のどん底にいた。平泳ぎで体力を使い、豆のように小さい海岸の人達を眺めながら、ほんまに元に戻れるんやろか…と。

ほな戻るか〜〜と…薄情な仲間はさっさと泳いで岸の方に向かっていた。な、何しに来たんや!淡水魚である不安感と不安定な泳ぎ方がどんどん私の体力を奪い去っていく。廻りにちらちらと人が増えて来た頃には既におぼれかける位に消耗しきっていた。浮き輪を持った子供の姿が見えるに至って、ああ助かった…と油断したのがいけなかった。泳ぎを止めて、立とうとした時、足が底につかなかったのだ。こういう予想もしない事に出くわすと冷静さを失う。海水をしこたま飲んだ。死ぬかと思った。一旦、緊張感をなくすと、また同じ体勢を取り戻すのは至難の技である。その時も溺れかけながら必死で元のに戻して泳ぐ体勢を取戻した時には既に体力は全て消耗しきって、ただ浮かぶだけが精一杯となり果てていたのだ。

今度足が届かなかったら、確実に死ぬ…と思った。浜は遠浅である。ここから私の生死を賭けた戦いが始まったのだ。こんなとこで死んでたまるか…そう思いながら必死で泳いだ。泳ぐと言っても、もう体力を消耗するような平泳ぎは出来なかった。横になったり仰向けになったり、足をばたばたさせながら、波に流されて行くと言う方が正確だった。手足がだるくなって全く動かなくなる。人が廻りに増えていた。もういい加減、足で立ちたいと思ったが、足が届かない恐怖が頭の中を貫く。まだだ、こんなとこで死にたくはない。もう少しだけ浜に近づいてからにしよう。もう犬泳ぎか、ネコ泳ぎか、ウナギ泳ぎか、よく分からない。何でもいい、生きていさえすりゃあいいのだ。
廻りに家族連れや恋人達が戯れる中、誰が体力を無くして死にかけている人間がそこにいると思うだろうか。過去においてキンタマ美少年とうたわれた私が…もとい、紅顔の美少年とうたわれた私が20代半ばで女の味も知らずに死んでいくのだ。(うそだ)もう駄目だ、これ以上手足が動かない。薄れる意識の中で何かが手に触れた…。見ると砂だ。ふらふらと立ち上がると、そこは既に膝下にも満たない浅さだったのだ。あやうく水深何十センチのとこで溺れる所だった。

浜ではムチのようなキンタマを持った仲間が…いや厚顔無恥な仲間が女漁りをしていた。私を見てこういった。お前あんなとこで何やっとったんや。て、てめーら人間じゃね〜〜!私は心の中で絶叫していた。それは私がまだ20代も半ばに行かない頃の暑い夏の海の出来事だった。

(ふゆき)