File-865 ガード死体の住人(up2003/8.19/pm18:20)

最近物騒な世の中になってきたものだ。殺人事件に強盗。次から次へと凶悪犯罪が起きる。日本国中あちこち死体の山だらけ。この国は一体どうなってしまったのだろう。日本は安全と言われたのは今は昔の話。いつの間にか犯罪立国になってしまったかのようだ。仕事をしていてもいつ犯罪が起きるか分からないと思うと、閉塞された空間である事務所は実に怖い。カギを掛ける訳にはいかないからだ。今の事務所に越して来て三年半が経つ。

以前の事務所は存在そのものが犯罪のようなビルだったが、うまい具合にその同じフロアに警備会社があった。ガードマンがいるフロアである。安全この上ない。昔テレビで見たガードマンは格好良くて凶悪犯罪にも敢然と立ち向かっていた。しかし、ここの警備会社は夫婦で経営しているだけの会社で、主に姉御肌の恐いおばちゃんが仕切っていた。肝心のガードマンは求人でバイトを雇っていて派遣するだけの警備会社だ。で、よく70才は越してると思われるおじいちゃんが、あの〜、募集している警備会社はこちらですかな〜と、もごもごと聞いて来る事があった。警備会社の入り口のドアに字が書いてあるのに…この時点で既に資格はないと思われるのだが、あまりに気の毒なので、隣ですよ…と教えてあげたものだ。警備会社を切り盛りしている宮沢りえのママのようなおばちゃんの怒号がしばらくして私の事務所の中にまで聞こる。
「何しとんや〜!あんた〜〜〜〜!こっちや!そんなんでよぉー応募してきよったな!ボケとんちゃうか、あんた。あかん、あかん、帰りぃ!」
がんばるよってなんとか使おてな…
「あほかぁ〜〜〜、うちは養老院ちゃうんやでぇ〜〜!さあ、帰った、帰った!」
この警備会社がガラスを割られて泥棒に入られた事があった。警察が来て捜査していたが、はっきり言って泥棒に入られた時点で警備会社の資格がないようにも思えた。恥さらしである。消防署が火事になったり、保健所の食堂で食中毒が起きるようなものだ。この時、実に危険このうえないフロアである事が判明した。

同じフロアでその警備会社の隣に夫婦喧嘩の耐えない増改築の会社があった。夜中怒号がする。やくざの様な怒鳴り声が聞こえた。そのあとガラスをぶち破る音がした。もしかしたら金の取り立てか…。犯罪か…。迂闊に近寄れないと悟った私は、事務所から出る事なく夜を過ごした事がある。次の日分かった事だが、夫婦喧嘩だった。普段はおとなしそうな旦那は、むちゃむちゃ短気な性格らしく、入口のドアが蹴破られていた。普通外からドアを破るのは聞いた事があるが、中から破るのを見たのはこれが最初だった。それから何度も直しては破り、直しては破りを繰り返した。最後は蹴っても破れないような頑丈なドアにしていた。外からの侵入を防ぐために頑丈な入り口にするのは聞いた事があるが、内からの破壊を防ぐ為のドアを見たのはこれが最初だった。

ある昼の事、やくざの如き怒号とともに奥さんが外へ出て階段をドタドタと降りる音がした。旦那が切れたので取り敢えず逃げたらしい。怒り狂った旦那は二階の窓から、道路に逃げた奥さんに向かってみそ汁のプラスチックのお椀を投げつけたらしい。そのお椀が道路に跳ね返ってころころと転がり、階下の喫茶店のドアに当たった。一階の喫茶店のママが飛び出してきて怒鳴り倒した。
あほんだら〜、われ〜〜〜!何しとんねん。こらぁ〜〜!弁償さすで〜〜!今度こんな事があってみぃ!絶対に承知せえへんからな〜〜!覚えとけ〜〜〜〜〜!

ビルの住人がみなヤクザのように思えた。

事務所の裏手には普通の民家があって、実にうるさい住人が住んでいた。ある時ちょっと騒いでいたら、明け方ステテコ姿で恐い飼い犬を連れて上がってきて、事務所の入り口に仁王立ちになると、文句があるなら犬に噛みつかせるぞ…と言わんばかりに、うるさいんじゃ…っと怒鳴られた事がある。ラジオの音がうるさいだの、夜中じゅう起きて音を立てるなだの…と何度かいちゃもんをつけられた。さすがにこれには腹がたった。犬を連れてくるというのが卑怯だ。思わず私は声をあげてこう言ってやった。

ご、ごめんなさい。

これは相棒のシュンロー氏も犬を連れたおっさんを一緒に見た事があるので、その恐ろしさは体験している筈である。とにかく身の危険を感じずにはいられない環境だったのだ。

この不思議な建物には、入り口付近に得たいの知れない空間があった。小窓はあるのだが、その奥は真っ暗で、コンクリートに囲まれた小さな部屋があるのだ。まるで死体遺棄にでも使おうかという出入口のない空間である。死体遺棄の間と密かに私はよんでいた。怖いので死体遺棄の間を通り抜ける時は、ずっと息を止めたまま通り過ぎたものだ。そして、通り過ぎた後は常にこう思ったものだ。

遺棄死体、、ちゃうちゃう、息したい…と。

そんな犯罪ビルを抜けだし、今の事務所に移った。しかし、ここも決して安全とは言えない。どうも私をつけ狙うセクシーギャルのストーカーが多数いる事が判明したからだ。自分の身は自分でカードするのが現代日本の鉄則である。彼女達の狙いは私の肉体らしい。困ったものだ。もし私の死体が転がったら、それはセクシーストーカーの仕業であると思って下さい。何?それはお前の妄想だろうって?う〜〜ん、そうかもしれない。だが、安全には安全を期して、夜中でもいつでも襲ってもらえるように常にカギを掛けていない私である(…って何でやねん。)

(ふゆき)